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32/113

30 認定試験開始

 俺の身体から飛び出したボットスピアが赤鬼の胸を貫いた。

 赤鬼は断末魔を上げることなく、黒い煙をまき散らしながら消滅した。

 それを合図に至る所で煙が立ち上り、赤鬼達が大量に湧き出した。

 俺は一瞬で赤鬼軍団に囲まれた。舌なめずりする赤鬼たち。

 それはまるで集団で一人を囲むとはリア充みたいだった。

 俺の中の怒りの炎がボチっと燃え上がった。


 クロミズ、いっちょやんぞ?

 俺はクロミズのボット細胞をダブルバスターソード、通称ボチバスタソードに変化させた。

 それを見た赤鬼が笑みを浮かべ、そんなものこの金棒でへし折ってやるわ、と金棒を振ったてきた。


「ひぃ」


 俺は小さな叫び声を上げながら回避。

 そして、よろけながら畳を蹴って走った。


「ひいぃ」


 だがそのラナウェイ速度が俺が思ってよりもかなり速かった。

 あまりの速度で視界が、ぐにゃりと歪み、和風ダンジョンの光景が溶ける。

 慣れろ。この速度領域に。俺たちはこの高速の住人だ。


 流れる集中線の中から飛び出す金棒。

 俺はそれをボチバスタソードを薙ぎ払う。

 勢い余ったボチバスタソードが金棒を両断。

 同時に笑みを浮かべたままの赤鬼まで真っ二つ。

 金棒が斬れただと? 俺はあまりの切れ味に若干引いた。

 それもそのはず、このボチバスタソードは硬質化した細胞を伸縮性のある細胞で挟んだ日本刀のような剣なのだ。斬れて当然。


「グアアアアア」


 消えゆく赤鬼を見た他の赤鬼達が吠えた。

 集団で襲い掛かりやがって、俺の中のトラウマに再着火。


 赤鬼が棍棒を振り上げた。

 俺は畳を蹴って強制停止。その衝撃で畳がめくり上がる。

 俺の脚力はクロミズによってアクセラレートされている。

 通常の人間の脚力ではない。だから大丈夫だ。

 俺は赤鬼に向かって走った。

 俺の速度に驚く赤鬼を両断。

 そしてその隣の赤鬼も両断。

 左足で畳を踏む抜き、慣性を殺す。

 急ターンにより宙を踊る畳の乱。

 赤鬼の丸太の様に太い足が迫る。

 俺は体を回転させて赤鬼を二閃。

 上下に分断される赤の肉体の向こう側に新たな赤鬼が棍棒を振り上げるのが一瞬見える。

 俺はその落下中の赤鬼が落下するよりも速く潜り抜け、その赤鬼を金棒ごとぶった斬る。

 他の赤鬼が後退る。もちろん逃がさない。

 俺はその距離を一瞬で詰めると自分を抱きしめるようにボチバスタソードをクロスさせて、解放した。

 同じ軌道を描いたボチバスタソードが赤鬼の上半身と下半身を分断した。

 リア充に情けは無用。俺に逆らう者はボチ殺しだ。

 ここは半分現実。半分空想の世界。

 だから罪悪感なんて覚えるな。引け目を感じたら負けだ。

 弱い心が俺を弱くする。強い心が俺を強くする。

 負け犬根性が染みついた俺でも、心の底から負けたわけじゃない。

 だから今は自信満々ボッチで進撃しろ。駆逐しろ。

 俺には無敵。大丈夫だ。死なない。俺が死ぬ前に全員皆殺しだ。

 生まれてこの方、我慢しかしなかった。

 その鬱憤を今開放するだけだ。


「……」


 俺はボチバスタソードを振りまくり、赤鬼を殺しまくった。

 俺が消し去った赤鬼空白地帯に向かって、周囲の赤鬼集団がなだれ込む。

 それは陣形も、へったくれもない、ただの暴徒だ。

