52 キリヒメサマアゲイン
「もしもし? おお、トーリかや?」
ヤオロズ上位神であるキリヒメサマからの電話だと?
一体何の用だ?
「……はあ?」
俺は警戒した返事をした。
黒岩の当主から俺の殺人を再依頼されたとか?
「凄いのじゃ。ダンジョンで電話出来たぞ。流石クロミズの加護持ちは違うのう。ダンジョンで電話出来るなんて最高じゃわ。ちゅぱっ」
スマホの向こうから無邪気なキリヒメサマの声が踊った。
「これでログインボーナスも取り溢すことないのじゃ」
「ソシャゲかよ」
俺は敬意も払わず突っ込んだ。
キリヒメサマってヤオロズ上位神だったはずだよな。
そんな偉い神がソシャゲみたいな俗っぽいことしててもいいのかよ。
俺を殺しに来るかと思ったら拍子抜けじゃねーか。
「「え?」」
キリヒメサマの脳天気で楽しげな大きな声、そして俺の失礼な態度。
それを聞いた生徒会長と副会長の二人の大きな目が大きく見開かれた。
いやー二人とも長い睫毛ですね。少し分けてくれないかな?
いやいや、俺の細いボッチアイに、あんな長い睫毛なんか移植したら、逆睫どころの騒ぎではなく、眼球に突き刺さって、ドライアイになってしまう。
「な、な、な、キリヒメサマになんて口の利き方を? し、しし、知り合いなのきゃ? それよりなんでダンジョン内で電話が出来るのだ? トーリよ、これは一体全体どういうことだ? しぇつめいしぇよ」
生徒会長がきょどった。両手をジタバタさせて、あたふたして可愛い。
生徒の前ではクールビューティークイーンの生徒会長が俺の前では嚙み嚙みのポンコツ。
まさにギャップ萌え。ああ、飼いたい。
ちゃんと世話するから飼いたい。連れて帰りたい。
「……トーリ君。キリヒメサマとは親しいのかしら? 試験会場で仲良くなったの?」
副会長が何でもお見通しのような大きな切れ長の目で俺を睨む。
いやーこれには深い訳があってですなあ。
説明すると長くなるので省略しまーすといった感じで目をそらした。
「……なんの用?」
俺はボッチらしく武骨に最少ワードでキリヒメサマに聞き返した。
なんでわざわざ生徒会長達といるときに掛けてくるんだよ。
俺のラッキースケベイベントを潰す気か。
「……おおそうじゃった。お主のライセンスがダンジョンに落ちていたぞ、まったく雑に扱いおってからに。ちゅぱっ」
「……はあ」
ああ、俺がボチマ作戦で放ったD級ライセンスか。そんなんどうでもいいのだが?
「親切で優しい余が今から持って行くから感謝するがよい。ちゅぱっ」
いやいや来なくていいから、この絶世の美少女とのラブ空間に部外者の立ち入り禁止。
それに運転免許試験場からここまで結構な距離があんだぞ。
来る前に帰ってるっつの。
「「えええええ? ライセンスを失くしたの?」」
キリヒメサマの声を聞いた二人の女神が目を瞬いた。
そんなに驚かなくてもよくない?
「お、そこにクロミズの巫女達もおるのかえ? 久しぶりじゃな。ちゅぱっ」
「「ご無沙汰しておりますキリヒメサマ」」
二人は同時に頭を下げた。細い髪が肩を流れ、大きな胸が揺れ、背中の太刀がガチャガチャと音を立てた。
「トーリ君がすいません。お世話になったようで、ほんとすいません」
何故か謝る副会長。
俺が悪いことした前提ですかい?
