33 これが第一話じゃね?
ダンジョンに入ることができる者のことを霊トレーサー、または冒険者と呼ぶ。
今ここにいるのはその卵たちだ。
その背には多種多様なイマジナリーウェポンを背負っていた。
イマジナリーウェポンとは己の魂から作られた専用武器。
斧、剣、刀に弓など、その姿は現実の武器をモチーフにしていることが多い。
現実に存在しないものは想像しにくいからだ。
イマジナリーウェポンは普通の人間には見ることも触ることもできない。
文字通りイマジナリーの存在だからだ。
そしてメンタル霊で構成された魔物を倒すには、このイマジナリーウェポンが必要だった。
そして何を隠そう俺もその一人だ。
今日この日、俺達は霊トレーサーの認定試験を受けるために運転免許試験場にある古びた別館に集まっていた。
そしてなんとか霊トレーサー専用の武器を授かり、あとは認定証を受け取るだけだった。
だが突如、俺達は奈落の底、このダンジョンに落とされた。
そう、まだ試験は終わっていなかった。
認定証を授かっていない俺たち新人がダンジョンで死ぬと二度とダンジョンに入れないと言われている。
だから絶対に死ねない。
俺たちの本当の戦いが始まろうとしていた。
第一話。ボッチと試練のダンジョン――って状況解説と現実逃避をしている場合ではない。
何なの? 一体何回試験やらせんの?
もう全然ストーリーが進まないじゃん。
さっき散々戦ったやん。まだやるの?
何回試験すれば気が済むの? やってる感だけで試験増やしてない?
俺なんか赤鬼に九尾にキンミズサマだよ?
それでも足りないのか? 俺だけ差別してるのか?
後者だろう。俺だけなんか試験内容が違ったし、イマジナリーウェポンの貰い方違ったし、なんだかおかしいのだ。
はっ。間違いないこれはボッチへの差別だ。
やはり陽キャ三百人委員会の陰謀だ。
ボッチを絶滅させるべく、試験内容の難易度が跳ね上がっているに違いない。
ふん。残念だったな。俺にはクロミズというチートキャラが宿ってんだ。
だから落ち着け。まだまだ慌てるような時間じゃない。
いや、いい加減慌てろよ。
奈落の底は大広間のようになっていた。
天井は高く、壁は固そうだ。
この壁の石は玄武岩だろうが? いやそれとも白虎岩か朱雀岩か?
ええい、石なんてどうでもいい。
これからのことを考えろ。
陽気な俺とは正反対に周囲の新人たちは不安そうだ。
それはそうだろう。いきなりダンジョンに落とされたのだ。
冷静でいられるほうがおかしい。
落ち着いているのはボッチの俺だけのようだ。
何事にも動ぜず、何事にも左右されないこの強靭な精神を見習うがよい。
リア充共よ。陽キャどもよ。平伏するがいい。
ボッチの余裕をとくとご覧あれ。
だが誰も俺なんか見ていなかった。
ヘラヘラ笑っていては目立ってしまう。
ボッチ第百十二条ではボッチは目立ってはいけないと記載されている。
空気こそボッチの神髄。ボッチリズムの真骨頂。
目立たず、空気と一体化しろ。
「ようこそ試練のダンジョンへ。ここは私が設計したダンジョン。そこの穴のどれかがボス部屋に通じているかもしれないし、通じていないかもしれない。凶悪な魔物と卑劣な罠が待っているかもしれない。だが私も鬼ではない。ひとつだけアドバイスをあげよう」
鬼教官の声がした。いやあんた鬼だろう。角も牙もあっただろう。
「一人でこのダンジョンを突破するのは困難だがパーティーを組めば可能性は上がる。諸君らの力を合わせて試練のダンジョンを突破しろ。そして私を倒せ。そうすれば霊トレーサーだ」
「え?」
「パーティーだって?」
「仲間か。たしかにそうだ」
「でも一体どうやってパーティー登録すんだよ? ゲームじゃあるまいし」
モブキャラ共よ。俺の疑問を代弁してくれてありがとう。
そうパーティーたって、自己申告しかないよね?
