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15 暴走リア充

「フッフッフッ……アーハッハッハッ」


 悪霊に憑依されたかのように狂った悪役笑いをするテンドー君。

 イケメンだから醜悪に顔を歪めてもカッコいいのが腹が立つ。

 イケメンはどんな顔しても、性格が悪くても許されるはずだ。


「天道。おぬしどうやってダンジョンに?」


 生徒会長が睫毛がバサッと開いた。


「会長。彼の背中を見てください」

「なんと、あれは霊キャスターか? 開発がとん挫したと聞いていたが?」


 生徒会長が言うようにテンドー君は何か機械的なリュックを背負っていた。

 あれが霊キャスターって奴か?


「さすがは千草だ」


 テンドー君が肩をすくめた。


「そう、これは我がダンジョン研究所が生み出した霊トレーサーでなくともダンジョンに入ることが出来る装置……霊キャスターだ」


 なんだって? でもそれはなんとなく会話の流れから分かっていた。

 テンドー君はダンジョンに入れない。その背中の怪しい装置でダンジョンに入ったのだろう。


「そんなおもちゃを背負ってこの神聖な聖域に何しに来た?」


 生徒会長が無表情のまま太刀を横に振った。


「さあてな……クロミズサマの加護はどうした?」


 テンドー君が自信ありげにニヤリと笑った。

 生徒会長と副会長が沈黙する。


「なんのことかしら?」


 副会長が目を細めた。


「ニャ、ニャ、にゃんのことだ?」


 激しく動揺し、噛んじゃう生徒会長サイカワ。


「フフフ。クロミズサマの加護が消えたのではないか?」


 テンドー君が自信満々で目を伏せた。


「くっ」

「天道君? 霊キャスターの起動実験はダンジョン協会に許可は取ったのかしら?」


 副会長が生徒会長を救うべく話題を変えた。


「ふん。あんな老害どもの腐った組織などに頭を下げる必要はない」


 ダメだ。全然話についていけない。

 早く来てくれ。解説専用モブキャラ君よ。

 誰か俺にも分かるように丁寧に優しく説明してください。

 いつもなら俺の不安げな表情を読み取った副会長が解説してくれるのに、話し合いに夢中で俺のことなんて、ほったらかしで酷いよ。

 まとめると、生徒会長と副会長の加護が消えた。

 それは俺がクロミズサマを扉で挟んで殺したから。

 俺が悪い。

 俺のせいだ。どうしよう。テンドー君は俺が犯人だってことを知っているのか?

 知ってなくてもと、ここはテンドー君に擦り付けよう。俺は悪くない。悪いのテンドー君。うん。理に適っている。


「霊キャスターを勝手に持ち出して咲姉様はこのことを知っているの?」

「フン。俺は次期当主だぞう? 一体誰の許可がいるんだ?」


 テンドー君の端正な顔が醜悪に歪む。

 それでもカッコいい。嫉妬しちゃう。


「フン。そんなおもちゃに頼らなければダンジョンに入れないお前が当主だと? 笑わせるな」


 生徒会長が笑い返した。


「フン? おもちゃだと? それは違うな。これは希望だ。これは俺のように虐げられた者がダンジョンに入れる万能通行手形。霊トレーサーがダンジョンを独占する時代は終わったんだよ。これからは誰でも金さえ詰めばダンジョンに入れるんだ。この装置で時代が変わる。古臭い巫女風情が何を言っても時代の奔流は止められない。本当は分かっているのだろう? この装置の力を?」


 テンドー君が悪役のように手を広げた。

 テンドーポーズマジカッコいい。

 俺が同じポーズをしてもお恵みをねだるようにしか見えない。

 これがカリスマというやつか?

 さっきから俺のセリフゼロ。俺を置き去りで話が進んでいく。

 ああ、コミュ障の俺がセリフを吐くなんて物理的に不可能だった。


「その装置を動かすには魔石がいるだろう? その魔石を採取するのは霊トレーサーなのだが?」

「魔石など金で買える。金さえあれば人も雇える。おい、こいつらを拘束しろ」


 テンドー君が命令した。


「!?」


 突然、屈強の男達が現れた。

 ダンジョンに似合わない近代的な軍服を着て、自動小銃まで構えていた。


「え?」

「まさか、こんなに霊キャスターを?」


 生徒会が大きな目を見開いた。


「いえ、違います。彼らは霊トレーサーの傭兵です」


 副会長が即座に否定する。

 確かにその見た目は傭兵のように見える。

 だがこの異世界風のダンジョンに傭兵だと?

