91 暴走ダンジョン攻略開始
「カガッチはここでキリイを守っててくだせい、あいつは俺がやるっスよ」
チャラ男がイマジナリーウェポンを構えた。
「ひええ、怖いのじゃあ。ちゅぱっ」
キリヒメサマことキリイが頭を抱えてわざとらしくオロオロし始めた。
ここは暴走ダンジョン。その内観は赤い照明に照らされたトンネルそのものだ。
だが普通のトンネルと違って、左右に、上下に弧を描くその見た目は非現実。
ここはメンタル霊で構成された半物質の世界なのだ。
「せいス」
チャラ男が迫り来る魔物リビングアーマーに斬りかかる。
遅い――だがその刃は途中で加速し、リビングアーマーを逆袈裟で斬り上げる。
だがリビングアーマーは巨大な盾でその剣を受けると、巨大な剣をチャラ男の頭に振り下ろす。
危ないっスよう――俺は心の中で叫んだ。
「ふん。甘いっスよ。奥義……奇々怪々力」
チャラ男の身体が光に包まれた。
なんだあれは? 光るチャラ男? ピカチャラーオ?
さっきよりも何倍もの速さでリビングアーマーに迫り、蹴り上げる。
リビングアーマーの中身は空っぽだが、表面は固い金属の鎧だ。
このままではチャラくて細い、ピカチャラーオの足が折れちゃう?
だが俺の心配をよそにリビングアーマーが浮いた。
浮いたのだ。つまりピカチャラーオの蹴りは強い?
いつものチャラい仕草のせいでピカチャラーオは弱く見える。
だが、あんなんでもA級霊トレーサーなのだ。
きっと木曽三川警護団の気鋭の星なのだ。
ピカチャラーオは浮いたリビングアーマーの鎧の隙間に剣を突き刺した。
そしてそのまま横一閃。
リビングアーマーが左右に分断され吹っ飛んだ。
派手な金属音を立てながらリビングアーマーが壁に激突した。
「余裕っス」
やるじゃないかピカチャラーオ。
小さじ一杯ぐらい見直したぞ。
「カガッチ今の見ましたか?
ピカチャラーオの身体を覆う光が消え、普段のチャラ男に戻った。
今の光はなんだったんだ?
「あれは金剛系の剛力。身体にメンタル霊を纏って自身を強化する技じゃ」
「へえ」
俺はキリイの解説に素直に驚いた。
そんな便利なものがあるんだ。
加護みたいなものかな?
「カガッチこれが俺の新たな力っスよ」
チャラ男がチャラいポーズを決めた。
新たな力ということは今までは使えてなかったってこと?
いつの間に修行したんだ?
それにしても光るなんて狡いぞ。
ボッチの俺が光ったらどうなる?
シャイニング界の貴公子ことピカボーチーネ。
なんかマフィアのボスっぽい。
だが俺が光り輝くことなんてない。
俺は暗黒の貴公子。ダークボッチリーヌなのだ。
ああ、くだらない。俺の考える内容はきっと小学低学年より下だろう。
「凄かったっスか? 格好良かったっスか?」
「ええ、まあ」
俺はいつもの口調で賞賛した。
でもリビングアーマーって中身のない空っぽの魔物だったよね?
倒した後のメンタル霊も巻き上がらないし。
老婆心ながら申し添えますが、まだ倒していないような。
敵に背を向けて格好付けている場合ではないような気がするんスけど?
