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44 覚醒した勇者

「オオオオオオオォ」


 暴走勇者君が叫んだ。

 その声はまるで恐ろしい獣の声。まさにビーストモード。

 その身体から溢れ出るメンタル霊は先程までの微弱なメンタル霊ではない。

 圧倒的で荒々しく神々しく、そして見覚えがあった。

 クロミズや、コンゴウサマ。九尾、キリヒメサマのメンタル霊と酷似している。

 これは上位ヤオロズが放つ圧倒的なメンタル霊と同じ。

 今の暴走勇者君はヤオロズと同格。

 勇者君は生まれながらに聖剣を持つ存在。

 ということは生まれながらに加護も持っているということだ。


 なんて迂闊な。そんなこと少し考えれば分かることだ。

 勇者君がキリヒメサマの試練から生還したことを。

 勇者君が弱いはずがない。

 その見た目と、馬鹿な言動に完全に騙されていた。

 勇者君の真なる力、加護が、眠れるヤオロズが目を覚ましたのだ。

 これはさっさと止めを刺さなかった俺の失態だ。

 目覚めさせてしまった――真の勇者君を――。


 茫然と見つめる中、勇者君が青味がかった半透明の触手を振りかぶった。

 その次の瞬間、俺の足元の床が吹き飛んだ。


「なんだと?」


 まさか今のはボットハンド?

 クロミズと同じ?

 まさか勇者君の加護もスライム系?


「ウオオオオオオン」


 くそ。俺はボットガンを形成し即座に撃った。

 ダンジョン試験場の横壁に穴が開いた。


「な?」


 そこには聖剣を振りぬいた姿勢の勇者君いた。

 俺の渾身のボットガンの一撃が勇者君に軽く跳ね返されたのだ。

 まだだ。

 聖剣は二振り。では複数同時攻撃はどうだ?

 俺は複数の小口径のボットガンを形成する。


「ショットボットガン」


 そして無数の圧縮液体が発射された。

 まさにショットガン。

 だが暴走勇者君は動かない。

 俺の放ったショットボットガンは周囲に跳弾しただけだ。

 なんということだ。ボットショットガンを受けて無傷だと?

 よく見れば勇者君の体表には青味がかった半透明の膜が見える。


 貫通無効の絶対防御フィールド?

 きっと絶対的な六角形のバリアがあるに違いない。

 もしかしてこいつ強い?

 猫背で腕を前に垂らし聖剣を引きずるビースト覚醒勇者。

 きっとシンクログラフが反転しているはずだ。

 あふれ出るメンタル霊がオーラのように噴出し、ダンジョン試験場の埃が舞い上がる。

 圧倒的な強者感。

 シュインシュインといった効果音が聞こえそうだ。


 さっきまでのバカ勇者君とはまるで別人。

 膨大なメンタル霊がダンジョン試験場の壁を、床を天井に焦げ跡を作る。


 こんなん勝てる気がしねえ。

 ああ、無理だ。

 加護持ちでイケメン。

 しかも覚醒している。チートの重ね掛けじゃねーか。

 しっかりしろ、俺君。あいつは勇者なんだから強くてイケメンでチートで当然だ。

 何を今さら嘆く必要があるだろう。

 何を今さら嫉妬する必要があるだろうか?

 相手は伝説の勇者なのだ。

 俺のような雑草の底辺ボッチと比べるまでもない。

 こいつあ俺のようなボッチが戦っていい相手ではない。

 逃げるボッチよ。

 ダメだ。ダメだ。

 逃げちゃダメだ。

 だけどどうやって? 無敵の加護持ちなんてどうやって倒せばいいんだ?

 生徒会長ならどうする。

 副会長ならどうする?

 木曽三川警護団の奴らならどうする?

 諦めないだろう。

 尻尾を巻いて逃げ出したりしないだろう。


 やるしかない。

 あがけ、もがけ。

 俺はダンジョン部員なんだぞ。

 あの身体を覆う無敵の加護――絶対防御フィールドがある限り攻撃のしようが無い。

 俺のボットガンを弾くとなると他の攻撃も弾かれるだろう。

 俺の幻想武器……イマジナリーウェポンはメンタル霊不足で使用出来ない。

 完全に詰みだ。

 冷や汗が額を流れる。

 これはピンチなのでは?

 ボッチのピンチ。ボッピンチなのでは?


