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46 ボッチを殺した暗殺者

「いたたた、タハハ。いやーまいったよぉ。突然ダンジョンが燃えて俺も燃えて死んじゃったよ。タハハッハー」


 目の前の男が俺を見て一瞬ギョッとしてから作り笑顔で手を振った。

 なんだ? こいつ? 今明らかに目を逸らしたよね?


「いやー君も復活部屋にいるってことは、僕と同時に死んだのかな?奇遇だね。ああ、僕は山口。こう見えても加護持ちのA級霊トレーサーなんだよ。参ったか。タハハッハー」

「……」


 奇遇だと? 何を寝ぼけたことを言っているんだ。

 見た目はボッチ、中身もボッチの名探偵ボッチの俺の目は誤魔化されないぞ。

 俺は現実でも加護が効いている。

 従って現実でもイマジナリーウェポンを見ることが出来る。

 お前の背にある弓矢……それは俺を射った矢に間違いない。

 犯人はお前だ。俺は心の中で指をさした。

 マテマテウェイウェイ今なんつった? 加護持ちのA級霊トレーサーだと?

 だがその頼りない姿からは暗殺者の雰囲気もオーラもない。

 ただのチャラい大学生にしか見えない。

 木曽三川警護団のチャオ君に匹敵するチャラ男だ。


 誰だよ。こんな奴に加護与えたのはどこのヤオロズだよ。

 まあ、こんなねじ曲がったボッチの俺でも加護が得られるぐらいだからな。

 こいつはヤオロズ……チャラオサマの眷属か?

 それとも変な笑いのタハハノサマの眷属か?

 ええい、そんなことはどうでもいい。

 そんな脇道思考をしているうちに頭痛が収まってきた。


「……」


 俺は冷ややかなボッチアイで暗殺者山口を一瞥した。

 こいつ、死亡時のグロッキー状態のはずだが顔立ちは整っている。

 つまりイケメンだ。

 なんで俺の周りにはイケメンばかりのイケメンパラダイスなのだろうか?

 もうボッチパラダイスの設立を真面目に検討したほうがいいのかもしれない。


「……」


 俺は強烈なボッチアイで睨んだ。

 恨みと妬みと嫉妬を上乗せして睨んだ。

 細い糸目からは呪怨オーラが噴出しただろう。

 こいつは俺の仇なのだ。

 自分の仇ってなんだか変な感じだが俺の仇だ。


「……いやーほんとダンジョンで死ぬとキツいよねえ。ああ、頭いたい。二日酔いを十倍にした感じだよ全く。二度とダンジョンなんて潜らないぞって思うんだけどね。タハハッハー。君は初めて死んだのかな? そりゃきついよ。僕なんか初めて死んだ時は三日三晩寝込んだから君は凄いね。タハハッハー」


 暗殺者山口は誤魔化す様に喋りまくる。

 口数が多い奴は後ろめたいことがある奴だと、口数の多い爺ちゃんが言っていた。

 それにしてもこいつさっきから俺のボッチアイが効いてない?

 まさか? ボッチ無効の加護持ちか?


「……」


 勿論、当然の如く、俺はボッチらしくダンマリを決め込む。

 これは最高レベルの攻撃的ダンマリだ。

 目から殺意がビームとなって出ちゃう程の殺意を乗せた最上級ダンマリだ。

 こいつどうしてやろうか?

 勇者に勝利し、有頂天状態の油断大敵のボッチを卑怯にも遠距離から、飛び道具で、矢で俺を殺したのだ。

 幸いにも現実でも俺は加護がある。

 このままボコるか?

 いや待て、ここは試験会場なのだ。誰がどこで見ているかも分からないのだ。

 耐えろ。ボッチ忍法……ヤセガマンを発動して怒りを拡散させろ。


「……」


 俺は麗しの生徒会長の胸元の引っ張られた布のシワを思い出し怒りを静めた。

 少しだけ胸がボチボチして怒りが薄まった。

 そういえば勇者は? 俺がぶっ殺した勇者もダンジョンから強制退出して、ここにいるはずだが姿が見えない。


「……」


 俺は辺りを不審げにキョロキョロと見回した。


「ああ、パーティーメンバーを探しているのかい? ダンジョンから死んだ者達は指定の復活部屋で復活する。ここ以外にも沢山あるから別の場所で目覚めているのかもしれないな。タハハッハー」


 こいつ鋭い。俺の考えていることを読んだ。

 もしかして俺がお前を疑っていることも知っているだろうか?

