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20 浮かれボッチ

 日曜日空いてる?

 俺のボッチイヤーの聞き間違いではないだろうか?

 否。太陽が赤色巨星化し地球が飲み込まれたとしても、断じて聞き間違いではない。

 では聞き間違いではないとすると何だ?


 これは間違いなく、あの伝説のデートのお誘いだ。

 デートなんて来世の、そのまた来世ぐらいで実現する予定だったが俺の予想よりも二百年は早かったようだ。


『舞い上がるな。あの件がバレただけだボッチよ』


 こらこらボッチ君。不吉なことを言うんじゃない。バレるはずがないじゃないか。クロミズのコア核の破片は全て回収したはずだ。

 まさか? 回収忘れがあったとか? いや、ミノタウロスを撃破した時点では何も落ちてなかったからそれはないはずだ。

 ボッチブレインが高速スパークし、情報伝達ボッチ物質をブボっと吐き出すが答えは出ない。

 まさかダンジョン内にも監視カメラあるのか?

 俺の殺害の瞬間が撮影されていたら、弁解の余地がない。

 どうしよう謝るか? このまま騙し続けるか?

 否。勘の鋭い副会長を騙し通せるはずがない。


「……」

「あれトーリ君。聞こえてる?」

「ええ、まあ」


 だからその曖昧な表現は辞めろと姉ちゃんに毎日怒られているだろうが。

 いや、今はこの曖昧さでいいはずだ。

 まだバレたという確証はないのだ。

 自分から罪を認める必要がない。


「トーリ君?」

「ひいい。すすす。すいません」


 俺は罪を認めてあっさり謝った。

 終わった。俺の桃色とピンクの学生生活が終わりを告げた。

「あれ? 日曜日空いてなかった?」

「え、まあ」

「あらそう。なんとか空けられないかしら? 大事な用事なんだけど」


 大事な用事って何? やはり俺の査問員会。

 俺のボッチハートが口から飛び出しそうだ。持ってくれよ。俺の右心室、左心房、そして大動脈弁。


「……」


 ダンマリとサイレントボイスで誤魔化しきれない。

 罪を認めて償おう。


「はい。分かりました」

「……よかった。じゃあ、会長と三人でお出かけしない?」

「……」


 ん? 三人?

 なぜ? 今この話題の中で生徒会長が出てきたのだ?

 もしかしてダブルデート? サンドボッチデート?

 違う。クロミズ殺人事件の容疑者である俺を糾弾する尋問会が行われるのだ。


「え?」

「三人でダンジョン協会に行きましょう」

「はあっ?」


 俺は滅茶苦茶でかい声を出してしまった。

 スマホ越しの副会長が耳を押えている状況が浮かぶ。

 このハヤトチリボッチが。伝説の歩く美少女の副会長様がボッチの俺とデートなんてするわけねーだろ。そもそもダンジョン協会って何だよ。俺はそこで尋問されるのか?


「ダンジョン協会はねダンジョンを管理をしているヤオロズ主催の組織で、ここで発行されるライセンスがなければダンジョンに入れないの」


 副会長の声って可愛いよな。

 何言ってるのか全く訳わかんねーけど。

 顔も最高。スタイルも最高。背中の太刀も最高。

 いやー癒されるわ。もう俺の傷付いたボッチハートがみるみるうちに修復されていく気がする。死刑宣告はこの美声で帳消しだ。


「場所はちょっと遠いから七時に校門前集合でいいかしら?」

「はあ」

「……ということだから絶対に遅刻しないでね。お休み。風邪ひかないでね」

「……う、お、おおおおやすみ」

「……あ、トーリ君、あと助けてくれてありがとうね。これからもよろしくね」


 俺は女子との初めての電話を終えた。

 我初女電。

 気が付くと俺のスマホの水没シールが反応するぐらいベトベトだった。


「お兄ちゃん日曜日デートなの?」


 びっくりした。なんでお前がいるのだ?

 小さな耳に手を当てているポーズで座っている。可愛いなお前。

 だが姉ちゃんが浮かべるような悪代官の顔をしている。可愛くないなお前。


「……違う」


 デートだったらどれだけ良かったか。日曜日は審判の日なんだ。


「……そう。がんばってね」


 何を頑張るの? 俺が犯した罪は消えないんだぞ?

 俺は肩を落としてショボッチ、ショボッチと自分の部屋に戻った。

 はあ。遂にバレてしまった。

 クロミズの巫女である生徒会長と副会長がそれを知ったら殺されてもおかしくはない。

 せっかく伝説の美少女と知り合えたのに恨まれるとは、俺の人生お先真っ暗。

 いや、もともと真っ暗なお先だったからこれ以上暗くなりようがないんだった。



 ――翌朝。俺は暴飲暴食して早めに家を出た。

 体が重い。足が重い。まるで断頭台に上る気分だ。

 いつもと同じ時間、同じ道なのに、晴れているのにやけに暗い。

 世界がこんなに暗黒に染められていたなんて知らなかった。

 きっと今の俺はボッチ界一のダークボッチだろう。

 クロミズが俺の視界を黒く覆っているからだろうか?

 そういえば俺の見た目は闇の住人だった。

 地面の小石を数えながらトボッチトボッチと歩いていると、腹が減ってきた。

 コンビニに入ると何かの反射が俺の目を焼いた。

 あれはバスターソード?

 こんな物騒なものを持ち歩いているのはあいつしかいない。


「!」


 なんとまたあのバスターソードを背負った怪しいサラリーマンに遭遇したのだ。

 よく見るとバスターソードは男の背中に浮いている?

 それにどこか生徒会長と副会長のダブル太刀と似ていた。

 これってまさか霊トレーサーのみが持つというイマジナリーウェポンってやつですかい?

