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31 キンミズ様

 霊トレーサー認定試験――それは生易しいものではなかった。

 むしろ非道であった。

 俺の目の前にはゴールドでビッグなスライムが鎮座ましましていた。

 その姿は色こそ違えど、ボットモであるクロミズの姿そっくりだった。

 こんなのないよ。酷いよ。ボットモそっくりの存在と戦えというのか?

 友達を殴れっていうのかよ。この僕の手を汚せっていうのかよ。

 クロミズを扉で挟んで潰した俺が言うのもおかしいのだが。


「……無理だ」


 戦える訳がない。

 クロミズの兄弟を倒せるはずがない。

 あれは金のクロミズ。名前はきっとキンミズサマだ。

 キンミズサマは俺の気も知らずゴージャスな触手を優雅に振り上げた。

 クロミズと最初に出会った時の光景が蘇る。

 あの時と全く同じ。だが俺はあの時のような貧弱ボッチではない。

 ボッチボッチと叫ぶだけの歪んだヒネクレボッチではない。


 やるしかない。キンミズサマのコア核を潰せるような扉を探す。

 だが成金趣味の殿様御殿のような金ぴかの襖しかない。

 あんな軟な襖では金のコア核は潰せないだろう。

 ここは正々堂々と戦うしかないのか?

 ああ、どうしよう。コア核をボットガンで撃つか?

 だがボットガンの弾丸はクロミズの体液だ。

 キンミズサマの体液にダメージなど与えられようか?

 ここは木曽三川傭兵団から奪った実弾を放つか?

 それともクロミズが過去に集めた偉人達のイマジナリーウェポンを使用するか?

 そもそも物理無効のスライムに効果はあるのか?


「ちょっ待てよ」


 そもそも戦う必要があるのか?

 ……ない。これは試験だ。殺し合いではない。

 話し合いでダメだったら戦おう。

 まずは友好的な態度を示さねば。


 俺はクロミズの収納ボックスから、バスで取り込んだあの旨いおにぎりを取り出した。

 これは木曽三川警護団員が買ってきてくれたものだ。

 それを見たキンミズサマの動きが止まりピクリと反応した。


「……」


 そうだろう。スライム種は餌に弱い。

 冴え渡るボッチ脳が数万通りの作戦の中から導き出した最適解がこれだ。


「どうぞ。差し上げます」


 俺は頭を下げキンミズサマに、おにぎりをお供えした。

 生徒会長達はクロミズに米をお供えしていた。

 スライム種族は米が大好物に違いない。

 俺の予想通りキンミズサマは俺の手から奪うようにおにぎりを取って捕食した。

 そして姉ちゃんがプリンを食べた時のように震えた。

 旨いだろう。コンビニのおにぎりとは違い、旨いだろう。

 俺の秘蔵コレクションだ。


 キンミズサマが別の震え方をした。

 もっと寄越せと言っているように見えたから収納していたおにぎりを全部献上した。

 キンミズサマが歓喜に震えた。

 ゴージャスな触手を振り上げ。踊った。飛び跳ねた。

 その仕草は大きさを無視すれば可愛い。


「ごめん。もうないんだ」


 その言葉にキンミズサマが気落ちしたように縮んだ。


「コンビニのならあるけど食べる?」


 その言葉にキンミズサマが嬉しそうに震えた。

 こうして見ると、キンミズサマもただのでっかいスラッシュみたいなもんだ。

 そして俺は持っている食べ物全てをお供えした。

 キンミズサマは満足げに震えた。

 俺のお供えに満足したのかキンミズサマが、もぞもぞと震え、一本の触手を俺に差し出した。

 そこには何か光る物があった。新手の攻撃? 爆弾か?

 いや、今更攻撃なんてしてこないだろう。

 キンミズサマがプルプルと震えている。

 まさかこれはお返し?


「くれるの?」


 キンミズサマが頷くように震えた。

 俺は差し出されたものを手に取った。

 それはキラキラ光る玉だった。


「あ、あ、ああ、ありがとう」


 噛みながら礼を言うとキンミズサマが消えた。


「消えた?」


 いったいなんだろう?

