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71 突然の和解

「トーリ君。朝練サボってファミレスで呑気に朝ご飯なんて良い御身分ね」


 突然俺の目の前に巨乳が、いや副会長の大きな目が現れた。


「せっかく早起きしたのに朝練をサボるとはのう」


 腕を組んで圧迫された巨乳が俺を睨んだ。

 言わずもがな、この胸は生徒会長だ。


「ひえ」


 俺の喉からかぼそい悲鳴がこぼれた。

 いいい、いや、あああ、あのこれには深い訳があってですね。

 俺はあまりの動転驚愕で心の中のですら噛みまくる。


「あああああああ、あの、ここここここ、これはその」

「トーリ。それよりその娘は誰だ」


 生徒会長が俺の後ろ見て叫んだ。

 娘だと? はて? 一体何のことだ。

 俺はまだ結婚もしていないし、将来する予定もありませんよ。

 そもそもコミュ障ボッチの俺が結婚なんてものができるのは来世か次来世ぐらいんですが?

 だから娘なんていません。その大きなお目めの見間違いでしょう? ハハハハ――と俺は心の中で笑った。


「ギョーリ」


 俺をギョーリと呼ぶ娘はこの世に一人だけミルフィーだけだ。

 元ゴブリンのハシヒメ種というレア魔物のミルフィーだけだ。

 つか何でダンジョンで大人しくしてないんだよ。


「……」


 俺は目を押さえた。


「ギョーリ」

「トーリ」

「トーリ君?」


 俺は耳をふさいだ。

 前には美少女、後ろにも美少女、これはまさにサンドボッチ状態では?

 ええい、そんなことはどうでもいい。

 それよりもミルフィーのことを何て言い訳する?

 ミルフィーは元ゴブリンでその――。


「銀髪に膨大なメンタル霊? まさか? 希少種族……ハシヒメ種か?」

「ええ、間違いありません。しかも完全具現化しています? 普通の人にも見えるはずです」

「これは驚いた。しかもクロミズサマの匂いがするぞ」

「ええ、間違いありません。彼女はクロミズサマの眷族です。それ以外の加護も見えます」


 なんと二人は一瞬でミルフィーの正体を見破った。

 そりゃクロミズの巫女で巨乳の持ち主だから当然といえば当然だ。


「ギョーリ」


 ミルフィーが心配そうに俺の制服を掴んだ。

 そんなに心配しなくていい。

 彼女達は俺の先輩でクロミズの巫女だ。

 だから敵ではない。むしろ味方。むしろ巨乳。

 俺が朝練に間に合わなかったから機嫌が悪いだけだ――と俺はミルフィーに心の中で説明した。


「ミルフィー」


 ミルフィーが空気を読まずに元気よく挙手をした。


「え?」

「なぬ?」


 二人は素っ頓狂な顔をした。


「名前」


 俺はフォローする。流石ミルフィーのご主人様だけのことはある。

 部下思いの優しいマスターサマだ。


「えっ? 横岩 千草よ」

「むむ、黒岩 泉だ」


 二人は慌てて自己紹介する。


「チギュサ。イジュミ」


 ミルフィーの沈んだ笑顔がぱっと明るくなって副会長と生徒会長に抱きついた。


「おわっ」

「あのー」


 くっそ羨ましい。ミルフィーチェンジだ。今すぐ俺に代われ。

 忘れてるかもしれませんが、俺もクロミズの加護を持っているれっきとした家族ですよ。生徒会長様、副会長様。俺にもハグの権利あるよね。

 その豊満な胸に今すぐダイブしてもいいよね?

 いや許可など不要。ここは美少女の中にボッチはミキシングする大チャンス。

 俺が一歩踏み出そうとした瞬間――。


「あらあら、いやだあ、そんなあ、嘘でしょお? 一級具現化魔物じゃないの」


 アンニュイで色っぽい声が響いた。

 こんな声だけで男を惑わす存在はこの世に一人だけだ。

 二度見、三度見必須のグラマラスボディの持ち主がそこにいた。

 褐色の太もも黄金究極生命体、ダンジョン部の顧問リンダ先生がそこにた。

 今日は登場人物全員顔見せ回かよ。


「先生。彼女はなんとハシヒメ種です」

「あらやだ。本当みたいね。なんだかクロミズサマの加護があるようだし」


 リンダ先生も一目見て見破った。流石俺を殺しただけのことはある。


「トーリ君。授業があるので詳しい話は放課後に聞きます。この場はリンダ先生にお任せしておきます」


 副会長が俺を睨んだ。

 リンダちゃんに何を任せるのだ?

