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72 井の中の蛙とは俺のことだ

 俺は事態の進展についていけない。

 何だよ急に掌返ししやがって、お前ら俺をキモいとか犯罪者呼ばわりしてただろ。

 いきなり謝られても困る。

 もっと俺を汚い目で、蔑んだ目で睨めよ。


「ほら加賀坂君も、みんなに謝って」


 混乱する俺にミケが訳の分からないことを言い出した。

 何で俺が謝るんだよ。

 俺は何もしていない。悪口だって言っていない。

 俺は悪いことはしていない。

 誰にも迷惑をかけずに空気のように生きてきたんだぞ。

 何でも喧嘩両成敗の伝統はよくないと思うぞ。

 世の中には加害者と被害者しかいないのだ。

 俺が間違いなく被害者だ。

 俺は無実だ。

 だから謝らない。


「でもみんなを睨んでたでしょ」


 ミケが眉間に皺を寄せた。

 くっ。確かに俺は心の中で死ねと連呼しながら皆を睨んでいた。

 だが心の中で言うのは無罪だ。実際には誰も傷つけていない。

 それなのに何で俺が謝る必要がある――おかしいだろ?


「なあ、加賀坂。俺らだってバカじゃない。人の顔を見れば何考えているかなんか直ぐに分かる。好意か悪意を向けられているかは特に敏感に分かる。俺達はそうやって生きてきたんだ。人の、教師の、大人の顔色をうかがいながら生きてきた」

「……」

「それはお前だってそうだろう」

「……」

「いきなり仲良くしろというのもおかしな話だが、じゃあいつ仲良くなる? 半年後か?

卒業した後か? 同窓会でか? 答えは簡単だ。今すぐだ。俺達は確かに間違ったことをした。それが消えるとは思っていない。なかったことにしない。だから謝った。足らないなら毎日謝ろう」


 イケメンリーダーが笑った。

 何こいつは正義マンかよ? ヒーロー気取りかよ?

 偉そうに綺麗ごと言ってんじゃねえ。

 だがこの場は完全にイケメンリーダーの支配下になった。

 ボッチのコミュ障の俺がどうにかできる空気じゃない。


「それに昨日の敵は今日の友だろ?」


 イケメンリーダーのその一言が俺のボッチハートに深く突き刺さった。

 俺はクロミズをボス部屋の扉で挟んで殺した。

 そしてボッチの友、ボットモって勝手に宣言した。

 クロミズは俺を恨むことなく、快く俺の友達になってくれた。

 黒牛守こと黒ミノタウロスも俺は問答無用でぶっ殺した。

 そして黒牛守と勝手に名前を付けて友達になった。


 こいつは俺と同じことを言ったのだ。


「トーリ君。謝ったら前に進むよ」


 ミケが俺の手を握った。

 ミケ。マジイケメン。マイノリティじゃない俺でも恋に落ちそうっす。

 ふざけている場合ではない。おどけている場合ではない。

 教室内はかつてない緊張感に包まれていた。

 誰もが口をつぐみ、俺を見ていた。

 その目には非難の色はない。

 あるのは、伺うような後ろめたそうな色だけだった。

 それはまさに俺のボッチアイそのもの。


「……ご、ごめん」


 俺は小さな声で謝った。

 ちょっと場の空気に流されている気もするが、とにかく俺は謝った。

 そうしないとクロミズや黒牛守に顔向けできないからだ。

 ミケに手を握られて胸がボチボチしたのもある。


「よしっ。これでもう解決。蒸し返す奴がいたら俺が朝まで説教してやる」

「え? 近藤君と朝まで一緒に?」


 女子生徒が目を輝かせた。


「え?」

「いやだあ。冗談よ」


 教室が笑いで包まれた。

 俺をダシにしてイケメンリーダーこと近藤君はクラスのカースト上位を不動のものにした瞬間だった。

 俺をスケープゴートにして周りが勝手に団結されるのは慣れている。

 だが今回は違う。誰も嫌な思いも我慢もしてないのだ。

 これはもしかして良いことなのでは?


