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66 ボッチの使い魔ミルフィー

「フアーハッハッハッ。よく来たなあ新人霊トレーサーよ。余がこのダンジョンのボスじゃ。ここから出たければ余を倒すのじゃあ。ちゅぱっ」


 そこには狐のお面を被って、大きな飴を舐めている幼女がいた。

 どこからどう見てもキリヒメサマだ。

 ボス部屋の外からキリヒメサマに似た霊圧を感じたけどキリヒメサマかよ。

 あれで変装しているつもりか?

 つか何でキリヒメサマが初心者用ダンジョンにいるんだよ。


「ち、ちがう。余は初心者用ダンジョンの恐ろしいボスじゃ。激悪ボスじゃ。ちゅぱ」


 キリヒメサマが動揺した。


「……へえ」

「……ちゅぱ」


 すいません間違えました帰ります――と俺は頭の中で返事をして踵を返した。


「マテマテ、待って、ここで合っているのじゃ。ここは初心者用ダンジョンのボス部屋じゃ。トーリ。ん? そちは誰じゃ? チュポン」


 キリヒメサマがミルフィーを見て大きな目を見開いて大きな飴を思いっきり舐めた。

 ミルフィー挨拶しなさい。

 この小っちゃいのがヤオロズ界の重鎮――なんでもペラペラ話しちゃうオシャベリサマ、違ったキリヒメサマであるぞ。


「ギョリヒメサマ?」


 ミルフィーが驚きと共に首を傾げた。


「ちがう。キリヒメサマじゃ。ちゅぱっ」

「……」


 キリヒメサマって自分で言ってるじゃんか。もう隠す気ねーだろ。


「ちゅぱ……トーリよ。この娘をどこで誘拐したのじゃ?」


 キリヒメサマが俺に疑念の目を向けた。

 確かに俺は誘拐犯に見えなくもない。

 生徒会長のあまりの可愛さに家に何度も持って帰りたいとは思ったことはあるが、実際に誘拐するほどの度胸も肝っ玉もないぞ。

 俺は誘拐犯ではない。

 勝手に付いてきた、ただのゴブリンだし。


「トーリよ。この娘は鬼女の最終進化系のハシヒメ種であるぞ」

「へー」


 なにそれ? 俺は鬼女最終進化系という謎の分類のミルフィーを見る。


「ギョ?」


 ミルフィーが不思議そうに顔を傾げた。


「ハシヒメ種は出現率一パーセント以下のSSR級のレアキャラだぞ? ちゅぱっ」


 ソシャゲかよ。


「それほど珍しい種族だってことだ。それにしてもどうやったらこんなレア種族を使い魔なんかにできるのじゃ? ちゅぱっ」


 えっと、話せば長くなるのだがミルフィーはこの砦で助けたら付いてきた。


「はて? この砦には小鬼しかおらんはずじゃが? 魔物の配分を間違えたかのう? 下層魔界から、かっさらった砦にハシヒメ種の小鬼が混じっていたか? ちゅぱ。面白い」


 キリヒメサマが訳の分からんことを言い出した。

 ちょっと待てよ。いまなんつった? かっさらった砦?

 やっぱこのダンジョン初心者用ダンジョンじゃないのか?


「ミルフィーとやら。余を倒せば余の加護を授けよう。ちゅぱっ」


 キリヒメサマが俺の疑念を誤魔化すように飴を掲げた。


「ギョイ」


 ミルフィーが黒炎断罪斧を構えた。

 えっ? ミルフィーもしかしてキリヒメサマと戦うの?


「ギャンバル」


 綺麗な銀髪がメイド服の胸の膨らみをたどった。


「よい面構えじゃ。文句ばかりのトーリとは大違いじゃな。さて夜明けも近い、長引くとトーリの学業に悪影響が出る故ミルフィーよ。一合限りの短期決戦でどうじゃ? ちゅぱっ」


