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28 霊トレーサー認定試験へ

 ボッチの朝は早い。

 他の生徒がまだ寝ている時間に登校するのがデフォだ。

 何故ならば、ボッチの俺がいることで皆の清々しい雰囲気をぶち壊してしまうからだ。

 しかも運悪く女子生徒の後を歩いてみろ、不審者だと勘違いして小走りになって逃げだすはずだ。そして通報され不審者事案で逮捕まっしぐらだ。

 登校とは末恐ろしい試練なのだ。

 無害で寡黙なボッチが、下を向いて歩いているだけで害悪。

 リア充共のキャッハウフフの列の中央を突破することも眺めることも不可能。

 だから時間をずらしたほうが皆にとってもボッチにとってもウィンウィンな関係なのだ。


 という訳でいつもの癖で俺は日曜日だというのに集合時間の一時間前に着いてしまった。

 我が校は部活強制の部活優先校ゆえ、グランドからは朝練に勤しむ生徒達の声が聞こえてくる。

 ああっ。清々しい。これこそ青春だ。俺が味わうことのないショッパイ青春をゲップが出るほど堪能すればいい。


 そんな清らかな青春の光景に似つかわしくない黒塗りのバンが止まっていた。

 サングラスをかけた怪しい男がキョロキョロと学校の様子を伺っている。

 あれは間違いなく誘拐犯だ。お巡りさんこいつです。

 いや、俺じゃなくてこいつです。

 黒塗りのバンは拉致専用車とコンテンツ業界では昔から相場が決まっているのだ。


 はっ、まさか狙いは生徒会長と副会長?

 あの麗しきビューティフル粒子が凝縮した奇跡の美的存在を手に入れようとする悪の組織かもしれない。

 ボットガンでここから狙撃するか?

 いや、今日は大事な霊トレーサー検定の日だ。

 ボットモであるクロミズの力を使って、たんぱく反応が出て失格になったらまずい。

 今日は力を温存しておいたほうがいいだろう。

 とりあえず、国家権力に通報だな。

 だがまともに喋れない俺が通報なんでできるわけがない。

 ああ、俺はどうすればいいんだ?

 俺がアンビバレンスの深い谷で悶えていると、突然、バンから降りたチンピラがサングラスを外して俺をガンと見た。

 いわゆるガン見というやつだ。


「くっ」


 俺は咄嗟にボッチ専用パッシブスキル、目そらしを使った。

 なんて悪そうな奴なんだ。

 あの細い目。あの目は間違いなく何人も殺している目だ。

 あんな細くて凶悪な目つきは絶対悪人だ。

 俺は気付かないふりをして、その横をそっと通り過ぎる。

 約束では校門前に集合だから集合時間にまた戻ってくればいい。


 だがチンピラは俺を目で追う。

 おいおい滅茶苦茶見られてんぞ。ボッチ君なんかした?


『知らないボッチよ』


 ボッチ君がそっぽを向いた。


「……おいっ」


 これは事案だ。声かけ事案だ。


「……」


 当然無視だ。

 いくら物理無効の無敵のボッチマンの俺でも怖ーものは怖ー。

 それより何で俺、呼び止められてんの?

 俺、何かした?

