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80 パリピ会場

「あ、メイギャー」


 ミルフィーが一人で佐古場先輩の元に走って行った。

 ちょおっ待って、御主人様を差し置いて先に行くな。

 いつも方向音痴なのに今日は間違わないで進むの?


「あっミルフィーちゃん。ヨシツ、サカトーリ君。こっちよ」


 佐古場先輩が輝く笑顔と大きな声で手を振った。

 すると食堂にいた全員が佐古場先輩を見て驚き、その目線の先の俺達を見てさらに驚いたようだ。


「はっ?」

「え?」

「紗古馬先輩の知り合い?」

「えっと誰?」

「バカ、噂の転校生だろ」

「うわっマジか。可愛い者同士は集まるのか?」

「なんだありゃ? 同じ人間か? メチャクソ可愛い」

「すげー奇麗な髪」


 ミルフィーの姿を見て生徒達が溜息を漏らした。

 そういえばミルフィーは見た目は美少女だった。

 黙ってればサイカワ究極存在だった。

 その幼い中身とゴブ語訛りが残念過ぎて美少女だということを忘れている俺がいた。


「俺、食券買ってくるわ」

「はっ? まだ食うのか?」

「バカ、握手券だ」

「はっ? 握手券? えっと意味わかんないんですけど?」

「バカ、お前はあの旧校舎の大事件を知らないのか?」

「はっ? 大事件って?」

「あの転校生が学校見学に来た時、行列ができたんだ」

「何の行列?」

「握手の行列だ。食べ物献上すると握手してくれたんだ」

「はっ? マジか?」


 男子生徒の会話が俺のボッチイヤーに入ってきた。

 ああ、腹を空かせたミルフィーがダンジョンから抜け出し騒ぎになった時のことを言っているのだろう。

 ミルフィーは弁当をくれた生徒と握手をしていたのだ。


「俺も握手券買うぞ」


 それを聞いていた別の男子生徒が食券機に群がった。

 なるほど、あそこで食券を買ってトレイに乗せてカウンターに置くのか――この注文システムならば発声する必要がないからコミュ障ボッチの俺でも買える。


「その隣のショートカット可愛い子は誰?」

「俺のデータベースにはない。まさか彼女も転校生か?」

「彼女? でもあれ男子の制服着てるぞ?」

「まさか男の娘か」

「待て、逆から見ればイケメンだぞ」

「待て、逆から見れば可愛いぞ」

「バカそんなはずは……マジだ」

「どっちも可愛い」


 ミケのアンシンメトリースタイルに目をハートにしている男子生徒と女子生徒がいた。

 そうだろう、そうだろう。ミケの次世代型可愛さに悶絶に悶えるがいい。


「でもさあ、その隣の奴なんなん。メッチャ睨まれてんだけど?」

「うわ、マジなんなのあれ?」

「目を合わせるな殺されるぞ」

「暗殺者って実在するんだな」

「いや、あれはヒットマンだ」

「マジ怖ー。目を合わせるな」

「SP? ボディガードか?」

「だがうちの制服着てるぞ?」


 暗殺者だと? どこにいる?

 ――ああ、俺のことか。


「おそーい」


 紗古馬先輩が腰に手を当てて頬を膨らませた。


「ごめんごめん」


 ミケが顔の前に手を合わせた。

 俺達は視線のビームを浴びながら紗古馬先輩が待つ席へと向かった。




「うちの思った通り二人共、かなり良い感じよ、すんごい似合ってる」


 俺は今、食堂の片隅で美の少女の佐古場さんから頭を撫でられていた。

 もう一度言おう。紗古馬先輩の細やかで細く、綺麗な白い手が俺の脂っぽい頭皮を優しく愛撫していた。

 だがそのインパクトは皆無。

 ラッキーコンタクトイベントが絶賛開催中だというのに俺のガラスのボッチハートは通常運転。ボッチの血がモゴモゴと音を立てることなく脈拍もいたって正常。

 それもこれも全部加護のせいだ。

 衝撃無効の加護はこんな時でも発動して俺のマインドをクールボッチに保っていた。

 なあ、クロミズ、キンミズサマ。こういう時は衝撃が襲ってきてええんだよ?