そりゃあ、見た目は悪い感じの俺だが、根は真面目で気の良いボッチなんですよ。
ああ、副会長にそんな目で見られていたなんてショックですよ。
心に傷を負っちゃいました。
BTSD、ボッチ的外傷後ストレス障害負っちゃいました。
だから抱きしめてその胸で慰めてください。
ボッチの心の傷はその豊満な胸で癒されるであろう……ボッチの預言書、第五章から抜粋。
そんな妄想に花を咲かせている俺を副会長が睨んだ。
「……」
「久方ぶりにお主達の顔も見たいから早く剥離門の許可を取ってくれぬか? ちゅぱっ」
「はくりもん?」
俺はキリヒメサマに聞き返す。
薄情な利幅を持った新たな証券か?
「剥離門。その名如く剥離した門。SF用語で言うとワームホール。ダンジョン間の距離を、時間を無視して繋ぐ転移機構。現実と幻想のハイブリッドゲート。ヤオロズのみに構築可能な門」
副会長の解説がさっぱり分かりません的な顔をしていると……。
「ダンジョンとダンジョンを繋ぐ扉だ。だがダンジョンの主のヤオロズが認めないと開かない」
得意げに説明する生徒会長。
えっと、ダンジョン間を繋ぐ? なんかそれどっかで見たことあるぞ?
ああ、黒牛守がこのダンジョンに侵入してきた門……地獄門みたいなものか?
「そうじゃな。地獄門と原理は同じ。強制か、そうじゃないかだけじゃ。ちゅぱっ」
キリヒメサマが電話越しで俺の心を読んだ。
電話越しに心読むなよ。
心読まれるのは、ボッチの俺にとっては喋る必要がなくて便利なんだが、俺の破廉恥超弩級スケベマインドをリーディングされたら赤面まっしぐらじゃないか。
「……キリヒメサマ。あの、トーリ君は今、クロミズサマの加護を失ってしまったのです」
「クロミズサマが天道の黒薙の剣に封印されてしまい我らの声もクロミズサマに届かぬのです」
二人が申し訳なさそうに俺のスマホに小さな顔を近づけてそう言った。
もっと近づけ、そうだ。もっとだ。
その白い肌をもっと、もっとこっちに。
俺はこっそりスマホの音量を小さくした。
これで二人はもっと近づくだろう。
モチモチお肌とのコンタクトが迫る。
カモンカモンビューティフェイス。
ラッキースケベイベントに関しては冴えわたるボッチ脳。
「……トーリ君、スピーカーモードに切り替えて、聞こえ辛いから」
「……はい」
くっそ。またもや副会長が俺のラッキースケベイベントを事前に消滅させた。
俺は心の中で地団駄を踏みながら、泣く泣くスピーカーモードに切り替えた。
「はて? お主らは何を言っておるか? こうして電話が使えるではないか? ちゅぱっ」
キリヒメサマの飴を舐める音がうるさい。
「え?」
「はい?」
「……!」
「このスマホはクロミズの加護でダンジョン内でも使用できるのじゃぞ? だからクロミズの加護は失われておらん。とにかく誰もいいからクロミズに剥離門の許可を取ってくれ、バッテーリーがへたって充電切れそうじゃ。ちゅぱっちゅぱっ」
俺のスマホは以前、上級生に地面に叩きつけられ割れた。
それをクロミズが触手で覆い修復したのだ。
その副作用か神の御加護か、このスマホはダンジョン内でも使用できるようになっていた。
ちなみにキリヒメサマのスマホにも同じ処置をしている。
「!」
そうだ。このスマホのガラスは割れていない。
クロミズが消えたならこのスマホの傷も割れた状態に戻るはずだ。
テンドー君が俺の身体ならクロミズを吸収した時、スマホはリュックの中だった。
「え? ということは?」
「そうじゃ、だからさっきから言っているようにクロミズサマの加護は消えておらぬ。ちゅぱっ」
「スマホに分裂していたおかげで、封印されてなかったってことかしら?」
「……!」
マジか? クロミズ。生きていたのか?
俺のボットモは封印されていない?
え? ということは、キンミズサマの加護があればいいかなって思ったこともバレてる?
