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61 深夜の初心者用ダンジョン一階層

 ――深夜二時。俺は一人ダンジョンにいた。

 石壁に石畳。ほんのり光る天井――まるでテンプレのようなダンジョンだった。

 この場所は生徒会長が御教授してくれた神聖な場所。

 俺は何十回と見た生徒会長からのメッセージを思い出す。


 こここ。


 深夜に届いたメッセージはこれだけだった。


 え? 三文字だけ?

 何度開いてもそれだけしか書いてない。

 こここ? 何かの暗号だろうか?

 ここ? こ、が一個多いのだが。


 悩んでいると女神副会長からのメッセージが届いた。

 そこにはURLと共にこうあった。


 初心者用ダンジョンの場所です。

 ここ。

 駅前のファミレスのビルの地下の非常扉よ。


 副会長ナイスフォロー。

 きっと生徒会長はこの地図のURLを貼り忘れたのだろう。

 俺は改めて生徒会長のドジっ娘噛み噛み属性に一生付いていくことを固く誓った。


 ――という訳で俺は生徒会長の優しさに応えるべく、駅前のファミレスの地下へ続く非常階段の扉をボッチらしく無言で開け、初心者用ダンジョンに入って今に至る。


 何故、深夜にダンジョンを探索するかって?

 そんなの決まっている。誰とも会いたくないからだ。

 ボッチのコミュ障を舐めるな。

 それにほら、俺は敵製造機なのだ。

 俺に会った奴はだいだい敵となる。

 だからダンジョンで新人と顔見知りになればなるほど俺の敵が増え、やがてはボッチ帝国を揺るがすボッチレジスタンス運動に発展しちゃう可能性もあるのだ。

 特に俺がぶっ殺しちゃったイケメンパーティーのセンとか、イケメンアタッカーやイケメン盾持ちとか、ビースト勇者とかに出会ったらボコボコッチされてしまう。


 幸いなことに深夜のダンジョンは静寂が支配し、そこには人っ子一人いない。

 まさにボッチの俺にぴったりなボッナイトダンジョン。


 俺は方眼ノートを取り出してダンジョンの探索を開始した。

 加護で強くなったとしても迷う時は一瞬。

 初心忘れるべからず――いやボッ心忘るべからずだ。

 俺は用心に用心をミルフィーユ状態に重ねてマッピングしながら進む。


 この初心者用ダンジョンの見た目は石造りの典型的な古式ダンジョン。

 似たような景色が続き戦闘になったらどこから来たのか一瞬で見失うだろう。

 分岐点に到着する度に俺は付箋を置いて進む。

 置いた付箋がスライムに食べられちゃうかもしれないが、それはそれで飢えたスライムの餌になるならよしとしよう。


「おふ」


 かなり歩いた通路の先が行き止まりだった。

 俺は分岐点に戻り、方眼ノートにバツと書き、付箋を置いて別の通路を進む。


「おふ」


 またもや行き止まり。

 俺は分岐点に戻って別の通路を進む。


 進んでは戻りと、忍耐との孤独な戦いだ。

 だが誰かと会話するより千倍まし。

 一人作業は俺の最も得意分野だ。

 苦手分野は集団行動とグループ作り。


 しばらく進むと明らかに色の違う怪しい床があった。

 昔のアニメの背景とセル画のように違う。

 きっと落とし穴ボッチ……とボッチ君が同意してくれる。

 俺は試しに軽く踏むと、勢いよく床が下に向けて開いた。

 やはり落とし穴の罠だったようだ。

 深さは五メートルぐらい。底は剣山のようになっている。

 落ちたら間違いなくボッチ死ぬ。

 初心者用ダンジョンのわりにはエグイ罠だ。

 注意散漫の足元を見ないで、隣の奴とウェーイしているリア充冒険者パーティーだったら全員死んでいるはずだ。

 俺はソロだ。罠も一人で見つけ対処する必要がある。

 慎重に進まねば。

 俺は落とし穴を迂回して床の淵を歩く。

 カチリと何かを踏んだ音がした。


「え?」


 その瞬間、風切り音と共に壁から何かが飛び出して俺の身体に当たった。

 矢が俺の体に刺さっていた。

 貫通無効の俺だから無事だったものを普通の冒険者ならば死んでいただろう。

 落とし穴の罠の迂回先に矢の罠を仕掛けるとはここ本当に初心者用なのか?

 明らかに初心者を殺しにきているのだが?

