月夜
「と、ところで…ふ、2人は、どういった関係なんだい?兄妹とかかな?」
いつも通り食堂で食事をする3人。
ギルバートは思い切って気になっていた質問を投げかけた。
「幼馴染みですよ」
と答える。
それを聞いたギルバートは胸を撫で下ろし、口から無意識に言葉がこぼれた。
「やっぱり恋人同士じゃなかったのか…」
しかし逆に、それを聞いた2人は落ち着きが無くなり、2人共に頬が赤くなる。
それを見ていたギルバートは、また嫉妬という気持ちを感じていた。
「ち、ちなみに、サランちゃんの好きなタイプの男性って…?」
「え?!タ、タイプの人?!え、えーと…マヂで頑張ってる人…みたいな?」
「頑張ってるって何をだい?」
「え、えぇと…んー、やっぱり…し、仕事っしょかな?」
「なるほど!分かったよ!失礼する!!」
そう言ってギルバートは、また1人で席を離れる。
「な、何が分かったよ。なんだろな…」
「さ、さぁ…激わからん丸…」
「…」
「…言わないで」
ギルバートとサランが出会って、1年が過ぎ去ろうとしていた。
あの頃と、少しずつ変わって行く2人。
ギルバートは、サランと出会ってから仕事で気を紛らわす事が多かった事と、サランの言葉を信じて仕事ばかりしていた為に[部長補佐]という役職を手に入れて居た。
この工場が始まって以来、最年少での快挙だそうで工場内は数日間、ざわめいた。
「ギルバートくんおめでとう!すごいじゃない!でも確かに頑張っていたものね。私、追い抜かれちゃったな。あっ!これからは上司になるんだもんね。ちゃんとギルバート部長補佐って呼びますね」
そう言ってニッコリと微笑むナスラに、ギルバートは
「そんな…いつも通りで居てくださいよ…色々とお世話になったのは僕の方ですし…それに、まだ…」
と何か物思いにふけっていた。
「おめでとうございます!」
「おめでとうございます!」
昇進の噂を聞いたリュウローとサランは食堂の入口で、ギルバートが来るのを待って居たのだった。
「き、君たち…」
柱に隠れてギルバートが来たのを確認して驚かせた2人に、嬉しさで声が出ない様子のギルバート。
特にサランからの言葉に胸が掬われた。
「これ、、、貰ってください!」
と言って、両手で何かをギルバートへ差し出すサラン。
「こ、これは…」
「私たち、もう1人でもギルバート部長補佐にご馳走出来るんですけど、2人で話して半分ずつお金を出し合って買いました。受け取ってください!」
そう言ってチキンステーキ定食の食券を渡し、ギルバートの手を引くサラン。
「さっ!ギルバート部長補佐!マヂテンアゲでパーティランチっしょ?!」
「いやぁ、めでたいよなぁ!俺なんか全然変わってねぇのにぃ」
そう言って笑うリュウローの背中に、ギルバートは手を当てながら少し前に押して話す。
「君だって頑張れば成果が出せるさ。変わって無い事なんてないよ。リュウローくん」
それを聞いてリュウローはニッコリと笑いながら
「沢山食べてくださいよ!ギルバート部長補佐さん!」
とギルバートに手を伸ばし肩を組む。
サランと手を繋ぎ、リュウローとは肩を組み、チキンステーキ定食を受け取り、ギルバートは幸せを噛み締めていた。
そして3人で食事をしようと、いつもの席に着くと。
「私も御一緒して宜しいでしょうか?」
突然、何の気配も無かった所から声が聞こえて来て驚き叫ぶ3人。
「い、いや、ビックリしたよ、ナスラさん…」
「す、すいませんギルバート部長補佐…」
「あ、あの、この方は…?」
「ああ、コチラは僕の1年先輩で事務部のナスラさんだ。君たちも敬意を払って接するように」
「そ、そんな…敬意だなんて…ふ、普通でいいからね。2人共。はじめまして。ナスラです。よろしくお願いします」
