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42 勇者君対魔王

「おいお前。聞こえているだろう?」


 誰もいない試験会場にイケメンっぽい若い男の声が響き渡った。

 夕刻の長い影もイケメンっぽい。


 俺は面倒くさそうに顔を上げると夕日を背負ったイケメンが立っていた。

 ボッチの俺なんて霞んで消えちゃう程の圧倒的なカッコいい存在感。


「ふふふ。驚いたかい?」


 イケメンが笑った。

 くっそ。マジカッコいい。影までカッコいい。

 それにしても夕日を背負って登場って恥ずかしい奴だな。


「……」


 俺はこいつを知っている。

 玄関前にいた奴だ。

 生徒会長の足元にも及ばない普通美少女の後ろにいたモブだ。

 そしてパーティーを組む時も睨んでいたような気がする。

 それにしてもただのモブ腰巾着のくせに偉そうだな。


「……」


 俺はいつものように完全に冷酷に、そして情け容赦なく無慈悲に華麗に無視した。

 もしボッチ無視コンテストがあったら上位に食い込む程の冴え渡る無視だっただろう。

 その証拠に……。


「……この僕が聞いているだろががあああぁ。僕だけがボス部屋を抜けたのに何故お前がここにいるんだ? 言え、何をしていた? まさかお前もボス部屋を抜けた? いやいやそんなはずはない。どうせトイレにでも隠れていたのだろう。お前なんかトイレの個室がお似合いだ」


 野良イケメンが突然、盛大に長台詞でキレた。

 逆キレの見本のようなキレっぷりだった。

 今度心の中でキレる時の参考にしよう。

 しかもなんで俺がトイレの神様に愛されたトイレの住人だって知っているんだ?

 ――鑑定能力でもあるのか?


「……」


 聞きたいことは山程あるが何も聞かない、言わない答えない。

 えっと、今まで何してたかって、それは話すと長くなるから順を追って考えないと。

 えっと、まずは校門の前に不審者がいたと思ったらチャラ男で……。


「……何か言えよ」


 野良イケメンが待ってくれない。

 せっかち過ぎだろ。朝からの出来事を順を追って考えてるんだから少し待ってて。


「……」


 俺はボッチだぞ。コミュ障だぞ。クラスの空気君だぞ。

 人と面と向かって話なんて出来たらボッチなんてやってねーよ。

 しかも初対面の赤の他人と会話なんて出来る訳ねーだろう。

 会って三回目ぐらいにやっと目を合わせ、十三回目ぐらいでやっと口を開く俺を舐めるな。

 ボッチ十三顧の礼を知らんのか?

 俺は心の中で盛大に逆キレしてやった。


「ぐぬぬぬ。その態度、許せん。絶対に許さない。万死に値する」

「……」


 え? 無視しただけで俺殺されちゃうの?

 え? 無視しなければ殺されなかったの?


「僕がお前を殺しても罪は問われない。なぜならここはダンジョンだからだ」

「……」


 こいつ、ダンジョンだからって何してもいいって思ってんのかよ。

 こいつもテンドー君と同じオツムだな。

 根っからの犯罪者脳だぞ、それ。

 誰も見てなければ、何をしてもいいって思考は犯罪につながるぞ?

 俺なんて深夜の車も通らない交差点の信号ですら黙って待つというのに。

 見えないところでも法令順守のボッチって素敵。

 もし深夜の交差点で信号を寡黙に待つ姿を美女に見られていたら惚れられるな。

 雨の中の捨て猫に傘を差しだす不良ぐらい素敵。


「……ただ殺すのはつまらん。この僕と勝負しろ」


 イケメンが俺に指を指した。

 勝負ですって? バッカじぇねーの?

 誰が勝負なんてすんだよ。

 子供じゃあるまいし、気に入らないから戦って倒すって小学生理論かよ。

 拳で語り合うって格好良く言い換えているが、ただの暴力だからな。

 バトル漫画なんて全部、犯罪者養成漫画なんだからな?

 拳で語るより言葉で語れよ。俺らは原始時代を生きている訳じゃねーぞ。

 そもそも上から目線で勝手に勝負を持ち掛けてんじゃねーよ。


「ふん」


 俺は鼻息で思いっきり見下して笑ってやった。

 無視の発展形……侮蔑級無視だ。


「な、な、なっ、なななな、なんだぁその態度はあぁ。僕はA級霊トレーサーだぞぉ」


 野良イケメンが顔を真っ赤にして鼻息を噴出した。

 えっと、よく聞こえなかったけど今A級ライセンスって言った?