リビングアーマーの分断された身体が合体し、有頂天状態のチャラ男に向かって剣を振り下ろした。
「危ない」
俺の声帯が震えた。
「ひえ」
チャラ男が情けない声を出しながら転がって回避する。
だが間に合わない。このままでは半チャーになってしまう。
「ちょっとタンマっスよう」
おいおい、ここはまだ一階層だぞ。
こんなところでパーティーリーダーが死んでしまったら困る。
「ヒトキレボッチモード」
俺は小声でそう呟く。
すると俺の身体に黒と金の加護が覆った。
クロミズとキンミズサマの加護だ。
それにしても恥ずかしいモード名だな。
誰だよ考えたのは? ああ、俺だった。
でもよく考えれば合理的で簡潔な名称だ。
ヒトキレ。フタキレ。数が名称に入っているから誰が聞いても分かりやすい。
もし将来、俺にパーティーメンバーが出来たら、モード名を唱えて教えてやるんだ。
今からヒトキレボッチモードだから援護よろしくってね。
ああ、でも俺なんかとパーティーを組んでくれる奴なんているがずがない。
俺の視界と身体は加速し、ダンジョンの壁が視点の先から放射状に流れる。
俺はリビングアーマーとチャラ男の間に一瞬で割り込むとボットガンを放った。
ガキコンと鈍い金属音を放ちながらリビングアーマーが吹っ飛ぶ。
「カガッチ、助かったっス」
チャラ男が俺の後ろで起き上がるのが感じられる。
だが今の攻撃ではリビングアーマーを倒せていない。
リビングアーマーが起き上がりながら逆袈裟で大剣を振り上げる。
俺は転がって回避。大剣が轟音を立てて通り過ぎる。
リビングアーマーの弱点は冷気。
俺の最弱のボチ魔法で凍らせれば余裕のボッチちゃん。
「アイスボッ」
「カガッチ、一旦引くっス」
俺がアイスボッチ魔法を唱えようとした時、チャラ男の声がした。
あんた邪魔。今ここでアイスボッチ魔法を放ったらチャラ男まで凍ってしまう。
なんということだ。今の俺は一人で戦っているのではない。
パーティーで戦っているのだ。
最強ボッチの俺はパーティーだと最弱だ。
キリイ、援護を頼むと――キリイを見ると、なんとスマホをいじっていた。
ダンジョンの中でスマホをいじってんじゃねえぞ。
「えっと、待つのじゃ、今ウィークレイドボスと戦っているのじゃ。もう少し終わるのじゃ」
キリイが俺の心を読んでそう答えた。
ウィークレイドボスは確かに大事だ。
うん、頑張れよ――こうなったら俺がなんとかするしかない。
リビングアーマーは中身のない物理無効の強敵。
弱点は冷気。魔法で凍らせたところをボットガンで粉砕するしかない。
だが俺の魔法は威力が高すぎす。
弱っちいチャラ男が冷やされてクールチャラ男になってしまう。
魔法はダメだ。どうする?
冷気とボットガン? ――チョ待てよ?
それってば一緒に放てばよくない?
俺はボッチアイデアをクロミズとキンミズサマに伝える。
俺の中のヤオロズがサムズアップした気がした。
そして俺は右手を突き出した。
「アイスボットガン」
俺の体内でメンタル霊が氷の魔法に変換される。
続いてアイテムボックスから取り出された河原の石をキンキンに冷却。
絶対零度にまで冷えた石は高圧力ボット細胞の中で加速する。
俺の右手から超電導の石が放たれた。
衝撃波とプラズマが舞い、空気中の水分が凍ってダイヤモンドダストが煌めいた。
そして真っすぐ突き進んでリビングアーマーに直撃、白い放射状の花が開き、粉々に吹き飛んだ。
衝撃波と冷気が、メンタル霊と同時に拡散する。
そして俺達三人に降りかかり経験値となって分配された。
「え? 今のなんじゃ? って、見ておらんかった」
「え? 今のは何スか? って、見てたけど分かんねえっス」
パーティー仲間の二人が同時に声を上げた。
「……」
えっと、今のは河原で拾った石に氷の魔法を纏わせたアイスボットガンだ。
超伝導効果で、軌道が少し浮き上がってしまったのはご愛嬌。
ちなみにボットガンとはボットモのハンドから高圧縮で打ち出されるガンのことだ。
「……」
と心の中で説明してやった。
「リビングアーマーを一撃じゃと?」
「リビングアーマーを一撃だとぉ?」
俺のパーティーメンバーが同時に大声を上げた。
「ええまあ」
「リビングアーマーは雑魚じゃないぞ?」
「リビングアーマーは倒せないんスよ?」
「ええまあ」
俺がいつも通り無視していると二人が俺の顔を覗き込む。
「……」
「トーリよ。質問に答えるのじゃ」
「カガッチ、一撃っておかしいっスよ」
「……」
今心の中で解説してやったろう。
「氷属性の石を放っただけだ」
俺は面倒くさそうに答えた。
言葉にして説明してあげるなんて大サービスのビスビスなんだからね。
「トーリよ。お主、氷属性じゃったのか?」
「石を放った? 人間は石を放てませんよ」
「……」
ええっと面倒くさい。
なんでやることを一々言葉にして解説してやらねばならないんだ。
「聞いておるのか?」
「石は投げるものっスよ?」
「……」
ええっと面倒くさいっス。
そうこうしていると俺のボットレーダーに反応があった。
「あ、敵」
俺はボッソリと二人に教えてやる。
「なぬ?」
「え?」
トンネルダンジョンの奥から大量のリビングアーマーが現れた。
「アイスボシンガン」
俺は振り向きもせずにアイスボットガンを連射で撃ち込んだ。
連続して放たれたそれはまるでまるで一つの直線に見える。
「え?」
「むむ」
リビングアーマー達は剣を振ることも楯を構えることもなくバラバラに吹き飛んでメンタル霊の花を咲かせた。
そして俺達三人にスコールのように経験値となって降り注いだ。
「「……」」
なんか言えよ。お疲れさまとか、キャー素敵抱いてとか?
