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32 ボッチ専用イマジナリーウェポン

「え?」


 俺はあまりの衝撃でパッシブボッチスキルの独り言を放ってしまった。


「棍棒か? ヒノキの棒か? 銅の剣か? フヘヘ」


 気怠そうなおじさんが上半身乗り出し嘲笑した。


「……」


 俺は判断に困った。

 紙に書いてあった武器の名はボチスカリバーでもボチムネ、ボチマサでもない。

 ボッチロボでも、ボッチギネスの槍でもない。

 ボッチボルグでもボッチグニルでもない。スーパーボッチ君でもない。

 ああ、これはきっとあかん奴だ。マズイ。どうしよう。

 生徒会長と副会長になんて顔すればいいんだ。

 こんなん出ましたけどって開き直るか?


「まあ、ショックなのは仕方がない。それがお前の実力だ。誰もがヒーローになれるわけじゃない。人は自分を特別だと思いたがるが、特別な存在などいない。あるのは他人との越えがたい差と、打ち砕かれた惨めなプライドだけだ。さあ現実を見せてみろ」


 おじさんは嬉しそうにそう言った。


 昔、爺ちゃんが言っていた。

 無駄に言葉が多い人間は信用するなと。

 人の不幸が楽しい奴は自分が不幸なのだ。

 だから相手にするなと。

 そういいながら、警察二十四時的な番組で笑っていた。


 このおじさんも、爺ちゃんと一緒で他人の不幸が楽しいのだろう。

 まあ、それは俺も否定しないが、俺はリア充の不幸が楽しいのであって、善良な市民の不幸は楽しくはない。


「変な武器を引いてしまったお前に一つアドバイスをあげよう。だから見せてみろ」


 アドバイスね。確かにそれはいただきたい。

 俺はおしざんに紙を渡した。


「え?」


 おじさんの顔色がみるみる青くなっていく。

 なんだよ。青くなるのがアドバイスかよ。

 そんな隠し芸いらないからさっさと、傾向と対策を言えよ。


「大魔王の全殲滅剣じゃとおおおぉ、なんじゃこれは? なんじゃこれは! 誰か? 誰かおらぬか? おかしい。おかしいぞおお」


 おじさんが紙を放り投げ、部屋から飛び出していった。


「……」


 部屋に取り残された俺は自分が引いた紙を拾う。

 そう、紙に記されていたのは、ただの魔王の剣ではない。

 大魔王の剣だ。大が付く魔王だ。即ち小魔王も、中魔王もいる。

 この世に魔王がいるのか知らないけど、その人の剣だ。

 なんでその大魔王の剣がここにあるんだよ。

 大魔王が直接ここに入れたのかよ。


 わしの剣をくじ引きにする。

 大魔王様。なりません。そんな大切なものをくじ引きの景品にするなどと。

 ええい。わしが決めたことだ。ちょっと人間界に混乱というスパイスを入れてみるのじゃ。

 大魔王様。どうか再考のほどを。人間界は既に大混乱。資本家に支配された奴隷世界です。

 ええい、黙れ、的な大魔王の剣だ。


 それにしてもどうやって大魔王の剣って出すんだろ。

 あのおっさん、説明してから逃げろや。

 イマジナリーウェポンはダンジョン内でしか具現化しない。

 だが俺には現実でもイマジナリーウェポンが見える。

 もしかしたら。


「出でよ大魔王の全殲滅剣、我が願いに応えよ」


 それっぽい中二ワードを適当に唱えてみた。


 突然、部屋の中央にメンタル霊の暗闇が黙々と巻き上がり、目の前の空間が裂け、前に底の見えない深い暗黒の闇が現れた。

 そしてその中から一振りの禍々しい剣がゆっくり飛び出してきた。


「なっ」


 だが見た目は普通の剣だ。

 しかし、そこから溢れ出す禍々しいメンタル霊は間違いなく普通じゃない。

 早く我を手にしろとでも言っているように大魔王の全殲滅剣が微動する。

 俺はゴクリと覚悟を飲んでからその剣を手に取った。


「うおおおおぉ。人が斬りたい。斬って斬って斬りまくりたい。ぐははははのはっ……て、これくらいでいいかな」


 残念なことにメンタル霊を吸い取られるわけでもなく、剣に支配されて殺人衝動に駆られることもない。

 重くも軽くも鈍いもなさそうな普通の剣だ。

 試しに振ってみるが普通にいい感じだ。クロミズのボット細胞で作った剣のように軽快に扱える。

 まるで、最初から俺の体の一部であったかのような自然さだった。


「え?」


 なんと部屋に見慣れない亀裂があった。

 いや、あれは俺が剣を振った先。

 まさか? この剣が斬った?

