破錠
「お前ら!そこの2人!絶対にそれをアイツらに渡すな!!頼む!!絶対にそれを取ってくれ!!!」
ヒックは走ってサランとギルバートの元へ来たが、転んでしまった。なかなか起き上がれないでいる。
ズルワーンとフォルが、割れたハート型の宝石へ、一直線に飛行魔法で取りに来る。
転んだヒックを心配して近寄ろうとするサランに、ヒックは叫ぶ。
「早くアレを取れ!そこのお前も!」
サランとギルバートは気迫に押され、宝石へ走りだす。が、ギルバートは走るのが遅い。一方、サランはかなりの速さがある。
けれどズルワーンとフォルは、高速飛行で来ているので差は歴然。
「…ダ、ダメだ…!」と
ヒックが諦めた時である。
小指の爪ほどの、小さな赤い光りが、ズルワーンとフォルの前を高速で行ったり来たりする。
2人はそれに驚き、気を取られ飛ぶ事を一瞬躊躇する。その隙にサランが宝石の元へ辿り着き、手を伸ばす。
何か普通じゃない事を感じ取ったサランは、全力で走ったまま前かがみになり、その割れた宝石両方を、両手に1個ずつ掴み、2つを同時に取った。
2つに割れたハート型の宝石を、とりあえず掴む為の最速方法だと思ったからだ。
しかし、その勢いで少し走ったが、前方へバランスが崩れ、数回前転を繰り返し、森の茂みに飲まれて行ってしまい姿が隠れた。
「サ、サランちゃん!大丈夫なのかいっ?!」
ギルバートも遅れて茂みの中へ入り、サランの後を追う。
魔竜騎が3体、そして、ヒックにズルワーンにフォル。
魔竜騎は動かない。
が、ヒックは立ち上がり走り出す。赤い小さな光りは気付くと消えていた。ズルワーンとフォルは、ヒックを無視して、サランが消えた茂みへと飛び込む。
遅れて追いついたヒックは、ある物に目が行く。それは、ロッシーが作ったミノムシ寝袋である。
ヒックはその先に、サランとギルバートが居る事を目視する。
そこはロッシーとヒックが、この世界へ来た時に居た場所だった。
木々と茂みに囲まれているが、少し開けた場所になっている。何故か安心感があり、あの時は何も考えずに就寝する事が出来た。
ヒックは思う。ズルワーンとフォルは何処へ行ったんだ?と。
だが、それよりも問題はあの2人だった。ヒックは2人に駆け寄り話しかける。
「大丈夫か!2人とも!」
するとギルバートが涙目でヒックに飛びついて叫ぶ!
「サランちゃんが!!サランちゃんがあ!!」
ヒックは驚いて心配する。
「なっ!どーしたんだ!?!」
ギルバートはヒックに抱きつきながら、サランを後ろ手に指さして喚く。
「膝と肘を擦りむいて痛そうにしているんだ!!!」
ヒックは黙って、ギルバートの頭を平足で、スパァンッ!と叩いてサランに近寄る。
「大丈夫か…今、手当てを…って俺今、出来ないんだった。おいっ!そこの金髪!サランちゃん?って子の手当てをしろ!」
ヒックがギルバートを呼ぶと、サランは少し身体が痛むのか、苦笑いして答える。
「あ、だ、大丈夫っすよ、これくらい…っ痛…やべ…」
ギルバートは、自分の着ているシャツの裾を破りながら、サランの元へと走って来る。
「だ、大丈夫かい?!サランちゃん…」
そう言って不慣れだが、一生懸命に切れ布を、傷に巻いてくれているギルバートの横顔を、サランは見つめていた…。
「てかマヂなんなワケ?!リュウローは?!チョー意味わかんないんですけどー?!さっきのチョベリバな2人は何処行ったし?!てか、テメェは何者って感じだっちゅーの?!」
サランも少し混乱気味である。
ただヒックも少し、不思議に思っていた。本当にズルワーンとフォルが居ないのだ。だが今はそれどころじゃない。
ヒックは話を続けた。
「その話は後だ、その宝せ…ッ!」
話の途中でヒックは倒れ込み、気を失ってしまった。ギルバートの手には木の棒が握られていて、今しがたヒックの後頭部を強打したのだ。手は少し震えている。
「サ、サランちゃん…こっちへ来て…」
ギルバートは震える声でサランを呼ぶ。
「え!ちょっ!ギルバート、どうして、こんな…」
そう言いながらも、ギルバートの方へ歩いて行くサラン。
「だって怪しいじゃないか!コイツも!サランちゃんに何かあったら大変だと思って…!だから…」
と言いつつ、腰から砕け落ちるギルバートを、サランはただ黙って見つめている。
そして座り込んだギルバートが、サランを見上げると、その顔は目が飛び出して、口はあんぐりと開いていた。
サランはどうしたのかと思い、聞こうかと口を開いた瞬間。
「あ、あの…すいません。お二方、お取り込み中だと思うんですが…」
見知らぬ誰かの声が聞こえた。サランは突然の声に驚き、振り返ると青い炎が燃えていた。そして、その中に薄らと半透明な人間が居るのだ。
走って逃げようとする2人を、ロランは止める。
「ここから出ては危険だ!君たち!」
それを聞いて2人は止まり、恐る恐る後ろを向く。
「ちょ…マヂ、ありえないんですけど卍」
「も、もうダメだ…」
ギルバートは腰が抜けた。サランも疲れたのか座り込んでしまう。
「ふ、2人とも、大丈夫かい?そんなに怖がらないで…」
ロランは苦笑いして尋ねる。
「き、君は何なのだ!幽霊か?!ぼ、ぼぼぼ、僕はさっきのひ、人を!人を!人を殺したのかっ?!」
半べそでジタバタするギルバート。
「あ、ああ!それは心配ないさ。彼は不老不死、死なないよ。いや、死ねないと言うべきかな…」
そう言ってクスクスと、1人で何かを思い出して笑っている。
こちらとの温度差があり過ぎて、サランとギルバートの緊張は少し緩んだ。
そこへ
「え?!ロ、ロランなの?!え!ヒッ、ヒックが?!」
サランとギルバートは後ろから聞こえて来る声に、心臓が飛び出しそうなくらい驚いて、振り向く。驚き過ぎて声も出なかった。
そこには赤い帽子と服にスカートっぽい感じの美少女が立って居た。いや、立って居なかった。…と言うよりも、足が無く、何か赤い半透明な、モヤがかかった様になっている。
「こ、今度こそ、で、出たああああっ!!」
「もう!激オコぉぉぉぉぉお!」
2人は完全にここをオバケの溜まり場だと認識したようだが、腰が抜けて立てない様子である。
サランは怒りながらも恐怖からか、無意識にギルバートに抱きついている。そしてギルバートの顔は、青から赤へと変化し横目でサランの怖がってる顔を見る。
「あ、僕は…ロランと名乗ってはいるんだけど…ロランんでは無く…て…」
そう言い終わる前に、フォルはロランの方へと両手を広げて飛んで行き、抱き付こうとするが、すり抜けてしまう。
「ちょ!何よコレ!?ロラァン…」
フォルは涙目の悔しそうな顔で、半透明のロランを、半透明な手で触ろうとして、何度も空振りしている。
「フォルヒックトゥーナ、今は一刻を争う。気持ちは分かるんだけど、少し話を聞いて欲しい。そこの2人もだ、いや現状だと君たちにこそ聞いて欲しい。いいかな?」
フォルと、サランとギルバートは、ただ黙って頷いた。
そして
ギルバートとサランは…
手を取り合って
互いに強く
握りしめた。。。





