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56 暗闇ボッチ

 そこは光も、音も、何もない空間だった。

 そして俺以外誰もいない空間。

 聞こえるのは俺のパッシブの口呼吸の音とボッチハートが奏でるリズムのみ。

 どうやら俺はクロムの放った魔法に捕らわれたらしい。


「カーッハッハッハ。世界から孤立され断絶された真の闇だ。人間は耐えられない。孤独に発狂して死ねペロ」


 クロムの声が遠くで聞こえた。

 えっと、外部から声が届くって、断絶されてないじゃん。

 詰めが甘くない? 気密性低くない?

 真の闇って、ただ暗いだけなんだが?

 俺は孤独に慣れている真のボッチだぞ?

 こんな暗闇で心が折れるとでも?

 ボッチの心は不快で深く暗い淀んだ闇なんだぞ。

 こんなの闇のうちに入らない。


 逆に清々しい高原のような爽やかな空間だった。

 誰もいないって気持ちいい。

 まるで酸素タンクに入ったようにリラックスしていた。


「あれ? 叫び声が聞こえないぞ。ズズー」

「……ど、どうだ? 真の闇の感想は? 怖いか? 出して欲しいか? 泣き叫べええペロ」


 クロムの声が遠くで聞こえた。

 だから外部からの声が届くって詰めが甘すぎ。


「ええまあ」


 俺は湯加減を聞かれたように答えた。


「ええまあだと? おいクロム。奴には全く暗闇が効いてないぞ? ズズー」


 ベルフェゴールがたじろいだ。


「そんな馬鹿な。人間が耐えられるような孤独ではないはずっペロ」


 クロムもたじろいだ。


「フン。ただの強がりを言っているだけだ。どうせそこからは出れないペロよ」


 それはどうかな?

