36 ポーター
リーダーのセンは俺の身を案じて言ってくれたんだ。
これはきっと優しさなのだ。
人に優しくされたことなんてない俺にはそれが理解できないだけなのだ。
「……」
俺は無言で後ろに下がった。
俺はクロミズと融合した最強の存在だが、今はただのしがない荷物持ちなのだ。
ナイトでもウィザードでもガーディアンでもパラディンでもなくポーター……荷物持ちだった。
だから戦闘が始まれば下がるのが俺の役目。
勝手にパーティーに入れてこの扱い。
並のボッチなら傷心一人旅に出かけているところだよ。
「ポーターは、いいご身分だな」
俺のブロークンハートに心無い言葉が撃ち込まれ割れた。
いいご身分だと? うむ。確かに一理ある。
いい御身分だ。何もしなくてもいいんだからな。
俺は後ろからニヤニヤしてるから頑張って俺の分まで働いてくれや。
潜在意識化で共有されたパーティーは経験値が共有されるそうだ。
俺の分まで経験値を稼いでくれや。
「戦わなくても同じパーティーだからって経験値がもらえるなんて詐欺だろ」
「パーティーの経験値は均等分担だ。諦めろ。俺はとっくに諦めている」
リーダーのセンが首を振った。
「そうですよね。何あいつ。キモスギ」
「なんでリーダーはこんな奴を」
「脅迫されてるんじゃないの?」
「あり得る」
「一言も喋んないし」
「……」
「キモイわ」
後方の女子達もこぞって俺の悪口を言い出した。
「……」
俺は言い返そうとするが止めた。
そう、これが現実なのだ。
ボッチの俺にコミュ能力必須のパーティーなど組めるはずがないのだ。
更に不細工ボッチのコミュ障の俺が好かれるはずがないのだ。
ポーターでボッチの俺は役に立たないのだ。
いや、一つだけあった。
こうやって、皆の共通の敵になることで、俺以外の者達の仲良し度が上がるのだ。
俺をスケープゴートにしてパーティーが一つになった瞬間だった。
皆の役に立って良かった――って良くねーよ。
身を切らしてこいつらの仲良し度を上げても意味ねー。
だいたいキモイって言葉がハラスメントなんだぞ。
気持ち悪いのはこっちも同じだっての。
お前らビッチも十分キモイですよ。
ああ、その言葉を発したい。
俺の滅多に震わない声帯を震わせてそう叫びたい。
だがそんなこと言えたらボッチなんかやってない。
「無駄口を叩くな。今は眼前の敵に集中しろ」
イケメンリーダーが皆を叱責した。
おお、俺を庇ってくれたのか?
やっぱいい奴か? イケメンリーダーマジぱねえ。
「彼を誘ったのは俺だ。責めるのなら俺を責めてくれ」
「責めるなんてそんな」
「俺らは別に」
「うちらは別に」
パーティーメンバー達が下を向いた。
「……」
……今いい奴って言ったよな。あれは嘘だ。
リーダー全然いい奴じゃねえ。
なんだよ責任って。俺の任命責任があるみたいに言うなよ。
だが確かに一理ある。
俺なんて何の役にも立たないお荷物存在なのだ。
ふふふ。ザマー。自業自得だザマー。
俺をパーティーに誘ったお前が悪いのだよ。
――という思いを込めて俺は精一杯睨んだ。
ゴミを見るような目で睨んでやった。
口下手でボッチな俺が出来ることは睨むことだけだ。
「なんだ? その目は。お前文句でもあるのか?」
「ポーターの分際で生意気だぞ」
「キモスギ」
えっ? 何これ? 何この状況。
先に俺を睨んだのそっちでしょ?
全員でゴミを見るような目で俺を見たのはお前達だろ。
俺が睨んだら気に食わないのか。
これだからリア充陽キャは嫌なのだ。
自分達がしたことを棚に上げ、自分達がされたことに敏感に反応する。
こいつらはまだ人間ではない。
ただの虫だ。獣だ。ああ、虫と獣が可哀そう。
人のふり見て我がふり直せと爺ちゃんがよく言っていた。
その通りだとと俺は爺ちゃんにだけはなりたくないと誓った。
「……」
「ああ? なんだ?」
「……」
「やんのか?」
「……」
俺の連続無言砲が炸裂しパーティー内の空気が一気に氷点下に下がった。
だが危険なダンジョン内で仲間割れをしている場合ではない。
忘れているかもしれないけど、ここは試練のダンジョン内なのだ。
「空気重くしやがって」
「……」
待って。今は空気よりも大事なものがあるんだってば。
ここは安全地帯でも平和な学園でもないのよ。
「無視かよ」
「なんかムカついてきた」
「うわぁ。最低」
「俺らの代わりに前に出てくんない?」
「囮くらいにはなるだろ」
「キャハハハ」
「役立たず過ぎだろ」
「すまんみんな。これは俺の責任だ」
「そんなリーダーは悪くないです」
「悪いのはあいつです」
パーティーは俺の悪口で盛り上がり始めた。
だからそれさっき聞いたから。
あのーそろそろ今は敵に集中したほうがいいのでは?