 まあ、神様を扉に挟んで殺しちゃった罪は認めよう。

 だがどそれは済んだ話だ。

 そもそも俺なんか誘拐しても会話なんか続かないからメリットないですよ。


「おい。お前。ここの生徒だろ。お前に聞きたいことがあるんだが?」


 チンピラがイキった声を恐喝してきた。

 ふえぇん。お金なんてないよぉ。

 底なしの暴食胃袋のせいで俺の小遣いはマイナス金利状態なのだ。


「っておい」

「……」


 す、すんません。

 無敵のボッチとかイキってすんません。

 もう二度とイキりません。

 ボッチはボッチらしくリア充の陰でコッソリと生きていきます。

 なんなら俺のクラスのイケメンリア充を紹介しますから、そいつらで勘弁してください。

 あいつら自称すぐキレてボコっちゃう、この辺のワルとだいたいツレらしいですから。

 あんた達と、お似合いの上に、とっても気が合いそうですよ。


「あれ、カガッチじゃね?」


 チンピラが俺を見ながらそう言った。

 誰だよ。それ。


「えっ。マジ? うわぁ。確かにあの眠そうな凶悪な目つき。何人か殺している者特有の目……カガッチに間違いないわ」


 車の中から別のチンピラが顔を出した。

 ヤバイ。仲間が増えたよ。

 そもそもカガッチって誰だよ。

 俺の名前は加賀坂通だぞ。

 俺のことを呼ぶならばサカトーリ君って呼べよ。


「あのーカガッチ。まだ少し早いすけどクルマに乗って待っててくだせい。先導する車からの報告では巫女様達も間もなく、ここに着くそうですから」


 クルマの中のチンピラが俺を手招きした。

 俺は後ろを振り返る。誰もいない。

 もしかしてこのチンピラ達は朝から堂々と俺を誘拐しようとしているのか。

 なんて大胆不敵な誘拐犯チンピラだ。断る。無視だ。だんまりだ。

 ん? でも今巫女様って言った?

 巫女って生徒会長たちのことだけど?


「あのーカガッチ。俺らのこと覚えてねースか?」

「……」


 知らんな。そもそもボッチの俺に友はいない。

 俺と友になりたかったら命のやり取りが必要だがその覚悟がお前にあるのか?


「俺達は木曽三川警護団っスよ。ほらダンジョンで皆殺しにされた」


 チンピラが笑顔で自分の顔を指さした。


「……」


 はて? 一級河川を警護する人達が何故ここに?

 ここに守るべき一級河川はありませんが?

 ダンジョン内で自動小銃を乱射する傭兵団なんか知らんな。

 テンドー君に金で買われた哀れな傭兵崩れなど知らんな。

 はっ、まさかこいつら俺に仕返しに来たのか?


 傭兵崩れなんだから迷彩服ぐらい日常でも着とけよ。

 なにスーツを華麗に着こなしてんだよ。

 俺は反射的にボットガンを撃とうとしたその時、チンピラが耳のインカムを操作して話し始めた。


「カガッチ。敵意はないですからそんな目で見ないでくださいよう。こちら三班。カガッチを確保した。どうぞ」

「こちら二班。了解、情報通り来るのが早いな。巫女様に伝える。こちらも、あと数分で到着する。どうぞ」


 車内のスピーカーから応答があった。


「三班了解」


 おおっ。なんかチンピラのくせに無駄にカッコいい。


「つーことで、カガッチ。クルマの中で待っててください。巫女様達もすぐ着きますから」

「……」


 何でこのチンピラ達はこんなに俺に親し気なのだろうか?