 そろそろこの孤独という風呂から出ないと、のぼせちゃうよう。

 あまりに居心地が良すぎて、現実に戻れなくなる。

 名残惜しいが出るしかない。


 阿形。吽形。


 俺はイマジナリーウェポンを呼んだ。

 俺の手に大魔王の全絶滅剣と全殲滅剣が出現した。

 俺のイマジナリーウェポンは次元断絶剣。

 おいそれと使っていい魔剣ではない。

 だが見られなかったら、おいそれと使っても問題ないだろう。


 俺は闇を斬った。

 その隙間から路地裏ダンジョンが見える。

 俺が通れるように四角く斬り裂く。

 俺は阿形と吽形を戻し、ゆっくりと真っ黒クロボールから脱出した。

 いやー、一酸化炭素タンクみたいんで快適だったすよ……的な顔で。


「え?」

「ええええ?」


 俺の目の前で驚きの声を上げるベルフェゴールとクロム。


「キサマ、どうやって抜け出した?」

「そんな馬鹿な」


 君ら、語尾を付け忘れてますよ。


「……」


 驚愕で一時停止する二人に向かって俺は聖剣エクスカリバーとアロンダイ子ちゃんを放った。

 斬ったのではない。撃った。ボットガンで撃ったのだ。

 不意打ちノーモーションで音もなく発射された聖剣。


「なっ」


 慌てて回避しようとするベルフェゴール。


「逃がさない」


 だが俺の細く伸ばしたキンミズサマのボット細胞が、ベルフェゴールを拘束する。

 これはライバルのテンドー君の敵を拘束する卑怯な技だ。

 ダンジョンの戦いに正しいも、卑怯もないのだ。

 勝った者が正義。それは現実世界でもそうだろう。


「なっ? 体が動かな……グフッ」


 動けないベルフェゴールのネクタイの中心に聖剣エクスカリバーが深々と突き刺さった。


「ギャアアアア」


 ゴスロリ少女クロムのツルペタの胸に聖剣アロンダイトが突き刺さった。


「馬鹿な。馬鹿な」

「いたいいたい」


 ここはダンジョン。弱肉強食のみが支配する残極な世界。

 遠慮も後悔も、躊躇もしない。

 俺は叫ぶ二人に向けて魔法を放った。

 その炎の色は紫色だ。ただの魔法でなはない。

 俺のオリジナル中二シリーズ魔法……ノスフェラトゥフレイムだ。


「ギャアアアアあついいいいい」

「ぎゃああああアツイイイイイ」


 俺のオリジナル魔法ノスフェラトゥフレイムは相手のメンタル霊を燃料にしてさらに可燃する極悪非道の魔法。

 卑怯なボッチの考えそうな情け容赦ない極悪魔法だ。

 今さら良い子なんてなれないし、なるつもりもない。

 俺は人に好かれる為に生きているのではない。

 俺が生きる為に生きているのだ。


「ぐあああああぁ」


 炎に包まれたベルフェゴールが魔剣を放り投げ地面を転がる。

 あ、落とし物。俺は半透明のボットハンドを伸ばし、落ちていた魔剣ダーインスレイブをアイテムボックスに収納した。

 俺を傷付けそうな剣は先生が没収します。


「おかしい、この炎消えないペロよ」

「まさか地獄の業火と同じズズー?」

「……」


 俺は答えない。


「「ああああああ」」


 二人は燃え尽き消え、メンタル霊が飛散した。

 やったかボッチ? ボッチ君が余計なことを口走った。

 俺の目の前の空間にメンタル霊が集約する。

 それは二つの人型になる。


「あちゃー。やられちゃった。ズズー」

「やられちゃったね。テヘペロ」


 俺の目の前に無傷のベルフェゴールとクロムが復活した。

 なんと無傷。俺の今までの攻撃はなんだったんだ?

 格好つけて攻撃した俺の努力は? 俺の頑張ったカロリー返せよ。


「ここは俺のダンジョンって言わなかった? ズズー」

「言わなかった? テヘペロ」


 言ったな。馬鹿のボッチの俺でもそれぐらいは覚えているぞ。

 お前のダンジョンだからってなんだよ。


「自分のダンジョン内では復活可能なんだよ。ズズー」

「なんだよテヘテヘ」


 おどけた表情の二人。くっそムカつく。

 俺は黙って落ちている聖剣を回収した。

 ダンジョン内では復活するだと?

 そんな後出し設定聞いてないぞ。

 そんなゲームみたいな……そうか、ダンジョンはゲームの影響を受けている。

 ゲームっぽくリスボーンしたというのか?


「……嘘だろ」


 俺は思わず独り言を言ってしまった。


「嘘ではないズズー」

「これが現実ペロ?」

「……ノスフェラトゥフレイム」


 俺は再びノスフェラトゥフレイムを放った。


「「ちょ、待ってギャアアア」」


 二人は紫色の炎に包まれた。

 メンタル霊が飛散し、再び集結し、人の形状となろうとする。

 そうは三次問屋のボッチ屋が許さない。


 俺は宙に舞ったメンタル霊をボットハンドで撫でで回収した。

 復活はさせない。


「……」


 ダンジョンが静寂に包まれた。

 勝った。勝ってしまった。


「「卑怯だろズズーペロ」」


 無傷の二人が電柱の影から現れた。

 どういう原理だ?

 俺は確実に殺した。

 生き返るのも阻止した。

 奴らは何事もなかったかのような顔で現れたのだ。

 もしかして……。


「分身」


 俺は適当に言ってみた。


「なぜ見破った? ズズー」

「こいつ私達の分身を見破ったのペロ?」

「え?」

「……お前、分身って見破ったのではなかったのか? ズズー」

「え? 分身だったの?」

「……こいつキモイよ。全然話が通じないペロ」

「……」

「ふむ。こいつはやばい。すっとぼけているだけだ。ここで一旦引くかクロム? ズズー」

「うん同感。この世界での具現化時間も迫っているしね。テヘペロ」

「……」


 具現化時間?

 どういうことだ?


「ああ、そうだ。このダンジョンは俺達の分身を見破った褒美としてお前にやるよ。好きに使え闇の勇者よ。また会おうぞ。ズズー楽しかったぞ」

「怪我したケルベロスちゃんをよろしくね。テヘペロ」


 笑顔の二人は地面に沈んでいった。


 いまなんつった?

 ダンジョンをやるだと?

 闇の勇者だと?

 ケルベロスちゃんによろしくだと?

 まさかあいつら俺がクロガウを助けたことを知っていて俺と戦ったのか?


「……」


 俺は独り路地裏ダンジョンに残された。

 圧倒的サイレンスが俺の耳を打つ。


 はて、ここからどうやって帰ろう。

 俺は辺りを見渡した。どこまでも続く壁。

 読めない交通標識が折れ曲がり、街灯がイソギンチャクのように花開いている。

 アスファルトにあるマンホールの蓋は無造作に不規則に無意味に並んでいる。

 歪な光景が広がっていた。

 このダンジョン、不気味だし、キモいし。

 あっ、キモい俺にピッタリのダンジョンじゃね?

