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51 朝練という名の報復

「待っていたぜ。カガッチ」

「加護を無くしたってか?」

「可哀そうに。くっくっくっ」

「待ってだぜ。この日を」

「加護がないなんて笑えるぜ」

「俺達が鍛えてやらないとな」


 始業前のダンジョン内。

 木曽三川警護団の面々が不敵な笑みを浮かべ、指を鳴らし、首を鳴らしながら俺を囲んでいた。

 何で俺はいつも集団に囲まれるのだろうか?

 俺の魂にイジメられっ子の業が染みついているのだろうか?


 しかも彼らのその容姿はとても善人には思えない。

 どこからどう見ても悪人だ。

 指名手配中の極悪暴力至上主義ギャングにしか見えない。

 だが、これでも一応俺の味方だ。

 正確には生徒会長の味方だった。

 彼らの名は木曽三川警護団。

 元々、テンドー君に雇われた傭兵達だったが、いろいろあって俺がボコって生徒会長達に拾われて今に至る。

 という訳でボコった俺には恨みしか抱いていないだろう。

 イキった新人ボッチにボコボコッチされたんだからなあ。

 そしてそのイキった俺が加護を失った。


 大の大人がひ弱な男子高校生を囲っているなんて、イジメというかリンチだろ。

 おまわりさんこいつらです。

 ああ、でもここは治外法権のダンジョン内。

 法も正義もない。あるのは弱肉強食の非情な世界。

 強き者のみが正義という暴力が支配する閉鎖空間。


「くっくっくっ」

「さーてどうしましょうか?」

「お前ら忘れるな。これは特訓だぞ」

「分かってますぜ。特訓特訓けけけ」

「特訓? 笑える」


 木曽三川警護団が舌なめずりする。

 怖いよ。以前の俺ならば失禁泡吹きコースだっただろう。

 だが今の俺は以前のひ弱な、リア充を呪い、ただ嘆くだけのボッチじゃない。

 無敵の加護を手に入れたアッタク・オブ・ボッチなのだ。

 彼らは知らない――俺が加護を取り戻したことを。

 正確には別の加護が発動していることを知らない。

 笑いそうになるのを必死に堪える。

 今の俺は加護を失っている悲劇のボッチなのだ。


 その時、俺を囲む屈強な男達の輪が割れた。


「トーリ。よく来た」

「トーリ君。おはよう」


 二柱の美女神の口数が少ない。

 いつもの花のような眩しい笑みもない。

 俺が加護を失ったことを憂いているのだろうか?


「……ヒヒ」


 俺は情けなく笑った。


「加護をなくそうが霊トレーサーには変わりはない。小僧。全力でかかってこい」


 隊長が腕を組んで顎を振った。


「……」


 全力だと? いいのか?