 こいつら俺にダンジョンでオーバーキルされたんだぞ。

 少しは怖がれよ。恐れろよ。崇めろよ。褒めたたえろよ。

 餌で釣ろうとしても知らない人の車なんか乗らないからな。


「……あっ。あー。えっと。車の中に軽食がありますよ。サンドイッチとか、おにぎりとか朝飯ありますよ」


 チンピラが苦笑いをしながら後部ドアをスライドさせて俺を手招きした。

 俺の意思に反して俺の胃袋が、ギュルルと返事をした。


「……」


 俺は黙って黒塗りの車に乗り込んだ。

 俺の意思で乗ったのではない。

 俺の預かり知らぬところで働いた大いなる意思によって知らないうちに車に乗っていたのだ。

 そして差し出されたおにぎりを受け取り、何の警戒もせずにかぶりついた。


「……」

「沢山あるんで遠慮せず食べてください」

「米屋のおにぎりはコンビニとは違うだろ」


 車内の木曽三川警護団員が、別の味のおにぎりを渡してきた。

 こいつらスゲーE奴じゃん。

 疑ってすまんかった。ダンジョン内でオーバーキルしてすまんかった。


「……うんまあまあ」


 俺は、次のおにぎりを頬張りながら適当に返した。


「ははっ本当によく食いますね」

「加護持ちは燃費悪いからな。あれだけの加護を維持するには食っても食い足らないだろうなぁ」

「ああ、いいなあ。俺も強力な加護欲しいな」

「なあ、カガッチはどうやってクロミズ様の加護をもらったんだ?」

「……」

「加護を得るためには己の力を示す必要があるっていうしな」

「……」

「そりゃクロミズサマに信頼されているからだろう?」


 言えない。扉に挟んで殺したなんて言えない。


「しかも霊トレーサー認定前なのに加護を持ってるなんてチートじゃね?」

「あんだけ強ければ、霊トレーサー認定証なんて必要ねーだろ」

「バカ。認定証がないとダンジョンに入れないだろうが」

「だけど、この強さのルーキーとかあり得ないっしょ」

「俺ら仕事なくなっちまうぞ」

「もう俺達は巫女様の警護員なんだし。仕事しなくてもいいだろ?」

「確かにそうだった。就職したんだった黒岩家に」


 木曽三川警護団を前に俺は貪り食った。

 旨し。確かにコンビニのおにぎりとは一味違う。

 米屋のおにぎりってどこだろうと包装を見るが、その店は車じゃないと行けない遠い場所だった。

 残念。この余っているおにぎりをクロミズのアイテムボックスに保管できたらなあ。

 そうすればいつでも好きな時に食べれるのに。


 まてよ?

 俺の加護はダンジョン外でも作用する。

 車に轢かれても無傷だったし、上級生にボコられても痛くも痒くもなかった。

 ひょっとすると現実でもアイテムボックスも使えるのでは?

 誰もこっちを見ていないことを確認してから目の前の袋のおにぎりを睨んだ。

 すると俺の身体から半透明の触手が伸び袋に伸びて優しく撫でた。

 すると袋が凹んだ。

 袋を手に取ると、なんと中身のおにぎりが消えていた。

 そしてもう一度念じると、今度は袋にずしりと重さが感じられた。


「クックックッ」

 なんと成功だ。

 おにぎりがクロミズの異次元アイテム袋的なものに収納されたのだ。

 あとはアイテムボックスに収納したおにぎりが時間経過でどうなるか様子を見よう。

 だがアイテムボックスの中の時間は止まっていると相場は決まっている。

 もし止まっていなくても、氷を入れたクーラーボックスに入れておけばいいしね。

 でもこんな能力があったら、あれだ。万引きの神様。泥棒の神様になってしまう。

 怪盗ボッチ団現る。直接手を触れなくとも盗めちゃうのだ。

 どんなセキュリティだろうがクロミズの半透明の非物質の触手をさえぎることなど不可能。

 まさに無敵。まさに極悪非道のルールブレーカー。

 だがしかし、俺はトモであるボットモの力を犯罪めいたことに使用するつもりはない。

 それに俺はハート以外は盗まないと昔から決めているのだ。

 そんなことを考えサンドイッチを頬張っていると、木曽三川警護団の無線がまた鳴った。


「クックックック」

「こちら弐班。間もなく目的地に到着。校門周辺に異常はないか? どうぞ」

「こちら三班。カガッチが不敵な笑みを浮かべている以外異常なし。補足だが食べ物でカガッチの懐柔に成功」

「それは朗報だ。巫女様に報告しておこう。直ぐにそちらに向かう」


 なんだよ不敵な笑みって、懐柔って。誇り高きクロミズの眷属たる俺はそんなに簡単に、食べ物ごときで懐柔されないぞ。


「カガッチ、巫女様達が到着しやスから。あっちの車に乗り換えてください。この車は先に行きやスから」


 チンピラがドアを開けた。

 俺は名残惜しそうに米屋のおにぎりを見る。


「向こうにも沢山ありますから心配いりませんぜ」


 俺はその言葉を信じて残りのおにぎりを鞄に放り込み、サンドイッチを咥え、両手にサンドイッチを持って拉致車から降りた。

 すると向こうから大きなバスが現れた。

 どっかの部活が遠征でも行くのだろうか?