 これこそボッチのダンジョン。ボンジョンだ。

 誰もいない俺だけの場所。

 魔物もいない。ボスもいない。

 誰も来ない俺だけの空間。

 ボッチのボンジョン。ボボンジョン。


「ん?」


 俺の目の前に光る玉が転がっていた。

 今までなかったけど? いつの間に現れたんだこれ?

 なんだか、お宝っぽい雰囲気。


「なんだろう」


 俺はボットハンドを伸ばして手に取った。

 キンミズサマがくれた加護の金玉に似ている。

 なんだろう? お宝には間違いなさそうだが、それよりも腹が減った。

 早く家に帰りたい。

 だがどうやって出る?

 ここで餓死? ここから出してよ。ふえええん。

 するとダンジョンに穴が開いた。


「ふええ?」


 願ったらダンジョンに穴が開いたんですけど?

 これは一体どういう仕掛けですたい?


 穴の向こうの現実にいる紫の髪の老婆がこっちを不思議そうに覗いていた。

 目が合った。


「ひええええ」

「うえあああ」


 老婆と俺は驚いて叫んだ。

 閉じて、閉じて……そう願うと穴が閉じた。


「え?」


 俺の願い通りになった?

 このダンジョンは俺の言う通りになる?


「はっ」


 ベルフェゴールがこのダンジョンをやるって言ってた。

 俺の物だから俺の言うことをきくのか?

 出たいから出してくれないか?


 まだダンジョンに穴が開いた。

 俺はそこから出る。振り返ってもそこには何もない。

 まるで幻だったかのようにダンジョンが消えていた。


「ギャアアアアア」


 俺を見た老婆が叫んだ。


「うああああああ」


 俺もびっくりして叫んだ。


「ひえええええ」

「ひいいいいい」


 俺は逃げるように立ち去った。


「だれかああああ」


 背後で老婆の声がする。

 どうせ俺を通報するに違いない。

 逃亡こそが正しいルートなのだ。

 痴漢冤罪は逃げるのが最適解。

 この世は見た目が百パーセント。

 悪人顔のコミュ障のボッチの言い訳なんて誰も耳を傾けない。

 ああ、これがイケメンのテンドー君だったら老婆の胸はキュンキュンだっただろう。


「黒い変な奴が出たああああ」


 黒いのは認めよう。

 だが変な奴じゃない。ボッチな奴だ。

 俺はその場からスタコラと逃げ出した。


 逃亡中の俺のスマホが鳴った。


「こ、これは」


 伝説の美少女女神からのメッセージ。

 来た。生徒会長からのラブメッセージが来たぞ。

 俺は震える手でメッセージを開いた。


 朝練。


 めっちゃ短い。

 朝練? 明日もサボらずに参加します。

 暗くなりかけた街路樹の下で俺は数分間悩んだ末……。


 了。


 ……と返信した。

 なんて返信すればいいんだよ?

 いい天気ですね? とか今何してるとか返すの?

 無理無理、俺は文章でのやり取りも苦手なのだ。

 憧れの生徒会長とのメッセージのやり取りはこうして幕を閉じた。


 ああ、こんなことなら、お喋り教室に通っておけばよかった。

 ……と途方に暮れていると。


 電話を切られたからメールを送ります。ケルベロスのメンタル霊圧が消えたそうだから安心してください。


 副会長からのメッセージが入った。

 なんか文章から怒気が感じられるのは気のせいだろうか?

 やはり電話をぶっちぎったのが原因だろうか?


 俺はその日、後悔しまくってからぐっすり眠った。




 ――翌日。

 ボッチの朝は早い。早すぎた。

 朝練にはまだ余裕がある。


 俺は少しだけ遠回りして堤防沿いの道を歩む。

 昇りかけの朝日がボッチの目に紫色の残像を残した。

 何故、堤防に来たのか?

 俺は昨晩、反省し反芻したのだ。

 俺の加護に頼った戦いは効率が悪い。

 もっとメンタル霊を温存する戦いをしなければならない。

 剣で斬りかかるにはメンタル霊を消費する。

 ヒョロガリボッチの身体を覆う加護。

 キリヒメサマの剣技の加護。

 これらの加護を使用せずに戦う方法はないのか?


 魔法は?

