92 暴走ダンジョンボス戦。鉄巨人対ボッチ
鉄巨人。それは巨大なリビングアーマー。
デカい。それだけで脅威だ。
小学生の頃、俺にランドセルを運ばせていた奴はデカいだけの馬鹿だった。
デカいのが強いなんて原始時代の話だ。今は体格よりも頭脳がものを言うクレバーな時代なのだ。
だから考えろ。俺のボッチブレインをボチっとスポークさせろ。
地球とコロニー間の一年戦争に使用されたモバイルスーツと同じ大きさだからといってビビるな。
あれはただのデカいリビングアーマーだ。
従ってその弱点も冷気のはずだ。
俺のボッチ魔法でクールにキンキンに冷やしてボットガンで粉砕すればいいだけだ。
だがこの広いボス部屋全体をクールボッチ魔法で冷やすのはコスパが悪い。
しかも今の俺は一人じゃない。チャラ男とキリイというお荷物がいるのだ。
迂闊に魔法を放って二人を凍らせてみろ。
後で何を言われるか分かったもんじゃない。
なにか楽して倒せる手段はないものか?
そうだ!
敵を冷やして斬るならば最初から冷やしたもので斬ればいい。
俺は二振りのイマジナリーウェポンを取り出すと、そこに氷のイメージを付加した。
全絶滅剣と全殲滅剣が一瞬で凍りつき、空気中の水分がパチパチと音を立てた。
冴えわたるボッチ脳が導き出した最適解――それはボッチの心の冷えた闇が具現化したアイスソード。
触れたものをズタズタに切り裂く無言という切れ味抜群の刃を持つクールサイレントソード。
「あれはまさか魔法剣?」
「まあ、トーリならできて当然じゃな」
「いや、でもヤオロズウェポンに付与魔法なんて聞いたことないっスよ」
「まあ、確かに普通の人間には無理じゃな」
「そもそも普通の人間はヤオロズウェポンなんて持ってないっスからね」
「まあ、トーリのやることじゃからのう」
「そうっスね。カガッチのやることっスからね」
「え?」
俺は素っ頓狂な顔でチャラ男とキリイを見る。
「ヤオロズウェポンはそれ自身が膨大なメンタル霊を内包するから外部からのメンタル霊を受け付けない。つまり付与魔法の魔法剣は不可能っス」
「ヤオロズウェポンは我が強いってことじゃ」
「へー」
チャラ男とキリイが説明してくれたが、全然わかんねえ。
まあ、我が強いってことはキリイみたいなもんか。
「どういう意味じゃ?」
「なんでもない」
キリヒメサマことキリイに心の声が筒抜けっていかがなものかと思うけど?
エロいことも卑猥な妄想もできないじゃないか?
「眷族間にエロいことも、悪口もなしじゃ」
「すんません」
俺は二振りの剣から流れ出る冷気に目をやって謝った。
「心がこもってないのじゃ?」
「さーせん」
「二人ともなに言ってるんスか? ボスの前ですよ。どうするんスか?」
チャラ男の言うように今は戦闘の真っ最中。
幸いにもボスである鉄巨人が律義に俺達を待ってくれている。
ではそろそろやるか。大魔王の剣よ、その真価を見せてみろ。
「アブソリュートブレード」
俺は適当な技名を叫び、適当に力を込めて剣を振った。
高周波のような甲高い音が迸る。
斬撃が空気を振るわせ、軋ませ、空気中の水分を凍らせた軌跡を伸びる。
そして鉄巨人の巨大な足鎧に直撃。
水晶のような白い花が咲いた。
その衝撃で空中の白い軌跡が地面に落下し、更なる高音を奏でた。
「「白峰霧氷斬」」
二人が同時に叫んだ。
そして更にそこから水晶の花は咲き乱れ、巨大な足を駆け上がる。
それとは対照的に空気中の水分が白い滝となってゆっくり舞い降りる。
鎧を凍らせ、可動部分を覆い、徐々に鉄巨人の動きが鈍くなる。
今しかない。
「百八十ミリボットガン」
俺はそこに大きめの石をボットガンで放った。
同時に直撃。
ガコンという重低音とその衝撃波が俺の短い髪を揺らし、氷の塵が粉雪のように舞い散った。
「……!」
おかしい。なんだか手応えがない?