 だがあんまり早くキンミズサマの加護を披露するわけにはいかない。

 しばらくは二人には同情してもらわなければならないのだ。


「トーリ。おおそうだ。まずはイマジナリーウェポンを見せてくれ」

「あら、そうそう。まだ見せてもらってなかったわ。トーリ君。見せて」


 生徒会長と副会長が加護の話を逸らしてくれた。


「どんなイマジナリーウェポンか知らないっすけどクロミズサマの加護がないカガッチなんて敵じゃないっすよ」


 チャラ男がチャラく肩をすくめた。


「全員。抜刀せよ」


 副隊長が嬉しそうにそう命じた。


「「「「「はっ」」」」」


 木曽三川警護団がイマジナリーウェポンを構えた。

 イマジナリーウェポン。その名の如く――想像の武器だ。

 だが想像で構築されたこのダンジョンでは有効的な武器だ。

 いや、半物質で構築されたこのダンジョン内での唯一有効的な武器だといえる。


 木曽三川警護団が抜刀した衝撃が衝撃波となって俺の前髪を揺らした。

 おいおい、何やってんだよ。揺らすものが違うだろ。

 そこは生徒会長のスカートをぶわっと揺らすとこだろうが全く分かってねーな。


「小僧。さっさと抜け、死ぬぞ」


 隊長が大きな声で俺を恫喝する。


 俺は昨日まで自分のイマジナリーウェポンを見せるかどうか迷っていた。

 俺のイマジナリーウェポンは大魔王の全絶滅剣と全殲滅剣。

 この剣は余りにもオーバースペックなチート級武器。

 一振りでダンジョンの壁を切り裂く制御不能な凶暴な次元切断魔剣。

 だが、せっかく生徒会長と副会長が気を使ってくださったのだ。


「トーリ」

「トーリ君」


 女神が俺を見つめる。

 木曽三川警護団の殺気が俺に集まる。


「どうした? 怖じ気づいたか?」


 隊長が首を傾げた。

 分かったよ。見るがいい――俺のイマジナリーウェポンを――。


「阿形、吽形、来い」


 俺は小さく叫んだ。

 その瞬間、俺の右手には阿形が、左手には吽形が現れた。

 右左どっちが阿形だっけ、どっちが吽形だっけ、自分でも見分けがつかない。

 禍々しいメンタル霊が吹き荒れ、生徒会長と副会長の髪を揺らした。

 そこはスカート揺らせよ。

 今度登場するときは下からの上昇気流でお願いしますよ。


「なっ」

「え?」

「おいおいおいおい」

「まじかよ」

「がちのまじ?」

「嘘だろ」

「なんだあれは?」

「あれ? イマジナリーウェポンか?」

「いやいやいやいやいやメンタル霊量が異常だろ」

「なんだよこいつ。加護無くしてたんじゃないのかよ」

「カガッチ、相変わらずふざけてるっすねえ」

「かなり笑えるぜ」

「小僧、面白いなお前は」


 俺のイマジナリーウェポンを見て動揺する木曽三川警護団。


「違う」

「ええ。あれはイマジナリーウェポンではないわ」


 生徒会長と副会長が目を細めた。

 長い睫毛が閉じる音がバシッと聞こえてきそうだ。


「え? イマジナリーウェポンではないって、じゃあ何なんスか?」


 チャラ男が首を傾げた。


「……あれはヤオロズウェポンだ」


 隊長が答えた。


「はへ?」


 チャラ男がチャラく首を何度も傾げた。


「あれはオリジナルイマジナリーウェポン。ヤオロズが作りし本物の幻想武器、私達のイマジナリーウェポンはヤオロズウェポンの模造に過ぎない」


 副会長が補足説明してくれた。


「「「「「はああああああああああ?」」」」」


 木曽三川警護団のおっさん共が叫んだ。


「トーリよ。それは本当にお前のイマジナリーウェポンか?」


 生徒会長が大きな目で俺を見た。


「……ええまあ」


 俺はそうだと力強く答える。


「トーリ君。それを試験会場で受領したの?」

「ええ、まあ」


 俺は副会長の問いに自信満々に答えた。


「カガッチ卑怯っスよ」

「え、えまあ」


 チャラ男の質問にため息交じりに俺は恐縮ですと答える。


「こいつは面白い」


 隊長が楽しそうに眉をしかめた。


「隊長、これは油断なりませんなあ」


 副隊長が楽しそうに小声でそう言った。


「まあ、八百屋のウェポンだろうが何だろうが、何でもいいっスわ。謝るなら今のうちっスよ。加護のない高校生が俺らに勝てる訳ねえーすからね」


 チャラ男が剣を構えた。

 そのイマジナリーウェポンの名前はきっとチャラオウェポンだ。

 そんなことはどうでもいい。短期決戦で終わらせる。

 俺のメンタル霊は残り少ない。

 一晩休んだとはいえ、まだまだ全開ではない。

 それにキンミズサマの加護は未知数だ。

 同じスライム種なので加護も同じだと想定しよう。

 案ずるよりも生むがやすし。


 ヒトキレボッチモード。

 俺は心の中でそう言った。

 その瞬間、俺の身体を半透明のボット細胞が覆う。

 やはり同じだ。イケる。イケちゃうぞ。イケてるぞ俺。