 剣を振った先の空間がザックリと割れていた。


「えええ?」


 空間が切れた? いや、まだ俺のせいだと決まったわけじゃない。

 幸いもここには誰も居ない。目撃者はいない。目撃者と証拠がなければ事件は立証できないはずだ。


「……」


 だが、ドキドキしながら茫然としていると空間の亀裂が消えた。

 消えたからオッケーって全然オッケーじゃねえ。まずい、まずいよ。

 こんなの全然普通じゃない。

 空間が斬れるって、凄い威力だけど、凄すぎてパーティーメンバーごと斬ってしまうじゃないですか?

 いや、ボッチの俺がパーティーなど組めるはすがないから杞憂だ。

 ハイパー杞憂モードに突入するところだったよ。

 生徒会長の制服だけ斬れるとかなら欲しいけど、骨まで斬れそうな剣はボッチの俺に不相応。


「誰かいませんか?」


 俺はコソコソと部屋を見る。


 返事はない。

 即ち誰もいない。

 俺は大魔王の全殲滅剣を机の上に置いた。


「えっと、間違えっちゃった。テヘ」


 俺はくじ引きの紙を分霊箱に戻した。

 返品しまっす。せっかくボットモのクロミズが選んでくれた武器だけど返品だ。

 もっとボッチの俺にピッタリな暗器を所望する。隠れたところからブスリとやる暗殺者ご用達の暗器を所望する。

 空間ごと斬り裂くような派手な武器は不要。

 今度はクロミズだけではなく、とキンミズサマにも願う。


 もっと一般的で目立たないボッチの俺にぴったりの武器を引かせてください。

 ほら、ボッチ君も一緒にお願いしなさい。


『世界を破壊するような武器が欲しいボッチ。陽キャとリア充は皆殺しボッチよおぉ』


 こらふざけている場合じゃない。

 真面目な普通な俺にぴったりのイマジナリーウェポンをください。


 俺は生徒会長のスカートが風で捲れるラッキースケベ事案と同じくらい真剣に願った。

 暗殺者までとは言わない。空気で目立たないイジメられっ子にピッタリのイマジナリーウェポンをお与えください。

 そして今後のボッチライフが、楽しく健康でちょっぴりエッチなアクシデントが起きるような破廉恥人生を、我願う故に我あり。


 俺の妄想と煩悩とクリエイティビティをつぎ込んで真剣に心の底から願った。

 そしてクロミズの触手が俺の手に一枚の紙を置いた。

 頼む。

 日本刀。生徒会長とおそろいで、私と一緒だね。運命とか信じる? とかなっちゃう日本刀出ろ。でろおおおおお。


「は? 大魔王の全絶滅剣? なにこれ? さっきと変わらねえじゃねえかよ。しかもさっきより凶悪感が増してる。絶滅だよ? もう洒落にならんよレッドリストな剣なんて、ボッチの俺には不相応。返品。リコールします」


 そして、引いた紙を箱に戻し、もう一度くじを引き直そうとするが。


「あれ? なっ、ない?」


 分霊箱の中には何も無かった。

 空っぽだった。

 あんなに沢山あった紙が消えていた。

 そんな馬鹿な。物理的におかしいでしょ?

 さっきの紙の山はどこに消えたの?

 これって箱の底が抜けてて、下に人とか入ってない?


 俺は箱を動かすが、下には穴も、種も仕掛けもなかった。


「どうすんのこれ?」


 机の上には返品したはずの大魔王の全殲滅剣がそのままそこにあった。

 紙を戻したよね。なんでそこにあるの?

 もしかして返品不可能なのか?

 じゃあ二度目に引いた大魔王の全絶滅剣はどうなるの?

 まあ、あれは呼ばなければ具現化しないはずだ。

 呼ばないからな。全絶滅剣なんて絶対呼ばないからな。

 そう思った瞬間、目の前の空間が割れて禍々しいオーラを纏った剣が現れた。

 呼んでないのに勝手に出てきた。

 これが大魔王の全絶滅剣?

 だがその見た目は、全殲滅剣と全く同じに見える。

 まるでコピーしたかのような瓜二つの剣だった。


「……」


 ボレボレだぜ。

 引いてしまったのは仕方がない。

 日本刀ではなかったが、二刀流という条件はクリアしているのだ。


 俺はその全絶滅剣を手に取った。

 こっちも軽い。

 俺は置きっぱなしの机の上の全殲滅剣を手に取った。

 俺は中二感覚で二振りの大魔王の剣を構えた。

 大魔王の剣では仰々しいし、なんか中二臭い。

 新たな名前を考えなければ。


 右手の全絶滅剣のウダダだ。

 左手の全殲滅剣のサダダだ。


 二振りの剣から汽車の煙突から出るような激しいメンタル霊が溢れ出した。

 何だよ。気に入らなかったのか?


