53 オシャベリサマ
「……」
俺の身体からネバネバする液体は一滴たりとも出なかった。
なんという機会損失。
栄光ある未来線が失われた瞬間だった。
二人のスマホを俺のべたべたするボット細胞で覆っていたらダンジョン内での甘酸っぱいキャッハウフフのラブ空間を満喫できたに違いない。
「そういえばクロミズの大半を奪われておったな、ちゅぱ」
キリヒエメサマがぎこちなく笑った。
「トーリ君また今度でいいわ」
副会長がぎこちなく笑った。
女子のまた今度というワードは無期限延期といわれている。
俺のテンションが地の底を通り過ぎ地球の裏側の南アメリカプレートを突き抜けたに違いない。
「トーリ。またの機会で構わぬ。ちなみにこれが私の番号だ」
生徒会長が落ち込む俺の顔の前にスマホを差し出してきた。
オーマイボー、オーマイボー。オーマイボッチ。
そこにはファンクラブが乱立するほどの超弩級生徒会長のシークレットアドレスが表示されていた。
ああ、これこそが人類の半分が求めている最大秘匿情報。
CIAとFBIとM16が探しても見つからなかった聖女の情報。
俺のテンションメーターが地球を突き抜け、成層圏まで達した。
「ん? どうした? 早う登録せい」
「!」
俺は目の色を、血相を変えて生徒会長の番号とアドレスを連打した。
鼓動が耳を打ち、手に汗が噴出する。
なんとか登録した俺が自分の番号を生徒会長に差し出そうとすると、小さな手で静止された。
なんと拒否られた。お断りされた。
ボッチお断り。
ボッチの番号など知りとうないと?
ボッチのアドレスはボッチ菌が移るというのか?
ああ、それは否定できない。
小学校の頃、ランドセルを運ばされた挙句、菌が移るってイジメられたんだっけ?
「トーリの番号は千草に聞いておくからいいのじゃ」
生徒会長が笑った。
くっそサイカワ。俺のテンションメーターが破壊された。
もう俺の人生ハイテンション継続確定。
この世界に、人類の秘宝である超絶美少女の個人情報を知っている者が何人いることだろう?
いない。たいしていないだろう。
絶対俺だけだ。ダンジョン部の後輩の俺に与えられた特権。
ああ、ボッチの神様は俺をお見捨てにならなかったのですね。
ボッチのヤオロズ様に感謝。ボッチサマ。ありがとう。
いえいえ、大したことないボッチよ。
俺の心の中のイマジナリーフレンドのボッチ君が頷いた。
ボッチ君ってヤオロズだったのか?
そうだボッチよ。リア充は皆殺しだボッチ。
「……また訳の分からぬことを考えておるのう。そうじゃ巫女達よ。余ともアドレス交換してくれぬか?」
キリヒメサマが飴を咥え、スマホを取り出した。
「是非是非」
「おお、キリヒメサマが番号を教えてくださると、ありがたや」
二人の美少女がスマホを出し合った。
「二人をフレンドに招待するのだ。毎日ログインしてハートを余に送るのじゃぞ」
「フレンド?」
「ハート?」
生徒会長と副会長が怪訝な顔をする。
きっと麗しの女神達はソシャゲなんてしないのだろう。
「頼んだぞ。ちゅぱ」
キリヒメサマが飴を掲げた。
「「はあ」」
生徒会長と副会長が顔を見合わせ困惑した。
「トーリも送るのだぞ」
キリヒメサマが俺を睨んだ。
なんで神様なのにソシャゲやってんだよ。
もっと他にやることあるだろうが。
「ない。これが意外と暇なのじゃ」
「え? この時期は新人戦の準備とか大変ではないのですか?」
「全て部下に任せておる。それに毎年変わらんのだ。さしてやることはないぞ」
「新人戦。今年はダメかと思ったがトーリが入部してくれて助かった」
「トーリ君の入部がギリギリでしたからね。申請期限に間に合って良かったですね」
思い出した。俺って新人戦に出場して、リア充共の当て馬になるんだった。
ああ、俺が殺したビースト勇者とか、イケメンパーティーとか出てくるんだろうな。
まあ、無視すればいいか。どうせ俺なんか空気でできたエアーボッチなんだし。
杞憂だ。取らぬボッチの皮算用ってやつよ。
ああ、出たくないよう。
こんなメンタル霊が不足がちで、お肌がガサガサの俺が新人戦でまともに戦えるとは思えない。
一回戦敗戦か、存在感の無さで棄権扱いになるのが関の山だ。
ああ、朝練もたるいし、手っ取り早く強くなる手段ないかなあ。
俺は練習とか、修行とか鍛錬とかいう言葉が大嫌いなのだ。
「あるぞ。手っ取り早く強くなる方法。ちゅうぱ」
キリヒメサマが俺の心を読んで笑った。
「強敵を倒してメンタル霊を得る。ちゅぱ」
「はあ」
それって燃費の悪い俺の身体では損益分岐点を超えられないのでは?