「「「「「はああああああああ」」」」」

「な、なななな、なんだそれは?」

「トーリ君?」

「あれって加護じゃねースか?」

「加護失ったって話では?」

「おいおいおいおい」

「なんだよまじかよ」

「こいつは笑えるぜ」

「ええまあ」


 俺はそう答えながら走った。


「はやいっス」


 そして驚くチャラ男の剣を弾く。

 金属音がダンジョンに響き渡る。


「ちょ、待つっす、話しが違うっす」


 待つ訳ないだろうっス。

 俺は剣が上がったままのチャラ男のガラ空きの胴体に回し蹴りを放った。


「ギャっす」


 吹っ飛ぶチャラ男。

 俺は即座に追いかけチャラ男に斬りかかる。

 しかし、チャラ男が片手で床を叩いて跳び俺から距離を取る。


「カガッチィ。騙したっスね」

「ええ、まあ」


 俺は床を蹴って追いかけると笑顔でチャラ男の顔面を殴りつけた。


「な、はやっ待つっグヘエ」


 吹っ飛んで別の隊員と抱き合うチャラ男。

 俺は即座にしゃがむ。頭上を剣が通り過ぎる。

 俺はその場で一回転して足払い。

 剣を伸ばしたままの軸足がボキリと不吉な音を奏でながら受け身も取れずに床に激突する。

 俺はそれを見ることなく、その場で真上に飛んだ。

 俺がいた場所に他の団員たちの剣が交差する。


「なっ」

「避けた?」

「馬鹿な」

「ええい」


 驚いた警護団が剣を振り上げる。

 だが高く飛び上がった俺には届かない。


「馬鹿め、飛び上がったな。隙ありだ。喰らえ……」


 俺は剣を見下しながら、メンタル霊を凝縮して壁を形成する。


「我の目的を信じよ。その紅蓮の炎で世界を浄化せよ。紅蓮皇道波」


 その雄叫びと同時に飛んできた炎の魔法が俺の壁に激突して平たく広がった。


「なっ? 障壁? 魔法が来ることを知っていただと?」


 魔法を放った隊員が絶句する。


「ボッチファイヤー」


 俺はお返しにメンタル霊を小さく凝縮させて放った。


「無詠唱だとおおギャアアアア」


 魔法を放った隊員が炎に包まれる。


「インフィニットレッドロック」

「三号炎岸弾」

「グレートフレームランチャー」

「サンシャインストライク」

「マグマ弾」


 次々に飛来する魔法。

 だがそれらは俺の後方を通り過ぎる。


「は?」

「空中を移動したぞ」


 そう俺は空中を移動したのだ。

 黄金の触手で天井を掴み、空中を移動したのだ。

 俺の手首から半透明のゼリー状の強固なボット細胞が出るのだ。

 まあ、あれだ。


「ボッチファイヤー」

「ぎゃああああ」


 俺の下にいた団員達が炎に包まれた。


「なんだよ。加護ないって、あるじゃねーか」

「しかも前より強くねえか」

「どうなってんだよ。あの動きおかしいだろ。あれ新人か?」

「……あれがクロミズサマの加護なのか?」


 動揺する木曽三川警護団。


「あれはクロミズサマの加護ではない」

「ええ、違うわ」


 流石、生徒会長と副会長。一目で見破るとは尊敬します。そのお胸を。


「あれはコンゴウサマの加護だろう」

「ええ。クロミズサマと同等のヤオロズです。でも何故トーリ君が?」


 隊長と副会長がそう言った。


「トーリ。心配して損した」

「トーリ君。コンゴウサマにも加護を頂いたの?」

「ええ、まあ」


 俺は木曽三川警護団を蹴り飛ばしながらそう答えた。


「てめええ」


 起き上がった木曽三川警護団が怒り出した。


「ふざけんな、俺なんか加護なんかねーんだぞ」

「いくつ加護持ってんだよ」

「隊長。俺らでは無理っすよあんな化け物」

「そういうな。頑張れ」

「隊長、そりゃないっすよ」

「……」


 俺は阿形を水平に振った。

 衝撃波がダンジョンの壁を分断する。

 白でも黒でもないダンジョンの向こう側が見える。


「え?」

「は?」

「なんだと」

「ばかな」


 壁の前にいた木曽三川警護団員が、上下に両断され、床に落下しメンタル霊となって消えた。


「……」

「……」

「……」

「……」


 ここにいる者全員が沈黙し、ダンジョンをさらに沈黙させる。


「これは予想以上だ」

「なんで昨日は天道君にあっさり負けたの? 手を抜いていたの? いやそれはあり得ない、何か理由が……」


 副会長が細い顎に細い指を当てた。


「……」


 メンタル霊が足りなかったなんて言えない。

 四柱の加護を授かっているが俺のメンタル霊容量が少ない。

 少ないというより加護が多すぎるのだろう。

 だから俺は常時メンタル霊が不足している。

 それがヒョロガリボッチの唯一の弱点。

 ボッチのウィークポイント。

 ボィークポイントをそんな簡単にばらす訳にはいかない。


「……メンタル霊が足りてない」


 隊長がボソリと呟いた。


「……くっ」


 はっ? そんな訳ねーし何言っちゃってるの?