白い霧が雲散。
そこから現れたのは巨大な平面――盾だ。
そう鉄巨人は盾を持っていたのだ。
俺の渾身の百八十ミリキャノンがあっさり防がれた。
縦を構えた鉄巨人は、ビルの壁面にしか見えない。
「トーリ油断するでない」
キリイの声で俺はその場から飛んで退避した。
そこに巨大な何かが現れた。
それは暴走列車のような大質量の剣。斬る為じゃない、跳ね飛ばす為の剣だ。
鉄巨人は巨人。手にする剣もまた巨大。
そう鉄巨人は剣も持っているのだ。
しかもそのリーチはとんでもなく広い。
剣が水平に振るわれる。
俺は空中でスライドし、その蹂躙を回避。
俺の直ぐ横を暴走列車が暴風と共に通過する。
「くっ」
こういう巨大な敵は鈍重で遅いのがセオリー。
だがこの鉄巨人は、赤いモバイルスーツのように速かった。
暴走列車が突然、向きを変えてて俺に迫る。
俺は刃を蹴って回避。
だがその刃が加速し俺に迫る。
前権撤回。デカいってのはそれだけで脅威だ。
クレバーな小細工な作戦は意味がない。
これでは象とミジンコの戦いではいか。
圧倒的な物量の前には成す術もないのか?
「トーリ!」
「カガッチ!」
パーティー仲間の声が俺を奮い立たす。
分かっている。
ボットハンドを伸ばして逃げきれるか? 否、それでは間に合わない。
それに俺はもう逃げないと決めたのだ。
上手くいかないことを全て社会システムや大人や、リア充のせいにして、ウジウジ、クヨクヨして逃げるのはもう止めた。
今の俺は逃げない。反撃する。
進撃し、加速して諦めない。
諦めるぐらいなら最初から息をするな、心臓を鼓動させるな。
俺には頼りになるボットモ達がいるのだ。
もがけ、あがけ、進め。
「ええい」
俺は全殲滅剣と全絶滅剣を迫り来る暴走列車に向かって斬り下ろした。
どう考えても勝てるはずがない。
自暴自棄になったように見えるだろう。
まず剣の質量が違う。運動エネルギーが、位置エネルギーが違う。
だがそれでも俺はこの剣を信じて振るう。
冷静に考えれば、鉄巨人の列車のような剣に俺の持つ剣では勝負にならない。
だがこの二振りの剣は普通ではない。
大魔王の剣、別名――次元断絶剣。
斬れぬものはコンニャクと美女だけだ。
俺はお前らを信じているぞ。
まかせんしゃいと大魔王の剣たちが快諾したように加速する。
「絶対零度斬鉄斬り」
俺が剣を振ったと瞬間、目の前が銀色の大質量で埋め尽くされた。
鉄巨人の剣だ。
だがその刹那、衝突音も衝撃波もなく、視界が開けた。
次元断絶剣の、大魔王の剣の名は伊達じゃない。
鉄巨人の剣が真っ二つに斬れた。
暴走列車のような金属の大質量が俺の剣を境に左右に流れる。
「なんと」
「斬ったああああ」
左右に両断された鉄巨人の大剣が根本から折れて、ビルの倒壊のように床に激突して、轟音がいつまでも地面を揺らした。
俺は左右の剣を両肩に乗せ鉄巨人を見上げた。
鉄巨人は折れた剣を見て、次に俺を睨んだ。
「……」
さあてどうする木偶の棒? お前の武器はもうないぞ? と俺は心の中でイキった。
「トーリよ。避けるんじゃあ」
キリイが叫んだ。
案ずるな。俺はチャラ男のように増長も油断もしない。
リア充のように数の暴力を、民主主義と混同しない。
仲間の意見が多数ならば、少数の意見は悪だという考えはない。
鉄巨人の蹴りが来るのは分かっている。
俺はボットハンドを伸ばして壁を掴み空中で高速スライド、噴火のような蹴りをかわす。
そして通り過ぎ様にその金属の塊を斬った。
一振り、二振り。
鉄巨人の足がエックス状に分断された。
