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76 幽霊の紗古馬先輩

「サカトーリ君」


 俺の苗字と名前の句読点を間違えて呼ぶのはこの世でただ一人。

 美の少女の紗古馬さんだけだ。

 紗古馬さんはその名の通り、生徒会長と副会長に並ぶブッチギリの美少女だ。

 ボッチでコミュ障で根暗な俺なんかに、こんな美少女が話しかけてくるなんてどう考えてもおかしい――だからきっと紗古馬さんは人間じゃない。きっと幽霊なのだ。

 そうこの世の存在ではないのだ。

 よく見ろあの美しさを。普通の生徒にしては顔が小さすぎる。

 ああ、紗古馬さんは宇宙人だ――中身はトカゲ型のレプティリアンなのだ。

 あの美少女は変身した仮の姿に違いない。騙されるな。

 それが俺の願望が作り出したイマジナリーフレンド。

 普通の人には見えない架空の存在だ。


「おい、トーリ、どういうことだよ。なんで紗古馬さんとも知り合いなんだよ」

「え?」

「生徒会長とも仲良くて、リンダ先生とも知り合いで、なんでお前は美少女とばかり知り合いなんだよ。卑怯だろ。少しは分けろ」


 井の中ズのリーダーが俺の肩を揺さぶった。

 なんだと? こいつ紗古馬さんの存在を知っているだと?

 まさか、お前も幽霊が見えるのか?

 男子生徒達が紗古馬さんの美的オーラに圧倒されチラ見どころかガン見している。

 まさかお前らも幽霊の紗古馬さんを見えるのか?


「ちょっとサカトーリ君無視しないでよ。何そのお化けでも見るような目線。芽奈は生きているのよサカトーリ君」

「え?」


 俺は激しく動揺した。


「何その顔? まさかほんとに幽霊だと思ってたの? 呪うぞ。化けて出るぞ。少しは気をつけてよね。貴方はただでさえ目つき悪いんだから。その目つきどこの暗殺者よ」


 美の少女の紗古馬さんが俺を軽く小突いた。

 同時に周囲の男子生徒の嫉妬が俺に突き刺さる。

 目つきが悪いという言葉にクラスメイト達が頷いている。

 俺だって姉ちゃんと妹のようなパッチリお目々に生まれたかったよ。

 そんなことよりも紗古馬さん。

 やっとテンドー君とのいざこざが薄まったっていうときに、新たな火種を撒かないでもらえますか?

 コミュ不可ボッチんぼうの俺と仲良くしてくれるのは大変うれしいが周りを見ろよ。

 あなたの親し気な態度は俺にとっては毒なの。

 もう俺は男子生徒の嫉妬のターゲットだよ。

 何百発ものトマホークがロックオンされたよ?

 絶対陰でなんか言われるよ。あのキモイ奴誰だよ。紗古馬さんと喋るなんて生意気だぞ。

 だから責任取って付き合ってください――という目で俺は紗古馬さんを見た。


「……」

「だからその目は止めなさい」

「……くっ。なんかよう?」

「何か用じゃないでしょ。芽奈の扱い雑過ぎっしょ。可愛いって噂の留学生を見に来たらサカトーリ君がいたから声かけたのに酷い。そんなに芽奈って邪魔? ウザイ? お節介? 魅力ない? 声かけちゃだめ?」


 紗古馬さんが大きな流し目で俺を睨んだ。

 周囲の生徒達が俺を非難するような目で見る。

 確かに若干ウザイし、お節介なのはいなめない。


「今、ウザイと思ったでしょ」

「……ええまあ」


 まさか、紗古馬さんは鑑定能力保持者か?


「ええまあって酷い」


 紗古馬先輩が顔を押さえた。

 周囲の非難の目がさらにヒートアップ。


「いや、ちがう、その、これは、あの、その」


 俺は弁解の余地と言い訳の言葉が出てこなくて派手に困惑した。


「ミルフィー」


 困っている俺を見かねたのかミルフィーがその間に割って入った。

 おお、流石は俺の使い魔だ。主人の窮地に手を差し伸べるなんてよくできた弟子じゃ。


「あ、えっと、紗古馬です」


 紗古馬さんが慌ててミルフィーに向かって頭を下げ、自己紹介した。


「サカトーリ君の友達よ」


 紗古馬さんが俺の友達だって? はて? 俺には人間の友達は居りませんが?

 紗古馬さんはイジメられていた俺に同情して喋りかけているのだと思ってたのだが?

