23 ボットモコレクション
それはどこからどう見ても本物の刀だった。
刀を生んでしまった。
どうしよう? 俺の子か?
いやいや、身に覚えがない。それに何だか古臭い。
爺ちゃんに連れてかれた骨董品屋の奥で埃を被っているような代物だ。
うーん。爺ちゃんが見たら生き返るに違いない。
一本だけか? 生徒会長達はダブル太刀だった。
一応後輩の俺もその伝統に右に倣えしたい。
もう一本生まれないかな?
そう思ったらなんと、もう一振りの刀が俺の体内から生まれた。
「え?」
俺は双子の太刀を産み落としてしまった。
クロミズさん。どこに隠してたのこれ?
俺の中のクロミズがテヘペロした気がした。
これでダブル太刀はできるんだけど、ちょっと古臭いというか、流行遅れというか、他にない?
ずずっと何かが俺の体が飛び出した。
それも一本や二本じゃない。大量の槍や弓、斧などの武器が怒濤の勢いで生まれていく。
「ええええ?」
ドン引きする俺の前に積み上がる武器の山。
「待て待てストップイット」
分かった。古臭いとか言って悪かった。
もう止めて。つかこんなに沢山どこに入ってたんだよ。
物理法則とか質量保存の法則とかフレミングの右手の法則とかを完全に無視しているよね? は? まさかこれってクロミズが喰ったもの?
そうだ、と肯定するかのように霊ガンやダンジョン弾が吐き出された。
これ木曽三川傭兵団のオッサン達が持っていた銃と弾?
初めて会った時の黒スライム状態の時にはこんな武器なんてどこにもなかったぞ?
取りあえず凄いし偉いし、尊敬したから全部しまってくれ。
俺の体から触手が飛び出し、武器の山をくるりと撫でると一瞬で消えた。
「これってベストオブチートのアイテムボックスさんですかい?」
触手がそうだぜベイベーと陽気に踊った。
これ教科書とか持ち歩かなくてもよくね?
小学生の頃にこれがあったら、ランドセルを運べてヒーローになってたな。
いやいや、そもそも運ぶ必要ないから。それイジメだから。
「ん? アイテムボックスがあれば、体液飛ばさなくてもよくね?」
攻撃の度に体液を飛ばしてたら干からびちゃう。
「体液じゃなくてこの弾とか物理的な物体を飛ばせばよくねえ?」
俺の冴えわたるボッチブレインが導き出した最適解。
「テストしてみよう」
俺は右手を前に出し、人差し指を真っすぐ伸ばして銃を構えるポーズをする。
誰もが鏡の前でやったことのあるあのポーズだ。
「レイガ……おっとこの名前はいけない……ボットガン」
俺は架空のトリガーを引いた。
凄まじい音と共にダンジョンの壁に大穴が開き、衝撃波が遅れて俺の黒髪を揺らした。
「え?」
クロミズのアイテムボックス内に保存されていた霊ガンの弾が高圧で発射されたのだ。
いける。いけるぞクロミズさん。
俺のボッチブレインとお前の無敵の身体が合わされば最高のコンビになるぞ。
チョ待てよ――発射するのは弾以外でもよくね?
山のようにあった武器も飛ばせないかクロミズ?
俺は槍のような飛びそうな物を弾丸にすることをイメージする。
「スピアボットガン」
そして叫んだ。
その瞬間、ダンジョンの壁が大爆発した。
衝撃波が俺に襲い掛かるも衝撃無効で無効化された。
「え?」
土煙が収まると槍が壁に半分ぐらい突き刺さっていた。
「う、うわあ。これはやばい。マジヤバイ。ボジボバイ」
無敵じゃね? 鬼ギレボッチモードにならなくても俺無敵じゃね?
わざわざ剣を振らなくても、飛び道具で瞬殺すればよくね?
剣や斧はカッコいいけど飛び道具には敵わない。
俺は木曽三川傭兵団が持っていた霊ガンを取り出し、それをダミーにしてボットガンを撃つ練習をした。
風切り音だけでダンジョンの壁に無数の穴が開いていく。
銃なんか撃ったことない俺でも正確に射撃できる。
クロミズの照準アシストにより百発百中のようだ。
「恐ろしい力だ」
だが狭いダンジョン内では直ぐに壁に当たってしまう。
この弾丸、曲がらないのかな?
父親がゴルフでいつも曲がると自慢していたのを思い出した。
俺は曲がる変化球などをクロミズに説明する。
ついでにジェット推進やロケットの仕組みも説明しておく。
クロミズが何かを取り出し俺の目の前に掲げた。
「おおお。これは安定翼?」
弾の後部に半透明のボット細胞の翼がくっついていた。
飛行機のフラップのように上下に動いた。
スライムの体って便利なものだ。
分裂しても通信できるらしい。
つまり離れていても動かせる。誘導弾ができる?
