首が…
(僕の運命の人…大好きな…君が…目の前に…居るのに…手を…伸ばさない…理由は…無い…抱きしめない…理由は…な…い…!)
ギルバートはサランを抱きしめる。
サランはギルバートに抱きしめられた時、ギルバートの胸に刺さっている宝石の尖った部分がサランにも刺さり、サランはその痛みで目を覚ます。
「っ痛…」
宙に浮き、リュウローの口の中へ入ろうとする2人。
目を覚ましたサランは、ギルバートを自分が持てる最大のチカラで突き放す。
サランが空中でギルバートを突き放した勢いで、ギルバートはリュウローへの進路が絶たれ、大地へと降下して行く。
そしてサランは、リュウローへと向かう速度が加速し。
リュウローの口は閉じられた。
降下したギルバートは、また木々に引っかかり、一命を取り留めるも気を失う。
しかしギルバートの頬に何かが落ちて来る、それは頬を伝って、大地へと吸い込まれる。
ギルバートは、その雫で目覚めた。
しかし視界は曖昧だ。
微睡みの中、頬の生暖かい何かに気付き、それに触れ、目で確認をする。
一瞬、自身から溢れ出た液体なのかと思うが、それはすぐに違うものだと確信する。
その赤い液体は、目の前にある沢山の木の枝の、その1つから滴っていたからだ。
そして木の枝には、何か枝では無い『 何か』が引っかかっており、そこから雫は滴り落ちて来ている。
それをギルバートは目を凝らして良く見た。
それはサランの足だった。
そうだと決定付けたのは、靴に着いているサランお手製ハート型デコラメストーンである。
「…う」
ギルバートは驚きのあまりに声が出ない。目は一点を見つめる。
しかし、身体は考える事無く動いていた。
木によじ登り、回収する。
そして、その場から辺りを見てみる。
他に『落ちていない』かを確認しているのである。
その欠片をギルバートは今、無心で抱いている。
泣くことも忘れ、ただ千切れた欠片を木の上で、物言わぬ ― をそっと…。
木の間からリュウローが、工場の方へと走るのが見えた。
ギルバートは慌てて木の下へと降りて後を追う。
リュウローは何かを囁いている。
「ラン…サ…ラ…ンサ…」
プラント8とプラント7の境目辺りにリュウローは到着する。
そして動くのを辞めて沈黙する。
「…ラン…だ…じょ…か…す…けに…来た…」
何かを話す魔竜騎リュウローは突然、上を向いて叫びだす。
「助けに来たぞぉぉぉぉっ!!サラァァァァァァァァン!!!」
その声は工場の外で避難している人、そして山で戦うズルワーンやナスラ。
工場へ向かうギルバートにも聞こえる。
ギルバートは抱きかかえながら全力で走っていた。そして、その叫び声を耳にする。
すると何故かギルバートは
「助けに行くぞぉぉぉぉぉぉっ!!!サランちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」
と同じように叫んだ。
しかし、その声は山の木々達にしか聞こえない。
(また僕の声は、キミに、届かないのだろうか…サランちゃん…)
その時、胸に声がする。
《 …ギルバート…部長…補佐…助け…て…ギルバート……》
「…!この声はナスラ君?!ど、どうしたんだい?!大丈夫か?キミも巨大化していたが…」
ギルバートの走る速度が少し遅くなる。
《今、襲われていて…巨大化したまま戦っているのですが…っきゃ!…ま、負けてしまいそ…うで!きゃあああああ!!助けてよ!ギルバートくん!!》
「だ、大丈夫かい?!どうしたんだ!ナスラ君、ナスラさん!ナスラさん!大丈夫ですか?!」
そしてナスラの声はしなくなる。
ギルバートは歩みを止めた。
腕の中でどんどん熱を持たなくなってしまう、冷たくなってしまうのを感じながら、後ろを振り返る。
(山の中で光が見える。
恐らくナスラと先程の誰かが交戦しているのだろう。
ナスラさんはどうなってしまうんだ?光が弾けているのはまだ無事だということだろうか?助けに行かなくては…。
だが、僕が行ったとしても…あんな…)
そしてまた前を向く。
(だが…
工場へ行ったリュウローとサランちゃんを何としてでも何とかしないと。
でもリュウロー君も巨大なのだが…
だけれども…サラン…ちゃん…
それに…この…)
抱きかかえる手にまた力が入る。
その時だった。
後方から何か大きな音と声が聞こえてくる。
「ちょ、ちょっと!こ、これぇ!!!」
「い、いや、まさか、こんなに…う、うわ!!」
声が近づいたと思ったら、森の中から木を折って吹っ飛ばしながら、手と足と首と胴体が全方向バラバラに動いているのに前進してくる、巨大な人型の物が現れる。
その姿は巨大化しているリュウローに似ているが、ギルバートは違うと感じた。
それは聞こえてくる声が…
「な、何なの?!前はこんなにも…う、うわっ!!いたっ!いたたいっ!痛い?!首!首そんなに後ろむかっ!うきゃああああ!」
「ちょ、ぼ、僕もこ、こんな、これは…う、うわっ!いたっ!痛いよ!うそ、首?!え、わ、無理無理っ!むっ!ぎゃああああっ!」
先程、話していたオバケの2人であるからだ。
巨大化した人型の何かは、ギルバートを無視して前進して行く。
首は進行方向と真逆を向いていた。
足も手も胴体もガクガクで、どう前進してるのかすら、機兵工学学校首席卒業のギルバートが見る限り、曖昧ではあるが進んでいる。
「な、何なのだ、あれは…」
身を伏せて飛んでくる木々を避け終わり、落ち着いたギルバートは思考を元に戻す。
抱いているのは…。
ギルバートは起き上がり、工場へとまた走りだした。
先ほどの巨大化オバケ2人組が道を作ってくれているので、走りやすかった。
視界も開けているので巨大化オバケも見えている。
そして、その先には、リュウローが居る。
「貴様ああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!」
リュウローが視界に入った瞬間、ギルバートの目からは涙が零れ、鼻は詰まり、口からは叫びが溢れた。
そして走る速度を速くする。
速く、速く…
速く…
キミを掴む為に…
手を伸ばし…
片方の手は…
大事なキミを支えて。
一直線に
ギルバートは
サランへと
走る。
「ちょ!や、ヤバい!ぶつかるわよ!ちょっと!」
「ま、まだ首、痛いんだけど…う、うわっ!ヤバい!」
巨大化オバケ2人組は
魔竜騎リュウローへ
背後からダイレクトに
アタックした。