 キンミズサマの玉だ。金の玉だ。キンタマだ。

 まあ有難く貰っておこう。

 クロミズに収納を伝えるが、反応しない。

 なぜだろう。キンタマを収納したくないのだろうか?

 爆弾じゃないだろうな?

 俺は光る金の玉を見ようと顔を近づけたその瞬間。


「なっ」


 光る金の玉が俺の額に吸い込まれた。

 クロミズの収納とはまるで違う。俺自身に直接吸い込まれたような感じがした。

 しかも額の周辺が暖かい。キンタマの温もりを感じた。


「そ、それは金剛様の加護だ。大事にするがよい」


 えっ? 金剛様って誰?

 俺は辺りを見渡した。

 ゴージャスな金ピカの成金ダンジョンには俺以外には誰もいない。

 金剛様って、もしかしてキンミズサマのことか。

 キンミズサマって勝手に呼んでたけど、金剛様だったのか。

 えっ? ちょっと待って。加護?

 俺は既にクロミズの加護を持っているぞ?

 加護って重複してもいいの?

 いやクロミズはボットモだから厳密には加護ではないのか?

 まあなんかよく分からないけど、戦わずにして勝った。

 これこそ諸葛ボッチ孔明。


 キンミズサマの加護ってなんだろう?

 クロミズの加護は物理無効。収納あり、魔法あり。

 キンミズサマの加護は金運アップだな。きっと。

 これで俺の慢性資金不足も解消されるだろう。

 お金とか落ちてないかな?

 そんなことを考えていると周囲の景色が薄くなりゴージャスな金一色の世界が消えた。

 ダンジョンを出る時の眩暈が襲う。




 そこはコンクリートが剥き出しの壁の小さな部屋だった。

 現実の音が戻り日常の喧騒が俺の耳を安堵させる。

 この薄汚い古い壁は免許試験場の壁と同じ。

 そう俺は元の運転免許試験場の古い建物の中に戻っていた。

 これで試験は終わったのだろうか?

 部屋を出ると、暗い廊下が続いていた。

 ここは受付の裏辺りだろうか?


 シュッという風切り音が一瞬だけ聞こえた。


「え?」


 俺の胸に何か棒のようなものが刺さっていた。

 矢のように見える。

 たが物理無効、貫通無効の俺にこんな攻撃は全く効果がない。

 俺は矢が刺さった箇所を見た。

 なあんだ。ただの矢の攻撃か。

 いやいやダメだろ。ここは現実なんだぞ。

 普通の人ならば矢を射られれば死んじゃうんだぞ。

 現実で矢を射るなんて完全に捜査一課の出番じゃねーか。

 子供探偵の出番じゃねーか。


 俺が何したっていうんだよ。

 ちょっと性犯罪したテンドー君をボッコボコに懲らしめたぐらいで、殺すなよ。

 はっ。確か俺は本家に俺は狙われているらしい。

 これ本家の仕業? 何が本家だ。何が総本家だ。

 そういう家柄とか学歴にこだわる奴は中身のない奴だって爺ちゃんが言ってたぞ。

 男がこだわるのは過去でも未来でもない。今だと。

 そして爺ちゃんは、こう見えても昔は悪かったんだぞと自慢してた。

 ええい。爺ちゃんの話はもういい。

 それよりこの刺さった矢をどうするかだ。


 無敵の俺の身体に刺さるとは、もしかして相当な使い手?

 だが出血も多量していない。

 そもそも俺は現実でも加護が効いているから車に轢かれても死なないから、この矢では死なないだろう。

 だがこのまま何事もなく歩いたら変だ。

 ただでさえ変な俺なのに益々変な人だと思われてしまう。


「ぐふえ」


 俺はわざとらしく胸を押さえながら、痛くないようにゆっくり回りながら倒れた。

 さすがに時代劇の斬られ役のようには派手な回転はしない。

 そして倒れたらピクリとも動かない。ボッチ忍法。死んだふり。


 犯人は俺がダンジョンから帰還したところを狙ったのか?