 それをおくびにも出さずにしゃべり続けるとはいい度胸だ。


「通常だとダンジョンで死亡すると二度とダンジョンに入れなくなる。だから一度ここで死んで耐性をつけるのが試験の目的なんだよ。まあ予防接種みたいなもなんだよ。タハハッハー」


 暗殺者山口は聞いてもいなのに勝手に説明を続ける。


「他の皆よりも遅れて死んだ君は結構いいところまで行ったのだろう? 僕が試験を受けた時は最後のキリヒメサマに瞬殺されたんだけどね。タハハッハー」


 俺はお前に殺されたんだよ。


「さて、そろそろ僕は帰ろうかな。タハハッハー。君も帰ったほうがいいんじゃないかな?」


 逃げようとする暗殺者。

 そうは問屋が卸さないぞ。

 根性がスパイラル状にねじ曲がっている俺がお前を黙って帰すと思うか?

 俺はクロミズの半透明の触手を暗殺者山口の背に向けて放った。

 攻撃するのではない。

 俺には、いやクロミズにはアイテムボックスがある。

 そこには過去の偉人たちのイマジナリーウェポンが保管されている。

 つまり俺は他人のイマジナリーウェポンを収納できるのだ。

 俺の放った触手が暗殺者山口の背にある弓矢に絡んだ。

 そう、ただでは帰さない。

 よしっ。奪い取れ。

 俺は心の中で叫んだ。


 その瞬間、暗殺者山口のイマジナリーウェポンが消えた。


「タハハッハー、ん?」


 突然、暗殺者山口が振り向いた。

 俺は慌てて目をそらした。

 バレた? いやそんなはずはない。

 俺がやったという証拠はない。

 すっとぼけろ。

 知らぬ存ぜぬで、ダンマリを決め込め。

 この社会黙秘が最強なのだ。

 ボッチの黙秘権を行使しろ。


「……」

「……」

「……」

「……」


 暗殺者山口が不思議そうに俺を見て、周囲を見渡す。

 自分のイマジナリーウェポンが取られたことに気付いた?


「……」

「……」


 長い沈黙が流れる。


「タハハッハー。気のせいか」


 首を傾げながら暗殺者山口は去って行った。

 これで暗殺稼業廃業だな。


「くっくっくっ」


 思わず笑みが溢れてしまった。

 復讐成功だ。

 今度あいつがダンジョンに潜った時に知るだろう。

 己のイマジナリーウェポンが消失していることに。

 さて復讐も済んだことだし、麗しの生徒会長の元に帰るか。


 俺は歩き始めた。

 栄光の巨乳の元へ。

 いつの間にか日は落ち、外はかなり暗くなっている。

 まだ俺を待っていてくれるだろうか?

 いや……これまでの俺の経験上、こういう時は俺を残して帰るのがデフォだ。

 悪気があるのかないのか? 存在感が無いエアーボッチの俺を忘れて皆は帰ってしまうのだ。

 それって悪気あるよね。悪意の塊だよね。集団無視案件だよね。

 気遣いとかないの?