その中身は空。
やはりこいつはリビングアーマーと同じ。
鎧の中身はメンタル霊が詰まっているだけだ。
だから斬っても倒せない。
無敵。その証拠に斬った足のパーツが集まり、修復しようとしていた。
そうはボッチの三次問屋が卸さねえ。
「ノスフェラトゥフレイムオールオーバー」
俺は落下しながらオリジナル魔法を放った。
これは俺の中二病時代を代表する作品だ。
敵のメンタル霊を喰らい自分の糧とする単純明快な魔法。
あまりに卑怯だと後世に語り継がれるだろう。
だが勝てば官軍。勝てばハーレム。勝ったら常任理事国。
どんな卑怯な方法でも勝てば正義なのだ。
俺の放ったノスフェラトゥフレイムの紫色の炎が鉄巨人のメンタル霊を貪り食い、一気に燃え上がった。
それは崖を駆け上るように成長し、鎧の隙間から中に侵入し、鉄巨人のメンタル霊を更に喰らい、舘巨人が紫炎に包まれた。
「グオオオオ」
顔も声帯もないのに鉄巨人が咆哮を上げた。
ノスフェラトゥフレイムが激しい上昇気流が生み出し、鉄巨人の鎧が鳴いたのだ。
だが鉄巨人の内包するメンタル霊の容量は膨大。
ノスフェラトゥフレイムが食いきるには三日三晩かかるだろう。
それを黙って見続ける俺ではない。
「絶対零度氷結斬擊微塵斬り」
俺はそう叫びながら鉄巨人を斬った。
加速された俺の剣が何百と切り裂く、交差する。斬り変えして往復し横切る。
袈裟切りや逆袈裟水平の無限軌道の切っ先が縦横無尽に駆け巡った。
巨大な鎧が分断する。
その間からノスフェラトゥフレイムの紫炎が噴出する。
だが鉄巨人も必死に切り裂かれた鎧を修復しようとする。
これでは埒が明かない。
「アブソリュートノスフェムボットガン」
俺は鉄巨人に向かって氷属性を追加させたノスフェラトゥフレイムのボットガンを放った。
相手を凍らせ、喰いながら破壊する極悪魔法だ。
「属性二次付加じゃと?」
「ははは。そんな馬鹿な。二属性の付与なんて不可能。笑えるっスね」
「加護が複数あるトーリならではの技か」
「喰らい尽せ」
白紫の暴食弾丸が鉄巨人の分離した鎧に命中し、粉砕。
鉄巨人のメンタル霊と紫炎が共に大爆発し突っ切った。
白い軌跡の後を紫炎が追従する。
大爆発が発生するがノスフェラトゥフレイムが喰らい直ぐに収束し消えた。
そこに残ったのはメンタル霊を失い、巨大な盾を力なく構える鉄巨人。
「とどめだ。」
俺は身体強化の加護を纏い、鉄巨人の身体を駆け上がるとそれを両断。
視界に映る全てを斬った。
斬って昇った。
巨大な盾が斬れ、次にその奥の鎧が斬れ、背後のダンジョンが垣間見える。
俺は更に駆け上がる。
斬って、斬って、斬りまくりながら上昇。
最後に巨大な胸板の鎧に二振りの剣を突き刺した。
「派手に散れ」
そしてそのまま左右に引き裂いた。
巨大な胸鎧が上下に両断され、空洞からメンタル霊の残滓が蒸気のように噴出する。
鎮火したはずのノスフェラトゥフレイムが再び活気付き、残滓を貪り食った。
俺は落下する鎧の雨に混じって着地。
周囲で巨大な鎧の破片が落下し、耳を劈く大音量と空気を押し潰すような衝撃波が俺の短い髪を揺らした。
そして巨大な瓦礫の山を作った。
「マジっすか」
「オーバーキルじゃのう」
倒したのだ。
勝ったのだ。
やればできるボッチよう。
俺はボッチ君の真似をして心の中で自画自賛した。
「やったのきゃ?」
「やったのか?」
キリイとチャラ男が叫んだ。
大丈夫だ。やったのだ。
もうフラグの神を降臨しない。
瓦礫はピクリとも動かない。