 試験が終わり、俺がここに来るのを知っていた。

 いずれにせよ、ここで死んだことにしておけばしばらくは狙われないだろう。

 ボッチスパイモードと似たようなものだ。

 俺は机に突っ伏す代わりに床に突っ伏していた。

 ひんやりとした床が気持ちいい。もう犯人は行ったかな?

 顔を上げて確認したいところだが、俺は死んだふりの真っ最中。

 もう少し待つか? なんだか眠くなってきたな。




「はっ」


 俺は遅刻かと思って飛び起きた。

 ここはどこだ?

 俺のボッチ臭い部屋じゃない?

 ああ、ここは試験会場だ。どうやら死んだふりをしていて眠ってしまったようだ。

 時計を見ると三十分ぐらい経過していた。


 誰もいない廊下が続いている。

 どうやら犯人は俺が眠っている間に恐れをなして逃げ出したようだ。

 これから俺は一体どうすればいいんだろうか?

 もう帰っていいのかな? いやいやいや、まだダメだろう。

 まだ霊トレーサー許可証を貰ってないんだぞ。

 許可証を貰わずに帰ってしまったら生徒会長になんて言えばいいんだろう。


 つかどこで貰えばいいんだろうか?

 そういえばイマジナリーウェポンも貰っていないな。


 とりあえず受付に戻ってこれからどうすればいいのか聞いてみよう。

 俺は場内表示に沿って受付に向かった。

 受付カウンターは閑散としていた。

 皆、どこに行ったのだ?


 俺の受付をした受付嬢だけが暇そうに爪を見ていた。

 俺はボッチ忍法で音もなく忍び寄った。


「あ、ああああああ、あの」

「ふえ」


 受付嬢が可愛い声を発した。

 どっかで聞いたことのある声だ。どこだろう。


「ああああああ、あの? ここここ、これからどこに?」


 俺は噛まずに流暢に華麗に問いただした。


「ひっ」


 何故か受付嬢が目に涙を貯めている。

 花粉症なのだろうか?


「っどどどこ?」


 俺は最短のセリフで意思表示をした。


「ふえ。えっと。迷ったの?」


 受付嬢が恐る恐る俺を見る。怯えた小動物のように震えている。


「……」


 俺は無言でそうなんですよねと返事をした。


「えっと、今までどこにいたの?」


 話せば長くなるのですが、赤鬼共を血祭にあげ、九尾のモフモフを喰った後にキンミズサマに餌付けして、なんと金の玉を貰って、現実に戻った途端、暗殺者に殺されて、死んだふりしてたら、少しだけうっかり眠ってしまいました。と心の中で流暢に答えた。


「ふえぇ。まだ間に合うかな。連絡しておくから二階の予備資料室に今すぐ向かって」


 受付嬢が内線をかけ始めた。


「……」


 俺はありがとうと心の中で返事をして、振り返ることなく二階に向かった。

 予備資料室はすぐに見つかった。

 資料室? 何か勉強するのだろうか?

 このまま、ここに入ればいいのだろうか?

 黙って立っていても仕方がない。

 俺はボッチらしくノックも、失礼しますも言わずに黙って入った。


 その部屋は小さな部屋だった。

 投票箱のような木箱の後ろで、おじさんが座っていて大きな欠伸をしていた。


「……」

「……」


 俺は心の中で念じた。そっちから話しかけろと。


「遅い。今までどこにいた。まあいい。とっととこの分霊箱に手を入れて武器を選ぶがよい」


 分霊箱? なんか凄い既視感のある名前の箱だね。

 おじさんが投票箱のような気の箱を指さした。

 上部には手を入れるような丸い穴が開いている。

 まるでくじ引きの箱みたいだ。


「……分霊箱?」


 俺は糸目を更に細めた。


「そうだ分霊箱だ。ここに君の幻想武器……イマジナリーウェポンが入っているかもしれんなあ? 入ってないかもしれんなあ? クックックッ」

「はあ」


 何言ってるんだ? このおっさん。腹立つわ。

 イマジナリーウェポンがこの中に入ってる訳ないだろ。

 世間知らずのボッチを舐めるなよ。


「昔はイマジナリーウェポンを作るのに何十年も祈って具現化していたんだが、今は便利なものでな。分霊箱で数秒で終るぞい。だから有難みの欠片もないわ」


 おじさんは大きく欠伸した。


「はあ」

「分霊箱は文字通り、己の霊を分割する。その分かれた霊が己の武器となる。どんな武器になるのかは個人の資質に左右され、そしてそのメンタル霊の保有量によって変わる。従ってメンタル霊や、己の霊が少なければ失敗することもある」


