誕生
ナスラは、ドアの向こうで、盗み聞きをしていた。
最初は、ギルバート部長補佐が1人で、来客対応が出来るか心配だった為である。
性格がアレなので。
しかし、問題はギルバートには無かった。
耳を疑う内容にナスラは震える。
ズルワーンはこう言っている。
「君の願いを叶えよう。あのサランと、言ったかな?キミは好きなのだろう?彼女の事が…」
ギルバートは不信感よりも先に、顔を赤くして、しどろもどろだ。
「な、何をおっしゃっているのか、ぼ、僕には分かりませんが…」
目が高速で泳いでいる。
「まぁ、私にこんな事を言われるのは、気分を害するかも知れないが、これを見てほしい。これは、この世界と並行して並ぶ世界図だ。パラレルワールド、とでも言うのかな?この世界では。私はこの中の1つから来た」
白く光る板から光が伸び、その上の何もない空間に、画面の様な物が写し出される。
その画面には、丸い球体が数個並んでいる。
その1つを指さし、ズルワーンは言う。
そして話を続ける。
「私は世界を周り、探し物を集めているが、それは愛による所業であると私は思っている。だからこそ、君の気持ちが分かるのだよ。恋とは…」
「ちょ、ちょっと待って下さい。貴方は何者なのですか?」
ギルバートは工場関係の客人では無いのか?と思い、話に割り込む。
「ああ、私かね。少し、見た目は老いているかも知れないが、愛のキューピットだよ。君と、サランという少女の愛を取り持つ。君にその気があるのなら、サランと君を、別の世界へ連れて行ってあげよう。そうすれば、ここでは無い世界の中で、ずっと一緒に二人きりで居られると思わないか?」
ギルバートは何を言っているのだろう。こいつは。と思っている顔をしている。
「何を言っているのだろう?と思っているね?」
図星を言われて少したじろぐギルバート。
「そ、そんな事が可能なのですか?!本当に…」
「あぁギルバート君、キミが望むなら、だけどね…」
「望むなら、と言われても…。」
「判断は君に任せるが…。君が持つ、彼女への愛はそれ程の物だと言う事かな?」
それを聞いてギルバートは立ち上がり叫ぶ。
「そんな事はない!僕はアイツよりもサランちゃんの事を愛している!」
ズルワーンは、それを聞いて口角を上げる。
「まぁ、信じる信じ無いはキミ次第だが…やるかい?」
ギルバートは黙ってズルワーンの目を見つめて、ただ頷く。
「ここには大きな人型の兵器がある。君はアレの操作は得意かい?」
「いえ、あまり…」
「では、少し練習をしなさい、そうだな。2週間ほどあれば少しは変わるだろう」
「練習…ですか?」
「ああ、そうだよ。愛を勝ち取る為に多少の犠牲と努力は必ず必要になる。まぁ、全てを捨てろ。と、までは言わないが…」
「いえ、僕は全てを捨ててでも、僕の愛を届けます」
「…そうか…。分かったよ。ああ、1つ言い忘れていた。一度、世界を越えてしまうと、元の世界へ戻ることが出来ない。世界とは、いつも一方的な奴だからね。それでも…」
その返答を待たずにギルバートは言う。
「…やります」
ナスラは自分が何を聞いているのか、理解に時間がかかる。
「少し外で話そう。先に出ている。そうだな、倉庫で会おう」
そう言うとズルワーンは立ち上がり、ドアへと向かい
「それでは頼みましたよ、ギルバート」
そう言って、ズルワーンは部屋の外へ出る。
ナスラは、その足音で我に返る。
慌てて通路奥に隠れて、ズルワーンをやり過ごし、ギルバートが部屋から出て来たので、何も聞いていないフリをして話しかける。
しかし。
ギルバートは少し話すと、ズルワーンと同じ方向へと行ってしまった。
ナスラはバレないように、ギルバートの後を追った。
先程の男とギルバートが、管理部2課の機兵倉庫で何かを話している。
距離が遠くて聞き取れない。