それでいいの? だったら俺はあの強そうなパーティーの仲間になると自称する。
「パーティーとは深層意識の共有。お互いが願い、認めればパーティーとなる。一方だけの願いではパーティーに参加できない」
その鬼教官の声に俺の野望は砕け散った。
寄生不可能とは。
しかも互いの認証がいるなんて、ボッチの俺には無理。
俺なんかを認めてくれる者なんて皆無。
「そしてパーティーとなった魂は共有意識となる。つまり倒した敵のメンタル霊……経験値は平等に振り分けられるのだ。パーティーメンバーが認めていない者には分配されない」
鬼教官の声に皆が静まり返った。
これは間違いなくゲームだ。
ダンジョンは人の想像力が生み出した世界。
信仰が強い時代は宗教色の強い世界。
そしてコンテンツやゲームが発達した今は、その影響を強く受ける。
いずれにせよ。俺には無理ゲー。
俺はガックリと肩を落としながら人混みから離れた。
詰んだわ。
鬼教官はここを試練のダンジョンと言った。
つまり、この先には何らかの試練が待ち受けているのだろう。
その試練に立ち向かうには個人の力では無理な難易度になっているはずだ。
皆で力を合わせ、パーティーでダンジョンに挑むのが最も効率的だろう。
だがボッチの俺にパーティーなど組めるはずがないではないか。
ソロ万歳。単独最高。孤高こそ至高。孤独こそ最高。
つまり、詰んだ。ソロの俺には攻略不可能な無理ゲーだった。
そんなボッチをよそに、皆が声を掛け合い、パーティーを組み始めた。
俺がリア充共のコミュ能力を羨ましそうに見ているとある者と目があった。
何見てんだよ?
あれは玄関で睨んできた野良イケメン?
玄関先で我が生徒会長の圧倒的胸部ボリュームに怖気づいて尻尾を巻いて逃げ出した普通美少女の取り巻きの一人だったはずだ。
野良イケメンは俺の視線に気付いたのか、生意気にも睨み返してきた。
馬鹿にした目で。なんだよ。やんのか? ああん?
俺はこう見えてもボスを扉で挟んで潰しちゃう卑怯なクズボッチなんだぞ?
今すぐ不意打ち気味で、死角からボットガンをお見舞いするぞ? と睨んだ。
そいつは俺の心を読んだかのようにニヤリと笑った。
くっそ。なんて嫌な奴だ。あれは絶対性格悪い。絶対に友達になれない敵だ。
ああ、友達になんてどっちにしろいなかった。
「蒼岩様? どうなされましたか?」
野良イケメンの取り巻きの一人がそう言った。
「いや、何でもない。なんだか気になる奴がいてな」
「蒼岩様が気になるお方とは珍しいことを仰る」
「その方は強いのですか?」
「いや、雑魚だ」
野良イケメンは俺から目を逸らしてそう言った。
今見た? 眼を逸らしましたよ。
俺は逸らしていない。勝った。勝ったぞ。ボッチの睨み合いに勝ったぞ。
つか、いまなんつった? 雑魚って言ったよね? ボッチで雑魚って言ったよな?
許すまじ、初対面、二回目だけど、話したことも俺のことも知らないくせに雑魚だと?
まあ、初見で舐められたり、馬鹿にされたりするのには慣れている。
勝手にほざけ。俺も心の中で精いっぱい呪詛を吐くからな。
「……」
それにしても蒼岩って呼ばれてたけど、どっかで聞いたことあるような、ないような。
まあ、どっちにしても俺には関係ない話だ。
俺とお前は水と油なのだ。お前が水、誰とも溶け込めない俺が油だ。
いや、お前が油だろう。ねちっこいその目。いやそれは俺か。
「ねえ君。僕達と一緒にパーティーを組まない?」
「ああ、喜んで俺のイマジナリーウェポンはアックスだ」
「僕は盾だ。僕達いいパーティーになりそうだね」
へえ。やるじゃん。ちなみに俺にイマジナリーウェポンは大魔王の全殲滅剣と全絶滅剣だよ。通称、阿形と吽形だよ。空間が斬れちゃうから側にいると危険だぜ? と俺は他人の会話に心の中で割って入った。
「他のメンバーも探しに行こう」
「ああ、できれば後衛を任せられる魔法使いがいいな」
そう言いながら二人は去って行った。
奇遇だね。実は俺、魔法も使えるんだよ。
前衛も後衛もできる万能ボッチとは俺のことだよ。
俺は過ぎ去っていく二人の背に心の中でそう呟いた。
空しいがとっても楽しい。
ああ、心の中で勝手に返事するのって超楽しい。
だって何を言っても、変な目で見られないし、怒られないし、責任ないんだもんね。
言葉は口から出た途端、責任となって肩にのしかかる。
だが心の中の言葉は言いたい放題のフリーダム。まさに真の自由空間。
そんなボッチの虚しい遊びをしていると続々とパーティー集団が作られていった。
ん?