 たが今日は俺の為のメーンイベントなのだ。

 生徒会長達が帰るはずがない。

 頼む。皆、残っていてくれよ。


 きっと帰ったボッチよ。


 俺の心の中のイマジナリーフレンドのボッチ君が不吉なことを言った。

 そういうこと言うのは冗談でもやめろ。

 生徒会長達が帰るはずがないじゃないか――いや帰ったかも。

 俺は疑心暗鬼のスパイラルループに陥った。

 俺の悪い癖が発動し、俺のテンションは地獄の底にまで低下した。


 俺はトボッチトボッチと試験場の玄関を出た。

 薄暗い街灯が物悲しいように試験場を照らしていた。

 そしてそこには……。


「はあ……」


 玄関先に横付けされていたバスはない。

 やはり俺を置いて帰ったんだ。

 ドチクショー。勇者のせいだ。暗殺者のせいだ。

 あいつらが俺の帰還を遅らせたから麗しの先輩達の胸を拝みそこなったじゃないか。

 俺は気持ちを切り替えてスマホを取り出し、帰りのルートを検索し始めた。

 だがその時……。


「トーリー」

「トーリ君ー」


 どこかで俺を呼ぶ声がした。

 イマジナリーフレンドのボッチ君以外の幻聴が聞こえてきてしまった。

 いや、聞き間違うことなかれ。


 俺は顔を上げた。

 リムジンバスが曲がって来て俺の前で止まった。

 飛び出して来たのは美しい人影――胸が強調された劇的シルエット。

 ヘッドライトをバックから浴びたその胸が強調された劇的シルエット。

 スポットライトを従えた天女。

 間違いない。見紛うことなかれ。

 この世の美の因子を結集させて凝縮し、圧縮し研磨して創り上げられた圧倒的な美がそこにあった。

 存在そのものが奇跡。人類の至宝。

 人類の美的遺伝子の総遺産。まさにレジェンダリー。

 ああ、人類は彼女達の遺伝子を現世にまで伝えるだけの存在。

 あの美しい究極存在を、この世に送る為の箱船に過ぎない。

 そう思わせる程の絶対的な美の境地があった。

 まるで全世界の美の粒子……美粒子を集めて完成した芸術品があった。

 銀河中の美が、全宇宙の美粒子の集合的存在がここにあった。


 戻ってきてくれたんだ。一旦俺のことを忘れて帰ったけど思い出して戻ってきてくれたんだ。

 その圧倒的胸部ボリュームが重力と空力で跳ね上がる。

 俺の目は釘付けどころが、瞬間接着剤で固定された。

 いっそのこと、このまま抱きついて来ないかな?

 それとも、ドジっ娘の生徒会長が自分の足で躓いて転んだ時の為に両手を広げて受け止めたほうがいいのかな?

 生徒会長が自分の足で躓いた。

 大チャンス。好機到来。

 だが副会長が手を差し伸べ助けた。

 くっそう。またしてもラッキースケベイベントはお預けですか?

 神は私にまだ耐えろと仰るのですのね。


「遅くなった。野暮用で出かけていたのだ。だがちょうど良かったのか?」


 生徒会長が手を振った。


「おつかれさまっス。その顔は無事に死んだようっスね」


 チャラ男が笑いながら手を振ってきた。


「ごめんねトーリ君、近くの野良ダンジョンが暴走してちょっとお手伝いしてたの」


 副会長が手を振った。

 野良ダンジョン? そんなことよりその可愛い顔、最高っすよ。


「死を知らずして戦うことはできない。霊トレーサーおめでとう」


 隊長が顎に手をやってそう言った。


「……」


 俺は無言で返した。


「トーリよ。で、どどどどど、どうであった?」


 身を乗り出して俺に迫る生徒会長、近過ぎ。

 何でそんなに大きな目なの?

 なんでそんなに長い睫毛なの?

 なんでそんな小さな口なの?

 なんでそんな大きな胸なの?

 頑張ったご褒美に意識を失ったふりして倒れて、その胸に顔をうずめてもいいかな?

 いいよね。もういきなり触ってもいいよね?

 多分、今なら許される。

 この場の空気で許してくれる。

 この祝福されし空気ならば生徒会長に抱き着いてもオッケイ。


「トーリ君」


 副会長のキレッキレの声で我に返った。

 やっぱりイケなかったようだ。


「で、ドドドド、どうじゃった? ライセンスは?」


 生徒会長の元祖……噛み噛みいただきました。

 これ、これ、これでいい。

 これこそ至高。最高。噛み噛み女神だ。

 ああ、この瞬間の為に生きているのだ。


「トーリ君。ライセンスは?」


 副会長が綺麗な顔を傾けた。

 細い綺麗な髪が流れる。


 みんなが俺を見る。

 何だ? みんなして心配そうな目で?

 まさか俺のことを心配してくれてたのか?