戦う度に加護を使用してメンタル霊を消費するのだが?
「加護を使わなければよいだけではないか? ちゅぱ」
それって俺に素手で挑めと申すか?
俺から加護を取ったら根性がねじ曲がったボッチしか残らないぞ。
このガリガリの腕から繰り出されるパンチでノックアウトするのは、パンチを放った俺の方に違いない。
却下だ。加護なしの戦闘は派手に却下だ。
それとも俺のねじ曲がった性格による陰険な無視で敵の戦意を挫くとか?
「お主、自分の性格が歪んでいることを理解しておるのだな。ちゅぱ」
余計なお世話だ。
「もう一つの手段はダンマスになってのダンジョン経営じゃな。ちゅぱ」
キリヒメサマが笑った。
ダンマス? ダンジョン経営?
「キリヒメサマ。ダンジョン経営は新人戦の後でもよろしいのでは」
副会長がキリヒメサマを見る。
「それもそうだな。ではトーリよ。新人戦で優勝したらダンジョンコアをやろう。ちゅぱ」
キリヒメサマが飴を激しく舐めた。
ダンジョンコアだと?
なんだ、それは? ダンジョンマスターになれちゃうあれか?
「そうじゃ。これくらいの光る玉じゃ。ダンジョンの創造に使用するものじゃ」
キリヒメサマが胸の前で野球のボールぐらいのサイズに手を広げた。
え? この物語ってボッチがリア充パーティーから迫害される物語じゃなくてダンジョン経営ものだったの?
初めて知った。何その途中で方針変える展開。
ダンジョン経営なんて地味な展開より、生徒会長と副会長の服が破れるほどの激しい、太ももが舞い踊るバトル展開を希望します。
それか無口ボッチハーレムもの。
登場人物全員が何の魅力もないボッチの俺を好きになっちゃうというあれだ。
「……なんだか読心するのアホらしくなってきたのじゃ」
キリヒメサマが頭を抱えた。
てめえ、人の頭の中覗いて、勝手に幻滅してんじゃねえよ。
男子高校生なんて九十九パーセントエロイことしか考えてないんだぞ。
俺はそこにボッチイムズがあるから、俺の心は半分くらいしかエロイことを考えていないんだぞ。感謝するがいい。このロジャノリが。
「……ノジャロリな」
だがしかし、戦わずしてメンタル霊が得られるも捨てがたい。
ダンジョン経営はありっちゃありかもしれない。
ダンジョンマスターボッチ。
誰もボッチのダンジョンには訪れなかった。
ボッチのダンジョン……完。
打ち切り的に連載終わってどうすんだよ。
ボッチの人生に打ち切りも終わりもないんだよ。
俺の心が折れるまでは俺の物語は続くのだ。
「……トーリ君。新人戦の前に初心者用ダンジョンも忘れずクリアしておいてね」
えっと、初心者用ダンジョン?