 つーことはこのサラリーマンは霊トレーサーってこと?

 その自信に満ちた目。恵まれた肢体。とても強そう。

 間違いない霊トレーサーだ。

 彼のことはサラリーマン冒険者と呼称しよう。

 今日もどこかのダンジョンに潜るのだろうか?


 部長。ダンジョン周り行ってきます――サラリーマン冒険者がホワイトボードに出先をダンジョンと書いた。

 サラリーマン冒険者よ。頼んだぞ。あそこのボスは黒くてデカいから食われないように気を付けてな――と部長がお茶をすすった。

 はははっ。任せてください。一刀両断にして見せますよ――サラリーマン冒険者が白い歯を見せた。

 キャー素敵。女子社員が黄色い声を上げた。

 こいつ。リア充かよ。許せん。


 俺はそんな勝手な妄想しながらサラリーマン冒険者の横を通り過ぎようとした時。


「君」

「……!」


 俺は周りを見る。サラリーマン冒険者と俺の周囲には誰も居ない。

 呼ばれているのは俺のようだ。なんとリア充であるサラリーマン冒険者がボッチの俺に声をかけてきた。

 やばい。知らない人との会話なんてエベレスト登頂ぐらいの無理ゲー。

 しかも返答次第ではそのバスターソードで頭を叩き割られる。

 しかも変な妄想して勝手に恨んですいません。

 なんて答える? ダンジョンは儲かりまっか? と返せばいいのだろうか?


「はぃ?」

「日曜日の試験頑張れよ」

「え? あああ、はあ、ありがと、ござい、ますす」


 サラリーマン冒険者は笑顔で颯爽と去っていった。

 意外にいい人だったようだ。いや、いい人があんな物騒な武器など背負ってねーよ。

 日曜日の試験なんてないんだけど? つか余計なお世話だ。

 いちいちそんなことで声かけてくんなよ。ドキドキした心筋細胞の寿命が減ったじゃねえか。


 サラリーマン冒険者と別れたお手はおにぎりを食べながらリュックの中のクロミズのコア核の破片を確認する。


「入ったまま」


 見つからないように他の荷物の底に隠し、隠蔽しておこう。



 今日はいつもより遅く教室に着いた。

 睨む目線を無視して机に突っ伏してスパイボッチモードに突入する。

 視線がいたい。そして案の定、話題は俺のことだ。

 クラスで目立たないボッチの俺の元に生徒会長と副会長が訪ねてきたのだ。

 噂にならないほうがおかしい。


 一体何をしたんだ? と皆が口をひそめる。

 痴漢、盗撮、泥棒。殺害予告と俺の印象ってそんなイメージなのかと呆れて笑いが込み上げる。

 君達。その逆だ、逆。俺が悪漢から生徒会長と副会長を救ったボヒーロッチ様だぞ。

 せいぜい笑うがいい。お前達がこの真実を知ることは一生ないだろう。

 ダンジョンの中に入れないお前達はダンジョン内の出来事は理解できないだろう。

 お前達と俺では既に住む世界が違うのだよ。アーハッハッと俺は心の中でリア充の優越感を真似してみるが、あまり気分が乗らない。

 他者を自分より下だと思い込んでバカにしても空しいだけだ。


 それよりクラスのイケメン共が、俺のことを殺すって殺害予告してますが、それって脅迫だよね? イケメンは何をしても許されるかよ?

 だが嫉妬に狂うのも理解できる。生徒会長と副会長に声をかけられたのは俺なのだ。

 そしてあの二人は顔が良くてスタイルも良くて声も可愛い女神なのだ。

 俺は生徒会長と副会長のファッションショーを思い出しながら、クラスメイト達の妬みと嫉妬の視線に耐え忍んだ。




 授業が終わると俺は教室を飛び出した。

 父親譲りのボッチ忍法ドロンだ。

 教室から出ると鳴らないスマホに着信のお知らせがあった。


「!」


 この音は絶対美麗的美少女の副会長様専用メロディだ。

 俺は慌ててスマホを開く。


 トーリ君へ。ちょっと家の野暮用で私と部長は部活行けません。

 代わりにクロミズ様のお供えお願いね。

 ご褒美に生徒会室の冷蔵庫にあるケーキ全部食べていいよ。

 ごめんね。(ハートマーク)


 ぐはっ。俺はハートの絵文字に衝撃を受け架空の吐血をした。

 袖で口元の架空の吐血を拭う。急ぐのだ。生徒会室にゲーキが待っている。

 全部食べていいって最低十八個のケーキがあるはずだ。


 ボッチボッチランRUNと俺は渡り廊下をスキップで進む。

 俺は完全に油断していた。ケーキのことしか頭になかった。


「おい」

「?」


 なんと昨日と同じ渡り廊下で俺はまた上級生に囲まれたのだ。

 いや、引っ捕らえられていた。いきなり両脇を掴まれ、屈強な上級生に拘束された。


「え?」


 ちなみにこの中にテンドー君はいない。

 お前ら監視カメラが設置されているんだぞ? こんなことしてただで済むとは――。

 俺が監視カメラに目をやると上級生が肩車して、天井付近にある監視カメラのレンズにテープを張っていた。

 これ、ちょっとヤバいかも。


「テメー昨日はよくも騙したな」

「何が生配信だ。ふざけんな」

「罰として……」


 蛙のような顔をした上級生が臭い息を吐きながら、俺のポケットを勝手にまさぐりスマホを奪うと。


「こうだ」


 そう言いながら思いっきり床に叩きつけた。

 俺の大切なスマホの液晶が割れ、幾何学的な模様を描いている。

 副会長との絆が破壊されたような喪失感と怒りを覚えた。

 俺の中で黒い何かがゴプッと音を立てた。

お読みいただきありがとうございました。


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