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48 復活のテンドー君

「キサマ。何故生きている?」


 テンドー君がキリリとしたイケメン顔の大きな目で俺を睨んだ。


「……」


 おいおい何故生きてるって?

 ボッチは目立たず、声も小さいが、息をする権利ぐらいあるんだぞ。

 だがなんだかテンドー君の様子がおかしい。

 俺の知っているテンドー君はいつも怒っていた。

 それがどうだ。余裕の振る舞いで余裕のオーラを醸し出しているのだ。

 ただでさえイケメンなテンドー君が余裕の振る舞いなんて手に入れたらどうなるか。


「キャァー」

「格好いい」

「先輩素敵」

「なんか今日かっこいい」

「今日最高」

「うちファンになる」


 このように女子共の乙女心は簡単に射貫かれ、鷲掴みにされる。

 世の中顔だ。顔さえ良ければ許されるのだ。

 人を車道に突き飛ばしちゃう悪党でもな。


「天道……何を考えている?」


 その様子を黙って見ていた生徒会長が大きな目でテンドー君を睨んだ。

 生徒会長。言っちゃってくだせえ。生徒会の力でこいつら全員処分してくだせえ。

 俺は虎の威を借るボッチなのだ。生徒会の後ろ盾を最大限に利用するのだ。

 俺は卑怯なボッチだからな。


「フッ。お前ら教室に戻れ」


 テンドー君が俺に流し目を向けた。


「あいつ何したんだ?」

「黒岩先輩に喧嘩売ったらしいぜ」

「うわあマジ? あほか?」

「黒岩先輩のこと知らないのか?」


 その他の野次馬達が俺を睨みながらヒソヒソ話をする。


「黒岩家っていったら大財閥だろ?」

「ああ、超上流階級の方だ」

「教師達も逆らえない天人だぞ」

「逆らった奴初めて見た」


 モブキャラ達よ。説明ありがとう。

 確かにテンドー君は金持ちでイケメンの血統書付きだ。

 一方の俺は物静かで標準家庭で育った小市民の寡黙ボッチ。

 比べるまでもない。こうなることは目に見えている。

 いつもこうだ。もう悪役は慣れている。

 可哀そうなボッチの味方をする正義マンはいないのかよ。

 正義マンさん今ですよ。今が正義の振るいどころですよ。

 だが俺に手を差し伸べる者はいない。


「貴方達。授業に戻りなさい」


 副会長が全員を大きな目を半分だけ閉じて睨む。

 女神が手を差し伸べてくれた。


「文句があるなら私が聞こう」


 生徒会長が一歩前に出る。

 そのカリスマ、オーラが廊下を包む。

 支配者の貫禄。その気迫はまさに女王。

 美しき女神に逆らえる者は誰一人として存在しない。

 空気が一変した。

 二人の一言で場が変わった。世界線が変わった瞬間だった。

 彼女達が現れれば、空気は浄化され、一言喋れば誰もが耳を澄ます。

 まさに人の上に立つ圧倒的カリスマを持つ存在。

 そんな彼女達が俺の見方をしてくれた。

 嬉しかった。嬉しすぎて泣きそうだった。


「チッ」


 渋々去っていく上級生達。

 だがその口が死ねと、その目が俺をあざ笑っていた。

 女子生徒はテンドー君しか見てない。

 その他の野次馬達が面白そうな目で俺を見る。

 自分より不幸な、格下の存在は彼らの生きる為に必要な栄養素なのだろう。

 だがそれでいい。お前らのような存在と仲良くなりたくはない。

 人を馬鹿にする奴は、最低の人間なのだ。

 バーカ死ねよ……と俺は心の中で馬鹿にしてやった。


「トーリよ。あんなの気にするな」

「トーリ君。ケーキあるからね」


 最後まで残った生徒会長と副会長が優しく微笑んだ。

 たったそれだけで俺の心が浄化された。

 うん。僕全然気にしてないよ……と俺の中の純情キッズボッチが笑った。


「おっと、千草走るぞ」

「はい」


 生徒会長と副会長がスカートをひるがえし、太刀を鳴らし、髪をなびかせて走り去った。

 うん。かわええ。綺麗。素敵。エロい。

 俺には味方がいるのだ。可愛い味方がいるのだ。

 彼女達がいてくれるならば学校中を、いや世界中を敵に回しても構わない。

 突き刺さる視線にも耐えられだろう。

