98 デザイナーの太一
太一が持つイマジナリーウェポンは細身の剣。レイピアだ。
こいつ馬鹿か? いきなり斬りかかってきて、ここがダンジョンじゃなかったら逮捕だぞ?
加護がない俺には斬撃無効がない。斬られたら死ぬ。
『歯向かう者は皆殺しボッチよ』
ボッチ君が応戦を進言する。
いやだから戦う手段がない。
いや、あるじゃないか。
「!」
ガキンと金属音が響き渡った。
「なっ、俺の剣を受けた? しかも生意気に二刀流だと?」
太一がクロスした全絶滅剣と全殲滅剣の向こうで目を見開いた。
「……」
俺は勿論答えない。
その代わりに受け止めていたレイピアを斬り上げる。
そのまま身を低くして太一との間合いを詰め、逆袈裟。
遅い。あまりに遅くて避けられる可能性が高い。
「なっ、速え」
え? あれ? どういうこと?
太一の剣が俺の逆袈裟斬りを受け止めることが出来ずに宙を舞った。
「あらやだ。速いわ」
「そうだろうそうだろう」
オーナーと生徒会長が頷いた。
いや。加護がない今の俺は滅茶苦茶遅いんですけど?
俺はそう疑問に感じながらも太一のガラ空きの胴体に向けて全絶滅剣を突き刺そうとした。
だが、太一が笑った。
俺は他人の顔色を伺って生きてきた俺には分かる。
この笑い方は馬鹿にした顔。
俺は踏み込みをキャンセル。ステップで横移動。
俺の横を何かが通り過ぎた。
「なっ?」
なんとレイピアだった。
レイピアが俺の背後から襲いかかった? こいつ強い。
「フン。かわしたか? 巫女の弟子を名乗るだけはある。一回だけ誉めてやろう」
太一がレイピアを構え直す。
太一の手に戻った?
「ではこれならどうだ? 奥義。心底纏り縫い」
太一がレイピアを投げた。
さっきの戻ったレイピアの動きから、きっとこれも誘導追尾するのだろう。
だったら対処方は一つ。
カギコンと金属音がこだまする。
「なっ、貴様ああああ」
太一が余裕の表情を捨て叫んだ。
おいおい。さっきまでの自信満々な顔はどうした? オドオドした俺の顔みたいになってるぞ?
「意地が悪いの。トーリは」
生徒会長が笑った。
「あらー」
オーナーが口に手を当てた。
「……」
俺は絶滅剣と全殲滅剣をハサミのようにクロスさせ太一のレイピアを挟んでキャッチした。
こうすれば戻って俺を襲うこともない。
冴えわたるボッチ脳が導き出した最適解だ。
「かかか、返せよ」
太一が俺のように噛んだ。
そして指を振った。
俺が挟んでいたレイピアが引きずられる。
俺は細い目をかっぽじいて見る。
そこに見えたのは光のライン。いや、糸だ。
よく見るとレイピアの柄頭からも同じ糸が出ている。
見落とすほど細い極細の糸。これってもしかしてメンタル霊の糸?
なるほど。太一はデザイナーだけあって糸使いというわけか。
仕掛けが分かれば対処法は一つだけだ。
だが加護を失った今の俺にできるか?
いや、できるはずだ。最初から諦めるな。失敗を予測するな。成功を想像しろ。
毎朝俺は何をしていた? だから出来るはずだ。いややっぱ無理でしょ?