 馬鹿言っちゃいけねーよ。俺はアクティブ進撃ボッチだぞ。

 一人でいる時間の多い俺は他人よりも妄想力が発達しているんだぞ。

 妄想はメンタル霊そのもの。

 だから俺の中にはメンタル霊が大量にあるはずなんだ。

 俺の中に眠っているセブンボッチズが目覚めたらお前らボッコボコだぞ。

 はじけろ俺のボッチングチャクラ。

 ボチオーラ。ボチ気。ボチ念。ボチスタンド。


「分かりやすい」

「図星のようね」


 生徒会長と副会長が腕を組んだ。

 俺はキョドッタ。

 ド派手に挙動不審な動きをしてしまった。

 キョロキョロ右往左往してしまった。


「ちがっ」

「強大な加護は膨大なメンタル霊を消費する。加護持ちの初心者に有りがちな弱点だ」

「そうと分かれば対策は出来ますなあ」


 隊長と副隊長が頷き合う。

 くっそ。


「長期戦で行くぞ。盾持ち前に」

「はっ」

「後衛は支援魔法を。攻撃魔法を交互に放て、途切れさせるな」

「はっ」

「前衛主力も散発でゆっくり攻撃を繰り返せ」

「はっ」


 木曽三川警護団の動きが変わった。

 隊長の命令一つで混乱から立ち直った。

 そして彼らは団体戦に慣れていた。

 息の合った攻撃と防御。

 支援魔法と攻撃魔法がタイミングよく放たれ俺を翻弄する。


 くっそ、卑怯だぞ。ボッチ対全員って卑怯だぞ。


「休まず攻撃しろ」

「まままま、待って……」

「待つ訳がない」

「ぶっ殺せ」

「レイドボスだと思え。慌てるな。相手は戦闘経験がないルーキーボスだ」

「カガッチ死ねええ」

「な、待って」


 その後、しばらく善戦した俺はメンタル霊が切れ、キンミズサマの加護を失った。

 その直後に集団で袋叩きにされ、ボコボコッチされて死んだ。

 たこ殴り。ボッチ殴りにされ、無残に死んだ。


「やったぞー勝ったぞー」


 勝ち鬨が俺の耳に聞こえた時には俺は現実の廊下で寝ていた。

 廊下の天井が回っている。

 ダンジョンから強制排除されると気持ちが悪い。

 全員で襲ってくるなんて卑怯だぞ。

 負けた。そりゃ負けるだろ。

 いや、負けてあげたのだ。

 今回はわざと負けたのだ。

 そうあえてね。あえて負けてやったのだ。

 俺はあえて黒牛守の加護もキリヒメサマの剣技を使うこともしなかった。

 これ以上手の内をさらけ出すのはダメだ。

 それより何よりもこれ以上恨みを買ったらダメだ。

 彼らはもう味方なのだ。ボットモまでもいかないが味方なのだ。

 こんな俺を試験会場まで送ってくれたし、おいしいおにぎりも用意してくれたのだ。

 そんな彼らを斬れない。斬れるはずがない。ちょっとだけ斬ったけど……。

 とにかく俺はあえて手加減したのだ。


 ほんとボッチか?


 俺の心の中のボッチ君が疑念の目を向けた。

 ほ、ほほほ、本当っすよ。

 最後のほうはメンタル霊が切れてマジ死んだけど。


「カガッチ。何だよさっきの攻撃は?」

「テメーまた俺を斬ったな」

「今度は負けんぞ。いや現実で勝負だ」


 俺より先にダンジョンから強制排出されていた団員達が寝ている俺を囲む。

 ひえええ。こええええ。

 なんだよ。逆切れかよ。お前ら負けたくせにえらそうだぞ。


「現実では負けねえ」

「ああ、やっちまおうぜ」

「そのへんで許してやれ、トーリも負けたのだ」

「巫女様?」

「そういや、確かに死んだみたいだが?」

「ええまあ」

「さて、トーリよ。これで課題が見えたであろう」


 ダンジョンから戻った生徒会長が俺の前で仁王立ちになる。

 もっとこっちに来て、もっと近くで立って。

 もう少しなのだ。俺は仰向けに寝ている。

 生徒会長は立っている。

 つまりあれだ。ラッキースケベイベント発生中なのだ。

 白くてスベスベの細い太股が、スカートがああ、もう一ミリ前に来れば……。


「お疲れ様トーリ君。よく頑張ったわ。コンゴウサマの加護があればクロミズ様の加護を取り返せるかもしれないね」


 副会長がしゃがんで俺の手を引っ張って立たせる。

 邪魔したな? よくも邪魔したな?