なにそのトラブルの予感しかしない名前のダンジョン。
絶対俺、いじめられちゃうダンジョンじゃん。
「ええまあ」
俺は適当に返事をした。
「初心者用ダンジョンはヤオロズによって管理された、程よい広さ、程よい罠に魔物。ここをクリアすれば自ずとダンジョンの知識が培われるチュートリアルダンジョンよ」
副会長が解説してくれた。
「駅前にあるのだ。トーリには簡単すぎるかもしれんな」
生徒会長が笑った。
駅前にあんの? ダンジョンが? 知らんかったぞ?
「後で地図を送っておくね。トーリ君はもう一度講習受けなおしたほうがいいかも」
へいへい。わかりましたよ。
無敵の加護持ちの俺には意味ないかもしれませんが行っておきますよ。
チュートリアルとか連打で飛ばす俺には絶対必要のないダンジョンだ。
ゲームのムービーも全部飛ばしちゃう俺がそんな面倒くさそうなダンジョンなんて行くはずがない。
「隙あり」
キリヒメサマが突然、剣を抜き斬りかかってきた。
「え?」
「キリヒメサマ?」
俺は咄嗟に加護を纏い回避する。
その俺の目の前にキリヒメサマの刀が舞う。
このままでは避けきれない。
俺はダンジョンの壁にボット細胞を放ち、方向転した。
キリヒメサマの真っ黒な剣が俺の視界を抜けていく。
だがキリヒメサマが消えた。
「ダンジョン内では油断大敵じゃぞ。ちゅぱ」
キリヒメサマの黒い剣が俺の首に掛かっていた。
くっそ。いつの間に?
俺の首を刎ねた時も、俺の腕を切り落とした時もそうだった。
キリヒメサマの動きは見えないのだ。
はっ。もしかして貧乳過ぎて見えないのか?
「……小さいは可愛い証拠じゃ。せっかく来たのじゃ。少し揉んでやろう」
キリヒメサマが剣をクルクルと回した。
揉んでくれなくても結構です。
「そう言うな。忘れておらぬか? ここはダンジョンじゃぞ」
キリヒメサマが黒い剣を構え直した。
ダンジョンだから何だって言うんだよ。
「ダンジョンとはなんじゃ?」
現実と空想の狭間の不思議空間だ……俺は心の中で自信満々に答えた。
「そうじゃ、ここは半物質的世界。想像が現実となる。逆に現実が想像となる。トーリよ。お主が放った属性変異魔法。あれはなんじゃったか?」
属性変異魔法? ああ、キリヒメサマを倒すために使用した俺の最大魔法……宇宙の前のカオス状態の魔法。それが何か?
あの長い詠唱は中二病満載のベッドジタバタコースのセリフだったから思い出したくない。
「その属性変異は魔法だけかえ?」
キリヒメサマが消えた。
何を訳の分かんねえことを言ってるんだ。
「このダンジョンのお主の肉体はメンタル霊じゃ」
違うぞ。俺の身体はボッチだぞ。
メンタル霊という想像エネルギーよりもボッチ原子とボッチ分子とボッチアミノ酸で構築された純度百二十パーセントの純血ボッチだぞ。
そもそもあの属性変異魔法は俺が根拠もなく考えた勝手に想像した物理法則の向こう側の魔法だぞ。
「!」
そうか物理法則だ。
このダンジョンは現実の模倣、再現。
重力。空気、摩擦係数。全て現実のままだ。
俺はダンジョン内では物理法則が絶対だと思っていた。
その割には魔法とか物理法則を逸脱した存在も実在する。
つまり、ダンジョン内では不変は不変じゃない。
光の速さしかり、音の速さしかり。
ここは現実ではないのだ。ダンジョンなのだ。
全てがメンタル霊で構築された、幻想。
なんの制限もないはずだ。
あるのは心の制限。
「そうじゃ。ちゅぱ」
キリヒメサマの声が耳元で聞こえた。
物理法則が絶対だと思い込んでいるのは俺の心だ。
俺の常識がそうだと思い込んでいるだけだ。
電脳世界に閉じ込められ電池にされちゃう映画を思い出した。
「そうじゃな」
キリヒメサマの声がいたるところで聞こえる。
光速が一定だと思い込んでいるのは俺だ。
質量保存も、慣性も、作用反作用もない。
なにも決まったことなどない。
ここは現実じゃない。想像の世界だ。
「トーリよ。牛鬼を倒した時の我らの奥義を思い出せ」
生徒会長が拳を握ってそう言った。
応援ありがとう。君の為に勝つよ。そして勝利を君に捧げよう。
生徒会長と副会長が繰り出した奥義はなんだっけ?