 耳に入る陰口にも耐えられるだろう。

 無視や無言の圧力にも耐えられるだろう。




 やっと教室に入れた俺はクラスメイトの攻撃的な視線を無視して机に突っ伏した。

 スパイボッチモード……寝たふりだ。

 耳だけは澄ましているが俺の悪口以外聞こえてこない。


 一限目。

 俺は考えていた。

 テンドー君のあの余裕のことを。

 あのイケメン笑顔、絶対何か悪いことを企んでいる笑顔だ。

 ダンジョンに入れないくせに生意気だぞ。


 二限目。

 俺は考えていた。

 なんで俺はテンドー君みたいなイケメンに生まれなかったのだ。

 姉ちゃんと妹の見た目は可愛い。

 なんで俺だけ一重の糸目のボッチなんだよ。


 三限目

 俺は考えていた。

 昼休憩はまだか?

 腹減った。

 腹減った。

 もう腹減った以外のことは何も考えれない。


 四限目

 ……へった。


 昼休み。

 俺はダンジョンにいた。

 友達のいない俺は一人で昼飯を食う。

 人気の無い、誰もいない場所でこっそりひっそり食うのだ。

 これまでの俺のマイプレイスは教員駐車場の隅だった。

 だがそこはもはや安住の地ではない。

 全校生徒を敵に回した俺には、この学園に安住の地はないのだ。

 だから俺は新しいマイプレイスを見つけた。

 絶対に誰も来ない静かな場所……そうダンジョンだ。

 俺は一人の時間を満喫していた。

 ボッチのダンジョン……略してボンジョン。

 ここは静寂に包まれた孤独の楽園。

 誰もいない。敵もいない。誰にも見られない。陰口も悪口も言われない。

 ここはなんて最高の場所なんだろうか。


 腹ペコボッチの俺の昼食は一瞬で終わりスラッシュと戯れてから教室に戻った。




 教室に入った途端、皆の視線が俺に刺さる。

 俺は皆の悪意の視線を無視して机に突っ伏す。

 スパイボッチモード継続だ。

 午後からの授業は睡眠時間に当てた。




 放課後。

 俺はノックもせずにボッチらしく堂々と生徒会室に入った。


「遅かったなトーリ」

「あら、トーリ君、今日は絡まれなかった?」


 生徒会長と副会長が既に席に着いていた。


「……ええまあ」

「昨日はお疲れ様。ああ、そうそう忘れないうちに、今月末の新人戦にトーリ君をエントリーしておいたから」


 副会長が副会長らしいことを言って腕を組んだ。

 押し上がるお胸はちっとも副会長らしくありませんがね。

 ……え? いまなんつった?


「絶対優勝しろよ」


 生徒会長がケーキにフォークをぶっ刺してかぶりついた。


「会長。お行儀よく食べてください」

「いいへはあいか?」


 生徒会長がケーキを頬張りながら言った。


「こぼしてますよ」


 副会長が生徒会長の溢したケーキの破片を拭き取った。


 眼前で繰り広げられるこの女神のような光景とは裏腹に俺の頭の中ではクエスチョンマークが渦巻いていた。

 新人戦? なんだその不吉なワードは?

 新人ってまさかとは思いますが俺のことでしょうか?

 確かにボッチ界の期待のルーキーといえば俺のことだが?


「期待しているぞトーリよ」

「頑張ってねトーリ君」


 え? 新人戦出るの決定? いやいやいや無理無理無理。

 俺はボッチだぞ。そんな目立つ大会なんて絶対無理。

 目立たず空気がモットーの俺だぞ。


 そもそも何のために新人戦なんてあるんだよ。

 どうせイケメンがチヤホヤされる為の大会でしょ?

 リア充のためにリア充の大会だろ。

 ボッチの俺なんか不要っすよ。

 どうせ俺なんか出ても、こうなることが目に見えている……。


 おや? 次の選手……加賀坂選手の姿が見当たりませんね。

 まさか怖気づいたのでしょうか?

 試合開始前までに姿を現さなければ失格になってしまいます。

 まさか加賀坂選手は棄権でしょうか?

 加賀坂選手。緊張に耐えられなかったのでしょうか?


 解説者が俺の姿を見つけられなく困惑する。

 ブーイングの観客席。イキリマスク達が笑い転げている。

 いやいや、俺いるんですけど。俺さっきから試合会場にいるんですけど?