 だがその暴徒は人ではない。赤鬼だ。

 しかもその体格は、その戦闘能力は人間の比ではない。

 ボッチの俺だだけだった、お漏らし失禁コースだった。

 だが俺には絶対無敵のクロミズがいる。

 だが、その圧倒的な数に俺の自信が揺らぐ。

 何という数だ。牙をむき出しにした恐ろしい表情を浮かべて迫る。


「ふん」


 だが俺はそれを無表情で睨み返す。

 そして迫り来る赤鬼を袈裟斬り、逆袈裟、水平斬り、逆十文字斬りで屠る。

 俺の寂しい背中に、赤鬼たちの殺気が突き刺さる。

 だが背後から狙うのは分かっている。俺の武器はこれだけじゃない。

 俺は振り返りもせず、ボットガンを放った。

 衝撃波と轟音が空気を震撼させる。

 両隣の赤鬼を両断しながら振り向くと、ボットガンをくらった赤鬼の顔に大穴が開いていた。

 赤鬼が煙となって消え去る前に俺は次の赤鬼に斬りかかる。

 太い赤鬼の二の腕にボチバスタソードをフォークのように突き刺して振り回し、迫っていた別の赤鬼にぶつける。

 よろけた赤鬼の胸に、ボチバスタソードを突き刺し止めを刺す。

 そして抜いた反動を利用して後ろに飛ぶ。

 俺が数フレーム前にいた空間に何かが着弾し、畳が燃え上がった。


「なっ? これは?」


 魔法? まさか赤鬼が魔法を使用した?

 俺が知っている昔話のパンツをなくした赤鬼ドンは魔法なんて使わなかったぞ?

 ええいここはダンジョン。非現実が現実となる世界。

 常識は捨てろ。


「どこから?」


 俺はメンタル霊の残滓から射線を追う。

 一匹の赤鬼が口からメンタル霊を漏れ出ていた。

 はたして、日本古来の鬼も現代風にアップデートされているのだろうか?

 ダンジョン。それは古代の神々、ゲーム。カード。映画、小説。全ての人類の妄想、想像が具現化する世界。

 過去の偉人や、歴史上の人物、版権キャラが出てこないのが救いだ。

 版権クリア済みなのだろうか?

 赤鬼が口からエネルギー光弾を吐こうが、目からレーザーを発射しようが慌てるな。

 俺は想像力では誰にも引けを取らないはずだ。

 他人といる時間がはるかに少なかった俺の想像力と妄想力とボッチクリエイティブが爆発する。

 複数の赤鬼が口を俺に向けて開けた。

 発射五秒前?

 実は剣より飛び道具の方が好きだ。


「ボットガン」


 俺の体から半透明の砲口が出現し咆哮。

 高圧液体が和風ダンジョンを駆け巡り、襖を、障子に穴を開けて、赤鬼にも風穴を開けた。


「グアアアアア」


 赤鬼からメンタル霊が噴出する。

 それを切り裂くように赤鬼が突進してくる。

 俺はダブルボチバスタソードを背中に固定する。

 どうやって固定できているのかなんてどうでもいい。

 俺は右手を突き出し、赤鬼の猛突進を片手で止めた。

 赤鬼の表情が驚愕に染まる。

 俺が蹴り上げると二メートルを超える赤鬼が宙を舞った。

 そしてボチバスタソードを再び掴むと宙に浮いた赤鬼を二閃。

 四つに分離する赤鬼。

 その破片の向こう側の赤鬼にボットガンを放つと赤鬼の頭が吹っ飛んだ。


 赤鬼群が叫ぶと、煙が立ち上り今まで倒した数を上回る赤鬼が出現した。

 赤鬼が何匹? 何十匹? 何百匹? 今まで倒したのが誤差のように思えるほどの赤鬼が出現した。

 いくらなんでもロンリーソロボッチでは無理な数。

 さっきは調子に乗ってすいませんでした。

 ボットガンで倒せるか? 無理じゃね?