ええいウダウダ悩むのは寝る前だけにしろ。
ここはダンジョン。想像で構築された半物質の世界。
気合が半分を占める体育会系のマッチョ世界。
だったら気合を入れろ。ランクで負けてるならば、せめて気合で勝て。
それに生徒会長が見ているのだ。
クロミズの巫女に恥をかかせられない。
生徒会長の後輩なのだ。格好悪い所を見せられない。
「返せよ」
「ああ返すわ」
俺が力を緩めるとレイピアが太一の方に戻る。
今だ。
俺は足にメンタル霊を纏う。
いつもより薄く引き伸ばす。
メンタル霊がなければ金箔のように薄く伸ばせ。
今までの数十分の一、数百分の一。数千分の一の薄さまで引き延ばせ。
俺の足を覆ったメンタル霊に力を込めた、爆発させた。
視界が加速する。
瞬歩が成功した。だが以前よりも遅い。
だが今はこれでいい。
遅くても普通に走るよりは遥かに速い。
「なっ」
俺は全絶滅剣と全殲滅剣をハサミのように交差させてレイピアと太一を結ぶ糸を切った。
「え?」
糸が切られたレイピアが宙を舞う。
俺はそれを無言で追い越し、驚愕の表情をした太一の首を剣で挟んだ。
「はっ?」
太一が太い眉を上げたまま固まった。
「奥義瞬歩。見事じゃ」
生徒会長の満足そうな声が聞こえた。
「あらやだホントに強いこの子。D級が奥義を使うのなんて初めて見たわ」
オーナーが口に手を当てた。
「くっそ。負けだ。ちきしょう。それよりてめえなんで俺の首を跳ねない」
太一が俺を睨んだ。
「……」
俺は答えない。だって首を刎ねたらグロイじゃん。
「くっ。俺の負けだ」
太一が目を閉じた。
俺はイマジナリーウェポンを納めて生徒会長の顔色を伺う。
「うむ。朝練の成果が出ておるようだのう」
満足そうに頷く生徒会長。
「おいなんで仕掛けが分かった?」
太一がレイピアを拾いながらそう言った。
「え? 糸が見えたから」
「はっ? 見えただと? 普通は見えないのだが」
太一がレイピアに糸を巻きつけながらそう言った。
「え?」
俺は素っ頓狂な声を出した。
「いや。私も見えておるぞ?」
生徒会長が言った。
「え? そうなのか?」
太一が素っ頓狂な声を出した。
「まだまだ俺も修行が足らないな。取りあえず酷いことを言ってすまなかったな」
太一が手を出した。
まさか掌に毒が塗ってあるとか?
「……」
生徒会長を見るも笑って頷いた。
これが握手ってやつか? 俺やったことないぞ?
俺は見様見真似で太一の手を握り返した。
「改めて俺がお前の専属デザイナーの太一だ。何でも作ってやる。その代わりに駆け上がれ、ランクを、世界を」
太一が俺の肩をガシガシ叩いた。
「はあ?」
何言ってんの? 俺はそんなつもりはねえんだが? 目立ったら狙われるじゃないか。
「おいおい。湿気た面すんじゃねえ。神殺しの腕輪を付けたままで俺に勝ったんだ。自信を持て」
「はあ?」
「因みにトーリの加護は巫女様と同じクロミズザマか?」
太一が笑った。
「ええまあ」
加護というか一体化してたんだけど?
「そうだ。そしてそれだけではない。コンゴウサマにギュウキサマ。キリヒメサマの加護もある。他にもあるような気がするのだがな」
生徒会長が余計なことをペラペラ話し始めた。
キリヒメサマの口のように生徒会長の口も押えたいが間違いなく斬り返される。
それに今はその加護のほとんどが封印されているのだ。
瞬歩を使って生徒会長に近づくことさえできないだろう。
「おいおいマジかよ」
「あらすごい」
太一とオーナーが言葉を失った。
「……」
俺はダンマリで答えた。
「神殺しの腕輪がなかったら恐ろしいぜえ」
太一が俺の腕輪を見ながら顎をさすった。
「だから封印したのだ」
生徒会長が腕を組んで頷いた。
「なるほど。過ぎた力は身を滅ぼすものね」
「かつての私が歩んだ轍は踏まさない」
生徒会長が遠い目をした。
「……」
俺は幼い生徒会長のことを想像して同情して意気消沈した。
「まあ元気出せよ。トーリには俺の一張羅をやるから」
太一が奥から何かを持ってきた。
「俺に勝った奴にやろうと思って作っていた服だ」
「え? くれるの?」
「ああ、汎用品だがトーリに合った服はそのうち作ってやるよ。そん時は金出せよ」
「ああ、ありがとう」
「因みに希望はあるか? 何でも言ってくれ」
「衝撃無効」
「アホぬかせ」
「魔法反射」
「そんな服があったら魔法使い全滅だわ」
「じゃあ隠密」
「暗殺者かよ。他には?」
「アイテムボックス。気配察知、あとはクロミズの触手を」
「てめーそれ全部上位加護じゃねーか。服の機能じゃねー」
太一が俺の胸倉を掴んだ。
「何でも言ってくれって言っただろうが?」
俺はその手を振り払った。
「限度があるだろーが」
「出来ないのか?」
「今の俺じゃあ。で、で出来ねーよ」
「じゃあメンタル霊吸収」
「はあ? どんな夢機能だよ? 服に夢見すぎだぞ?」
太一が額に手をやって頭を振った。
「確かにトーリのメンタル霊保有量はさっきの瞬歩で使い切る程、少ないから吸収したい気持ちはよく分かる」
生徒会長が頷いた。
「は? あれで弱いのかよ。俺の糸を切ったぞ? 糸もイマジナリーウェポンだぞ。普通は他人のイマジナリーウェポンは見えねえし、切れねーんだよ。ん? ちょっと待て、お前のイマジナリーウェポンおかしくねえか?」
太一が俺を訝しげに睨んだ。
「そう?」
「ああ、忘れておった。トーリの天外武装はイマジナリーウェポンではない。ヤオロズウェポンだ」
生徒会長が自信満々に指を立てた。
なんでバラしちゃうの?