 だがしかし、試合会場の片隅で立つ空気的な存在感の俺に気付く者はいない。


 ――て、そんな新人戦なんか絶対出ねーかんな。

 トラウマをおって死ぬまで思い出し火傷しちゃうよ。

 そんな拷問に誰が出るかよ。


 寝坊して遅刻して出ないからな。

 どうせ登録用紙とかあるんだろ。

 そんなもの絶対に出さないからな。

 忘れちゃったことにして提出し忘れましたって作戦で逃げるからな。


「ちなみに去年の優勝者は私だ」


 生徒会長が威張った。威張った生徒会長。可愛い。

 えっと何歳? 高校生だよね?

 幼児の可愛さも併せ持つ生徒会長って最強じゃね?

 俺の沈んだテンションはその可愛さオーラにジュッと焼かれた。


「ちはみに私は準優勝」


 副会長が威張った。威張った副会長。可愛い。

 何歳? 高校生だよね?

 大人の可愛さを併せ持つ副会長って反則じゃね?


「え?」


 俺は素っ頓狂な声を出した。

 この二人が優勝と準優勝だって?

 そりゃ美少女選手権ならば、この二人ならば、ぶっちぎりの優勝間違いなしでしょう。

 顔良し、声よし、スタイルよし。お胸よし。メンタル霊よし。

 天は二物を与えたどころか、三物も四物も与えていらっしゃる。

 それに比べて俺はどうだ。

 俺は二人の顔を見て、胸を見て、背中の太刀を見てから自信を無くし下を向いた。

 ボッチしかない。

 いやここ最近はボッチすら失いかけている。

 ああ、でも俺にはボットモがいたんだった。

 元気を出すボッチ。

 心の中のイマジナリーフレンドが俺を慰める。

 ボッチ君は俺の闇が生み出したもう一人の俺だ。

 つまり、俺は自分で自分を慰め、自分で勝手に立ち直ることが可能なのだ。

 一人で自己完結した自己修復マインドエコシステムを保有しているのだ。


 俺の未来予想では俺は棄権扱いで一回戦敗退するはずだ。

 俺の空気のような存在感が仇となるのだ。

 前年優勝者の後輩が一回戦敗退ってどうなの?

 ダメだろ。あかんやろ。あり得ないだろう。

 生徒会長と副会長の可愛い顔に泥を塗りたくることになってしまう。

 泥を塗っても可愛いんだろうけど。ああ、いっそのこと、その泥になりたいな。

 ええい。そんなことはどうでもいい。

 どうしよう。どうすればいいんだ?