 はて? 周囲のギャラリーや、野次馬、クラスメイト達の頭上にも俺と同じクエスチョンマークが弾んだはずだ。

 友達だったの? ソレッテまさか、俺ってリア充? 陽キャ? ウェーイ派?


「ギョモダチ?」

「そうだから今日からミルフィーちゃんも友達ね」


 紗古馬さんがミルフィーに笑いかけた。


「メイナーギョモダチ」


 ミルフィーが紗古馬さんに抱きついた。

 おかしい。紗古馬さんは霊トレーサーでも何でもないのになんでこんなにミルフィーが懐くのだ?


「あっ俺トーリの友達です。だから俺とも友達になってください」


 井の中ズのリーダーが紗古馬さんにイケメンスマイルで手を伸ばした。

 こいつ素早い。勝ち馬に乗るその眼力と行動力――こいつ侮れない。

 俺をイジメていたのにあっさり謝って友達面するほどだ。

 お前は乗り換え能力保持者かよ。乗っかりスキル持ちか?


「……え? 本当に友達? まさかとは思うけど貴方達サカトーリ君をイジメてないよね?」


 紗古馬さんが大きな目を細めて井の中ズを睨んだ。


「ええ、もちろん。俺達友達だもんな。サカトーリ」


 俺の肩に手をやる動揺した井の中ズのリーダー。

 それってイジメっ子がやるやつやん。

 自分で正体明かしてるやん。


「……」


 いきなり友達面しやがって、俺の三割は許したけど残りの八割は許してねーからな?

 ――という目で俺は睨んだ。


「俺ら友達だもんなトーリ」


 だから俺の名を呼ぶな。


「……」

「……どこから見ても友達には見えないけど」

「……」


 紗古馬さんが大きな目で睨むと廊下に沈黙が訪れた。

 今しか無い。皆の視線が井の中ズと紗古馬さんに集中している。

 俺は人混みと視線が大っ嫌いなのだ。

 俺はこっそりその場から逃げ出した。


「ちょっと、どこ行くの? サカトーリ君?」

「おいおい、俺達友達だよな。サカトーリ君」

「……」


 くっそ、離脱失敗。何だよ俺の忍法空気の術が効いてないのかよ。


「……紗古馬先輩。友達だから問題ないよ」


 第三者の声がした。男子にしては甲高く、女子にしては低い。

 そうミケだ。ミケが紗古馬さんに笑いかけた。


「あらヨシツ、貴方も同じクラスだったの?」


 紗古馬さんがミケに親し気に聞いた。


「えへへ。そうだよ。びっくりした?」

「びっくりしたよ」


 紗古馬先輩とミケが仲良さげに笑った。


「し、知り合いなん?」


 井の中ズのリーダーが質問する。


「うん。紗古馬先輩とは中学校が一緒だったんだ」

「紗古馬先輩だとおお」

「お前もか。お前もか。お前もハーレム候補生の一員か。だが案ずるな。お前と友達の俺にもその資格がある。お前と友達でよかったよ。さあミケ。俺達の誤解を解いてくれ」

「え? まあいいけど。紗古馬先輩。問題ないよ……今はもう」


 ミケがそうやって笑った。


「……そうなんだ」


 そのミケの言葉で紗古馬さんが引き下がった。


「そうですよう。いやだなあ」


 井の中ズが誤魔化すように手をフラフラ振った。

 紗古馬さんはそんな彼らを睨み、そして俺とミケを睨む。

 大きな目で俺達を交互に見比べる。

 そんなに見んといて。胸がボチボチしてくるから。

 それに俺をそんなに凝視すると減るから。俺のボッチ成分が減るから見ないで。


「……ねえ」


 紗古馬さんが俺に近寄る。近い近いですよ。

 これはもしかして告白? いやラッキースケベイベント勃発か?

 そしてミケにこっちにおいでと綺麗な手を振った。

 なんとミケも? 三人で何をするというのか?

 俺のボッチンハートが高周波発をしながら高鳴り始めた。


「ヨシツ。サカトーリ君。今日の夕方空いてる?」


 紗古馬さんが俺とミケの肩を掴んでそう言った。


「「はい?」」


 俺達は素っ頓狂な声を出した。


「空いてる?」

「「ええまあ」」


 俺とミケは互いの顔を見てからそう言った。


「よし。じゃあ私に付き合って」

「「え?」」


 付き合う? もしや、ディナーでもご馳走してくれるのだろうか?

 やったぞ。俺の胃袋が歓喜に震えた。

 それともまさかの展開――ラッキースケベイベントも?