「良かったねトーリ君」

「え? まあ」


 俺は曖昧にうなずいた。

 昨日の敵は今日の友。

 こいつらは昨日まで敵だった。

 だが今日は友となった。

 だがしかし、けれどもBUT……そんな簡単に友達になれたら苦労なんてしない。


「おい、信じられない美少女が旧校舎にいるらしいぞ」

「なんだって?」


 俺が大いなる不満の泥沼に陥っていると別のクラスの誰かが教室に入って来た。

 信じられない美少女だって? それは大変興味深い。

 俺が架空の眼鏡を直した。


「メイドのコスプレした外人だってよ」


 それは益々興味深い。


「しかも食い物を渡すと握手してくれるらしいぞ」

「なんだと?」

「メイド? それってまさか」


 ミケが大きな目で俺を見た。


「おいおい」


 井の中ズの近藤が俺を見た。


「「「ミルフィーちゃんじゃねえ?」」


 井の中ズが叫んだ。

 ああ、そうに違いない。

 メイド服で美人で外人枠は完全にミルフィーしかいない。

 しかも食べ物にあっさり釣られちゃうところとかミルフィー要素しかない。

 食い物に釣られて握手の安売りしてんじゃねえよ。手が汚れる。

 ええい。何でダンジョンで大人しくしてないんだよ。


「……」


 俺は教室を飛び出した。


「トーリ君待って」

「ミルフィーたん」


 イケメンズが俺の後に続く。

 だが俺は急いでいるのだ。


「速すぎだろ」

「あいつ陸上部か?」

「見えなくなったぞ」

「案ずるな目的地は同じ。旧校舎だ」


 ――という声が遥か後方から聞こえてきた。

 急げ。ミルフィーが何かやらかす前に止めなければ、痴漢男子がボコられる前にミルフィーをなんとかしないと。




 旧校舎には人だかりができていた。


「弁当上げると握手してくれるってよ。もっとパン買ってこい」

「どこのメイド喫茶なんだろう?」

「営業かな?」

「この学校のOB?」

「可愛すぎ」

「海外の方かな? 銀髪って初めて見た」

「赤い目って凄いな」


 間違いない。見るまでもない。

 この中心にいるのはミルフィーだ。

 リンダ先生は何してんだよ。しっかりその巨乳で保護しておけよ。

 ああ、俺もあの圧倒的な隙間の漆黒の闇に保護されたい。

 どうする。ミルフィーは生徒達に囲まれている。

 コミュ障ボッチの俺に、すみませんとか失礼しますとかなんて言えない。

 強行突破するか? それともここから大声でミルフィーを呼ぶか?

 いやいやこんな大勢の前で発声なんて無理。

 待てよ。わざわざ声に出す必要なんてないのでは?

 今まで心の中の言葉が通じていたのだ。


 ミルフィー――と俺は心の中で叫んだ。


「ギョーリ。ハンギャーグ」


 人だかりが割れ、頬をハムスターのようにぷっくりさせたミルフィーが走ってきた。

 食いながら走るなよ。喉詰まるぞ。

 何でダンジョンで大人しくしてないんだ。

 リンダ先生はどうした?


「ギャラヘッタ、ドッキャギッタ」


 ミルフィーが腹をさすった。

 腹減ったってリンダ先生とご飯食べなかったのかよ。

 クラスメイトが俺に謝罪するというあまりに非現実な事象に襲われてすっかりお前のこと忘れてた。


「ギョーリ、ヒギョイ」


 ミルフィーが誰かの弁当を食べながらそう言った。

 どんだけ食うんだよ。それ食ったらダンジョンで大人しくしててくれ。

 後で迎えに来るから。


「ギャダ」


 ミルフィーが首を横に振った。


「ギュマンナイ」


 ミルフィーが誰かの弁当を食べながら叫んだ。


「キャー」

「カワイスギ」

「なんだ日本語喋れないのか?」

「いやさっきから誰かと喋ってるようだが」


 ミルフィー。ダンジョンにはミニクロミズサマがお腹を空かせているかえもしれない。

 ご飯をお供えしてきてくれ。


「ギョ?」


 小さなクロミズサマだ。


「ギョイ」


 ミルフィーは、もらったパンを振りながらダンジョン部の部室に入っていった。

 成功したぞ。スラッシュ頼んだぞ。ミルフィーと一緒に居てくれ。


「あれミルフィーちゃんは?」

「あれ?」


 井の中ズ達が到着した時にはミルフィーは既にダンジョンに戻っていった。

 危なかった。こいつらに根ほり葉ほり聞かれたら面倒だ。

 助け舟の如く予備チャイムが鳴り、俺達は教室に戻った。




 午後からの授業は全く眠れなかった。

 ミルフィーはダンジョンで大人しくしてるかな?