 ……A級ライセンス?

 それは凄い。D、C、B級よりも凄い。A級……褒めてやろう。

 だが残念なことに俺はSSSS級だ。

 ファイブスター的なレストランの勝手な格付け的なランクなんだぞ。

 どうだ。美味しそうだろう?


 そんなことよりも俺には大事な用事があるんだ。

 今すぐ生徒会長の元に赴き、その豊満な胸に顔を埋めて抱きつくという妄想をしながらジロジロ生徒会長と副会長の顔色を伺い、試験内容を報告するという重要な使命があるのだよ。

 副会長の冷たい視線を感じながら、生徒会長のお顔を拝聴するというスリル満点の脳内妄想する重要な任務があるのだよ。

 お前なんかに構っている余裕はない。しっしっ。さっさとあっち行け。

 それでお前のボスの普通美少女の薄い胸に泣きつけ。

 ざまー。こっちの先輩のほうが格上だ。


「……グヌヌヌヌッ……ここまで馬鹿にされたのは初めてだ」


 イケメンが震えた。

 馬鹿にされたのが初めてだって?

 そりゃまたずいぶん敵のいない、温室の、薄い人生を、ぺらっぺらな人生を歩んでいらしたのですね?

 その悔しい気持ちをバネにするんだよ。

 俺なんか毎日馬鹿にされてんだぞ。毎日をバネにしてんだぞ。

 キモイだの。ボッチだの。噛むだの……馬鹿にされ人生。

 馬鹿にされたのが初めてのお前とは雲泥の差があんだよ。

 俺とお前では馬鹿にされ具合に天と地の差があるんだ。

 たけ-ぞ。迫害されしボッチ俺の立つ場所はな。

 登ってこられるかな? このボッチの高みに。

 孤高のボッチタワーに登って来られるかな?


「……」

「そうか、貴様のような友達いなさそうな世間知らずは僕のことを知らないからか」

「……」


 はっ? まさか俺から友達いなさそうな匂いフェロモンでも発せられているのだろうか?

 寂しくて死んじゃうアピールがこもったボッチ臭が醸し出されているのだろうか?

 そりゃあ生れてのかたボッチ人生一直線なのだ。


「いいだろう」


 俺の反省をよそに野良イケメンが髪をかき上げた。


「……貴様が誰に喧嘩を売ったのか教えてやろう……僕の名は蒼岩 手史郎。勇者だ」


 そして自分を披露するように野良イケメンが両手を広げた。

 ……え? は? なんつった?

 勇者って言ったよな?

 確かに勇者って言ったボッチよ。

 俺の心の中のゆるキャラのボッチ君が相槌を打った。

 あのー勇者って自分で名乗り出るものなの?

 知らないボッチよ。リア充っぽい奴は皆殺しだボッチよ。

 待て待てボッチ君。勇者とはその善行から周りからそう呼ばれる訳じゃないの?

 自ら名乗っていいの?

 そもそも勇者ってこの世にいるの?

