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17 大いなる力には……

「トーリ君? クロミズサマの加護をあんなに使ってどこか痛いところはない?」

「……あふっ、だだだ大丈夫」

「トーリよ。無理をするでない。クロミズサマの加護は強力だがその分、体にかかる負担も大きいのだ」


 俺は今、伝説の美少女達に身体をまさぐられている。

 だがしかし、打撃無効、衝撃無効が効いているのか全く衝撃が襲ってこない。

 ダンジョンの外に出れば、きっと衝撃が戻って襲ってくるに違いない。

 さあ早く外に出ましょう。外に出た後に思う存分触ってください。


「本当に痛いところはないか?」

「はい。あの、その、か、会長こそ、だ、大丈夫ですか」


 噛み噛み無効なないので噛みまくる。

 この至近距離のニアシチュエーションを最大限に活用しろ。

 俺は生徒会長の身体を下から上へとボッチアイでねっとり見る。


「しょ、そそそそ、そんなに見るな。何もされろららら」


 胸をそらした生徒会長の胸が弾む。

 俺は細いボッチアイを開眼させて生徒会長をガン見した。

 今しか堂々と拝見できるチャンスはないのだ。

 どれどれ、よおく見せてくれ、うむ制服は破れていない。

 圧倒的ボリュームの胸元が、はち切れそうだが、これは元からか。


「……」

「にゃ」


 傷一つない透き通るような白い柔肌がほんのり赤く染まった。


「……」


「あまり見るなにゃ、にゃにも、何もされておらん」


 真っ赤になる生徒会長可愛いです。ゲキカワ。モウストカワ。

 俺は副会長に目をやる。


「大丈夫だから」


 副会長がそれ以上見るなと、手で止める。

 そうですか? でもしっかり確認しないと。


「トーリ君……大丈夫だから」


 物凄い怖い目の副会長に睨まれた。

 そうですが大丈夫ですか。残念、いや二人とも無事で良かった。

 国宝レベルの天然記念指定絶世美女の二人に傷がついたら日本中のファンクラブからタコ殴りにされるところだった。


「天道君のこと、いかがいたしますか?」

「分家の私が本家に口を出す訳にもいかないだろうに」

「霊キャスターと霊ガンと傭兵の使用。流石にこれは口出ししてもいいのでは?」

「うむう。確かに」

「私から報告しましょうか?」

「いや。私から咲姉に話をする。霊キャスターの責任者とは話をつけねばなるまい」

「……それよりもトーリがクロミズサマの加護を受けていたとは驚いたぞ」

「本当にびっくりしましたね」

「……いや、その」


 やべえ。こっちに話題が来た。

 テンドー君もっと話題を引っ張れよ。

 こっちは聞かれたくないことが山積みなんだから。

 俺だって何がどうなったかのか? 理解していないんだから。


「謙遜することないぞ。クロミズサマは優しい方だ。お前の気持ちに応えてくれたんだろう」


 応えたというか殺したんだけどね?