「部活終わったら校門前に集合」


 紗古馬さん自分のショートカットの髪をふわりとかき上げた。


 周囲がざわついた。

 絶世の美少女の紗古馬さんが男子生徒を誘ったのだ。

 ざわつかないはずがない。

 男子生徒達が嫉妬の炎で真っ赤な攻撃色に輝いた。

 このままではヤラレル。


「「「なんだと? 俺達もご一緒させてくださーい」」」

「いーえ貴方達は呼んでないわ」


 紗古馬さんの鋭い目線で井の中ズは黙らされた。


「ミルフィーは?」


 ミルフィーが飛び上がりながら手を上げた。

 身長の高いミルフィーが跳ねると天井に手が届きそうだ。


「ミルフィーちゃんは先生と一緒に手続きがあるからまた今度ね」


 良い匂いが漂った。

 この声は、この風は?

 井の中ズが尻尾を振り出した。


「「「りんだちゃああああん」」」


 全校生徒の憧れの的、リンダ先生が颯爽と現れた。

 いつの間に? リンダ先生はこの圧倒的なボリューム感のある胸をしてるくせに存在感が希薄だ。

 何かの術を行使しているに違いない。

 しかもいつも最適なタイミングで現れる。


「トーリ君。ミルフィーちゃんは私が送って行くわ。手続きがいろいろあるのよう」


 ああ、先生俺もそっちに行きたいです。

 紗古馬さんも捨てがたいがリンダ先生も捨てがたい。

 ああ、俺はどうすればいいんだ。紗古馬さんの誘いを断ち切ってリンダ先生についていくか? 究極の選択だ。選択なんかできっこない。答えなんか出せっこない。


「ギョーリ?」


 俺の心の葛藤を読んだミルフィーが心配そうな顔をした。

 おっと、俺としたことが勝手に負のスパイラルに陥っていたようだ。

 ミルフィー。こっちは戦闘にはならないからリンダ先生になんか旨いもんでも奢ってもらえ。


「ギョイ」


 ミルフィーは最敬礼で答えた。


「じゃあ、サカトーリ君、ヨシツまたあとでね。先生失礼します」


 紗古馬さんが颯爽と去っていった。

 それを鼻の下を伸ばして見守る男子生徒達。

 女子生徒達もその美しさに圧倒され言葉を失っていた。

 リンダ先生も去っていった。とっても良い香りを残して。


「おい、トーリどういうことだ? いつから知り合いなんだ?」


 井の中ズのリーダーがその沈黙を破り俺の顔を覗き込んで来た。


「そうだそうだ」

「俺達友達だろ?」


 井の中ズ達が続いた。

 えっと、紗古馬さんはな、俺が上級生のイキリマスクズ達にイジメられていた時に声をかけてくれた心の優しい普通の美の少女だ。

 だが俺のことをサカトーリと変わった呼び方で呼ぶのが玉に傷だ。

 可愛さでは生徒会長、副会長と並ぶ我が校の至宝だということは言うまでもないだろう。


「……」


 ――と頭の中で答えた。


「やっぱり仲直りして正解だったな」

「だろ?」

「紗古馬さんとも会話できるなんて俺達の高校生活はバラ色確定だな」

「だろ?」

「リンダ先生とも至近距離に接近できたしな」

「だろ?」

「トーリ。他にも可愛い子の知り合いいないだろうな?」


 いないなあ。

 ああ、将来可愛くなるはずのリア充候補の小学生だったら紹介してやってもいいぞ。

 そして逮捕されるがいい。

 いや待て、イケメンだから小学生と一緒にいても怪しまれないのでは?


「いるのか?」


 期待を込めた目で俺を見る井の中ズ達。

 ああ、いる。

 ダメだ。ダメだ。そもそもこいつらには誰も紹介なんてしない。

 なぜなら俺はコミュ障性格最悪ボッチだからだ。

 ボッチがリア充ウェーイみたいな交友関係を披露してはいけない。

 孤高で寂しいオンリーロードをとぼとぼ歩くボッチイズムを忘れるな。

 ふう。危うく自分のアイデンティティを見失うところだったぜ。


「いない」

「そうか、リンダ先生の情報収集を引き続き頼むぞ」

「……」


 そうだった。誰がそんなことするかよ。リンダ先生の情報は絶対に渡さない。


「それに紗古馬先輩の情報収集も追加しておく」

「……」


 井の中ズのリーダーの命令を俺は背中で無視した。




 ――放課後の生徒会室。


「さて、トーリ君。キリヒメサマから色々聞いてるわよ」


 副会長が俺を睨んだ。

 え? 何を聞いたんだ? あのオシャベリヒメサマ何を言ったんだ?