 キリヒメサマが黒く細い剣を取り出すと禍々しいメンタル霊がボス部屋を満たした。

 あれは俺の首を刎ねたヤオロズウェポンだ。


「ギョウチシマシタ」


 ミルフィーも納得したようだ。

 気をつけろミルフィー。あの剣は光速を、物理法則を超えるぞ。

 あれは俺の首を刎ねた剣だ。

 俺はミルフィーにキリヒメサマと戦った時のこと、俺が首を刎ねられたあたりを恨み深く伝えた。


「ギョイ」


 ミルフィーがキリヒメサマから目を離さずに頷いた。


「いざ、推して参る。ちゅぱっ」

「イザ、ギョシテマイル」


 その瞬間、ボス部屋に金属音が一度だけ響き渡り、メンタル霊が舞い、衝撃波となって俺の黒髪を揺らした。


「ギャケタ」


 ミルフィーが倒れ、その横には無傷のキリヒメサマが立っていた。

 くっそ、俺のミルフィーが一撃。

 俺はミルフィーに駆け寄る。今すぐボッチDEヒールで治してやるぞ。

 俺が魔法は放とうとした瞬間、キリヒメサマが俺の手を止めた。


「待て。峰打ちじゃ。ちゅぱっ」


 キリヒメサマが自信満々に飴を掲げた。


「ギョーリ、マキャタ」


 ミルフィーが苦しそうに苦笑いした。

 キリヒメサマどんだけ強いんだよ。ヤオロズの神だから当然だろうが規格外すぎる。

 少しは遠慮しろよ。ミルフィーは元ゴブリンなんだぞ。

 ヤオロズが本気出すんじゃねえ。

 俺はキリヒメサマを睨んだ。死んだらどうすんだよ。


「峰打ちじゃからな。それにしても此奴はトーリと違って才能があるようじゃの。ちゅぱっ」


 そりゃそうだろ。お前の加護持ってんだから。

 違う、俺の下位加護だから俺の加護のおかげか?

 ちょっと待って、俺と違って才能がある? 裏を返せば俺には才能がないってことかよ?

 ボッチショックですよ。リア充の繊細な心の持ち主だったらその一言でき部屋に引き籠るぞ。


「ミルフィー。見事じゃ。特別に余の別の加護をやろう。ちゅぱっ」


 キリヒメサマが飴を取り出しミルフィーに渡した。

 それを美味しそうに受け取り舐めるミルフィー。


「ギョイシイ」

「そうか、これからもトーリを頼んだぞよ。ちゅぱっ」

「ギャイ、ミルフィーギャンバル。ギョーリマギョル」

「え?」


 飴をなめたミルフィーの傷が消えた。

 どういう原理?

 それよりも何よりも俺はミルフィーの長セリフに度肝を抜かれた。

 なんてことだ。キリヒメサマの別名はオシャベリヒメサマだ。

 まさか、オシャベリヒメサマの加護を貰ったのか?

 するってーとなにかい、言葉を流暢に喋れない俺はゴブリン以下なのか?

 俺の存在はゴブ以下のゴブボトムボッチなのか?

 おいおい、俺にもそのオシャベリサマの加護をおくれよ。


「では余を倒すがよい。いつでも相手にするぞよ」


 キリヒメサマが剣を構えた。

 その手には乗らない。誰が戦うか。

 もう胴体と首がさよならする光景なんて見たくない。


「ギョーリギャンバッテ」


 ミルフィーが俺を期待の眼差しで見る。

 え? 戦うの? 俺が? キリヒメサマと?

 いや無理無理。俺ってば、徹夜明けで疲れてんだ。

 まだ今度な。それに絶対また首を刎ねられちゃうから遠慮したい。

 つか負けると分かってて戦うのはバトル漫画主人公の仲間だけだぞ。

 オシャベリサマの加護はいらない。

 今までの人生でお喋りできなくても生きてこれたからな。

 これからもきっと大丈夫っしょ。


「では余に勝てば今ここでダンジョンコアを進呈しよう。ちゅぱっ」


 キリヒメサマが悪い顔で笑った。

 ダンジョンコア……それはダンジョン創造のキーアイテム。

 ダンジョンが造れれば、侵入してきた霊トレーサーを殺してメンタル霊を得ることができる。

 それさえあればメンタル霊不足気味に俺のボチボチのお肌がピチピチするはずだ。

 ダンジョンコア――喉から手が出るほど欲しい。

 俺のカサカサボチボチの肌は新人戦優勝まで待てない。

 つかそもそも新人戦の優勝なんて無理。

 そんなリア充のウェイー大会なんて出たら恥ずかしくて死んじゃう。

 は? 待てよ。ここでダンジョンコアを手に入れれば、新人戦に出なくてもいいってことかい?