 足を横にして屈むのでスカートの中は見えない。

 くっそ、ラッキースケベイベントを終了させたな?

 え? 今触れた。女子に触れた?

 ラッキースケベイベント継続中?

 だが衝撃無効の加護のおかげで衝撃は襲ってこない。

 だが今のラッキースケベは人生トップスリーレベルだったぞ。

 スーパー美少女の副会長に手を握られたんだぞ。

 やったぞ。もうわざと死ぬのもありだな。

 そんなことを考えていると、おっさん達がダンジョンから帰ってきた。


「……でもこれさあ、勝ったといえるのか?」

「くっそ、加護持ちかあ。いいなあ」

「おいおい、これは勝負ではないぞ、特訓だ。明日からの朝練のカリキュラムは錬っておく、さあ、お前ら仕事行くぞ」


 隊長が手を振って去って行った。


「カガッチまた明日」

「次は負けんぞ」

「俺も加護欲しいな、仕事終わったら試練のダンジョンに行かねーか?」

「ああ、ちょっと俺らサボってたしな」


 木曽三川警護団がその後に続く。


「トーリ君。もう隠していることない?」


 副会長が大きな瞳で俺を覗き込んだ。

 その大きな綺麗な瞳に俺は吸い込まれそうになる。

 隠していること?

 ……ないな。全くないな。身の覚えとかないな。

 黒ミノタウロスの黒牛守とか、キリヒメサマの剣技とか、勇者の聖剣とか全く身に覚えがないな。九尾の尻尾を喰ったこととか、ああ、あれは返しちゃったけど。


「……」


 俺は無言で答えた。


「まあよい。そのうち分かるであろう」


 生徒会長がウィンクする。

 くっそかわえええ。

 生徒会長。あっしはどこまでもついていきやすぜ。


「そうね。じゃあトーリ君。放課後またね」

「トーリ。授業中寝るなよ」


 俺は生徒会長の忠告をよそにその日の授業は全て寝て過ごした。

 そして不思議なことに突き刺さる視線は不思議と感じなかった。

 心なしか、俺を敵視する視線が減っていた気がした。




 そして放課後。

 俺は再びダンジョンにいた。

 授業中に寝たおかげでメンタル霊が少しだけ回復したのだ。

 だが戦えるような量ではない。


「トーリ君。明日からは毎朝ダンジョン内を走り込みだそうよ。模擬戦は当分ないってさ」

「え?」


 うわあ。つまんなさそう。

 俺が一番嫌いなのは練習。走り込み。マラソン。持久走。

 三日坊主というか三分坊主の俺にそんな怠いこと出来るはずがない。


「今、面白くないって思ったでしょ」


 副会長が大きな胸を揺らした。


「……」


 思ってません。大きな胸ですねとは思ったけど。

 初日だけ付き合うって言ってたから、明日からは生徒会長と副会長は来ない。

 つまりサボりたい放題じゃん。


「サボったらケーキ抜きですからね」

「え?」


 副会長が目を細めた。

 細めたのに俺より大きな目ですね。


「…………ええまあ」


 俺は適当に返事をした。


「隊長から報告あるからね。サボったらケーキ抜きですからね」

「くっ」

「トーリよ。当分の間はあのヤオロズウェポンと加護は封印しろ」


 生徒会長が俺を睨んだ。


「え?」


 何言ってるんだろうか?

 イマジナリーウェポンと加護を取ったら俺なんかボッチしか残らないんだぞ。

 ダメだダメだそれはダメだ。

 こんな俺にも譲れないものだってあるんだぞ。

 声は出さないかもしれないが俺にも主義主張があるんだぞ。

 俺はボッチアイで生徒会長と睨んだ。

 目に意思を込め、断固拒否の意思を込め睨んだ。

 その胸に近づいてもいいですか?


