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77 カッティングエッジ

「さあ、入りましょう」


 紗古馬さんがある店の前で腕を広げると、俺とミケは顔を見合わせボチフリーズした。

 こんな豪華な店構えのお洒落店にボッチのコミュ障の小心者の俺に入れって入れるはずがない。

 転生してイケメンになってリア充ウエーイ族に生まれ変わったら入っても良いだろうというぐらいお洒落な店だった。


「……えっと、あの紗古馬先輩? これってどういうこと?」


 ミケが俺の代わりに紗古馬さんに聞いてくれた。

 もしかしてミケって俺の心の代弁者? 副会長以外にも俺の心を読んでくれる存在がいたは……。


「はあ……どうもこうもないわ。貴方達。髪切ったのいつ?」


 紗古馬さんが腰に手を当てて俺達を交互に指さした。

 それは怒っているようで笑っているような可愛らしい表情だった。

 ボッチの人見知りの俺にはその顔が意味することが分からない。


「さあ」


 ミケが長い前髪を触りながら空を見上げた。


「……」


 もちろん俺は無言で答えた。

 いつ髪を切ったかって? 風呂で髪を切ったのは入学前のはずだ。だから先月?


「はあ。そんなんだから貴方達はイジメられるのよ」

「「え?」」


 俺とミケは素っ頓狂な声を出した。

 イジメられるって酷いレッテル張りだよ。

 ボチのことを何も知らないのに勝手にイジメられっ子だって決めつけないで。

 俺の中の乙女が猛抗議する。

 だが紗古馬さんが言うのは真実だ。

 上級生にボコボコッチされていたのを目撃されているのだ。


「いい? 身だしなみはしっかりしなさい」

「「はあ?」」

「そんなに変かな?」


 ミケが自分の髪を触りながら小さな声を出した。

 それを見た紗古馬先輩が目を大きく見開いた。


「変よ。長すぎ。キモイ。目が見えないから何考えている分からない」

「「うっ」」


 俺とミケは一歩下がった。


「貴方達みたいに髪も切らないのは礼儀違反。マナー違反よ」

「「うっ」」

「外見に気を使わない人間は自分の無頓着さ他人に不快感を与えていることに気づいていないのよ。それはある意味無差別攻撃なのよ? 不快感を他人に押し付けるのは悪でしょ?」


 紗古馬さんがもっともらしいこと言うが、俺は心の中で異を唱える。

 他人なんて石っころ同然、石っころが何を思おうが俺には全く関係ないんですが?

 俺がどんな髪型をしようが自由。これはボッチの俺に与えられた個人の権利だ。

 いやリア充が不快を感じるならば、むしろ大成功では?

 俺を見て不快に感じるだと? 俺もお前らで散々不快を感じている。

 目には目を。歯に歯を。不快には不快を。

 まさにウィンウィンの関係ではないのかい?


「他人に不快感を与えている者は損をしているのよ。それは拒絶を生み、溝を生み、孤立を生むの。残念ながら日本はまだ遅れているのか民族的特性なのか、今だに同調主義が幅を利かせる狭い世界なの。他人と同じことをしないとダメな世界なの」


 紗古馬さんが乗ってきたのか、言っている言葉の意味が分からない。

 だが一つだけ言えることがある。孤立こそがボッチの真骨頂である。

 俺は心の中で反論する。

 他人にどう思われようが関係ない。俺は他人と線で繋がっているわけではないのだ。

 人は所詮一人なのだ。


「サカトーリ君。何か不満がありそうね? でも却下。貴方の考えていることなんてお見通しよ」


 紗古馬さんが俺に綺麗な指でビシッと指さした。

 お見通しだと? まさか紗古馬さんも鑑定能力者?


「え?」

「サカトーリ君。自分さえよければそれでいい? そんなことはないの。他人とは繋がっているのよ」

「え?」

「他人は自分の鏡なの。自分は他人の鏡なの。だから人は繋がっているのよ」

「え?」


 全然意味分かんないんですけど?