「い!いえ、こちらこそよろしくお願いします!リュウローです!」
「私もよろしくお願いします!サランと言います!」
「へぇ…あなたが、サランちゃん…」
そう言って2人に笑いかけるナスラ。
4人は楽しく食堂で食事を済ませ、それぞれの持ち場へと帰る。
「ギルバートさん、ほんと昇進出来て良かったよな!」
「それマヂありよりのありって感じで!アゲ要件!」
「…」
「何か文句ある?」
ギルバートとナスラは事務室で2人。
ナスラがギルバートへ話しかける。
「ギルバート部長補佐…。話が、あります…」
ナスラの顔は今までに無く真剣な顔をしている。
「なんですか?ナスラさん…」
ギルバートも、今までに無い何かを感じて神妙になる。
「い、言い難い事なんだけれど…」
「な、なんですか?ナスラさん…」
「あの…リュウローって子…」
「ああ、彼ですか?とても素直で良い奴ですよね。正直今日、食券貰った時に泣きそうになってしまいましたが…部長補佐ともあろうも者が、食堂の入口で泣くわけにもいかず困っ…ううっ」
ギルバートは思い出して、少し涙ぐむ。
「あ、あの感動してるとこ悪いんだけど、リュウローって子はサランちゃんの事が好きだと思うわ」
「は?」
驚きの余り、ギルバートは素が出てしまった。
「あ、ナスラさん、す、すいませんってか!な、なんですかそれは?!」
「今日、直接話してみて気づいたの。あれは確実にサランちゃんの事が好きだと思ったの」
「そ、それにしたって何故、僕にそれを伝えるんですか?!僕もサランちゃんの事が好きなんですよ?!」
「だから伝えたのよ。ギルバートくんが辛くならない様に…」
「な、何故、僕が辛くなると言うのですか?!」
「サランちゃんの気持ちは…読み取れなかったけれど…リュウローくんの事を好きじゃないという確証は無いわ…」
「そ、そんな…」
それを聞いたギルバートはナスラが止めるのも聞かずに、リュウローが仕事をしているラインへと即座に足を運んだ。
溶接作業をしているリュウローを呼び出して、問い詰める。
「や、やぁ…リュウローくん!お仕事いかがお過ごしかなぁ?あははは」
問い詰める、、、筈だった。
「な、何なんですか?ギルバート部長補佐」
「い、いや、そ、その…だね」
「なんも無いなら仕事戻りたいんすけど…」
「あ!いや!待ちたまえ!き、君はサランちゃんの事をどう思っているんだ!!」
「え?!サランの事ですか?どうって…」
「あ、あ!あい!いや!好きかどうか聞いているんだ!」
「え?あ、ああ…好きですよ。幼馴染だし。昔からずっと一緒に居ますし…って、え?ギルバート部長補佐?!どこ行くんすか?!仕事戻りますよ?!ねえ!ねぇって!」
サランは重機を操縦しながら、2人が何かを話しているのを見ていた。内容は分からない。リュウローが仕事に戻るのが見える。まぁ、気にする事でもないか。と考えてサランも仕事に集中する事にした。
「や、やはり、リュウロー君はサラン君の事が好きみたいです。ナスラさん…ど、どうしましょう?」
ギルバートは事務室へ戻り
すぐにナスラへ、また相談を始めた。
「やっぱり、そうだったのね…」
「ど、どうしたらいいですか?ナスラさん!?」
「とっても言い難い事なんだけど…ギルバートくん。もう諦めた方がいいんじゃないかな?」
「え?な、何故ですか?」
「だって向こうは幼馴染だし、お互いの事を分かりあっているわ。好きな所も、嫌な所も、分かりあって過ごして居るのよ…ギルバートくん。あなたはサランちゃんの何を知っているの?それにあなたの弱い部分や、嫌な部分を見せてもサランちゃんがギルバートくんの事を好きだと思う?」
「そ、それは…」