 俺は刺さった矢を投げ捨て歩き出す。


「ふっ。残念だったな。貫通無効の俺は矢では殺せない」


 その瞬間、床が抜けて俺は落とし穴に落ちた。


「くっ」


 俺は慌ててボットハンドで天井を掴み、落下を阻止する。

 俺の背に剣山の先が当たっている。


「ふっ。残念だったな。落とし穴は俺には効かな……え?」


 俺は落とし穴の罠から這い上がり、一歩踏み出した途端、迫り出した壁に押されて落とし穴に落ちた。

 慌ててボットハンドを天井に向けて発射するも天井が剥がれて俺は再び落下した。


「くっ」


 俺はボットハンドを壁や、別の天井に放ち落下をなんとか食い止める。

 くっそ、お尻の穴が増えちゃうところだったじゃねーかよ。

 俺はボットハンドをたぐり寄せて這い上がる。


「……」


 悔い改めよう。

 初心者用という名前に騙された。

 断じてここは初心者用ダンジョンではない。

 性根が三百六十度ねじ曲がった奴が造った極悪非道のダンジョンだ。

 難易度はA級以上。舐めるな。油断するな。加護がなければ死んでいた。

 それにまだここは一階だぞ。


「ギャッギャッギャアアア」


 奥からリア充共の、いやゴブリンの叫び声がする。

 罠に落ちた俺を笑いに来たのだろう。

 そうはボッチの三次問屋が卸さねえぞ。

 俺は通路の先に右手を向けて――。


「レイガ……もとい、ボレイガン」


 高圧で加速された河原の石が風切り音を残し消えた。


「ギャアアッワ」

「ギャア」

「グギャア」


 リア充共は皆殺しボッチよ。

 ああ、その通り。

 ここはダンジョン――強い者が正義。

 リア充、もといゴブリンだったメンタル霊の粒子が俺に向かって経験値として吸収された。


 ボレイガン――強すぎる。

 ちょっと撃った石がデカすぎたか? リア充にはもう少し小さな石を使おう。


 ゴブリン共が死んだ地点には魔石が落ちていた。

 魔石はメンタル霊の凝縮結晶だったはずだ。

 勿論持ってない魔物もいるらしい――と副会長が言っていたような。

 ゴブリンの魔石ってリア充のウェーイの結晶って感じで、あんまり有難い気がしないのだが一応貰っておこう。

 ウェーイ。これで俺もウェーイになれるかな? ボッチウェーイ。




 しばらく進むと、通路が斜め上に傾斜していた。

 その次は三十度ぐらいの傾斜を登る。

 さらに次は下がり、次は上がっていた。

 なんだろう? 上り下りを繰り返す坂道で体力を奪う構造なのだろうか?

 進むと通路内がだんだん暗くなってきた。

 ほのかに光っていた天井の光が弱まっているようだった。


「ん」


 斜め下に傾斜する先は暗闇に包まれている。

 電球が切れた廊下のように真っ暗だ。

 一寸先は闇。ああボッチの人生みたいですね。


 松明か携帯型のLEDライトとか持っていればいいのだが残念ながら俺は気が利かないボッチだ。そんなの持ち合わせていない。

 だが案ずるな。俺はボッチ魔法の使い手なのだ。

 ちょっと魔法を放って通路の先を見てみよう。


「ボッチファイヤー」


 俺は灯りの代わりにボッチファイヤーを通路に向けて放った。

 その瞬間、大音量と衝撃波と激しい閃光に包まれ俺は吹っ飛ばされた。


 衝撃無効。

 魔法無効。


 加護の効果が頭に過ぎる。

 何が起きた? ボッチファイヤーを放った瞬間に爆発した?

 何かに引火したのか?

 通路の落ち込んだ先にガスか何かが貯まっていたのだろうか?

 何度も上り下りをさせて油断させ、感覚を麻痺させてからガス溜まりに誘い込み、松明などに火を付けたらドカン。

 すっかり忘れていた――ここが極悪ダンジョンということを。

 幸いにも加護により俺は無事。

 リア充パーティーだったらあっさり死んでいたに違いない。


 この先のガス溜まりはここだけじゃないはずだ。

 どうする? 照明のない状態で進むかそれとも一旦戻るか?

 いや、朝までにはクリアしたいから戻って松明を買うのは現実的ではない。

 まずは考えろ。冴えわたるボッチ演算細胞のクロックを上げろ。

 俺には加護があるのだ。

 俺の加護はクロミズとキンミズサマとクロウスとキリヒメサマの剣技だ。

 クロミズとキンミズサマはスライム。

 その万能細胞を身に纏ってゴリ押しボッチで進むか?

 それではメンタル霊が持たないだろう。

 もっと考えろ。スライムは何生物だ? 軟体生物だ。

 軟体動物って何だっけ? タコ? カタツムリ? ナメクジ?

 そうだカタツムリの触覚。


 ボット細胞をカタツムリの触覚のように伸ばして探索に使えないだろうか?