 他人は他人だろ。俺とは無関係の無頓着。

 線で繋がっていたらこんなに苦労なんてしない。

 紗古馬さんが美少女で可愛くて憧れの先輩だとしても断固認めません。

 俺はその説に激しく異議を唱えます。

 他人と線なんかで繋がってたまるかっての。


「……」


 それを見た紗古馬先輩が大きな目を天にクルリと向けてこう言った。


「自分の存在は他人に影響を与える。それは良い意味でも悪い意味でも。だから見た目が大事なのよ。その人が考えていることなんて絶対に分からない。でも見た目では判断できる。友達になりたいのか? 拒絶しているのか? その態度で分かる。だから繋がっている鏡なのよ」

「はあ?」


 何当たり前のことを言っているのだ?


「じゃあサカトーリ君。私がボサボサ頭か? 綺麗に手入れしている髪だったらどっちが可愛い?」

「はあ?」


 美の少女の紗古馬先輩のボサボサ頭?

 それはそれで可愛いと思いますが?

 それよりもなによりも紗古馬先輩は何をしても可愛いですから問題として成立してないのでは?


「先輩はどんな髪型でも可愛いから例えになってないよう」


 ミケが突っ込んだ。

 こいつ、よくも目の前の人間に可愛いって言えるな?

 まさかこいつリア充候補生か?


「たしかにうちは可愛いから仕方がないけど……って違う。と、とにかく今日はここで髪を切りなさい」


 紗古馬先輩がなんか知らんが押し切った。


「え? でも僕お金持ってないよ。こんな高そうな店無理だよう」

「……」


 ミケの意見に激しく同意する。俺にも金はない。


「そこは安心して。貴方達はカットモデルだから今日はお金いらないの」

「「えええ」」


 カットモデル?

 はて? 車のエンジンをぶった切った模型のことだろうか?


「あらかじめ店長にお願いしておいたのよ」


 美の少女の紗古馬さんが大きな目でウィンクした。


 そう、そこは飲食店でもなくヘアサロンというやつだった。

 その店は青を基調としたお洒落で高級そうな外観。

 今までの俺だったら転生しても入らないような店だった。

 リア充ご用達のリア充を生む場所だ。


「さあ、覚悟を決めなさい。行くわよ」

「え? 待ってよ? 本気?」

「……」

「ええ本気よ。貴方達またイジメられたいの?」

「だからそれはもう終わったから?」

「じゃあ、見た目を綺麗にして次のイジメの原因を排除しなさい」


 紗古馬さんは折れないし曲げない。

 見た目が悪いからってイジメられるとは限らない。

 だがその要因となっている可能性は捨てきれない。

 だがその理論が通るならばイジメられるほうが悪いということになる。


「もう意気地なしめが。だからモテないのよ。さあ、行くわよ」


 紗古馬さんが俺とミケの背中を押した。

 ラッキースケベイベント、ラッキーコンタクトイベント発生。

 だが俺の加護による衝撃無効により柔らかタッチイベントは強制終了した。


「こんにちはー」


 紗古馬さんが俺達を押しながら店に入る。


「「「「いらっしゃいませええ」」」

「あら、やだああ芽奈ちゃん。今日もとっても可愛いわねえ」


 元気の良い女性の中に混じって野太いオッサンの声が聞こえてきた。

 だがその口調は女子より女子っぽい。

 完全にあれだ。オネエだ。

 ジェンダーレスのこの時代では珍しくもない。

 だが俺の腕に鳥肌が立った。


「どうしようトーリ君」


 ミケが顔を近付け俺にささやきかけた。

 近い。近いぞ。おい。そんなに顔を近付けんな。

 ジェンダーレスの時代だから逆に配慮してくれ。


「に、逃げるか?」

「そんなことしたら紗古馬先輩に怒られるよう」

「じゃあ、行くか?」

「え? でも僕こんなところ入ったことないよう」

「俺も」


 俺とミケは顔を突き合わせてボチフリーズしていた。


「何やってんの、二人共さっさといらっしゃい」


 俺達がヒソヒソ話をしていると紗古馬さんの大きな声が店の中から聞こえた。


「行くしかないよね」


 ミケが俺に聞く。


「ああ」


 俺とミケは覚悟を決めて店の中に入った。


「「「いらっしゃいませ」」」


 もう一度元気な店員の声が俺達を迎えてくれた。


「あらやだあ。イケメンさんじゃなーい」


 おしりを振り振りしたデカい男が現れた。

 こいつは間違いなくマイノリティの一族だ。

 今はジェンダーレスの時代。男だとか女だとかの区別はない。

 だから俺はびっくりも驚きも、怖くもない――はずだ。


「オーナー。この子達に魔法をかけてあげて」

「任せて、あたし色に染めちゃう」


 店主のオッサンが身体をくねらせた。

 ジェンダーレスのこの時代――頭では分かっているものの俺は店主から一歩下がった。


「じゃあ、うちは塾があるから帰るから。オーナー来月来ます」


 そう言いながら紗古馬さんが店を出て行った。

 え? 置いてっちゃうの? 僕達をこんな場違いな場所に?