 異世界には大勢いるらしいボッチよ。

 あ、なんかバスの中で聞いた気がするぞ。

 イマジナリーウェポンを持って生まれた勇者の話を……。


「これを見ろ」


 自称勇者君がいきなりイマジナリーウェポンを抜いた。


「……」

「驚いたかい? これは僕が生まれながらに有していたイマジナリーウェポン……」


 野良イケメンが自慢げにイマジナリーウェポンを構えた。

 通常イマジナリーウェポンは認定試験……つまり今日ここで頂戴するのだ。

 彼はそれを生れた時から所有しているというのだ。

 生まれながらにしてイマジナリーウェポンを持つ存在。


「……」


 俺は驚いた。

 勇者君が自分で勇者を自称したことに。

 その自信満々な姿に驚いた。

 なんて自意識が高いのでしょう。

 そのプライドは山よりも積乱雲よりも高いのでしょう。

 こんな自己紹介、恥ずかしくて俺には絶対出来ない。

 お前が勇者なら、俺はボッチの勇者だ。

 うわあ、ボッチの勇者って仲間いなさそうで弱そう。

 喋るのが苦手なボッチの勇者は村人に話しかけることが出来ずに、最初の村で挫折してそう。


 そんなことはどうでもいい。

 思考の横道にそれるのはいつものことだ。

 とにかくキミのことを野良イケメンの自称勇者君と呼ぼう。

 まあ、呼び方なんてどっちでもいいや。

 どっちもボッチも似ているな。

 だがこいつの言っていることは自己申告にすぎない。

 偽物の可能性もある。

 ええい、相手が勇者だろうが魔王だろうが、何だろうが俺のやることは一つだけだ。


「……」


 俺は無言で盛大に無視をした。

 何が勇者だ。その証拠を出せよ。


「……僕のイマジナリーウェポン……聖剣エクスカエイバーと聖剣アロンダイトだ」


 野良イケメンの自称勇者君は俺の無視を無視し説明を続けた。

 なんかどっかで聞いたことあるような既視感満載な名前だね。

 まあ、俺の阿形と吽形も同じようなもんか。

 でも漢字の名前のほうがカッコいいよね。

 俺の中の黒牛守が頷いたように感じた。


「……フフッ。驚いて言葉も出ないようだね。そう。僕は生まれながらにして、この二本の聖剣を有しているのだ」

「……」


 それ、聞いたし、重要なことだから二回言ったの?

 それにしてもペラペラとよく喋る。

 よく喋る奴は後ろめたいことがある奴だと爺ちゃんがよく喋っていた……。

 勇者の聖剣? なんかありきたりすぎて鼻くそほじりたくなるね。


「クックックッ」


 野良イケメンの自称勇者君が悪人のように笑った。

 言いがかりをつけて剣を抜く。

 うわあ。暴力で解決、正義マンのボス……勇者マンっぽい。

 こいつ間違いない勇者だ。自分が正しいと信じて孤独の魔王を集団で倒す。

 根っからの正義マンだ。正義の為ならば暴力をふるっても構わないというタイプ。

 だが何故、力に頼ろうとするのだ?

 俺達は高等生物だぞ?

 俺達人間は言葉を話し、会話が出来る生き物なんだぞ?

 まずは話し合いでお互いの主張を聞いて、譲歩するのが進化した高等生物だぞ。

 猫の喧嘩でもいきなり暴力に訴えてたりしないぞ?

 まずは睨み合って威嚇してだな。話し合ってだな……。


 あっ、ボッチの俺に話し合いなんて無理な相談だった。

 よくよく考えれば暴力で解決って意外に俺と馬が合っているのかもしれないな。

 出会い方が間違ってなければ俺達、仲良くできたかな?

 俺は夕日を背負う勇者に向かって心の中で語り掛けた。


「我が聖剣よ、我が願いに応え、悪を撃て、眼前の魔を滅せよ、きえええええええ」」


 だが、野良イケメンの自称勇者君が、いきなり、なんの警告も発さずに中二病セリフを言いながら、奇声を上げながら俺に斬りかかってきた。

 え? 斬りかかってきたぞ。

 勇者に有るまじき行為に俺は度肝を抜かれた。

 俺は後ろを見る。

 誰もいない。

 試験場の係員さん。事件ですよ。キリヒメサマ。事件ですよ。

 誰もいない。

 誰も止めに入らない。

 運営何やってんだ。

 こういう時にはGMが仲裁してくれないと困るよ。


 ……まあいいや、ここはダンジョンだ。

 ここで野良イケメンの自称勇者君に殺されても現実では俺は死なないはずだ。

 でもまあ試験でちょっと戦い疲れしてたから、ここで野良イケメンの自称勇者の手によって殺されるのも、ありっちゃ、ありだな。

 下手に逆らって恨みを抱かされたらテンドー君みたいに俺のストーカーにクラスチェンジしちゃう。

 勇者からクラスチェンジするのって何だっけ?

 勇者の上の職業って何だろう?

 魔王の上位が大魔王だから、大勇者君かな?

 ボッチの上位って何だろう? 大ボッチかな?

 そんなことは、どうでもいい。

 俺は心の中で自分にセルフツッコミを入れた。


 それにしてもなんで俺の周りはこんな奴ばっかなんだよ。

 もう、無害な静かなボッチの俺をそっとしておいてくれよ。

 はあ。俺はもう疲れたよ。

 ボッチが静かに暮らせる世界があるのだろうか?

 何故こんなに余裕で考え事が出来るかって?


 遅いのだ。

 もの凄くおっそいのだ。

 野良イケメンの自称勇者君の攻撃が夏の終わりの蚊のように遅いのだ。

 さっきのキリヒメサマの速度を見た後だからだろうか?

 野良イケメン勇者君の攻撃が凄くスローに感じるのだ。

 どうしよう。

 よけちゃう? さけちゃう? かわしちゃう?