「……」


 ではお前達は阿形と吽形だ。

 大魔王の剣が歓喜に震えた。どうやら気に入ってくれたようだ。

 だが阿形と吽形もなんか言い辛い。別に全殲滅剣と全絶滅剣でもいいかな?

 人に説明するときは仮の名前の阿形と吽形にしよう。

 まあ、いずれにせよ。二刀流のダンジョン部員の誕生には変わらない。

 生徒会長と副会長喜んでくれるかな?

 どうしよう。二人の目が羨望を通り越して、ハートになっちゃったりしたら?

 え? 俺何かやらかしちゃいましたか? って顔すればいいかな。


 俺は気分上々で意気揚々と部屋を出た。

 あとは霊トレーサー認定書を貰えばいいだけだ。

 だが、どこに行けば貰えるのだろうか?

 誰もいない暗い廊下を進むと、新人霊トレーサー講習会と書かれた立て看板があった。


 受験者は講習のあと霊トレーサー認定書が配られますと書かれている。


 そ部屋の中を覗くと、緊張した面持ちの若者たちで溢れていた。

 彼らの背には色々なイマジナリーウェポンがあった。

 ショートソードからアックス、弓矢と千差万別だ。

 うわあ、いやだなあ。あそこに入るの。入りたくない。できれば参加したくな。


 俺は後ろの扉からこっそり入る。だが席は後ろから埋まっている。

 なんで日本人って前から座らないの?

 リア充気を取ってても、心の中は小心者なの?

 遠慮しないで前列から座れよお前ら。

 真の小心者である俺に、後ろの席を残しておけよ。気が利かないなこいつら。

 ――と苦虫を噛み潰しながら、前の空いている席に座った。

 人目が気になる。俺の後頭部をガン見する陽キャの視線を感じる。

 俺はそのプレッシャーに耐えられずボッチスパイモードに突入した。


「でも驚いたな。イマジナリーウェポンがウェポンプリンターで出力されるなんてマジ凄くね?」

「ああ、ダンジョンにもIT化の波が押し寄せているな」

「しかも一瞬で武器が出来上がるなんてマジ凄くね」

「俺のイマジナリーウェポンが完成するのメッチャ速かったからな」

「ああ、それに受付嬢も超美人だったしな」


 ボッチイヤーに新人達の会話が飛び込んできた。


 そうそう、俺も分霊箱からくじ引きでイマジナリーウェポンを手に入れたんだよね――と俺は心の中で見知らぬ新人に相槌を打った。


「これで俺達も霊トレーサーか」

「ああ、これでモンスターが出てきても瞬殺できるな」

「いきなりダンジョンに飛ばされるなんて、聞いてないからマジビビったよな」

「ああ、あれは生まれて初めてぐらいの驚きだった。ダンジョンって本当にあるんだな」

「早くモンスターを倒してえな」

「ああ、俺のこのヘビーアックスで倒してやるぜ」


 ああ、初めてモンスターを見たときは――って全然会話が噛み合わない。

 心の中での会話が噛み合うはずがないのだが、彼らは何を言っているんだ。

 ウェポンプリンターって何だよ。こっちはただの木の箱だったんだぞ?

 美人の受付嬢じゃなくて、逃げ出した嫌みなオッサンだったぞ?


 それにまるでダンジョンが初めてみたいな口ぶり。

 俺は赤鬼たちに襲われ、九尾を倒し、キンミズ様に加護を貰ったんだが?

 もしかして皆は俺とは違うダンジョンに飛ばされたのだろうか?

 差別だ。ボッチ差別だ。ボッチだけ酷い目に遭わせる、陽キャ三百人委員会と、リア充イルミナティの陰謀に違いない。


 俺は勇気を振り絞ってボッチスパイモードを解除し室内を見渡した。

 彼らの目には希望が満ち溢れている。俺の死んだ魚のような目とは正反対。


『死んだ魚に失礼ボッチよ』


 ボッチ君が酷いツッコミを入れた。

 ――と脳内会話を楽しんでいると、教官のようなおっさんが入ってきた。

 きっと鬼教官に違いない。いや鬼軍曹に違いない。

 新米の俺達はゴミムシ扱いされるのだ。しかもボッチで陰キャな俺はダメな見本として晒し者にされるのだ。


「えー皆さん。霊トレーサー認定試験お疲れ様でした。私は講師を務める佐藤です。短い間ですが、よろしくお願いします――ということで初めてのダンジョンはどうだったかな?」


 全然鬼教官じゃなかった。むしろ優しそうなオッサンだった。


「怖かっただろう。でも楽しかっただろう。ダンジョンで死んでも現実には影響はない。己のメンタル霊が減少すればダンジョンから強制排出される――ただ、それだけだ。だが認定前の不安定な諸君達がダンジョンで死ぬと二度とダンジョンに入れなくなる可能性がある。だからさっきの試験はダンジョンには一切モンスターは出現しなかったはずだ」


 教官は部屋の中を見渡した。

 えっと、俺は最初から単独で赤鬼祭りだったんだけど?

