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55 路地裏ダンジョン

「ようこそ、我らのダンジョンに。ズズー」


 イケメンスーツの男が華麗に一礼した。


「振り向いたらお終い。お終い。ここは私達のテリトリー」


 ゴスロリ幼女がスキップした。


 ダンジョンだと?

 次から次へと新キャラが登場してとても覚えきれない。

 こいつらはどうせ一回しか登場しない噛ませのモブキャラに過ぎないだろう。

 だがから覚える必要もないし、話す必要もない。

 口なんて利いてやらないんだからね。

 ああ、それはいつも日常茶判事だった。


「ベルフェゴール、早く殺しちゃおう殺しちゃおう。テヘテヘ、ペロペロ」


 ゴスロリ少女がその場でスキップし始めた。


「慌てるなクロムちゃん。お前に聞きたいことあんだけど? ズズー」


 ベルフェゴールと呼ばれたスーツの男が俺を見る。

 ホストのような金髪ピアス、女子が一瞬で惚れちゃうという悪イケメンだ。

 適当な夢を語って男らしさを見せつける乙女ゲーのワイルドキャラのようなイケメンだ。


「あのさあ、ケルベロス知らない? あいつ霊トレーサーに追われてて、助けに来たんだけど、この辺りで見失ってさ、ズズー」


 ベルフェゴールが射抜くような目で俺を睨んだ。

 地獄の番犬は知っているが、ケルベロスは知らないな?


「二つも首を落とされて、今の見た目は、ただの大きな狼なんだけどな。テヘテヘ」


 クロムと呼ばれたゴスロリ幼女が両手を伸ばした。

 大きな狼でケルベロスだと?


「はっ」


 俺は思いっきり動揺した。

 ししし、知ってる。それはきっとクロガウのことだ。


「何か知ってるのかな? ズズー」


 ベルフェゴールが鼻を啜った。

 さっきから鼻すするなよ。ちゃんと鼻かめよ。すげー気になる。


「知ってるって顔してるね? テヘテヘ、ペロペロ」


 クロムというゴスロリ幼女の語尾もウザい。

 語尾にボッチと付けちゃうほど俺も大概ウザいんだが?

 俺の心の中でボッチ君が心外ボッチよ……と叫んだ。


「……」


 まさかこいつら、ケルベロスことクロガウを討伐するためにダンジョン協会が放った刺客か?

 クロガウは俺の眷族だ。

 俺が守る。 やるか?

 だが俺はメンタル霊が切れかかった出涸らしボッチ。

 まさにボッチのピンチ。ボッチンピだ。

 最強ボッチだと天狗になっていたが、実は最低ボッチかもしれない。


「おい。ズズー」

「……」

「……この俺が聞いてるのだが? 答えろ。ズズー」

「……」


 ボッチでコミュ障で性格の悪い俺は答えない。

 何で敵の質問に答える必要がる。

 質問に答えた見返りはあるのか?

 ボッチは質問に答えないという有名なセリフを知らないのか?


「……あれ? おっかっしいな。ベルフェゴールの強制質問が効かないみたいよ。テヘペロ」

「ズズー。お前は一体何者なんだ? 俺の言霊が無視されるとは驚いたぞ」


 ベルフェゴールが俺を睨んだ。

 だからさっきから何度もボッチだって言ってるだろうが。

 人の話聞いてないのか? と心の中で叫んだ。


「……」

「こいつキモいんですけど。メンタル霊はカスだけど、私達が見えているなんて、なんかの加護持ちに違いない。さっさと殺そう。テヘペロ」


 クロムが俺を指さした。

 メンタル霊がカスだと……俺が筋金入りのカスだと何故知っているんだ。

 はっ? まさか鑑定持ち?


「かなーりあやしーい。後悔しないように一期一会で殺しておこう。ズズー」

「我らの計画に仇なす存在かもしれないもんね。テヘペロ」


 一期一会の使い方間違っているだろ。

 それに計画だと? こいつら何考えている?

 ボッチのコミュ障の俺でも分かる。

 こいつらは敵だ。

 俺の頭頂部のボッチアンテナがバリ三ですよ。

 そもそも路地裏をダンジョン化するなんてあり得ない。

 そんな話聞いたこともない。聞くような友達も仲間も知り合いもいないのだが。


「死んどくか? ズズー」

「死んじゃうか? ペロ?」


 くそ。どうする?

 考えろ。俺のボッチ電子脳。

 ピコピコ……コタエ……ワカリマセン。

 くっそ。ポンコツが。

 どうするボッチ君?

