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94 ボッチ改造計画その一実践

「ボッチが治るだと?」


 俺の口からその言葉が零れた。


「いや、ボッチが治るなんて言ってないよ。トーリ君の口下手が治るかもって言っただけで」

「え?」

「そもそもトーリ君はボッチじゃないでしょ? 僕もミルフィーちゃんもいるのに酷いよ」

「いや。すまん、そういう意味では……」


 俺は女の子モードで頬を膨らませたミケにドギマギしながら、あたふたと答えた。


「俺達もいるだろ。ひでーな? 友達だと? 俺ら」


 井の中ズ達が揃ってサムズアップした。

 いや、お前らは友達面しているだけの元イジメっ子だから。


「過去のことは水に流そうぜ」

「そうだぞ。昨日の友は今日の友って言うじゃねえか」

「こめけーことはいいんだよ」


 井の中ズ達が揃ってウィンクした。

 昨日の敵は今日の友。

 俺はなんという愚か者なのだ。

 そうだこいつらは敵だった。

 それは昔のことだ。

 俺はクロミズを倒し、友となった。黒牛守もしかり。

 ボットモなったクロミズ達に顔向けできないじゃないか。

 いつまでもウジウジとイジイジと過去の遺恨を引きずっていてはダメだ。


「……そうだな」

「そうだ。分かればよろしい。それでトーリの口下手ってどう治すつもりだ?」


 井の中ズのリーダーがミケを問いかけた。


「うーん。確実とは言えないけど試してみる価値はあると思うよ」

「試す?」


 俺は素っ頓狂な顔でミケを見た。


「まずはトーリ君が心の中で考えていることと、口に出す言葉を同じにすればいいんだよ」


 ミケが自信満々に指を立てた。


「はい?」

「「「はあ?」」」


 俺と井の中ズは顔を合わせた。


「トーリ君。考えていることと違うことを話そうとするから上手く喋れないんじゃないかな?」

「はあ?」


 それはそうかもしれないけど。

 俺の心の中の声をアウターワールドに放出したら喧嘩になりますが?


「トーリ君、間違ってたらゴメンだけど心の中の言葉って、口に出して言えないような酷いこと考えてない? 死ねとか? 殺すとか?」

「なななななっ」


 ななななな、何故分かったんだ?

 こいつ、まさか鑑定能力者か?

 副会長のように俺の心を読める能力者か? スキルホルダーか? スペック持ちが? スタンド使いか?


「その動揺っぷりは図星だね?」

「そんなことはないぞ。少しだけだ」


 俺は激しく動揺しながらミケに反論した。


「最低ーだなおい」

「俺ら友達だと思ってたのに酷い」

「信じてたのに酷い」


 井の中ズが泣き真似し出した。


「いやいや、イジメるほうがもっと悪いから」


 ミケが井の中ズ達を睨んだ。


「な、なんだよ」

「過去を蒸し返すな」

「そう、俺達は未来志向。過去は振り返りません」

「過去の話をリサイクルするのは俺の母ちゃんの父ちゃん悪口だけにしてくんない?」


 井の中ズが饒舌になった。


「まあ、実際僕もそうだったからね」

「……」

「イジメられていると世界を呪いたくなるよね?」


 俺は心の中で首を激しく連続ヘッドバンキングするぐらい同意した。

 そして俺はミケに少しだけ同情した。

 ミケも俺と同じイジメられっ子だったからだ。


「だからトーリ君。まずはその腐った性根を変えてみようよ」

「え? 腐った?」

「そう、激しく腐ったその怨念の心を変えてみよう」


 ミケが聖人のような悟りきった笑顔で酷いことを言った。

 何言ってんだ? 俺は腐女子のように腐ってないぞ?

 俺のボッチマインドはスーパーカミオカンデの水ぐらいクリアに澄み切ってるぞ?


「まずは心の中で傷つけるようなことを考えないことだよ。人を呪ったり罵倒したり、馬鹿にしたりしないことだよ。絶対に死ねとか思わないように」

「……」


 そのミケの言葉に俺は言葉を失った。

 だがそれはおかしい。

 口に出さなければ伝わらないから何を言っても平気なんだが?


