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75 謎の転校生

「待ってたっスよカガッチ」


 チャラ男こと道山世界がダンジョンで待ち構えていた。

 ファミレスで見た泣きそうな顔ではなく、自信と希望に満ちた眩しい笑顔だった。


「……あっ。金返す」


 その眩しい笑顔を直視できずに俺は誤魔化すように頭を下げた。

 昨日はミルフィーが沢山食べてすいません。

 奢ってくれた人は犯罪者だろうが悪人だろうが善人なのだ。

 従って陽キャのフラグシップのようなチャラ男でも恩人だった。


「いやいやいや。大丈夫っスよ。ファミレスぐらい、いつでも奢るっスよ」

「……いやでも」

「カガッチが出世して魔石を沢山手に入れるようになったら、少し分けてくれればいいっスよ」


 チャラ男が歯を光らせた。


「魔石?」


 魔石ってあれだよな? 魔物を倒した時に出てくるメンタル霊の塊。

 俺はリュックの中に手を入れて、アイテムボックスの中から魔石を一つ取り出した。

 これはウェーイ砦で皆殺しにしたゴブリンの魔石だ。


「え? カガッチこれは?」

「……魔石」

「そんなの見れば分かるっスよ。どこで手に入れたんスか?」


 チャラ男が食い入るように魔石をガン見している。


「……昨日のダンジョン」


 俺は素っ気なく最少ワードで答える。


「ああ、確か初心者用ダンジョンはファミレスの地下でしたっけ?」

「ええ、まあ」

「初心者用ダンジョンに魔石を落とすような魔物なんていたっスか?」

「……いた」

「ははあん。もしかしてそこでミルフィーちゃんを使い魔にしたんスか?」


 チャラ男が肘で俺を小突いた。


「え?」

「いやーファミレスで初めてミルフィーちゃんを見たときはビックリして剣を抜くところでしたよ。それにしても初心者用ダンジョンにレア魔物のハシヒメ種の魔物を見つけて、使い魔にするなんて相変わらずカガッチは規格外っスねえ」


 なんとチャラ男のくせにミルフィーが魔物だと見抜いていた。

 しかもハシヒメ種ってことまでも見抜いた?

 あのチャラい目は本物?

 いつもそのチャラい態度で忘れそうになるが、チャラ男はA級霊トレーサーなのだ。


「ええ、まあ」

「良かったっスねえ。ミルフィーちゃんを大事にするんスよ」

「ええ、まあ」

「ミルフィーちゃんのような具現化した魔物を狙う者は多いっスから、なんか困ったことがあったらいつでも連絡してくださいよ。俺っちこう見えても顔広いっスから」


 チャラ男が手を広げたが俺はチャラ男の電話番号もアドレスも知らない。

 また知りたくもない。

 それよりも昨日の借りを返せるならさっさと返しておこう。


「この魔石いる?」

「そりゃいるっスよ。魔石は貴重な交換アイテムっスからね」

「交換アイテム?」


 何を言ってるんだ? こんなバッチイ石が交換アイテムだと?

 誰が欲しがるんだこんなもん。


「え? ダンジョン産のアイテムは高額買い取り対象っスよ。カガッチ新人研修で何聞いてたんすか?」

「え?」

「まさか寝てたとか?」

「ええ、まあ」


 チャラ男が大きな溜息と共に大きく肩をすくめた。


「確かにあれは退屈ですからね。まあ俺が分かりやすく簡潔に教えてあげてもいいですけどねえ」


 チャラ男が流し目で手を差し出し上下に振った。

 むっ? 金か? 金ならねえぞ。


「……」

「まだあるんスよね魔石?」


 そういうことか――俺はリュックに手を入れゴブリンの魔石を取り出した。


「ふっ。しゃーねっスね」


 チャラ男が魔石を懐にしまい込んだ。


「実はダンジョンのドロップアイテムは換金所で換金できるっスよ。換金された情報はライセンスカードに記録されるから偽造も詐欺もできない。そしてその取引高に応じてランキングが発表される」


 ライセンスカードに記録されるだと?