「さあ。昼休みが終わっちゃう。食べましょう」


 紗古馬さんがテーブルの上にあった大きな風呂敷を解いた。

 おせち的な料理? つか何段あんのこれ? 豪華すぎだろ。

 それよりも紗古馬先輩これどうやって学校に持ってきたの?


「?」

「すご」

「スギョイ」


 俺達三人が喉を鳴らした。

 紗古馬先輩は自信満々にニコニコしながら、お重弁当を展開していく。


「「「おおおおお」」」


 明太子卵焼きにとタコさんウィンナーがブロッコリーと戯れ、豆腐ハンバーグが整列し、唐揚げ応援団がエールを送り、可愛い動物の顔が描かれた、おにぎりが並んでいた。

 さらに別のお重には小さなサンドイッチ群と焼きそば祭り。美の競演があった。


「で、こっちはサラダ。で、こっちはデザート」

「おおおおお」

「紗古馬先輩凄すぎ」

「ギョエ」

「これ先輩が作ったの?」


 俺の喉から勝手に独り言が出ていた。


「ええ、美味しいかは分からないけど」

「絶対美味しい奴や」


 俺の一人言が炸裂する。


「でしょ。ヨシツからサカトーリ君は沢山食べるって聞いてたから昨日夜頑張ったんよ、サロンに二人を置いて帰ったお詫びも含めてね」


 紗古馬先輩が胸を張った。


「マジで凄い」


 俺は胸をガン見して褒めた。


「それだけ?」


 紗古馬先輩が目を細めた。


「ガチで凄い」


 俺はじっと胸を見てさらに褒めた。


「それだけ?」


 紗古馬先輩が目をさらに細めた。


「……」


 俺は言葉に詰まった。


「なんか言えよ」


 紗古馬先輩が俺にエルボーアタックした。


「紗古馬先輩は良いお嫁さんになるねえ」


 ミケが、慌ててフォローに回った。

 激しく同意する。こんな料理を作れるなんて凄い新妻になれるよ。

 結婚してください。副会長は無理そうなんで、紗古馬先輩でいいです。

 つかキモオタコミュ障ボッチの俺が夢なんて見るな。

 いや敵わない現実。せめて夢ぐらい見させてくれよ。


「ヨシツ、料理は女の仕事じゃないわ。男も女も関係なく料理するのよ。あんた達も料理ぐらい覚えておきなさいよ。じゃないとこれからの時代ではモテないわよ? 時代錯誤って言われて結婚できないわよ。ああ、結婚だけが全てしゃないか?」

「はあ?」

「はあ? じゃない。サカトーリ君も料理覚えること」

「……」


 なんだか知らないけど俺も飛び火をくらった。

 こういう時は嵐が過ぎ去るのをダンマリボッチで耐えしのぐか、即効謝るかだ。


「「はあ、すいません」」


 俺とミケは口を揃えて謝った。

 ミケも姉ちゃんがいるのか? 謝るタイミングが俺と同じ。


「ふん。まあいいわ、とにかく美味しいかどうかは分からないけど食べて」

「ギュマイ」

「え?」


 俺の視界に残像が舞い、ミルフィーがおにぎりを口に入れた。


「!」

「ちょっとミルフィーちゃん、ラップごと食べないで」

「ミルフィーちゃん? それは食べちゃダメ」

「ギョエ?」


 ミルフィーが食べるのを止めて、頬を膨らませながら俺を見る。

 ミルフィー。絵が描いてあるのは包装だから食べられないんだ――と心の中で補足する。

 だけどもうラップごと飲み込んだよね?


「ギョイ、ギョエエエエ」


 ミルフィーが口に手を突っ込んで飲み込んだラップを吐き出した。

 その卑猥な音に食堂にいた皆の手が止まる。


「す、すいません」


 俺はミルフィーの代わりに謝った。


「い、いえいえ、ど、どうぞ。召し上がれ」

「はい」


 気を取り直して俺が手に取ったおにぎりには可愛いピンクの熊さんが描かれていた。

 食べるのが惜しい。そうだ写真。俺はスマホを取り出して無我夢中で写真を撮る。

 勿論ムッツリスケベと陰で噂される俺が紗古馬先輩の胸をフレーム内に納めるのは忘れない。

 正々堂々と紗古馬さんの可愛い顔を撮る勇気はない。

 だから身体パーツだけで我慢だ。十分だ。一生もんの宝じゃ。


「やだ恥ずかしいから撮らないで」

「!」


 隠し撮りしていたのがバレた?


