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19 変わり果てた息子

「え?」


 箒を剣に塵取りを盾にして警戒しているのは俺の母親だ。

 誰って可愛い我が子の顔も忘れちゃったの?


「……」

「……あんた、もしかして……トーリ?」


 母親がクエスチョンマークを頭に浮かべながら俺に言った。


「……ええまあ」


 俺はぶっきらぼうに頷いた。


「その『ええまあ』とかムカつく返事にその無表情で不愛想な態度、間違いなくトーリだわ……ダイエットでもしたの?」


 母親が俺から目を逸らし玄関の掃除を再開した。


「……ジョギングを」

「そう……あんまり無理しちゃだめよ。手を洗ってうがいしてきて」

「……」


 俺は洗面所の鏡を見て驚いた。

 うっわ、この微イケメンは誰だ? って俺だ。

 誰も何も言わないから激痩せたことをすっかり忘れていた。

 何か言う友達もいないんだけど、昨日の俺と今日の俺では別人。

 なぜならば俺は神であるクロミズと融合しダークサイド側に激しく傾倒した闇の住人なのだ。

 一体何キロ減ったのだろうか? 俺は乗ったことのない体重計に乗った。


「ふえ? 増えてる」


 どうなってんだよ。

 もしかして融合したクロミズの体積分がそのまま加算されてるのか?

 でもまあ母親も普通に接してくれていたからとくに問題ないだろう。

 気にしすぎ。自意識過剰だぞ、俺は大丈夫だ。口下手でもボッチでも何の問題もない。

 そう自分にそう言い聞かせながら階段を上がる。


「あなた、タタタタ、大変なの。トトトト、トーリが、トーリがぁああああ」


 スマホ片手に激しく噛みまくる母親の声が響いた。

 全然大丈夫じゃなかった。

 母親が落ち着くまで自分の部屋に退却するのがベストアンサーだ。

 忍び足で自分の部屋に入ろうとしたその時。


「あれ? お兄ちゃん?」


 この声は妹の園? 園が久しぶりに話しかけてきたのに無視なんかできない。

 このチャンスを逃せば園と会話できるのは数年先になるだろう。

 だがどうする? 振り返れば確実にこの姿を見られ、キモがられ来世まで拒否られる。

 だが無視はできない。


「……だたいま」


 俺は冷静を装いながら無感情で園に答えた。


「おかえり……あれ? なんか微妙にイケメンになってない? どうしたのお兄ちゃん。何かに取り取り憑りつかれたの?」


 何で俺がクロミズに憑りつかれたのが分かったんだ?