「え?」
「マジか?」
オーナーと太一がフリーズした。
「ええ、まあ」
俺は目を逸らした。
「ヤオロズウェポンだって? 何で新人のお前がそんなもん持ってんだ?」
「くじで当たった」
「え? くじですって? 汎用3Dプリンタではなく、くじ箱からの抽選? こりゃ泉ちゃんが自慢するだけのことはあるわ。太一。あんた良かったわね。あんたの将来は約束されたわ」
オーナーが太一の背中を叩いた。
「え? どういうこった?」
太一が首を傾げた。
「くじ引きでのイマジナリーウェポンの抽選は3Dプリンタのように己の魂を分霊するわけではない。意思を持ったヤオロズウェポンが主人を選ぶのだ」
生徒会長が笑った。
「えっと?」
「トーリのイマジナリーウェポンは別の魂。ヤオロズの魂の分霊なのだ」
「え? そのヤオロズってクロミズサマってことか?」
太一が生徒会長を見る。
「クロミズサマではない。私にもトーリのヤオロズウェポンの魂が何なのか分からぬし、知りたいとも思わぬ。罰が当たりそうだからあまり詮索するな」
「……」
罰ってなんだよ。
「ああ、分かった。祟神系か? ビビったぜ。お前見た目によらずスゲーんだな」
太一が笑った。見た目によらずってなんだよ?
「剣の名前は?」
「全殲……ちがう、えっとアギョウとウンギョウ」
俺は本当の名前ではなく自分でつけた名前を言った。
「良い名だ。ヤオロズウェポンを持って四柱の加護を持つ新人って下手したら勇者よりも強いんじゃねー?」
太一がふざけた口調で言った。
「ははは。まさか」
オーナーが笑った。
「うむむ」
生徒会長が俺を睨んだ。
この目は疑惑の目だ。何かを疑っている目だ。
「……やっぱりその服返せ」
太一が俺の手から箱を奪いとった。
「え?」
「新しい服を用意するわ。新人戦前に渡す」
「なんと、今から新しいものを用意するのか?」
生徒会長が太一を見る。
「ああ、服が負けている」
太一が拳を握った。
「あらあら。やっと太一に火が付いたようね」
オーナーが笑った。
「じゃあ、物理無効を」
「ざけんな。出来るかボケ」
「じゃあ、罠無効」
「ざけんな。てめーさっきから喧嘩売ってんのか?」
「まあまあ太一よ。加護が封じられて苛立っておるトーリを許してやってくれ」
生徒会長がなだめる。
「けっ、しゃあねえな。み、巫女様の顔に免じて許してやるぜ」
生徒会長の頼みに照れる太一。
「じゃあ、レーダー機能」
「んなもん出来たら業界に革命が起きるわ」
「じゃあ、分身機能」
「物理法則を越えるものは無理だ。服はアシストするだけだぜ?」
「アシスト? 身体強化は?」
「出来ないことはないが、他の防御力が落ちる」
「それでいい」
「は? 何事にもバランスというものがあってだな、一つ立てれば一つ下がるんだよ」
「じゃあ身体強化だけでいい」
「それなら大丈夫だ。で、どっち方面に強化したい? パワーかスピードか?」
「スピードだ」
俺は即答する。
「分かった。スピード特化型だな?」
「ああ、頼む」
「任せろ」
「良かったなトーリ」
生徒会長が笑った。
「はい」
「俺が専属になったからには百人力の鬼に金棒だぜ」
太一が叫んだ。 暑苦しいが頼りになりそうだ。
こうして俺に暑苦しい専属デザイナーが就いた。
封印された加護を戦闘服で補えるようにと、職人を紹介してくれた生徒会長は優しい。
俺は生徒会長に加護が封印されたことを忘れて、生徒会長に感謝した。
「トーリよ。期待しておるぞ」
店を出ると生徒会長は俺の肩を叩いた。
「はっ」
俺は武士のように頭を垂れた。
冷汗が頬を伝わる。生徒会長の期待が重い。
太一との戦いで加護のない自分の弱さを思い知らされた。
加護を失った俺は弱い。瞬歩一回でメンタル霊が底を突くのだ。
新人戦優勝なんて夢のまた夢。無理ゲー過ぎる。
どどど、どうしよう。
お読みいただきありがとうございました。




