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97 ボ服店

「ここだ」


 生徒会長が寂れた婦人服店の前で止まった。

 ここは雑居ビルとビルの間の狭い路地裏。

 そこは薄暗くジメジメしていて陰険な俺にピッタリの場所だった。


「なにをボサッとしておる。入るぞ」


 ボサッとしているんじゃない。ボチっとしているんだ。

 ええい、そんなことはどうでもいい。

 それより俺はメンズだぞ。服なんて滅多に買わないから分かんないけど。

 俺みたいなボチッとした奴には昭和の派手な紫と黄色のおばちゃん服がお似合いなのだろう。


「ここって婦人服?」

「安心しろ。紳士服も扱っておる」


 生徒会長が笑った。

 ああ、滅茶苦茶可愛い。こっちまでつられて頬が緩むのを感じる。


「こんにちはー黒岩です」


 生徒会長が入っていた。

 ああ、メンコイ可愛い。礼儀正しい生徒会長可愛い。

 いつものクールで尊大で姫のような、婆ちゃん言葉の尊大さとは違って新鮮。

 この普通な感じが初々しい。衝撃無効の俺には追い打ち大ダメージ。

 俺は架空の血を吐いた。


「何をしておるゆくぞ」

「……はあ」


 俺は生徒会長に催促され、寂れた婦人服店に足を踏み入れた。

 その途端、目眩に襲われた。

 この感覚は一つしかない。


「ダンジョン?」

「当たり前だろう。霊トレーサー御用達の有名店だぞ? ダンジョンになければどこにあるのだ?」


 さあ? それより霊トレーサーの服屋?

 そのダンジョンは数えきれないほどのロール状の布が詰まれ、服がかかったハンガー何処までも続いていた。

 ミシンや見慣れない機械が壁にめり込み、天井には蜘蛛の巣のように糸が網目状に走っていた。

 間違いなくダンジョンだった。


「いらっしゃい。泉ちゃん。今日も可愛いわね」


 どこからともかく、小綺麗な女性が現れた。

 見た目は普通だが、ここにいるということはこの人も霊トレーサーだろうか?


「オーナー。世辞はいいのだ。それより頼んでいた職人は見つかったか?」


 照れる生徒会長カワエエ。


「ええ、その子がトーリ君ね? 初めまして私は菅井マヤ。この店のオーナーよ。まあ見ての通りここはお洋服屋。主に霊トレーサーの戦闘服を扱っているの」

「はあ。トーリです」


 俺は挨拶を返した。戦闘服? なんだろう?

 俺が首を傾げながら店に入ろうとすると――。


「あ、そこトラップがあるから踏まないでね」

「ひっ……」


 あっぶね。ボットレーダーが使えない俺はトラップを踏みそうになり慌てて足を上げた。

 なんで店の入り口にトラップなんてあるんだよ。


「たまーに客以外も入って来るからね」


 オーナーが俺の心を読んだように答えた。

 客以外ってなんだろう。ヤクザか。テンドー君か?


「トーリ君もこの道を覚えておいてね。迷うと一生出られないから」

「……はあ」


 俺はオーナーの言葉にビクビクしながら婦人服ダンジョン店の中を進む。

 いくつかの角を曲がると大きな部屋に出た。広さはボス部屋ぐらいだろうか。

 真新しい洋服が掛けられたハンガーラックが並び、中央にソファとテーブルがあった。


「座って待ってて、担当呼んでくるから」


 オーナーが奥に消えた。


「……」

「……」


 俺と生徒会長はソファに並んで座った。

 こんな美女と一つのソファに座った衝撃の事実が俺のボッチハートをボチボチさせる。

 ああ、生徒会長のヒップの感触がソファのたわみとなって俺に伝わる。

 加護を失った今、俺の衝撃無効が無効化されている。

 この美の衝撃に耐えられるの? 俺のガラスのボッチキンハート。


「……」

「……」


 耐えられない。逃げ出したい。だが逃げ出したくない。

 音一つしない静寂なダンジョンに沈黙が続く。

 聞こえるのは生徒会長の微かな息遣い。

 やっべ。マジで緊張してきた。

 なんか喋ったほうがいいのだろうか?

 いやいや無理。そういうのは先輩から歩み寄れよ。


「なあトーリよ」

「はひぃ?」


 俺の口から変な声が出た。

 決してエロいことを考えていたわけじゃないよ。


「ダンジョンを恨んでいるのであろう」

「え?」


 何を言い出すんだこのプリテーガールは?


