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47 ボッチ候補生を救え

 突然ですが、俺には嫌いなものが三つあります。

 それはイケメン。リア充。キッズです。

 キッズが嫌いというと性格が悪いとか思われるかもしれませんが、その通りです。

 俺の性格は螺旋状にねじ曲がっている。

 さらに被害妄想過多で嫉妬深く、恨み深い。

 それに俺は簡単に人を無視するからな。タハハノハー。


 だが問題ない。

 いくら俺の好感度が爆下がりしようとも俺の好感度は既に無きに等しい。

 下がりすぎて地面の奥底のマグマ溜りまで到達しているのだ。

 今さら嫌われようが、なんて思われても構わない。

 だから声を大にして何度でも言おう。

 俺はキッズが嫌いです。


 寝坊した俺は今、そのキッズの集団登校の激流に翻弄されながら歩いていた。

 なんとこの道はキッズの占有道路――通学路だったのだ。

 ああ、うざい。オラオラお前ら前見て歩け。横に広がるな。二列で進め。

 俺は右に左に万歳しながらキッズを避ける。

 つかなんでさっきから俺が避けているんだよ。

 お前ら格下が避けろよ。俺は年長者だぞ。

 爺ちゃんの教えでは年長者の言うことは絶対なんだぞ。

 俺はお前らの何個上だ? ああん? と俺は心の中で小学生相手にイキッてみせた。

 だが小学生は友達同士で喋るのに夢中で全く俺に気付いていない。

 くっそ。こんなところで俺の存在感の希薄さが仇となったか?

 キッズ達には俺の軽薄な空気みたいな姿が見えていないに違いない。


 ああ、話を戻そう。俺がキッズを嫌いな原因を聞きたいんだったな?

 それは俺のキッズ時代を悲惨なロンリー過去を思い出させるからだ。

 来る日も来る日もランドセルを運ばされた屈辱のポーターの日々。

 思い出すだけでも涙が溢れる。

 無邪気なキッズ達の声が、俺の辛い過去を呼び起こす。

 楽しそうな笑い声は俺を嘲笑する声。

 デカい声は俺に速く歩けと急かす声。

 キッズの存在が、そのランドセルが俺の辛い過去をほじくり返して整地して、銅像ま

で立てるのだ。

 ――以上が俺がキッズのことを嫌いな理由です。

 理由を聞けば納得していただけただろう。

 悪いのは俺じゃない。

 悪いのキッズ。

 悪いの学校。

 悪いの教育委員会。

 悪いの大人と政治。

 悪いのはこの世界。

 俺は被害者なのだ。

 ボッチPTSD発症中なのだ。


「……はああ」


 他人のせいにしてもぜんぜんスッキリしない。

 俺はストレス粒子が混じった溜息を吐いた。

 ああ、憂鬱だ。

 ああ、死にたい。

 ああ、今すぐダンジョンがあったら入りたい。

 通学路を避けて、道を変えればいいって?

 何で俺がキッズの為に道を変えなければならないのだ?

 キッズが道を変えろよ。

 ここは俺様の通る道だぞ。

 子供相手に情けないだと?

 じゃあ大人だったらいいのか?

 それ差別だからな。ジェネレーションハラスメントだからな。

 俺が憂鬱の部屋に閉じこもっていると、それを吹き飛ばすような衝撃的な光景が俺の視界に飛び込んできた。

 眠そうな顔で交通安全の黄色い旗を振る交通誘導員のママのグラマラスボディだ。

 PTAと書かれた襷が胸元で山なりに弾んでいる。

 俺は卑猥な目でそのグラマラスママの胸を、いや襷を凝視する。

 最近のママはいろいろ部分が凄いな。朝から完璧メークだ。

 俺は決して卑猥な目で見ているのではないぞ。

 俺は不自然な曲線を描く襷を観察しているのだ。

 グラマラスママが俺の卑猥な視線に気付いたのか、不審者を見る目で俺を見た。

 だがその時、既に俺の視線は交差点の彼方を見つめていた。

 ボッチ忍法……メソラシの術だ。

 危うく、新妻を凝視している不審者として通報されるところだった。


「?」


 と、俺が遠くを見つめる視点の先で大型トラックが猛スピードで突っ込んで来た。

 しかも赤信号だというのにブレーキを踏む気配がない。

 なんと運転手はスマホに夢中だ。

 おいおいおい、キッズの集団がいるんだぞ、正気か?