いやいやいや、あれはその、たちの悪い冗談だよう。
いやだなあ、お前のことを要らないなんて思うはずがないじゃないかぁ。
例えキンミズサマの加護のほうが上位互換だとしてもだ。
俺達ボットモだろ?
俺は心の中のクロミズの肩に手をやった。
「とにかく早く許可してくれぬか? ちゅぱっ。ああ、切れる……」
ク、クロミズ。キリヒメサマが来たいってさ。
剥離門の申請を許可してくれ。
俺は恐る恐る心の中でクロミズに伝える。
俺の中のクロミズが頷いたような気がした。
「おお、サンキュー。今から行くのじゃ。じゃあ切るのう」
キリヒメサマが電話を切った。
その直後、ボス部屋の中央に扉が出現し、その中から飴を舐めた前髪パッツンのオシャレ女児が現れた。
舞夢と同じ年ぐらいに見えるがこの子は人の子ではない。
凶悪な首切り神だ。
試験ダンジョンで俺の首を刎ねた凶暴な神様だ。
もう名前から言って、その女児凶暴につき注意だ。
斬る姫だからな。俺を油断させてまた首を刎ねるかもしれぬ。
「よ。来たのじゃ」
俺の深刻そうな推測をよそに能天気な笑顔のキリヒメサマが飴を振った。
「「ご無沙汰しております」」
生徒会長と副会長が低く頭を下げた。
「うむ。息災であったか? ちゅぱっ」
「「はっ」」
「えっと、どこに仕舞ったかな? あったあった。ちゅぱっ」
キリヒメサマがどこからともなく俺のライセンスカードを取り出した。
飴舐めた手で触ったら……ああ、案の定ベタベタじゃねえか。
「ほれ、無くすないぞ?」
キリヒメサマが飴で汚れたライセンスカードを放り投げた。
うわ、ばっちい。俺は反射的によけた。
メンタル霊金属……ヒヒイロカネでできた免許証が床に落ちた。
「……よけるでない」
「……つい」
キリヒメサマが俺を睨んだ。
飴で汚れた俺のD級ライセンス。
勇者君を倒すために使用して行方不明だったライセンス。
正直忘れていた。
おっと、心を読めるキリヒメサマのことだ。
勇者を倒すためにライセンスカードを弾丸代わりに撃ったなんて、とっくにお見通しだろう。
「なんと、そうじゃったか。それは災難であったなあ」
キリヒメサマが俺をジト目で見た。
くっそ。お見通しじゃかなった。
もう余計なことを考えるな。
無心になれ。何も考えるな。
無我の極致。無我のボッチ……ムガッチになれ。
だが俺の無心の暗闇の中に乳袋と乳テントが浮かび上がった。
細く白い太股が現れた。
ダメだ。何も考えないように思えば思うほど男子高校生的な煩悩が乱舞する。
二人の女神が落ちたD級ライセンスを見て目を合わせた。
副会長が首を傾げながら俺のD級ライセンスを手に取った。
ライセンスカードは俺の魂の一部。
つまり、俺の一部は副会長の綺麗な細い白い手に抱かれたということだ。
イコール俺は今、副会長に優しく抱かれているのだ。
俺のテンションメーターがグイグイ上昇する。
それを生徒会長が覗き込む。
「……D級だと?」
「……D級ですね」
「あのーキリヒメサマ。トーリ君の等級がD級とは納得いきませんが?」
副会長が綺麗な顔を傾げた。
「加護持ちのトーリならば間違いなくS級クラスだと思われますが?」
生徒会長も可愛い顔を傾げた。
「うむ。トーリの本当の等級はファイブエスじゃ。じゃがな、それだと目立つからD級を与えたのじゃよ。ちゅぱっちゅぱ」
キリヒメサマが面倒くさそうにそう手を振った。
「「えええええええええっファイブエス」」
生徒会長と副会長が叫んだ。
そして小さな口を開けっぱなしにしてフリーズした。
「なんじゃ知らなかったのか? ちゅぱっ」
「き、聞いてません。トーリ君、なんで黙ってたの」
副会長が大きな目で俺を見る。
「そそそしょんな、ファイブエスって、信じられん」
生徒会長が大きな目で俺を見る。
「……まあ」
俺は目をそらした。
「まあ、余も信じられんわ。ちゅぱっ。それどころかこの小僧には他にも……」
俺は慌てて加護を纏い加速してキリヒメサマの口を押えた。
「むぐっ! あああ、あにをするのあぁ」
俺に口を押えられ、必死にもがくキリヒメサマ。
「トトト、トーリ。キリヒメサマに何を?」
「トーリ君?」
「……」
それ以上余計なことを言ったらスマホの加護を消すぞ……と心の中で恫喝した。
「むぐっああうああう、ああった」
キリヒメサマが何度も頷いた。
俺は少しだけ手を緩めた。ああ、飴で手がベタベタする。
「な、それは困るのじゃ。ログインボーナスが受け取れなくなるのじゃ」
慌てるキリヒメサマ。
じゃあ、他の加護の事とか、勇者のこととか絶対に言うなよ?
