空を駆けろ
「あ、止まれた…」
ロランとフォルは、2人で同時に同じ事を口にした。
そして魔竜騎ヒックと言って良いのだろうか分からないが。いつもと違い全身が、白基調で青と赤のラインが入った模様となった魔竜騎ヒックが、魔竜騎リュウローの上に覆いかぶさっていた。
その下で魔竜騎リュウローが小刻みに震え、魔竜騎ヒックを背中で持ち上げようとしている。
動くのは危険と判断したロランとフォルは相談する。
(まさか2人でユニリンクして、君まで中に入るとは誤算だったよ…)
(アナタが助けるって言うから、ユニリンクってやつしたのよ?!首…まだ痛いわ…いたた…)
(ぼ、僕もだよ…いたた。2人で中に入って、魔竜騎が形態を保ちつつ動く事にも驚きだし、操作があんなに難しいなんて思いもしなかった…どうしよう?)
(ど、どうしようって言われても…っきゃ!)
魔竜騎リュウローが起き上がり、背中の魔竜騎ヒックを後ろへと飛ばす。
(もう…てか何なのよ!コイツは…)
(この魔竜騎の形をしたのはフォルスだよ。偽物さ。この世界で何かを持った2人が愛し合う時、それを阻止する為だけに出て来る存在だよ。本来なら、世界に存在しない奴らだ)
(な、何よ…それ、それに世界って…)
(何よ、と言われても、そのままなんだけれど。フォルスに時間の概念は無い。過去にも行ける。だから本来、愛し合う2人の間に入り邪魔をして来る。さっき僕らと一緒だった2人が居ただろう?こうなった状況から察するに、あの2人が本来ならば惹かれ合い、愛し合う2人の筈なんだ、多分…)
(何かを持った2人ってなんな…のよって、わわわわっ!!!)
リュウローが、ヒックを抱えて頭上へ持ち上げようとしている。
魔竜騎ヒックは持ち上げられ、魔竜騎リュウローの頭上でジタバタしている。
ギルバートはそれを走りながら見ていた。そして(ヤバいっ!)と感じ、魔竜騎ヒックが作った道を横にそれる。
間もなくして魔竜騎リュウローは、魔竜騎ヒックを投げて来た。
その巨体はギルバートが居る近くまで投げ飛ばされて来る。
避けていて正解だった。
「きゃあああああっ」
「うわあああああっ」
投げ飛ばされ、土が舞う。
それが落ち着いたら、ギルバートは魔竜騎ヒックへと駆け寄った。
工場では、正体不明の巨人が突然現れ消えて、森からまた出て来たので、消火活動とは別の機兵が、数体出て来ていた。
しかし機兵の大きさは魔竜騎と比べると半分程しか無い。機兵のパイロット達は攻撃をして良いものか分からずに沈黙していた。
「君たち!大丈夫かい?!」
ロランとフォルは、先ほどの青年が駆けてくるのを確認する。しかし、何やら恐ろしい物体を抱えている事に気付く。
(ちょっと!何なのよアイツ!!)
(…うっ…ぼ、僕…スプラッタ系、無理なん…だ…うぇ)
(ぎゃっ!?ちょっとこんな所で絶対やめて!絶対我慢してよ!てかアイツこっち来てるんだけど?!)