奥義……未来樹開放 半刀両断 ハイハクズ。
奥義……未来樹解放 乱れ枯葉 アラカスミ。
確かにあれは物理法則を無視して、途中でワープしたように消えていた。
「木曽三川警護団の隊長さんの分身は覚えてる?」
副会長がそう言った。
隊長の天外武装奥義……十王五月雨改改。
それは質量保存を無視して分身していた。
おっさんが分身するというおぞましい技だ。
美少女が分身すればハーレム構築簡単なんだけどな。
いずれも現実ではあり得ない攻撃だった。
どっちも奥義と言っていたな?
奥義とは物理法則を超えること?
現実のしがらみを超えること?
「そうじゃ」
キリヒメサマが笑った。
試してみよう。ここは想像の世界。
つまり肉体の手足を使って動くのではない。
想像で動けばいい。
想像は俺の得意中の得意分野だ。
妄想選手権ならランクイン確実の妄想パワーを見せてやんよ。
俺は瞬間移動することを願った。
物理法則を超えて行け。
想像の向こう側に。
現実の向こう側に飛べ。
ここは想像が具現化するダンジョンなのだ。
ボッチ奥義……黙殺。
説明しよう。ボッチ奥義黙殺とは回避不能な無視技のことだ。
いわば、無視の最高到達点。
無視の進化の到達点。免許皆伝無視。
これをくらった者は心理的ダメージを負い、二度とボッチに話しかけないという。
「……やる気がないなら首を刎ねるが?」
キリヒメサマが俺を睨んだ。
おっと、おいたが過ぎたようだ。
いやだなあ。ちょっとおふざけしただけでしょ。
今から真面目にやるところだったの。
いざ、推して参る。
俺は身体の中の全てのメンタル霊を爆発させた。
いけええええええ。
膨大なメンタル霊が消費され、浪費され、燃え上がって消えた。
「え?」
俺の視界が回った。
「トーリ君」
俺の頬が床に激突した。
「トーリよ」
俺の身体が動かない。
「物理法則を捻じ曲げるには大量のメンタル霊を消費する」
俺の目の前にはキリヒメサマの足があった。
「やはり慢性的にメンタル霊が足りておらぬか。まずはメンタル霊を蓄えることじゃな。ちゅぱ」
俺は意識を失った。
つまり死んだ。失敗した。
俺は物理法則を超えることはできなかった。
奥義を得ることが出来なかった。
ひんやりとした廊下が気持ちいい。
同時に激しい頭痛と眩暈に襲われた。
メンタル霊切れによるダンジョンからの強制排出。
俺はダンジョン部の前の廊下に寝ていた。
「まったくいきなり瞬歩を使おうとするとは無茶をしおる」
ダンジョン部の扉が開き、生徒会長が現れた。
「トーリ君。次はもっと少ない量で試してね。奥義なんだからそんな簡単にはいかないわ」
副会長が笑った。
ああ、来い。そのまま前進してくれ。
俺はまだ倒れたままだ。
即ちスカートの中が……。
「キリヒメサマ。トーリ君を鍛えて頂きありがとうございます。この後、お時間ありますか? お茶をご用意いたしますが?」
だが副会長が突然、向きを変えキリヒメサマに話しかけた。
「時間はある。イチゴのケーキがいいのう」
副会長の言葉に子供のような笑顔を浮かべるキリヒメサマ。
くっそ。またもや俺のラッキースケベイベントは不発。
「ええ、勿論沢山ありますよ」
「本当かの? 毎日来ようかな」
涎を垂らしそうな目で副会長を見上げるキリヒメサマ。