 ああ、俺の身も心も任せたい。


「トーリ君、いいわね」

「……はい」

「授業が始まるわ。さあミルフィーちゃん。私についてきて」

「ギョーリ?」


 ミルフィーが不安げに俺を見る。

 安心しろ。リンダ先生は俺の師匠だ。つまりミルフィーの師匠でもある。

 何か美味しいものでも食わせてもらいなさい。

 放課後、クロミズのダンジョンで会おう。


「ギャイギャーイ」


 美味しいものという言葉に反応したのか、ミルフィーがバイバーイと手を振った。

 俺は無言で手を振り返し教室に向かった。

 ああ、何て言い訳しよう。


 俺はそもそも歩んできた人生がソロだ。

 友達もいなかった俺が誰かの為に頭を悩ませたことなんて一度もない。

 そもそも自分の悩みで精いっぱいなのだ。

 誰かを思いやる余裕なんて俺にはないのだ。

 俺は自他共に認める性格が悪いボッチメンなのだ。


 だがミルフィーは別だ。

 ボットモの眷族であり俺の使い魔のミルフィーは別だ。

 幸いにも放課後まで時間はある。

 授業中に寝ながら考えればいいさ。




 ――教室。


「加賀坂、ミルフィーちゃんはどこ行った?」

「加賀坂、あの後リンダ先生とどこに行ったんだ?」

「加賀坂、俺ら友達だよな。今度ミルフィーちゃんとご飯行こうぜ」

「加賀坂、俺ら友達だよな。今度リンダ先生とご飯行こうぜ」

「……」


 いつもならスパイボッチモードで聞き耳を立てている時間、俺は井の中ズに囲まれていた。

 ノンボッチだった。

 アンボッチだった。

 ボッチじゃなかった。

 そんな俺を見たクラスメイト達が驚きの表情を浮かべている。

 フッ。案ずるな。一番驚いているのはこの俺だ。

 何がどうなったら一日でこうなったのか? 理由を知りたいのだが答えは簡単。

 ミルフィーの存在だ。

 絶対的美少女であるミルフィーの存在が俺の世界線事象を変えたのだ。


 それにしても昨日まで俺をイジメていたのにこの態度。

 こいつらの掌絵返しの術に正直ついていけない。

 明日にはまた掌返して敵になるかもしれない。

 そもそも俺は他人とコミュニケーションを取れないのだ。

 だからこんな時、どんな反応したらいいのか分からない。

 笑えばいいと思うボッチよ。

 そうだ。いいこと言ったボッチ君。

 ここは日本人のDNAに刷り込まれた薄ら笑みで誤魔化そう。


「フヘヒ」

「てめえ。何笑ってんだよ。俺ら真剣なんだぞ」


 怒られたじゃん。

 知れないボッチよ。


「そうだ真剣なんだ。お前とは色々あったがそれはもう過去の話だ」

「……」


 いやいや絶賛現在進行形の敵対関係のはずだが、いつの間に過去に追いやられたんだ?

 俺はやはり未来にタイムスリップか違う世界線に迷いこんだのだろうか?


「これからは未来志向でいこうぜ」


 何が未来志向だ。被害者は過去思考なんだぞ。


「まあまあ、男のくせにそうすねるな。三毛屋も誘っていいから」

「え? 本当? 僕も行ってもいいの?」


 後ろからミケの嬉しそうな声がした。お前もいたのかよ。

 そりゃそうだ。俺ら一緒のクラスだった。


「……」

「頼んだぞ。お前のやる気次第で俺達の学校生活がバラ色か、灰色になるんだかんな」

「そうだ。やましいことは考えていない。ただお近づきになれるだけでいいんだ」

「付き合おうとか、そういう不埒な思考はない。セクハラ感もない」

「ただ、一緒の空気が吸えればそれで満足なんだ」

「……」


 こいつら何言ってんだ? ミルフィー目当てか? それは保護者である俺が許さないぞ――と俺はボッチアイで睨んだ。


「……」


 そのボッチアイを見てイケメンリーダーが肩をすくめた。


「おいおい加賀坂。そんな目で睨むな。もう俺達は悔い改めたんだ。お前と敵対するよりも、仲良くなったほうが利益率が高いってな。反省したんだ。だから戦争はおしまい」


 井の中ズのイケメンリーダーがピースサインをする。

 なんだよ利益率って? 友達って損得勘定で決めんのかよ。


「あっ、今お前、友達は損得勘定で決めるのかって考えただろ」


 イケメンリーダーがチッチッと指を振った。

 こいつ読心能力者か?