だがギルバートにとって良い話では無いとナスラは直感していた。
そしてギルバートは、2課専用の機兵に乗り込み、そのまま男とプラント8から出て行ってしまった。
ナスラは何も出来ないまま、その場に座り込んでしまう。
それから2週間、ギルバートは姿を見せない。機兵が無いことを誰も何も言わない。それよりもギルバートが居ない事を誰も不思議に思っていない。
食堂でいつも一緒に居る2人も気にはしているが、特に何も考えていなさそうだった。
ただナスラはこの2週間、何もしていなかった訳ではない。
ギルバートと、あの男の話を聞き、機兵を持ち出し、この世界から居なくなる。
それが本当なのか、嘘で騙されているだけなのかは分からない。
けれど、どちらの話だとしてもギルバートの為にはならないという事だけは分かる。
それを考えると、ナスラは何もしないでは居られ無かった。
その日はギルバートの自宅を訪ね、次の日は聞き込みをし、数日間、事を荒立てないよう出来うる限りの事をした。
そして万が一に備え、機兵の操作も得意では無いが練習を繰り返す。ギルバートを想いながら。
そして、事件は起こった。
燃えるプラント8、交戦する謎の機体と、リュウロー、サランの2人。
ナスラは見ていた。
そして謎の機体の動き、回避癖、行動パターンを見ていて気づいたのだ。
ギルバートに間違いがないと。
ナスラは慌てて倉庫へと走った。
そして管理部2課専用機兵へと乗り込み、この2週間の成果を出し切る時だと思い前進する。
しかし慌てているからか、起動に少し手間取る。
工場へと着いた時には、燃え盛る炎しか目の前には無かった。
プラント8の天井には大きな穴が空いている。
どこかへ行ったのかと思い、サランの機体をレーダーで検索すると、反応があるのを確認する。
ナスラは慌てて、非常用バックパックのレバーを引き、ジェットで後を追う。
飛行中、山の中に何体かの機兵を確認する。方向をそちらへ定め着地しようとした時、大きな爆発が起き、ギルバート機をドラゴンの様なものが連れ去ろうとしている。
ナスラは、あの日聞いた会話を思い出す。
そして、堪らずに叫んでしまった。
(ギルバートを…私の、ギルバートを…)
「どこへ連れて行こうと言うのです!!」
と。
― その数分前 ―
「工場内での、ふしだらな行為は禁止されているはずだぞ!君たち!」
寄り添っていたリュウローとサランは、戦闘体勢へと移行する。
が、2人とも何か引っかかる事があった。
(…工場内?)
(なんかどっかで聞いた事ある声ぢゃね?)
そう思うとサランは身震いした。
「リュウロー!ギルバートっしょ?アレ!」
何故か、身震いした事でギルバートを思い出したサランは慌ててリュウローへと
報告する。
「げ!マジかよ。でも確かにギルバートの声だったな…」
連絡である。
「どうしよっか?」
相談。
ホウレンソウである。
「君たち!不純だぞ!」
ギルバート機は外部スピーカーの音量マックスで、こちらへと注意してくる。
「うるせえ!ギルバート!何やってくれてんだ!工場が滅茶苦茶じゃねぇか!明日から働く場所がねぇだろ!」
リュウローは怒っていた。
まさか、あんな事をした奴が、身近な人間だとは思って居なかったからだ。
職と食を共にし、少し変で苦手だと思ってはいたが、リュウローは一緒に働く仲間だと思っていた。
そしてギルバート部長補佐として、しっかりとした働きぶりに一目置いていたのだ。
「僕には関係ない!ただ愛の為に生きると誓ったのだから!」
サランが通信でリュウローに操作を伝える。
今度は間違わない様に、しっかりと聞くリュウロー。
「サラン君は下がっていたまえ!これは僕とリュウロー君との闘いだ!」
リュウローは、別人の如く機兵を操作する。
ハッチが開いたままなので、少しのミスが命取りだ。