 幸いにもキッズの集団は横断歩道を既に渡り切った後だ……。

 良かった。目の前で人身事故なんて見たくない。

 いや、待て。女の子が一人、集団登校の集団から遅れて横断歩道を渡っている。

 女の子は下を向き、周りなんて見ていない。

 あれは将来有望なボッチ候補生だ。

 大型トラックは横断歩道を歩くボッチ候補生に気付いていない。

 俺の冴えわたるボッチ脳が未来予測演算を瞬時に行った。

 このままでは危ないボッチ。

 あのボッチ候補生の女の子は大型トラックに轢かれて異世界に転生してしまう。

 失わせはしない。貴重なボッチ種を。

 守ってみせる。栄光あるボッチ種を。

 光り輝く前途多難な孤高の未来をこんなところで終わらせたりはしない。

 あの子には孤独で不快なボッチの寂しい暗いソロ街道を歩んで欲しい。


 だが、どうする? 俺が人助けなんて出来るのか?

 間に合うのか? 加護を使えば間に合うかも?

 だが、加護を使ったことが目撃されたらどうなる?

 俺は珍獣として研究所送りになってしまうかもしれない。

 とかなんとか考えている余裕はない。

 ええい、冗談抜きで危ない。ヤバイ。ボバイ。

 見られたって構わない。ボッチ種の人命が最優先。


「ヒトキレボッチモード」


 俺はクロミズの加護をまとった。

 俺の加護が現実でも効くのはこの瞬間の為なのかもしれない。

 俺は無我夢中で飛び出した。

 その加速は陸上選手よりも速かっただろう。

 インターハイ優勝間違いなしだっただろう。

 異世界だったら二つ名が付けられていただろう。

 ボッチの黒い風。ブラックボッチストームと。

 景色がゆがむ。風圧の奏でる轟音が耳を打つ。

 間に合え!

 俺は一瞬で女の子の横断歩道まで到達する。

 だが止まれない。

 アスファルトを蹴りつけ減速する。

 だがそれでも止まらない。

 俺はボット細胞をアスファルトに撃ち込み、それを支柱にして減速する。

 そして横断歩道を歩く女の子の脇の下を抱えた。


「きゃ」


 女の子が悲鳴を上げるが俺はボッチらしく無視して、そのまま横断歩道を渡り切る。

 助けたぞ。やったぞ。救ったぞ。ボッチ候補生の栄えある未来を守ったぞ。


「……」


 俺の目の前には例の破廉恥グラマラスママが立っていた。


「ちょ、あなた! いきなり、どこから?」


 グラマラスママが叫んだ。

 一難去ってまた一難。くそ、勢い余ってその襷に顔を埋めれば良かった。


「何してるの! 誰か、誘拐犯よ。だ、誰かー!」

「……」


 え? 今なんつった?

 誘拐犯だと? 俺、今良いことしたよね? キッズの命救ったよね?

