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35 最強ボッチの俺はパーティーだと最弱だった

 最強ボッチの俺はパーティーでは最弱だった。

 なぜならば何もさせてもらえないからだ。

 物理無効の鉄壁の防御能力も――。

 ボットガンで発射する遠距離攻撃も――。

 相手のメンタル霊を貪り食って突き進む最強魔法も――。

 何もさせてもらえないかった。


「おい荷物持ち、さっさと歩け」

「こっちの荷物持てよ」

「キモイからそれ以上近寄らないで」


 あっ荷物を運ぶという大義な役目があった。

 こんなボッチな俺でも人の役に立つことってあるんだな。初めて知ったよハハハハ。


「くっ」


 だがクロミズと融合した俺は神の加護を得ている。

 こんな荷物ぐらい楽勝だ。

 ああ、小学生の頃の俺にこの加護があれば、クラス全員のランドセルを運べたかもしれないなあ。

 そうすればヒーローだったはずだ。

 こんなボッチな人生驀進しなかったかもしれないな。

 あれ? もしかしたらポーターって俺の天職じゃなかろうか?

 荷物持つよ。無言で持つよ――と過去のトラウマを克服しながら俺は歩く。


 パーティーで歩くメンバーはお互いの出身校や霊トレーサーになったらどうするかなどと楽しそうに会話に花を咲かせながら歩いていた。

 もしもし? ここはダンジョンですよ。

 これは遠足でもコンパでも出会い系散歩でもありませんよ。

 俺は会話に参加することもなく、曲がり角に到達する度に方眼ノートを取り出してマッピングした。

 もう一つ俺にはやることがあった。

 マッピングだ。

 地味で手間がかかるが無駄な会話に参加する必要がないからだ。

 それにここは試練のダンジョン――似たような光景を続くダンジョン。

 俺達が鬼教官に落とされた大部屋には無数の横穴があった。

 どの穴がボスに通じているのは誰にも分からない。

 センのパーティーはそんな横穴の一つに何の警戒も相談もせずに無防備に突入した。

 ボッチでコミュ障の俺はそんな彼らの無謀な突進を止めることも出来ずに黙って付いていくことしかできなかった。


「ウェーイ。テメーさっきから何してるんだ? 日記でつけているのかよ?」


 名前は忘れたが見た目がヤンチャ系イケメンアタッカーが俺の肩を激しく乱暴に叩いた。


「マジマジ? チョーウケるんですけど」


 何がウケるんだ? おもしろいという根拠を原稿用紙八枚にまとめよ。

 顔だけは可愛いが性格最悪の名前を忘れた魔法使いの一人が俺を笑った。


「どうせ、こいつ俺達への悪口でも書いているんじゃね?」


 名前を知らない大きな盾を持つイケメンガーディアンが笑った。


「確かにこいつブラックリスト書いてそう。ウケる」


 名前の知らない大人しそうな支援魔法使いの女子が俺を見て口の端を上げた。


 なにが楽しいんだい?

 なにがウケるんだい?