 それよりも井の中ズだ。このクラスメイトの豹変ぶりだ。

 昨日の敵は今日の友って簡単に言うけどな?

 ボットモの場合は神様だったから許してくれただけだぞ?

 お前らが俺にやったことは一生消えないんだぞ。

 勝手に何もなかったことにしてんだよ?

 お前らがやったことは許されない。

 じゃあいつになったら許されるのだ?

 半年後か? 来年か? 卒業したあとか? 死んだ後か? 転生した後か?

 イケメンリーダーの言う通り。今すぐだ。

 そう頭では分かっていてもそう簡単に許せるものではない。


 俺は小さい。醜い。心が極小ボッチだ。

 きっと俺の心の容量はスズメの涙よりも少ないだろう。


 井の中の蛙とは俺のことだ。

 ボッチボッチと連呼して、俺だけは特別だと、俺だけはあいつらと違うと言い聞かせて、現実から逃げていただけだ。

 リア充とかウェーイとか馬鹿にしてたのは俺だ。

 俺は思っていることを口にするのが怖いだけの臆病者だ。

 そんなことは分かっている。

 だが同じ言葉が何度も俺の頭に繰り返される。


 昨日の敵は今日の友。

 どれだけ考えても、どれほど悩んでも、答えなんて出ない。

 悩みのスパイラルアリジゴクに突入した俺の方にクロミズが慰めるように手を置いたような気がした。

 黒牛守が慰めるようにサムズアップしたような気がした。

 キンミズサマが慰めるように弾んだような気がした。

 ボッチ君がどうでもいいボッチと笑った。


 そうだな――みんな最初は敵だったな。

 井の中ズもクラスメイトも敵だった。

 昨日の敵は今日の友――いつか仲良くなるのかもしれないな。

 いや無理無理。無理っス。

 アンビバレントな感情が俺を悩ませ続けた。

 俺の悩み事はクラスメイトの他にもう一つあった。

 ミルフィーだ。ミルフィーは悪さしてないだろうか?

 ああ、俺は生まれて三番目くらいに真剣に悩んでいた。

 一番目と二番目は覚えていない。

 入学して何かの部活に入らないといけないと悩んでいたことが懐かしい。




 ――放課後。


「トーリ君は執行部行くの?」

「ああ」


 徹夜明けだというのに全く眠れなかった。

 おかげで授業を真面目に聞いてしまったじゃないか。


「例の件忘れんなよ」

「へ?」


 何の剣だ? 俺のイマジナリーウェポンは大魔王の剣だが?


「まあ、強制的に仲直りしたのはちょっと反省している。ウザい時は言ってくれ」

「ああ」

「え? ウザかった?」

「ああ」

「うざいのかよ。まあいいやリンダちゃん拝みに行くか」

「「「おおおお」」」

「じゃあトーリ君また明日ね」

「ああ」


 一人残された俺は教室を出た。

 もう俺を睨む目も馬鹿にする目もない。

 いつもは暗い廊下が、今日はやけに明るい。

 照明を変えたのだろうか? 窓を開けたのだろうか?


 どうやって生徒会室まで歩いたのか覚えていない。

 気が付くと生徒会室の前だった。

 イジメ案件はひとまず棚の上に置いておこう。

 勘の鋭い副会長のことだ。俺が悩んでいることなんか一瞬で見抜くだろう。

 余計な心配をかけないように普段通りに無表情だ。

 俺は誰だ?

 ボッチだ。そう俺はボッチの中のボッチ。

 ロンリーハイウェイを爆走するボッチンローラーだ。

 クールボッチにアブソリュートボッチを保て。

 俺が無表情で生徒会室の扉を無言で失礼に開けて入ろうとした瞬間、扉が自動的に開いた。


「ギョーリギタア」


 ミルフィーが飛んできた。


「ギョーリゲーキあーん」


 ミルフィーは手にしたケーキを俺の顔にベチョリと押し付けた。


「そこは口じゃねえ」


 俺は頬に付いたクリームを舐めながら叫んだ。


「ギャテテ、ギャチガエタ」


 ミルフィーが頭をポコポコ叩いた。

 いきなり何やってんだよ。俺のクールボッチの無言の登場が台無しじゃねえか。

 それよりここで何をしている?


「ゲーキ、ギャベテタ」


 ケーキ食べてた? 何個目だ?

 それより何でダンジョンで大人しくしてないんだよ。

 クロミズサマはいたか?