 ラインキングだと?

 アイテムボックスの魔石を全部換金したら間違いなくランキングに顔を出してしまう。

 期待のルーキーボッチとして名が知れてしまう。

 ボッチは目立ってはいけない、空気であれのポリシーに違反してしまう。


「……」

「実は内緒なんスがランキングに載らない方法もあるんスよう。まあ俺が知ってる裏換金所で特別に換金してきてあげてもいいっスよ」


 俺の渋い顔を見たチャラ男がそう指を振った。

 そんな都合のいい換金所は隠密ボッチの俺にピッタリだ。


「でもまあ、ただという訳には……俺の貰う手数料は三割でどうっすか?」


 チャラ男が悪い笑みを浮かべた。

 俺は指を二本立てた。これ以上は譲れない。


「ふっ。じゃあこの話はなしっスね、自分で換金することっスね。ランキングに載っちゃうえばいいんスよ」


 チャラ男が首を横に振った。

 俺は無言でリビングアーマーの魔石を取り出した。


「なっ? この魔石はなんスか?」


 チャラ男から笑みが消え、俺の掌の魔石をのぞき込む。

 俺はそれを握り隠した。


「なっ。その魔石はかなり高価で取引されるっスよ」


 俺は悪い笑みを浮かべて指を一本だけ立てた。


「くっ。分かったスよ。一割でいいっス。交渉成立。他にもまだ魔石があるなら俺が換金してくるっスよ」


 口下手の俺は性格最悪の姉ちゃんの弟なんだぞ。

 人の足元を見るのは得意だ。


「分かった」


 俺はアイテムボックスからリビングアーマーの魔石を取り出した。


「じゃあ、ゴブリンの魔石二個とこの高そうな魔石二個、明日までに換金してくるっスよ」

「よろしく」

「カガッチ。このことはくれぐれも俺達だけの……」

「ああ、秘密だ」

「「フフフッ」」


 俺達はダンジョンで悪い笑みを浮かべた。


「ではこの話はおしまいっス。さあそろそろ朝練始めるっスか。昨日の分まで走るっスよ」


 チャラ男が俺を置いて先にダンジョン内を走り始めた。

 チャラ男のくせに速い。俺は慌ててその後に続く。


「加護の使用は禁止っスよ」

「はあ」


 そう朝練には加護は厳禁なのだ。

 これはヒョロガリボッチの俺の基礎体力をつけるための走り込みなのだ。

 メンタル霊が不足がちの俺はメンタル霊を溜めることが先決だった。

 無敵で万能の加護なんか纏っていたら練習にならない。




 ――三十分後。


「ぜーぜーぜー」


 俺はダンジョンの石床に倒れていた。


「じゃあ今日もお疲れさまっしたあ。明日までに換金してくるっスよ」

「……」


 こうして俺は朝練を終え、ダンジョンを出た。




「おはようトーリ君」


 教室に入るとミケが女の子のような笑顔で出迎えてくれた。


「ああ、おはよう」


 俺は胸をボチボチしながら挨拶を返した。


「「「「ウェイース」」」」


 井の中ズが俺を囲んだ。


「……」


 な、なんだ朝から囲まれた? まさかリンチタイムか?

 昨日の話はなかったことになってボコボコにされちゃう?


「んでリンダ先生の情報は手に入れたか?」


 井の中ズのリーダーが俺に詰め寄る。

 え? 何この慣れ慣れしい態度?

 友達みたいに話しかけてくんなよ。

 リンダ先生の情報?

 ああ、情報どころか空気まで手に入れたぞ。

 だが待てよ。こんな奴らにリンダ先生が俺の家に来たなんて言って見ろ?

 絶対家に押しかけて来るに違いない。

 座ったソファはどれだ? ――とか、リンダ先生の空気を入れるから空き瓶を用意しろ――とか言って俺の胸倉を掴んでくるにちがいない。

 だから絶対に内緒だ。


「……まだ何も」

「そうか、では引き続き調査を頼んだぞ」

「はあ」

「あ、お前適当に返事しただろ」

「ええまあ」

「あ、こいつ感じ悪-ぞ」


 感じ悪いのはお前らだろう。

 寡黙なボッチを大勢で囲んでんだよ。

 それはイジメですよ? 集団で少数をいたぶるイジメですよ?