危機感無さ過ぎて死ぬぞ。
「ギャギャ」
俺の窮地を救うべくダンジョンの奥から数匹のゴブリンが現れた。
そしてゴブリンは警告も口上もなしでいきなり弓を放った。
パーティーメンバーは俺の方を向いたまま悪口に夢中で飛来する弓矢にまるで気付いていない。
このままではメンバーの誰かの背中に突き刺さる。
刺され、刺され。刺さってしまえ。
――だが俺は麗しの生徒会長達の後輩なのだ。
やれやれだぜ。ボレボレだぜ。
俺はパーティーのメンバーに見えないように極小ボッドガンを放った。
音も立てずに高速で発射されたクロミズの体液が飛来する弓矢に命中し、その軌道を変えた。
勢いを相殺され威力を失った弓矢がフラフラと、偶然にもガーディアンの盾に当たり、コンと金属音を奏でた。
「ヒッ」
ねえ、今の聞いた奥様。
イケメンヤンチャボーイが思わずヒッて言いましたよ。
彼の心は本当は可憐だったりするの?
虚勢を張っていただけなの?
「ゴブリンだ。防御態勢」
リーダーのセンが叫んだ。
遅い。それにゴブリンに防御態勢って何だよ。
「来たぞ」
「いきなり撃ってきた? ゴブリンのくせに」
「死ね」
「くっ」
「あれがモンスター」
「ギョワワエアエア」
そうだとゴブリンが叫んだ。
その嫌悪感を覚える濁声にヤンチャ系アタッカーの顔が青くなった。
「ひえええ」
ヤンチャ系イケメンアタッカーが完全に自分を見失い、狭い通路の中で闇雲に前も見ないで剣を振り回した。
馬鹿。何やってんだ。眼を開けろよ。
こんな狭い通路でそんなに振り回したら危ないだろ。
案の定その剣は壁に床に、最後に隣のガーディアンの盾に当たった。
よろめくイケメンガーディアン。
「なっ」
「ごめん」
「なにすんだ。俺は敵じゃねーぞ」
「違うんだ。このダンジョンが狭くて。俺の必殺の暴れ乱れ撃ちが……」
ダンジョンのせいにしないでください。
明らかに今のはお前が悪い。
後ろから見ているとよく分かる。
ゴブリンはその隙を見逃さない。
狭い通路を一気に駆け抜け、混乱する前衛を見て黄色い歯を見せた。
ヤンチャ系イケメンアタッカーがそれに気付いた時にはもう遅い。
ゴブリンの粗末な剣がイケメンアタッカーに振り下ろされる。
「うわあああぁ」
イケメンアタッカーが腰を抜かしたのか、剣を放り投げて情けない声を出した。
イマジナリーウェポンを捨てた?
イマジナリーウェポンは魂の分身、それを捨てたのだ。
こいつは自分を守る、味方を守る大切な武器を投げ捨てた。
俺は絶対に自分のイマジナリーウェポンを捨てたりしない。
でもまあクーリングオフとは返品とかはしちゃうかもしれないけどね。
突然、ガーディアンの盾が割り込んだ。
鈍い金属音が狭いダンジョン内に響き渡り、逆の方角から風切り音が裂いた。
リーダーの放った矢をゴブリンが盾で受ける。
「助かった」
「油断するな」
剣を拾うヤンチャイケメンアタッカーの肩を優しく叩くガーディアン。
「ドンマイ。怯え過ぎだぞ」
「なっ。つかお前もう少し離れろよ」
「なんだと? 助けてやったんだぞ、そもそもお前が悪いんだろ」
その瞬間、彼らの横の壁が燃え上がった。
後方の魔法使いが放った魔法が当たったのだ。
「あぶねーだろ」
「ごめんなさい」
「俺らは敵じゃねーぞ」
「その初めてで、狙いがうまくいかなくて、そのあの荷物持ちが邪魔で」
え? 俺、邪魔するような場所におりませんことよ。
俺は誰よりも後ろに下がって高みの見物としゃれこんでたんですが?
まさか俺の身体から滲み出るボッチオーラが彼女の心を惑わせたのだろうか?
でもさあ。俺のボッチオーラが強力なのは知ってるけど、いくら馬鹿でも無茶苦茶な言い訳って分かるっしょ?
「……」
「荷物持ち邪魔すんなよ」
「嫌がらせはやめてくれ」
「うちらの邪魔二度とすんな」
うわあ、完全に俺のせいに定着したよ。
何こいつら、マジぱねーすけど。
大丈夫か? 全ての原因我にあり。
うむ。そう表現するとカッコいいな。
「ギャギャギャ」
ゴブリンがそれを嘲笑するように、なだれ込んできた。
「凄い数」
「落ち着け。ここは一旦引いて体制を立て直すぞ」
「ああ」
「待って」
「荷物持ち、あいつらをくい止めろ」
「キミも逃げろ」
「荷物返せよバカ」
そう言いながらパーティーメンバーは俺に持たせた荷物を奪い取り、走り出した。
迫りくるゴブリンに背を向け逃げ出した。
非戦闘員である、か弱い俺を置いて逃げ出した。
何て奴らだ。荷物持ちを置いて前衛が逃げ出したのだ。
狭く暗いダンジョンの中で迫り来るゴブリンの大群の前に俺はボッチになった。
お読みいただきありがとうございました。
大まかなストーリーに変更ありません。
長いので分割します。
その他、誤字脱字、読みやすいように修正しました。