「え? でも凄いよ。撮っとかないと勿体ないよ」


 ミケもスマホを掲げたことで俺の隠し撮りが有耶無耶になった。


「家で沢山撮ったから大丈夫。食べて食べて、昼休み終わっちゃうから」

「ギャア、ギタギャキギャス」


 ミルフィーが俺の横から手を出してお重の一つを手に取ると、大きく開けた小さな口に流し込んだ。


「え?」

「は?」


 紗古馬先輩とミケが大きな目を大きく見開いた。

 なんで一人で全部食ってんだよ。俺の分も残しておけよ。


「ミルフィー待て」


 俺はミルフィーを止めようとするも――。


「ギタギャキギャス」


 ミルフィーが別のお重を奪って一瞬で平らげた。


「「え?」」


 食堂が沈黙に包まれた。

 ミルフィーの見た目は美少女だ。

 その美少女がお重を一口で平らげたのだ。

 ミルフィー、マテ、ダメ。メッ。俺の分まで残しておけ。


「ギャイ?」


 ミルフィーはそう言いながら次のお重に手をかけた。

 そうはさせない。

 俺は別のお重を先回りして確保した。


「ミルフィー家で食べるようにゆっくり噛んで食べなさい。ああ、飲まない。最低二十回は噛め。おかずは交互に食べなさい」

「ギョーリギャーン」


 ミルフィーが唐揚げを俺の目に入れようとした。


「そこは口じゃねーよ」

「ギャテテ」

「サカトーリ君って喋るのね」

「うん」

「へーでも凄い食欲ね。聞いてた以上だわ。これじゃあ足りないかも」

「ミルフィーてめえ、両手に持つな。つか手掴みかよ」

「ギャテテ。ギュマイ。メイギャ。ギュマイ」

「ミルフィー、口に入れたままで喋るな」


 俺はミルフィーを押さえつけようとするが、すり抜け走り出した。


「ギュマイギュマイ」

「ミルフィー走るな」


 俺は必死に追いかける。


「ギュマイギュマイ」

「ミルフィー踊るな」

「あのトーリ君。ミルフィーちゃんストップ」


 ミケが叫んだ。


「ギャニ?」

「なんだ?」

「食事はみんなで一緒にゆっくり食べるともっと美味しいよ」

「ギャニ?」

「なんだと?」


 俺とミルフィーは疑心暗鬼な表情で席に戻ると、ゆっくり食べ始めた。


「「……」」

「ヨシツの言う通り、みんなで食べるご飯は美味しいでしょう?」


 紗古馬先輩が笑った。

 正直、味はあんまり変わらない。元から旨いからだろうか?

 ミルフィーも味が変わらないのだが? という目で俺を見てきた。


「目で味わう、耳で味わう。空気で味わうんだよ」


 ミケが指を立てた。


「「……」」


 自信満々なミケの顔を曇らせたくない。


「確かに」

「ギュマイカモ」


 俺とミルフィーはそう答えた。


「でしょ」

「ヨシツ。あんた野獣調教師ね」

「ははは。うちには小さい弟達がいるからね」


 ミケがおにぎりを取り、片手を添えながら食べ始めた。

 こいつ女子か。いや、女子とか男子とかジェンダー的なことを言っている時代ではない。


 ちょっと待て、ミルフィーは精神年齢幼稚園児かもしれないが俺は立派な男子高校せいだぞ? ミケの小さな弟と一緒の扱いってそりゃないっスわ――という目で俺は唐揚げを食べた。