「正直に言ってくれて構わん」


 生徒会長が大きな目で俺を見る。

 もしダンジョンを嫌っていたとしてもダンジョン部の部長の目の前で言うはずないだろう。


「いや、別に」


 俺はいつものように無難に答えた。


「言わずとも分かっておる」

「え?」

「何も知らないお前を無理矢理ダンジョンに飛ばして、ダンジョン部に勧誘したこと。天道のことを許してやれと言ったこと。そして神殺しの腕輪のこと、新人戦出場を強制したこと、毎日辛い朝練をさせたこと、数え上げたらきりがない」


 生徒会長はテーブルを見つめたままだ。


「……」


 ダンジョンに飛ばされたことで、ダンジョン部に入り、テンドー君に逆恨みされ、暴走したテンドー君が差し向けた木曽三川警護団のオッサン達を皆殺しにした。挙げ句の果てにはテンドー君にクロミズの大半を奪われた。


 まだ一ヶ月も経っていないのになんてイベント尽くしなんだ。

 暗くジメジメした穏便で何もなかった俺の人生が激変した。

 そう考えると今までの人生って何だったんだろう。

 何もなかった。

 だがダンジョン部に入って変わった。

 生徒会長は俺の人生にLED照明を当ててくれた文字通りの光の女神だろう。

 ダンジョンを嫌う理由も恨む理由もない。

 独りボッチだった俺には今では仲間がいる。

 ボットモやクラスメイト、ミルフィー、クロガウもアバロンも。

 まあ、チャラ男も含めてあげてもいいかな。

 それも全てダンジョンと生徒会長のおかげだ。

 あのダンジョン部の勧誘張り紙がなかったら俺はここにいなかった。

 だから感謝それこそ嫌う理由は一切ない。

 だが残念なことに俺にはそれを伝えるだけの話力がない。


「無理をしているのならそう言ってくれ。ダンジョン部を辞めてもいいんだぞ。私のことを嫌っておるのは知っておるからな」


 生徒会長が泣きそうな顔をした。

 え? 何言ってんだこのスーパー美少女は?

 大好きですよ。今すぐその細く震える肩を抱きしめてやりたい。

 その豊満な胸に飛び込みたい。むしろ結婚してください。

 こんな可憐で純情でドジっ娘噛み噛みの完璧巨乳を嫌いになるはずがないだろう。


「え? 嫌いじゃないけど?」

「嘘を言うでない。私とはあまり目も合わせぬし、メールなんて一言しか返信しないし、スマホに加護もくれないしな」


 生徒会長が泣きそうな声でそう言った。

 スマホに加護を与えなかったことを滅茶苦茶根に持ってる。

 バカバカ俺のバカボッチン。

 天然記念美少女を泣かせてどうする。

 口数が少ないのはいつものことだ。

 それに光の女神である生徒会長と目なんて合わせられるはずがない。

 そもそも俺は誰とも目を合わせない。誰とも口数が少ない。

 だから生徒会長が悪い訳じゃない俺が悪いんだ。

 まあ、その背中の刀が怖かったというのもある。

 解かなければこの誤解を解かなければ一生、来世でも後悔する。


「……会長」

「ん?」

「ダンジョン部に誘ってくれてありがとうございました。最強美少女の生徒会長に感謝すれこそ恨む理由なんてどこにもありません。いつもは偉そうなのに、たまに噛むのがまた親近感湧きますし、これからも可愛いその笑顔で俺の心に潤いを与えてください。よろしくお願いしますと、心の中では簡単に言えるのに俺の口がポンコツなだけで声に出せない俺を許してくださいすいません」


 と俺は心の中で力説した。


「はえ? 最強美少女? 可愛いその笑顔? はあ?」


 生徒会長が怪訝な目で俺を睨んだ。


「え? 副会長と同じまさか読心能力」

「いや、今、思いっきり口に出ておったぞ?」


 生徒会長が顔を真っ赤にしてそう言った。


「ええええええ!!」


 口に出ていた?