「私は無理だと思うよ。あんなに仲良いし…2人にとってもそらが幸せなんじゃないかな?身を引いた方が無難よ。ね?ギルバートくん」
「そ、そうですね。それは…そう思います…」
「良かったぁ。ギルバートくんがこれ以上、傷つくの見たくなかったんだもん!これからは会っても挨拶くらいに…」
「とは言え!」
「え?」
「とは言え!ぼ、僕はこの気持ちをすぐに消すなんて事は出来ません!それにサランちゃんへ、この気持ちも伝えていない!僕はこの気持ちを教えてくれたサランちゃんへの敬意を込めてっ!そっと2人を見守る事をここに誓いまっす!!」
ギルバートは右手を真っ直ぐ天井に向けて、宣誓をしている。
そしてギルバートは部屋を飛び出して、いつもの場所へと走る。
そして月を見上げて、いつもより大きな声で叫ぶのだった。
「サ、サランちゃああああああああああああああああああんっ!!!!」
その声は壁を越えプラント7へと響く。
(う、うわ!ま、また、馬鹿みたいにデカい声出しやがって…。てか…またサランちゃん…)
と喫煙所の一同は思う。
そして
ギルバートの姿を木の影から見つめているナスラ。月光にメガネが反射して目が見えず、その表情は読み取れない。
そのどちら共にもギルバートは気づいて居なかった。
「…クソぅ…っ!」
ギルバートは近くに生えていた、木の根元を何度か蹴りつけた。
それから1年、ギルバートはサラン、リュウローと交流はしつつも、以前とは接し方が変わって行った。
そして2人の事を考えてプラント8全般のシステムが弄れるよう、事務部を管理部へと昇格させた。
そうする事によりギルバートは、2人が離ればなれになら無いよう、仕事場所の変更や、仕事内容の変更を陰ながら防ぐ事とした。
しかし管理部の部長補佐としての仕事量は増え、何日かに1度しか、サラン達に会えなくなっていく。
そして会えたとしても、以前の様な和やかな雰囲気は無くなり、毎度イライラし、月に向かって叫び、木を削る作業が続くだけだった。
サランとの距離も離れ、上司と部下という関係へと変化して行く。
そして
あの出来事が起きたのだ。
ズルワーンから話を聞かされた時、胸に強い痛みが走った。
― 君が持つ、彼女への愛はそれ程の物だと言う事かな? ―
その言葉を投げかけられた時、今までに無い程の怒りが心の中で駆け巡り、頭では何も考えられ無いギルバートとなっていた。
ただ自身の想いだけの為、ズルワーンの言葉に流され、この大惨事を引き起こした。
そして、それに後悔をしつつもサランに想いを告げ、サランを危機から救った…筈だった。
が、しかし
割れたハートに
胸を貫かれ
血を流し
気を失った。
サランちゃん…。
君は…
無事…
だろうか…?
そして、ギルバートは
目を開いた。
眼前には、大きな月が見える…
夜空に浮かんでいるような気分だ。
(ああ…僕は死んだのだろうか…)
そう思いながら
ぼんやりと…
月を見ていた。
そして
月を見ていると叫ばずには居られなかった。
彼女の名を。
最愛の人の名を。
最も会いたい、その名前を。
月に向かって叫ぶのだ。
「サランちゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!!!!!!!!」
そして
目の前には、魔竜騎リュウローの口に放り込まれそうになるサランが居る。
その横には魔竜騎リュウローの尖った牙だらけの口が広がる。
ギルバートは何も考えなかった。
ただ愛するその人へ
手を
ただ手を伸ばし
意識を失っている
彼女の手を取り
引き寄せて
胸が最高潮に痛み
ギルバートは
サランを
強く
抱きしめ
呟く。
「愛しているよ…」と
そして
2人は
リュウローに
食べられた。。。