 知らないボッチよ。

 くっそ。まるで役に立たない。

 ボッチ君使えない。

 お言葉だけど、ボックンはお前の心が生み出したもう一人のお前なんだボッチよ?

 裏を返せば、お前が使えないということボッチよ。

 ああ、そうだった。ボッチ君は俺の心の代弁者。

 つまり、役立たずの使えないのは俺のほうだった。

 ……と俺は楽しい脳内会話を楽しんでいると。


「なんか言えよ。ズズー」


 ベルフェゴールが俺を睨んだ。

 なんかなんて言う訳ねえだろう。

 そんな簡単に人語が話せたらボッチなんかやってねえよ。

 俺に喋りかけたお前の不運を呪うんだな。


「こいつ、マジムカついた。クロム。本気出しちゃうか? ズズー」

「そうだね。本気のメンタル霊を見せるけちゃう? テヘペロ」


 その瞬間、二人のメンタル霊圧が上昇し、放たれた。

 凶悪なメンタル霊が俺の真っ黒な前髪を揺らす。

 路地裏ダンジョンの電柱が、空に無秩序に張り巡らされた電線が揺れた。

 放出されたそのメンタル霊は俺のメンタル霊の数百倍はあっただろう。


「……フッ」


 俺はその瞬間を見逃さない。

 馬鹿でカスでボッチの俺だが、その瞬間は見逃さない。

 俺の加護は何だ?

 クロミズは何だ?

 キンミズサマは何だ?


 クロミズ。キンミズ。

 俺の身体から半透明の触手、ボットハンドが針のように飛び出し、周囲の空間を撫でた。

 メンタル霊が消失する。

 違う。喰らったのだ。

 クロミズとキンミズサマが奴らの放出したメンタル霊を喰らった。

 俺のMPメーターが跳ね上がる。


「「え? ズズーペロ」」


 二人の顔が驚愕に染まる。


「くっくっくっくくくっ」


 俺の半笑いが加速する。

 そう俺のメンタル霊が復活したのだ。


 二柱の身体強化    マニューバ稼働可能

 ボットガンキンミズ  マニューバ射撃可能。

 アイテムボックス   マニューバ稼働可能。

 イマジナリーウェポン マニューバ召喚可能。

 ノスフェラトゥフレイムマニューバ展開可能。

 物理反射。魔法反射  マニューバ発動可能。

 属性変異極大魔法   マニューバ発動可能。

 物理法則限界突破   マニューバ発動可能。


 俺の中の各マニューバがオールグリーンに点灯する。

 マニューバってなんだよ。戦闘機かっつの。ボッチの戦闘機。ボチ戦だ。

 ええい、そんなことはどうでもいい。

 とにかくこれで俺の加護の全機能が使用可能となったはずだ。


「くっくっくっ」


 こいつら馬鹿だ。スライムの加護持ちの俺の前でメンタル霊を自慢気に放ったのだ。

 その全てを俺がペロリと、いただいた。


「こいつのメンタル霊圧が跳ね上がったペロ」


 クロムが叫んだ。


「そんな馬鹿な? まさかこいつ? S級ズズー?」


 ベルフェゴールが後退る。


「……」


 残念だったな。俺はS級じゃない。

 SSSSSだ……と心の中で叫んだ。


「くっ。どれだけメンタル霊があろうと、ここはベルフェゴールのテリトリー内。ベルフェゴールの許しがなければ出られないペロロ」


 クロムが悔しそうに唇を噛んだ。


「……」


 セオリーではダンジョンから脱出するにはボスを倒すしかない。

 奴を倒すか、クロガウを差し出して泣いて謝るか?

 俺は麗しの生徒会長の後輩だぞ。

 答えは決まっている。倒すっしょ。


「……クロム。そこで待ってろ。ズズー」


 ベルフェゴールが剣を抜いた。


「うんうん。今すぐ殺して殺して。テヘテヘ」


 クロムが小躍りした。


「……!」

「これは俺の魔剣ダーインスレイブだ」

「……」


 ?という顔で俺は首を傾げた。


「え? 知らないの?」

「ええまあ」

「そうなんだ。ズズー」


 ベルフェゴールが少しだけ落ち込んだ。

 あの剣のことは知らない。だがその内包するメンタル霊量は分かる。

 あれはガチのマジでヤバイ。

 あれはボチのボジでボバイ。

 あれはヤオロズ級。キリヒメサマの剣と同じ匂いがする。

 つまり刺されたら滅茶苦茶痛いということだ。

 俺の加護は、同等とかそれ以上の相手には効果がない。


 あいつは地獄の番人ケルベロスの知り合い……つまり地獄の住人。

 地獄の住人は悪魔?

