突撃
ヒックが叫び呆然としていると、目の前の魔竜騎ズルワーンとフォルが下を向き、人型のヒックを確認する。
ヒックと、フォルの目が合う。
すぐに魔竜騎ズルワーンの巨大な手が、ヒックへと迫って来る。
「うわあああああっ!」
ヒックはまた叫び、後方へと走り出す。
しかし、目の前にはズルワーンが立っていた。
「うわわわわわわわんっ!!」
悲鳴は、泣き声に変わる。
「ロッシー!!ロッシー!!!たずげでぇ~!!!」
しかしヒックの足は早かった。
意外とズルワーンとズルワーンに追いつかれない。
(お、意外とイケんじゃん…)
そしてヒックは、泣くのをやめて走る事に専念し、横の見つかりにくそうな茂みの中を爆走する。
ギルバートとサランは、空で魔竜騎ズルワーンが動き出すのを見ていた。
すると目の前に、赤い小さな光が飛んで来る。
それは目の前で高速に移動して、光の線を描く。矢印だ。
ズルワーンの方へ向かうように、矢印を描いている。
2人は顔を見合わせ、手を繋いでズルワーンの方へと高速飛行する。
「ねぇ、ギルバート…」
「なんだい?サランちゃん…」
「好きだよ♡」
「僕は大好きだよ♡」
「んもう!私は大大大好きなんだから!」
「僕はウルトラスーパーグレートビッグ好きだ!!」
赤い小さな光は思っていた。
(なんなの…コイツら…)
ギルバート達と、ズルワーンの距離が縮まる。
ギルバートは飛ぶのをやめて、手を光らせながら空を全力疾走している。
その後にサランも続く。
フォルは後方の輝きに気づかないが、魔竜騎ズルワーンがそれに気付く。
「フォル!後ろ!」
フォルは慌てて振り返るが遅かった。
ギルバートの拳が、魔竜騎ズルワーンの顔へヒットする。
その弾けた閃光で目の前が見えなくなるフォルに、サランが飛行体制から回転して、そのままの勢いでキックをお見舞いする。
「チョベリバキィィィィィィイック!!」
ズルワーンは森へと沈み、フォルは勢いよく茂みへと蹴り飛ばされ姿が見えなくなる。
ギルバートとサランは微笑み、ハイタッチをしている。
無我夢中で茂みの中を逃げていたヒックは、茂みが途切れ、勢いで少し開けた場所へと出てしまった。
そして、そこに居たのは青白髪の男だ。
「ほんとに君は変わらんな…走りで飛行に勝てる訳がないだろう?」
ヒックは聞いていない。何処かに隠れる所か、逃げ場所がないか探している。
やれやれと言った感じで溜息を漏らし、ヒックの方へと手を向ける。
するとヒックの動きは止まる。
動かす事が出来ない。足が動かないのだ。踏ん張って動かそうとするが動かない。ヒックの顔は真っ赤である。
「まさか、こんな所でこんなチャンスが来るとは…」
遠くで何やら大きな物体が、勢い良く倒れる音がする。
「フォルと奴らが交戦中か…まぁ良い。お前が最優先だ。魔竜騎の心を貰い受ける…」
そう言いながらヒックの目の前まで来るズルワーン。
ズルワーンはヒックの胸に手を近づける。
「これでフォルヒックトゥーナは…本当に…」
ズルワーンがそう呟くと、ヒックの胸が輝き出す。
その時だった。
「待ちなさいよ…」
そう言ってズルワーンの手を掴む者が居る。何の気配も無く現れた人物に、ズルワーンだけで無く、ヒックも驚いて手の方を見る。
「私のヒックに手出しはさせないわ」
「なっ!なんだと?!サ、サトゥルーナ!!お前、なんで此処に!!」
「黒髪の女!!!」
ヒックは驚いて叫んだ。
そしてズルワーンも、かなり狼狽している。
「気が付かなかったの?時空フィールドは誰が作ったと思っていたのよ。自然現象かしら?」
ズルワーンは、サトゥルーナの手を振り払い、空へと高速で飛び出す。
空で一旦止まり、先程まで居た場所へと目をやるズルワーン。
「待ちなさい…話はこれからよ」