「紗古馬先輩、これ凄い美味しいよ」

「そう? でももう二度と作らないわよ」


 ミケの称賛に紗古馬先輩が笑いながらそう言った。


「え?」

「ギャニ?」


 俺とミルフィーがフリーズした。


「冗談よ。気が向いたら作ってくるから、それよりも二人共、うちの言うことが分かった?」


 紗古馬さんがサラダを取り皿に取りながら可愛い笑顔で勝ち誇った。


「「なんだっけ?」」


 俺とミケは素っ頓狂で曖昧な返事をした。


「身だしなみを身綺麗にすること。他人に不快感を与えないこと、サカトーリ君は食べ方が汚いから直すこと」

「はあ?」


 ボチの食べ方が汚いですと? ショック。もうだめだ死のう。

 どこからどう見てもルフィーのほうが汚いですやん――という目でミルフィーを見てから紗古馬先輩を見た。


「ミルフィーちゃんは可愛い許されるの」

「なっ」

「ギャイ?」


 ミルフィーが俺の視線に気付いて首を傾げた。

 可愛ければ許されるってのは毎回毎回、納得がいかねえー。


「とにかく二人は無事にイメチェン成功したからこれでイジメられないわね」

「「はあ」」


 俺とミケはさらに素っ頓狂な声を上げた。


「今度はあのサロンにお客さんとして行ってあげてね」

「でもあそこ人気で中々予約取れないって聞いたけど?」

「え? そう? うちは直ぐに取れるけど?」


 ミケの言葉に紗古馬さんが不思議そうな顔をした。


「そういうこと言ってると紗古馬先輩もイジメられますよ」


 ミケが苦笑いをした。


「でも、うちがイジメられたら助けてくれるんでしょ? サカトーリ君」


 紗古馬さんが俺を見て満面の笑顔を浮かべた。

 クッソ可愛いい。安心してください。

 紗古馬さんをイジメる奴がいたら俺が全員倒しますよ。

 前歯どころか、心にトラウマを刻み込んで転生しても悪夢にうなされるようにしてやります――と俺は心の中で白い歯を光らせた。


「……嘘でも俺が助けるとか言いなさいよう。だからモテないのよサカトーリ君」


 紗古馬さんが俺の肩を小突いた。

 女子から突っ込みを入れられたが俺には衝撃は襲ってこない。

 だが男子生徒の嫉妬のビームが俺に突き刺さる。

 あの? わざと? せっかくテンドー君の標的から外れたのに、あんたまた俺をイジメのターゲットにしたいんですかい?


「ねえ、聞いてる? サカトーリ君」

「はあ。はいはい」


 俺は男子生徒の攻撃ビームを受けながら返事をした。


「ミルフィーもタスケギュ」

「ありがとうミルフィーちゃん。でもこの学校にはイジメるとか、そんな悪い奴いないと思うけどね」


 紗古馬さんが周囲を見渡した。

 俺に嫉妬ビームを放っていた生徒達が目を逸らした。

 どうだ参ったか? 俺は虎の威を借るボッチなのだ。

 イジメられっ子が権力の傘に入ったらどうするか分かるな?