 人のことを下に見るという失礼な態度は自分もその覚悟がある者だけだぞ。

 俺は絶対人のことを下に見ないぞ。

 このド底辺野郎共めが。

 ……と俺はアンビバレンツな感情を心の中で吐き出しながらマップを記載し終えた。

 それにしてもこいつら絵に描いたような美男美女のパーティーだな。

 俺を除いて――。


「だから何書いてんだって聞いてんだよ」


 ヤンチャ系アタッカーが俺を小突いた。

 俺の身体から半透明の触手が出現した。

 それは鋭利な刃物のように薄く伸び、音もなくヤンチャ系アタッカーの頭上にふり上がった。

 このままではヤンチャ系アタッカーが真っ二つになっちゃう。

 それもありだな――ってダメだろ。いくらなんでも殺したらダメだろ。

 早く止めないと。

 慌てるなクロミズ。これは攻撃ではない。ただのじゃれ合いだ。

 これはよくある男の子同士の軽いじゃれ合いだ。

 なんでイジメの言い訳みたいなこと俺が言ってんだよ。

 俺の必死の説得が効いたのかクロミズが矛を収めた。

 あっぶね。こんなことでいちいち怒るなクロミズ。

 男は大海のような広い心を持て。

 だがその大海はマリアナ海溝ばりに光も通さないほどの闇に包まれているがな。

 フッ……と心を落ち着かせた俺は無言でノートを開いて見せた。


「なんだこれ?」

「ゲームか?」

「へったくそやな?」

「これはマッピングだね」


 リーダーのセンがそう補足した。


「マッピングって?」

「これまで通った地図だね」

「え? こんな単調なダンジョンで? マジ?」

「うはっ。こいつこんな単純なダンジョンをマッピングしてやがる」

「頭が悪くて覚えられないんだろう」

「バカはほっとけ」

「それしか能がないんだ。イマジナリーウェポンを持ってないんだからな」

「……」

「おい。てめーなんか言えよ」

「無視すんじゃねーぞ」

「……」


 俺はくだらない挑発を全て無視で受け流した。


「まあまあ」


 なだめるセンはリーダーっぽい。

 フンと鼻を鳴らしパーティーメンバー達は俺を置いて進みだした。

 好き勝手言いやがって、俺が心の広い穏便ボッチじゃなかったら無言でボットガンをサイレントシュートしているところだぞ。

 感謝するんだな、銀河のように広い心に。

 だが俺の怒りは収まらない。

 ストレスはため込んだらダメだ。その場で発散しないと。

 俺はボットガンを具現化し誰もいない背後に放った。

 行き所のない怒りの発露が背後の壁に激しい爆発音を奏でた。

 衝撃波が俺の前髪を揺らした。

 ちょいスッキリ。


「なっ?」

「なに?」

「なんだ今の音は?」

「モンスター?」


 こいつらビビり過ぎだろ。


「別のパーティーの戦闘か?」

「あんなデカい音がする戦闘ってなんだ?」

「極大魔法?」

「ウェポンスキルか?」


 お前ら落ち着け。

 今のは俺の壁パンっスよ。

 いやー気にしないでくだせい。

 決してお前らをパンするようなことはないからな。

 でも気を付けるがいい。口は災いの元だからだな。

 お口チャックって習わなかった?

 あまり人をバカにしてはいけない。

 馬鹿にしてもいいのは心の中だけだ。

 口に出したらそれはもう宣戦布告だ。

 反抗しない者が穏便だとは限らないぞ。

 俺はお前らが怖くて反撃できないんじゃない。

 自分の力が強力過ぎて攻撃しないだけだ。


「ともかく前に進もう。まあ単純な構造だから問題ないだろう」


 リーダーのセンが一瞬見せた笑顔を俺は見逃さない。

 確かにここは単純な構造のダンジョンだから迷うことはないだろう。

 こういった似たような光景のダンジョンはひとたび戦闘中に自分が来た方角など簡単に見失う。

 これはダンジョン歴三日ぐらいの俺の言葉だ。

 覚えておくように。


「ギャワワワ」

「待て、あの叫び声はなんだ?」


 リーダーのセンが皆を静止させた。

 なにってあれだっぺよ、ありゃあゴブリンだっぺよ。

 俺は心の中で村人Aのように答えた。


「まさか? モンスター?」

「来るなら来い」

「きたああ。初モンス」

「心配ないよ。うちら最強じゃん?」

「……」

「おいおい。怖くてびびってんなよ、荷物持ち?」

「チョーウケる」

「そりゃ武器も無ければ、びびるっちゅねん」

「……」

「みんな静かに。あの叫び声はきっとゴブリンだろう」

「え?」

「マジかよ。ゴブリンだと?」

「やってやんぜ」

「緊張するね」

「うちらならだいじょうぶっしょ」

「……」


 えっと、もしもし。もしかして、あのーもし間違ってたらごめんなさい。

 皆さんひょっとしてモンスターに会ったことないのでしょうか?


「初モンスターだ。気合入れていこう」

「緊張してきた」

「初魔物」


 ――ないようだね。

 だがモンスターって言っても最弱のゴブリンだぞ。

 あんなの誰でも勝てるだろ。

 脆いしバカだし。

 ちょっと数が多いだけの集団リア充みたいだし。

 あ、お前らよく似てるよ。

 リア充はゴブリンに似ている説を度、論文発表すっかな。


「……」

「ガーディアンとアタッカーは前に。魔法使い達は支援魔法と攻撃魔法の準備を急げ、俺は後方から援護する。荷物持ちは危ないから後ろに下がっててくれ」


 長身イケメンのイケメンボイスが響き渡った。

 魔法使いの女子達が目をウルウルさせてその様子をぼんやりと眺める。

 ここは乙女ゲーの中じゃないんですよ。ダンジョンの中ですよ。


「いくぜえ」

「っしゃあああ」

「補助は任せて」

「お前は下がってろ」


 ――と俺以外のパーティーの面々が走り出した。

 下がってろだと?

 待って、俺って実はこう見えても最強なんすよ。

 A級霊トレーサーの木曽三川警護団の面々をオーバーキルした期待の新人ルーキーなんすよ。

 生徒会長と副会長に巨乳を下げられて、渋々入部した大型新人なんすよ。

 しかもその潜在能力を恐れた黒岩家本家に狙われているという箔付きの孤高のボッチなんすよ。


「……」


 俺は無言で下がった。

 コミュ障ボッチの俺は異議を通すほどの語学がない。

 反論の声を上げるほどの声は持っていない。

 それに存在そのものが空気であるボッチの俺は周りの空気を多少は読める。

 今は前に出てはいけない空気だし、俺は必要とされていない。

 ボッチの活躍するタイミングなど皆無。

 この世にボッチが輝く場所はない、ただ黙って空気のように壁と一体化するのみ。


「支援魔法かけます」

「ああ、頼むぜ」


 大きな盾を構えたガーディアンが前に出る。

 その隣にヤンチャ系イケメンアタッカーが並び、剣を抜いた。

 彼のイマジナリーウェポンは大きなブロードソードだ。


「ガードアップ」

「スピードアップ」


 支援魔法使いが支援魔法を唱えた。

 前衛部隊の身体の身体に吸い込まれ、その表面が淡く発光した。

 うわ、本当にゲームみたいだ。

 ところで、それどこで習ったの?

