78 ギョゲメン
「お、お兄ちゃん。かかかかか髪切った?」
妹の園が俺みたいに噛んだ。
「ええまあ」
「えええええ? どどどどどこで?」
見事な噛みっぷりだ。流石は我が妹だけはある。
「駅前」
「ど、どこの店?」
「知らん。青い店だった」
「えええええ? あそこ一言さんお断りの有名店だよ。カリスマ美容師がいる」
「へえ」
「へえって何その態度ムカつく。お母さん。大変なの、お兄ちゃんが髪切ったの」
妹の園がドタドタと狭い廊下を走っていった。
大変ってなんだよ。髪切っただけだぞ? それのどこが大変なんだよ。
俺が痩せた大事件のほうがよっぽどセンセーショナルだったろ?
それに比べたら髪ぐらいで騒ぐほどではないだろう。
「あらやだ。さっぱりしたわねトーリ。なんというかお爺ちゃんの若い時にそっくりだわ」
母親が俺を見て諦め顔で言った。
なんだって? 爺ちゃんの若い頃?
そりゃ俺は爺ちゃんの孫だから似るわな。逆に似てなかったら怖い。
だがあの偏屈で頑固の爺ちゃんに似ていることを喜ぶべきか悲しむべきか?
似ているのは見た目だけだ。あの悪魔のような性格に似ていたら最悪だからな。
「ちょっと遅れた高校デビューだね」
妹の園が笑った。
遅れてないし。デビューしてないし。
「最初からこうやって身綺麗にしてくれればいいのに」
母親がブツブツ言いながら台所に戻っていった。
それにしても家の中が静かだな――と俺がきょろきょろしていると。
「ミルフィーちゃんは私の部屋でお昼寝してるよ。夕寝かな?」
妹の園が天井を指さした。
そうかミルフィーは寝ているのか。そりゃ色々あったからな。
ゴブリン砦で幽閉されていたミルフィー。
平和な我が家の温かい布団で眠ることは何よりも幸せなのだろう。
「ミルフィーちゃんをリンダ先生が送ってくれたけど、玄関の匂いかかないでよ」
「……」
夕食になると匂いに釣られたのか起きてきたミルフィーが俺を見てこう言った。
「ギョゲメン」
ギョゲメンって何? ギョゲてるメンズってこと?
意味わかんねえよ。ゴブ語訛り強すぎだろ。
「……確かに若い頃のお爺さんにそっくりだ」
俺のヘアスタイルを見た寡黙な父親が驚いた。
「駅前のカリスマ美容師のいる店でカットモデル扱いで切ったらしいよ」
妹がサラダにドレッシングを大量にかけながらそう言った。
ミルフィーがそれを指をくわえながらガン見している。
「へえ。コミュ障なのによくそんな店行けたわね? あんたにカットモデルなんで務まるの?」
母親が実の息子に酷いことを言った。
「どうやって申し込んだの?」
「……先輩に連れられた」
「ああ、あの綺麗な生徒会長さん?」
「違う」
「え? 誰?」
妹が目を細めた。そんなの誰でもいいだろう。
「誰? ボッチのお兄ちゃんに知り合いなんているの?」
「まさか、トーリ、あんた誰かを脅したのだ?」
「……」
「お兄ちゃんのことを気にしてくれる存在なんて家族以外に存在したなんて意外」
酷い言われようだね。
えっと、これはその紗古馬先輩っていってね、俺がイジメられていたのを見かねて声をかけてくれた優しくて可愛い先輩なんだ――と俺は心の中で答えた。
「ギョーリギョゲメン」
「それを言うならイケメンでしょ?」
「ギョゲメン」
「違う違うイケメンではないから。しいて言うならばイケメン風でしょ」
母親がミルフィーと園の会話に混じった。
イケメン風ってなんだよ。
確かに俺は転んでもイケメンにはならないけど実の息子なんだから少しは贔屓目で肩を持てよ。
いつものように口数の少ない父親は黙々と食事をしている。
――翌朝。ダンジョン内。
「あんたどこの家の暗殺者だ? 黒岩家か赤岩家? まだカガッチを狙っているっスか」
チャラ男が俺を見て剣を構えた。
おいおい、可愛い後輩の顔を忘れたのか? という目で俺はチャラ男を睨んだ。
「……」
「その人を殺めてもなんとも思わない目はまさかカガッチ?」
「ええまあ」
「何だカガッチかよ。どっかの暗殺者と間違えたじゃないっすか? 危うく斬るところでしたよ。髪切ったんスか?」
「ええまあ」
暗殺者とか斬るとか酷い言われようだな。
「へえ。似合ってるっスねえ。いっそのこと暗殺者ギルドに入ったほうがいいんじゃないスかね」
「……コロス」
俺はムッとして挨拶を返した。
「冗談っスよう。何度もぶっ殺されてる俺にはそれ洒落になってないっスから」
「ああ、わりい」
「ああそれよりもカガッチ、あの魔石のことなんですがね。昨日裏換金所で換金してこようとしたんスけどねえ……」
チャラ男が言葉を濁した。
「あの魔石どこで手に入れたんスか?」
チャラ男が疑念の目で俺を見た。
「……ダンジョンだが」
「どこのダンジョンスか?」
「……初心者用だが」
「そんなわけないっスよね?」
「……」
くっそ、何を疑っている? 盗品じゃないぞ?