「まあ、そう難しく考えんでもよい。トーリなら優勝間違いなしだ」

「そうね。トーリ君ならクロミズサマの加護もあるし」

「え?」

「もっと自信を持つがよい」


 生徒会長が俺を励ます。

 プレッシャーが俺の肩を掴んで床に押し付ける。


「でもやり過ぎないようにね」


 副会長が釘を刺す。

 プレッシャーが俺の顔を掴んで床に叩きつける。


「……」


 生徒会長と副会長が大きな瞳で期待して俺を見る。

 眩しい。キラキラした綺麗な星が散りばめられた瞳が眩しい。

 でも無理だから。俺は無言で大きく首を横に振った。


「まあ、まだ時間はある。自信がなければ修行なり、鍛錬すればよい」

「はっ?」

「誰かおらんか? よい指導者は?」

「ひぃ?」

「そうねえ。とりあえず木曽三川の隊長に相談してみましょうか?」

「ふえ?」

「おお、それはいい考えだ」

「へぉ?」

「早速聞いてみましょう」

「えっ?」

「トーリよ。まずは修行して自信をつけるんだ」

「ええっ?」

「優勝はしなくでもいいが、蒼岩家の者には絶対負けるなよ」

「えええっ?」

「もしもし隊長さん? ええ。こんにちは。一つお願いがあって……」


 まてまてまて。 ウェイウェイウェーーイ。

 俺の思考よりも現実の進行のほうが早い。

 俺の冴えわたるボッチ脳が後手後手に回っている。

 考えろ。模索しろ。新人戦に出ない未来線を選択しろ。


 それになんだよ、修行って? バトル漫画かよ。

 俺はいつからバトル漫画の主役になったんだよ。

 俺なんかバトル漫画では一回しか登場しないアシスタントが描いた顔の違う完全に脇役のモブやられ役だ。

 そもそもボッチが主役になることなんてないんだからな。

 何故ならばボッチが主役ではストーリーが進まないからだ。

 ボッチは自分のことしか考えない、他人のために何もしないからな。

 困ってる人がいても助けない。無視する。

 会話もない。世界も救わない。

 自分のことも救えないのに他人なんて救えるはずがない。

 そして人生経験が少ないからセリフが浅い。

 そして何よりも頼りがいがない。

 そしてそして友達の居ないボッチの周囲ではトラブルが起きない。

 そもそも一人で生きているからトラブルなんかに巻き込まれない。


「ええ、困ってて、ええ誰かいないかしら?……」


 副会長はもう電話しちゃってる。

 ノーと断れ俺。

 ノーと言え俺。


「そう、じゃあ隊長さんじゃダメ?」

「それだ」


 生徒会長が新しいケーキの包装を取って舐めた。

 ああ、あの包装フィルムになりたい。


「あの隊長ならば指導者としての経験もあるし安心だ」


 生徒会長が遠い目をしてケーキを食べ始めた。

 ダメだ。断れる雰囲気ではない。


 新人戦ということは昨日の試験場に来ていた奴らが出場するのか。

 ということはイケメンパーティーも、ビースト勇者君も出てくる?

 俺がぶっ殺した奴らじゃん。

 俺が殺した奴らに、どんな顔して会えばいいんだよ。

 もう出場前からトラブルの予感しかしない。

 それよりも、修行なんかしないからな。

 三日坊主、三分坊主の俺が何かをやり遂げたことのない俺が修行なんて出来るかよ。

 そもそも後輩に色々教えるのは先輩の仕事だろうが、職務放棄すんなよ。

 先輩達が手取り、足取り、胸取り丁寧に教えてくれよ。

 ラッキースケベイベントの絶好機会なんだからさ。

 もしかしたら恋のフラグが立つかもしんねーだろーがーチキショー。

 断れ。木曽三川警護団の隊長。

 断れ。空気読んで今すぐ断れ。


「隊長が承諾してくれたわトーリ君。明日の朝から特訓開始だって」


 副会長がサムズアップした。

 綺麗な親指ですね。ああ、綺麗な爪。綺麗な笑顔。

 ああ、俺は副会長あなたの特訓が受けたいです。

 おっさんの特訓なんてごめんだぜ。

 しかもあいつら俺がぶっ殺した奴らじゃん。

 絶対仕返してくんじゃんかよ。


「……」

「では明日の朝六時にダンジョンに集合じゃあ」


 生徒会長が飛び跳ねた。

 お胸がバウンドした。

 背中の太刀が鳴った。


「え? 起きれますか? 会長」

「起こしてくれ」

「え? たまには自分で起きてくださいよ。何歳だと思っているんですか?」

「まあまあそう言うな」

「……」


 楽しそうにじゃれ合う美少女達を尻目に俺は不満オーラを噴出させた。

 今すぐ断れ俺。

 ノーと言え俺。

 嫌だと言え俺。

 新人戦なんて出ないって言え俺。

 木曽三川のおっさんの特訓なんて嫌だと言え。

 百歩、千歩譲って生徒会長と副会長に教えられたいって言え。


「……」


 ああ、そんなこと言える訳がない。

 ああ、そんな簡単に自分の意思を示せたらボッチなんてやってねーよ。

 断ることが出来たなら俺はランドセルの運び屋なんてやってねーよ。

 断れないからランドセルポーターになったんだろうが。

 人の本性は簡単には治せない。

 ああ、もうバカバカボッチのバカ。このバカボッチンが。

 黙ってたら何も伝わらないだろうが。

 人間は線で繋がってないんだから、言葉で意思疎通しないと伝わらないんだぞ。


「トーリ君。安心して。初日は付き合うから」

「そうだな。厳しく教えるように隊長に言わねば」


 二人の女神がほほ笑んだ。

 今なんつった? 付き合う? 付き合うって言った?

 その単語だけでも心が弾む。ときめく。

 ああ、付き合ってもらいましょう。

 タハハノハー。やったぞ。付き合うってさ。

 春が来た。これでボッチから卒業?