 俺も地獄の住人みたいなものだ。陰険で性格のねじ曲がったダークボッチ。

 くっそ。こんなことならあのビースト勇者君と仲良しになっておけばよかった。

 ん? 勇者? 待てよ? 勇者の剣。

 俺は非道にも勇者の剣を奪ったんだった。もとい、寝取ったんだった。


「……」


 いける。いけちゃうボッチよ。

 俺には聖剣がある。

 メンタル霊も復活した。

 闇には光を。


 来い。アロンダイ子ちゃん。

 ふえええん……と泣きながらアロンダイ子ちゃんが俺の手の中に現れた。


「あれは聖剣アロンダイト? ペロ?」

「お前、勇者か? ズズー」

「……」


 俺は誤解を解かない。

 誤解したほうが悪いのだ。

 このまま勇者のふりして乗り切れる。

 乗るしかない。この偽りと誤解のビッグウェーブに。


「でも勇者は二刀流だって情報だけどテヘペロ?」


 クロムが疑惑の目で俺を見た。

 くっそ。ビースト勇者がエクスカリバーとアロンダイトの二刀流だってことを知っているのか?


「……」


 俺は聖剣エクスカリバーを粉砕しそのメンタル霊を喰った。

 喰ったなら再現できるはずだ。頼むぞ、クロミズにキンミズサマ。

 勇者の剣をコピーしてくれ。贋作してくれ。模造してくれ。


「……これのこと?」


 俺はボット細胞で聖剣エクスカリバーを再現した。

 ちょっと黒いけど、聖剣エクスカリバーに見えなくもない。


「なっ? やはり本物の勇者か? ズズー」

「でも勇者はイケメンって情報だけどテヘペロ?」


 クロムが再び疑惑の目を俺に向けた。

 くっそ。生まれ持った遺伝子は改変できない。

 整形して出直す余裕はない。

 それよりも何よりも俺はこの切れ長のボッチアイを気に入っている。

 目薬入らないよね? とか、コンタクト無理だよねとか? 水の中でも目を開けてられるよね? とか言われちゃうほど細い目だが気に入っている。

 そんな極細な目を整形なんてできない。


「クロムちゃん。人間は何でも美化したがる愚かな生き物だってこと忘れてるズズー」


 ベルフェゴールが肩をすくめた。

 ナイスフォローだ。人間は汚く醜い生き物なのは激しく同意。

 滅亡しちゃえばいいのにね。

 いかん、人間嫌いの俺の本性が顔を出した。


 今の俺は爽やかイケメン勇者なのだ。勇者らしく振舞わねば。

 悪い笑顔なんて浮かべたらダメだ。

 爽やか笑顔を浮かべろ。

 俺は爽やかに笑った。


「キモい」

「……」


 俺は勇者らしくエクスカリバーを前に突き出した。


「俺が勇者だ」


 決まった。微イケメンの俺でも雰囲気でイケメンに見える程のカッコよさだったに違いない。


「そうか。では俺も名乗ろうか、聞いて驚くなよ。俺は覇天の一人……ベルフェゴール。ズズー」


 スーツの男が片手を額に当てポーズを決めた。

 なんだか昭和の敵のようなこの仕草だ。


「ズズーさんですか」

「ちがうちがうそうじゃない。俺はベルフェゴールだ」

「……」


「聞いて驚くなよ。私は覇天の一人……クロム。テヘペロ」


 ゴスロリ少女がくるりと回って一礼した。

 可愛いんだけど、どこか昭和の匂いがする。


「テヘ・ペロさんですか」

「え? 違うけど? クロムですけど」

「……」

「……」

「……」

「……」


 気まずい空気が辺りに漂った。


「驚いて声も出ないようだぜ? ズズー」

「そうね。私達、覇天が表舞台に出ることなんて滅多にないからね」


 気まずい空気を換えるように話を変える二人。


「……」


 路地裏ダンジョンに沈黙が訪れた。


「えっと、もしかして覇天って知らないのか? ズズー」

「ええまあ」

「テヘペロ?」

「ええまあ」


 路地裏ダンジョンに沈黙が訪れた。


「こいつ、絶対勇者じゃないだろ。ズズー」


 ベルフェゴールが疑念に満ちた目で俺を睨んだ。

 ギクリ。俺の肩が揺れた。何故バレたし?