「是非是非」
顔の横で手を合わせ、微笑む副会長。美しい。ふつくしい。サイカワ。
「では、剥離門はこのままにしておくのじゃ。ちゅぱ」
コラコラ俺のケーキが減るだろうが。
しかもキリヒメサマは心を読む忌むべき危険な存在だ。
首を刎ねる危険分子。排除すべきだ。
「毎日キリヒメサマがいらっしゃると楽しいです」
「そうじゃな。私も鍛えてもらいたいし」
生徒会長が剣を振るポーズをする。美しい。ふつくしい。サイカワ。
「よいぞ。トーリのことも気になるしなの。ちゅぱっ」
キリヒメサマが飴を咥えたまま、俺に流し目を送る。
「そんな、ご迷惑では?」
「いやいや、トーリは既に余の眷属であるからのう。ちゅぱっ」
キリヒメサマが飴を掲げた。
こいつ。今なんつった? 何バラしてんだよ。
「え? 余の眷属?」
「は? 今なんと?」
「おっと、今のは何でないのじゃ。ちゅぱっ」
お口緩すぎるだろ。本当にお喋り過ぎて怖い。
俺は目を逸らしたキリヒメサマの視線の先に移動して
す
ま
ほ
と声を出さずに口を動かした。
「……ちゅぱっ」
キリヒメサマが副会長の後ろに隠れた。
「トーリ君。キリヒメサマをイジメちゃダメよ」
副会長が人差し指を立てた。
「……」
くっそ。イジメだと?
確かにこの光景は傍から見れば、目付きの悪いボッチが幼女をイジメているようにしか見えない。
だがこいつは巨悪な首切り神だぞ。
「さあさあ、部室に参りましょう。キリヒメサマ」
「おう。ちゅぱっ」
「こちらです」
「……」
俺は三人の後に続いて生徒会室に向かう。
「キリヒメサマ、天空鬼ヶ島はよろしいのですか?」
「部下がおるから大丈夫じゃ。ちゅぱっ」
「新人戦の準備とか大丈夫ですか?」
「部下がおるから大丈夫じゃ。ちゅぱっ」
「新人戦か。早いものよのう」
生徒会長が物憂げにそう言った。
「今年は勇者もおるしのう。楽しみじゃ。ちゅぱ」
キリヒメサマが後ろを振り向いた。
これ以上余計なこと言うんじゃないぞ。
このまま秘密を守ることが出来なければキリヒメサマではなく、オシャベリサマに改名するぞ?
「……うっ。分かっておるのじゃ。ちゅぱっ」
二人の女子高生の間を楽しそうに歩くヤオロズ上位神のキリヒメサマ。
だがしかし、他の生徒達は誰も何も言わない。
生徒会長と副会長を憧れの目で追うだけだ。
他の生徒達は前髪パッツンのオシャレ女児のキリヒメサマを見ることさえしない。
そう普通の人間にはヤオロズは見えないのだ。
従って怪しい小学生の女児が校内をうろついていても問題にならなかった。
それよりも、美少女である生徒会長と副会長の後ろを歩く俺を不審者のように睨む。
コラコラ。俺は犯罪者かっつの。犯罪的なことはまだ何もしとらんぞ。
ちょっとだけ、二人のすらりとした足をガン見しただけだぞ。
この細いのに細くない曲線美。素晴らしい。
俺は視線を逸らしながら、チラチラと脚線美に酔いしれた。
ああ、この光景。写真に収めたい。一眼カメラで激写したい。
今度アイテムボックスにカメラでも入れておくか。
「ん?」
……そういえばアイテムボックスって、今どうなっているのだろうか?
クロミズの大部分が向こう側にあるということは、テンドー君がアイテムボックスを使えて、俺には使えないということだろうか?