 魔法も同様にメンタル霊を集約して変換して放つ技だ。

 その威力の割に効率が悪すぎる。


 そうなるとやはり飛び道具だろう。

 そう俺には飛び道具がある。ボットガンだ。

 ボットガンは体内の液体を高圧で発射する攻撃だ。

 メンタル霊の消費は少ない。

 だが体内の液体を発射して、身を削って攻撃している諸刃の剣だ。

 では液体以外の物体を発射すればいいのでは?

 クロミズが集めた過去の偉人達の武器を放つには大き過ぎる、拾ったレイガンの弾丸も数が限られている。

 ならば、別の物を弾代わりにアイテムボックスに入れておけばいい。


 という訳で俺は河原に降りてきたのだ。

 そして河原の石をアイテムボックスに収容した。

 そう、石だ。

 石こそ、人類最初の凶器であり、武器だ。

 この石をボットガンで撃つのだ。

 石はコスパ最強の武器なのだ。

 石の形は歪だ。だがそんなの些細な問題だ。

 空力なんて関係ない。ただ圧倒的な圧力と速度で打ち出せばいいだけだ。

 試してみよう。

 俺はクロミズ、キンミズに石を弾にして撃つことを伝える。

 心の中の二柱がサムズアップした気がした。


 俺は右手を前に差し出した。


「レイガ……」


 おっと、この名前はいけない。


「ボレイガン」


 同時に轟音と水しぶきの柱が上がった。


「え?」


 霧状になった水飛沫が朝日を反射する。

 なんかパワーアップしてない?

 してない、してない。気のせい、気のせい。

 大きな水柱をみた対岸の犬が狂ったように吠える。


 ヤバイ。

 ボバイ。


 俺は逃げた。

 最近逃げてばかりのような気がするが、気のせいだ。

 俺の人生そのものが逃亡中みたいなものだからだな。ハハハ。


 石を撃ち出すボットガンの威力は凄まじい。

 これからの魔物との戦いはこのボットガンを主力となるだろう。

 それでも倒せない場合は魔法。

 それでもダメな場合は剣を振ろう。

 それでもダメなら逃げよう。


 こうして卑怯なボッチの戦闘スタイルが確立した。

 楽して勝つ。

 諸葛孔明もそう言っている。


 対岸の犬が静かになったので俺は河原に降りて、石をアイテムボックスに収納する。

 まだいけるか?

 いけるボッチよ。


 俺はかなりの石を収納したが、まだアイテムボックスには余裕があるらしい。

 川の水面が朝日を反射しボッチの俺にアピールする。

 僕もここにいるよと。


 えっと、水とかもアイテムボックスに入るのか?

 俺は川岸に向かい、ボットハンドを水面に突き刺した。

 飲めるような綺麗な水ではないが濁ってはいない。

 アイテムボックスに水が入ったのか分からない。


 俺は試しに、川の水を出してと願う。

 俺の腕からビシャビシャと川の水があふれ出た。


「もういい。分かった」


 お漏らしボッチと仇名が付いちゃうだろう。

 川の水はちゃんとアイテムボックスに入っているようだ。

 まて? カロリーバーもズブ濡れ?


 俺はカロリーバーを取り出す。

 濡れてなかったけど、取り出した先の手が濡れてたから濡れた。

 オーマイボッチ。

 俺はバカか。

 もうどうしようもないバカだな。

 とにかく、アイテムボックス内が洪水になってないようで良かった。

 俺は濡れかかったカロリーバーかじりながら堤防に上ろうとする。


「うわ」


 河原の片隅がゴミに溢れていた。

 冷蔵庫に壊れたテレビに自転車。不法投棄だ。

 人間って酷いボッチよう。

 美味しいの? とクロミズが首を傾げた。


 俺の身体からボットハンドが現れ、ゴミの山を撫でた。

 なんと一瞬で目の前のゴミの山が消えた。不法投棄が消えた。

 うわ、これ全部食ったのか? 全部アイテムボックスか? どっちだ?


「……まあ、いっか」


 綺麗になったのだ。

 自然美化に貢献したと思えばいいかな。

 こうして汚れた河原の片隅からゴミ山が一つ消えたことは誰も知らない。

 誰も感謝しない。感謝を求めてもいない。

 ただ、川の神様がいたらサムズアップしていたに違いない。

 お腹壊すなよ。クロミズ。


 一日一善……違う。一日ボチ善。

 俺は晴れやかな気持ちで朝練に向かった。



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