84 ゴミ屋敷ダンジョンの魔王対ボッチの魔王
「我は魔王アバドン……全てを喰らい尽す暴食の王だがや」
それは人間離れした真っ白の肌と真っ赤な瞳を燃え上がらせた美しい存在だった。
これまでのダンジョンボスのような巨人でも怪物でもない人間サイズ。
だがそのお胸は、そのくびれは、その長い足は人間以上だった。
圧倒的な美があった。
そして同時に恐ろしいメンタル霊を放つ存在であった。
リンダ先生で美女慣れしている俺でさえ見惚れるほどの絶世の美女だった。
ダンジョンのボスが美女だなんて聞いてない。
つか健全な男子的にもポリコレ的にも美女になんか攻撃できないだろう。
「ほほう、今回はこういう姿に固着したがや?」
魔王アバドンが自分の腕を裏表と見て、その豊満な体を抱きしめた。
今回? 固着だと? どういう意味だ?
それになんだか訛っているのは気のせいだろうか?
「どどど、どういうことだ?」
俺はあまりの驚きで、噛みながらありきたりな質問を口走っていた。
「我には固有の姿はないがね。この世界の存在が観測することで我の外観は固着するだがや……つまりこの姿はおみゃーさんが観測して望んだ姿だがや」
魔王アバドンが真っ赤な指を真っ赤な唇に当ててそう言った。
「俺のせいかよ、つかなんで名古屋弁なんだよ。その喋り方で美女の見た目が台無しじゃねえか」
「そりゃあ、中身はオッサンだからだがや」
魔王アバドンが冷酷な目で俺を見た。
「おっさんかよ」
「案ずるな。我がこの姿でいるのはおみゃーが生きている間……」
魔王アバドンが両手を広げると長い髪が舞い上がった。
「ほんの数分のことだがや……さあ死ぬだがや」
膨大なメンタル霊が溢れ、俺の肌をボチボチと焼いた。
「ギョーリ」
「くっそ。ルフィー逃げろ」
「ギャダ。ミルフィーアイ」
ミルフィーが魔王アバドンに向けて目からボットビームを放った。
「効かんがね」
ボットビームが魔王アバドンに命中する寸前に消えた。
「ナンギャト?」
なんだと? と茫然とするミルフィー。
「今度はこっちの番だがや」
魔王アバドンが右手を前に突き出した。
溢れたメンタル霊が渦を巻き、指向性を持つ。
「ミルフィー危ない逃げろ」
「ギョエ?」
「石死の旋風だがや」
俺はボットハンドでミルフィーを掴むと、思いっきり引っ張った。
ミルフィーがいた場所が閃光に包まれ、同時に高熱、絶対零度と衝撃波が発生した。
ダンジョンの壁が石化し、表面が粉々に砕け散った。
「なっ」
「ギマのギャニ?」
ミルフィーが大きな目で俺に聞くが俺にも分からん。
「やるだがね。我の石死の旋風はメンタル霊を高圧縮した純粋メンタル霊の旋風だがや」
魔王アバドンが腕を下ろし、美しい眉を上げながら自分の技の説明をしてくれた。
「ギョンナ」
ミルフィーがよく分からなさそうな顔で動揺した。
案ずるな――俺もよく分かっていない。
こいるはヤバイ。これまでの中で一番強い。
あの訛りと美しい見た目に騙されるな。
溢れ出るメンタル霊はヤオロズ級かそれ以上。
ここがどこだか思い出せ――ここはボス部屋だ。
しかもボスを倒した後のボス――いわば裏ボス。
しかも魔に王と書いて――魔王。
だが案ずるな。恐れるな。
俺はボッチの王、ボ王だ。
「ぷっ」
俺は噴出した。
って激しく案ずるわ。ボ王って何だよ。
もうその名前からして、最弱感が溢れ出ているじゃねえか。
「ギョーリ」
ミルフィーが心配したように俺を見る。
「余裕のようだがね?」
魔王アバドンが俺が自分の妄想で噴出したことに嫌悪感を露わにした。
ミルフィー。こいつは俺が相手をする――俺は心の中で呼び掛けた。
「ギャダ。ミルフィーもギャギャカウ」
「ミルフィーも戦うだって? 武器もないのにどうやって戦うつもりだ?」
「ゲモ……」
「でもじゃない。ここは俺に任せておけ」
「ギョーリ、ギョゲメン」
だからギョゲメンでもイケメンでもねーし、とにかく隅で隠れてろ。
このボ王である俺を怒らせたらどうなるか?