「……」
俺も無言で落ちている魔石を手で拾う。
俺一人ならばボットハンドで撫でればアイテムボックス行きだ。
だが俺はアイテムボックスを持っていることをチャラ男に見せびらかすつもりはない。
「「……」」
リビングアーマーの魔石を拾っていると二人が無言で見てくる。
視線が痛い。そんなに睨むなよ。ボッチじゃあるまいし。
「なんか前よりも強くなっておらぬか?」
「きっと俺の教え方がいいんスよ」
「なんとお主が教えなのか?」
「え? 違うっスよ」
「そもそも弱いお主がトーリに教えること一つでもあるのか?」
「ハハハ。嫌だなあ。あるに決まってるじゃないっスかあ。それにしても飛び道具って卑怯っスよねえ」
「むう。体内の水分を凍らせただけではあの威力は出ないはずじゃ」
「キリイ様。カガッチの放ったのは氷じゃなくて石っぽい弾丸でしたよ?」
「石を冷やしたのか。トーリのオリジナル技ということか?」
「……」
俺はボッチらしく無言で答えた。
さっき心の中で解説したから省略しますね。
それよりもここはダンジョン。
立ち止まって井戸端会議してていい場所じゃない。
「先に進むっスよ。カガッチは先頭を、キリイは真ん中、俺はケツモチっス」
チャラ男がリーダーにように仕切った。
暫く進むとボッチレーダーに反応あった。
「この先に罠」
「え? 罠? 何処っスか?」
「ふむ」
「あそこと、あそこ、あそこ」
「ええ?」
「罠を起動させるからその間に通り抜ける」
俺はボットガンを放ち、矢の罠を作動させた。
「そうやって事前に罠を回避したのかや?」
「……」
「飛び道具って卑怯っスよう」
「……」
「そうじゃ。そうじゃ。霊トレーサーならイマジナリーウェポンを使うのじゃ。飛び道具は狡いのじゃ」
「どうやって罠の位置が分かったんスか?」
チャラ男が俺の顔を見る。
それはだな。ボットハンドを極細に伸ばして、跳ね返った反応を感じているんだよ――と説明するのも面倒なので俺は略してこう返事をした。
「カン」
「え? 勘?」
チャラ男が眉を顰めた。
「トーリはクロミズの触手を無数に伸ばして探査に使っているようじゃ」
「うわっマジかよ、クロミズサマの加護ってハンパねえス」
「それだけではない。トーリにはクロミズの他にもなんと加……」
「スマホ」
俺はキリイが余計なことを口にする前にそう言った。
「うっ?」
キリイが口を押えた。
「え? 何スか? スマホの加護っスか?」
「いや、何でもないのじゃ」
「え? 何スか? 何でもないのじゃの加護っスか?」
ああ、うぜー。この何の意味もない会話。
もう帰りたい。眠いんですけど?
チャラ男とキリイの話を聞いていたら夜が明けてしまう。
俺はリーダーのチャラ男を差し置いてトンネルダンジョンを突き進むことにした。
「ちょっと、待つっスよ」
「余を守るのじゃあああ」
「……」
そんな声を無視して暫く進むと分岐があった。
しかも二つ三つの分岐ではない。
無数に別れていた。
上下左右に分岐している。まるで迷路のようだ。
そしてその通路全てから魔物の気配があった。
しかもどんどん近付いてくる。
一体何体いるんだ?
「敵、下がって」
「なんて数じゃ。怖いのじゃー」
「え? 魔物? どこっスか?」
「お主には敵の気配が分からぬのか? トーリを見習え、気配を察知しておる」
「……」
「え? カガッチ気配が分かるんスか?」
「アイスボチンガン」
俺はチャラ男の疑問に答える前にアイスボットガンを放った。
一発だけじゃない。何発も、何十発も、何百発も撃ち込んだ。
途切れない破裂音が、衝撃波が響き渡る。
そういえば何で俺は魔物が居るって分かったんだろう?