ちゃんと倒して手に入れたものだぞ?
「あの魔石いくらだったと思います?」
「……さあ?」
「一個一千万」
「え?」
俺は言葉を失った。
「三個あったスよねえ? だから合わせて三千万っス。俺の手数料を引いても二千七百万スよ」
「はあああ?」
俺は大声で叫んだ。
「額が額だけに確認してからと思って、換金はしてこなかったスけど」
「え?」
何で換金してないんだよ。
換金してよ。俺の財布の中身はゼロなのよ。
「あの魔石どこで手に入れたんスか? まさか盗品?」
チャラ男が俺に掴みかかるように迫る。
確かに高校生の俺がそんな高価な魔石を持っていたら疑われても仕方がない。
そりゃあんな石っころが一個一千万ってちょっと信じれない。
霊トレーサーが儲かるってのは本当なんだ。
あの魔石が初心者用ダンジョンで取れるなんて納得してくれないだろう。
俺は嘘を考えるのも面倒なので真実を告げることにした。
「……キリヒメサマのダンジョン」
「……はあ……そういうことっスか? そりゃ納得っス」
チャラ男が肩をすくめた。
「あの魔石はリビングアーマーの魔石っスよねえ」
「……多分」
「カガッチ、リビングアーマーを倒したんスよねえ」
「……ええ、まあ」
「あれ、普通は倒せないんスよ」
「え?」
「魔法も物理も効かない魔物なんスから普通は混成パーティーかレイドのごり押しでしか倒せないんスよねえ ソロで倒せるなんて異常っスよ」
「え?」
確かに異常に固かったけど、なんとか倒せたぞ?
「闇換金所で、お前がリビングアーマーを倒したのかって問いただされたんスけど……言えるはずがないっスよね。新人霊トレーサーが倒したなんて」
「……はあ」
「で、どうします? 換金しますか?」
チャラ男が俺を見て苦笑いをした。
一千万だろ。換金するに決まってんだろ。
「……ああ頼む」
「そうっスか。じゃあ後で換金してくるっスよ」
「これでファミレスの金返せる」
「あんなの奢りなんだから返さなくてもいいスよ。気を取り直して朝練開始しましょう」
あの魔石が一個一千万だと? 三個で三千万?
男子高校生が手に入れていい額ではない。
チャラ男の手数料を差し引いても二千七百万。
何を買おう? 最新ゲーミングパソコンが買えるぞ。
簡易水冷にして光らせちゃうぞ。光るメモリも最大限に乗せて、中にフィギュア置いちゃうぞ。
それともタイヤの細いロード的な組み立てる自転車が買えちゃう。
それとも新しい靴? リュック? タブレット? 鬼課金?
だが家族にバレたらなんて言い訳する?
あんたどこにそんな金があるの? お巡りさんこいつです――的な未来しか見えない。
正直にダンジョンで拾った魔石を換金したとでも言うのか?
それに男子高校生の金使いが急に派手になれば、マルサに目を付けられてしまう。
政府の機関に情報がいってミルフィーにまで捜査の手が及ぶかもしれない。
そうなると魔物であることがバレて政府の秘密機関に幽閉されてしまう。
あまり派手には使えないか? だが少量ならば、食費に使うぐらいなら問題なかろう。
「ん?」
待てよ。ダンジョン内に俺の部屋を作ってそこに置けばいいのでは?
だがダンジョン内では電子機器は作動しないから意味がないか? 食料だけは置ける?
待てよ。ダンジョンじゃなく、アイテムボックスに入れておけばいいのでは?