思い知らせてやろう。
「ボオウとはなんのことだがね?」
魔王アバドンが首を傾げた。
「……ボッチの王のことだ」
「それはなんのことだがね?」
つかボ王のことを深く聞いてくるなよ。ノリと空気と雰囲気で察しろよ。
「敵のお前には答えない」
俺はミルフィーが下がったのを確認することなく両手を前に突き出した。
全力でいく。
クロミズ、キンミズ、黒牛守、力を貸せ。
俺の中の神々がサムズアップしたような気がした。
「ヒトキレボッチモード」
俺の体が加護に包まれ、シュインシュインと黄金の光を纏ったような気がした。
「人斬れ暴風モード? ななな、なんだねそれは?」
魔王アバドンが、後退った。
違う。ヒトキレボッチモードだ。
ヒトキレボッチモードとは――ええいそんなこと聞いてくるなよ。
そもそもコミュ障のボ王である俺は他人の質問には答えない。
俺の人生に質問されたことなど皆無。
孤高の存在たる俺は自分のことを誰かに説明することなどない。
いつもなら無言で返すところだが――。
「……ハイパーボットガン」
俺は小さな声でそう呟いた。
俺の掌から何かが飛び出した。
ハイパーと名が付いているだけあって通常のボットガンよりも、はるかに強力だ。
大きめの河原の石が音速を超え、衝撃波と爆裂音が俺の肌を揺らす。
だがしかし、魔王アバドンはハイパーボットガンを避けも隠れもしない。
「無駄だがね」
白く細い妖艶な腕を前に突き出した魔王アバドンがそう言った。
「はっ?」
俺は細い目を、短く瞬きして二度見した。
「は?」
そして同じ言葉を二度放った。
ハイパーボットガンで放った河原の石が忽然と消えたのだ。
命中すら、跳ね返してすらいない。
魔王アバドンは完全に身動ぎ一つしていない。
ただ、命中する寸前に完全に消えたのだ。
まさか?
そんな馬鹿な。
あり得ない。
俺の額に汗が浮かぶ。
この物理法則を無視した消え方には見覚えがある。
とんでもなく嫌な予感がする。
みんなで作っていたドミノ倒しを倒してしまった時以来の冷汗が溢れ出した。
「まままま、まさか? 食ったのか?」
俺は震える声でそう尋ねた。
「ああ、ゲフッ。不味いがね」
魔王アバドンが渋い顔をする。
俺のハイパーなボットガンを喰ったのだ。
なんてことだ。俺の攻撃を喰った。
そんなずっこい。卑怯だぞ。正々堂々と勝負しろや。
あれは強敵ボッチよ。
ああ、分かっているボッチ君。
ボッチ君の額に汗が浮かんでいた。
初めて感じる危機感。
敵が俺と同じ技を使用しただと?
このモヤモヤ感、そう簡単に飲み込めるものではない。
「くっそおおおおお。食われただとおおおおお」
俺は心の底から叫んだ。
「喰ったがね。でも不味いがね」
魔王アバドンが綺麗な口を歪めた。
「ちち、ちくしょう。おおお、俺の最大の技が効かないなんてええええ」
「効かないがね。あれが最大だとは笑わせるがね」
魔王アバドンが目を閉じて笑った。
「ななな、なんてことだ……こんなん勝てる気がしない」
「我は魔王だがや。人が勝てる相手ではないがね」
魔王アバドンが綺麗な手を広げた。
「くっそ、おおお俺なんかゴミだ。生きていても仕方ないゴミだ。素粒子レベルまで小さくなって消えてなくなってしまえばいい。そうだ俺なんて死のう……極大魔法プロミネンスボッチ」
俺は極大魔法を不意打ち気味で、悔しがった振りで放った。
「な?」
魔王アバドンは完全に油断していた。
調子に乗っていた。
それこそ俺の卑怯なポンコツブレインが立案した作戦。
油断させて攻撃する。窮ボ猫を噛む作戦。
この魔法はその名の通りプロミネンス――そう恒星の表面温度に匹敵する極大魔法だ。
こんな狭い密室で恒星の温度に匹敵する物体が出現したらどうなるか的な科学考証は無意味だ。
何故ならここは物理法則の通用しない半物質ダンジョンだからだ。
物理法則は半分作用する。半分は気合、精神でなんとかなる。
半分とはいえ、放ったプロミネンスボッチの膨大な輻射熱で俺の荒れ気味のボチ肌がボッチり焼けそうになる。
それほどの高熱。それほどの熱量を誇っていた。
「だがそれも無駄だがね」
だが俺の極大魔法プロミネンスボッチが忽然と消失した。
おいおい、今のは恒星の表面温度に匹敵するっていう設定の魔法だぞ。
猫舌ならお皿に戻しちゃう温度だぞ。
熱くて食べれない作戦は失敗か?