 いや待て、慌てるな。ぬか喜びするな。

 所詮初日だけの付き合いだ。

 そのあとはおっさんとの付き合いだ。


「……」


 俺は盛大に沈んだ。

 無理やり天国へテンションを引き上げたがその反動で落ちた。

 テンションマックスからのダウン。その落ち幅は断崖絶壁のように。

 お先真っ暗の意気消沈。ボッチ消沈。ボチンだった。


「さて腹ごしらえも済んだことだし、トーリよ。お前のイマジナリーウェポンを見せてくれ」


 生徒会長が立ち上がった。


「そうね。幻想武器はダンジョンでしか具現化しないから早速ダンジョンに行きましょうか」


 副会長が頬の横で手を合わせた。


「え?」


 え? やっぱ見せなきゃだめ?


「やはり刀か?」

「クロミズサマの眷属ならばそうなるでしょう」

「……」


 二人は楽しそうに生徒会室を出た。


 残念ながら俺のイマジナリーウェポンは刀ではない。

 大魔王の全絶滅剣と全殲滅剣を引いた。

 俺はその二振りの剣に阿形と吽形と勝手に名前を付けた。

 阿形と吽形。なんだっけ? 狛犬の名前だっけ?




 ダンジョン部へ行く廊下。

 俺は悩んでいた。

 俺のイマジナリーウェポンを見せもいいのだろうか?

 いや、ダメだろう。一振りでダンジョンを切り裂く危険な代物だぞ。

 あんなダークで禍々しいメンタル霊を噴出する武器を、おいそれと簡単に自慢げに見せていいはずがない。

 ゴブリンなんて見ただけで気絶しちゃったんだぞ?

 いや、待てよ。生徒会長と副会長が俺のイマジナリーウェポンを見て気絶してしまったらどうする?

 ありだ。

 いいね。早速倒れた二人を介抱しないと。

 まずはその苦しそうなお胸を助けてあげないと。

 だがそんな簡単にことは進まない。

 どうせ副会長が途中で目を覚まし俺のラッキースケベイベントを阻止するに決まっているのだ。

 そして俺は変態痴漢猥褻犯罪者呼ばわりされ、退部になって暗く惨めなボッチ人生を歩むのだ。

 ダメだ。ダメだ。見せられない。

 どうすんの俺? ピンチ到来。ボッチのピンチ。ボッピンチじゃねーか。

 霊トレーサーのライセンスのように見せずに無言で誤魔化すか?

 俺のイマジナリーウェポンを見た生徒会長と副会長は褒めてくれるだろうか?

 それとも軽蔑した冷たい目で見られるのか?

 くっそ。どっちもご褒美じゃねーか。

 ああ、今すぐ隕石とか落ちてこないかな?

 ダンジョンに入るまでに妙案を見つけろ。




 俺達はダンジョン部の扉からダンジョンに入った。

 ダメだ。全然思いつかなかった。

 まだ諦めるのは早い。ボス部屋に入るまでに妙案を思いつけ。




 俺達はボス部屋に入った。

 ダメだ。全く思いつかなかった。

 誰が助けてくれ。

 誰もいいから俺のピンチを救ってくれ。

 このままでは俺の性癖が白日の下にさらけ出されてしますのだ。

 おお、ボッチの神よ。哀れなボッチをお救いください。

 キッズ助けたでしょ。そのお礼になんとかしてよ。

 ――とその時。


「遅かったな」


 そこには先客がいた。

 天がボッチの懇願を聞いてくださったのか?

 天の助けだ。

 テン……


「天道?」

「天道君?」


 テンドー君がいた。

 今朝会ったばかりだというのに、またこいつだよ。

 まあ、なんにしろ助かった。

 これで俺のイマジナリーウェポンの件は棚上げ確定だ。

 ん? 何でここにテンドー君が?

 それに何だか様子がおかしい。

 いつもより暗い。今朝会った時よりもはるかに暗い。

 つか黒い。イケメンなのに黒い。まるでブラックテンドー君だ。

 黒いオーラを身にまとったテンドー君だ。

 そうテンドー君は邪悪なメンタル霊を発していた。

 そしてその手にはこれまた禍々しい剣があった。

 何だ? あの剣は? あれがテンドー君のイマジナリーウェポン?

 まるで俺の阿形と吽形のような禍々しさを醸し出している。

 ん?

 なんで霊トレーサーの資格がないテンドー君がイマジナリーウェポンを持っている?

 なんで霊トレーサーの資格がないテンドー君がダンジョンにいるんだ?

 背中には重そうな霊キャスターはない。

 どうなっている? まさか単独で自力でダンジョンに入れたのか?

 先日まで霊キャスターがないと入れなかったのに何故?