「まあまあ佐々木君」


 ミケがたしなめる。佐々木って誰だ? きっと井の中ズのリーダーに違いない。

 そんなことよりもミケ、マジイケメン。

 もしかして、俺はとんでもない逸材と知り合いになれたのかもしれないな?

 ミケは俺の心を先読みして、会話をスムーズに繋げてくれる天使だ。

 俺がミケに惚れそうになっていると担任が入って来た。


「お前ら泣いて喜べ。そして俺に感謝しろ。転校生? 留学生をゲットしたぞ」


 名前も知らない担任がニヤリと笑った。


「「「おおお」」」

「しかも銀髪だ」


 担任がサムズアップした。


「「「「おおおおお」」」


 クラスがスタンディングオベーション。


「まさかトーリ」


 井の中ズのリーダーが俺を見た。

 おいおい慣れ慣れしいぞ。いつから俺の名を呼び捨てることを許した?


「入ってこい」


 担任が教室の扉を開けた。


「!」


 その一声で教室が静寂に包まれる。

 騒いでいたクラスメイト達が口をつぐみ、息を飲む。

 その視線が扉に釘付けになる。

 だが誰も入ってこない。

 その一瞬の沈黙数秒間が何分にも何十分にも延長される。

 そしてついに皆の期待の眼差しを受け、我ら人類の元にそれは降臨した。


 長く細い銀髪がリズミカルに細い肩を流れる。

 小さな白い顔に輝く大きな赤い目。細く高い鼻に小さな口。

 明らかに人間離れした美の造形がそこにあった。

 それもそのはず彼女は人間ではない――魔物だ。

 クロミズのコア核によって進化した元ボッチのゴブリン。

 俺の使い魔――ミルフィーであった。

 今日のミルフィーはメイド服ではない。

 姉ちゃんのお下がりの我が校の制服を着ていた。


「「「おおおおおお」」」


 クラスメイト達が男女問わず絶叫した。


「マジかよ」


 井の中ズが俺を見て目を輝かせた。

 俺は肩をすくめた。


「「「おおおお」」」


「海外からの留学生のミルフィー・ストーンブリッジだ。日本語があまり話せないが皆仲良くしてやってくれ、くっそお前らが羨ましいぞ」


 担任が地団駄を踏んだ。


「「「おおおおおお」」」


 教室内が歓喜に沸いた。

 俺は冷静。寡黙――なぜなら知っていたからだ。


「ギョーリ」


 ミルフィーが俺に満面の笑みを浮かべた。

 良かったな。みんな喜んでくれたぞ?


「ギャヘヘ」


 ミルフィーがゴブリンっぽく笑った。


「「「は?」」」

「ギョーリって何語?」

「ギョヘヘって何語?」

「さあ?」


 事情を知らないクラスメイト達の頭の上にクエスチョンマークが踊った。

 確かに見た目完璧の美少女がゴブリン訛りで話す衝撃は計り知れない。


「トーリ」

「加賀坂知ってたのか?」

「加賀坂君?」


 井の中ズとミケが俺を見る。

 ああ、そうだと俺は頷き返した。


「ああ、そうそう。ミルフィーは加賀坂の遠い親戚だそうだ。安心しろ恋仲ではないと言質を取った」


 担任が頭をガシガシ掻きながら面倒くさそうに言った。


「え? 親戚?」


 クラスメイトの女子達が怪訝な表情を浮かべた。


「全然似てないんですけど?」

「似なくてよかったね」

「親戚? マジかよ」


 クラスメイト達が俺を見て好き放題感想を述べた。

 俺の親戚って感じしないか? そりゃそうだ。正確には親戚ではなく眷族だからな。

 血は繋がってねえから似ても似つかないだろう。


「「「ミルフィーちゃああん」」」

 

井の中ズが叫んだ。


「ギョーリとギッショ」


 ミルフィーは空気も読まずに俺に向かって嬉しそうに走ってきた。

 ああ、これが昨日まで檻に囚われたゴブリンだったなんて誰が信じるだろうか?