 俺は女の子を抱きかかえたまま、あまりの誹謗中傷で放心状態に陥った。


「誰かー不審者よ。誘拐犯よ」

「……」


 俺は固まってしまった。

 俺は否定も肯定もすることなく、心なしか良い匂いがする女の子を抱きかかえたまま立ち尽くしていた。


「今すぐその子を下ろしなさい」


 交通誘導員のグラマラスママが通報しようとスマホを取り出した。

 いや、これには深い訳があるんですよ。

 昨日の試験でハッスルしちゃった俺は寝過ごして、キッズの群れに遭遇して……。

 大型トラックが来たから助けただけで、俺はロリコンじゃないよ……と心の中で必死に言い訳した。

 言い訳って何だよ。助けたのは事実だろ。堂々としろよ。

 俺は女の子を大型トラックから救った。

 しかし当の大型トラックはまだ来ない。

 このままでは俺が誘拐犯だ。

 早く来てくれ大型トラック。

 俺の無実を、俺の心温まる救助活動を証明してくれ。


「誰かー」


 グラマラスママが大声で呼んだ。

 その瞬間。俺の後ろを大型トラックが猛スピードで走り去る。

 強風が女の子の髪を揺らす。

 間に合った。助かった。俺の潔白が証明されたぞ。


「え?」

「……」


 そして信号無視した大型トラックは横断歩道を過ぎてから急ブレーキをかけた。

 派手なスキーム音が鳴り響く。

 ええい。あの速度では止まらない。

 俺はボット細胞を細く、蜘蛛の糸の様に延ばし発射して大型トラックの後部を掴んだ。

 そして力任せに引っ張った。

 勿論、この技はタイツマンインスパイア系だ。麺が違うが味は一緒のはずだ。

 更に俺にはクロミズ以外にミノタウロスの黒牛守の加護もある。

 つまりパワー系ボッチ。

 俺はボット細胞を引っ張って大型トラックを減速させる。

 止まれ。

 この子達の前で人身事故など見せてたくない。

 数秒後、二柱の加護のおかげで大型トラックをなんとか停止させることに成功した。

 その直後、横から突っ込んで来た別の大型トラックと衝突し、轟音を鳴らした。

 おっと、もう一台突っ込んで来るとは失念していた。


「……」


 色っぽい分厚い唇を開けたまま立ち尽くすグラマラスママ。

 他の小学生達も茫然としている。


「黒いお兄ちゃん助けてくれてありがとう。もう下ろしてくれないかな? 恥ずかしいから」


 俺が抱えたままだった女の子が俺に笑顔を向けた。


「……」


 俺は女の子を名残惜しそうに下ろした。


「下向いて歩いてたマイムが悪いの。これからはちゃんと列から遅れないように前見て、みんなと一緒に歩くね。ミクリーンちゃんのママには私から説明してお兄ちゃんの身の潔白を証明しておくから安心してね。お兄ちゃんは誘拐犯じゃなくて命の恩人だって。ああ、それからお兄ちゃんの連絡先を教えて、後でママとお礼に行くから、おいしいケーキ屋さんのケーキ持って行くからね。黒いお兄ちゃんは私の命の恩人だから」