小型誘導ミサイル? クロミズ。できるか?
任せろと俺の中でクロミズが言ったような気がした。
俺は右手を前に突きだした。
「ボットミサイル」
俺の掛け声と共に掌からミサイルが発射された。
ミサイルは壁に直撃する寸前、曲がる。天井に直撃する前にUターンする。
部屋の中を縦横無尽に飛び回り、やがて威力が落ちて床に転がった。
「凄すぎる」
だが高圧発射では威力が落ちるな。
クロミズも同じことを考えたのか、新しいミサイルが掌に出現した。
これはもしかしてロケット?
「ボットロケット」
俺の掌から発射されたそれは推進剤を射出しながらダンジョン内を飛び回った。
「水か? 水を高圧噴射しているのか?」
原理は単純。これはペットボトルロケットだ。
やるじゃないかクロミズ。
ロケット推進まで使いこなすとはまさに神。
アイテムボックスの中には弾も槍も弓矢も大量にある。
そんなの無敵じゃないですか? 最初から無敵だったクロミズが俺の科学知識を得て更に無敵となってしまった。
この事実がクロミズの巫女の生徒会長と副会長に怒れる。
クロミズ。この技は秘匿すべきだと思われる。
何故だ? 俺の中のクロミズが眉を顰めた。
時代が追いついていないんだ。
ダンジョンはファンタジー世界。テンドー君たちが銃を持ち込んだがそれもまだ実験段階だ。
相手が重火器の場合のみ使用しよう。
やれやれだぜ。と俺の中のクロミズが肩をすくめた。
よし。遠距離の攻撃手段はこれでいい。
近接戦はさっきの武器が大量にあるから問題ないだろう。
「だけどあれ、誰の武器?」
俺の中のクロミズが沈黙した。
無視かよ。後ろめたいのだろうか?
まあいい。俺もサラリーマン冒険者のようなカッチョイイ武器が欲しい。
なあ、クロミズ。さっきボット細胞でロケット弾を作ったけど、それと同じように剣とか作れないかな?
俺の中のクロミズが任せんしゃいと胸を張った。
俺の腹からボットハンドが現れ、先端が平たくなる。
そして見る見るうちに剣の形になり、サラリーマン冒険者のバスターソードの形状になった。
「え? バスターソード?」
だが見た目は半透明の黒濁したボットハンドそのままだ。
ヌラヌラしてるけど決してキモくないよ。
現実のバスターソードの色は銀色。
そもそも色の原理は光の反射だったはずだ。
俺が色の仕組みをクロミズに伝えると、半透明だったバスターソードが不透明になり、反射率が上がり、刃にダンジョンの天井が反射した。
「おいおい」
そしてボット細胞でできた剣は本物みたいなバスターソードになった。
「天才か。どこからどう見てもバスターソードじゃん。スゲーぞ。一度見たものは作れるってことか? ってことは武器以外も作れたりするのか?」
ボットハンドの先が生徒会長の姿になった。
「え?」
ミニ生徒会長。生徒会長のフィギュアじゃん、型取って複製して販売したい。
原型師になれるぞクロミズさん。この黄金曲線の巨乳パーツの再現も完璧だ。
ゴクリと俺の喉が鳴った。俺は一応周りを確認するが誰もいない。
俺は高鳴る心臓の音を聞きながら、そこに指を置いた。
「くっ」
柔らかい。
生徒会長の胸って柔らかい。そりゃあボット細胞なんだから柔らかくて当然だ。
違うんだ。そういう柔らかさじゃない。これは奇跡の柔らかさなのだ。
柔らかさの中に適度な揉みごたえの弾力がる。
素晴らしい。
俺は生徒会長のお胸を触ったぞ。ニヤニヤが止まらない。
生徒会長の胸の感触を堪能してうると、今度は副会長の姿になった。
「これは」
だが鋭い副会長のことだ。例えボット細胞のフィギュアだろうと胸を触ったという犯罪を糾弾される可能性がある。あとが怖そうなので触らずに拝んだ。
「クロミズさん。副会長も完璧だ」
気分を良くしたのかクロミズがまたも何かを形作った。
「おっとこれは?」
それは紗古馬さんだった。
スマホに入ったクロミズは撫でられたから彼女のことを気に入ったのだろうか?
その次に変化しようとしたものを俺は慌てて止めさせた。
「クロミズ。止めなさい。それ以上はいけない」
なんと我が家の悪魔の姿になろうとしていた。
あぶねえ。この世に鬼が再現されるところだった。
こんなところで姉ちゃんの鬼姿なんて見たくない。
それにしてもなんでクロミズは悪魔の姿を知っているんだ?