ペラペラばらしやがってこのオシャベリヒメが。
プライバシーの侵害だ。
もう二度と心も読むんじゃないぞ。
読んでもいいけど、返事すんな。
俺の脳内会話に勝手に入ってくんなよ。
さもなくば、性犯罪ギリギリアウトの妄想するぞ。ゲヘヘヘ。
「わ、わかったのじゃ」
俺はキリヒメサマを離した。
「それでトーリ君には……?」
「なんでもないのじゃ。気のせいだったのじゃ。それよりもクロミズの加護が失った経緯を説明せい」
話を切り替えるとはナイスキリヒメサマ。
「ああ、それはですね……」
俺の代わりに副会長が説明してくれた。
「……そうであったか。本家となった人間がダンジョンに適正がないとは、そりゃ暴走するのも分からんでもない。だが勝手にヤオロズウェポンを持ち出したこと……これはダンジョン協会としては見過ごせんぞ?」
キリヒメサマが目を細めた。
「キリヒメサマ。もう少しお待ちください。この件は私がなんとかします」
生徒会長が物憂げに下を向いた。
生徒会長がテンドー君を庇った?
何この生徒会長達の顔。
これはまるで恋する乙女のような顔。
完全に好きな人のこと考えている顔じゃん。
くっそ。テンドー君死ねよ。
哀れな奴で可哀そうな奴は俺のほうだろう。
テンドー君だけずるい。
テンドー君はイケメンだし、成績優秀でスポーツ万能。
いつも仲間に囲まれ、皆の中心のテンドー君。
それに比べて無能で性格のひん曲がった俺なんか独りぼっちなのに……。
クスン。俺は心の涙を流した。
「……いやいやお主の場合は、ただ一人が好きなだけであろう」
キリヒメサマが俺を睨む。
悔しいが図星だ。
俺はロンリーオンリーソロライフを楽しく満喫している。
俺はボッチを賛美する。
俺に他人など不要。他人など道ばたに転がっている石ころに過ぎない。
だが俺はいつも邪魔な石ころに躓いてしまうがな。
つか、心を読むなっていったのに。
「まあ黒岩の小僧も黒薙の剣が使えるのならば、さして心配いらんだろうて、いつかは自力でダンジョンに入れるじゃろう」
キリヒメサマがスマホをポチポチし始めた。
「これを期に真っ当な人間に戻ってくれるとよいのだが……」
生徒会長が大きな睫毛を伏せた。
この顔絶対好きな顔やん。
ああ、ショック。ブロークンボッチハート。
BTSD……以下略。
「……会長」
副会長が生徒会長の肩に手を置く。
「……」
えっと、俺の心配はなしですか?
加護を奪われたボッチの俺の心配はなしですか?
金持ちのイケメンの心配などしなくても結構です。
それよりも傷心ボッチの俺のことを心配しろよ。
今の俺はブロークンボッチハートのどん底なんすよ?