 こんな豪勢なバスが用意できる部活はエリートキャリアである野球部かサッカー部だろう。

 次のサンドイッチを食べながら眺めていると、俺の眼の前でバスが止まった。

 そこには生徒会執行部御一行と書かれたプレートがあった。

 生徒会の面々がどっか行くのか?

 はっ。俺ってば執行部員だった。

 このバス。うちのバスかよ。

 俺の視線に気付いてサムズアップする運転手。

 あの運転手をどういう殺し方したのか思い出していると、バスの扉が開き、俺は奇跡を目の当たりにした。


 朝の陽光を纏った麗しき光の女神が降臨したのだ。

 数日ぶりにご尊顔したその御身は光り輝き、圧倒的なはち切れそうな胸部ボリュームが天を仰ぎ、俺の荒み、暴力に支配された薄汚れた疑心暗鬼に陥った心を一瞬で浄化した。

 何の変哲もない平凡な校門前が聖地と化した。

 バスから降り立ったのは爽やかな朝の陽光を後光に従えた我が先輩方、生徒会長と副会長だった。

 そして二人が背負った太刀が陽光を反射し俺の細い目を追い打ちで焼く。


「おお、ぉおやよう」

「おはようトーリ君。眠そうね。起きてる?」


 眠くないです。起きてますから。細目をディスるの止めてくれません?

 だがそれはいい。細目でいじられるのはいつものことだ。

 それよりも、どどどど、どうやって挨拶を返す。

 幸いにも俺はボッチで、コミュ障で感情表現が乏しく無表情だから、心の中が乱れてもそれがアウターワールドに漏れ出すことはない。

 ああ、神よ。この断絶された人の世のシステムに感謝します。

 他人と一体化するような、人類を補完する計画なんて全く必要なんてないんだからね。

 他人と繋がったらこの不埒な心が筒抜けになってしまうから。


「お、おぉ、お、よよよううぅ」


 ちょっと、お、が多かったけど人生初の女子への挨拶にしては上出来だ。


「あら、トーリ君。制服変えたの? 似合ってるわよ」

「え、まあ」


 副会長が俺の制服のサイズに気付いてくれた。

 何でも見通せる鑑定眼のスキルを持っているだけはある。

 俺は照れ隠しに頭を掻いた。


「トーリよ。忘れないうちにこれを渡しておこう。お前の受験票だ」


 生徒会長が俺に一枚の古めかしい紙を手渡してきた。

 なんとそこには俺の名前と受験番号が書かれていた。


「……受験票?」

「ええ。トーリ君は今日、霊トレーサー検定試験を受けるのよ」

「へ? 試験?」


 俺の頭の周りに疑問符が羽ばたいた。

 受験って何? 霊トレーサーになるのにテストがあるのですか?

 ボットモであるクロミズと融合した物理無効の俺様にもテストがあるのですか?

 お前、テスト勉強した?

 やべぇ。全然してない。

 友達ができたらしてみたい試験前の探り合いトークを脳内で繰り広げ、動揺を鎮める。

 なんだよ。試験って。

 副会長のダンジョンの解説を適当に聞いていたから、まったく覚えてないぞ。

 確か境界性乖離が、監視員がどうのとかだっけか?

 俺にお受験を突破できる度胸はない。

 落ちた。落選。落第だ。そしてダンジョン部から追い出されるのだ。

 短い間だったが、二人のいい曲線を見せてもらったぜ。


「心配無用よ。ダンジョンに入れる者は全員合格するから」


 副会長が間髪入れずに俺の疑問に答えてくれた。

 はい? ダンジョンに入れる者は合格?

 いやいやそれって試験って呼べるのか?