 俺は目を閉じ視覚を断絶する。

 そしてボットハンドを細く細く伸ばしダンジョンの壁に触れる。

 壁の感触がボット細胞経由で俺に伝えられる。

 硬い感触が跳ね返る。

 ボット細胞それ自体が目であり、耳であり、触覚であり、口であり、筋肉である。

 俺はボットハンドを極細で発射して障害物に当たったら戻すを繰り返した。

 暗闇でもダンジョンの形状を把握可能。壁を触りながら進むのだ。


 名付けてボッチレーダーだ。

 自分の賢さが怖い。この発明はボーベル賞ものだ。

 これで俺は暗闇でも明かりなしで活動できるはずだ。

 目を開けていても起きなさいとか注意されちゃうほどの極細の目だが、これで本当に閉じていても問題ないだろう。


 ……チョマテヨ。

 光に頼らないということはスカートの中の光が届かない秘匿領域まで見えちゃうということでは?

 さらにさらにボットハンドでお触り自由?

 ダメだ。ダメだ。勘の鋭い副会長やキリヒメサマにバレたら殺される。


 真面目にやれ。俺は煩悩を捨てて集中する。ご褒美はダンジョンを出た後だ。

 分かる。ダンジョンの形状が手に取るように分かる。

 実際にボットハンドで手に取っているのだ。

 俺はボッチレーダーを展開しながら暗がりをゆっくり進む。

 かなり慣れてきたのかダンジョンの形状が、ゲームのワイヤーフレームのように見えるようになってきた。

 ボチ外線によるボチ暗視スコープみたいなものだ。


「ん?」


 通路の先に何かの障害物の反応があった。

 それも一つだけじゃない。複数の反応。温度も周囲と同じ。

 俺は試しに一本だけボットハンドを強く撃ち込んだ。

 ガツンと激しい金属音が響いた。


 金属音? それに動いた? まさか魔物か?

 ボットレーダーでさらに詳細に探る。

 この形状は剣に盾? 鎧? 兜がない? 胴体の首から上がない。

 これは首無しの鎧を着た魔物……リビングアーマーって奴か?

 その数は十五体。

 ここは真っ暗闇。

 リビングアーマーを待ち伏せさせておくとは、なんという卑怯な戦法なんだ。

 敵のあまりにクレバー過ぎる作戦に心から称賛した。

 だがしかし卑怯さでは俺も引けを取らない。

 俺は気付かないふりをしてゆっくり進む。

 リビングアーマー達が暗闇の中で音も立てずに剣を振り上げた。

 だがそうはボッチの三次問屋が卸さねえぞ。

 俺は右腕を前に出した。


「レイガ……もといボレイマシンガン」


 俺の右手から河原の石が何十、何百と放たれた。

 雨霰がトタン屋根を打つような激しい轟音のリズムを奏でる。

 鼓膜が破れる程の大音響が終わると耳が痛くなりそうな静寂に襲われた。

 やったか?

 だがリビングアーマーが立ち上がる反応があった。

 なんと、レイガ……もといボレイガンマシンガンが効いてない?

 違う。ボッチレーダーの感触ではリビングアーマーの鎧が凹んでいる。

 凹むということはダメージがある。

 リビングアーマーは何の魔物だ? 鎧の魔物だ。

 だからきっと物理に強いのだろう。


 では別の手を打てばいい。


「ボッチオンアイスフィールド」


 俺は氷の魔法を放った。

 通路の温度が急激に下がりリビングアーマーが凍り付いていく。

 そうだ。物理に強ければ魔法を使うだけだ。

 やがてリビングアーマーが凍り付き動かなくなった。


「レイガ……もといボレイマシンガン」


 俺は再びボレイガンを放つ。

 リビングアーマーだった氷の彫刻が砕け散った。

 ガラスが割れる轟音と同時にメンタル霊が飛散する。

 そして俺の経験値として加算された。


 ボットレーダーで暗闇の先を探るが立っているものは何も無い。

 作戦成功だ。無事にリビングアーマーを撃破したようだ。


 ボレイマシンガン。恐ろしい威力だ――剣を振るのが馬鹿らしくなるほどの高威力。

 メンタル霊消費量も身体強化を使うよりもはるかに少ない。

 まさにコスパ最高の攻撃手段。

 しかも魔法との相性もいい。

 遠距離からの卑怯な攻撃――それって素敵やん。

 まるで聞こえるように悪口を言うリア充みたいに卑怯で素敵やん。


 俺は落ちている魔石と河原の石をアイテムボックスに収納した。

 河原で拾った石はまだ大量にある。

 だが、通路に石が散乱していては躓いて転ぶと危ないからね。

 俺は優しいのだ。リア充が転ぶように残して置く案も捨て難い。

 だがその様子を見れないのならば迷惑なだけだ。

 後進の為に全部回収しておく。




 俺は暗闇の中、ボッチレーダーを駆使して進む。

 辿り着いたのはボス部屋の扉。

 楽勝っスよう。

 お気楽ランランボッチの俺は無言で何の警戒もせずに扉を開けて入った。


 そこには――。

お読みいただきありがとうございました。

誤字脱字修正いたしました。

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