 今まで俺のことを心配してくれる奴なんていなかった。

 周りの奴は俺のことを馬鹿にし、キモイ扱いする奴ばかりだった。

 だから急に優しくされても、どうしていいいのか分からない。

 こんな時どんな顔をしていいいのか分からない。

 笑えばいいと思うボッチよ。

 心の中のイマジナリーフレンドのボッチ君が笑った。

 そうだな笑うしかないな。


「ヒヒッ」


 俺は引きつった笑顔を浮かべた。

 ぎこちないボッチスマイルが炸裂した。


「トーリ君? それで?」


 ああ、それが大変だったんすよ。九尾の試練を乗り越えて、キンミズサマを餌付けして、黒鬼達をぶっ殺して、キリヒメサマに首を刎ねられて、勇者君をぶっ殺したけど復活して暴走して聖剣叩き折ってそのメンタル霊吸って勇者君を倒したと思ったら暗殺者にあっさり殺されちゃったんすよ――と脳内で流暢に答え、ヒヒイロカネ製の霊トレーサー許可証を取り出そうと――。


「あれ?」


 ライセンスがない。

 あれ? どこだ? ああ、しまった。

 D級ライセンスは俺がボチマ作戦で弾丸として使用したんだ。

 見事作戦は功を奏して勇者君の聖剣をへし折って……あれ? その後どこ行ったんだ?

 あれ? どこ行ったんだ?

 どどどど、どうしよう? ライセンスが行方不明?

 慌てるでないボッチよ。ライセンスならもう一つあるボッチよ。


 そうだ。俺には二つのライセンスがあったのだ。

 もう慌てん坊のボッチん坊なんだから。

 だがこのライセンスを見せてもいいのだろうか?

 ファイブエス――それは明らかに異常。

 ホテルだったら俺なんか泊まることも遠くから拝むことすら不可能な最上位ランク。

 これを見せても今まで通り接してくれるのだろうか?


「……まさか?」

「……」

「……」

「……」

「……」


 ここにいる全員がアクティブボッチスキル……サイレントエアーを発動した。


「ままま、まあ、トーリ君も疲れているでしょう。積もる話は後日にしましょう」


 副会長がぎこちなく手を叩いた。


「そそそ。そうじゃな。詳しい話は明日部活で聞こう」


 生徒会長がぎこちなく相槌を打った。


「カカカ、カガッチ、腹減ってね? パンもおにぎりあるっスよ」


 チャラ男がぎこちなく笑った。


「おおお、おい。出発するぞ。もう本家の妨害はないと思うが念のため、警戒を怠るなよ」


 隊長が、ぎこちなくバスに乗り込んだ。

 みんなどうしたんだろう?

 俺の嚙み嚙みボッチスキルが移ったのだろうか?


「まあ、何級でも霊トレーサーには変わりないんだしのう」

「そうよねえ。ランク付けなんて意味ないしね」

「そうっスよ。A級の俺らより強いんスからねカガッチは」

「特訓には付き合うぞ」


 皆が察してくれた。

 いや、別に察してくれなくてもよかったのだが?


「さあ、帰ろうぞ」


 えっと、あのう、ほら俺のライセンスはこれっスよ。

 だが今さらこのファイブエスのライセンスカードを出す雰囲気じゃない。

 出し損ねた。完全に出すタイミングを失った。

 俺がグズグズせず堂々とファイブエスライセンスを出していれば良かったんだ。

 バカバカボッチのバカ。

 これじゃあ完全に可哀想なボッチじゃないか。


 その後、微妙な空気の中、バスは出発した。

 腹が減っていた俺はパンやおにぎりを暴食した。

 誰も一言も発しない。

 俺はその空気に耐え切れずに寝たふりをしていたら、なんとそのまま爆睡してしまった。

 なんてもったいない。

 せっかくの生徒会長達との密室空間を満喫することなく眠ってしまったのだ。

 チャラオに起こされた時には生徒会長と副会長の姿は既になかった。

 先に降りたようだった。

 なんと生徒会長と副会長の実家を知るチャンスは失われた。


 隊長とチャラオと運転手に無言で頭を下げ俺はバスを降りた。

 皆は笑って別れてくれた。

 あいつら俺がぶっ殺したけどA奴やん。E奴やん。




 家に入ると妹がニヤニヤしながらこう言った。


「デートどうだった?」

「べつに」


 こうして波乱に満ちた一日は終わりを告げ、俺はついに霊トレーサーとなったのだ。

 だがあの残念そうな生徒会長と副会長の顔。

 勇者のせいだ。

 勇者が出てこなければ、俺はD級ライセンスをボチマ作戦とかアホな作戦で撃たなかったのだ。

 今度会ったらそのご自慢の聖剣へし折ってやるからな。

 あ、既にへし折って寝取ったんだった。

 ざまーーー。


 俺は少しだけすっきりして眠った。

 いや、眠り過ぎた。




 翌朝、ボッチの朝は遅かった。

 つまり寝坊した。

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