 キリヒメサマの誘惑が俺の後ろ髪を引っ張る。

 俺は万年メンタル霊不足。

 ヤオロズ三柱の加護、それにペットのクロガウに、新たな手下のミルフィーの維持。

 俺のヒョロガリボディのメンタル霊容量では近いうちに絶対に枯渇する。

 メンタル霊は必要だ。


「……分かった」


 俺は阿形と吽形を取り出し構えた。

 そしてボット細胞を針のように伸ばし、キリヒメサマの動きを捕捉する。

 ボッチレーダーは全周囲を掌握する。視覚に頼らないのだ。

 その情報で俺は自分を三人称視点、ゲームのように俯瞰で見下ろす。

 俺は着実に強くなっているはずだ。

 運転免許試験場ダンジョンで無残にボコられたあの時のひ弱なボッチではない。

 俺はボッチも黙る最強ボッチなのだ。


「いざ推して参るちゅぱっ」

「……」


 キリヒメサマが消えた。

 いや、消えていない。

 俺の全方位オールレンジボッチレーダーでは見えている。

 早いだけだ。ちょっとだけ物理法則の向こう側にいるだけだ。

 少しだけ時間が加速しているだけだ。

 なーんだそんなことか。

 では俺も現実を超えていけばいい。

 物理法則を、音を、光を、重力を、電磁波を超えていけ。

 想像の向こう側に到達しろ。

 俺は体内のメンタル霊を一点に集中させ爆発させた。

 同時に俺のダンジョン内での半物質の身体が加速した。

 周囲の光景が伸びる。

 キリヒメサマの動きも遅くなる。

 イケちゃうボッチよ。

 だがキリヒメサマはそこからさらに加速した。

 なんてことだ。加速された世界で加速しただと?

 キリヒメサマが笑った。

 だがボッチレーダーを会得した今の俺ならばその速度領域でもやっていけるはずだ。

 ボッチレーダーからの情報が神経経路を迂回し、直接俺のメンタル霊存在に伝達される。

 そして俺のメンタル霊存在が肉体に加速命令が駆け巡る。

 肉体の神経速度、光の速度、受容体、レセプターの化学反応を超える。

 今の俺は現実の肉体ではない――半分はメンタル霊だ。

 現実に縛られるのはもう終わりだ。

 音が消え、光が消え、全てが消えた瞬間、俺の目の前にキリヒメサマの驚愕の顔が迫る。


「なんじゃと?」


 俺は情け容赦なく驚くキリヒメサマを両断した。

 可愛らしい幼女の身体が二つに分かれた。


「……」


 今の見た? 奥様? なんだか身体が希薄になって存在感をなくしたような感覚。

 ああ、それはいつものことだった。

 空気のように存在感のない俺には日常茶判事の感覚だった。

 それがバトル中に感じられたのだ。

 まさか、これがボッチの奥義なのか?

 エアーボッチの最上級――インビジブルボッチ?


「ギョーリスギョイ」


 ミルフィーが手を叩いて跳ねた。


「瞬歩の奥義を会得したか……見事じゃ。ちゅぱっ」


 倒れたキリヒメサマが起き上がってそう言った。

 はっ? 今斬ったよね。今俺ユーを真っ二つにしたよね。

 アニメならばシルエットか、謎の光のラインで隠される状態だったよね?

 何その何事もなかったような感じ。

 俺のカッコいいシーンもう終わり?


「……ここは余のダンジョンであるぞ。リスボーンじゃ」


 え? キリヒメサマのダンジョン? え? 初心者用ダンジョンじゃないの?


「そんなことよりトーリよ見事じゃった。初心者用ダンジョン特別編のクリアを認めようぞ。ちゅぱっ」


 俺はボッチ君に問いかける。

 初心者用特別編ってどういうことだってばよ?

 そんなの知らないボッチよ。とボッチ君が首をそむけた。

 えっとここって初心者用ダンジョンですよねえ。

 あのー特別編ってのはなんでしょうか?

 俺はジト目でキリヒメサマを睨んだ。


「ああ、余がトーリの為に用意した特別のダンジョンじゃよ。楽しめたじゃろ? ちゅぱ」


 キリヒメサマが誉めて誉めてと寄ってくる子犬のような目で俺を見る。

 特別だとお?

 このべらぼうに高い糞難易度はお前のせいかよ。

 何だよあの連続罠は? あのダークゾーンは?

 何だよあのモンスターハウスは? スケルトンが集まりそうだった何かはなんだったんだよ?