 ……と頭をペコリと下げた。

 今、滅茶苦茶流暢に喋ったぞ。

 なんだ? このキッズ。ボッチ候補生どころか、リア充候補生じゃないか。

 しかもこれはエリート種。リア充の中のリア充。エリートリア充じゃねーか。

 チッ。助けて損した……いや損はしてないか。

 なんだよお礼って、俺はこんな胸も膨らんでいないロリに興味はない。


「……いや別にいい」


 俺はそう言い残し踵を返した。


「あ、待ってよ」


 待てと言われて待つ不審者がいるか? いやいない。

 交通誘導員のグラマラスママは大型トラックの事故を眺めて固まったままだ。

 他の小学生達はスマホを取り出し、写真を、動画を撮り始めた。

 どうやら生配信するらしい。流石ネット動画世代。

 だが事故を生配信なんてするのはよくないなあ。

 なんでもエンタメ化した動画配信者のせいだぞ。

 幸いなことに事故った運転手は無事らしい。

 大型トラックから降りて不思議そうに首を傾げている。

 あの速度で正面衝突したわりには軽傷過ぎるからだ。


 オラが止めなかったら死んでっぞ。おめーら。

 運転中にスマホなんて見ていた運転手には一度痛い目に会ってほしいのだが、それをするのは俺の仕事ではない。

 野次馬が集まってきた。


「……」


 誰も不審なボッチを見ていない。

 皆、大型トラックに注目している。

 今じゃ。今しかない。

 逃げろ。俺は黙ってその場からドロンすることにした。


「ちょっとあなた」


 後ろで俺を呼び止めるグラマラスママの声がする。

 だがそんなの無視だ。

 それに痴漢したら逃げるのが日本男児だ。

 いや、俺は痴漢してないけど、このままだと俺は痴漢冤罪で逮捕なのだ。

 これがイケメンだったら逃げなくても済んだだろう。

 だが残念なことに俺は目つきの悪いヒョロガリボッチの不審者なのだ。

 俺の言うことなど誰も信じないだろう。

 従って逃げるしかあるまい。

 この世は見た目が千パーセントなのだ。

 ヒョロガリボッチには世知辛い世の中なのだ。

 俺はボッチエアーにサイレントエアーを重ね掛けして存在感を消して走り去った。


「ありがとう。黒いお兄ちゃん。今度お礼に行くからねー」


 俺の背後で女の子の叫ぶ声がした。

 ふん、お礼? 馬鹿め。どうやって俺の家まで来るというのかね?

 俺はヒョロガリボッチの正体不明の不審者なんだぞ。

 連絡先も名前も名乗ってないのだ。

 お嬢さん。こんな俺に関わっちゃいけねえな。

 まっとうな道を歩みなよ。あばよ。タハハノハー。


 俺は走った。男子高校生が走れる速度で平和的に自然に走った。

 曲がり角を曲がり、電柱の陰から背後の様子を伺う。

 ……誰も追いかけてこない。

 危なかった。不審者で捕まるところだったぜ。

 何で良いことしたのに逃げる必要があるんだよ。

 イケメン死ねよ。リア充死ねよ。

 俺は怒りの矛先をイケメンリア充にぶつけて心を静めた。

 それにしても助かって良かった。

 そういえばあの子、黒いお兄ちゃんって読んだけど、それ誰の事?

 俺は心の真っ白なピュアな純情ボーイなんだよ。

 黒くないよ。クロミズの眷属だから黒いけど。

 そりゃあ心の中では何人か殺しているから黒いかもしれない。


 だが何でバレた? 恐ろしい。末恐ろしい。

 まさか鑑定スキルでも持っているのか?

 だがもう安全、安心だ。快適だ。

 あの子とは二度と会うことはないのだ。


 寝坊しなかったら、俺はあそこに居合わせなかった。

 あの子は大型トラックに轢かれていたのかもしれない。

 寝坊して良かった。

 キッズは嫌いだが、死んでほしい程嫌いではない。

 クラスのイケメン君とかは死ねばいいと思うぐらい嫌いだけどな。


 ボッチの神様、俺は今日、善行を一つ行いました。

 だからラッキースケベを一つ俺にお与えてください。

 世の中は等価交換なのです。

 俺の善行を、あの子の命を救った俺に愛の手を、救済を。

 登校途中の女子のスカートを神風でふわっとやっちゃってください。


「……」


 他校の女子生徒が俺の目線に気付き、ゴミを見るような目で一瞥した。

 今ですよボッチの神様。


「……」


 だがボッチの神は俺の願いを聞き遂げることはなかった。




 数分後、なんとか遅刻せずに学校に潜り込んだ俺は、廊下を静かに目だないように歩く。

 こっそりしっとり歩くのがボッチの人生の歩き方。

 誰にも気付かれない。見られない。忍法ボッチ競歩だ。

 だが今日はなんという厄日なのか、授業開始前の廊下はタイムセールのスーパー並みに混雑していた。

 あーやだやだ人混み――あれ? ヒトゴミっていい言葉じゃね?

 おう。ゴミ共、どきやがれ。ボッチ様のお通りだぞ。

 だが誰も避けようともしない。

 誰も俺なんか見ておらず、お喋りに夢中だ。

 それなのに見られていると感じるのは何故だとうか?

 俺を笑っているように見えるのは何故だろう?

 みんなが俺の悪口を言っているように見える。

 気のせいだ。そんなのただの俺の被害妄想に過ぎないのだ。


「あいつじゃない?」

「先輩に逆らった屑って」

「ああ、あいつだ」

「あのキモい奴」

「生徒会長が探していたらしいぜ」

「何したんだ?」

「盗撮だって噂だ」

「渡り廊下でスマホかざしてたってさ」

「うわあ、きもい」

「しねよ」

「……」


 気のせいでも被害妄想でもなかった。

 絶賛みんなで俺の陰口、悪口を合唱していた。

 死ねとか立派な殺害予告だからね。

 酷いよ。俺が何したんだよ。ボッチ候補生の命を救ったんだよ?