 俺はネガティブという深い沼にズブズブと沈み込んでいく。


 トーリ。頑張ったらご褒美があるかも、と架空の生徒会長が言った。


 トーリ君。死なないで。死んだら一緒に部活できないから、と架空の副会長が目をウルウルさせた。

 そうだった。

 俺にはダブルヒロインとのキャッハウフフの桃色学園生活が待っているのだ。

 ここで諦めたら、その桃色が灰色に変わってしまう。

 諦めるな。暗く惨めな今までの人生を思い出せ。

 陽キャに蹂躙されまくった悲惨な人生を思い出せ。

 怒りが沸き上がる。

 俺には最強のクロミズがいるのだ。

 最強のトモの名にかけて、俺は負けるわけにはいかない。

 俺にはまだ奥の手がある。

 それを全部出しきってダメだったらその時また考えよう。

 今はこいつらを皆殺しにすることだけを考えろ。


「ノスフェラトゥフレイム」


 巨大な紫色の炎が迸る。

 俺の中二時代の代表的な作品が突進した。

 巨大な炎の奔流。炎の進軍に赤鬼たちが一瞬で飲込まれた。

 その膨大な光量と熱量が赤い赤鬼の皮膚をさらに真っ赤に染め上げる。

 だがそれも一瞬だった。赤鬼は炭化し、メンタル霊となって飛散し、ノスフェラトゥフレイムに同化した。


 そして止まらない。赤鬼たちを糧にしてさらに燃え上がる。

 生まれたときよりもはるかに巨大な炎に成長したノスフェラトゥフレイムが歓喜に震えた。

 その背後の赤鬼も、隣の赤鬼も飲み込み、ノスフェラトゥフレイムは益々燃え上がる。


「ギャアアアア」

「グアアア」

「ヒギャアアア」


 残されるのは赤鬼たちの断末魔だけだ。

 広大な畳の間が一瞬で紫色のノスフェラトゥフレイムに飲み込まれた。


 俺でさえ止められない炎の進軍。

 なんという威力。なんという暴虐無尽で残酷。

 俺の中二ノートから適当に抜粋したオリジナル魔法の威力に俺自身もびっくらこいた。


 こうなると凶悪な赤鬼もただのメンタル霊にすぎない。

 まさに外道。恨み深いボッチの俺に相応しい魔法だった。

 ボッチのように人の話を聞かず、了承も取らず、ただ勝手に無慈悲に残酷に、相手を無視して問答無用で焼き尽くすのみだ。


「なっ?」


 だが地獄の炎の行軍が止まった。

 俺の最強魔法である紫色のノスフェラトゥフレイムが焼失した。

 くわっと俺の細いボッチアイが見開かれた。

 なんと、俺の中二の蹂躙を止めた存在がいるのだ。

 辺りが静寂に包まれた。


 俺の喉がボクリと音を鳴らした。

 現れたのは黒い影。

 それは四つ足で九本の長い尾があった。

 なんとノスフェラトゥフレイムを飲み込んだのは九本の尾を持つ、歴史上最悪の魔物の九尾だった。

 狐で尾が九本といったら男の子なら誰もが憧れる最強のボスキャラ。

 なぜ九尾が最強なのか? 誰がそう決めたのか?

 そんなの決まっている。漫画やアニメだ。

 九尾はなぜか強いと決まっているのだ。

 呪いとか歴史とか置いといて、ただ単にカッコいいからだろう。

 先人たちのアイデアをパクッて自分の作品に登場させる作家たち。

 それをリスペクトと呼ぶのは少し乱暴だ。

 オリジナルの魔物を考えられなかった作家の想像力の欠如に過ぎない。

 ええい、そんなことはどうでもいい。

 今は目の前の敵に集中しろ。


 さっきのただの偶然の、シェフの気まぐれサラダだ。

 俺はもう一度最強魔法であるノスフェラトゥフレイムを放った。

 だが九尾は俺のノスフェラトゥフレイムを尾で振り払い、打ち消した。


「なっ」


 そして緑色に輝く瞳で俺を見た。

 かかってくるがいいと言っているようだ。

 いいだろう。かかってやろうではないか。


「ボットガン乱れ撃ち」


 俺の身体から無数のボットガンが放たれた。

 何百発という無数の高圧液体弾が発射された。


「なに?」


 だが九尾には一切当たらない。

 見えない防御スクリーンに阻まれる。

 こなくそ。威力が足りないだけだ。

 俺は特大のボットがんを放った。

 だが九尾は俺の攻撃を予期していたようにスルりと避けた。

 直線で飛ぶボットガンの軌道は読みやすいのか?

 ではこれならどうだ?

 俺の意思で曲がる精神のボットガンだ。心の乱れマインド曲線ボットガン。

 それは俺の心の乱れによって波打つ不安定なボッドガン。

 弾丸の翼が小刻みに動き、進路を変える可変弾丸。


 だが、九尾の口角が上がった。

 ボットガンが九尾の前で拡散した。


「え?」


 口径が足りない。威力が、俺の覚悟が足りない。

 いや、相手の方が強いだけだ。こんな強敵に会ったことがない。

 流石はコンテンツ業界最強種の九尾だ。

 だが俺はボッチ貴族界最下位の男爵の称号を勝手に名乗る最強ボッチ。


「クロミズ、本気を出すぞ。あれを全部出せ」


 俺の周囲に何百という、古風な武器が現れた。

 同時に俺の身体からも何百という触手が現れ、それらを掴み構えた。


「千本ボ桜」


 千本はないが無数の刀、槍が、九尾を囲う。

 避けられる数ではない。

 避けられる速度ではない。

 しかも俺の筋力はクロミズの筋力によって強化され加速された斬撃が全方位から同時に九尾を狙う。


 だが九尾が笑った。

 突然俺の目の前に暗黒の穴が開いた。

 それは底も見えない真っ黒の穴だ。

 俺の心の闇よりも深遠な闇が広がった。


 九尾がその穴から姿を現した。

 なんと空間をショートカット、ワープしたのだ。

 俺の無防備の体に九尾の尾が突き刺さった。

 だが俺は貫通無効だ。こんな攻撃、痛くもかゆくも屁でもない。


「ぐふっ」


 俺の口から大量の液体がまき散らされた。

 これは血? メンタル霊? そんな馬鹿な?