これでは冷たくて頭キンキンでアイス食べれない的な絶対零度魔法も効果がないか。
熱いのも冷たいのダメ。
「どうしたがや??」
魔王アバドンが美しい目が嘲笑気味に細めた。
笑っていられるのも今のうちだ。俺のボッチ魔法はこんなものじゃない。
「深遠なる闇の奥から我の願いと共に眼前の魂を吸い尽くし、焼き払え。代償としてその魂を捧げる……ノスフェラトゥフレイム」
ノスフェラトゥフレイムが紫色の炎を上げながら魔王アバドンに向かって邁進する。
周囲の塵を、メンタル霊の残滓を食らい成長しながら突き進んでいく。
そうだ。そのまま全てを喰らい尽くせ。
これはダンジョンや魔物を構成するメンタル霊そのものを喰らうという卑怯極まりない極悪魔法。
さあ、俺の中二マインドがたっぷりと染み込んだ恥ずかしい中二魔法をとくと味わうがいい。
「ほほう。これは珍しい基幹吸収系魔法かね?……だが無駄だがね」
「え?」
「ゲフ」
全てを喰らい尽くすはずの凶悪魔法が逆に喰われた。
「栄養になったがね」
魔王アバドンが口を拭った。
まさか俺の中二マインドを栄養にした?
俺を踏み台にしたのか?
なんて卑怯な――そんなの狡い。ボ王たる俺が勝てる要素が一ミクロンもない。
いや、落ち着け。何かあるはずだ。
まだ戦いのゴングは鳴り響いた直後。
まだまだ慌てるような時間ではなないボッチよ。
心の中のイマジナリーフレンドが指を振った。
いや慌てるだろ。俺の最強魔法が食べられちゃったんだぞ?
なんでも食べちゃう敵――他に攻撃手段がないか考えろ。思い出せ。
暴食系の敵はバトル漫画でありがちな設定だ。
暴食系の敵は飽和状態にさせて胃袋を破裂させるのがデフォだ。
あいつが食い切れないほどの物を――胃袋が破れるまで与え続ければいいだけだ。
幸いにも俺にはアイテムボックスがある。
そしてその中には過去の偉人達の武器が大量に収納されている。
今こそ、コンテンツ業界の先人たちのアイデアを拝借させてもらう時だ。
今まで勝手はこと言ってごめんなさない。
「銀河千本万華鏡世界」
俺はクロミズが貯め込んでいた過去の偉人達のイマジナリーウェポンを放った。
その数は千本。
それが同時に魔王アバドンに向かって突き進む。
その刃が星のように光り輝く。
千本ものイマジナリーウェポンなんて喰いきれるはずがない。
過去の爺ちゃん婆ちゃん達の剣よ。槍よ。矢よ。奴の胃袋ごと貫け。
「甘いがね。おみゃーが収納できていたのなら我にも収納可能。そうは考えなかったのがや?」
魔王アバドンが俺の放った千本のイマジナリーウェポンを喰ってそう言った。
くっそう。失敗だ。千本も食われた、取られた。
なんとかして取り返さないと、偉人達の爺ちゃん婆ちゃん達に祟られ、呪われちゃう。
俺は高齢者の言うことは、人生の先輩の言うことは絶対だと爺ちゃんに叩きこまれてれてんだ。
ええい、そんなことよりも眼前の敵に集中しろ。
何かないか? 湯水のように与え続けてもいいものはないか?
「!!」
あるじゃん。
クロミズ、河原で拾った不法投棄のゴミを覚えているか?
俺の中のミニクロミズが、その手があったかとポンと手を叩いたような気がした。
「リバーサイドガベージボットガン」
俺の両手から加速された壊れた冷蔵庫が、昔のブラウン管のテレビが、エアコンの室外機が、洗濯機が音速を超えて射出された。
河原で拾った粗大ゴミがまさかこんな所で役に立つとは――はっ?
まさかクロミズはこの戦いを予知していた? だから河原で粗大ごみを収納したのか?