それだ。わざわざダンジョンや俺の部屋に置く必要はない。
俺にはアイテムボックスがあるのだ。
アイテムボックスは誰にも取られない見つからないこの世で一番安全な場所なのだ。
ふっふっふっ。
夢が、妄想が広がる。俺の人生はバラ色どころか金色に輝きだした。
「じゃあ、また明日っス」
朝練が終わった俺はボス部屋でスラッシュと戯れるミルフィーを呼びに行った。
ミルフィー終わったぞ――ってスラッシュなんか大きくなってない?
「ギュギャッシュ、ギョクギャベル」
スラッシュよく食べる? ミルフィーがカロリーバーを何本も頬張りながらそう言った。
何本上げたんだよ。
スラッシュの半透明の体の中にはカロリーバーが何本も浮いていた。
与えすぎだろ。何本か背中から飛び出してんぞ。
「ギュギャッシュ。アーン」
ミルフィーがさらにカロリーバーを与える。
微笑ましい光景だった。
クロミズのコア核を食べたスライムのスラッシュとコア核を食べたミルフィーは大の仲良しだ。
まあ眷族同士だから当然といえば当然だ。
ミルフィーそろそろ授業始まるから教室行くぞ。
俺は心の中でミルフィーに喋りかけた。
「ギョイ。ギュギャッシュ、ギャイギャイ」
もう訛りすぎて何言っているのか分からないが、ミルフィーがスラッシュに手を振った。
カロリーバーが漏れ出たスラッシュも触手を振り返した。
――教室へ向かう廊下。
「おい、あれ誰だ?」
「あんな奴いたか?」
「さあ? なんか怖い? ミルフィーちゃんのボディーガード?」
「あり得る。目を合わすな。殺されるぞ」
「うわあ。マジ、こええ」
「それにしてもミルフィーちゃん可愛い」
「俺この学校選んで良かった」
「あんまり見るな」
「暗殺者だ」
「殺し屋?」
廊下ですれ違う生徒が俺を見てそう呟いた。
俺は殺し屋じゃないけど、あんまり適当なこと言ってんと本当に殺すぞ?
「ギョーリ、ギョゲメン」
ミルフィーが笑った。
イケメンでもギョゲメンでもなんでもいいよ。
教室に入ると人だかりができていた。
「可愛いぃぃぃぃ。三毛屋君、いや三毛屋ちゃん? 写真撮っていい?」
「お前可愛すぎだろ」
「少し触らせて」
「やめてよ」
「いいだろう男同士なんだから」
「!」
その言葉に複数の女子生徒が肩を震わせた。
朝から派手に腐ってやがる。
「もうやめてよ。あ、トーリ君おはよう」
イメチェンしたミケの元にクラスメイトが集まっていた。
そりゃそうだろう。ミケは隠れイケメンだったんだからな。
違う、隠れイケガ?
こっちから見るとイケメン。
こっちから見るとイケガ。まさに二度おいしい。
「ああおはよう」
「オハギョ」
クラスメイトが俺を見て目を見開いた。
「え?」
「だれ?」
「さあ。転校生?」
「目を見るな。殺されるぞ?」
「まて、ミルフィーちゃんと一緒に来たってことは?」
「ボディガード? 亡国の暗殺者?」
「あの何人か殺している冷たい目つきは見おぼえがある」
井の中ズのリーダーが皆の発言を止めた。
「トーリか?」
「「「ええええええ」」」
クラスメイト達が後退った。
「おいおいマジか?」
「私達は誰を無視していたの? ねえ?」
「殺される」
「ごめんなさいごめんなさい」
「すいませんすいません」
「お前イケメンじゃねえか」
井の中ズのリーダーが俺の肩を揺さぶった。
何言ってんだ。イケメンはお前のほうだろう。
俺はギョゲメンだぞ。正確にはギョゲメン風だぞ。
「くっそ、これは一体どうなってやがる?」
「加賀坂、本当に今ままでごめん。許してくれ殺さないでくれ」
「ははは。トーリ君はカッコいいようね」
ミケが笑った。
「おいミケ? これは一体何がどうなって、どういうこった? 昨日何があった?」
「トーリ君と僕は昨日の帰りに紗古馬先輩に連れられてヘアサロンに行って来たんだよ」
「「「は、はあ?」」」
「お前もトーリも変わりすぎだろ」
「そだよねえ? これ不評だよね」
ミケが髪を触りながらそう言った。
その姿はもう完全に女子にしか見えない。
「きゃー可愛い」
それを見た女子生徒がため息を漏らした。
「ねえねえ、それどこの店?」
「どこで切った?」
「うちもそこ行きたい」
「駅前の青い店だったよ、名前は知らないけど」
「ええええ? あそこで全然予約取れないのよ?」
「あそこは私には無理だわ」
「紗古馬先輩が連れていく店だから当然だよねえ」
「生徒会長と副会長もあの店らしいわよ」
「え?」
俺は女子の会話に素っ頓狂な声を出してしまった。
「噂よ。生徒会長に聞いてみたら?」
「はあ」
俺は初めてクラスメイトの女子と会話をした。
たった一言二言だったけど女子と会話したのだ。
今までは相手にされなかったのにこれはどういうことだ?