「口に出さなければ伝わらから何を言っても平気だと思ったら大間違いだよ」

「……」


 ミケが俺の心の声を読んだようにそう言った。

 ミケの見透かされそうなその大きな目で俺は完全に言葉を失った。

 心の中で何を言っても誰も傷つけない。

 だから俺は心の中ではいつも罵詈雑言の悪口大会が繰り広げられている。

 だがそれを面と向かっては人に言えない。言うつもりはない。

 俺は自意識過剰ではないのだ。

 自分の感じた気持ちや言葉を他人に伝えたいという願望はない。

 それに口に出したら、元には戻らない。

 口は災いの元。


「……」


 だから誰も傷つけたくない俺は口をつぐむしかできない。

 それに何かを言えば生意気だと姉ちゃんに殴られ、爺ちゃんに反論すると口答えするなと殴られて育った俺は寡黙になるしかなかった。

 そんな虐待人生で作られた心の中だけの殺人マシーンの俺は表情に出さない自信だけはある。

 そもそも論的に俺が何を考えているかなんて他人に分かってたまるか?


「うーん」


 ミケがその透き通った目で俺の心を見透かすように見つめる。

 心の中の声が他人に分かるはずがない。

 そんな目で見るな?

 バレてない。

 分かるはずがない。

 そんなはずはない。


「そんなはずはないさって思ったでしょ」

「なんだと?」


 俺の額から架空の汗が流れ落ちた。


「トーリ君。他人は馬鹿じゃないよ。その人が何を考えているがなんて雰囲気で感じ取れるものだよ?」

「え? マジ?」


 俺はミケの目を見返した。


「トーリは考えていることが分かりやすいからな」


 待てマテ。だがスキル持ちのお前と副会長だけだろう?


 井の中ズのリーダーが俺を見る。

 お前らもスキルホルダー? イケメンでスキル持ちだと?

 死ねよ。今すぐ転生してスキル一個にして出直してこい。


「そう。トーリ君は分かりやすよね」

「確かに」


 ミケやクラスメイトが頷いた。


「……」

「だからまずは、心の中で他人を誉めるんだよ。相手の良いところを見つけるんだよ。そうすれば心の中の言葉と、口に出る言葉のズレがなくなって自然に話せるようになる」


 ミケが目を閉じながらそう言った。

 こいつ言い切った。

 なんでそんなに自信満々で言えるのだ?

 科学的な根拠でもあるのだろうか?

 ネイチャンって科学雑誌に掲載されたのだろうか?

 そんな名前の雑誌なんて絶対読まないけどな。


「……らしいよ」


 ミケが舌をペロッと出した。


「らしい?」


 何だ? お前の考えじゃないのか?


「佐古場先輩がそうしてるんだって。紗古馬先輩も昔はイジメられてて上手く喋れなかったんだってさ」

「「「へえー」」」


 皆が一気に納得した。


「あの可愛さなら嫉妬攻撃受けるのは分かる」

「紗古馬先輩をイジメた奴はどこだ」


 俺はミケの肩を揺らした。


「トーリ君、落ち着いて昔の話だよ」


 ミケが俺の手でヘッドバンキングしながら答えた。


「そうか」

「でもさすが美少女界のカリスマ。言うことがいちいち絵になる」

「美少女で性格がいいってどういうことだ。トーリよ」

「知らねーよ」

「とにかく今の話、分かったトーリ君?」


 ミケが俺を見つめる。

 分からん。

 さっぱり全く以て分かりません。

 紗古馬先輩をイジメて奴は俺が許さないってことだけは誓った。

 何で俺が他人の良いところを見つけなきゃならないんだよ。

 他人が俺の良いところを見つけろよ。

 世界は球面だからどこでも中心なんだ。俺を中心に回ってんだぞ?


「分かったトーリ君」

「……分からん」

「そんなことないよ。トーリ君と一緒に髪を切りに行った時に言ってくれたよね。似合ってるって」

「……」

「自信がない僕にトーリ君の言葉が自信をくれたんだよ。男らしくない僕でいいんだって」


 ミケが満面な笑顔を浮かべた。


「ミケは髪切って正解だったね」

「私より目が大きいってどういうことよ」

「トーリは失敗だったな」

「うん。暗殺者にジョブチェンジしたからな」


 クラスメイトが俺をオチにして笑いあった。


「さあさあトーリ君。とにかく実践実践」

「実践?」

「そう、佐々木君の良いところを思い浮かべてみてよ」


 ミケが井の中ズのリーダーを見てそう言った。


「トーリ、分かってんだろうな?」


 井の中ズのリーダーがガキ大将みたいな口調でそう言った。

 こいつの良いところ? 転身? 強い者に巻かれるところ?