その瓦礫に中に見たこともないぐらい巨大な魔石が赤い照明で血の色に染められていた。
もうメンタル霊も残っていないし、魔石化したのだ。
瓦礫の山から膨大なメンタル霊が沸き上がり、俺達の経験値となった。
「攻略完了」
俺は全絶滅剣と全殲滅剣の血振りをする。
ダイヤモンドダストが舞った。
「おつかれ……いやトーリ、まだじゃ」
「え?」
キリイの叫びと同時に背後に何か、巨大な何かが落下した。
地面を揺るがす大振動。
圧し潰された空気が衝撃波となって俺の背に襲いかかる。
振り返るまでもない。疑念を抱くほどでもない。
恐ろしい殺気を感じる。
俺は身体強化で高く飛んだ。
そして剣を構えたまま後方宙返りすると、そこにもう一体の鉄巨人が見えた。
そう、もう一体いたのだ。
ボスが一体だけだと誰が決めた?
ボス部屋が拡張したのは俺達が入ったせいだ。
さっき倒したのが俺のメンタル霊に惹かれたボスなら、こいつはキリイのメンタル霊に惹かれたボスだろう。
ダンジョンのボスが増えるのも俺はゴミ屋敷ダンジョンで経験済み。
俺が経験した全てが俺の糧となるのだ。
今と同じ方法で倒すか?
「?」
だが鉄巨人の胸鎧の首の大穴が俺の関心を惹いた。
恥ずかしがり屋のボッチの俺は穴が入ったら入りたい病を患っているのだ。
その漆黒の穴が俺を誘う。
巨大な敵との戦闘セオリーによくある体内に入りこんで中から斬るという定番中の定番作戦を俺がやるとでも?
やるんだなあ、これが。
俺はボットハンドを伸ばして、その大穴の中へ飛び込んだ。
そこは濃厚なメンタル霊で溢れていた。
普通の霊トレーサーならばこの濃密なメンタル霊に耐えられないはずだ。
同化され、自らのメンタル霊を失い。ダンジョンから叩き出されるだろう。
だが俺は何だ?
複数のヤオロズの加護持ちだ。
しかも全員ボスクラスのヤオロズたちだ。
つまり一対四だ。
それに負のメンタル霊だろうがボスの体液的なメンタル霊であろうと、メンタル霊には変わりはない。
食いしん坊なヤオロズを体内に秘めている俺がやることは一つだけ。
「いただきます」
俺は遠慮なく喰らった。
全高十三メートルの鉄巨人の鎧の中に詰まっていたメンタル霊を喰らった。
そのままだと体に悪そうな鉄巨人のメンタル霊を変換する。
これは魔王アバドンとの戦いで身に着けたエコシステム。
俺は日に日に成長しているのだ。
もうあの時にひ弱なランドセルを背負わされていた俺ではない。
鉄巨人の体が揺れた。
俺にメンタル霊を奪われ、その巨体を維持するのが難しくなってきたのだ。
鎧と鎧の隙間から外が見える。
俺はその隙間から這い出ると振り向きざまに剣を縦に斬りつけ、そのまま重力に従い落下するまで斬り続けた。
そして鉄巨人を完全に股下まで両断した。
ビルのように巨大な鎧が二手に分かれて崩落。
轟音と衝撃波でボス部屋が揺れた。
俺は着地してパーティーメンバーに向かって首を傾げた。
どんなもんじゃい――という無表情で。
「はっ?」
「えっ?」
二人はポカンと口を開けてボチフリーズしていた。
なんか言えよ。ボッチの俺じゃあるまいし。
「……」
俺は心の中で突っ込んだ。
「カガッチ今、食われましたよね?」
「いや、逆じゃ、喰らったのだ」
「え? マジっすか? クロミズサマの加護は半端ないスね」
「じゃがクロミズとコンゴウの喰らい方にしては、えげつない邪悪な喰らい方であったが?」
キリイが俺を睨んだ。
くっ。鋭い。俺が魔王アバドンとの戦いで新たな捕食スタイルになったのを見破ったのか?