「ギナキャッタ」


 いなかっただと? スラッシュ何やってんだよう。

 お前もクロミズのコア核を食べた眷族だろうが、しっかり妹弟子の面倒見ろよ。

 それよりミルフィー、お前どんな食べ方したらクリームが髪に付くんだよ。

 俺はハンカチを取り出し、ミルフィーの口や手や髪を拭いてやった。


「ゲーキ、ゲーキ」


 ミルフィーが手を上げてボッチダンスを踊り出した。

 相当ケーキが気に入ったようだ。

 ああ、見た目は美少女なのに喋るとゴブ語、動きもゴブっぽいのが残念すぎる。

 いや、このミスマッチ感が良いのでは?


「とにかくクリームが飛び散るから座って食べなさい」

「ギャイ」

「トーリか?」

「トーリ君、いらっしゃい。さあ座って、座って」


 副会長が立ち上がり冷蔵庫から俺のケーキを出してくれた。

 そんな自分でやりますよ。わざわざ副会長がそんな雑務しなくても――と俺は謙遜しながら副会長の長い足をガン見した。


「トーリ君はいつもは無口だけど、ミルフィーちゃんとなら口を利くのね」

「え?」


 ハハハ何言ってるんですか? 俺は副会長とも口を利きますよ。

 利きたいですよ。お喋りしたいですよ。朝まで二人でお喋りしたいですよ。

 ですがこの俺のお口はポンコツで思ったことが喋れないんですよう。

 これは推測ですがね。あっしの脳とお口の神経が繋がっていないと思うんスよう。


「ギョーリ、モンギュラン」

「ミルフィー座って食べなさい」


 俺はミルフィーを無言で睨んだ。


「声に出てるわよ」

「ふぁひ?」


 俺の口から素っ頓狂な声が出た。

 声に出てただと? いつからだ?

 俺の独り言は俺の意思を無視して勝手に巣立ちしたのか?

 まさかこれは暴走? 独り言ボッチスキルの暴走?


「トーリよ。そんなことはどうでもいい。なぜ朝練サボったのだ? 怒ってないから言い訳を述べよ」


 生徒会長がケーキにフォークをぶっ刺した。

 生徒会長怒ってるじゃん。

 俺は助けを求めるように副会長を見た。


「私も怒ってないから言い分を聞きましょう」


 そう言いながらケーキと紅茶を出してくれた副会長様素敵です。


「私も怒っとらんぞ。ただ早起きして朝練に参加しようとした日に限ってトーリは朝練に現れず、千草にだけ変なメールを送ってくる始末。初心者用ダンジョンの場所をメールしたのは私なのに無視。無視なのだ」


 生徒会長がケーキを一口で平らげた。

 頬を膨らませて怒っている生徒会長アングリープリティ。


「何を笑っておるか? しかもハシヒメ種を眷属化するとは前代未聞だぞ。新人か? お前本当に新人か? 最初からちょっとおかしいなって思っておったんだわ。クロミズサマの加護もあっさり得るし、それ以外にも加護があるし……」


 生徒会長がブツブツ言いながら別のケーキの包装を剥がす様子は可愛い。


「そうねえ。朝練をサボって何をしていたのかしら? まさか初心者用ダンジョンだと思ったらキリヒメサマのダンジョンだったっておちはないでしょう?」


 リンダ先生が色っぽく首を傾げた。

 忘れてならないのは眩しくて見られなかった褐色の太ももの化身であるリンダ先生もいた。

 さっきからその足の黄金曲線に目を合わせないように我慢してたけど無理。

 しかもなんでキリヒメサマのダンジョンって知ってるの?

 なんでここにいるの? もっと見てもいいですか?

 胸は見ないからせめて足だけは、足だけは許してくだせえ。あああ、なんだか胸がボチボチボチしてきた。


「!」


 俺はモンブランにフォークを刺した。


「トーリ君はキリヒメサマの特殊ダンジョンをクリアしたんでしょ」


 テーブルから離れたところで座っていたリンダ先生が足を組み直した。

 くっそエロい。もっ回やってくれ。


「ええまあ」


 俺は鼻の下を伸ばした。

 なんで知ってんだ? 俺はまだ説明してないぞ。


「ギョーリ見て」


 ミルフィーが床を蹴って椅子ごと後ろに下がって、足を組み直した。


「……」

「ギョーリ、ギテテ」


 ミルフィーが組み直した足を逆に組み直した。


「……」

「ギョーリ。ギテッテ」

「分かった、分かった。エロいエロい」

「ギャッター」


 ミルフィーは満足したのか次のケーキを食べ始めた。


「トーリ君、全部キリヒメサマから聞いてます」


 副会長が肩をすくめた。

 犯人はやっぱオシャベリサマか?