 これだから人間は嫌いだ。先入観だけで人を判断する。

 キモいというレッテルを張り付け罵倒する。

 リア充死ねよ。俺はこいつらにリア充というレッテルを張って心の中で罵倒する。

 俺は突き刺さる視線から逃げるように教室に向かった。


「うっ」


 なんということだろうか。

 教室の前にも人だかりが出来ていた。

 他のクラスの奴らだろうか、うちのクラスの奴だろうか?

 その区別は俺につかない。

 何故ならクラスメイトの顔なんて覚えてないからだ。

 四月だというのに転校生だろうか?

 金髪巨乳の転校生でも来るのだろうか?

 ええい、そんなことよりどうすればいいんだ。

 ボッチの俺に、すいませんとか、通してくださいとか言える訳がない。

 だから俺は一歩進んで二歩下がるのを繰り返していた。

 完全に不審者だ。街で見かけられたら通報されちゃうだろう。

 ああ、ボッチの神様。自分の教室に入れない哀れな子羊をお救いください。

 ふえええん。このままでは教室に入れないよう。

 遅刻しちゃうよおお。遅刻したら目立っちゃうよお。

 目立ってはダメだ。目立っちゃダメだ。

 じゃあ、もう逃げよう。

 今日は気分が乗らない。帰ろう。


 とその時、人混みが割れてマスクを付けた上級生達が現れた。


「いたぞおおおおぉ。あすこだあああぁ」

「おいこらああああぁあぁ。てめええぇ」

「おせーぞおおおおおおぉ。てめええぇ」

「ぜってえぇゆるさねえええからなあぁ」

「学校にいられなくしてやんよおおおぉ」

「おらあぁびびってんじゃねえぞおおぉ」


 上級生が首を曲げてガニマタで出てきた。


「……」


 ああ、このあ行の多い頭の悪そうな漫画見過ぎの古臭い恫喝セリフのオンパレード。

 以前の俺ならば、恐怖で慌てふためき失禁失神コースまっしぐらだったはずだ。

 だが今の俺はそんな脅しに屈するようなひ弱なボッチではない。

 無敵の加護を得た虎の威を借るパワー系タフガイボッチなのだ。

 そんな恫喝でビビるのはお前らぐらいなものだ。


「……」


 俺は切れ長のボッチアイを更に細めて上級生達を睨んだ。


「「「「てめえええ、しねえええええ」」」」


 上級生達が拳を振り回しながら向かって来た。

 え? 暴力に訴えるのよくない。

 話し合いで解決しよう。

 ああ、でもコミュ障の俺には話し合いなんて無理な相談だ。

 ここは暴力には暴力で対抗するしかないのか?

 いや、マテマテ。

 俺は天井に光る監視カメラをチラ見する。

 この学校には生徒会長が導入した監視カメラが設置されている。

 この状況下も絶賛録画中だ。

 また過剰防衛でこいつらボコってしまう。

 そうしたらいくら俺が正当防衛だと言っても誰も信じないだろう。

 俺が犯人扱いされて退学になってしまう。

 退学になったら先輩達との至近距離学園生活がおくれない。

 そんなのダメだ。

 耐えるんだボッチよ。

 ボッチ君が久々にアドバイスをくれた。

 そうだ耐えろ。暴力は何も生まないのだ。

 先日の俺の過剰防衛がこの状況を生んだのだ。

 少しぐらい殴られても無敵の加護があるから怪我なんてしない。

 だが制服が汚れる。制服が汚れると家族に余計な心配をかけてしまう。

 ああ、どうすればいいんだ。


「待ちなさい」


 生徒達が割れ、向こうから朝日を後光の様に受け、颯爽と登場する女神……副会長。

 その細い髪が金色に光り輝き、皆が息を飲んだ。

 野次馬も上級生達も言葉を失った。

 この学校中の美がここに集結し、他の美少女が微少女扱いになってしまったに違いない。

 それ程までに副会長は美しく気高く、圧倒的な気品溢れるオーラを発していた。


「これは何の騒ぎかしら?」


 副会長が大きな目を細めてゴミ共を一瞥した。

 上級生達が振り上げた拳を下した。

 ああ、その目で俺も見られたい。

 その細い足で踏まれたいと思った男子高校生、挙手。

 俺は心の中の手を勢いよく挙げた。

 あの目に逆らえる男子高校生がいるだろうか?