 待ってくれ、これほど心細いシチュエーションがあっただろうか?

 一人でダンジョンに飛ばされた時よりも心細い。

 ボッチの俺をこんなリア充製造店に置き去りにすんな。


「どどど、どうしよう? トーリ君」


 ミケが噛むほど激しく動揺している。


「……むう」

「あらあ、そんなに緊張して、こういうお店は始めて? あらやだあ可愛い。とって食べちゃいたい」


 オーナーがミケを見て腰をくねらせた。


「え? あああ、あのその」

「冗談よ。芽奈ちゃんの大切なお友達を悪いようにはしないわ。お金はいらないわ。カットモデル扱いだからビフォーアフターの写真は撮らせてもらうけど」

「写真?」


 俺は首を傾げた? 写真出ちゃうの? 俺の写真なんて載せたらダメだ。

 俺は痴漢に間違えられるほどの逸材だぞ。 俺の写真なんて載っけたらこの店潰れるぞ。


「大丈夫。本人の了承を得ない限り、外には出さないから」


 オーナーが身体をくねらせた。


「私はねえ。男も女も人間が大好きなの。だから本人が知らない良さを発掘して素敵にしてあげるからね。ウフフフ」

「は、はいいい」


 ミケが悲鳴気味の返事をした。


「こっちよ」


 俺達は明るい店内を横切るように案内される。

 椅子に座ったOLや変な機械を被ったマダム達が俺達を面白そうに鏡越しにチラ見する。

 見んといて。見んちょいて。


 俺達は奥の個室に案内された。

 個室? え? こんな密室で何するの?

 そこでアンケート用紙みたないものを渡されるが書いてある問いがリア充向けの内容だったので全部無視した。

 なんだよ。パーティーには月に何度出席しますかって? しねえよ。

 小学校の誕生日会にも呼ばれたことないよ。


「まずは三毛屋君からにしましょうか?」


 アンケート用紙を見ながらオーナーが腰をくねらせた。


「え、はい。ががが、がんばります」


 ミケが訳の分からない返事をした。

 頑張るのはお前じゃないだろうが。

 俺は個室の前の待合室でスマホをいじって待機した。




 一時間後。


「あらやだ。素敵。可愛い。やっぱりミケちゃんは中性的の路線でバッチシよね」

「はあ」


 俺が個室に入るとそこには鏡に写る美少年、いや美少女がいた? どっちもいた。

 おいおい。これがあのミケか?

 えっと? ボッチ仲間だと思ってたのにリア充さんですか?

 ああ、ミケ。俺の手の届かない世界に旅立ってしまったのね。

 短い間だったけど俺達友達だったよな?


「へへへ」


 ミケが心のこもっていない声で笑った。

 それはオーナーの言う通りの中性的な髪型だった。

 アンシンメトリーってやつだ。

 右から見たら男子。

 左から見たら女子。

 美少女と美少年の魅力を併せ持っていた性別を超えた存在がいた。


「女の子っぽい顔がコンプレックスだったんでしょう? でもそれは大間違いよ。それは大きな長所であり絶対的な利点。他の子にはない貴方だけの魅力なの」


 確かにオーナーの言う通り、ミケは見方によっては男子にも女子にも見えた。

 それが益々パワーアップされていた。


「ええ? でも、これは恥ずかしいよう」


 ミケが自分の髪型を見てかなり引いていた。

 だが俺は見惚れていた。

 ぱっと見男? いや女? どっちだ?

 とにかく可愛い。

 目が隠れるようなボサボサ頭のミケが化けた。

 このオーナーの腕は本物か?


「ほらサカトーリ君もなんか言ってあげて」


 オーナーが俺を睨んだ。俺の名前はサカトーリじゃねえよ。

 紗古馬さん間違って伝えてますがな。

 俺はアンケート用紙にしっかり名前書いたぞ?