 そうか? 俺のこの細い目だ。

 このダークな闇の住人のような目のせいだ。

 勇者の目はキラキラ光る綺麗な目をしていた。

 己の力に増長して歪んでいたが、俺よりも遥かに爽やかだった。

 俺にあるのは、ねちっこい嫉妬に塗れた淀んだ目。

 舞夢に黒いお兄ちゃんと呼ばれちゃうほどの闇を抱えた俺。


 バレたら仕方がない。問答無用の力で押せ。

 もう言葉でやり合う時間ではない。

 これからは拳と拳のボチンコ対決の時間だ。


 ヒトキレボッチモード。

 俺の身体がキンミズサマの黄金色の加護に包まれた。


「なんだと? ズズー」


 俺は驚くベルフェゴールに卑怯にも無言で斬りかかった。

 だがベルフェゴールは魔剣ダーインスレイブを振るう。

 俺の聖剣エクスカリバーが白い弧を描き、黒き弧を描いたダーインスレイブと激突し、メンタル霊の粒子を放射状に放った。

 たったの一合。その衝撃で路地裏ダンジョンが揺れた。


「くっ、こいつ。強いぞ。本物の勇者か? ズズー」

「……」


 違うけど? 俺は心の中で否定し、もう片方の聖剣でベルフェゴールに斬りかかる。

 ベルフェゴールの首に向かって一閃。

 だがベルフェゴールの首に届かない。

 宙を斬る聖剣アロンダイ子ちゃん。

 ふえええん届かないよう。リーチの差か?

 くそ、俺のリーチが短いということか? 俺の手が短いということか?


 俺は剣を突きだしながら前に出る。

 ベルフェゴールが剣で弾きながら下がる。

 火花が飛ぶ。金属音が響きわたる。メンタル霊の粒子が花火のように弾ける。

 俺の聖剣エクスカリバーが宙を舞う。

 ベルフェゴールの魔剣ダーインスレイブが宙を舞う。

 お互いの弧がすれ違い、会合しない。

 俺もベルフェゴールも、寸前で互いの剣を回避しているのだ。

 こいつ強いぞ。だが案ずるな俺も強い。

 俺はフェイントの裏の裏の裏の攻撃を放つ。

 聖剣エクスカリバーがベルフェゴールの足を斬り裂いた。


「ズズー」


 だが浅い。

 続いて俺の聖剣アロンダイ子ちゃんがベルフェゴールの肩を斬り裂いた。


「ズズー」

「……」

「くそ油断したズズー」


 ベルフェゴールの魔剣ダーインスレイブが俺のいた場所を斬った。

 だが俺は既に別の場所にいる。

 地面を蹴って、強制ターン。ベルフェゴールに向かって聖剣を水平に薙ぎ払う。

 ベルフェゴールの魔剣ダーインスレイブが俺の渾身の一撃を受け、怯んだ。

 そこに俺の聖剣アロンダイ子ちゃんが逆袈裟で、魔剣ダーインスレイブを跳ね上げる。

 さらにそこに聖剣エクスカリバーが袈裟斬りを放つ。

 ベルフェゴールが、半身をひるがえし回避する。

 だが遅い。そのワイルドイケメンの背を少しだけ斬り裂いた。


「くっ、ズズー」


 ベルフェゴールはそのまま地面を転がって、俺から距離を取った。


「二刀流ってことだけは本当のようだな? ズズー」


 全身から血を流したベルフェゴールが俺を睨んだ。

 その通りだ。俺は生徒会長と副会長とサラリーマン冒険者から二刀流を受け継いだボッチ流皆伝の二刀流使いだ。思い知ったボッチか?


「クロムちゃん。ズズー」


 ベルフェゴールがクロムを呼んだ。


「お待たせ。詠唱完了した。テヘペロ」


 背後でクロムの声が聞こえた。

 詠唱が完了しただと?

 くそ。見学してたんじゃなかったのかよ。

 二対一なんて卑怯だぞ。


「卑怯もなにも最初から二対一だぜ? ズズー」

「地獄の闇より深い真の闇……暗黒の事象の水平線、ダークスフィアに飲まれるがいい」


 クロムが何かを放った。魔法?

 こいつは魔術師だったのか?

 それは漆黒の球体だった。

 真の黒。光も反射しないモアブラック。

 俺は慌てて回避しようとするがベルフェゴールの剣が俺の退路を防いだ。


「逃がさん。ズズー」

「なっ」


 その瞬間、俺の視界が真っ暗に染まった。

 俺は漆黒の球体に飲み込まれてしまった。


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