「ダンジョンに入れる者は少ない。だから皆合格だ」


 生徒会長が小さな顔を振って話すたびに揺れる背中の太刀には慣れた。

 だが、その圧倒的な胸部ボリュームにはちっとも慣れません。

 いやいや、それよりなんて言ってた? 全く聞いていなかった。

 俺が悪いんじゃない。

 そのお胸の脂肪の塊が悪いんだ。

 いや、これはただの脂肪の塊ではない。

 夢が詰まっているんだ。大いなる力が宿っているのだ。

 俺が集中できないのは二人のグラマラスボディのせいに違いない。


「会長。そろそろ」


 副会長が腕時計を指さした。


「そろそろ行くか。しかしバスで移動なんて遠足みたいで楽しみだな」


 生徒会長がホップステップジャンプでバスに飛び乗った。

 お胸と背後の太刀が同時に激しく揺れた。

 俺は慌てて、その後にバスに乗り込んだ。

 残念ながら副会長がその後に続き、生徒会長の短いスカートが醸し出すラッキースケベイベントはその一睨みによって未然に阻止された。


 バスの中は豪華だった。いわゆるリムジンバスってやつだ。

 木曽三川警護団の一員が窓の外を見ながら座っていた。

 誰も俺と目を合わせようとしない。あからさますぎて逆に清々しい。

 まあいい。モブキャラに用はない。

 向かい合わせの座席の前には大きなテーブルがあり、その上には、食べ物で溢れていた。

 俺の眼はそこに釘付けになった。


「……」

「トーリ君。さっきかなり食べたって聞いてるけど、まだ食べるつもり?」

「……」

「男子高校生は食べるのが仕事ですよ。巫女様。先発隊が安全確保しました。出発してもよろしいでしょうか?」


 確かこの スーツが似合うダンディなおっさんは分身したおっさんだ。

 確か木曽三川警護団の隊長だったはずだ。

 迷彩服でないと格好いいじゃないか。くっそ。


「ここのおにぎり旨いだろ」


 隊長が違う種類のおにぎりを差し出してきた。

 俺はそれを黙って受け取った。

 E奴やん。ぶっ殺したけけどA奴やん。


「おい。出発だ」


 隊長が運転手に命じた。


「あいあいさー」


 運転手が野太い声で答えた。


「いやー。部活の皆とバスに乗るなんてわくわくするのお」


 生徒会長は空いている座席に次々と腰を下ろした。

 ああ、あの座席になりたい。


「会長。あんまりはしゃぐと車酔いしますよ」


 副会長がたしなめる。


「はははっ。わ、わ、私は車酔いなどしたことないぞ」

「……知りませんからね」

「こらこらトーリよぉ。何つまらなそうな顔をしているのだ? もしかして一丁前に緊張しているのか?」


 生徒会長が長い足を組んで、座席にどかんと座り酔っ払いのように絡んできた。

 眩しい。視界の半分は白い肌だ。さすがにガン見はまずい。目のやり場に困る。

 別の意味で緊張していますよ。

 副会長の全てを見通す目に睨まれた俺は黙って暴食の胃袋を宥めることにした。


「まあ、緊張するのは仕方ないの」


 生徒会長がお菓子を頬張りながら車内を走り回った。


「せめて座って食べてください」

「座っておるのだ」


 生徒会長が座った瞬間にそう言った。

 お菓子の食べこぼしが散乱する。

 副会長が手で拾っていく。


「千草も食え。あーん」

「はいはい」


 俺はそんな無邪気な美少女のじゃれ合いを見ながら、テーブルの上の次の獲物を物色していると無線が鳴った。


「こちら壱班。怪しい車を発見した。ルート変更を推奨する」

「こちら弐班。了承した。迂回ルート……プランBに変更する」

「三班も了承した。プランB」

「巫女様。ルートを変更します」

「分かりました。トーリ君。試験場までちょっと遠回りになるから」

「……遠回り?」