 いやいない。


「いや、これは、こいつがその?」


 上級生達が、あたふたと、しどろもどろに気まずそうに下を向いた。


「お前達。生徒会の者に何の用だ?」


 朝日を受けて細い髪が光り輝いている。

 女神以外に言葉が見つからない。

 眩しい。そのお胸の膨らみが俺の心を乱す。

 その美しさが、グラマラスボディのママの記憶を上書きする。

 ああ、すいません。決して目移りした訳ではないのですよ。

 お胸といったら生徒会長。

 その黄金曲線に敵う者は存在しません。

 いや、ちょっとだけ目移りしたのは認めます。

 でも今は違います。生徒会長の上半身に首ったけです。

 何度見ても飽きない。何度見ても美しい。瞬きするのも惜しい。

 この世の全ての黄金比がそこに集結し、世界中の黄金比が少しだけ歪んだに違いない。

 世界中の美の聖霊達がここに集結し、祝福の賛歌をあげているに違いない。

 生徒会長が降臨した。


「何の用だと聞いている?」


 生徒会長が上級生達を睨んだ。

 その長い睫毛の大きな目で睨んだ。

 ずるいぞ。お前らチェンジだ。攻守交替だ。

 俺もあんな目で罵られたい。罵倒されたい。

 怒ってるのに可愛いってどうなってんだよ。


「俺達は……生徒会の人間ではなく、こ、こいつに用があるだけだ」


 上級生の一人が俺を指さした。


「だから生徒会の者に何の用だと聞いている」


 生徒会長が腕を組んだ。

 お胸のボリュームが圧迫され、制服が歪む。


「え?」

「は?」

「はい?」


 上級生達が顔を見合わす。


「その生徒は生徒会執行部の者よ。何か用があるならば私達が聞きましょう」


 副会長が腕を組んだ。

 お胸のボリュームが圧迫され苦しそうに制服を揺らした。


「なんだと?」

「こいつが生徒会?」

「そんな馬鹿な」

「えええええええ」

「はあああああ」


 そう叫んだのは上級生達ではない。

 周囲の野次馬達だ。

 なんだその反応は? 俺が生徒会執行部の人間で悪かったな?

 しかも俺は生徒会長が選んだ特別執行部員なのだ。

 底辺ボッチの俺がいきなりカーストを駆け上り、お前らより格上の存在へと繰り上がったのだ。

 平伏せ、ド平民共め。俺に手を出すと生徒会長が出てくるぞ。

 俺のバックには巨乳生徒会が控えてんだ。気を付けて歩けよ。

 廊下ですれ違う時はお前らが道を開けろ。

 これまではお前らが横に広がって歩くから、俺が廊下の端を歩いていた。

 だがこれからは違う。お前らが端を歩け――と俺は心の中でイキった。


「朝から何をしている?」


 上級生達の向こう側から颯爽と長身のイケメン生徒が現れた。

 上級生達が二手に分かれ、頭を下げた。

 野次馬女子の目がハート型になり、とろけるような恍惚の表情を浮かべ、キャーキャー言いながら飛び跳ねた。


「天道……何の用だ?」

「天道君?」


 生徒会長と副会長が嫌悪感をあらわにした。


 そうイケメンで金持ちで、リア充であり、俺の生徒会入りを阻み、上級生達を差し向け、さらに俺を車道に突き飛ばし、さらにさらに暗殺者を雇って俺をぶっ殺そうとした俺の宿命のライバル……テンドー君が現れた。

お読みいただきありがとうございました。

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