まだ会っていないはずだが? もしかして俺の記憶から再現したのだろうか?
クロミズ。禁止だ。厳禁だ。我が家の暴君を呼び覚ましてはならない。
あれは人類には過ぎたものだ。分かるな?
「……」
分かんねえか? まあいい。とにかく姉ちゃんだけはダメだ。
しかしこれはかなり使えるのでは?
いやいや、エロい意味ではなくて、武器としてだ。
ボット細胞を分離させて武器の形にするのは何かと便利だ。
俺はボッチブレインをスパークさせる。
イマジナリーウェポンがない俺がリア充に囲まれた時に取る手段を。
「よしこれでいこう」
そして三分間の熟考の末、ボッチバトルスタイルが決定した。
「ダブルボバスターソード」
これはクロミズのボット細胞で模倣したバスターソードだ。
ボット細胞は自分の手の重さを感じることがないのと同様に軽い。
この見た目は極太のバスターソードには重さがない。
「ふっふっふっ」
俺はバスターソードを振り抜いた。
自分の足にめり込んだ。
「うっ」
自分の体を斬ってしまうところだったぜ。
だがこの剣は俺の体を覆うボット細胞と同じ細胞。
斬れなくてよかった。
つかこのボチスターソード長すぎじゃね?
もう少し短く、使いやすくしよう。
そう念じると極太バスターソードが短くなった。
短小かよ。
なんか違うんですけど? これ全然カッコよくないんですけど?
俺は短くなったボチスターソードを振り回す。
短小だが使いやすい。
慣れたら長くしていこう。自分の体を斬ったら他人に何を言われるか分かったもんじゃない。
ああ、見られる人なんていなかった。
俺は暫く二刀流を練習した。
なんと剣と剣を交差させても俺の体を素通りするように剣自体も突き抜ける。
暫くすると通路の奥からゴブリンの声が聞こえた。
おっと、まだリア充の残党がいるらしい。
『リア充は皆殺しだボッチよ』
ああ、ボッチ君。リア充は皆殺しだ。
「ヒトキレボッチモード」
俺はA級霊トレーサーレベルの加護を纏った。
ボット細胞が俺の体をアシストする。
身体が軽い。足が自動的に前に出る。
石畳が、石壁が高速で後ろに流れる。
一瞬でゴブリン軍団を発見。
俺は敵を前に減速しない。
それどころか加速した。
「ギョニ?」
俺は目の前のゴブをダブルボチスターソード短小版で両断した。
斬れた。
運動能力マイナス値の俺は剣の使い方なんて知らない。
だが俺の身体を動かしているのは誰だ? 神であるヤオロズのクロミズだ。
俺はただ願えばいい。ここは願いが具現化するダンジョン。
俺は考えるだけいい。すると体が勝手に動く。
短小ソードが流れるようにゴブリンの首に吸い込まれる。
メンタル霊が噴出経験値となって俺に吸い込まれる。
そして俺は床を蹴りつけ急停止。
その運動エネルギーを回転に変換させ回転斬り。
周囲のゴブリンが上半身と下半身に分断されてメンタル霊となって消えた。
「弱い」
一瞬だった。息つく暇もない。
俺の周りにはゴブリンだった血煙のようなメンタル霊と小さな石だけだった。
「なんだろうこれ?」
それは宝石のように光る石だった。
さっきまで出てなかったはずだが?
俺は拾って匂いを嗅いだ。
そこはかとなくゴブリンの匂いがする。
ゴブリンのメンタル霊が凝縮した物質――魔石かな?
ばっちい魔石だが、クロミズの触手が一撫ですると消えた。
食ったのか? お腹壊すから吐き出しなさい。
するとゴブリンの魔石が掌に現れた。
食ったものを吐き出すんじゃないってアイテムボックスに収納したのか?
だったら問題ない。
俺が顔を上げると弓矢が目に刺さった。
「ぎゃああ」
痛くないけどびっくりした。
誰だよ。矢なんて放ったのは?
通路の奥で弓矢を構えるゴブリンがいた。
くっそ。リア充め。卑怯だぞ。
俺は次の矢を射ようとしたゴブリンに向かってボットガンを放った。
ゴブリンの上半身が吹っ飛んだ。
「ひえええ」
威力の調整が難しい。
とにかく嫌いな練習をするしかない。
俺はボットガンの調整や短小ソードを振り、ダンジョンを大掃除しながら奥に進んでいった。
そしてボス部屋に辿り着くと――。
「グモオオオオオ」
と黒くて大きなボスがいた。
ここはクロミズと俺の思い出の場所だぞ。
誰が勝手に入っていいって言った?
「グモモモッモモモ」
それは黒くてデカいミノタウロスだった。
お読みいただきありがとうございました。