 そう兄ちゃんは神様に憑りつかれて微イケメンになってしまったのだ。ハッハッハッ。


「え? ……ああ、まあ」

「……ふぅん」


 あれ? 母親に比べて園はあまり驚かない。

 ちょっと痩せたぐらいで嫌いになったりしないよな。

 まあ、そもそもこれ以上嫌われることはないだろう。


「……」

「……」

「あなた、聞いてるの? だからトーリが大変なのよ。激痩せして別人なの。昨日までポッチャリだったのに学校から帰ってきたらヒョロガリボッチなの」


 ヒョロガリボッチって酷い言われようだ。

 何故、俺がボッチなのを知っているんだ。


「……まあ、危ないことはしないでね」


 それだけ言うと園は自分の部屋にパタンと入っていった。

 セーフ。助かったぞ。ハウスボッチにならずに済んだぞ。

 俺はダブダブの部屋着に着替えてベッドに寝転がった。

 そして今日の出来事を、ダンジョンのことを思い返していた。


 ダンジョンはメンタル霊で構築され、入るにはメンタル霊が必要。

 メンタル霊とは人の想像力そのものであり、そのメンタル霊を強い者のことを霊トレーサーと呼ぶ。

 なんと俺もその霊トレーサーらしい。

 新入生の中から霊トレーサーを発見するためにダンジョン産の貼り紙でダンジョンに誘導し、ダンジョンを体験させる。

 実際に体験した後でないと信じてもらえないという理由だが、半分は伝統みたいなものらしい。

 俺はダンジョン内で出会ったスライムに餌をあげると隠し部屋への扉が開いた。

 その中にいたクロミズサマと崇め奉る神様をダンジョンボスだと勘違いして、扉に挟んで倒してしまった。

 戦いの中で俺は孤独なクロミズと意気投合しボットモになった。


 翌日、ダンジョン部から慌てて逃げ出す俺を監視カメラで発見した生徒会長が教室に訪れ、放課後に生徒会室へ来るように命じた。

 運悪く俺は生徒会室に行く途中にテンドー君達上級生に絡まれた。

 生配信中とか嘘をついてなんとか逃げ切り生徒会室に行くと生徒会長と副会長は武装していた。

 背中に揺れる太刀に俺はドキドキしながらダンジョン部の勧誘を受け、ダンジョン部に入部した。

 何故二人が勧誘したかって? 二人はダンジョン部員だったからだ。

 クロミズに顔合わせにダンジョンに向かうも、ミノタウロスが侵入してきた。

 生徒会長と副会長の二人は見事、その背の太刀、イマジナリーウェポンで撃退する。


 だがそこへ機械でダンジョンに侵入したテンドー君。

 その背後には金で雇われた木曽三川傭兵団がいた。

 囚われる生徒会長と副会長。

 俺がボチ切れ、クロミズの力に目覚めて傭兵をオーバーキルした。

 校舎に戻り木曽三川傭兵団の解散式と再結成式を見せられ帰宅した。


 夕ご飯までもう少しだ。

 それまで持ってくれ俺の胃壁、溢れ出る胃酸をせき止めてくれよ。

 それにしても生徒会長と副会会長のあの巨乳。あのスタイル。あの笑顔。

 サイカワ過ぎる。ああ、なんて俺は果報者なんだ。

 それからしばらく二人の美女っぷりを脳内で称賛していると部屋の扉がノックされた。


「トーリ。父さんだ。ちょっといいか?」


 さすがは男親、男子高校生の部屋に入る前に確認するなんて分かっているじゃないか。


「……はぃ」


 俺はボッチらしく返事をした。


「……部屋間違えました」


 父親が俺の顔を見て、慌てて扉を閉めた。

 いや、息子がエロ動画見てた現場に遭遇した顔すんなよ。


「いや、その、あの。イケメン過ぎてイケメン俳優かと思っちゃったよ。ハハハハ」


 再び扉が開き、父親が頭を掻きながらそう言った。

 イケメンじゃないの分かってるから、イケメン呼ばわりされるとホント辛いから。

 テンドー君のイケメンに比べたら俺なんかゴミだ。


「……な、なに?」

「トーリ。悪い友達とかできたのか?」


 いやボッチに友達なんかいねーから余計な心配だわ、それ。


「……別に」

「そうか、ならいい」


 それだけ言うと父親は出て行った。

 やっぱり血は争えない。俺のボッチは間違いなく大人しい父親似だ。

 母親似なのは姉ちゃんだ。今でこそ丸くなったが母親は気性が大変激しい方なのだ。

 その証拠に一階から母親の激しい声が届いた。


「なにやってんのよ。ガツンと言ったの? 不良になったらどうすんのよ。あなたが、そんなんだから、なめられるのよ。ちょっと聞いてるの? 違法の薬とか、変ダイエット薬とか飲んでないか聞いたの? あなたはいつも肝心な時に使えないんだから。港の時だってそうだった。ああ、結婚する前からそうだった」

「……」


 母親の怒りが、父親の過去の行いまでに及んで炸裂した。

 母親の声しかしないのは父親の忍法が炸裂しているからだ。

 ボッチ忍法ダンマリ。それは肯定も否定もしない。ただ嵐が去るまで耐え忍ぶ術だ。

 ボッチスキルにも似たようなものがある。サイレントエアーだ。


 コンコン。


「お兄ちゃん。ご飯だって」


 サイレントエアーを重ね掛けして嵐が過ぎるのを待っていると園の呼ぶ声がした。

 夕飯時に俺を呼ぶなんてどういう風の吹き回しだ? 嵐の前触れか?