 その傭兵たちがテンドー君を守るように立ちふさがった。


「クックックッこれが力だ。金の力だ。金さえあれば霊トレーサーを雇うこともできる」


 自信を取り戻したテンドー君が手を広げた。


「千草よ。俺の元に来い」


 テンドー君が副会長に言った。


「お断りします」


 副会長は食い気味で即効拒否する。

 その目は見たこともない憎悪に染まっていた。


「千草は誰にもやらん。私のものだ」


 生徒会長がテンドー君と副会長の間に割って入った。


「加護を失ったお前らに何ができる? 土下座し、泣いて許しを乞えば許してやるがな」


 テンドー君は傭兵に合図を送る。

 自動小銃を構えた傭兵が俺達を包囲した。

 え? 俺まで? 俺関係ないよね?

 どっちかって言ったら巻き込まれ型のモブキャラだよね?

 さっきから俺を置いてけボチで話を進めないでくれる?


「あれは木曽三川傭兵部隊です」


 副会長が小さな声でそう言った。


「なんだそれは?」


 生徒会が首を傾げた。


 基礎参戦? 木曽三川? 何そのふざけた名前。

 この緊迫したシリアス雰囲気が台無しだろ。

 一級河川だけ守ってろよ。


「木曽三川警護団。それはA級霊トレーサーのみで構成されたエリート傭兵部隊です」


 副会長が眉をしかめた。

 え? こいつら有名なの? しかもエリート部隊だったの?

 だったらもっとカッコいい名前にしとけよ。ドラエイフルスゼルトナーとか?

 日本語だと川の美化活動をしているみたいだぞ。

 まあこのエコが正義の時代では、それはそれでカッコいいのだが。


「……お主ら金で買われたか」

「!」


 生徒会長の言葉に木曽三川傭兵部隊がビクッと肩を震わした。


「よくもこの神聖なクロミズサマの聖地にこんな者達を入れたな?」

「下がりなさい。ここはあなた達が来るような場所ではない。クロミズサマの御所なるぞ」


 生徒会長と副会長が偉そうに威厳ある声で命じた。


「おい、あれは本物だぞ」

「巫女様だって?」

「おい、クロミズサマの巫女ってまずくねえっスか?」

「隊長? どうしますか」

「うむ。確かにそれはまずいなあ」

「撤退しましょうか?」


 木曽三川警護団に動揺が走った。


「お前ら俺に雇われてんだぞ、早く拘束しろ」


 それを見たテンドー君が地団駄を踏んだ。

 テンドー君は黙ってればカッコいいのに喋るとなんかセリフが雑魚い。


「「「……」」」


 木曽三川傭兵部隊の男達が銃を構えた。

 え? ダンジョンで銃?

 スマホはダメだったけど電子機器じゃない銃は使えるのだろうか?


「銃だち? ダンジョン内では火薬は反応しないのだが?」


 生徒会長が太刀を構えながら吐き捨てた。


「分家のお前は知らないようだが、これはダンジョン産の金属弾丸を圧縮メンタル霊で撃ち出す霊ガンだ。刀とかイマジナリーウェポンとか、もう時代遅れなんだよ。これからは科学の時代なんだよ」


 テンドー君が自信満々に解説する。確かに銃は刀よりも強力だが、それ作ったの君じゃないよね?


「ダンジョン研究所の試作品?」


 副会長が美しい眉間に皺を作った。

 ああ、あんまり皺をよせないで、皺が癖になっちゃう。


「イマジナリーウェポンが時代遅れかどうか試してみるかや?」


 生徒会長が太刀を構えた。


「テンドー君。あなた本気?」


 副会長が小さな口をキュッと結ぶ。


「無論。加護を失った巫女など相手にならん。ミノタウロス戦でメンタル霊を消費した今、このA級霊トレーサー達を何人相手にできるかな」


 テンドー君が手を広げた。

 木曽三川傭兵部隊が自走小銃を構え直す。


「くっ」

「天道君、クロミズサマの巫女に手を出したらどうなるか分かっているの?」


 副会長が太刀を構える。


「分からんな。俺は長らく迷宮界から離れていたからなあ」


 テンドー君が前髪を払った。


「クロミズサマの巫女たる我々も舐められたものだな」

「……会長」


 生徒会長と副会長が太刀を真っすぐ前に突き出した。

 生徒会長がクロミズサマの巫女?

 クロミズサマを潰しちゃった俺って完全に巫女の敵だよね。

 テンドー君の登場ですっかり忘れてたけど、俺の命って風前の灯じゃね?