 それとも、ボットハンド出して聖剣を食べちゃう?

 でもあんな光る派手な恥ずかしい剣なんて欲しくないな。

 黒く禍々しいボッチっぽい剣だったら欲しいけど。


 それに野良イケメンの自称勇者君のあの自信満々な顔。

 血に飢えた殺戮者の表情を浮かべたその凶悪な顔。

 そのひん曲がった心を表すかのような野良イケメン勇者君の顔が迫る。

 喰うか?

 だがそんなことしたら野良イケメン勇者君がショック死しそうだから、その遅い攻撃を受けてあげるのが礼儀かな? 優しさかな? 全力で受けて止めてやろうかな?


 俺はダンジョン部の部員なんだ。

 無抵抗なんて恥ずかしい真似は出来ない。

 無抵抗で刺されたなんて麗しの生徒会長に言えない。

 俺を笑顔で俺を送り出してくれた木曽三川警護団の皆に顔向けできない。

 ボレボレだぜ。

 野良イケメンの自称勇者君の全力攻撃に全力で応えようじゃないか。


 ヒトキレボッチモード。

 俺は自分の加護のレベルを設定する。

 ボットモであるクロミズの半透明の加護に……。


「……」


 包まれない。

 あれ? おっかしいな。


 来い。阿形、吽形。

 俺は俺の魂の分霊存在……イマジナリーウェポンを心の中で呼んだ。

 禍々しいオーラを纏ったソウルブラザーが俺の手に……。


「……」


 来ない。

 あれ? 今忙しいのかな?


 では黒牛守。斧を貸せ。


「……」


 漆黒の巨大な斧は現れなかった。

 クロミズ、過去の偉人達の幻想武器を出してくれないか?


「……」


 ボットハンドで剣を形成してくれ。


「……」


 何も起きなかった。

 クロミズの万能細胞も出現しない。

 おかしい。こんなこと初めてだった。

 仕方がない。俺の渾身のオリジナル魔法で……。


「……」


 だがメンタル霊が凝縮しない。

 魔法は発動しなかった。

 何故何も出ない?

 おかしい。

 さっきからおかしい。

 俺の加護が消えてしまったかのように、何も出なかった。

 どうしたんだよ。

 ボットモよ。

 俺はテンパってパニクってボッチった。

 ええい、どうしたんだよ。

 さっきまではチート並みの力が溢れていたじゃないか?

 ……さっきまで?


「!」


 そう……出る訳が無かった。

 先程のキリヒメサマとの激しい戦闘で俺はメンタル霊を使い果たしていたのだ。

 キリヒメサマとの死闘で全力を出し切り真っ白に燃え尽きていたのだ。

 燃え尽きたボッチだった。

 完全にカラッケツの出涸らしカラカラボッチだった。

 シオシオボッチだった。

 メンタル霊が枯渇した、ただのヒョロガリボッチだった。

 スローモーションで迫る野良イケメン勇者君の聖剣。


「!」


 これはまずい。

 だがしかし俺には貫通無効がある。

 斬撃無効もある。

 衝撃無効も、魔法無効もある。あと色々無効がある。

 こんなヘナチョコ攻撃なんて俺には全く効かないだろう。

 刺されてもたいして痛くないだろう。

 だが待てよ?

 キリヒメサマの攻撃は痛かった。

 格上の攻撃は通る?

 まさかこの野良イケメン勇者君の聖剣が俺のイマジナリーウェポンよりも格上だったとしたら? 俺は殺される?

 そんなのヤダボッチよ。

 ええい、何とかしなければ、このままでは俺は刺されてしまう。

 よけろ。

 さけろ。

 だが体が動かない。

 動けなかった。

 あんなに人間離れした動きをしていた俺の身体がピクリとも動かなかった。

 メンタル霊が底を尽き、加護が消えた俺の身体能力など幼稚園児以下だ。

 眼だけは、思考だけは加速されたまま。

 野良イケメン勇者君の攻撃がスローモーションで進む。

 野良イケメン勇者君の顔を近付く。

 こいつマジイケメンだな。

 悔しいがイケメンだ。

 認めよう。

 顔だけはイケメンだ。

 そんなイケメン顔にうっとりしていると……。


 野良イケメン勇者君の聖剣が俺の身体に吸い込まれるように刺さった。


「ぐふえ」

お読みいただきありがとうございました。

誤字脱字、読みやすいように修正しました。


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