 俺が暴走勇者君をぶっ殺したことか?

 ダンジョンコアを持っていることか?

 それとも?


「奥義を会得したらしいのう」


 生徒会長がショートケーキのイチゴをフォークにさして顔の前に上げた。

 なんだそのことかよ。ああ、びっくりした。


「ええまあ」


 俺は無難にいつも通りに、そっけなく不愛想に答えた。


「では見せてみよ」

「え?」


 いや見せるもんじゃないですよう。

 また今度ね。


「見せて見よ」

「ええ?」


 生徒会長の眼力に負けた俺はダンジョンに移動した。


「トーリ君、力まないでね」

「ではトーリよ本気でかかってくるがいい」


 生徒会長が背の大きな太刀を構えながらそう言った。

 長物を構える美少女というシチュエーションで俺の中の中二病が爆ぜた。


「我イマジナリーウェポン……黒乱と白乱を受けてみよ」


 その可愛らしい声と同時に生徒会長のお胸が爆ぜた。

 短いスカートからは白い太ももの閃光が俺の目を焼く。

 真面目に戦えるわけがない。破廉恥すぎだろ。


「トーリ君。よそ見しないで」


 副会長の声で俺は頭を振って気持ちを切り替えた。

 生徒会長はS級。木曽三川警護団よりもはるかに格上。

 油断したら斬られる。

 いや、斬られたほうがいいのでは?

 ここで俺が本気を出して戦う意味も必要性もないのでは?

 俺はダンジョン部の新人なのだ。

 先輩の顔は立てなければならない。接待ゴルフの基本だ。

 サラリーマンの父親の口癖を思い出す。


「……」

「クロミズサマの加護の使用を許可する。本気で来るがよい。私も本気でいくぞ」


 生徒会長のスタイル抜群の体がメンタル霊に包まれた。

 俺は鼻の下を最大限に伸ばしてガン見していた。

 その美しい肢体を。本気だと? S級の本気?

 ゴクリと俺の喉が鳴った。


「奥義……未来樹開放 半刀両断 ハイハクズ」


 その瞬間、生徒会長の制服の膨らみが目の前にあり、その直後俺の視界は斜めに回転していた。


「え?」

「ギョーリ、ギャンブンにギャッタ」


 ミルフィーがカロリーバーを齧った。


「……」

「なんと、まだまだ精進が足りぬ」


 生徒会長のお胸が揺れた。


「課題は多いわね」


 副会長がそう胸を揺らした。

 そして半分に両断された俺はダンジョンで死亡して追い出され、廊下で目を覚ました。


「あらあら、トーリ君また死んだのお?」


 リンダ先生が俺の前でスカートの中がギリギリ見えない位置に立って手を叩いた。

 ああ、太ももとお胸をガン見していたら斬られました。

 そんなことよりあと数ミクロンだけ、こっちに近寄ってください。


「……まあ」


 ――と俺は心の中で答えた。

 暫くすると生徒会長と副会長とミルフィーがダンジョンから戻ってきた。


「ほんとに凄いミルフィーちゃん」

「ギョヘ」

「まさか奥義を使いこなすとはな」

「ギョヘヘ」

「トーリも油断していると使い魔に追い越されるぞ」


 生徒会長が俺を睨んだ。

 とっくに追い越されてますし、俺は上か下とか順位には拘らないタイプなんで問題ないっスよ。そんなことよりも動けない俺にもっと近寄って介抱してください。


「さてミルフィーちゃん、一緒に帰りましょう」

「ギャイ」


 ミルフィーが手を振りながらリンダ先生についていった。

 こうして部活を終えた俺は紗古馬さんとの待ち合わせ場所の校門に向かった。


「ごめん。少し長引いちゃった」


 そうこうしているとミケが来た。

 ミケの大きな目に夕暮れ時の光が輝いていた。

 女の子かよ。なんで男のくせにそんなに睫毛が長いんだよ。

 胸がボチボチしちゃうだろうが。


「……長引いた?」


 俺はその動揺を隠すように問いかけた。


「うん、バグが出ちゃって」

「バグ?」

「ああ、僕パソコン部なんだ。アプリ作ってるんだ。トーリ君は興味ないかもしれないけど」


 ミケの声が小さくなる。

 なんだと? アプリだと?