「友達なんて利害関係だ。一緒にいると楽しそう。それのどこがいけない?」

「そうだぞ。つまんない奴といてもつまんないだろ」

「俺はこいつらといると、おもしれえから一緒にいる」

「それは損得勘定だろ? 金銭面じゃない。感情の損得勘定だ。つまり損得感情ってやつだよ」


 誰がうまいこと言えっていったよ。

 だが確かに一理ある。

 だがお前らとは俺は昨日まで敵対関係だったんだぞ。

 そんな簡単に気持ちを切り変えられたら、ここまでボッチを拗らせていない。


「……」


 俺は井の中ズから目をそらした。

 そらした先にはミケの大きな瞳があった。

 ミケは大きく頷いた。何で頷いた? まさかお前も同じ意見なのか?

 おいおい、お前もこいつらに酷い目に遭わされただろうに。

 お前は許せるのかよ?


「誰かと一緒にいたいって気持ちはいいことだよ」


 ミケ。お前は優しいな。俺が女子だったらお前のこと好きになっているところだ。

 いや、男子でも好きになっているかもしれない。

 俺には今まで友達なんていなかったから、よく分からない。

 損か得かで友達になれるんだったら誰も苦労しない。


「それより加賀坂。リンダちゃんファンクラブ入るか?」


 俺はその言葉に現実に引き戻された。

 え? 今何つった? 生徒会長と副会長のファンクラブは存じておりましたがリンダ先生のファンクラブまで存在するというのですか?

 ほほう。それは大変興味深いものですな。俺は架空の眼鏡を整えた。


「当たり前だろ」

「よし。じゃあ、加賀坂。君をファンクラブ会員ナンバーファイブに命ずる」

「え?」


 俺の口から素っ頓狂な声が出た。


「ファーストミッション。リンダちゃんに彼氏がいるか調べろ」


 イケメンリーダーが偉そうに俺に命令した。


「……」


 知らんがな。いたからなんだよ? なんとかなるわけないだろうが。


「なあ、たのむよ」

「なあ、加賀坂一生のお願いだ」

「なあ、俺もお前の一生のお願い聞くからさ」

「……」


 俺は井の中ズに拝み倒されていた。

 ミルフィーのおかげなのだろうか俺を取り巻く環境が一変した。

 これは喜ばしいことなのか? それとも利用されているだけなのかは分からない。

 だが以前のような針のような視線は感じなくなったことだけは確かだ。


 他のクラスメイト達も仲良くなった俺達を見て安心したような笑顔を浮かべていた。

 なんだかむず痒い。これは夢だ。そう夢だ。

 俺がボッチを卒業するなんて夢のまた夢だ。


 俺がボチフリーズしていると予備チャイムが鳴り、救われた。

 いつもは授業は寝て過ごす。

 だが眠ってはいない。いや眠れなかった。徹夜明けだというの眠れないのだ。

 俺のボッチブレインが苦悩のスパイラル状態だったからだ。


 友達って損得勘定なの?

 友達って損得なしで付き合えるもっと崇高で純粋なものじゃないの?

 ああ、ミルフィー元気かな?

 何してるかな?

 友達って何だ?

 腹減ったな。




 ――昼休み。


「ねえ加賀坂君。ねえトーリ君、あ、名前で呼んじゃった」


 俺は誰かの声で目覚めた。

 誰だ? 俺を呼ぶのは? 敵か?

 俺はアンビバレントな悩みの沼にはまっているうちに眠ってしまったようだ。

 目を開けると女の子のような眩しい笑顔があった。

 ああ、こんな可愛い幼馴染に起こしてもらえたら何もいらない。

 可愛い幼馴染とか同級生とかアニメか漫画の世界だけかと思ってた。


「ああミケ? 何」


 俺は心のボチボチを誤魔化すようにそう言った。


「お昼ご飯一緒に食べない? トーリ君いつも昼休みいないから」


 ミケが不安げな顔で俺を見る。

 大きな女の子みたいな目で俺を見る。

 長い睫毛だね。胸がボチボチするからそんなに近寄らないでくれ。

 俺の昼休みの秘密の場所に行くかい?

