ロッシー
魔竜騎ヒックは、軍服フォルが操縦士となった途端に、魔竜騎ズルワーンへと攻撃を仕掛けた。
その戦術は、フォルの大好きな、ロランの体術を思い出させる。
「剣はないの?武器とか?魔法は私が使える魔法しか使えないの?!もっと凄いの何かないの?!直接攻撃はこれが限界よ!」
軍服フォルは、ズルワーンへと攻撃を繰り出しながら、ヒックに話す。が。
〈今は出せないが何とかしてくれ!〉
と答えるだけだった。
「圧されているぞ、フォル」
「分かっています、でも…っ!」
青白髪の男に言われて、困惑の表情となる敵フォル。
「アレの使用許可を…」
ヒックから繰り出される体術を、避けて大きなダメージは喰らわないようにしている赤服フォルだが、そろそろ限界という風で、何か奥の手を出そうとしている。
「私が出てもいいのだが…相手がフォルだからな…分かった。使用許可を受理する」
「ありがとうございます。ズルワーン様」
赤服フォルは、青白髪の男にそう告げると、ヒックの隙をついて後方へ吹っ飛ばす。そこから距離をとり、詠唱を始める。
「我が、フォルヒックトゥーナの名の元に!魔竜騎ズルワーンの名を昇格せん!時空の覇者へと名を馳す!赤き雷光、蒼き咆哮!時空召喚!出てきなさいっ!我が愛しの魔杖スカーレットMark.06!」
その叫びと共に、空には大きな黒い渦が出来る。
その中心より現れしは、薔薇の様な形と色をした巨大な杖であった。
それは魔竜騎ズルワーンの前へ、空から降りて来る。
魔杖スカーレットMark.6は、形状を変え分裂し、ズルワーンの頭、肩、胸部、足へと装備される。
それを確認した赤服フォルは、静かに唱える。
「いでよ、ドラグランサーロンド… 」
すると魔竜騎ズルワーンの右手に、赤い稲妻で出来た槍が現れる。その赤い巨大な稲妻は、ズルワーンの肩まで伸びて来ている。
「ちょ、、、先越されたわよ!なにあのヤバそうなやつ!!」
軍服フォルも、その強力な魔力兵器にたじろいでいた。
〈流石にあれはヤバい、なんとか避けてくれ!〉
「なんとか避けてくれじゃないわよ!」
流石に、ここまで優勢だった軍服フォルと魔竜騎ヒックも、どんな攻撃が来るのか分からないので困惑している。
魔竜騎ズルワーンが、さらに後方へ下がると、投擲の構えとなり、走って、その巨大な赤い稲妻の槍を投げる。
それをただ見ていた、軍服フォルと魔竜騎ヒックだった。
いや見ていたというよりも、槍の速さが早すぎて、投げたと同時に消えたのだ。
次の瞬間、軍服フォルと魔竜騎ヒックは、身体に凄まじい電撃を受けた感覚が走り、辺りは赤い稲妻が、薔薇の蕾となり、それは開花して薔薇となった。
その衝撃でヒックもかなりのダメージを受け、声が出せないで居たが、魔竜騎が受けたダメージと、直接広範囲の雷撃に巻き込まれた軍服フォルは、気を失い森の中へと落ちて行ってしまった。
すると魔竜騎ヒックのボディから赤いラインは消え、全身が白に戻ってしまう。操縦士が居なくなってしまったヒックは、勿論動けなくなり、魔竜騎ヒックも意識を失ってしまった。
それを離れた大木の下で、ただ何も感じずに、眺めていただけのロッシーの目の中に、光は無かった。
(私は、何を見ているのだろう。夢かしら?あの子が戦う様になってからヒックの声も聞こえなくなったし、痛みも感じなくなってしまったわ。服も元々の服に戻ったし。こんな所に居るのも場違いな気さえする…)
ロッシーは、あの黒い本の内容を思い出していた。
(そうあれは時空魔竜騎、そして私が受理したのは決戦決闘、あの子が出したのは時空召喚、そして今、ヒックとフォルは負けた。決戦決闘に負けた者は、その魂を相手に差し出す…)
動かない魔竜騎ヒックに、魔竜騎ズルワーンが近づく。
軍服フォルは、森へ落ちたまま反応は無い。
(私は、昔から本が好きだった。物語が好きだった。そうじゃ無い本も好きだった。本の世界の中で想像して、そこで色々な冒険がしたかった。ドキドキが待っていた。心を揺れ動かされた。そして今、それは現実となり、私はそれを受け入れないでいる。
あんなに望んでいた本の世界を、私は今、目の前で見ている、感じている、ううん。私が主人公だと思っても良い。あんなに憧れたものが現実となったのに、私は恐れて虚偽だと思い、世界を否定している。説明が無いと怒り、無理矢理に巻き込まれたと思っている。
嫌ならもっと断るべきだった、嫌ならもっと逃げるべき時があったと思う。私はわがままなのかしら?)