「……まあ、百歩譲って身体強化までは許そう。だが触手による遠隔攻撃、魔法攻撃は禁止だ。そして何より、コンゴウサマの物理、魔法反射は絶対に使用禁止だ」


 俺の断固拒否の願いが通じたのか、生徒会長が妥協案を提示してきた。

 身体強化が許されるならOKだ。生身のボッチは、すぐ疲れちゃうからね。

 ボットガンも我慢しよう。飛び道具は卑怯だからね。

 ん? 最後なんて言った? 反射? はて? 何だろう?


「物理反射があると修行にならん」

「ええええ? はんしゃ?」


 俺は可愛い仕草で首を傾げた。


「やっぱり気付いてなかったのね。コンゴウサマは物理無効の上に、物理反射、魔法反射の加護があるのよ」

「え?」


 無効の上に反射? なにそのクロミズの上位互換。

 反射って凄くね? 卑怯じゃね? 強くね?

 そんなチート能力があるなんて知らなかった。

 流石ゴールドのスライムだけはあるな。

 完全にクロミズより強くねえ?


「なんだ知らなかったのか? 一体どうやって加護を得たのだ?」


 生徒会長が目を細めた。

 俺はコンゴウサマ……キンミズサマとの出会いを思い出す。

 金色の和風ダンジョンでの出会いを……。


「餌付けした」

「は?」

「はあ」


 驚く生徒会長とため息をつく副会長。


「……それでトーリ君。ライセンスは?」


 副会長が俺を睨んだ。


「……」


 俺はD級ライセンスと破格の格上ファイブエスライセンスを持っている。

 どうしよう。

 その時、ブブブブッとスマホが鳴った。

 誰だよ。全く。タイミング悪い。


「え?」

「トーリよ。着信だぞ?」

「え? 会長、待ってください。ここダンジョンですよ」

「ああ、そうだが? それがどうした?」

「ダンジョン内では電子機器は使用できませんが?」


 副会長のその言葉に小さな口を精一杯開けて、大きな目を限界まで見開く生徒会長。


「ああああああ、そそそそそ、そうだ。じゃ、じゃ、じゃあ、こここ、この音はスマホじゃないのか?」


 慌てふためき、噛みながら飛び跳ねる生徒会長。


「なんでダンジョン内でスマホが使用できるんだああ」

「さあ? トーリ君……出たら?」


 副会長が疑惑の目で俺を見る。

 俺はその目から逃げるようにリュックを漁る。


「……」


 俺はぐちゃぐちゃのリュックの中からスマホをなんとか取り出した。


「ひょ、ひょうんとうダンジョン内でスマホが鳴っておる」

「さあ。でもトーリ君のやることですからねえ」

「しょれはしょうだが、ダダダダ、ダンジョンでスマホが使えると便利だぞ」

「……」

「ん?」


 俺は着信相手を見て固まった。


「誰からだ? 彼女か?」


 生徒会長が無邪気に俺のスマホを覗き込んだ。

 顔が近い。いい匂い。ナニコレ近い近い。


「会長ぉ、ダメですよ。トーリ君のプライベートですよ」


 とか言いながら副会長が俺のスマホを覗き込んだ。

 顔が近い。いい匂い。ナニコレ近い近い近い。

 これだ。俺が望んでいたのはこういうことだ。

 良かった。ボッチの神様は覚えていてくれたのですね。

 俺の願いを聞き遂げて頂けたのですね。

 昨日、小学生のキッズを救ったことへのご褒美ですね。

 ラッキースケベというよりラッキーエンカウント。

 女神のような可愛い二人の小さな顔がゼロ距離にあった。

 こんなに至近距離で女子と遭遇したことがあったか?

 いや、ない。時よ止まれ。このまま続けこのニアシチュエーション。


「……」

「……」


 二人の女神は俺のスマホを見たまま固まった。

 そして俺もあまりの至近距離でドギマギドキドキして固まった。

 持ってくれ俺の心筋細胞。右心房左心房。大動脈。


「「え? キリヒメサマ?」」


 二人が顔を合わせた後、俺を見た。

 そう俺の首を刎ねたキリヒメサマからの着信だった。

 俺は二人の顔を見ると大きな目が大きく見開かれたままだ。


「……もももしもしもしもし」

お読みいただきありがとうございました。

誤字脱字修正いたしました。

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