 ええい、ふざけている余裕があるなら考えろ。

 俺はクレバーボッチ亜種なのだ。

 相手が勇者だろうが関係ないのだ。

 やるしかない。


 ゆっくりとゆっくりと歩く意識を失った覚醒勇者君。

 今の俺には何がある?

 何が残っている?

 残りのメンタル霊量は?

 俺はクロミズに問いかける。

 ボットガン一発分と無言で答えが返ってきた。

 一発だと? 一発で覚醒勇者君を倒せるはずがない。

 何かないのか? 先進的でアドバンスで革新的なエボリューションでウィンウィンな作戦はないのか?


 覚醒勇者君はゆっくりと、俺を絶望させるためか、ゆっくりと歩く。

 聖剣が床を引きずり、金切り音を奏でる。

 これは死の宣告。無言での圧力。

 今度俺も真似してみよう。

 どんな恫喝よりも怖い。

 どんな威嚇よりも効果的だった。

 ただ、剣を引きずるだけなのにこの恐怖感はなんだ?

 あの光が消え、暗黒落ちした覚醒勇者君の大きな目がそれを強調する。

 まさか暗黒落ち? ボッチの俺の世界にようこそ。

 深い、根深いボッチの闇にようこそ。


 ええい、脇道ばかりに寄るな俺の思考よ。

 だからあんな加護持ちチート野郎どうやって倒せばいいんだよ。

 ボットガンを弾く身体って何だよ。

 ああ、俺もそうだった。

 貫通無効。斬擊無効。物理無効。

 絶望が俺にのし掛かる。

 ヤオロズの加護は通常攻撃では破壊できない。

 しかもあの絶対防御は破壊不能なのだ。

 ――チョ待てヨ。破壊不能?

 今俺君いいこと言った。


 そうだ。ライセンスカードだ。

 霊トレーサー認定書は破壊不能と言っていた。

 ライセンスカードを投げるか?

 いやいや無理だ。いくら剛腕のクロミズでも投げただけでは……。

 わざわざ投げずともいいのでは?

 これをボットガンで放てばいいのでは?

 高圧力をかけて放てばどうなる?