これも髪を切った成果だろうか?
それともミルフィーのおかげだろうか?
「ミケ、お前女の子だったのか? それとも男の子か?」
「え? もうそれみんなに言われるよ」
「褒めてんだから喜べよ」
「え? 褒めてるの?」
「当たり前だろ。トーリを見てみろ。ミケと同じ髪型にできねえだろ」
「そりゃそうだよ。トーリ君は男らしいもん」
「はあ? あの無口が男らしい? お前の男子像は昭和のままか?」
井の中ズのリーダーが眉を上げた。
「え?」
「寡黙で口下手なのは映画のだけだぞ、現実でそんな奴いたら迷惑でしかないわ」
井の中ズのリーダーが俺を見てそう笑った。
こいつ言ってはならんことを。
以前の俺ならばボッチアイから死ね死ね光線を発射していただろう。
だが暗殺者にクラスチェンジした俺のボッチアイの威力は高すぎる。
うっかり殺しかねない。ここはボチッと我慢して自粛せねば。制御せねば。
だから俺はボッチアイでは睨まずに肩をすくめた。
「お、トーリお前、睨まなくなったな。いいぞ。良い感じだ」
イケメンズが俺の肩を揺さぶった。
何だよこいつ。わざと俺を怒らせようとしていたのか?
全く油断も隙もあったもんじゃない。
だけど上から目線は相変わらずだな?
「ええまあ」
だが俺はそう簡単には怒らない。
成長したのでも暗殺者になったからでもない。
金ボチだからだ。金ボチ喧嘩せず、という格言があるように俺は心の余裕を得た。
何と言って俺は二千七百万保有者――予定なのだ。
どれだけ俺の容姿を悪く言おうがどうってことはない。
達観し悟りを開き無我の境地に到達した俺は感情に任せて怒ったり消しゴムを放ったりはしない。
「その髪型で睨まれたらオシッコちびるから」
「怖すぎ。他人だったら絶対目を合わさない」
「仲直りしなかったら転校してたところだぜ」
井の中ズが好き勝手に軽口を叩いた。
「コロス」
俺はボッチアイで睨んだ。
「冗談でも止めろ」
「洒落になってねえ」
「本気で怒るぞ」
井の中ズが真面目な顔でそう言った。
「殺害予告は通報案件よ」
女子生徒のひとりが指でバッテンを作った。
「すまん」
俺は雰囲気に飲まれて謝った。
つかなんで俺が謝ってんだよ。
好き勝手に言ったのお前らが先だろ?
「トーリ君、お昼は食堂で紗古馬先輩と一緒に食べるからね」
それを見かねたのかミケが話題を変えた。
「え?」
「昨日メールしたじゃん」
「忘れてた」
「弁当持ってきてないよね」
「ああ」
「え? 紗古馬先輩とランチだと」
「ずるい。俺も行きたい」
「そうだ。そうだ連れて行け。俺達友達だろ?」
「友達を裏切るのか?」
「ああ、裏切る」
「てめえ。卑怯だぞ」
「ぶっ殺す」
「リア充死ね」
俺が殺すとか死ねとか言われてんのにスルーかよ。
殺害予告は通報案件だと言った女子に助けを求めた。
こいつらも通報してやってくだせえという目で見た。
「紗古馬先輩綺麗よね」
「でも綺麗すぎて住む世界が違うというか、喋りかけにくいよね」
「そんなことないよ。紗古馬先輩はおっちょこちょいで気さくだよ」
ミケが不思議そうな顔でそう言った。
「じゃあ、俺達も連れて行け」
「そうだそうだ。気さくなら俺達の同行も許されるはずだ」
「それにトーリが紗古馬先輩に俺達のことを、あることないこと言いふらさないように監視する必要がある」
「それは事実でしょ?」
ミケが悪い顔を浮かべた。
イジメられていたミケの言葉には思えない。
ミケは自信を取り戻したのだろうか?