魔竜騎ヒックの身体が、元の人間の身体へと戻ってしまった。そしてヒックもまた、意識を失ったままだ。
(ううん。最初は楽しんでいたわ。怖かったけれど、不思議な体験を。不思議な人との出会いを。不思議な本との出会いを。でも加速していく物語に、私は置き去りにされ、着いて行けなくなってしまった。
自分の物語なのに、自分の物語だけ置き去りにされてしまったような怖さを、感じずにはいられなかった。私が止まっても物語は進んで行くの。それは私が止まっても。時間は止まらないからだわ…。
たとえ私が主人公だとしても。何もしなくても。物語は刻刻と進む。この自分で乗った物語を、また動かすのも自分。望んだ世界で生きれない私は、どの世界で今後生きれると言うの?
私の世界、私の物語。他の誰のモノでもない。
私の覚悟が足りないまま、物語が進んで、その物語が、いつか迎えに来るのを待ってるだけの私。例え、誰かに助けられる物語だとしても、ここに来る途中、その物語さえも壊れてしまったら?私はずっと止まったまま、ここに1人で居るの?居れるの?
何が正しいのかなんて分からない。だけれど…。今を。
この今を生きている物語から、降りて歩くのも…走るのも、私。
私っ…私は…っ!…!!)
ズルワーンが、人に戻ったヒックの前へ来ている。
赤服フォルが、ズルワーンの肩からヒックの前へと降りて来た。
泣き顔のままロッシーは、立ち上がった。
そしてヒックへ向かって、全速力で走り出す。
息をする事も忘れる程に、走る事だけに集中する。
「…ッハ!」
と肺が、悲鳴をあげて酸素を取り込む、息を荒くし、足が動く速さは、今までの自分が知らなかった速さだ。だから、ただ前へと走った。ズルワーン達に気づかれない事を祈って、ただ走る。
あと
100メートル、、、
赤服フォルが、ヒックの胸に手を当てている。
ヒックと赤服フォルの胸に、ハート型の光りが浮かび上がる。
80メートル
青白髪の男が、走って来るロッシーに気づいた。
「おや?あの少女は、まだ居たのか…」
70、65、
赤服フォルも 走って来るロッシーを、肉眼で確認する。
50、46、43、、、
ヒックの身体が、宙に浮く。
ヒックの胸に浮かぶハート型の光の中に、フォルが手を入れる。
30、28、26、22、、
(まにあわっないっ!!)
そう思うロッシーの顔は、全く諦めていなかった。
赤服フォルが、ヒックの胸から、手を一気に引き抜こうとした時。
ヒックの首に掛かっている青いペンダントが光り、小さな魔法陣が現れる。その魔法陣から急に、爪の長い手が出て来て、赤服フォルの手を凄いチカラで握る。
「いっ!痛いっ!!」
驚いた赤服フォルは、ヒックの胸の中で握っていた何かを手放し、ハート型に光るヒックの胸部から手を引き抜いた。
「何だと?!」
青白髪の男も、驚きを隠せないで居る。
3!
その事に気を取られている隙に、涙を拭うロッシーが、走って来ている。
2!
ヒックの目前まで迫るロッシー。
(しまった…っ!)
と思った赤服フォルと青白髪の男は、ロッシーを止めようとする。
1!
ロッシーは、宙に浮いたままのヒックへ向かい、思い切り大地を蹴って、飛んだ。
そしてヒックの小指に、自分の小指をかけて、こう叫ぶ。
「ユニリンク!!!」
と。