ボッチレーダーはまだ使っていない。
俺は昔から俺の悪口を言う敵対勢力を察知する能力に長けていた。
それと同じようなもんかな。
数十秒後、分岐から膨大なメンタル霊が溢れ出し、俺達の経験値となった。
「え? 今ので倒したんスか?」
「姿を見せる前に瞬殺とは」
「……」
「凄い経験値っスよ」
「むむむ」
「……」
「なんだかカガッチ一人で攻略できそうっスね」
「お主も戦うのじゃ」
「いやいや、俺の出番なんかないっスよ」
「余がピンチになるシチュエーションがないではないか?」
「それはカガッチに言ってくださいよ。それよりどれがボス部屋に続く通路でっスかね?」
「まあ地道に進むしかないじゃろう」
いや、そんな時間がない。
行けボッチーズ。
俺は透明化した分身を派遣した。
「むむ?」
それを見たキリイが呻いた。
キリイならば透明化したインビジブルボッチーズが見えているだろう。
余計なことを言うんじゃないぞスマホ。
と俺はキリイを睨んだ。
「ううう」
「どれだと思います? キリイ」
「むむむ、これかな」
「いや、違うっスよ」
「なぜじゃ?」
「勘っス」
そうこうしているとインビジブルボッチーズが帰還した。
「こっちだ」
俺は歩き出した。
「え? カガッチ。俺はこっちだと思うんスよねえ」
チャラ男が怪訝な顔で俺の行く手を阻む。
ちなみにチャラ男が指さした穴の先は入り口に戻る転移罠があった。
「むむむ、トーリの指す通路に行こう」
キリイが唸った。
「リーダーは俺っスよ」
「お主だけそっちに行けばよかろう」
「え? リーダーは俺っスよ」
「多数決じゃ」
「うっ。それを言い出したらリーダーの決定権ないじゃないっスか」
「ええい、うるさい」
「……」
キリイが俺の後に続き、肩をすくめたチャラ男がついてくる。
「今回だけは多数決を採用。今度は俺が決めるっスからね」
「使えないリーダーじゃのう」
キリイが肩をすくめた。
「なっ、そんな本当のことを言わなくてもいいじゃないっスか、いくらキリイでも言っていいことと、悪いことがあるっスよ。今のは悪いことっス」
「悪いことじゃと?お主、余に文句でも?」
「ないけどありますよ」
「なんじゃとお。余を誰だと思っておるのじゃ?」
「キリイはA級霊トレーサーだから俺と同じ、でもリーダーである俺のほうが上」
「ほほう、余に対してよくもそんな言葉を言えたのう?」
「嫌だなあ。冗談っスよう」
「お主の冗談は面白くないのだ」
あー。うるさい。そうだ。
パーティー仲間だからといって一緒に行動する必要はないのでは?
パーティーとは魂の深層意識化で共有化されているから物理的な距離は影響しないのでは?
一回試してみよう。
「先に行く」
「え?」
「はあ? ちょっとカガッチ。リーダーは俺っスよ」
俺はチャラ男の静止を聞く前に走り出した。
ボットレーダーを伸ばし、落とし穴を飛び越える。
飛び出した槍をへし折る。
落下する天井が落下する前に通り過ぎる。
避けきれない矢は、アイテムボックスに収納する。
高速で流れるダンジョンの赤い照明が俺の視界を点滅させる。
急カーブはボットハンドを伸ばして壁を掴み、アンカー代わりにして曲がる。
それでも曲がりきれない角は壁を走って進んだ。
そんな感じで暫く突き進むと大部屋があった。
中からリビングアーマーの気配がする。
リビングアーマー達はメンタル霊の息を殺し、彫像の様に身動き一つせず、俺の侵入を待っている。
だがその作戦はキリヒメサマの極悪ダンジョンで既に知っている。
振り返るもチャラ男はまだ来ていない。
誰にも見られていない。
「アイスボッチワールド」
俺は部屋の中に氷魔法を放ち、待機中のリビングアーマーを凍らせる。
「ボットキャノン」
そしてただの河原の石を連写した。
途切れない金属音が、衝突音がビートを刻む。
それはまさにボチンガン。
リビングアーマーだったメンタル霊が部屋の中に溢れ、魔石が床を鳴らした。
俺は溢れたメンタル霊を吸収し、落ちている魔石をボットハンドで撫でてアイテムボックスに収納すると奥の扉に向かった。
それは豪華な模様の扉。
間違いない。この先がボス部屋だろう。
このまま一人で入るか、皆を待つか?