 いやいや、せっかく良好な関係を形成し出したところだ。

 良かったところを考えろ。悪いマイナス的なことは考えるな。


「顔?」

「はあ?」

「まあ、顔は確かに格好いいよね」

「顔だけじゃねえだろ? 友達思いの優しいとことかあるだろうが?」


 俺をイジメてた奴が何を言ってんだ? という目で俺は睨んだ。


「あんだその目は? やんのか? ああん?」

「まあまあ、佐々木君はまだ仕方ないかな、じゃあ生徒会長のこと思い浮かべてみてよ」


 生徒会長のことだと?

 生徒会長のどこのことだ?

 お胸か? ナマ足か?

 それとも本当は嚙みっ子というところか?


「トーリ君、弛んでる弛んでる。鼻の下伸びきってるよ」

「最低。男子達が何を考えているか言わなくても分かるわ」

「……」


 恐縮です。

 だが井の中ズ達も俺と同じように鼻の下を伸ばしていた。

 お前ら気が合うな。いろいろあったが俺ら同士かも。


「生徒会長を例に出したのは失敗だったね。じゃあ高山さんを見てどう思う?」

「高山さん?」


 俺は素っ頓狂な声を出した。

 誰だそれ?


「あんたあたしの名前知らないの? クラスメイトの女子の名前を知らないなんて信じられない」


 洋菓子部員だと名乗った女子が、わめいた。


「そりゃ仕方ないよ。みんなイジメっ子だったんだから」


 ミケが小さな声でそう言った。


「なっ、あれは終わった話よ。それに女の子の名前覚えるのとは別の話よ」

「そうだな」

「その話は出すな」

「冗談だよ。高山さんのこと心の中で褒めて。そしてその後、それを口に出してみてよ」


 ミケが英語教師のように手を広げた。


「え?」


 マジか?


「マジだよ」


 ミケが頷いた。

 俺はミケを見て、その後洋菓子部員の女子、高山さんを見る。


「ヒイイ」


 高山さんが悲鳴を上げた。

 まだ何も考えとらんわ。失礼極まりない無礼千万。江戸時代なら切り捨てられてんぞ。


「トーリ君睨んじゃダメ」


 ミケが俺達の間に割って入った。


「え?」

「トーリ君。笑顔笑顔、スマイルスマイル。笑ってよ」


 スマイルだと? 仕方がない。

 俺は満面の笑みを浮かべた。


「ヒイイ」


 高山さんがまた悲鳴を上げた。

 俺の笑顔のどこに悲鳴を上げるポイントがあんだよ。

 テメー殺すぞ。


「トーリ君、今心の中で言った言葉を言ってみて」

「え?」


 いやいや、それはまずいのでは?

 絶対に怒るのでは?