 もしかして並んだ受け付けを間違えたのだろうか?

 誰も並んでなかったってことは、皆、知ってたのだろうか?

 また俺だけ除け者にしやがって、陽キャ三百人委員会、許すまじ。


「ちなみにダンジョンはメンタル霊の具現化だ。従って精密な電子機器や複雑な機械類は動作しない。つまりスマホやパソコンなどの文明の利器は使用できない――おっとスマホで思い出したのだが、スマホや携帯の電源を落としてほしい。講義に集中して欲しいからな」


 その言葉に皆はスマホを取り出し、ざわつき始めた。

 まあ、俺には電話もメールもくることはないから電源落とさなくともいいだろう。


「えっ?」

「はっ?」

「まじ?」

「電源が切れてる」

「電源が入らないぞ?」


 皆が自分のスマホを見て驚いていた。

 一体何を驚いているんだ?

 俺はスマホを取り出す。普通に使えるけど?


「そうだ。ダンジョン内は精密機器やスマホが使用できない」


 教官が意地の悪い笑顔を浮かべた。先程の優しい雰囲気は一切ない。


「つまりここは――?」

「まさか?

「ダンジョン?」


 新人の一人がそう呟いた。


「そうダンジョンの中だ」


 教官が両手を広げた。


「えっ?」

「はっ?」

「ええええ」

「ようこそ私の試練のダンジョンへ」


 教官の皮膚の色が変色し額から角が生えた。


「きゃああああ」

「ひえええええ」

「うわああああ」


 絶叫する新人達。

 教壇に立っていたのは優しそうなオッサンではない。

 牙が生えた黒鬼――やはり鬼教官だったのだ。

 理解が追いつかない新人達はただ叫ぶだけだ。

 今、鬼教官は私の試練のダンジョンと言った。

 つまりこの鬼教官がここのボスということか?


「まだメンタル霊保有量の少なく不安定な諸君がダンジョンで死ねばどうなるかな?」

「ひっ?」

「えっ?」

「どうなってんだよ。試験は終わったって」

「……ああ終わったよ」


 黒鬼教官が牙を剥き出しにして笑った。


「一次試験はな」

「えっ?」

「なっ、そんな」

「そんなの聞いてない」


 新人達が一斉に抗議をする。


「なんでも教えてくれるなんて思うな? 誰かが説明してくれるのを期待するな。諸君は霊トレーサーとなったのだ。自分で判断し、自分の身は自分で守る。誰にも頼るなとは言わない。だがまずは自分の足で立て」

「そんな」

「ひでえ」

「運営出せや」


 新人達が文句を言い出した。


「ダンジョンを抜けるのは簡単だ。踏破すればいい。チームを組んでもよし、ひとりで戦うのもよし。ただし死んだら二度とダンジョンには入れなくなるだろう。これは試験だ。諸君が霊トレーサーと自立するための試験だ。我々は諸君の親でも兄弟でも、教師でもない。赤の他人だ。諸君らは自分の力を我々に示せば、興味を引くこともあるだろう。だが泣き言ばかり言う霊トレーサーは必要ない。誰かの足を引っ張るだけだからな」


 鬼教官の言葉に部屋が静まり返った。

 言っていることはもっともだ。


「そんな」

「こんなの聞いてない。訴えるぞ」

「ひでえ」

「卑怯だろ」

「親父に言いつけてやるからな」

「俺達には権利がある」

「「「そうだそうだ」」」


 新人達が声を合わせて抗議した。


「諸君らには一つだけ権利がる。それはダンジョンに入れる権利だ。ではその権利を行使したまえ」

「くっそ、ここから逃げろ」


 新人の一人が出入口に向かって走り出す。


「そんな、入って来た扉がない」


 扉だった箇所はただの壁になっていた


「ここはダンジョン。出る方法はただ一つ……私を倒すことだけだ」

「そんな」

「無理だろ」

「俺達、魔物とも戦ったことがないんだぞ」

「さて誰が一番私の所まで来れるかな? ああ、今年は勇者がいるんだったな……難易度をあげておかねば」

「そんな」

「待てよ」

「勇者って?」

「では頑張りたまえ」


 鬼教官が右手を振り上げると床が消え俺達は奈落の底に落とされた。

 霊トレーサー認定試験――それは生易しいものではなかった。非道だった。

 俺達は真っ暗な暗闇にどこまでも、どこまでも落ちていった。

お読みいただきありがとうございました。


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