「「「え?」」


 嬉しそうに俺の顔を見るミルフィーを見たクラスメイトの顔が絶望に染まる。


「そうだな。席は窓際のそ……」

「ギョコガギャイイ」


 ミルフィーが俺の後ろの席を指さした。


「……え?」


 俺の後ろに座っていた名もなきモブキャラがミルフィーに見つめられてフリーズした。

 おいおい、俺の十八番の無言を奪うんじゃねーよ。


「オネギャーイ」


 フリーズしたモブキャラに向かってミルフィーが両手を合わせてクネクネした。

 俺はミルフィーに最強の技を教えてしまったのかもしれない。

 ごく普通の男子高校生では、あのカワイさにあがらうことも逆らうことも難しいだろう。

 思春期真っ盛りの男子高校生にはあの仕草は致命傷だ。

 ハートに恋という怪我を負ったに違いない。


「ははは、はいいいぃ」


 モブキャラ君が慌てふためきながら、挙動不審で立ち上がると机を持ってそそくさと移動した。

 俺の十八番の噛み噛みを奪うなよ。


「ギャッタ」


 ミルフィーはそう言いながら余っている机と椅子を軽々と掴んで俺の後ろに置いた。

 クラスメイト達が放心したように鼻の下を伸ばしミルフィーの動きを見つめる。


「「「「ミルフィーちゃあん」」」」


 井の中ズが黄色い声を上げた。

 それを見た女子達が怪訝な顔をした。


「おいおい、お前ら仲良してくれよ。俺のクラスでイジメとか絶対に止めてくれよ。俺は教育委員会に行って、校長になるビッグな男だからな」


 名前も知らない担任の教師がサムズアップした。

 こいつの目はどんだけ節穴なんだよ。

 俺は担任を睨み、続いてイケメンズを睨むと彼らはそっと目をそらした。

 ミケが苦笑いしていた。


 授業中――何やら後ろからゴリゴリ音がする。

 こっそり後ろを見ると――ミルフィーがノートの真ん中に真っ黒の丸を書いていた。

 何だこれは?