「マジで?」

「ああ」

「いやあああ違うの」

「ちち違うのか? やはり嫌っておるのか」

「違う違うそうじゃない」

「どどど、どっちなのだ?」

「いや、違うけどそうじゃない」

「まま、まあトーリは普段から何考えているのか分からないのだから少しは声に出してくれぬと困る」

「はい。すいません」

「ミミ、ミルフィーと話すように私とも普通に話をしてくれるとうれしい」

「はい。すいません」

「ここ、この話はこれでおしまい」


 生徒会長がぷいっと顔を逸らした。


「はい。すいません」


 アッブねえ。エロいことを考えてなくて良かった。

 巨乳に今すぐ顔を埋めたいとかその太股の静脈を至近距離で眺めてみたいとか思わなくて良かった。

 あっぶねえ。俺の人生が終わるところだった。

 今が生死の分かれ道だった。


「ま、まあ、いきなり感謝されるとは予想外で驚いたぞ」

「え、は、はあ」

「お、おう、ではダンジョンは嫌ではないか?」


 生徒会長がおどおどと聞き返してくる。


「ええ」

「……そうか」

「ええ」

「もし戦うのが嫌になったら生産職につくという選択肢もあるぞ」


 生徒会長が周りを見回した。


「いえ、戦います」

「加護が使えなくともか?」

「はい」

「よく言ったそれでこそ私の後輩だ。弟子だ。クロミズサマの選んだ男じゃ」


 生徒会長が俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

 美少女との第二種接近遭遇。

 ついについに、その衝撃が襲ってきた。

 今この雰囲気なら抱きついても許されるだろう。

 行け。トーリ。そのまま突っ込め。さっきの甘い空気でフラグは天高くそびえ立っているはずだ。

 今ならラッキースケベの神様も容認してくれるはずだ。

 自作自演ラッキースケベイベントを開始しろ。


「お待たせ。彼がトーリ君の担当の永山太一よ」

「「はあ?」」


 俺と変な男は同時に変な声をあげた。


「こいつが俺の担当だとお? うわあマジか。滅茶苦茶弱そうじゃねーか。オーナー頼むわー」


 太一と呼ばれた青年は俺より少し歳上か同じぐらいの年齢で太い眉に大きな口に太い顎で俺を睨んでいた。

 脳味噌まで筋トレしてそうな体育会系ゴリマッチョだった。

 なんなんのこいつ? 腹立つわー。初対面で弱そうとは腹立つわー。


「……」


 俺は生徒会長とのキャッハウフフ空間を邪魔され気分を害していた。

 だから八つ当たりも含めてゴリマッチョを睨んだ。


「おいおい。何か言えよ。少しは反論してみろよ」


 太一がニヤニヤした顔でそう挑発する。


「それでも霊トレーサーか? 男か?」


 ボチつけ。挑発に乗るな。


「べつに」


 俺は肩をすくめた。


「こんな弱ーのじゃなくて勇者の服を作りたかったぜ。オーナー」

「太一。トーリ君は巫女様の弟子だ。失礼ですよ」

「ああ、巫女様こんちわ。こいつが巫女様の弟子だってマジっすか? 盗撮かなんかして脅されてんじゃねえっすか? 巫女様。悪いことは言わねえ。こいつはメンタル霊も標準以下のゴミだ。今すぐ捨てたほうがいい」

「……」


 確かに今の俺のメンタル霊容量はゴミ以下だ。

 こいつ見ただけでメンタル霊容量が分かるのか?


『ガマンすることないボッチ。こんな頭悪そうな奴は拳で教え込むしかないボッチ』


 戦闘種属のボッチ君が俺をあおる。

 ダメダメ。今日は生徒会長とおデートなのよ。

 無闇矢鱈に戦ったりなんてしない。

 それに新人戦の前に怪我でもしたらどうすんのよ。

 そもそも加護がない俺はボッチのゴミ、ボミだ。


「太一。お前の目は節穴かい? トーリ君の腕をよく見なさい」

「なっ? これは神殺しの腕輪?」


 太一が大袈裟に後退った。


「太一とやら、トーリの加護は私が封印した。気に入らないならば帰ってもらっても構わない」


 生徒会長が不満そうに手を払った。


「おいおい。どんなことしたら自分の弟子に神殺しの腕輪なんて付けるんだよ。新人戦の前だぞ? あんた正気か?」

「正気だ」


 生徒会長が太一を睨んだ。


「てめえも何か言えや」


 太一が生徒会長から目を逸らして俺を睨んだ。


「はっ?」


 何俺に八つ当たりしてんだよ。


「俺はメンタルデザイナーの太一だ」

「はあ?」


 なんだそれ?


「俺の服を着た霊トレーサーが有名になれば俺の名も上がる……だがお前は俺の服を着る価値がねえー」


 太一が俺を指さした。


「はあ?」

「てめーさっきから無視しやがって、話す必要性もないってか? なめられたものだぜ。いいだろう俺と戦え。てめーが俺より強ければ認めよう」

「はあ?」


 俺は生徒会長に助けてという目で見た。

 生徒会長がうなずいた。

 え? どういう意味?


「あんたまたやるの?」


 オーナーが大きな溜息をついた。


「太一とやらトーリの加護は封印されておるぞ? お主、私の話を聞いておったか?」


 生徒会長が太一を睨んだ。


「真の霊トレーサーは加護などなくとも強いはずだ。さあ、剣を抜けこの腰抜けが」

「はあ?」

「ああ、言い忘れていたが俺はA級霊トレーサーだ」


 何だって? この脳筋野郎がA級霊トレーサーだって?


「A級霊トレーサーなのにデザイナーを?」


 生徒会長が俺の代わりに質問してくれた。


「俺は戦うよりも物作りのほうが好きなんだよ」

「はあ」


 じゃあ、戦うなよ。


「てめーもっと驚けよ。てめーは何級だよ?」

「トーリは聞いて驚くでないぞ、なんと……」

「D級」


 俺は生徒会長のセリフを遮りながらライセンスを取り出した。


「なっ、トーリ」


 生徒会長が慌てふためいて可愛い。


「ブアッハッハッハッ。マジか? D級風情が俺の太一ブランドの服を着たいってか? 笑わせるな」


 自分で太一ブランドって言ってるけど、どんだけ自意識過剰なんだよ。

 根拠のない自信を持つリア充かよ。


「俺を倒したら専属になってやる。だがこれまで俺を倒した新人はいねえ」


 太一が抜刀した。


お読みいただきありがとうございました。

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