 俺の冴えわたるボッチ脳が勝率数パーセントの攻撃を思いついた。


 俺はクロミズに作戦を念じて伝える。

 俺と一体化したクロミズの声は聞こえない。

 だが無言の肯定と受け取る。


 俺はライセンスカードを取り出した。

 ライセンスカードは念じれば現れるのだ。

 これは魂の分霊の一つ。

 俺はライセンスカードを印籠よろしく前に出した。

 ゆっくりと迫る勇者君に向けた。


 勇者君はそれを見て笑った。

 意識がないのに俺のライセンスカードを見て笑った。

 俺のD級ライセンスを見て笑った。

 なんて嫌な奴だ。


 勇者君は歩みを止めない。

 いいぞ。そのままこっちまで来い。

 できるだけ近づいてから撃つ。

 あの強力な加護を破る為には至近距離からのゼロ距離射撃しかない。


 俺は伸ばした手に力を込める。

 残り僅かなメンタル霊を込める。

 そしてクロミズに願う。

 この一撃にすべてをかける。


 俺の腕が、半透明のボット細胞に覆われる。

 全身のボット細胞が活性化する。

 二の腕から肘にかけて、メンタル霊が纏わり付く。

 これはレールガンもとい、ボレールガンだ。

 いや荷電粒子ボッチ砲だ。

 俺の最後のファイナルアタックだ。

 名前なんてなんでもいい、とにかくこの一撃に賭ける。

 身体中のメンタル霊変圧器が高圧力メンタル霊を俺の右手に集中する。

 俺の足の細胞の中では停電になったに違いない。

 俺の頭の中で壮大なオーケストラが奏でられた。

 歴史に残る――俗に言うボチマ作戦が開始された。


 ボッチ粒子精製開始。

 メンタル霊が足りません。

 このままでは撃てません。


 俺の中の妄想ボッチオペレーター達が状況を報告する。


 ありったけのメンタル霊を身体中から、かき集めろ。

 ボッチの作戦司令官が叫んだ。


 メンタル霊バイパス直結します。

 メンタル霊圧力上昇中。

 ボット細胞隔壁強化。

 ボッチ砲身加圧開始。

 メンタル霊ジェネレーター百二十パーセントオーバー。

 ボチマ加速器光速突破。

 ボチマ因子変異確認。

 アイゼンロック。

 俺の踵から見えないボット細胞が床に突き刺さった。


 システムオールグリーン。

 いつでも撃てます。


 勇者君が二振りの聖剣を振りかぶった。

 勝利を確信したのか口角を上げる勇者君。

 つまり勇者は俺のことをなめているのだ。

 だがそれでいい。

 油断してもらわなければならない。

 バカにしてもらわなければならない。

 俺は左手を添えた右手を伸ばした。


「ファイナルボッチアタック」


 ゼロ距離。

 よけられる距離じゃない。

 俺は掛け声と共にライセンスカードを放った。

 俺の全身からかき集められた圧縮されたメンタル霊がライセンスカードを亜光速で射出された。

 衝撃波が、リング状に、コーン状に広がり、勇者君の身体をぶち抜い――。


「なっ」


 ――かなかった。


 覚醒勇者君は聖剣を身体の前で構え俺の最後のファイナルアタックを止めた。

 俺の放ったライセンスカード弾はクロスした聖剣の真ん中に命中した。

 爆発音が、衝撃波がダンジョン試験場を揺るがす。

 建物全体を揺さぶった。

 爆炎と噴煙が俺の視界を遮る。


 やったか?

 ボッチ君がまた言ってしまった。

 フラグの神が舞い降りる。


 猫背のシルエットが浮かび上がる。

 噴煙が晴れ、覚醒勇者君を境界に床には二つに分かれた焦げ跡が伸びていた。


 目標依然健在ボッチ。

 ボッチオペレーターが驚愕する。

 くそっ。効いてない。


「ぐあああああ」


 いや、効いている。

 いや、叫んだだけか?


 覚醒勇者君の構えた手前の聖剣にヒビが入った。

 そして聖剣がポキリと折れた。

 聖剣エクスカリバーが折れた。

 俺のライセンスカードの捨て身の攻撃が効いたのか、聖剣が折れた。

 暴走状態の勇者君は何が起きたのか理解出来ていないのか、完全に動きが止まった。


 失敗?

 違う。

 いや、これでいい。

 これこそが俺の作戦。

 加護に守られた覚醒勇者君の身体には傷一つ付けられないだろう。

 だが、その手にした幻想武器、イマジナリーウェポンならどうだ?

 聖剣の断面からメンタル霊が溢れ出た。

 幻想武器イマジナリーウェポンは魂の分霊。

 つまりメンタル霊の塊。純粋メンタル霊。

 光属性とか、闇属性とか関係ない。

 その根本エネルギー。

 純粋無垢のメンタル霊。

 光り輝くメンタル霊が霧のように、煙のようにダンジョン試験場の廊下に広がった。


 今だ。

 俺のメンタル霊残量はゼロに等しい。

 食いしん坊スキル持ちの俺がやることは決まっている。

 俺はあふれ出たメンタル霊の中にクロミズの触手を伸ばした。


「いただきます」


 そして吸い取った。

 貪り食った。

 聖剣エクスカリバーのメンタル霊を喰った。

 マイナス状態だった俺の身体のメンタル霊メーターがグングン上昇していく。

 俺の狙いどおり。作戦通り。

 これが俺のボチマ作戦の真骨頂。


 ほんとボッチか?


 俺の心の中の代弁者であるボッチ君が疑念を抱いた。

 ほ、本当だ、よ。


 俺の身体に半透明の膜が覆った。

 手足に力がみなぎる。

 クロミノタウロスクロウスのモーモーパワーが溢れ出る。

 キンミズサマの効力不明な加護が俺の身体を黄金に染めあげる。

 俺は四柱のチート加護に包まれた。


 加護を破るのは加護のみ。

 ボッチ復活。

 最初からこれを狙っていた。


 俺は阿形と吽形を呼んだ。

 意識のない勇者君には見せてもいいだろう。


 俺の手には紫煙のオーラを噴出した俺の幻想武器……イマジナリーウェポンの阿形と吽形。真の名を大魔王の全絶滅剣。全殲滅剣。

 その二振りの大魔王の剣が握られていた。


 くっくっく。ボッチ復活。

 進撃のアクティブアタッカーボッチの復活だ。

 よくもやってくれたな?

 よくも弱ったボッチを痛めつけてくれたな。

 思い知るがよい。

 俺のボッチの恨みは深いぞ。

 思い出し恨みしてやるからな。

 俺は阿形と吽形を握りしめる。


 こっからボッチのターン。

お読みいただきありがとうございました。

誤字脱字修正いたしました。

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