突然、俺の架空のアホ毛が立った。
そいつは一人寂しく壁際にいた。
あれは間違いなくボッチ種だ。同類だ。俺以外のボッチ、アナザーボッチ。
だがアナザーボッチはまだボッチレベルが低いのか周囲をキョロキョロと見回してしまっている。
あれでは誘ってくれと自己主張しているようにしか見えない。
アナザーボッチは、かまってオーラを激しく噴出していた。
俺のような真のボッチは空気と一体化する。
まだまだボッチが極まってないな――と俺は上から目線でアナザーボッチを分析した。
そのアナザーボッチはフードを深く被り、顔を隠しているから男か女の子かも分からない。
だがあれはきっとフードを取ると美少女に違いない。
どうする? 声をかけるべきか? 否か?
――考えるまでもない。
無視だ。
ボッチがボッチを誘ったらボッチの基準から大きく逸脱してしまう。
ボッチと呼べないではないか?
いや別にいいのか? ボッチ定義なんかにこだわる必要はない。
この試練のダンジョンをクリアするのが最優先なのだ。
ボッチがどうとかと、言っている場合ではないのだ。
ではパーティーに誘うか?
待て、それは俗にいうところのナンパになるでは?
ナンパ、その単語に俺は恐れおののいた。
ボッチである前に俺は極細シャイボーイだった。
声をかけることなんて無理。
だがあのボッチ少女がダンジョンをクリアできる可能性は低い。
ここはやはり無敵のボッチたる俺が恥を忍んで誘わねばなるまい。
「君一人かい? 僕らのバーティに入らないかい?」
どこの馬の骨とも分からないアシスタントの書いたコマの背景に一体化した棒人間のようなシルエットぐらいの存在感のないモブキャラがボッチ少女の前に現れた。
どうせあのフツメン。あのボッチ少女がフードを取ると可愛いと思ってアタックしたのだろ。
ボッチ少女よ。そいつから離れろ。そいつは下心を荷台に満載オーバーした下心運搬車なんだぞ。
だがボッチ少女は誘われたことに驚き、戸惑い、嬉しそうにしている。
そ・い・つ・は・き・け・ん。
俺は脳内ボールス信号をボッチ少女に送った。
だが俺のボールス信号は通じることはなく、照れながらコクンと頷いた。
オーマイボッチ。ふん。何かあっても絶対助けてやらないからな。
下心満載トラックでドライブして、カーブを曲がり損ねて谷底に落ちろ。
「……ああ」
小さい。なんて俺は極小マイクロマインドの持ち主なのだ。
なんて性格のねじ曲がった心の狭い男なんだ。
何でボッチ少女がボッチでなくなったことを素直に喜んでやらない?
そうだ。ここは涙を拭いて笑顔で送り出そう。
ボッチ卒おめでとう。これで陽キャの仲間入りだね。
来週にはあのボッチ少女は茶髪になってるよ――と呑気に観察している間に俺は完全に孤立していた。
「……」
見事に孤立化していた。
テンプレ通り俺だけが残っていた。
だがしかし、これは予想していたことだ。
俺の未来視ではこうなる未来が見えていた。
これこそボッチの通常運転。
日常茶飯事でボッチエブリデイの平常ボッチ運航だ。
だいたいボッチの無口の俺がパーティーなんかに参加してみろ?
『援護頼んだ』
『……』
『援護してくれって、ギャー』
『俺が囮になるから先に行け』
『……』
『え? 何突っ立ってんだ。先に行けってギャー』
『敵を見つけたら教えてくれ』
『……』
『敵が後ろから? ギャー』
――というようにボッチのせいで負傷するだろう。
いや、簡単に全滅するだろう。
ボッチは極めて危険な存在だ。
パーティーに入れたら絶対ダメな存在だ。
ある意味、魔物より酷い。味方のふりをして、何もしないんだからな。
だから俺が一人でいるほうが、パーティーメンバーにも、環境にも優しいのだ。
「……」
これでいい。これでいいんだ。俺はひとりでできる。
赤鬼を殺しまくった俺が、今更ビビるかよ。
鬼教官の間合いの外から、ボットガンで狙撃して終わらせるだけだ。
そう考えれば楽勝だ。俺は気分上々で歩き出した。
ボッチボッチランランランと鼻歌を歌いたいくらいだ。
すると――。
「君は一人かい? 良かったら僕のパーティーに入らないかい?」
――と俺を呼び止める声があった。
お読みいただきありがとうございました。