ズルワーンの真後ろに、サトゥルーナが居た。またズルワーンは驚いて距離をとる。
「な、なんだ貴様!どうやって出てきたんだ!」
「出て来てなんかいないわ。ちょっと考えれば分かるでしょうに。貴方なら」
苦虫を噛み潰したような表情でズルワーンは、両手を前に出して詠唱する。
「汝!厄災となり滅びの精霊!」
続けてサトゥルーナも詠唱する。
「滅べ!その厄災を汝の精霊へ!」
そして2人は同時に魔法を放つ。
「ガルディ・カルッツァ!!!!」
「ルカディ・ルガッツァ!!!!」
ズルワーンからは蒼炎が、そしてサトゥルーナからは黒炎が放たれる。
それは巨大な魔人となり殴り合う。
が、強さは圧倒的にサトゥルーナの黒い魔人であった。一方的に殴り続けている。
「貴方に魔法の才能は無いわ。諦めなさい。それに私は話をしに来たのよ」
すると後方から赤い閃光弾が飛んで来るが、サトゥルーナは振り向きもせずにそれを手で止める。
それから振り向き怖い顔をして叫ぶ。
「こんのっ!バカ少女!!」
一緒ビクッとするフォルだったが、防御魔法で盾を作り、ズルワーンの近くへと飛んで来る。
フォルはズルワーン前で、盾を構えて停止する。
「あら?少しは学習したのかしら?ちゃんと広範囲じゃなくて、集中型魔法壁を張るなんて驚きだわっ」
サトゥルーナは微笑みながら、フォルに語る。
しかしズルワーンとフォルは厳しい表情を崩さない。
そして今度はサトゥルーナの後ろから、魔竜騎ズルワーン、ギルバートとサラン、そして赤い光のフォルが追いかけて来る。
「あら…賑やかね。というか…あの二人は、何かしら?この世界に魔法は無さそうだけど、飛んでるわね…」
魔竜騎ズルワーンは少し浮くと、ドラゴン形態へと変形する。
目の前で突然、変形を始めたズルワーンにギルバートとサランは、驚いて空で停止する。
変形したズルワーンはそのままスピードを上げ、サトゥルーナへ突進してくる。
それを避けたサトゥルーナは舌打ちをした。
「…ッチ」
振り返ると案の定、ズルワーンとフォルの姿は無い。
そしてフォルが詠唱する。
「時を超えし龍の叫びよ!今!この時を揺さぶり転空の輪を生み廻せ!」
「リンク、フレアァァァッ!!!」
ズルワーンは空に円を描くように飛び、その中がヒビ割れ、青い炎が渦巻く空間となる。
恐らく、ズルワーンとフォルは魔竜騎ズルワーンの口の中に移動しているだろう。
「艦長!!時空流気を感知!!」
「こちらもレーダに異変物質振動を感知しました!!」
「このままでは時空壁に衝突します!どうしますか?!」
「構わん!このまま時空の壁を突き破れぇっ!!!」
その青い炎の渦の中へ、ズルワーンが入ろうとした時だった。
魔竜騎ズルワーンが作った輪の真横に、魔竜騎の5倍はありそうな、巨大な銀色の戦艦が凄まじい音と共に、割れた空の黒い空間から勢いよく飛び出して来た。
そして、その中から出てきたのは銀色の巨大な空飛ぶ戦艦であった。
そして戦艦は、艦の船頭でズルワーンへと突撃し、ズルワーンが時空の輪へと侵入するのを防ぎ、その勢いのまま世界に全貌を晒す。
そしてゆっくりと勢いを落とし、空中に停止する。
1人、森の中で様子を伺っていたヒックは、口をあんぐりと開け、目が点になり
叫んだ。
「…な」
「なんじゃ、ありゃああああああああああああああああああっ!!!!!」
そして
ギルバートとサランも、驚いて抱き合いながら叫ぶ。
「な」「な」
「何あれマジ卍いいいいいいいいいいいいいいっ!!!!!」
「なんなんだあれはああああああああっ!!!!」
サトゥルーナも驚きを隠せない様子で、ただその巨大な戦艦を眺めていた。
そしてズルワーン達は、船に押された勢いで、バランスを崩し
森へと堕ちた。