だが俺の中のクロミズが不思議そうな顔をしたような気がした。
ただ食い意地が張っていただけのようだ。
「ここがどこか分かっとりゃーすか? ゴミは大好物だがね」
冷蔵庫が、テレビが、洗濯機が一瞬で消えた。
魔王アバドンの身体が更にひとまわり大きくなって萎んだ。
くっそ。まだ奴の胃袋は破れないのか?
あのスレンダー巨乳のどこに胃袋があるんだよ。
あのお胸だ。きっとあのお胸に違いない。
あれを揉みしだけば、ゲップしちゃうはずだ。
だが俺にそんな破廉恥行為は不可能。
「食べ過ぎて胃袋が破裂することはないがね。ただただ、その分、メンタル霊に変換されるだけだがね……ゲップ」
魔王アバドンは楊枝で歯を綺麗にしている。
「……」
こいつ見た目美女のくせに口調と仕草がおっさんすぎる。
このまま奴を攻撃すればするほど成長させてしまう。
考えろ、何か方法はないか?
俺が攻撃手段を考えていると、魔王アバドンが綺麗になった白い歯を見せた。
「今度はこっちのターンだがね」
俺は嫌な予感をボチ肌で感じて慌ててその場から飛んだ。
何かが大爆発した。
このメンタル霊は知っている。
この紫色の炎はよく知っている。
「……まさか俺の放ったノスフェラトゥフレイム?」
「その通りだがや」
魔王アバドンが俺の心を読んだように妖艶に笑った。
奪った魔法で攻撃を返すのは俺の十八番だぞ。
そんな卑怯な技、狡い。
こいつは俺と同じ戦いをする卑怯な奴だ。
「さっきも言ったがこれは大食い対決だがや?」
魔王アバドンが胸を揺らした。
「何が大食い対決だ。そんな手に乗るか馬鹿」
俺は偉人達のイマジナリーウェポンの中からお気に入りの武蔵我聞と阿修羅我聞を構え、魔王アバドンに向かってジグザグに走り出した。
俺の走ったすぐ後ろが爆発する。
重力を無視して壁と天井を縦横無尽に走り魔王アバドンに向かって突き進む。
魔王アバドンが放った純粋メンタル霊弾を弾き、避け、飛ぶ。
そしてボットハンドを伸ばして壁を、天井を掴み強制的にインメルマンターン。
俺の横を、後ろ、下を、頭上を魔王アバドンの攻撃が通り過ぎる。
魔王アバドンがメンタル霊の塊を指で弾いた。
音速を超えたメンタル霊が俺に迫る。
俺は慌てて回避するも、俺に向かって誘導する。
誘導弾? くっそ、俺は阿修羅我聞で切り裂いた。
誘導メンタル霊が飛散し、破片が俺の肩を抉った。
「くっ」
少しかすっただけでこの痛み。
痛みを感じたいうことは、加護が効いていない。
クロミズの無敵の衝撃無効の加護も、同等か格上には効果がない。
こんなんまともに喰らったら一撃で沈ボチする。
くっそう。このままでは負ける。
攻撃しても食べられる。食べた攻撃を俺に放つ。
なんて卑怯な奴なんだ。
俺の物語の主人公である俺が卑怯でも構わない。
だが敵が卑怯なのはダメだ。
万策尽きまくった。まるで勝てる気がしない。
くっそおお。俺なんかこんなものだ。
ボッチボッチと叫ぶことしかできない最低の男だ。
ああ、生まれてきてごめんなさい。
調子に乗ってすいませんでした。
俺の心が、戦意がボチっと折れかかる。
「ギョーリ」
ミルフィーの声がした。
「ギョーリ、ギャンギャッテ」
頑張ってだって?
そうだ。俺は何をボッチみたいにウジウジしているのだ。
俺はまだ立っている。息をしている。動ける。弱音を吐ける。
――それ即ち戦えるということだ。
俺のやる気ボッチメーターがシンクログラフ反転。
クロミズ、残りのメンタル霊は?