だからこそ操作が、しっかりとしたものになる。
「キミとサラン君は、お似合いのカップルではなぁぁぁぁぁいっ!!」
ギルバート機は、執拗にリュウロー機のコックピットを狙って来ている。
「あっぶねぇなぁ!このクソギルバートォ!!」
それをリュウローは、機体移動と、手や足を使って受け流している。
「この事は、しっかりと上に報告させてもらうぞ!リュウロー君!」
下からのアッパーが来るのを見切ったリュウローは、すかさず上体を後ろに逸らし、武器の無い機兵に唯一搭載されている必殺技。スクリューナックルを繰り出す体勢になる。
アッパーを空振りしたギルバートの腹部は、ガラ空き。
そこへ頭に血が上っているリュウローは、遠慮せずに必殺技を叩き込む。
「うおおおおおおっ!スクリュゥゥゥッナックルッ!!!」
その回転する右手の拳は、ギルバート機の腹部へとブチ当たり、その威力で機体は空中へと浮く。そこへ肘に装着されているエアピストンが作動する。
バシュンッ!という音と共に、宙に浮いている状態だったギルバート機は、そのピストンパンチによって後方へと、吹き飛ばされて行く。
飛ばされる先には、何か機兵のような物がある。
「しまった!誰かいるのか?!てかギルバートの機体も大丈夫かな?!」
一段落し、我に返るリュウロー。
「ま、機体を貫いてなかった感じだしぃ~ギルバートだし、大丈夫っしょ!マヂイケてたって感じ!」
そう言って2人は、ギルバートが吹き飛ばされた方向へと進む事にした。
そして、途中、空から爆弾が降って来て、爆風が無くなると、大きな竜がギルバートを連れさろうとしている。
けれど、何処からかナスラが飛んで来て…
色々あって…
「私の事!好きでは無いですか?!私はギルバート部長補佐が!大好きです!!!」
と。
こんな事になっている。。。
「え?」
一同はそう思った。
(うっそでしょ?!またこんなタイミングの奴ですくぁっ?!)
ヒックがそう思うのも無理はない。
が、しかし、ヒックが思うには理由があった。
今、この状況で、この面子で【アレ 】をやられたら、困るのである。
先程のリュウローの時とは、状況が違うのだ。ヒックは何か視線を感じて、ズルワーンの方を見た。
するとズルワーンが、こちらを見ている。
(しまった!最初からコレを狙ってたのか!アイツ!)
ヒックの胸の辺りが熱くなり、淡くて薄い、恋色の光が輝く。
それはズルワーン、フォル、魔竜騎ズルワーンにも起こっている。
ギルバートは機兵が、このままでは爆発すると思いコックピットから出て森へと走る。
それを見たナスラもコックピットから出て追いかける。
そしてリュウローとサランも、機兵から降りて追いかける。
「ギルバート部長補佐ぁ!先程の返事をお聞かせ下さぁい!」
その目は少し潤んでいる。
「な、何を言っているんだ!ナスラ君!こんな時に!」
ギルバートはあまり体力が無いのか、早くも少し息が上がるっている。
リュウローとサランの方が2人よりも走るのは早い。追いつきそうだ。
遂にギルバートは、疲れて走るのをやめてしまった。
下を向き、息を切らす、ギルバートとナスラ。
そして息を整え、お互い顔をあげる。
見つめ合う2人。
ナスラの目にはやはり涙が溢れていた。
だが、汗が目に入っただけかも知れない。
「わ、私は!全てを知っています!
ギルバート部長補佐の想いを!
木を削ってしまう程の、強い愛をお持ちであると!分かります!
叫びたくなる程に胸が熱くなる事も!
ダメだと分かっていても!
これほどの事をしてでも!
自分の気持ちを受け入れてもらいたいのだと!分かっています!
そしてギルバート部長補佐の信念が!
簡単には曲がらない事も知っています!ですが!!
別の世界へ行くなどと決して思わないで下さい!帰れないんですよ?!
そんなの死ぬ事と同じではないですか!?