考えるまでもない。俺はボッチなのだ。
ソロ活動を最優先。
今までの俺ならば黙って入っていただろう。
だが今はパーティーメンバーなのだ。
チャラ男とキリヒメサマのことだ。
このまま一人で突入したらグチグチ言われるだろう。
ボレボレだぜ。
俺は侵入するのを辞めた。
そしてスマホを取り出すと、キリイことキリヒメサマに電話をかけた。
「なんじゃ?」
「今どこ?」
「今どこじゃない。余を置いていきおって、余を守るのがお主の仕事であろう」
キリイの怒鳴り声が耳を打った。
「え? なんでダンジョンで電話してるんスかああああ」
チャラ男の叫びがスマホの向こうから聞こえる。
「ボス部屋の前」
俺は棒読みで言った。
「そこはどこじゃ?」
「案内を送る」
「はよせい」
「何でダンジョンでスマホが使えるんスかああああめ」
俺は電話を切った。
そして二人の元にボッチーズを送った。
ボッチーズが二人を連れてくるまでの時間を利用して、俺は倒した魔物の魔石を分別を始めた。
高く売れそうなリビングアーマーの魔石が百三十個、その他の雑魚魔石が五十六個。
三人で山分けしてもとんでもない金額になるだろう。
だが高校生の俺が家やマンションを買うわけにもいかない。
だからとりあえず貯金かな。
そもそもボッチのコミュ障の俺が、チームで働く会社員になれる気がしない。
「ぜーぜーぜー」
「お主、遅いのじゃ」
暫くすると二人が到着した。
「いやいや、キリイが異常なんスよ。A級霊トレーサーレベルって嘘ですよね? A級霊トレーサーはこんなに速く走れませんよ」
「ええい、ごちゃごちゃうるさい。トーリよ一人でボス部屋に入らなかったことは褒めてやろう。だがそれ以外は駄目だ。なっとらん。余を守らんかい」
「そうっスよ。リーダーは俺っスよ。なんで置いてけぼりにするんスか?」
「……」
あーうるさい。わざわざ待ってやったのに文句を言われるなんて、これだからパーティーは嫌いだ。
俺は黙ってボス部屋の扉を開けた。
「ちょっと聞いておるのか?」
「ちょっと聞いているんスか」
俺は二人の声を背にボス部屋に入った。
そこは巨大な空間だった。
壁や天井はトンネルのような見た目だが、その大きさが異常だった。
ドームのような高い天井にはトンネルの天井に設置されている送風機が並び、赤やオレンジの照明が濡れたアスファルトの床に怪しく反射していた。
「ボス部屋にしてはデカくないっスか?」
「ボス部屋の大きさはボスに依存する。トーリよ。油断するな」
「……」
チャラ男とキリイがボス部屋に足を踏み入れたその瞬間、壁や天井が奥に移動していく。
天井の壁や天井を這うパイプが蔓のように成長していく。
送風機が天井から芽のように生える。
「むむ」
入ってきた二人のメンタル霊、いやキリイことキリヒメサマのメンタル霊に反応したのだろう。
キリヒメサマはあんなんでも、れっきとしたヤオロズだ。
その保有メンタル霊は膨大のはずだ。
そして俺のメンタル霊も膨大。
どうやら暴走ダンジョンのボスは俺とキリイのせいでランクが上がったようだ。
「部屋が広がってるっスよ?」
「来るぞよ」
ボス部屋の天井に暗雲のようなメンタル霊が渦を巻き台風の目のような中心から巨大な何かが現れた。
崖が現れ、その壁面は鈍い光を放っていた。
それは壁じゃない。鎧だ。巨大な鎧、巨大な剣、巨大な盾だった。
「あれは鉄巨人じゃな」
「鉄なんスか?」
その見た目は明らかにリビングアーマー種。
だがサイズが段違いだった。実物大の某モバイルスーツぐらいはあるだろうか?
「鉄巨人。全高十三メートル強のリビングアーマーじゃ。三人に倒すにはちょっと難しいぞ?」
「三人どころか、複数レイドでも組まなきゃ無理っスよおおお」
巨大なリビングアーマーが床を、大地を揺らした。
お読みいただきありがとうございました。