「多分本家の妨害でしょう」

「その通りでした。ナンバープレート照会で黒岩家と判明」

「……?」

「あいつら大人げない。トーリ。心配いらんぞ」


 生徒会長がお菓子の袋を開けようと、顔を真っ赤にしながらそう言った。


「トーリがテンドーをボコったせいで本家の連中が報復に出ようとしておってな」

「え?」

「トーリ君の霊トレーサー認定を妨害しようとしているのよ」

「え?」

「せっかくの後輩の晴れ舞台を邪魔されてはかなわん。そこで木曽三川の奴らに護衛を頼んだのだ」


 生徒会長がため息交じりにお菓子の袋を開けるのを諦めた。


「まあ、ヤオロズの管理する認定試験会場に入れば安全よ。もう暫く我慢してね」


 副会長が、生徒会長の持っていたお菓子を開けながら笑った。


「それにしても、いいバスだな」


 生徒会長がお菓子を頬張りながらソファで飛び跳ね、隊長を見た。


「恐縮です。俺たちの移動用です。大人数が移動すると目立つので」


 いや、このバスも充分目立ってますがな?


「いっそのこと巫女様専用車にしますか?」


 隊長が自慢げに手を広げた。


「え?」


 俺は思わず声に出して驚いてしまった。


「おいおい。カガッチ。俺らこう見えても稼いでんだぜ?」


 木曽三川警護団の一人が自慢してきた。


「……かがっちぃ?」


 それより俺のことをカガッチと呼ぶの止めてもらってもいいでしょうか?

 馴れ馴れしいぞ。お前らテンドー派だっただろーが。

 俺は殺気を込めたボッチアイで見返した。

 木曽三川警護団が動きを止めた。


「あ、トーリ君、カガッチって呼ぶように提案したのは私なのよ」


 副会長が、思い出したようにパンと手を叩いた。

 緊張した社内の雰囲気が消えた。


「え?」


 なにそれ? 聞いてない?


「だっていきなり大暴れして、警護団の面々をオーバーキルしてダンジョンから追い出したでしょ? 木曽三川警護団の皆さんがトーリ君のことを怖がるから、可愛いあだ名で呼んだらどうかしらと提案したのよ。だから仲良くしてね。昨日の敵は今日のトモってね」


 副会長の極上満点ウィンクを頂戴しました。

 カガッチとは副会長様が名付け親でしたか。とても品があって、良い呼び方ですね。

 カガッチ最高。サカトーリの三倍はいいね。


 確かに昨日の敵は今日のトモだ。

 俺はそうやってクロミズとボットモになったのだ。

 あとあの黒ミノタウロスとも。

 副会長は今良いこと言った。


 木曽三川警護団員が俺と仲良くなりたそうな目を向けている。


「……はあ」


 と俺は許した。


「……」


 木曽三川警護団が沈黙した。

 あれ? 今の返事はまずかった?

 なんて答えれば正解だったのだろうか?

 ええまあ。にすれば良かったのだろうか?

 俺は会話の内容を反芻し、最適解を探していると。


「そ、そういえば、今年の新人にとんでもない奴がいるって聞きましたが? 巫女様は何か御存知ですか?」


 空気を読んだ隊長が話題を変えた。


「ん? とんでもない奴? トーリのことか?」


 生徒会長が大きなクリクリの目で俺を見た。

 俺って、とんでもない奴だったのかよ。初めて知ったよ。

 それよりも生徒会長にそう思われていたなんてショック。


「……いえいえ、確かにカガッチはとんでもないですが、噂では蒼岩家の候補生らしいですよ」

「なに? 蒼岩家だと?」


 生徒会長が突如立ち上がり、その可愛い眉間に可愛い皺がよった。


「ええ。そいつはイマジナリーウェポンを持ったまま生まれたと」

「それってまさか?」

「勇者ではないか?」


 生徒会長と副会長が驚いて大きな目を大きく見開いた。

 え? 勇者って現実にもいるの?