 おじさんは棒読みでそう説明した。


「……」


 すいません全然分かりませんと、俺は心の中でそう言った。

 これくじ引きですよね? ふざけてますよね? 世間知らずの俺でも分かるよ。

 小さいやん。武器が入るような大きさじゃないじゃん。


「……」

「……」

「早くしろ」


 しびれを切らしたおじさんがイライラした口調でそう促した。

 俺は黙って木の箱の手を入れた。


「中に紙があるから好きなのを一枚だけ選べ」


 え? まさか? 本当にくじなの?

 イマジナリーウェポンって、くじで決まるの?

 なんか安っ。あんだけもったいぶってこれかよ。


「まあ、ただのくじ引きのように見えるがその能力は本物だ」

「はあ」

「その中で手にした紙にあるのは神の言葉。己の魂にあった幻想武器。己の運も才能だ。何を手に取るかも己の資質に左右される。何も書いてないこともある」


 おじさんが面倒くさそうにそう言った。

 もう何百回って言っているんだろうな。その説明。


「くじ?」


 俺はもう一度説明させるためにわざと質問をした。

 ほら、俺って性格最悪じゃん?


「早く引け。講習会が始まってしまうぞ。一生に一枚しか引けない。人のメンタル霊の容量では一つの武器しか持てないのだからな、迷っても迷わずともその運命に変わりは無い。魂は生まれる前から決まっている。この世で身につけた知識や遺伝子の持つ性格などはただの表層に過ぎない。本質は変わらないのだ。いくら迷っても結果は同じ。早く引け。お前のような性根の腐ったような目をしている奴なんかの武器なんてしれておるわ」


 そんなに急かされたら余計迷うじゃないか。

 俺の中の優柔不断君が俺を支配して離さない。

 そんな重要なことを簡単に選べないぞ。一生に一つだけって。

 この武器によって俺の人生が、俺の楽しい巨乳鑑賞ライフ、いやダンジョンライフが左右されるのだ。

 変な武器とか引いてみろ。生徒会長に合わす顔がないぞ。

 木曽三川警護団の奴らに笑われてしまう。

 ここは慎重に慎重を重ねて、慎重をミルフィーユ状にして検討せねば。

 ああ、神様。どうすれば。そういえばボットモであるクロミズは神様だったな。


 クロミズ頼む。この箱の中で一番いい武器を選んでくれと頼んだ。

 ずるいだと? いやこれも立派な才能だ。

 俺の持つ全ての力を、能力をフル活用して現実に立ち向かうのだ。

 俺の手から半透明の触手が現れ、分霊箱を漁る。

 俺の不正は外からは見えないはずだ。

 触手が俺の掌に紙を置いた。

 これだな。これが世界の選択なのだな?

 ボットモの選択を信じよう。どんな武器だろうが文句は言わない。

 トモが選んだ選択を受け入れよう。

 俺はクロミズが選んだ紙を引いた。


「なんて書いてあるかな? フヘヘ。そこに書かれているのが君の唯一無二の武器だ。まあたいしたことはないだろうがね」


 おじさんが楽しそうな目で俺を見た。

 こいつ俺ぐらい性格悪いぞ。

 俺はドキドキしながら、折りたたまれた紙を開いた。

 俺はトモを信じる。ボットモの選んだモノを信じる。受け入れる。

 ヒノキの棒でも、錆びた剣でも受け入れよう。呪いの剣でも受け入れよう。


「……」


 そこには小さな文字でその名が書かれていた。


「……え?」

お読みいただきありがとうございました。


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