 だが俺はいちいち訂正しない。

 なんか言ってあげてって? 俺の喉からは最適な言葉は出てこなかった。


「ほら感想を」

「やべえ」


 俺はそうつぶやいた。


「え? 何がやばいの? ダメってこと?」

「違う逆だ」

「え?」

「かっこかわいい」

「え? ちょっと意味わかんない? 可愛いって何? 僕男子だよ」


 ミケが口を尖らせた。


「そんなのどっちでもいい」


 俺は手を右手を払った。

 今はジェンダーレスの時代だぞ――と俺は鏡に写ったミケを見て頷いた。


「あらサカトーリ君の言う通りよ。男はこう、女はこう? それは誰が決めたの?」


 ジェンダーレスの塊のようなオーナーの言葉は重かった。説得力が違う。


「はあ? でもこれは……」

「……贅沢だ」

「え?」


 お前は贅沢だ。俺の細いボッチアイを見ろ?

 寝てない? とかコンタクト入らないでしょ? とか眩しいのとか? 花粉症にならないよね? とか言われるほどのシャー芯ぐらい細い俺の目を見ろ。

 ミケの目はデカい。睫毛も長い。 顔も小さい。鼻も高いし口も小さい。

 お前はイケメンなんだ。生まれ持った勝ち組なんだよ。

 その何が不満なんだ。

 贅沢なんだよ。


「そうよミケちゃん。贅沢よ。かっこかわいい、まったくもってその通り、これは私の自信作よ」

「ええ? 本当? でもこれって完全に女子だよう」

「大丈夫だ問題ない。こっちから見れば男子だ」


 俺は黒牛守ばりのサムズアップで頷いた。


「はあ。ほんとかな」


 ミケは不満そうだが本人の感情は置いておいて本当に似合っているのだ。

 以前のミケは前髪で目を隠していた完全に根暗な陰キャそのものだった。

 だがそれがどうだ。

 鏡に写るのは読モかアイドルか? 性別を超えた存在に化けていた。

 これならばリア充に混じっていても分からないはずだ。


「今回は学生服に合わせたけど私服のイメージも欲しいから次回は私服で来てね。あと気に入ったら今度はお客さんで来てよね」


 オーナーが腰を振った。

 見た目は置いておいてこのオーナーの腕は確かのようだ。

 あの美少女紗古馬さんの行きつけの店のことはある。


「次はサカトーリ君ね。凄い目力。他人に左右されないほどの芯を持っているわね。ふむふむ、あらあら最近痩せた? なんだか動きが太った人みたいな雰囲気なんだけど」


 細い目がコンプレックスなのは見れば分かるだろう。

 だが俺がポッチャリだったことを見抜いたぞ? こいつ鑑定眼の持ち主か?

 痩せてから制服のサイズも合わせたし俺がポッチャリだったという片鱗はどこにもないはずだ。

 それなのに見抜いた。こいつまさか霊トレーサーか? ここはダンジョン?

 俺はいつの間にかダンジョンに舞い込んでしまったのか?

 こいつはボス? ボスを倒さなければダンジョンからは出ることはできない。

 だがこのダンジョンのボスにはなんだか勝てそうにない。


「……ええまあ」


 俺は曖昧に答えた。


「そう、じゃあ、お任せでいいかしら? 安心してサカトーリ君の素材を生かすから」

「……ええまあ」


 俺は諦めた。まな板のボッチとは俺のことだ。




 ――三十分後。


「どうかしら?」

「……ええまあ」


 俺の目の前の大きな鏡には短髪の極細ボッチアイの男がいた。

 もちろん俺だ。

 それは完全に殺し屋。

 ミケのようにイケメンではない俺は劇的な変化はない。

 だが変化している部分もあった。

 前髪は短く刈り揃えられており、細いボッチアイがより強調されていた。


「どうかしら? サカトーリ君も、おでこを出したほうがいいわ」


 オーナーがクネクネしながら笑った。


「ええまあ」


 どうもこうもただの短髪だろ。こんなん俺にだって切れるぞ。


「うああ、トーリ君とっても似合っているよ。カッコいいよ。僕もそういう髪型がいいなあ」


 ミケがそう言った。


「自分ではこうは切れないでしょ?」


 オーナーが笑った。なぜ自分で切っていることまで知っているんだ?

 このダンジョンのボスは鑑定眼の持ち主か?


「ええまあ」

「カッコいい。なんかエッジが効いている感じでシュッとしてるよ。何より強そう」


 ミケがしきりに持ち上げるが、それはただ目が細いだけではなかろうか?