 だが今は生徒会長が勝手に勘違いしてくれている。

 俺はコミュ障ボッチだ。言い訳も訂正もしない。

 勝手に間違えてくれるに越したことはない。

 俺がクロミズを扉で挟んで潰しちゃったことを言わなくてもいい流れがきた。


「あれはクロミズサマ?」

「!」

「おお? クロミズサマが、ち、小さくなってしまわれたぁ」


 生徒会長が頭を抱えた。

 それはクロミズサマじゃないよ。

 それはアッシュの生まれ変わりのスライムのスラッシュだよ。

 何で今このタイミングでノコノコ出てくるんだよ。


「おおーよしよし。お供え持ってきたぞ。美味しいぞお」


 生徒会長が猫なで声を出しながら、お供えの入った段ボール箱の中から米を取り出した。

 通りで重いはずだ。だがスラッシュは米に見向きもしない。


「おや? どうしたことか? いつもならまっしぐらで食べるのに」


 生徒会長が不思議そうに首を傾げた。

 いやだがらそれはクロミズサマじゃないから、ただのスライムのスラッシュだから。


「なんかクロミズサマ、綺麗になられました? いつもより黒さが足りないというか」


 副会長鋭い。


「確かに今日は濁っておらず清純に見える」


 釣られて生徒会長も疑い始めた。


「トーリ君に加護を与え過ぎたのでしょうか?」

「うむ。こんなに小さくなったクロミズサマを初めて見る。だが私はむしろこっちのほうがいいぞ。これぐらいのサイズが可愛いのだ」


 クロミズは俺の中にいるんですよ。

 本人を目の前にしてそんなこと言ったらいけません。


「そうですね。こっちのほうが断然可愛いですしね」


 副会長までそんなこと言ったら俺の中のクロミズが泣いちゃうぞ。


「お気に召さなかったかの」

「この小ささではお神酒は未成年に飲ませるようで気が引けますね」

「今は米しか手持ちがないのだ」

「……」


 仕方がない。俺はリュックからカロリーバーを取り出してスラッシュの前に置いた。

 スラッシュはまっしぐらで捕食した。


「おおお。流石はトーリだ。クロミズサマに加護を与えられただけのことはある」

「そうやって、昨日もお供えしたの?」


 二人は勘違いしている。乗るしかない、この勘違いウェーブに。


「うん。そ、そう」


 俺のボッチ脳が久しぶりに天才的な閃きを思いついた。

 二人を背にした俺の手元は二人から見えない。今がチャンス。

 カロリーバーの中にクロミズのコア核の破片を押し込んで、スラッシュの前に置いた。

 クロミズのコア核を食べさせればいいのだ。


「……」


 食え。そのままコア核の破片ごと食え。

 スラッシュはコア核の破片入りのカロリーバーを捕食した。

 するとスラッシュの半透明の体が、墨汁を垂らしたように黒く濁り始めた。


「あら? 黒くなったわ」

「これでこそクロミズサマだ。黒くて小さくて可愛いな」


 くっくっ無邪気なものだ。それはクロミズサマでなく、ただのスライムのスラッシュだ。

 俺がクロミズを倒したことは永久にボッチの胸の奥に秘蔵しなければ、この素敵な関係が瓦解してしまうのだ。俺の学生生活を薔薇色に維持するためだ。

 どんな手を使っても秘匿しなければならないのだ。

 俺は自分のことしか考えない卑怯で卑劣で愚鈍で汚いクズボッチなのだ。

 俺はその後ろめたさを隠すためにスラッシュにカロリーバーを与え続けた。


「さて、そろそろ戻るか」


 スラッシュがお腹にカロリーバーを抱えて壁に消えたのを見届けた生徒会長が立ち上がった。


「はい」

「……」


 危機回避成功だ。


「くっくっく」

「あれトーリ君? 今変な笑い方しなかった?」

「ケホンゴホン。べつに」


 俺は咳をして誤魔化した。


「それよりトーリよ、お前に一言だけ言いたいことがある」


 突然、生徒会長が振り向き様に俺の顔を真っすぐ見て人差し指を立てた。


 ギクリと俺のボッチハートが鳴った。

 一言? 一体なんのことだ? もしかしてカロリーバーの中にクロミズのコア核を入れたのが、ばれていた?

 俺はゴクリと生唾を飲み込んだ。


「クロミズサマの加護は強力だ。だが現実に戻ればお前は普通の人間に過ぎない」


 生徒会長がダンジョンを見回しながらそう言った。


「トーリよ。強大な加護を得たお前が増長するのが目に見えている」

「……」


 いやそう言われても増長しないほうがおかしいでしょ?

 イジメれっ子が強大な力を手に入れたら普通は仕返しに使うよね?


「大いなる力には大いなる責任が伴う」


 生徒会長が大きな目をクワッと開けた。


「……」

「聞いているのか?」


 生徒会長が眉をしかめた。


「は、はあ」


 どっかで聞いたことあるセリフなんだが?


「これは私が巫女の力に目覚めた時に父から贈られた言葉だ」


 お父様、絶対タイツ姿のアメコミを読んだ後だよね?

 でも可愛く思い出に浸る生徒会長。

 このまま大人しく、美少女の過去話を拝聴しようではないか。


「私が幼かった頃、今のお前と同じように大いなる力が目覚めた。神々と通じ合える巫女の力だ。私は他者を見下し自分だけが最強だと自惚れた。実際最強だったしな。私は最初からS級だったから向かうところ敵なしで大人の霊トレーサーなど相手にならなかった」


 え? S級? さっきの傭兵団がA級。

 するってーとなにかい? 生徒会長ってお強いの?

 俺の逆切れ救助劇ってもしかして不要ボッチだった?


「我儘放題のやりたい放題の私に愛想をつかして、周りの人はどんどん離れ、気付けば独りぼっちになっていた。寄ってくるのは私の力を利用しようという汚い奴らばかりだった」


 我儘放題で大いに結構ですよ。

 こんなに可愛い生徒会長から離れていくなんて愚か以外なにものでもないぞ。

 よく考えて見ろ。落ち込んで弱った生徒会長に寄り添えば一生友達のポジション確保できるじゃないか?