ああ、ショックで心に傷を負っちゃいました。
BTSD、ボッチ的外傷後ストレス障害負っちゃいました。
だから抱きしめてその胸で慰めてください。
ボッチの心の傷はその豊満な胸で癒されるであろう……ボッチの預言書、第五章から抜粋。
「お主、心の中では意外とお喋りじゃのう」
キリヒメサマが俺を見た。
俺はキリヒメサマを睨んだ。
そしてスマホと声を出さずに心の中で喋った。
「うっ。ちゅぱちゅぱ」
「トーリ君。一つだけお願いがあるの」
副会長が上目遣いで俺を見た。
何でしょうか。オッケーです。
副会長の頼みなら、話を最後まで聞かなくてもオッケーです。
「もう少しだけクロミズサマの加護をテンドー君の傍に置いておいて欲しいの」
え? 嫌ですけど?
なんで恵まれた肢体のテンドー君の為に俺が我慢せねばならんのだ?
言うこと聞いてほしかったら口だけじゃなく、態度で示して欲しいものだがな?
俺は下を向いた。
「……お願い」
副会長はそう言いながらが目をうるうるさせて俺の手を包み込むように握った。
「!!」
絶世の美少女に手を握られたショックで俺の思考は一時停止した。
衝撃無効の加護が俺のBTSDを和らげる。
「千草? それではトーリがあまりにも不憫で、可哀そうはないか」
生徒会長が叫んだ。
そうなんすよ。俺って不憫で可哀そうなんですよお。
だからその胸で優しく……。
「ほれ……あまりに荒唐無稽な要求にトーリもショックを受けておるぞ」
生徒会長が副会長に詰め寄る。
違うんです。ショックはショックですが、そっちのショックじゃないんです。
副会長の柔らかいお手手に握られたショックなんです。
もう一生手を洗わないことを誓います。
「……トーリ君。天道君が自力でダンジョンに入れるようになるまで待っててくれないかしら? 今また取り返すと天道君がまたちょっかいかけてくるから」
「千草」
「……トーリ君からもクロミズサマにお願いしてくれないかしら? 無茶なお願いだとは分かっているの」
副会長が俺を真っすぐ見る。大きな瞳で真っすぐと……。
俺の手をギュッと包み込むように握りながら。
好きになるなというほうがおかしい。
先輩大好きです。
「まあ数か月あればクロミズの加護が馴染み、あやつにも適性が身につくやもしれん。だがそれにはクロミズの許しがなければならんぞ。ちゅぱ」
キリヒメサマが俺を試す様に見る。
「だがそれではトーリが可哀そうだ……トーリは加護を奪われたのだぞ」
生徒会長が下を向く。
「……」
……だってさ。
どうするクロミズ?
俺はクロミズに問いかける。
だがスマホに宿ったクロミズは答えない。
俺には黒牛守もキンミズサマもいる。
二柱の加護を発揮すれば俺はテンドー君には負けないだろう。
テンドー君からクロミズを奪い返すのは容易だ。
だがその後は?
クロミズを失ったテンドー君はどうなる?
副会長の言う通り、自暴自棄になったイケメンがボッチの俺にちょっかいを掛けてくるに違いない。
これだから人間は嫌いなのだ。
自分の欲の為に人を害する。これだからリア充は嫌いなのだ。
逆に言えば、他人に何も求めないボッチの俺はやはり優劣種族なのではなかろうか?
群れという原始的な社会生活様式から脱したニューウェーブ。
他者に精神的に依存しない。
真の強者。強者の余裕を持って、テンドー君にクロミズを貸し出してやってもよいだろう。
だがな。俺は怒っているのだ。
生徒会長達にあんな顔されやがって、ドチクショーが。
ああ、でもこのひんやりとした副会長のお手手が気持ちい。
でもまあ、そこまで言うならば、ちょっとだけボットモを貸し出すの許そうかな?
ダメだ、ダメだ、なんでテンドー君のために俺が我慢しなければならないんだ?