 俺は無敵のはずでは?

 激痛が背骨を駆け上る。

 痛い。死ぬほど痛い。


「ギャアアア」


 これは俺の叫び。激痛が激痛を生む。

 床を転がり周り、視界が回る。激痛も回る。

 そんな俺を見て九尾が笑った。何度も何度も笑いやがって。

 俺が一番嫌いなのは笑われることだ。

 俺は何の努力もしないくせにプライドだけは成層圏よりも高い。

 くっそ。痛くて立ってるのもやっと。

 俺には神であるボットモが宿っているはずだ。

 無敵だったはずだ。

 その無敵の体に傷をつけるとは――。


「はっ? まさか?」


 あの九尾も神か?


「くそおおおお」


 俺の視界がぐらりと歪み畳が頬を打ちつけた。


『やったかボッチ?』


 いやいや、そこはやられたのかボッチ? でしょ?

 こんな時に妄想している場合ではない。

 激しい痛みで意識が飛びそうだ。

 だがボッチ君の軽口で意識が回避した。


 ダンジョンで死んではならん。

 二度とダンジョンに入れなくなるぞ。


 生徒会長の言葉が俺の頭に過った。

 ここで死ぬわけにはいかない。

 メンタル霊が底を付けばダンジョンから追い出されてしまう。

 そしてまだ新人である不安定な俺は二度とダンジョンに入れなくなる。

 だが傷口からメンタル霊が抜け出ていく。

 俺という存在が薄くなっていく。


 腹が減った。今ここで腹が減る? これは食いしん坊のクロミズの意思か?


 あれ? なんだか美味しそうなメンタル霊があるぞ?

 俺は九尾の尾を掴んだ。

 九尾の顔に驚きが走る。

 そして九尾の尾にかぶりついた。

 俺はスライムであるクロミズと融合している。

 つまり俺の身体全てが口だ。

 俺の最強の技はこのなんでも食べちゃう食欲だ。

 九尾の尾が消えた。

 代わりに膨大なメンタル霊が流れ込んでくる。

 同時に九尾のプレッシャーが消えた。

 尾がない九尾はただの狐にしか見えない。

 殺す。例え化けて出てもその時また殺すだけだ。

 俺はボット細胞でバスターソードを具現化させた。

 切り刻む。この怒り、この痛み、億倍に返す。


「ふえぇ」


 だが九尾が可愛い声を発して白い煙となって消えた。

 あれ? 逃げた? まだまだお楽しみはこれからなのに逃げるなんて狡いよ。


 この世界にコンテンツ業界最強の九尾の尾を食べちゃう存在などいようか?

 いまい。もうヤケクソだった。

 腹が減って死にそうだった。

 メンタル霊を補給しなくてはダンジョンから追い出されてしまうのだ。

 そして二度とダンジョンに入れない身体になってしまう。

 そうなったら、生徒会長と副会長との絆が消える。

 あの圧倒的胸部ボリュームから離れるわけにはいかないのだ。

 それだけは死んでも避けなければならない。

 俺の目の前に補給できそうなものがあったからそれを食べただけだ。


 俺の身体に開いた大穴を半透明の何かが覆って塞いだ。

 今のはヤバかった。ボバかった。

 無敵だと調子に乗っていた。

 反省しよう。敵を見くびるな。これからは弱かろうが強かろうが全力で殺す。


「勝者……加賀坂通。試験終了……」


 俺は取り出した過去の幻想武器を収容するよう命じた。

 ダンジョンから出るとき特有の眩暈で視界が歪む。

 ようやく試験が終わったのだ。

 これであの圧倒的胸部ボリュームを拝めるのだ。

 いつもなら鉄壁のガードの副会長も緩んで俺を抱きしめてくれるかもしれない。


 だが俺の眼前に広がるのは元の運転免許試験場ではなく。


「え?」


 金屏風がどこまでも続き、床は畳で覆われ天井や柱は金箔で彩られていた。


「ここはもしかしてダンジョン?」


 しかもただのダンジョンではない悪趣味な金箔のダンジョンだった。


 そして王たる存在がそこにいた。

 その広大な部屋の中央にそれは君臨していた。


 半透明の身体は金色の背景を透過、反射しその身体自体が金で、できているようだった。

 金色の巨大なコア核が俺を睨んだ。


「ゴールドスライム」


 それは巨大なスライムだった。


「では二次試験開始」


 俺の驚愕をよそにアナウンスが流れた。

お読みいただきありがとうございました。


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