「ね? トーリ君」
「ええ、まあ」
「てめえ、絶対言うなよ。あれはもう終わったんだからな」
「そうだそうだ」
「言ったらコロスぞ」
さっきから殺害予告受けまくってますわよ――と俺は女子を見るがその女子はミルフィーの髪に櫛を通していた。
皆が殺すって言っても許される。俺は許されない。この差はなんだ?
信用度? 仲良し度? 何だ?
確かに俺はまだこのクラスの人間とは親しくはない。
スパイボッチモードとかアホなこと言って机に突っ伏し、会話を拒絶していたのだ。
俺の言う言葉と彼らの言う言葉は同じ言葉でも違うということか?
日本語って深い。コミュニケーションって難しい。
「とにかく同行するからな」
「でもまた今度ね、弁当四人分しか作ってないはずだから」
ミケがそう言った。
「四人分とは?」
井の中ズ達がミケを睨んだ。
「紗古馬先輩が僕達の弁当を作ってくれてるみたいなんだ」
ガタっと 椅子が音を立てた。
「何だと?紗古馬先輩の手料理だとおおおお」
「てめえトーリどういうこった? 学年三位の至高存在の手料理だとおおお」
「あり得ない。あり得ない。これはおかしい。俺は違う世界線に紛れ込んでしまったのか?」
井の中ズ達が頭を抱えた。
「だからまた今度ね」
「くっ。絶対だからな」
「紗古馬先輩と夢のランチタイムなんて羨ましすぎる」
「弁当は俺達で用意するから紗古馬先輩に負担は掛けない。だから同じ場所でランチができればいい。いや手料理も食べたい」
「頼んだぞミケ」
「わ、わかったよう」
「絶対だぞ。ミケ」
「でもさあ、お前女子の手料理って食ったことあるか?」
「母親と婆ちゃんのならあるけど、他人はないな」
「俺もない」
「トーリ、お前一人だけ大人の階段を上がろうとしているな?」
「通さない。ランチには行かせない」
「どうしても行きたければ俺達を倒して行け」
井の中ズ達が俺を囲んだ。
え? 倒していいんスかい?
「ミルフィーギョクドーギク」
ミルフィー食堂行く?
ミルフィーが立ち上がった。
「ははは。そうだね。ミルフィーちゃんも一緒に行こうね」
「くっ。ミルフィーちゃんを出すとは卑怯だぞ」
井の中ズが落胆した。
「なんなら今度私が弁当作ってこようか?」
女子の一人が井の中ズのリーダーに笑いかけた。
「あ、ずるい。抜け駆けはダメ」
「それは協定違反よ」
他の女子が、その女子を囲んだ。
「冗談よ」
「冗談でも禁止」
「そうよ。協定違反」
何の協定違反かは想像もしたくない。
チッ。モテリア充のスクールライフは俺と違ってバラ色かよ。
待てよ。俺もバラ色なのでは? 紗古馬さんの手料理が食べられる男子生徒が何人いる? 俺とミケだけだ。
あの時、ミケを助けた俺グッジョブ。
まさかミケが紗古馬先輩と知り合いだったなんて、これはめぐり逢い宇宙。
「とにかく今度、先輩に聞いてみるよ」
「頼んだぞ。俺達のスクールライフがバラ色になるかどうかはお前にかかっているんだからな」
井の中ズのリーダーがミケの肩を掴んでイケ顔を近づけた。
「「「!」」」
イケメンとイケメンの近接行動に腐った女子達が吐息を漏らした。
こいつらダメだ。腐ってやがる。
「分かったよう」
ミケが困ったようにそう言った。
「トーリはリンダ先生とディナーの件を忘れるな」
すっかり忘れてた。
昼休憩になり俺とミケとミルフィーは井の中ズの愚痴を浴びながら食堂に向かった。
この学校には豊富なメニューを誇る食堂があった。
それはこの学校を選んだ理由の一つだがコミュ障人見知りの俺はまだ食堂デビューは果たしていない。
廊下ですれ違う生徒達がミルフィーとミケに釘付けになっている。
そうだろう。そうだろう。二人は可愛いからな。
「テンギョー」
突然ミルフィーが叫んだ。
取り巻きを従え、階段から降りてくるテンドー君がいた。
王宮の階段を下りるような優雅さを纏い、女子生徒達の目をハートに染める。
何でいっつも俺の目の前に現れるんだよ。
お読みいただきありがとうございました。