「トーリ君。怒らないから言ってみて?」


 高山さんが怒った姉ちゃんみたいな顔をしてそう言った。絶対怒ってるやん。

 それに怒らないって前フリだよね? 言ったら絶対怒るよね。


「ほらトーリ君。セイ。心の中の声と現実の声を合わせる練習だよ」

「分かった」


 俺は深呼吸してからこう言った。


「えっと、殺すぞ」

「あんだとおお。それはこっちの台詞だ。てめえこそキモイ癖に生意気だ。死ねよテメー・ミルフィーちゃんの随伴者じゃなかったら生きる価値もねえゴミ屑が!」


 高山さんが叫んだ。

 酷い。

 俺のガラスのハートは粉々に砕けてダイヤモンドダストのように消えた。


「高山さん。落ち着いて」

「だってこいつが」

「怒らないって言った」


 俺は高山さんを指さしてミケを睨んだ。


「とにかくトーリ君。高山さんの良いところを探してみて。どんな小さなことでも構いませんが、悪口だけはダメだからね」

「無理」

「無理ってどういうった? 殺すぞ」

「落ち着いて高山さん。トーリ君も高山さんことをミルフィーちゃんを見るような目で見て」

「……やってみる」


 俺はミケの説得に応じてもう一度高山さんを見る。

 睨み殺さないようにミルフィーを見るような目で。


「……」

「うっ」

「……」

「な、なによ」


 俺が無言で見つめていると高山さんがモジモジし出した。


「どうトーリ君。今思ったことを口に出して」

「分かった」

「ゴクリ」


 高山さんが喉を鳴らした。


「生徒会長達に比べたら苦もなく不可もなく普通」

「何よ普通ってそりゃ生徒会長や副会長みたいに可愛くはないけどあれは雲の上の存在なのよ。女神達と一緒にしないで、馬鹿にしてるんでしょ?」

「だから落ち着いて。それでトーリ君。生徒会長が居なかったらどう?」


 ミケが高山さんを無視してそう言った。


「可愛いかな」

「……え? は? 何言ってんの?」

「トーリ君、他には褒めるとこは?」


 ミケが高山さんを見てそう言った。


「えっと、肌が綺麗。目が透き通っている。爪が綺麗。声が綺麗。本当は寂しがり屋さん」

「ちょちょちょ、ちょっと待ったあ、止めて、そんな無表情で言われてもキモイだけよ」


 高山さんが顔を真っ赤にして激怒した。


「パーツを褒めるゲイみたいな褒め方やな」

「トーリには無理ゲーだろ」

「確かに急ぎすぎたかなあ。トーリ君の無表情までは治せないよう」

「ああ、なるほど。はっ? 待てよ? そうか」


 井の中ズのリーダーが手を叩いた。


「そんなの簡単だ」

「え?」

「佐々木君? 何か思いついたの?」

「ああ。その目だ。その細い暗殺者のような目がいけないんだ。おい、眼鏡貸せ」


 井の中ズのメガネっ子がリーダーに自分の眼鏡を差し出す。

 それを受け取ったリーダーが俺に眼鏡をかけた。


「「「おおおう」」」


 響めきが起こった。

 なんだよ。視界がボケて見えないんだけど?


「あれ? なんだかトーリ君って眼鏡かけたらイケメンじゃない?」

「うん。雰囲気イケメンじゃない?」

「ギョゲメン」

「暗殺者のような気配が和らぐなあ」

「やはり。目だったか」

「トーリ君、これから眼鏡かけたら?」

「いや、目悪くねーんだが?」

「帰りに眼鏡買いに行こう」

「トーリ君改造計画だ」

「トーリ、金はあるのか?」

「え? 少しはある」

「よし。じゃあ今日は洋菓子部員を見学してその後はトーリ君の改造計画ね」

「「「おー」」」

「え?」


 いやいや待て待て。何でお前ら俺の予定を勝手に決めたんだよ。

 なんでボッチの俺が集団行動を取らなきゃならないんだ。


「トーリ君今思ったこと言ってみて」

「……何で集団行動を取らなきゃならないんだよ」

「そりゃ友達だからだろ」

「え?」

「仲良くなろうって歩み寄ってんだ。お前も歩み寄れ。距離を取ってたらいつまでたっても仲良くなれないぜ」

「どうせ俺よりもミルフィーと一緒に街に行きたいだけだろ」

「ハハハ」

「そうよ。あんたはオマケ」

「あたりめーだろ」

「お前と歩いてたらマフィアの鉄砲玉に撃たれるわ」

「公務執行妨害で逮捕されるかも」

「私もミルフィーちゃんと遊びに行く」

「はあ」

「俺ら部活あるから校門前で集合でいいか?」


 井の中ズのリーダーがそう言った。

 なんかこいつが仕切ってね?


「いいわ」

「よし」

「はあ」


 俺はとびきり大きな溜息をついた。


「トーリ君。とにかく心の中で悪口を言わないようにね」

「努力する」

「うんうん。心の中の声と現実の声にずれがなくなれば、自然に会話できるようになるかもよ」

「分かった」

「そうよキモイ、キモイのよ」


 高山さんが叫んだ。


「トーリには無理だったか。失敗だったな」


 こうして俺のボッチ改善計画は失敗した。

 だが俺のボッチアイ改善計画は継続した。


 俺は副会長に遅くなるとメールする。

 すると今日は生徒会の仕事が忙しいから今日は部活なしとの返信があった。

 そこはダンジョン部の活動を優先しろよ。

 こんなときに限って部活なしってどういうこと?

 副会長がこの教室を透視してんの?

 心を読むってレベルを超えてんだけど? 千里眼スキル?

 そんなこんなで寝不足のボチボチのお肌だった俺は授業は全て睡眠にあてた。




 ――そして放課後。

 俺とミルフィーとミケ、そして洋菓子部員の女子の四人は洋菓子部の部室に向かった。

 井の中ズや他のクラスメイト達は各々の部活動に向かった。


「「「ようこそォ洋菓子部へェ」」」

「え」

「ギョエ」


 俺とミルフィーは後退った。


お読みいただきありがとうございました。

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