 何か良からぬことを企んでいるとか? いや、園に限ってそんな姉ちゃんみたいに意地悪なはずがない。

 誤解のないように言っておくが俺はシスコンではない。

 美人だが気性の激しい姉ちゃんと、将来美人だが性格の良い妹。

 比べるまでもない。


 キッチンに着くと新聞で顔を隠す父親とキョロキョロこちらを伺う母親に、不思議そうにコロッケを頬張る妹のぎこちない夕食の場があった。


「……トーリ。友達はできたのか?」


 父親が最初の一声を発した。母親がよくやったと目で合図した。

 どうやらこの流れを前もって打ち合わせしていたらしい。


「……」


 俺はサイレントエアースキルを発動しようとするが、この場は既にサイレント。

 これ以上サイレント状態が続けば園の育成に悪影響を与えてしまう。

 朝飯は皆の時間が合わないから、夕食だけは顔を合わせるのが我が家の決まりだ。

 その空気と壊したら俺の居場所が更に減る。


「……いや……でも部活に入った」

「ぶほっ。ごほごほっ」


 父親が吹いた。

 冷静沈着のボッチ忍者マスターでも俺の一言は予想外だったようだ。


「……あら、よかったわね。何部?」

「生徒会執行部」

「ぶほっごほごほ」


 今度は母親が吹いた。

 俺でも信じられないんだから吹いちゃうのも無理もないよ。


「お姉ちゃんと一緒だねえ」


 妹が新しいコロッケを頬張りながらそう言った。

 え? 姉ちゃん。あの悪魔って執行部だったの? 聞いてないぞそんな話?

 生徒会長と副会長が入れ違いで卒業しているから知らないのだろうか?

 知っていたら俺なんかを勧誘するはずがない。

 そうだ。きっと知らないに違いない。


「……」

「……」

「……」


 そもそも我が家で姉ちゃんの話題はタブーだ。

 それほど強烈な存在なのだ。

 幸いなことに、ここ最近は忙しいらしく夕飯には同席していない。


 父親が忍法ダンマリを使用して黙秘権を行使している間に俺は有り余る食欲でご飯をお替りしまくった。

 姉という大食い魔王がいるからそんなに驚かれない。

 それどころか激痩せした俺を心配してもっと食べろと言ってくる。


「御馳走様」


 俺は食器を食洗器に放り込むと逃げるように自室に引きこもった。

 ベッドで今日の出来事をもう一度反芻しながら、うとうとしていると、珍しく家の電話が鳴った。

 親戚のおばちゃんからだろうか? あの世代は家電するのがマナーだからな。


「お兄ちゃん、お友達から電話ー」


 園の声で俺は飛び起きた。

 待て。俺には友達なんていないぞ。

 一体誰からだ? そう疑問符を顔の周りに浮かべていると。


「横岩って可愛い声の女の人」


 俺は部屋を飛び出し、多段ジャンプで階段を駆け降り、床を転がり衝撃を吸収する。

 そしてニヤニヤして受話器を持つ妹から優しく奪うように取り上げた。

 姉ちゃんの悪い顔を真似したらいけません。


「も、ももももひもひい」


 緊張で噛みまくる。


「ああ、トーリ君。夜分遅くごめんね。横岩です」


 やはり電話の相手は副会長殿だった。

 こんな噛み噛みで俺って分かるってのが凄い。


「え、いえ」

「生徒名簿の家電しか知らなくて突然ごめんね。携帯の番号教えて、そっちに掛けるから」


 俺は慌ててスマホの番号を噛みながら伝えると、すぐにスマホに着信があった。

 俺は慌てて画面をスライドさせるが、ベトベトの手汗でなかなか反応しない。

 こんな時にクロミズのスライム特性を発揮しなくてもいいよ。早く出ないと切れちゃうだろ。


「ももひひひひ」

「ああ、トーリ君、あのね。今週の日曜日なんだけど空いてる?」

「え?」

お読みいただきありがとうございました。


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