 誰も来ない教師の駐車場の横なんだけど、そんな寂しくて惨めな場所行かないよね。

 ミケが期待するような目で俺の返事を待っている。

 何か言わねば。


「ああ」


 俺はぶっきらぼうに昭和初期の大スターのように不器用に答えた。


「やった」


 ミケがその場で弾んだ。


「おいおい。まさか抜け駆けすんじゃねえだろうなあ加賀坂」

「そうだそうだ。ここは絶対に通さないぞ加賀坂」

「自分だけキャッハウフフなんてさせんぞ加賀坂」

「そうだ。俺達はモテない同盟の一員だろ加賀坂」


 井の中ズのリーダーが白い歯を見せた。

 何がモテない同盟だ。お前はモテるだろ。何言っちゃんてんの?

 嫌みか? モテない俺への嫌みか? ――という思いを込めて睨んだ。


「フッ。それがなあ。俺は中学校の頃はモテたんだよ」


 パンをかじりながらイケメンリーダーの過去編が始まった。

 イケメンの過去なんて聞いてないんですけど?

 なんだか知らないうちにページの余白が黒くなっている回想シーンが始まった。


「中学の頃はそりゃあモテたよ。笑えるぐらいモテた。思い起こせばあれがモテキだったな。だから高校でも天下だって余裕こいてたら黒岩先輩って高スペック神異次元存在がいたわけよ」


 イケメンリーダーが肩をすくめた。

 キイイィ。そのポーズカッコいい。

 俺の中のジェラシーが燃え上がった。


「ああ。ありゃ別格の存在だよな。俺から見てもイケメンだしよ。勝てる要素ゼロだ」


 隣のイケメンその二がおにぎりを食べながらそうぼやいた。


「……」


 俺はコンビニのサンドイッチを一口で半分食べた。


「顔良し、スタイル良し、家柄良し、声良し。頭脳良し。カリスマ良しだろ」


 そう言いながら井の中ズのイケメンメンバーがカレーパンを食べ始めた。旨そうだなそれ。


「……」

「生徒会長と副会長がお前を探しに来ただろう。あれで女子共に愛想尽かされてな。笑えよ」

「ぷっ」

「笑うなよ」

「……」


 笑えって言ったじゃん、ひどいよ。


「まあ、そんなこんなで俺らはお前を恨んだ、いろいろ策を練った」

「だがお前は生徒会の人間だ。即ちリンダちゃんと近い。伝手がある。太いパイプがある。そんなお前と敵対関係にあるのは勿体ないと、大損失だと。機会損失だと。そしてミルフィーちゃんの登場で決心した。俺らは緊急役員会を招集し決めた。お前と仲良くなったほうが得だとな」


 井の中ズのリーダーが拳を振り上げた。

 名演説のように言ってますが言ってること上から目線のイジメっ子思考っすよ?


「リンダ先生マジヤバイ」

「グラビアアイドル異常やろ」

「ああ、確かに。リンダ先生のようなグラマラス我儘エロボディの先生なんて日本中、世界中探してもいやしない。あれは奇跡の塊の女神だ。あの声がもうずるい。卑怯。声だけでおかずになっぞ」

「いやいやいや、生徒会長と副会長も凄いが?」


 俺は異議を唱えた。

 我らのダンジョン部の部長を俺が推さねば誰を推すのだ。


「まあ確かに生徒会長と副会長の胸も女神級だ。だがあの方達は金持ちの貴族で済む世界が違う。だがリンダ先生は先生だ。庶民の俺達を救う大女神級だ」

「リンダ先生は優しいしね」


 ミケが弁当箱の蓋を開いて手を合わせて食べ始めた。


「確かにあの大女神級の胸はスゲー。胸の谷間なんて日の光が入らない深い谷間だしな。RPGで表すなら、レッドゼロ。グリーンゼロ。ブルーゼロだ。まさに視線が吸い寄せられる事象の水平線……ブラックホールだ」


 俺は激しく心の中で同意した。


「え?」

「お、おう」

「えっと」

「おお、何考えているか分かんない奴だと思ってたけど、俺達と同じこと考えてたとは、こいつは驚きだぜ」


 イケメンリーダーが椅子から飛び降りて、焼きそばパンを食べながらそう叫んだ。


「ああ……え?」


 あれ? こいつ、俺の心を読んだのか?