残された私はどうすればいいのですか教えて下さい!?!」
それを聞く、ギルバートの顔が赤くなったり、引きつったり、青くなったり忙しい。そして少し何かを考えている様子だ。
ナスラの瞳には溢れんばかりの涙が溜まる。
「そしてっ!私の…事を、、、す、すきっ、好きじゃ、、、ないのも、知っています…、ですが…好きなんです…
大好きなんです!ギルバートの事を…!」
ナスラは眼鏡を外し、顔を覆い、膝から崩れ落ちる。
ギルバートは、ただ黙ってナスラを見つめるだけだった。
「何とかしなさいよ!」
声が聞こえた瞬間、頬にビリビリとした痛みが走り、目の前が一瞬暗く、そして立ちくらみがしてギルバートは倒れてしまった。
痛む頬に手を当てて、目を開くと、そこにはサランが立っていた。
「…サランちゃん…」
サランは怒っていた。
「言う言葉が、あるっしょ?!ナスラさんの気持ち分かんないとか、ホワイトキック無しよりの無し無し無し!」
そう言われて、ギルバートは…ナスラの方を見る。
そして立ち上がり、ナスラの方へと歩み寄り、声をかける。
「ナスラ君、立てるかい?」
そう言って、ナスラへと手を差し伸べる。
ナスラは涙を拭いて、眼鏡を掛け直し、笑みを浮かべて手を取る。
「さっきの返事、言わせてもらってもいいのかな?」
ギルバートは少しバツの悪そうな顔をして、ナスラへ問いかける。その頬は手の形に赤くなっている。
「…はいっ!」
と、それを快諾するナスラ。
ナスラを見つめるギルバートの口が開いた。
「ナスラ君、僕には、他に、好きな人が居るんだ。だから今、君のその気持ちに応える事は出来そうに無い。すまない。そして別の世界へ行くなどと、夢の様な話に翻弄された自分が情けないと、思っている。この責任は私が取る。罪を償うよ。ナスラ君、ありがとう」
ナスラは笑顔で「まだこれからですよ!」と答え。
ギルバートの肩を持ち、ギルバートの身体を180度、回転させる。
「さぁ!ここからが本番です!」
そう言って、ナスラはギルバートの背を押した。
少しよろめきながら、前へと押し出されたギルバート。
肩にチカラが入り、顔は強ばる。
そして、サランの前へと進み。
「サ、サラン君!いや、サランちゃん!お話がありますっ!」
サランは仁王立ちでギルバートを睨んでいる。
「ぼ、僕は!サランちゃんが大好きです!僕と結婚してください!!お願いしまぁすっ!!」
と声を引き攣らせて、叫びながら片手を出して、お辞儀するギルバート。
「ごめんなさい!!」
と少し食い気味に断りを入れるサランも、キッチリとお辞儀している。
「でも、、、少し見直したって感じ?」
と、サランはウインクしながら言う。
ギルバートは涙目になりながら、その場に崩れ落ちる。そこへナスラが近寄り、しゃがみ、笑顔で肩に手を当てる。
そしてヒックは木陰から思う。
(いきなり結婚て…重っ…)
しかし、目は少し潤んでいる。
そして、胸の光が次第に大きく強く光る。
「しまった!見とれて忘れてたっ!ヤバい!!」
そう叫ぶとリュウロー達がいる方へ、全速で走る。
見ると、ズルワーンとフォル。魔竜騎ズルワーンも強い光を放っている。
「やっぱり、お前らの中に居る!バラバラに散れ!俺らみたいになるぞ!」
そう言ったヒックはその場で急に苦しみだし、胸の光が全身を包む。
フォルとズルワーンも全身が、恋色で包まれている。
「…クッ…燃える」
胸を抑えてかがみ込むヒック
「…ウウッ…胸が」
フォルも座り込み、胸を抑える。
「…ウグッ…熱いな…」
ズルワーンさえも、片膝を着いて胸を抑える。
「…う、うぁ」
魔竜騎ズルワーンからも声が聞こえる。
森に、淡い恋色の光が四つ。
そして…青い光が2つ増える。
突如、現れたその青い光は、リュウローとナスラを包み、2人の意識は遠のく。
サランとギルバートは驚き、2人の名前を叫ぶ。
「…ふ、2人…だと…ズルワーン…お前…」
ヒックは、苦しみながらズルワーンの方を睨む。
「ああ…なんとも言えないな…この気持ちは…」
ズルワーンは苦しいにも関わらず、笑いながら自身の胸を掴む。
「計画では、その無関係の2人を別世界へと送り、残りの2人でC2Rを起こすつもりだった。悲痛な叫びに、抗う事が出来なければ発生すると思っていたのだ…が…。フハハハハッ!材料は十分だったようだ!さぁ!起こせ!見せてくれ!お前達の想いを!!今を!未来を!魂にっ!!」
ズルワーンは苦しみも忘れ、立ち上がり、高笑いをしている。
その時ズルワーン、フォル、ヒック、魔竜騎ズルワーンを包む4人の光が、空中の一点へと集束し1つになる。
その光は空中で強い光を放ち。
手の平に乗る程の、ハート型の宝石となり、それはリュウローとサランの間へと落ちて来て、2つに割れた。
そしてリュウローはシルバー、サランは紫色の魔竜騎へと
変身をした。