 勇者ってゲームの中だけじゃないの?

 ああ、確かダンジョンは想像力に影響されるから、ゲームの影響もフィードバックされていると言っていたような気がする。

 ダンジョンは想像の産物だから勇者がいてもおかしくはない。


「まあ、ただの噂ですから」


 イマジナリーウェポン。それは霊トレーサー専用武器。

 生徒会長と副会長の背負っている太刀のことだ。

 霊トレーサーは全員これを所有している。

 あまり気にしてなかったが、このチンピラの集団である木曽三川警護団の面々も武器を背負っている。

 クロミズに喰われた隊長のイマジナリーウェポンが復活している。

 俺にはそれが見える。

 ダンジョン、現実問わず見ることができるのだ。

 現実でも加護が効いているのと関係があるのだろうか?

 まあそれはどっちでもいい。


「イマジナリーウェポンか……」

「トーリのイマジナリーウェポンはなんだろうな? 楽しみだな」

「ええ。クロミズ様の眷属だから刀系だと思うけど、トーリ君のはどうでしょうね」

「クロミズ様の加護持ちは日本古来の武器が多いですものね」

「……」


 俺は無言で相槌をうった。

 なんでみんな俺の心の声に反応したのだろうか?

 それよりも俺のイマジナリーウェポンってどんなんだろうか?


「イマジナリーウェポンは本人の魂によって決まるの」


 副会長が俺の疑問に答えてくれた。

 俺の魂の具現化となると、ボッチ魂に関連した形になるんだろうか?

 ボチスカリバーとか? ボチムネとか、ボチマサとかかな?

 それとも俺の心の中に住むイマジナリーボッチ君ロボかな。

 ゆけーボッチ君ロボ、敵をやっつけろ。

 ヤダボッチ。

 こんなボッチ君みたいな反抗期まっさかりの武器じゃなくて、普通の武器がいいな。

 だが俺にはクロミズが蓄えている古来の武器が山のようにあるし、それを使わないのも先代達に申し訳ないし、ま、武器は多いに越したことはないだろう。


 そんなことを考えながらテーブルの上の食料を貪り食っているとバスが大きく曲がった。


「巫女様。そろそろ到着いたします。先行する二班と三班からは異常なしとの報告です」


 隊長が報告をする。


「ありがとう。護衛感謝します」


 副会長が隊長に向かって礼を言う。


「勿体なきお言葉。残念ながら試験会場内までは護衛できませんが……」

「まあ、トーリなら大丈夫だろうが、トーリよ。改めて言っておくが、クロミズサマの加護を人前で乱用、使用しないようにな」


 俺は生徒会長の大きな瞳から逃げるように窓の外を見た。

 使うなと言われても困ります。

 目的はどこかの施設のようだった。


「我々は駐車場に待機しております。何かあれば御連絡をください」


 隊長が一礼した。


「……」

「……緊急時にはこちらから連絡します。定期報告お願いね。」

「承知しました」

「……」

「安全面を考慮してバスを玄関付近に着けます」

「先導する二班と三班が駐車スペースを確保しました」


 本家の妨害がそんなに怖いのだろうか?

 木曽三川警護団の面々の顔に緊張が走る。

 よくよく考えれば、これは俺の為の警護なんだ。

 俺は目が合った隊長にぎこちなく頭を下げた。

 すると隊長は笑った。

 今日初めて笑ってくれたような気がする。

 他の警護団の面々も安堵の息をついている。

 俺は他の警護団員にも頭を下げた。

 俺は感謝の伝え方を知らないのだ。

 いつか流暢に喋れるようになったら、ちゃんと礼を言うからな。

 旨いおにぎりをありがとうと。


 俺は照れ隠しに窓の外を見ると施設の入り口の看板が目に入った。

 そこにはこう書かれていた。


 運転免許試験場と。

 え? ボッチの免許皆伝の俺には免許なんていらないんだが?

お読みいただきありがとうございました。

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