「あはは。トーリ君今のセリフ、口に出てたよ」


 ミケが卵焼きを食べながら笑った。


「え?」

「それに喋らなくてもトーリは直ぐに顔に出るからな。喋りかけるなオーラとか」

「え?」

「卑屈なオーラとか、殺すオーラとかな」

「え?」

「俺らもバカじゃねえんだ。顔見りゃ、そいつが何考えているか分かるぞ」

「え?」

「あの胸いいなあオーラとか」

「ええええ?」

「気付いてなかったのかよ、よくそんなんで今まで生きて来れたな?」


 余計なお世話だ。後半俺のダメ出しになってんじゃん。

 結局悪口じゃんかよ。俺はボッチアイで睨んだ。


「ほら、そんな目で人を見たらダメだよ。それに思ったことを言い合えるのが友達だよ。トーリ君」


 箸を置いたミケが女の子みたいな顔で笑った。


「……」


 俺は言葉を失った。

 ボッチコミュ障だった俺が心の中でさえも言葉を失った。

 衝撃だった。いやいや、こんなん周知の当たり前の定番の言葉だ。

 聞きなれた。使い古された言葉だ。定番の言葉。

 だがその定番の言葉が俺のボッチハートの奥に深く突き刺さった。

 揺らいだ。世界がぐらりと揺らいだ気がした。

 まるでダンジョンという異世界に突入したかのような違和感に包まれた。

 だが、俺もバカじゃない。

 言いたいことを言ったら喧嘩になるじゃないか?

 何言ってんだよ。


「言いたいこと言っても許せる関係が友達だろ? 見ず知らずの他人に言われたらムカつくけどよ、友達なら許せるだろ」

「いや、お前ムカつくこと結構言うぞ?」

「それはお前だってだろ。俺のほうがイケメンだって言ってなかったか?」

「それは事実だからな」

「なんだと? もういっぺん言ってみろ、俺のほうがイケメンだろう」


 井の中ズが揉めだした。


「フフ」


 ミケが笑った。

 お前はイケメンじゃない。美少女枠だ。

 だが確かにミケの言う通りだ。

 友達だったならば許せるだろう。

 俺もボットモのすることは全て許せるだろう。

 だが俺達は友達ではない。

 ただの他人のクラスメイトだ。

 言いたいことなんて言い合える仲じゃない。

 そもそも俺は言いたいことを言える話術はないのだ。


「……はあ」


 俺はおにぎりを食べながらそう返事をした。


「ああ、嫌いなら嫌い」

「ムカつくならムカつく」

「次からは本音で言えよ」

「俺らが本音で言ってんだからな」

「生徒会長達がお前を探しに教室に来た日。俺はお前を恨んだ。だが今となってはどうでもいい。だからお前も正直になってくれ」

「そう……だな」


 俺は次のおにぎりを食べながらそう言った。

 正直に言えば対立する。正直に言わなくても対立する。

 いずれにせよ対立は免れない。

 だったら空気のように誰とも関わらずにコソコソ生きるのに、何の意味があるのだろうか?

 ボッチイズムを突き進んだその先に何があるのだろうか?


「つか。よく食うなお前」

「ああ」

「何だよその不満そうな顔は」

「そりゃそうだよ。みんなして加賀坂を聞こえるように無視したり、陰口を言ってきたんだから」


 ミケが大きな声でそう言った。

 教室が静寂に包まれた。


「分かった。分かったよ。悪かった。謝るよ」


 なんと突然、イケメンリーダーが頭を下げた。


「お前らも加賀坂に謝れ、今なら修復可能だ。ここで謝っておかないと一生後悔するぞ」


 井の中ズのリーダーが教室にいるクラスメイト全員に聞こえるようにそう言った。

 クラスメイト全員がイケメンリーダーの言葉に驚いたのか、箸を持つ手が、パンを持つ手が止まった。


 教室は再び沈黙に包まれた。

 そしてクラスメイト達はおもむろに箸を置き、パンを置いて俺の周りに集まり輪を作った。


「悪かったな加賀坂」


 イケメンリーダーが頭を下げた。


「ゴメン」

「ごめんなさい」

「すいません」

「え?」


 クラス全員が俺に頭を下げた。


 はい? どうなっているのだ?

 俺は違う未来線に迷い込んでしまったのだろうか?

お読みいただきありがとうございました。

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