「邪悪ってなんスか」
「なんだか悪寒のする喰らい方というか、なんというか……」
ええい、これ以上は推測させてはいけない。
眷族間だろうとプライベートは尊重すべきであろう。
さもないと、金輪際二度とハートを送ってやらないぞ。
「ぬっ」
ウィークレイドボスはどうやって倒す?
「ぬぬっ」
ちなみにそのスマホの加護は眷族とは別、完全に俺の善意によるものだ。
クロミズの大半がテンドー君に奪われた今、本当ならキリヒメサマのスマホを覆っているクロミズを返してもらいたいところだ。
だがキリヒメサマにはお世話になっているからなあ。
――という顔で俺はキリヒメサマを睨んだ。
「なんでもないのじゃ。気のせいなのじゃ」
キリヒメサマころキリイが俺の脅迫に屈し口を噤んだ。
「どうしたんスか?」
「なんでもないのじゃ」
そうこうしていると鉄巨人のメンタル霊が経験値となって降り注ぎ、どこかで扉の開く音がした。
この音はダンジョンコアのある部屋に続く扉か、帰還用魔法陣の部屋だろう。
「攻略完了」
よくやったな。俺は大魔王の剣を労った。
「これ、どうするんスか?」
「これ、どうするのじゃ?」
二人が鉄巨人だった瓦礫の山を見上げて言った。
なだらかな金属の丘のようなものは鉄巨人の盾だ。
「これだけのダンジョン産金属が黒岩家に高く売れますね」
チャラ男が目を円マークにして不吉なワードを口ずさんだ。
「黒岩家?」
俺はボッチアイを細めた。
なんでテンドー君の家が出てくるんだ?
「え? そりゃ、黒岩家はダンジョン素材を高く買い取ってくれてるからですよ。銃を作るためにね」
おっと、すっかり忘れてたが、俺は黒岩家の発明したダンジョンで使用できる銃でチャラ男たちに撃たれたのだった。
それはつい最近のことだ。
俺が俺は暴走したチャラ男たちを皆殺しにした。
だが何の因果か今は一緒のパーティーを組んで深夜ダンジョンを徘徊している。
人生、分からないものだ。
敵だと思っていた奴らが味方となっている。
クラスメイトのイケメンリア充達は一生敵だと思っていたのに、今はくだらない話をする仲に成り下がっていた。
「とにかくカガッチ、今からこれ公平に三等分するんで」
「え?」
チャラ男が鉄巨人の残骸を運び始めた。
待てい。これ全部手で運ぶの? 一体何時間かかるんだよ。夜が明けちまうぞ。
学生である俺は明日も学校なんだぞ。
「何をボサボサしてるっスか? カガッチ、キリイ、さっさと手伝うッスよ」
「え? 面倒いのじゃ」
「え? マジ?」
「マジっスよ。リーダーは俺っスよ」
俺とキリイが露骨に嫌な顔をすると、チャラ男が叫んだ。
「三人でこれを分別するのは非現実なのじゃ」
「でもここには三人しかいないっスよ」
「じゃあ、誰か呼べばよいじゃろう」
「人望のない俺に呼べる人間がいると思ってるんスか?」
「ふっ」
俺はチャラ男の言葉に笑ってしまった。
「ナンスか? カガッチだって友達いないくせに」
「うっ」
俺は後退った。
言ってはならぬことをズケズケと。
「なんだかこのリーダー何もしとらんくせに偉そうじゃな」
「ああ」
キリイが俺の耳元で囁いた。
「文句でもあるんスか? じゃあキリイの権力で誰か呼べばいいじゃないっスか?」
なんでチャラ男は怒っているのだろうか?
やっぱり俺が倒しちゃったから拗ねているのか?