 高校生だぞ。高校生がプログラム的なことなんかできるのか?

 そんなこと俺が転生を繰り返しても得られる技術じゃないぞ。

 入学して数週間だぞ。まさかミケって凄い才能の持ち主なのでは?


「いや興味ある」

「本当?」


 ミケが嬉しそうに大きな目を輝かせた。


 ああ、本当だ。アプリ開発が可能なら俺のダンジョン攻略支援アプリも作れるのでは?


「ああ、通った箇所を記録するオートマッピングのアプリが欲しい」


 そう、俺はダンジョン内をオートマッピングするアプリが欲しかったのだ。

 ボッチレーダーとボッチーズの実現でダンジョン探索はオートだったが、マッピングだけはまだ手動アナログだったのだ。

 もう手書きでマッピングはうんざりだった。


「へえ、そうなんだ。オートマッピング? GPSと三軸加速センサーからログを取れば……詳しい仕様分からないと作れないから、今度部活に遊びに来てよ」

「ああ」

「ほんとう? いいのう? うれしいなあ」


 ミケが手を叩きながら飛び跳ねた。


「待った?」


 美の少女の紗古馬さんがやってきた。

 夕日を背負ったその姿はまさに女神降臨。

 この世界には女神が何柱も存在する。

 爺ちゃん。やっぱこっちが天国だったようだぞ。

 俺は紗古馬さんに見惚れているとミケが一歩踏み出した。


「紗古馬先輩、それで今日はどこに?」


 ミケが紗古馬先輩に問いかける。


「ふふふ内緒。ついてきて」


 紗古馬さんが綺麗な指を小さな唇の前で立てた。

 内緒だと? まさかラッキースケベイベント勃発なのか?

 それとも何を食べさせてくれるんだろう。


 俺達は紗古馬さんに突き従って歩き始めた。

 周りの帰宅途中の男子生徒達が嫉妬の目で俺を見る。

 ミケは可愛いから嫉妬の対象外だろう。

 俺はその不快感を覆い隠すように紗古馬さんの白い太ももをガン見のガン見していた。

 目の保養。眼福。なにか心の中のどす黒いものが消えていくような曲線美だった。


「サカトーリ君」


 紗古馬さんが突如振り返って俺を睨んだ。

 くっそ、太ももをガン見していたのがバレていたのか?

 だが待って欲しい。後ろを歩くということは視界に入らざるを得ないというか、ガン見必須というか不可避というか――。


「本当にイジメられていないの?」


 紗古馬さんが美しい眉を傾げた。


「え? ええまあ」


 ガン見していた件ではないようだ。

 イジメ? ああガッツリされてたな。


「ヨシツ?」


 ヨシツって誰だ?


「イジメなんてないよ」


 ヨシツと呼ばれたミケが答えた。


「ヨシツ?」

「ああ、僕の名前、義経っていうんだ。シワシワネームだよね」


 ミケが照れながらそう言った。

 え? 義経って名前だったの?

 カッコいい。俺のサカトーリと交換してくんない?


「ふーん。だったらいいけど」


 紗古馬さんが肩をすくめた。

 それにしても周りの視線が益々痛い。

 俺の前を歩く紗古馬さんは美少女だ。

 男子生徒に加え、サラリーマン達の視線も加わっていた。


「でも学校帰りに友達と遊ぶなんて陽キャみたいだねえ」


 ミケが女の子ように嬉しそうに笑った。

 確かに陽キャみたいだ。

 だがそれって嬉しいことなのだろうか?

 俺も学校帰りに誰かと歩くのは初めてだ。

 ミルフィーは眷族で魔物だから対象外。

 あれは保護対象だからな。

 クラスメイトと歩くなんて小学校のランドセルの運び屋の時以来だろうか?


 そもそもボッチの俺が誰かと歩くことは稀有だ。

 歩く速度は? 歩幅はどうすればいい? 最適な歩行速度は?

 だが俺は部活で生徒会長と副会長と歩くことによって俺は経験を積んだのだ。

 危なかった。ダンジョン部に入ってなかったら他人と一緒に歩くことなどできなかっただろう。

 俺は生徒会長と副会長の太ももに感謝した。


「紗古馬先輩、まだなの?」


 ミケが楽しそうな声で聞く。


「もう少しよ」


 俺とミケは顔を合わせて紗古馬さんについていく。

 しばらくすると紗古馬さんが立ち止まった。


「ここよ」

「「え? ここ」」


 俺とミケは素っ頓狂な声を上げた。


お読みいただきありがとうございました。

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