ギルバートは魔竜騎ヒックの腕あたりに近寄り…
「きょ、巨大な機兵だな。こ、これは…何で出来てるんだ…?」
と言いながら触った。
ギルバートの、その赤い手で…。
中に居る2人は失神寸前だった。
そしてロランは立ちくらみを起こし、静かに下を向いたまま動かない。
が、しかし急に顔を上げて叫びだす。
「…ふふっ…あはははっ!ぼ、僕の精神をここまで追い込むとは!なかなかやるね!そこのキミっ!もうこうなったら背に腹は変えれない。僕たちとユニリンクだ!」
ロランの、その目に黒目は無い。
突然の声に、ギルバートは驚くも
「ユ、ユニリンク?とは?」
と不思議な顔をする。
そして何か異変を感じ、工場の方を見ると機兵部隊が魔竜騎リュウローへ、機兵用64.3mmバルカン砲で攻撃を仕掛けていた。
が、魔竜騎リュウローの装甲に当たり弾かれていく。
「そ、そのユニリンクとやらをすれば、僕はリュウローと戦えるのかい?!」
この状況下と、先ほどの変な動き方での前進、そしてこのタイミングで話を持ちかけられた事を考え、ギルバートはその結論に至った。
(うぇ…あ、あれ持ったままユニリンクする気じゃないでしょうね…)
そう思うフォルを尻目に、ロランはギルバートへ説明する。
「そうなんだ。僕達の小指に、君の小指を当てて『ユニリンク』と叫んでもらえるかな?それで多分外部的要素が追加されて、ちゃんと動くと思うんだけど…」
それを聞いたギルバートは、小指へと走る。
前を見ると機兵部隊を背にして、こちらへと近づいて来るリュウローの姿が見えた。機兵隊はリュウローへと砲弾を浴びせ続けている。
その1つが魔竜騎リュウローをかすって、砲弾がギルバートへと向かって飛んで来る。
砲弾が向かって来ているのが見えていたが、逃げずにギルバートは走って小指へと辿り着いた。砲弾が眼前に迫る。その瞬間、自身の小指を魔竜騎ヒックの小指へ押し当てて叫ぶのだ。
「ユニリンク!!!」
と。
ギルバートの身体は発光し、上空へと瞬時に飛び上がる。
綺羅綺羅と小さな光が沢山輝き、それは目を覆う仮面に、マントとなる。服は白色の戦闘用事務部工場着のままだ。いや、白色はもう少ない。
そして魔竜騎ヒックの手に砲弾が当たる。
「ん、なんだか手が…」
ギルバートは自分の手を見る。特に何もない。
だが手を見るついでに下を向いてしまったギルバートは、空に浮いている事を目認する。
「ぼ、僕は…い、一体…」
(バイパスじゃなく、ユニリンクなのね。それよりアナタ、名前は?!私はフォルで、こっちがロラン!って見えては無いのよね…てか、あの舞踏会で着けるみたいな仮面…何?)
(あれは仮ユニリンクだからさ。さっき僕がとりあえず彼とユニリンクする為に書き換えたから…多分ああなった…)
(多分…)
「多分…」
ギルバートは自身に何が起きたかは分からなかった。しかし、先程とは違う何かを感じて興奮している。そしてフォルに名前を聞かれたが、無視してしまった。
ギルバートは恐怖心もあったが、何故か大丈夫な気もして、試しに空中で足を1歩前へと出してみる事にした。
踏んでる感触とも、飛んでる感触とも違う不思議な感覚がギルバートへと伝わる。
しかしギルバートは確信した。
(行けるっ!)と。
そう思ったギルバートはそのまま魔竜騎リュウローに向かい、一直線に足を前へ出し続けた。
その速度はどんどん速くなって行く。
その速さは先ほど走っていた比では、無い。
「速く、速く速く速く…速くっ!!」
(ちょ、私たちを置いて行ってどうすんのよっ!?てか名乗りなさいよ!)
しかしギルバートにその声は聞こえない。
空中に足が踏み込む度に、細かな光が弾け飛び、綺羅星の如く、空を駆けるギルバート。
魔竜騎リュウローまで10メートル。
ギルバートは走る速度は緩めないまま体勢を変えて、右には大切な想いを抱きかかえ、左手を強く握りしめ拳を作る。
残り5メートル、4、3メートル、2、1...0。
「リュウローおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉっ!!!!!!!」
スピードを全部、拳へと集め、それを魔竜騎リュウローの顔面へと、ギルバートは叩き込んだ。
ギルバートの拳が、リュウローへ触れた瞬間、拳は強い光を放ち…大きく爆発をする。
その爆発と輝きは四方八方へ飛び散り、煌びやかな円を作る。
その爆光は魔竜騎リュウローを凄い勢いで、後方へと吹き飛ばす。
その巨体は、炎が収まりつつあるプラント8の壁を崩して、中へと消える。
「サランちゃああああああああんっ!!!!!!」
と叫びながら、その後を追うギルバート。
その叫び声を聞いた、先程まで魔竜騎リュウローの相手をしていた機兵部隊のパイロット達は思う。
(え、サランちゃん…?あの声は…確かいつもの…壁の向こうの…)
ギルバートは、また走ってリュウローへと近づいて行く。プラント8の壁は砕かれ、屋根も殆どが瓦礫と化した。
そしてまた、その拳で何度もリュウローに強い光の爆発を浴びせる。
そして
抱きかかえていたサランの欠片、その靴紐部分を口で咥え、両手が使える様にすると。
ギルバートは、魔竜騎リュウローの口を手でこじ開けようとする。
牙と、牙の間に手を入れ上下に広げ、少し開いた隙間に足を掛け、両手と足で上下にリュウローの口を開いて行く。
そして開ききった!その口の中には…
サランが居た。
左足の膝から下が無くなっており、血が流れている。それは魔竜騎リュウローの口内で広がり、サランの工場着へと吸い込まれていた。
「サランちゃんっ!!」
ギルバートは、サランヘ駆け寄る。
叫んだ際に口からはサランの足が零れたが、それは魔竜騎リュウローの口内へと落ちる。
中に入ると、口は閉ざされ暗闇となった。
魔竜騎リュウローが、動いている気配は感じるが、中は直径3m程の円形のドーム型となっていて、それは揺れもしなければ角度が変わることも無く水平を保って居た。しばらくすると、どこからともなく明るくなり口内を照らす。
そのおかげでサランへのダメージは、最小で済んでいたのか息がある。
しかし、気絶したサランの顔色は悪い。
(ねぇ!ちょっと何処行ったのよ金髪仮面!?デカいのが、こっちに向かって来てるわよっ!?)