それは困るぞ。
モテまくりのヤリまくりのテンドー君のことだ。
貰ったラブレターは読まずに無造作にアイテムボックスに入れるに違いない。
そして俺はそれを偶然手にして凹むのだ。
「くっ」
……まずはアイテムボックスが使用可能かどうかを確かめてみよう。
俺はクロミズにアイテムボックスに入れた物を取り出すように念じた。
頼む。
その瞬間、俺の手にはカロリーバーが出現した。
テンドー君宛のラブなレターではなかった。
やったぞ。アイテムボックスは健在。
クロミズよ。アイテムボックスの使用は俺だけに限定する。
テンドー君にはまだ早い。
素人がアイテムボックス機能なんか手にしてみろ。犯罪にしか使わないぞ。
スマホの中のクロミズが頷いた気がした。
「くっくっくっ」
サイレントボッチの俺としたことが声を上げて笑ってしまった。
我異次元物置使用可。
これで無理してクロミズの本体を取り戻す必要性はない。
ああ、クロミズ君。
そっちでゆっくりしていてくれたまえ。
アイテムボックスさえあれば、俺は戦える。
過去の偉人達の幻想武器、千本武器もあるよな?
俺の中の小さなクロミズがサムズアップした。
「あーっはっはっはっ」
「どうしたのだ?」
「トーリ君?」
「小僧? 今、悪い顔してなかったか? ちゅぱっ」
生徒会長と副会長が心配そうに、キリヒメサマが疑心暗鬼の目で俺を振り返る。
「……いや、べつに」
俺は誤魔化す様にカロリーバーを食べた。
――生徒会室。
「んまああいいい。はむはむ。ちゅぱっ」
美味しそうにケーキを頬張るキリヒメサマは子供にしか見えない。
これでも凶悪なヤオロズだ。
俺の首を刎ねたり、俺の首を刎ねたりした神様だ。
可愛いその見た目に騙されるな。
「あのーキリヒメサマ。新人戦のことで相談なんですが、トーリ君はどっちのライセンスで出場すればよいのですか?」
副会長が首を傾げた。
「そりゃあD級じゃろ。ぱくっ。ちゅぱっ」
キリヒメサマがフォークを立てた。
「やっぱりそうですよねえ……ですがD級で出場したら相手が……」
「そ、そうじゃなあ。D級相手では勝負にならんなあ……」
生徒会長と副会長が苦笑いする。
「今年は勇者もおるし、蒼岩も赤岩もおるしのう。トーリが出れば楽しくなりそうじゃわ。ぱくっ。ちゅぱっ」
キリヒメサマが新しいケーキのラベルを剥がし始めた。
「トーリよ。蒼岩や赤岩の家の者が出てきた場合は加護の使用を許可する」
生徒会長が拳を握った。
「はあ」
「会長。大人気ないですよ」
「お主達、いい加減仲良くできんのか? ちゅぱっ」
キリヒメサマが三つ目のケーキを食べ始めた。
「それは向こうに言うのじゃ」
生徒会長が斜め上を見る。
「迷宮会の覇権争いは今に始まったことではないですしね」
副会長が大きな溜息をついた。
「それに我らはもう黒岩家の分家なのだから放っておいてほしいものだ」
生徒会長がケーキを見て悲しそうにそう言った。
そういえば分家とか本家とか言っていたな。
俺を置いて話が進む。
迷宮会? なにそれ? また分家、総本家の話?
まだ俺は知らないことが多い。
まあ、ボッチの俺には転生しても関係ない話だ。
「迷宮会とは昔から霊トレーサーを多く輩出する家柄の組合みたいなもの。ヤオロズと共にダンジョンを管理してきたの。その中でも黒岩家、赤岩家、蒼岩家は仲が悪くて有名なの」
副会長が困ったように説明した。
「だから絶対負けるのではないぞ。トーリよ」
生徒会長がケーキの塊を口に放り込んだ。
「そろそろ余は帰るが、トーリよ。帰り道には気を付けるのじゃぞ。ちゅぱっ」
キリヒメサマがフォークを俺に振りかざした。
「はあ」
そしてその日はそのまま解散となった。
いつもの帰り道。
キリヒメサマの預言か忠告か?
俺は変なものに出会った。
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