 控えおろう。この学園三位のプリチー存在が目に入らぬか? 頭が高い。ひれ伏せ。


「ねえ――サカトーリ君。ねえ、うちの話聞いてる?」


 紗古馬さんがなんか言った。

 絶賛妄想中で全く聞いてませんでした。


「執行部ってなにをするの?」

「ゲーキタベキュ」

「「え?」」

「ケーキを食べる」


 困惑する二人に俺はミルフィーの言葉を訳した。


「は? ちょっと意味わかんない」

「ははは。ケーキ食べるのが仕事なんだってさ」


 ミケにはダンジョンのことは言えないのでケーキを食べるとだけ言っておいたのだ。


「ゲーキゲーキ」


 ミルフィーが両手を上げてボッチダンスを踊り出した。


「は? 全然意味わかんない」

「ミルフィー座りなさい」

「ギャダ」


 ミルフィーが走り出した。


「あの、これ」


 ミルフィーの前に一人の男子生徒が何かを差し出した――食券だ。

 ミルフィー、それは食券といって食べ物と交換できる紙だから食べちゃダメだ。


「ギャイ?」


 ミルフィーは不思議そうな顔で食券を見つめている。


「あの、これ食べます? 間違って買っちゃったんですよお」


 別の男子生徒がミルフィーにプレートを差し出した。

 こいつ、できる。ミルフィーには食券よりも食べ物そのものが効果絶大だと見抜いている。


「大盛バーギュ?」


 案の定、ミルフィーが涎を垂らす勢いで目を輝かせた。


「大盛じゃないけどね。ハハハ……あの握手してください」

「ギャイ」


 ミルフィーはプレートを受け取りながら男子生徒と握手した。

 その光景に食堂が一気にざわついた。握手券が券売機で買えるのだ。


「あ、ありがとうございます。ありがとうございます」

「あの、これも食べます? 握手してください」

「ギャイ」

「写真いいですか?」

「ギャイ」


 ミルフィーはあっという間にプレートを持った男子生徒に埋もれた。


「あーミルフィーちゃん、紗古馬先輩の弁当けっこう食べたよね」

「うん、一人で半分ぐらい食べてた」

「あの細い身体のどこに収まっているのだろうね?」

「うん、私より細い人なんて生徒会長と副会長だけだと思ってた」

「そういうこと言ってるとイジメられますよ」

「事実だから平気、でもミルフィーちゃん大丈夫? お腹こわさない?」


「……」


 紗古馬先輩とミケが俺に答えを求めるが俺は答えない。いや、答えられない。

 ミルフィーの正体は大食いの神様の眷族で魔物だなんて言えない。

 何て答えようかと悩んでいると昼休みが終わり、握手会は強制終了した。


 俺達は笑顔で手を振る紗古馬先輩と別れて教室に戻った。

 すると井の中ズが一斉に俺を睨んだ。


「紗古馬先輩の手料理はおいしかったか?」

「ああ」

「そうか。それはよかったな」

「ああ」

「それで次はいつだ?」


 井の中ズのリーダーが俺の肩を掴む。


「知らん」


 俺はそっぽを向いた。


「知らんじゃねーじ、次は絶対に俺達も行くからな」

「知らん」

「てめえ。なんだその態度は? 俺達を差し置いて楽しいひと時を過ごしやがって」

「まあまあ、でもみんなはもう少し時間を置いた方がいいよ」


 ミケが割って入った。


「なんでだよ」

「え? だって……」


 ミケが言葉を飲み込んだ。


「だってなんでだよ?」

「消しゴム」


 俺は最小ワードで答えてやった。

 こいつらは今でこそ友達面してるが、俺とミケをイジメていたイジメっ子軍団なのだ。

 なんか成り行きで和解したが俺は完全に許したわけではないぞ?

 俺は小学校の頃のランドセル事件をいまだに引きずってるほど恨み深いボッチなんだからな。


「くっ。それは既に解決済みの案件だ。俺達が親友になったってことちゃんと紗古馬先輩に説明してくれよ」

「親友ねえ。えー、どうしようっかな?」


 ミケが俺のような悪い顔をした。


「なんだその思わせぶりな態度は? ミケのくせに生意気だぞ」


 井の中ズのリーダーが本性を現した。


「ほらほら。そういうところだよ。友達に生意気って言うのって友達っていうのかな? ねえトーリ君」


 ミケが俺に振り返る。


「……」


 俺は激しく同意というジェスチャーで肩をすくめた。


「ぐぬぬぬ」

「ふふふ。冗談だよ。佐古場先輩にはちゃんと話しておくから安心して」

「くっ美少女の威を借りやがって、とにかく頼んだぞ。トーリはリンダちゃんの情報収集の件忘れるなよ」

「……」


 八つ当たり気味でこっちに命令すんな。そもそもなんで命令形なんだよ。

 待てよ。俺もこいつらに命令してもやればいいのでは?

 だが俺が命令を口に出すことはない。

 なぜなら寡黙なボッチなのだ。


「……」

「文句があるならなんか言えよ」

「……弁当旨かった」

「「「くっそおおおおお」」」


 井の中ズ達が悔しそうに地団駄を踏んだ。




 ――放課後。 生徒会室。


「おおおままは、だだだだだ、誰だ」


 生徒会長が俺を見て大きな声を出した。


「あらトーリ君。さっぱりしたわね。とっても似合ってるわよ」


 副会長が珍しく俺を褒めた。


「なんだトーリか。刺客か暗殺者かと思ったぞ。まあクロミズのメンタル霊で最初から分かっていたけどな。ハハッ」


 生徒会長が胸を張って勝ち誇った。

 本気で驚いていたような気がしたけどまあいいか。

 その弾むお胸に免じて許そう。


「なんかイイ感じだけど。トーリ君どこのサロンに行ったの?」


 俺がその胸をガン見していると副会長が怪訝な目で俺を睨んだ。


「……駅前の青い店」

「あら奇遇ね。私達もあそこの店で切ってもらってるのよ。オーナー面白い人でしょ?」


 副会長が紅茶を入れながらそう笑った。


「ええ、まあ」


 面白いではなく、恐ろしいの間違いでは?