「ギョロミズサマ」


 ミルフィーが自信満々に笑った。

 確かにクロミズのような気がしないでもない。

 だがしっかり授業は聞いておけよ。

 俺は眠りにおちながらそうミルフィーに心の中で伝えた。


「ギャイ。ギョヤスミ」


 俺とミルフィーはコールドスリープに入った。


 目覚めると周囲が騒がしい。

 どうやら今は休み時間のようだ。


「ミルフィーちゃん好きなタイプは?」

「ビッグバーギュ」

「ミルフィーちゃんの好きな食べ物はなに?」

「和風甘口激辛スパイスカレー」

「どこから来たの?」

「アンガス」

「ご家族は?」

「ギャナイ」

「え? いない? 可哀想なミルフィーちゃん」

「トーリとはどういう仲なの?」

「ギャゾク」

「家族? トーリどういうことだよ? 親戚じゃないのかよ?」


 井の中ズのリーダーが俺に顔を近づけて睨んだ。

 近い近い離れろ。俺はイケメンが嫌いだ。


「「「キャアアア。佐々木君と加賀坂が近いのう」」」


 腐属性の女子達が黄色い声を上げた。

 ええい、うるさい。お前らこいつはイジメっ子だぞ。


「本当に親戚か? 似てないだろ?」

「明らかに日本人の血だけじゃないだろ?」

「銀髪だぞ」

「銀髪モエモエ、コスプレしようよ。メイド服とかきっと何でも似合うよ」


 太ったモブキャラが、春なのに汗だくで乱入してきた。

 誰だよお前。暑苦しいぞ。つい最近まで太っていた俺は自分のことを棚に上げて睨んだ。


「ギョスプレ? メイド?」

「え? そうそう。ミルフィーちゃん話が分かる。今度コスプレ撮影大会しない」


 デブモブが叫んだ。


「トーリお前の親戚って外人と結婚したのか? お姉さんいる?」

「妹とかいる?」

「あ、リンダ先生がいるというのに浮気か」

「違う。違うぞ。参考までに聞いただけだ」


 あー、もううるさい。こんなに騒がしいとスパイボッチモードに突入できないじゃないか。


 ミルフィーと俺の机の周りには俺の大嫌いな人集りが出来ていた。

 昨日までボッチでクラスの空気であり、物も言わない空気交換機だった俺はミルフィーのおかげで激しく目立っていた。

 ロンリーボッチの俺はミルフィーという存在の登場によってボッチ道を外れ、片足をリア充街道に踏み入れてしまっていた。

 孤独で快適な青春が崩壊し、俺はリア充達の騒がしい嵐に翻弄されていた。

 このままではまずい。ボッチ界を背負って立つボッチインフルエンサーの不甲斐ない。


 クラスメイト達を見ると最初からイジメなんてなかったかのように振る舞っている。

 だが俺は執念深い。お前らが俺にしたことは一生忘れないからな。

 そんな恨み辛みを込めたボッチアイでクラスメイト達を睨んでいると女の子のようなミケの大きな目と合った。

 ミケはゆっくりと首を振り、そんな目で見ちゃ駄目だよと俺を見た。

 くっ逃げよう。

 俺はミルフィーにトイレ行ってくると心の中で伝え立ち上がった。


「ギッショニギク」


 ミルフィーも立ち上がった。

 俺達はクロミズの加護を得た眷族同士。

 俺の心の声はミルフィーに伝わるのだ。


「俺も行くぞ。ミルフィーちゃん、トイレはこっち」

「なんで男子が案内するのよキモイ」

「ミルフィーちゃん。私達がご一緒します」


 クラスメイトの上品な女子が優雅に立ち上がった。

 えっと俺は一人になりたいんだ。ついてくんな。


「おいおい。出てきたぞ」

「うわああ」

「マジかよ。かわえええ」


 廊下にはミルフィーを一目見ようと野次馬達が集まっていた。


 俺の後ろを歩くミルフィーの登場に廊下が左右に割れた。


「マジかよ」

「すげええ」

「あの髪本物?」


 驚嘆する生徒達の間を俺は冷や汗を浮かべて歩く。

 後ろのミルフィーがキョロキョロと頭を振るたびに銀色のオーラが流れる。

 そしてその後ろにはイケメンズ、上品な女子達、ミケのクラスメイト達が続く。


「あの先頭の奴誰だ?」

「さあ? あれも転校生?」


 こ、これは激しく目立つ。ふええん目立っちゃ駄目だよう。

 先陣切って歩く俺はこの軍団のボスのようじゃないか。

 違うから。ボッチだから。

 誰もお前なんか見てないボッチよ。

 俺の心の中のボッチ君が面倒くさいそうにそう言った。

 確かに誰も俺のことなんか眼中にも興味もないようだ。

 野次馬達は俺の後ろのミルフィーに釘付けだ。


「マジかよ」

「可愛すぎだろ」

「ああ、俺もこの学校に来て良かった」

「あれ芸能人かよ」


 確かにミルフィーは可愛い。

 廊下には溜息と驚嘆が溢れた。


「「「ミルフィーちゃあああん」」」


 ドルオタの野太い歓声が廊下に響いた。

 びっくりしたミルフィーが俺の制服を掴んだ。

 ミルフィー待て、慌てるな。あいつらはキモいけど敵じゃない。

 ミルフィーが本当? という疑心暗鬼の目で俺を見る。

 本当だ。キモいけど敵じゃない。

 俺も昔はあれぐらい太っていたしな。温かい目で大目に見てやってくれ。


「ギョ、ギョイ」


 ミルフィーが頷いた。

 銀髪が綺麗に流れ、野次馬達の目を、心を鷲掴みする。


「「「おおおおお」」」


 そんな野次馬の中から――。


「サカトーリ君?」


 イタリアンシェフを呼ぶ声がした。


お読みいただきありがとうございました。

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