「そんな私を真っ当な人の道に戻してくれたのが千草だ。千草がいなければ私はあのまま、人ではない何かになっていただろう」


 生徒会長は慈愛に満ちた表情で副会長を見つめて、その手を取った。

 いたぞ。真の勝者がここにいた。

 一番あざといのは副会長だった。

 小さな生徒会長に心の弱みに付け入り、親友というポジションをゲットした真の勝者がここにいた。

 小さい副会長の計画が手に取るように分かるぞ。

 副会長が俺を見て目を細めた。


「なにか?」

「……べつに」


 俺は蛇に睨まれたカエルのようにしどろもどろに答えた。


「それは会長の変わろうとしたご尽力ですよ。私は会長と仲良くしたかっただけでとくに深い意図は何も」


 副会長が釘を刺すような目で俺を見る。

 俺は慌てて目を逸らした。


「千草には今でも感謝してうる。私の最も優れた所は千草の親友だということだ」

「あらやだ。会長あざと可愛い」

「あざとくない」

「もうあざと可愛いのは、ズルいですよ」

「……」


 キャッハウフフの二人の世界が始まった。

 結果判定は二人ともあざといです。


「……コホン。とにかく神の加護は人には過ぎた力だ。容易に使っていいものではない」

「え?」


 何言ってんだ? 大いなる力を持つ者が弱者に奉仕するのが前提だったら、金持ちは貧乏人に全額寄付しろよ。

 顔がいいイケメンはブサメンになれよ。賢い奴は馬鹿になれよ。

 ならないよね? 皆自分の長所や利点を自分の為に使用しているよね?

 なんで俺が力を持った途端に遠慮しなけりゃならないんだ?

 俺は実力があるくせに隠すような、人を騙すようなことはしたくない。

 才能を使わないなんて与えてくれた神様に失礼だろう。


「お前がその力を使う度に人は恐れ戦き、お前から離れ、お前は孤立していくだろう」

「……はぁ」


 ああ、そっち? その点なら何の心配もいりません。

 俺は孤独慣れしてますし。もうすでに人の心なんて俺から三光年ほど離れておりますから心配ご無用です。


「人である以上孤独は何よりも辛い。それは何よりこの私が身をもって痛感した。どんな屈強な戦士でも孤独には勝てないのだ」


 孤独のロンリーオンリーボッチ戦士ですから孤独のほうがウェルカムです。

 そもそもこれ以上どうボッチになれと?

 落ちるところまで落ちたボトムズボッチだぞ。


「だからそのクロミズサマの加護はあまり多用するでない」

「……」


 え? ちょっと言ってる意味が分からない。


「お前が鍛錬し、真の強さを手に入れてその大きすぎる加護と対等の存在になれるまで封印するのだ」

「……」


 俺には嫌いな言葉があります。

 それは努力と感謝とリア充です。

 三日坊主どころか三秒坊主の俺に努力とか鍛錬とか練習とか不可能。

 少しでも努力が持続する特殊能力があったならばコミュ力を練習してボッチなんてやってねえよ。


「……ですが少しぐらいなら良いのでは? クロミズサマの加護に慣れておかないと新人戦で勝てませんよ」


 俺の不満そうな表情を察した副会長が助け舟を出してくれた。

 さすが副会長。そうやって俺が言いたいことを読み取ってくれて助かります。

 さっきは幼少期の生徒会長の心の弱みに付け込んでとか、疑ってすいませんでした。


「……ああ。確かにそうだが」

「今年の新人は強者ぞろいです。蒼岩家には彼がいますし」

「確かに奴らに負けるのは嫌だな」

「……」

「トーリよ。では人目に付かない場所ならばその加護を使ってもよいぞ」

「え?」

「霊トレーサー全員が加護を持っているわけではない。自慢げに使うな」

「はあ」

「誰も居ない場所ならば使ってもいいってことよ」


 え? それってボッチ時に限定解除できるってことですかい?

 そんなボッチの時にしか使えないなんて意味ないじゃないですか?

 いや待て。ボッチの俺が誰かと行動を共にすることなど稀だ。

 それって全然、制約になってないのでは?

 むしろ一人の時には加護使い放題のやりたい放題では?

 俺の中のクロミズがサムズアップしたような気がした。


「は、はあ」


 俺は分かったような顔をして曖昧に頷いた。


「うむ、分かればよろしい。言いたいことはそれだけだ。さて学校に戻ろう。傭兵の奴らの処理をせねばなるまい」

「傭兵? 処理?」

「ダンジョンでメンタル霊を失った者は現実に吐き出されるの。だが急に肉体に戻っても、暫くはまともに動けないのよ」


 副会長が説明してくれた。


「つまり廊下におっさん共が転がっているという異常事態が発生しておるのだ」

「……?」

「ダンジョンで死ぬとどうなるか、そのよく目に焼き付けておくがいい」

「トーリ君みたいにイマジナリーウェポンを持たない新人がダンジョンで死ぬと、魂にトラウマを負って二度とダンジョンに入れなくなるんだけど、クロミズサマの加護があるから問題なさそうね」

「……」

「何している。行くぞ」

「!」


 俺は、慌てて生徒会長の白い太ももを追いかけて学校に戻った。

 そこは数十人のおっさん達が二日酔いのように呻き、頭を抱え、廊下で倒れている地獄絵図が広がっていた。

お読みいただきありがとうございました。


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