 俺も教えて欲しいよ。そんな普通の魔法を。

 俺が持っている魔法なんて獲物を燃やし尽くし、そのメンタル霊を喰らって突き進む極悪非道の中二病全開のオリジナル魔法なんだからな。

 そういった優しい魔法が欲しいと思ってたんだよ。

 いいもの見せてくれてありがとう。

 今度木曽三川警護団に実験台になってもらおう。

 あの木曽三川公園のチャラ男にぴったりの魔法を思いついた。

 チャラアップ。

 うん。チャラ度が益々アップする魔法を思いついたぞ。

 ボッチアップ。

 うん。ますますボッチが加速する。

 サイレントエアー。

 うん。ますます沈黙度がアップする。


 ――と俺がくだらない妄想タイムに突入しているとパーティー達はキャッハウフフのピンクのラブラブ雰囲気で戦闘準備をしていた。


「ありがとう」

「サンクス」

「良い感じだ」

「すいません。少しかアップしませんが……」


 魔法使いの女子が、イケメン組に礼を言われ頬を染めた。


「これで充分だ。キミのおかげで勝てる」


 ヤンチャ系イケメンアタッカーのイケメンの綺麗に並んだ歯が光った。

 その爽やかな笑顔で顔を赤くする魔法使い。

 背中がムズ痒い。吐き気がする。

 もう警告なしで後ろから全員撃ってもいいかな?

 俺の主砲が発射準備に入った。

 ラブラブ空間など俺とクロミズの主砲で粉砕してくれるわ。

 いかん、冗談だ。クロミズ。沈まれ俺のボットガン。


「キミ達。攻撃魔法の準備を」


 リーダーのセンが弓を構えながら指示を出した。


「は、はい」


 魔法使いの女の子達は嬉しそうに返事をした。

 その顔は俺の時とまるで別人。

 俺を見るときはゴミを見るような目で見るというのにイケメンが話しかけた途端これだよ。

 頬を染めてメス顔して女子ぶってんじゃねーぞ。

 この腐れ外道ビッチが……ん?

 ビッチとボッチは似ている。

 もしかしてビッチとボッチの本質は同じものでは?

 いや……ないない。

 こんな相手によって態度を三百六十度変えるビッチはボッチとは似ていない。

 ボッチは誰に対しても同じ行動を取るのだ。差別しないのだ。

 誰に対しても無言、無視行動を取るのだ。

 相手が誰であろうとボッチは無視を貫き通す一本筋が入ったいぶし銀の江戸っ子みないなものだ。

 江戸っ子ボッチ。

 うむ。新たなボッチジャンルが花開いた瞬間であった。


 それにしてもイライラする。

 なんだかこのパーティーに参加してから俺の冷静なボッチ魂が乱れている。

 リア充は、陽キャは皆殺しだボッチよ。

 ダメだぞ。ボッチ君。

 俺はイマジナリーフレンドのボッチ君をなだめた。


「敵はゴブリンだからって油断するなよ」


 リーダーのセンが叫んだ。


「もちろんだぜ」

「ああ、分かっている」


 俺はその様子を後ろから見ながらある疑問を感じていた。

 待てよ? このパーティーのメンバーは即興の野良パーティーのはずだ。

 それなのに何故こんなに連携が出来ているというのだ?

 もしかして俺以外は皆知り合いとかそんな感じ?

 いや自己紹介に花を咲かせていたから知り合いではないはずだ。

 だがこの打ち解け具合……まさか? これが陽キャのスキル。

 誰とでも仲良くできるというチートスキルなのだろうか?


 頬を染めたビッチ部隊が、前衛のイケメン達をとろけた呆けた目で見惚れている。

 まっ。もうどっちでもいいや。

 どっちでも俺には関係ない話だ……ん?

 ドッチもボッチに似ている。

 もしかしてドッチもボッチも根本では同じものでは?

 ――と俺はそんなくだらないことを考えているとイケメンリーダーのセンが俺を睨んだ。


「何ボサッと突っ立っている。君は危ないから下がるんだ」


 え?

お読みいただきありがとうございました。

大まかなストーリーに変更ありません。

長いので分割します。

その他、誤字脱字、読みやすいように修正しました。

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