「残念ながら無理じゃ。余はここにいないことになっておるからの。認可外のダンジョンに戻ったら大問題じゃ」
「だったら文句を言わずに分別するっスよ」
「むむ。仕方がないトーリ、一旦お主が収納して持って帰るぞ」
キリイがとんでもないことを言った。
「「え?」」
俺とチャラ男が一緒に驚いた。
「だからーアイテムボックスに一旦収納して帰るのじゃ。換金は後でもよかろう」
「「ええええ? アイテムボックス?」」
俺とチャラ男が叫んだ。
なんで俺がアイテムボックスを持っていることをバラすんだよ。
このオシャベリサマめえ。
「あ? 仲間に内緒ごとはよくないのじゃ」
「カガッチ、アイテムボックスってどういうことっスか?」
チャラ男が掴みかからんばかりに俺に向き直る。
もう今更しらばっくれても遅いし、これからずっと隠し通すのも面倒だ。
チャラ男先輩にはお世話になってるし、害にはならないだろう。
「……こういうことだ」
俺はボットハンドで瓦礫を撫でて、その全てをアイテムボックスに収納した
目の前にあった巨大な二つの瓦礫の山が消えた。
「はあああ? 消えたっスよおおお」
「そりゃあアイテムボックスに収納したのじゃから消えるのじゃ」
「いやいや、ちょっと待って、アイテムボックスは分かりますが量がおかしいっス」
「そりゃあ、クロミズとコンゴウのアイテムボックスがあるのじゃ」
「それにしてもこれは度が過ぎるっスよ」
「余だってこれぐらい収納できるぞ?」
「そりゃあキリイは神様ですから分かりますけどカガッチは新人ですよ」
チャラ男がうるさい。
こうなったらもので釣るしかない。
「先輩これを」
俺はリビングアーマーの魔石を地面に取り出した。
「え? これはなんスか?」
「ここに来るまでに倒したリビングアーマーの魔石。あげます」
「えええ? こんなに?」
チャラ男がフリーズした。
「さっきのは後で換金するから安心して」
俺は長台詞を頑張って吐いた。
「そうじゃ、お主も手ぶらで報告にはいけまい。貰っておけ」
「え? これ換金したらいくらになると思ってるんスか?」
「知らぬ。もう眠いのじゃ。じゃあ、余はこれで」
欠伸をしたキリイが地獄門を出現させた。
「え、ああ、そのキリヒメサマ。今日はありがとうございました」
チャラ男にしては珍しく頭を下げた。
「うむ」
「キリイ。またパーティー組んで冒険しましょうっスね」
「断るのじゃ」
「え? そこは快諾してくださいっスよ」
「冗談じゃチャラ男」
「チャラ男って酷い呼び方っスね」
「うむ」
キリイが俺を見た。
余計なことは言うな。
俺は先輩のことをチャラ男呼ばわりしていることを言うな。
「お似合いな呼び名はないか。チャラ男。精進せよ。そしていつかまたダンジョンに潜ろうぞ」
「はあ。了解っス」
「……」
俺はキリイの背に誰にも言うなよと睨んだ。
「分かっておるわ。余は口が固くて有名なのじゃぞ」
「口が固いだって? どこの世界線のキリヒメサマの話だ」
「カガッチ、お礼は?」
チャラ男が先輩風を吹かした。
お礼ってもキリイはスマホしかいじっとらんかったぞ? という顔をした。
「とにかくパーティー解散時はお礼を言うもんスよ」
「……キリイありがとう」
俺は礼を言った。
余計なことは喋んなよ、という言霊を乗せて。
「うむ。次回は余を守るように」
「キリイ様。今日はあざっした」
「ではおやすみなのじゃ。ふふふ」
キリイが不敵な笑みを浮かべながら地獄門に入った瞬間、門が消えた。
なにあの笑顔? 喋る気満々の顔じゃん。
「あの門便利っスね」
「ああ。それより口外しないか心配だ」
「ハハハ。誰かに話したところでカガッチが一人で攻略したって誰も信じませんから大丈夫っスよ」
「……」
こうして俺達は、いや俺は単独で暴走ダンジョンをあっさり攻略したのだった。
お読みいただきありがとうございました。