「天道。お前!」


 生徒会長が怒鳴った。

 怒った声初めて聴いた。

 カッコいい可愛い。


「天道君。その剣は?」


 副会長も怒鳴った。


「家宝の黒薙の剣」

「トーリ君下がって」


 生徒会長と副会長が俺を守るように立つ。


「クックックッ。アーハッハッハー」


 テンドー君が両手を広げポーズを決め笑った。

 くっそ。格好いい。役者のようなそのポーズ。

 イケメンは何をしても絵になる。

 それに引き換え俺はどうだ?

 俺がテンドー君と同じポーズをしてもホワイと叫ぶ情けないヒョロガリボッチにしか見えないだろう。


「天道君。何を考えているの?」


 副会長が睨む。


「どけ。お前らには用はない。用があるのはそいつだ。さあ俺の加護を返してもらおう」


 テンドー君が剣を俺に向けた。

 何を言っている? 加護を返すだと?

 どの加護だ? クロミズか? 黒牛守か? キンミズか? キリヒメサマか?

 だがお前に返す加護など一つたりともないぞ。

 俺が生まれながらに所持しているボッチの加護ならば喜んで贈呈しよう。

 ついでにランドセルポーターの加護をおまけしよう。

 ついでに噛んじゃう加護も与えよう。

 ええい大盤振る舞いだ。全部持ってけ、ちくしょう。


「……」


 俺は糸目のボッチアイを見開いた。


「天道。止めておけ。またトーリに殺されたいのか?」

「それはどうかな?」


 テンドー君の身体を何かが覆った。


「なんということを……」

「天道君。あなた何をしているか分かっているの?」

「!」


 それは半透明でゼリー状の物体。。


「くっくっくっ」


 テンドー君が笑った。


「天道よ。クロミズサマの御神体をその身に宿したのか?」


 生徒会長が拳を振り上げた。


「ああ、食った」


 テンドー君が目を閉じた。


「なんてことを。適正がない貴方がそんなことしたら身体が持たないわ」

「そんなのは加護を手に入れればどうとでもなる」


 副会長に笑いかけるテンドー君。


「だが魂に深刻なダメージを受けるぞ」

「テンドー君やめなさい」

「……」


 御神体を食っただと?

 そもそもクロミズに御神体なんてあったけ?

 なに? その設定――聞いてない。

 御神体食べればダンジョンに入れるなんて聞いてない。

 御神体食べたら罰当たるでしょ。

 そんな簡単に加護を得られるのだろうか?

 扉に挟んで卑怯な手段で殺した俺にも加護が与えられたのだ。

 御神体の設定のほうが俺の加護よりも説得力がある。


 ――あれは間違いない。半透明で黒濁したその見ためはクロミズのボット細胞だ。


「返して貰うぞ」


 テンドー君が消えた。

 その瞬間、俺の目の前にいた。

 速すぎる。

 なんだ? この動きは?

 身体強化の加護を使ったみたいな動きだ。


「トーリ」

「逃げて」


 生徒会長と副会長が叫ぶ。


「もう遅い」


 テンドー君が剣を振り上げた。

 だが俺には貫通無効の加護がある。

 無敵の加護があるのだ。

 こんな攻撃で俺に傷が付けられると思うな?

 ヤオロズ同士の攻撃は通る。

 まさかテンドー君の攻撃も俺に効いちゃう?

 念のためだ。念のため逃げろ俺。今すぐ逃げろ。

 だが身体が動かない。

 足が床に張り付いたように動かない。

 手は空中に固定されたように動かない。

 どうした? 俺の身体よ。

 身体強化の加護があるに動けないなんておかしい。

 よく見ると俺の足に絡む細い半透明の糸。

 俺の腕に絡まる半透明の糸。

 これはまさか? ボット細胞?

 俺はボット細胞で拘束されている?


「クロミズの加護の使い方を知らないお前と知っている俺。どちらがふさわしいと思う?」


 テンドー君の剣が……。


「ぐふえっ」


 俺の腹に突き刺さった。

 激痛が俺を襲う。

 加護が効いていない?

 やはりテンドー君は俺と同等かそれ以上?

 体中から力が抜けていく。

 俺の中から何かが消えていく。

 大切な何かが消えていく。

 何をした? 何をされた?


「返してもらったぞ。クロミズの加護」


 え? なんてった?

 俺の身体から何かがごそっと抜け落ちた。

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