 やはり副会長もあのサロンの常連だった。

 クラスの女子と数年後に会話することがあったら報告しよう。


「その髪型で戦闘力が、いくらか増してそうだ。これは新人戦が楽しみだのう」


 生徒会長が悪い顔で笑った。

 新人戦? なんだっけ? 新しい人の戦い? うわ、その存在をすっかり忘れてた。

 ゴールデンウイークに開催される新人戦に俺は出場するんだった。

 ボッチの俺が絶対に参加したくないリア充のウェーイパリピイベントだ。

 そんなん絶対出ないぞ。体調不良になって寝坊してエントリーが間に合わず、初戦敗退という作戦でいこう。


「初心者講習の時みたいに、みんなでバスで行きますから遅れないように」


 副会長が俺の敵前逃亡を察知してかそう言った。


「くっ……」

「ミルフィーもギンギンセンにデギュ」


 ミルフィーも新人戦に出るって?

 確かにミルフィーは新人だ。だが魔物だ。霊トレーサーではないような?


「ミルフィーちゃんは出られいのよ」

「ギャダ」

「私達と一緒に美味しいお菓子を食べながらトーリ君を応援しましょうね」


 食べ物でミルフィーを釣る副会長素敵です。


「ギャイ」


 食べ物で釣られるミルフィーチョロ過ぎ。


「ギョウエンスギュ」


 ミルフィーが拳を突き上げた瞬間、手に付いたクリームが俺の顔に付いた。

 わざとだよね? 俺は顔に付いたクリームを舐めた。


「それでトーリよ。朝練の成果はどうだ?」


 生徒会長が鋭い目で俺も見た。


「ええまあ」


 俺は曖昧に答える。


「道山さんからは順調って報告を受けてるわ。メンタル霊の消費量も減ってきたって」


 やはり副会長には朝練の詳細な報告がいっているようだ。だが魔石のことは言ってないだろうな? チャラ男よ。


「ふむ。そうか。ではその調子で精進せよ」


 生徒会長が戦国時代の姫君のように言い放ち、俺はハハーと床にひれ伏せたくなった。


「ではその修行の成果を今から見せてもらおうかの?」


 生徒会長が颯爽と立ち上がった。

 お胸と太刀が武者震いのように揺れた。


「会長。今日はダメですから」

「なぜだ?」

「今日は生徒会の定例会議ですよ。会長はダンジョン部の部長の前に生徒会長なんですから」

「今日は気分が乗らない。明日から頑張るのだ」

「会長がサボったら天道君の思う壺ですが、よろしいので?」


 副会長がケーキの皿を片付けながらそう言った。


「ええい、天道めえ、我の邪魔ばかりしおって――という訳でトーリよ。今日の部活はなしだ。ゆっくり休め」

「そうね。ミルフィーちゃんに街でも案内したら?」

「ミルフィーギャチイギュー」


 ミルフィーが嬉しそうにボッチダンスを踊った。

 たまには帰宅部もいいだろう。

 それにいい加減ミルフィーにも帰り道を覚えさせないとな。




 ――学校からの帰り道。


 俺は真っすぐ家には帰らず、補給の為に例の河原にいた。

 ボットガンで撃てそうな手頃な石をアイテムボックスに入れていると、土手の斜面に座り込んで絶望オーラを醸し出す男が目に留まった。

 その姿は覇気がなく、猫背で今にも死にそうな雰囲気だった。

 おいおい、目の前で自殺すんなよ。

 あれはミルフィーに見せたらあかん奴だ。

 黙って気付かないように無視で通り過ぎよう。


「タハハッハー」


 ――と、どこかで聞いたことある変な笑い声で笑った。

 それを聞いたミルフィーが変な顔をした。

 あの変な笑い――どこかで聞いたことあるような?


「タハハッハ……アァー」


 最後は大きなため息になっていた。


「タハッ? うっわっ」


 その男が俺を見て目を見開いた。


「あっ」


 思い出した。忘れもしないこのチャラ男に匹敵するほどのチャラい感じ。

 そいつは運転免許試験場ダンジョンで俺を殺した暗殺者の山口だった。



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