ふっ、心配するなとクロミズが言ったような気がする。
虚勢を張りやがって、もう俺の中のメンタル霊が残り少ないことは知っている。
だからといって何もせずに負けるのは卒業したのだ。
イジメが終わるまで無抵抗で耐えしのぐ俺はもういない。
ここにいるのはボッチの中のボッチ。
覇王ボ王。
「ボットフレイム」
「ボットアイスワールド」
「ボットスピア」
「ボットアロー」
「ボットミサイル」
俺の放った魔法が魔王アバドンの我儘ボディに突き刺さる。
遠慮はなしだ。新人戦の為に温存なんてしない。
こいつは強い。全力以上で挑まねば勝てない。
出し惜しみも、ボチ惜しみもしない。
「無駄だがね」
だがしかし俺の放った全力攻撃が一瞬で喰われた。
「くっそう」
少しはもったいぶって、ちびちび攻撃すればよかった。
やはり効果がない。このまま攻撃を続けては消耗するだけだ。
「では今度はこっちのターンだがね」
魔王アバドンが腕を広げると無数のメンタル霊の槍が放たれた。
俺はボットハンドで壁を床を掴んで空中で姿勢を変え、回避。
俺もあいつに倣って、あいつの放ったメンタル弾を吸収するのもありだが、何か裏があるはずだ。
「きっと大食い勝負と言いつつ毒か何かを混ぜているに違いない」
「そんなこすい手段は使わないがね」
魔王アバドンが眉をしかめた。
「どうだか? 瞬歩」
俺は床を蹴って魔王アバドンに向かって水平に飛んだ。
奥義瞬歩。それは物理法則を超える。
加速された俺の五感は解き放たれ、鋭利に研ぎ澄まされる。
そして目の前の魔王アバドンを阿修羅我聞で袈裟斬り、武蔵我聞で逆袈裟斬りするも、既に魔王アバドンはそこにいない。
「甘いがね」
どこからが魔王アバドンの声がするが俺にはボットレーダーがある。
「甘い」
俺は三百六十度オールレンジで空間を把握している。
どこに隠れようがお見通しだ。
「え?」
あれ? いない。
俺の万能ボットレーダーに魔王アバドンの反応がないのだ。
「ぐはっ」
突然、横からの激しい衝撃が俺を襲う。
いつの間にか横にいた魔王アバドンの太ももが蹴り上がっている。
何故そこにいる?
何故パンツが見えない? いやおっさんのパンツなんて見たくない。
どういうことだ? ボッチレーダーに反応なかったぞ。
まさかステルススキル持ち? ええいそんなはずはない。
俺はボットレーダーを魔王アバドンに向けて放った。
カーボンナノチューブ並みの細さに引き伸ばされ、目に見えない細さのボット細胞が魔王アバドンに触れるも無反応。
「まあまあだがや」
くっそ、またしても喰われた。
「触覚レーダーも効かないのか」
「当たり前だがね。我は暴食の魔王アバドンだがね」
魔王アバドンが楽しそうに大きな胸を揺らした。
中身がおっさんでなければガン見していたころだ。
どうするボッチ君?
そんなの知らないボッチよ。
ボッチ君は俺の分身だから俺以上の知恵はない。
だから使えない。全く使えない。窮地になっても文句を言うことしかできない。
それはまるで俺だ。俺は何事にも文句しか言わない。
だが今は文句を言っている場合ではない。
俺のボッチレーダーが効かない。
恐らくメンタル霊で分身したボッチーズも喰われてしまうだけだろう。
ええい。 だったらボッチレーダーを使わないだけだ。
俺にはこの細いボッチアイがある。
加護によって加速されたこの細い目でお前の姿は丸見えだ。
「あれ? いない」
魔王アバドンがボス部屋から消えていた。
「どこを見ているがね?」
魔王アバドンの声が下から聞こえる。
下? 俺は恐る恐る下を見ると、魔王アバドンの美しい顔があった。
「ここは我の裏ボス部屋だがね、好きなところに移動可能だがね」
魔王アバドンがボス部屋のゴミに埋もれた床をシンクロナイズドスイミングのように足だけを出して回転した。
完全に馬鹿にされていた。
俺の中でボチボチと怒りが込み上げる。
俺のプライドはオゾン層よりも高いんだぞ。
それにしても綺麗な足ですね――ええい騙されるな。こいつはおっさん。オッサン。
「……」
俺が困っていると黒牛守が力を貸そうかと拳を掲げたような気がした。
助かるぜ。
俺はノーモーションで魔王アバドンの真っすぐ伸びた足を殴った。
「ギャー痛いがね。何だがね? その馬鹿力は?」
魔王アバドンがゴミと共に床を転がりながら叫んだ。
俺には筋肉大好きのゴリマッチョの黒牛守の加護があるのだ。
それにしても魔王のくせに大袈裟に転がりすぎだろ?
「痛い痛いがや、痛いなも、痛いがねえええ」
この異常な痛がりよう――もしかしてこいつ――。
お読みいただきありがとうございました。