おかしいだろう。俺は哀れで不憫で可哀そうなボッチだ。貸さんぞ。
ああ、でもお肌ピチピチの滑々な綺麗なお手手すね。
何事も決めきれない優柔不断ボッチは思考のスパイラルループに陥った。
ボットモは取り返したいけど、この手は放したくない。
そうだ、このまま何も決めなければ永遠に副会長に手を握られているというヘブン状態が継続するはずだ。
時よ、止まれ。ボッチワールド。
「ん?」
だがそんな俺の葛藤をよそに、壁から一匹のスライムが空気を読まずに出現した。
スライムのスラッシュだ。
「え?」
「は?」
「おや。クロミズサマの分体じゃのう。封印される前に分裂しておったか、流石はクロミズじゃな。ちゅぱ」
キリヒメサマの声にスラッシュが触手を伸ばして照れた。
え? こいつはクロミズではなく、ただのスライムのスラッシュだぞ。
爺ちゃんの買っていた犬のアッシュの生まれ変わりのスラッシュだぞ。
「クロミズサマが健在で良かったのう」
「小っちゃなクロミズサマ。ご無事でしたか。」
二人の美少女が俺から離れスラッシュに群がった。
え? チョ待てよ。
スラッシュが二人の美少女に撫でられて、平たくとろけた。
「……」
俺はカロリーバーを取り出し、スラッシュに与えた。
スラッシュが触手を伸ばし美味しそうに食べ始めた。
「トーリよ」
「トーリ」
「トーリ君」
「……」
三人とスラッシュが俺を見る。
分かったよ。
スラッシュまで言うなよ。
分かった。分かった。
「わかった」
俺は許可した。
クロミズよ。テンドー君を男にしてやれと。
これ以上イケメン化したら困るけど、テンドー君がダンジョンに入れないと俺にちょっかい掛けてくるだろう。
このままエスカレートして妹に、家族にちょっかい掛けてきたらマズイ。
だからクロミズよ。
テンドー君の力になってやって欲しい。
寂しいけどクロミズはここにいる。
俺はスマホを見る。俺達はずっと一緒だ。ボットモだよ。
スラッシュが嬉しそうに跳ねた。
「本当か? ありがとうトーリよ」
生徒会長が顔を上げ、涙ぐみながら俺の手を握った。
やったぞ。もう一生手を洗わないぞ。
「本当にいいの? トーリ君?」
「ええまあ」
「ありがとう」
副会長が涙ぐむ。
スラッシュも飛び跳ねる。
「トーリ君。あのね、ついでにもう一つお願いがあるの。私達のスマホにもクロミズサマの加護を与えてくれないかしら? そうしたらいつでも連絡とり合えるものね」
副会長が上目遣いで俺を見た。
「ダンジョンで使えると便利だからな、そういえばトーリの番号知らんぞ」
生徒会長が俺の顔を見る。
近い近い。チャンス到来。生徒会長の番号ゲットする大チャンス到来。
ああ、美少女のアドレスゲットできるなんて幸せ。
この世で生徒会長のアドレスを知っている者、挙手。
……いないだろう。そうだろう。ファンクラブが乱立するほどの人気女子高校生の電話番号知っている奴なんてそうはおるまい。
よーし、二人のスマホにネバネバする液体を出しちゃうよ。
俺のベトベトの液体で美少女のスマホを包み込んじゃうよ。
「ええまあ」
俺はそっぽを向きながら手を出した。
ここに置いてくだせえとばかりに、へこへこと手を差し出した。
二人の美少女がスマホを取り出し、俺の手に置いた。
あああ、遂に、遂にこの時が来たアアアアア。
俺はルンルン気分の浮かれボッチ気分で二人のスマホにクロミズを染み込ませようと念じる。
クロミズ、頼んだ。
半透明の液体が俺の掌から……。
「あれ?」
俺の掌からは半透明のボット細胞が一滴たりとも出てこなかった。
「出ない」
オーマイボッチ。
お読みいただきありがとうございました