 そうだボッチよ。

 真のボッチは髪型を変えたぐらいではリア充にはならないボッチよ。

 俺の心の中のイマジナリーフレンドのボッチ君が悪い顔をした。

 確かに、最近の俺はミケやミルフィー、井の中ズ達といる時間が増え、ボッチの時間が減っていた。

 ボッチ失格だった。

 ボッチ道を極めた俺がボッチ道を激しく蛇行運転していた。

 それに今更髪型が変わったぐらいで何か変わることはないだろう。


「あ、ありがとう」


 俺はミケに笑い返した。


「写真は載せないから安心して、芽奈ちゃんによろしく言っておいてね」


 オーナーが店の外まで見送りに出て手を振った。


「また来てねえ。今度はお客さんでね」

「はい。失礼します」

「……」


 俺達二人は店を出た。




「トーリ君。これ本当にいい?」


 帰りがけにミケが俺の顔を覗いてきた。

 いいも何もカッコカワイイのだが?


「……」

「ねえ、何とか言ってよ」


 ミケが眉をしかめた。

 おっとミケは普通の人間だから心の中の言葉が通じないのを忘れていた。


「カワカッコいいよ」


 俺は笑顔でそう言ってやった。


「なにそれ?」


 ミケは不満そうだ。


「あら何あの子可愛くない? 制服からしたれあ男の子? 私より可愛いって何?」

「ほんと、嘘みたい。モデル? 女の子?」


 すれ違った女性がそう言った。


「え?」


 ミケは顔を真っ赤にしてうつむいた。


「あの隣の暗殺者は何者? ボディーガード?」

「なんだか刺されそうで怖いんですけど」

「ほんと、喋ったら目から針が、口からナイフ発射しそう」

「ほら聞こえるって、殺されるわよ」


 女性達が俺を見て去っていった。思いっきり聞こえているんですが?

 切るぞ? 本当に切るぞ? 口からナイフは出ないが俺の身体からは高圧の体液が発射されるんだぞ?

 くっそ、あのオーナー。俺のエッジの効いたボッチアイの切れ味を増加させてどうすんだよ。

 良いところ伸ばすって俺の良いところって細目だったの?

 目付きの悪い痴漢から暗殺者にクラスチェンジしてしまったじゃねーか。


「でも紗古馬先輩の言う通り、トーリ君はもうイジメられることはないよ。だって強そうだもん」


 ミケがフォローするようにそう言った。

 確かにそう言われればそうかもしれない。

 ヒョロガリボッチだった俺の武器はこのボッチアイだけだった。

 今まではそのボッチアイがボサボサの前髪で出たり隠れたりをしていたのだが、それが完全に開眼していた。

 常時開眼。

 ボッチアイ完全露呈。

 確かに痴漢から暗殺者となった俺に剣を向ける者は減るだろう。


「はっ!」


 まさかあのオーナー、俺がイジメられていたのを知っていたのか?


「そう? だったらミケは俺が守る」


 俺は笑った。


「きゃー」

「きいた? 今の?」


 周囲の女性陣が大ハッスルした。

 いや腐女子成分が浸透しすぎだろ。

 ミケはただの知り合いだからお前らが想像している展開はない。


「トーリ君。ありがとう」


 ミケも照れくさそうに笑った。


「でもこの髪型家族になんて言おう」

「俺と一緒に切ったって言えば?」

「そうだね。そうする。じゃあまた明日ねトーリ君」

「ああ、またな」


 俺達はそこで別れた。

 しばらく歩いていると滅多に鳴らないスマホが鳴った。


 麗しの生徒会長か? 副会長か?

 違う。紗古馬さんだった。


 どう? イケメンになった?


 ――というメッセージだった。

 なんて答えればいいんだ。

 暗殺者にクラスチェンジしたぜ――と嫌みの一つでも言いたいところだが紗古馬さんは俺達の事を思ってヘアサロンに連れてってくれたんだ。

 その思いを無下にするわけにはいかない。

 だがその前に俺は自分の思っていることを文章にすらできないのだ。

 だから俺は素直に――。


 良――とだけ送った。

 すると直ぐに返信があって、


 短。明日チェックするから楽しみにしてるね。


 ――と返事が来た。

 ふん、俺よりミケのカッコカワイイさに悶えるがよい。


お読みいただきありがとうございました。

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