(もうこうなったら、また僕達で…)
ロランとフォルへと向かって来る魔竜騎リュウロー。
魔竜騎ヒックの中の2人が慌てる声に、ギルバートは少し平静を取り戻す。
「すまない忘れていた、君達!それよりも、な、何か…。何か千切れた足を元に戻す方法は無いのかいっ!僕のサランちゃんが大変なんだ!!」
空が飛べる様になったものの、サランの側でただ困っているだけのギルバートは2人に問う。
(あ!それなら君の胸に刺さってるソレを使うといいよ!ソレは心が生み出した命の高鳴り。きっと強い想いに応えてくれる。しかも、それは君たちを見て、僕達から出た片割れみたいだ!)
「…そうなのか…コレが…ではっ!」
何故かその言葉の意味が胸に伝わり、宝石が熱く輝く。
そしてギルバートの胸に刺さる片平サイズの宝石。半分に割れたハート型の宝石。それを掴むと、一気に自らの胸より引き抜いた。
そして引き抜いた箇所からは、ギルバートの赤い血が流れ出ている。
だが、そんな事は気にせずに、宝石をマントで綺麗に拭き取りサランの足元へ置き、抱えて持って来た千切れた部分も同じ様に置いた。丁度、サラン、宝石、欠けた部分の順だ。
(サランちゃんっ…!!)
ギルバートは強く願った。
すると宝石が、線香花火の火花の様に光を幾つも出したかと思うと、その光は一気に広がり目の前を真っ白にした。
ギルバートは眩しさで目を閉じたが、光が弱まったので目を開けると、サランの足が元に戻っていた。
そして、サランの意識が目覚めようとする。
「…ん」
と言いながら、少しだけサランの瞼が震える。
それを見つけたギルバートは興奮し、笑みを浮かべてサランの名を呼ぶ。
「サランちゃん!サランちゃん!僕だ!ギルバートだ!分かるかい?!サランちゃん!」
「んん…?わ、、、私…?って、え!ギルバートさん?!な、何がどうなって…」
サランが目を開けると、涙ぐみながら呼びかけてくるギルバートが目に入った。
そして足を見るサラン。
「…え?ゆ、夢だった、の、かな?」
上体を起こし、自らの足を撫でるサラン。
「…そうさ、悪い、夢だったんだ、痛かったかい?でも安心してくれたまえ、サランちゃん。僕が…」
そう言うとギルバートは、片手でサランの身体を下から掬う様に持ち上げ…
「守ってみせるからね!!」
と言って、魔竜騎リュウローの口を再び開かせる。
サランはギルバートの胴体に手を回し、振り落ちないように抱きつく。
(ねぇロラン…何かアイツの口…モゴモゴしてない?)
(た、確かに…何か食べてるのかな…)
そして魔竜騎リュウローの口が、急に軋みながら開いた。
見ていたロランとフォルは、絶句した。
まさか、そんな所からギルバートと、先程の女の子が出て来るとは思ってはいなかったからだ。
そして
ギルバートとサランも絶句する。
何故なら、口を開けたその先には、魔竜騎ヒックが横たわり。
そのすぐ後ろには…
魔竜騎ナスラが目を赤く光らせ仁王立ちで、こちらを見ていたからだ。
そして
一言、言い放つ。
「私のギルバートを、貴女には渡さい…」
と。