 あんなパーティ必須のボッチ殺しの砦なんて作るんじゃねえよ。

 俺じゃなかったら詰んでたぞ。このダンジョンのどこが初心者なんだよ。

 俺は溜まったヘイトを発散した。


「まあ、少し難易度は高いかなって思ったが、トーリならば乗り越えてくれると信じておった。それにトーリも楽しんでおったくせにいい。おかげで強くなったじゃろ? 奥義も会得できたし文句あるのかや? ちゅぱ、ちゅぱああああ」


 キリヒメサマが肘で俺をつつく。

 くっそイラつくこの態度。

 確かに奥義を得たし分身体のボッチーズや盗撮専用ボッチレーダーも会得した。

 さらにミルフィーまで味方になった。

 これ以上何を望むというのか?

 望み過ぎて死ぬまで、飢えていた爺ちゃんを見て育った俺からすると申し分ない。

 確かにキリヒメサマの言う通りだ。

 ボッチの俺がこれ以上何を望むのだ?


「しかも魔石も大量に手に入れたじゃろ。文句あるのかや? かや?」


 キリヒメサマがさらに俺を小突く。

 確かにその通りだ。得るものは多かったが失ったものはない

 だがなんだか釈然としない。

 なんでイラつくか分かったぞ。キリヒメサマのその顔だ。


 ス、マ、ホ……と俺は口を動かした。


「うっ」


 キリヒメサマが目を逸らした。

 キリヒメサマのスマホはダンジョン内でも使えるようにクロミズのボット細胞が覆っている。

 正直クロミズの大半をテンドー君に奪われた今、ボット細胞が激しく不足している俺は、キリヒメサマに与えたボット細胞を回収したい気分なのだ――という目で俺はキリヒメサマを見た。


「そ、そうじゃ。約束のこれをやろう」


 キリヒメサマが話を変えるように光る玉を取り出した。


「これが約束のダンジョンコアじゃ。巫女達には内緒じゃよ。ちゅぱ」


 これどっかで見たことあるんですよねえ。

 俺は口を半開きにしながらその玉を受け取った。


「これさえあればダンジョンが造れる。よってお主はダンマスじゃ。ダンジョンを創造したり、改造したり、魔物を配置したりできるぞ、詳しい使い方は後でメールしておく。ちゅぱ」


 ダンマス? ついにボッチのダンジョンが現実のものに、でもこれどっかで見たことあるんだよな。どこだったかな?


「さあ、帰れ、帰れ、ダンジョンの難易度をもっとあげなければならぬは。まさかあんなにあっさり突破されるとは、面倒くさくなって作るのを止めたこの奥の階層も用意せねば」


 キリヒメサマがブツブツ独り言を言い出しだ。

 やっぱ途中で挫折したか。

 その気持ちよく分かるよ。

 中二病の俺の設定ノートは一ページだけびっしりであとは空白だ。

 そんな妄想設定ノートが何冊もあった。

 クリエイティブって最初だけだよね。

 イラストレーターや漫画家や小説家とか凄いよね。

 自分の妄想を継続してできる奴は人間じゃない。神だ。

 そんなことより本当の初心者用ダンジョンはどうやって行けばいいんだ?

 俺は心の中でキリヒメサマに問う。


「ああ、それなら同じ非常口から入れるのじゃが、もう今のトーリでは簡単すぎて意味ないぞ。なんでダークゾーンの中を平然としているんじゃな。ちゅぱっ。落とし穴祭りも走って突破するし。ボーンオーガなんか変身する前に倒しちゃうし。ちゅぱああ」


 キリヒメサマが目を逸らしたまま悔しそうにそう言った。


「ではトーリよ。新しいダンジョンが出来たらまたメールするぞ」


 もういいよ。極悪ダンジョンはお腹いっぱいだ。

 それにどうせ次のダンジョンでも最後はキリヒメサマがボスとして出てくるんだろう。

 変な変装とかもうしなくてもいいですからね。


「そんなことはないぞおお」


 そんなキリヒメサマの捨て台詞と共に眩暈に襲われた。




 気が付くとそこは駅前のファミレスがあるビルの地下の非常階段前だった。

 ダンジョンクリアだ。

 確かにここは初心者用ダンジョンにしては異常な難易度だった。

 だが勝ってしまった。またもやボッチの完全勝利。

 初心者用ダンジョンはここよりも簡単ならば暇な時に挑めばいいかな。


「ギョーリ、ハラヘッタ」


 ん?

お読みいただきありがとうございました。

誤字脱字修正いたしました。

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