 あのロジャノリ、今度会ったらあの口、飴ごと縫い付けてやんからな。

 だがしかし、俺が声帯を震わせて解説する手間が省けたことに免じて許してやろう。

 俺は心の広い環太平洋ボッチなのだ。


「キリヒメサマの特殊ダンジョン行ってみたいのう」

「ええ、楽しそうですねえ。今改装中ですから完成したらみんなで行きましょう」

「ギャダ。ギカナイ」


 ミルフィーはプイッと顔を逸らした。


「ミルフィーちゃんには嫌な思い出しかないものねえ」

「私がそんな砦は破壊せいてやるから安心せい」

「ギャイ」

「それでねえ、トーリ君そのミルフィーちゃんのことなんだけど……」


 リンダ先生が身体をくねくねさせなた。


「ギョイ」


 ミルフィー姿勢を正した。


「魔物が人間界に具現化したことは珍しくはありませんから手続きはそれ程問題ではありません。問題は……」


 リンダ先生が前かがみになる。

 胸の谷間のRGBゼロゼロゼロの暗闇に俺のボッチ心臓がボチボチする。


「住まいなのよね。ミルフィーちゃんがトーリ君の家じゃなきゃダメって聞かないの」

「ギョーリのギエ、ギョーリのギエ」

「だから今からトーリ君の家に行ってもいいかしら? 私から親御さんに説明してみるわ」

「え?」


 リンダ先生が我が家に?

 リンダ先生の吐息が我が家に?

 うっ。妄想するだけで捗る。

 しかも一時的に一つ屋根の下ってことか?


「ええまあ」


 オッケーですよ。問題なっし。さあ狭い我が家に来て下さい。

 お茶出しますよ。そのコップは俺が確保する。

 それをリンダファンクラブのお宝にするぞ。

 これで俺のファンクラブでの地位が一気に上昇するはずだ。

 あいつらの羨望の眼差しが目に浮かぶぜ。くっくっくっ。


「トーリ君? 何か良からぬことを考えてない?」


 副会長が目を細めた。


「まさかトーリよ。他にも使い魔がおるまいな?」


 生徒会長が目を細めた。クリームをほっぺに付けたまま。

 いつもは鈍感な生徒会長が珍しく鋭い。


「ギャロギャウ、ウウウウ!」


 俺はミルフィーのクリーム塗れの口を押えた。

 今お前、クロガウって言うつもりだったよな。

 ダメ。あいつは裏ボスなんだからバラしたらダメだ。

 あいつは路地の裏ダンジョンのボスなんだぞ。

 分かったな?


「ギョ、ギョイ」


 ミルフィー目をキョロキョロさせてそう言った。


「何か隠してるわね。先生、私も行きます」


 副会長がリンダ先生を見る。


「なんと? じゃあ私も行くぞ」


 生徒会長が手を上げた。


「あらあら、じゃあみんなでご挨拶に行こうかしら」

「ギャッター」

「そうねえ」

「それもそうだのう」

「え?」


 生徒会長と副会長も来るの?

 俺の家に?

 マジか? マジでヤバイ。ボジでボバイ。

 女神達が我が家へ降臨する?

 聖地じゃん。もはや聖地巡礼地じゃん。

 三柱の女神が降臨したなんて知れ渡ったら、三柱のファンクラブの聖地になっちゃうじゃん。

 まずは隠しカメラだ。ダメだ、副会長に見破られる。せめてサインを、色紙を用意しないと。

 ああ、そうそう空き瓶、空き瓶に女神のいた空間の空気を保存しておかないと。

 科捜研で証拠品を入れる小さなビニール袋がいる。でもあれどこに売ってんだ?


「今日の部活はトーリの部屋で課外授業だあ」

「え?」


 俺の部屋だと?

 待てまてマテ、俺の部屋は男子禁制、違う、女子禁制だぞ。

 パソコンなんて開かれたら終わる。

 ログイン画面を見られたら終わる。


 どどどどどどうしよう。

 俺のボッチンピ、ボッピンチ。


お読みいただきありがとうございました。

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