「ふん。その頼みのクロミズサマはどこにいるんだ?」


 テンドー君が大げさにボス部屋を見渡した。

 くっ。それは俺が扉で挟んで潰しちゃいました。

 ごめんなさに。その証拠はこのリュックの中にあります。


「!」

「!」


 生徒会長と副会長の肩が震えた。


「クックックッ。そうだ。クロミズはもういない。死んだのだ」

「にゃに。ななな、なにを言っている?」


 生徒会長が動揺して噛んだ。ゲキカワ。


「そんな……馬鹿な」


 副会長が目を細めた。サイカワ。


「まさか本当にクロミズが綺麗さっぱりと貴様らの加護ごと消えているとは思わなかったがなぁ。アーハッハッハッ。クロミズの加護を失ったお前らは敵じゃない」


 テンドー君の高笑いが俺の心に突き刺さる。

 くっそ。これは全部俺のせいだ。

 俺がクロミズサマを殺しちゃったから生徒会長と副会長が弱くなってしまったんだ。

 なんてことだ。

 悪いのはテンドー君じゃない。俺じゃねえか。

 だが黙ってればバレないはずだ。

 こざかしい性格の悪い俺は自ら罪を認めたりしない。

 幸いにも俺は完全に忘れ去れている。

 このままダンマリで乗り切れ。無言でしらばっれくれろ。


「そんなはずはない。クロミズサマは死なぬ。無敵だ」


 震える生徒会長に副会長が歩み寄りその肩に優しく触れる。


「私は信じてます。クロミズサマを」

「千草」

「この女共を取り押さえろ」

「ですが、巫女様相手は……」


 木曽三川傭兵部隊の隊長らしき男が異議を唱えた。


「貴様らにいくら払ってると思っている? それに加護が切れたこいつらはC級以下だぞ?」


 テンドー君のその言葉に木曽三川傭兵部隊が、戸惑いながらも無気力状態の生徒会長達を取り囲んだ。


 無抵抗の生徒会長と副会長を取り囲む屈強な男たち。

 集団で少数を囲むのは許せない。

 俺のボッチの怒りと同時に俺の中の何かがキレた。

 生徒会長と副会長に触るんじゃねえ。

 俺はその間に割り込んだ。


「邪魔だ排除しろ」


 テンドー君の命令で傭兵たちが俺を羽交い絞めにする。


「ぐっ」


 俺はそのまま地面にねじ伏せられた。


「泉よ。これまでの俺への態度を悔い改め、土下座しろ」

「断る」

「ほほう? ではこいつを殺すぞ」


 テンドーが俺に銃を向けた。


「え?」

「ぐっ。卑怯な」

「なんてことを」


 生徒会長と副会長が叫んだ。


「イマジナリーウェポンを持たない初心者がダンジョンで死ねば二度とダンジョンに入れなくなる。いいのか? 俺のようにダンジョンに入れなくなっても?」

「卑怯な」

「さっさと武器を捨て土下座しろ。今までの非礼を詫びろ」


 テンドー君が笑った。


「くっ」


 生徒会長は太刀を手放した。

 直ぐに屈強な傭兵達が生徒会長を取り囲む。

 副会長も生徒会長同様に抵抗しない。


「キサマの崇めるクロミズは死んだ。もうどこにもいない」


 テンドー君が拘束された生徒会長の小さな顎に触れた。


「その汚い手を離せ」


 生徒会長がテンドー君を睨む。その大きな目は少し濡れていた。


「離せ、私に触れるな」

「あーはっはっはっ。威勢がいいなあ。抵抗するとあいつを殺すぞ」


 テンドー君が生徒会長の髪に触れた。

 木曽三川傭兵部隊が不審そうに顔を見合わせた。


「土下座しろ。これまでの俺への非礼を謝れ」


 テンドー君が生徒会長の顎を掴んで引き寄せる。


「くっ」

「俺がダンジョンに入れないことに同情し、哀れんだその傲慢な態度を謝れ」

「な? 会長はあなたのことを思って」

「黙れええええ!」


 テンドー君が副会長に怒鳴った。


「謝罪すればトーリを解放するんだな?」


 生徒会長がテンドー君を睨んだ。


「ああ」

「会長」

「この通りだ。すまなった」


 生徒会長が頭を下げた。


「頭が高い。土下座だって言ってるだろ、床に頭を付けて俺に忠誠を誓え。分家の人間が偉そうにしやががって、」


 テンドー君が生徒会長の頬を叩いた。


「くっ」

「天道君? あなた何をしているか分かっているの?」


 副会長が低い声でテンドー君を睨みつけた。


「ふ、ふん、さっさと土下座しろ。さもなくば痛い思いをすることになるぞ? ダンジョン内で傷つけても現実の身体には影響がないからな。さーてどうしようか?」


 テンドーは狂喜の眼を浮かべて手を大きく広げて笑った。


「何をしても罪に問われないダンジョン内は天国。治外法権なのだ」


 テンドーが生徒会長の胸に手を伸ばそうとした瞬間、俺の口が勝手に開いた。


「やめろぉぉぉー!!」


 誰もが俺の存在を忘れていた。


「なんだ? ゴミが?」

「トーリ来るな」

「トーリ君ダメ」


 テンドーの声の奥から生徒会長と副会長が叫ぶ。


「やめろおおおおお!!!!」


 俺は屈強な男達から逃げ出し生徒会長の元に駆け出した。


「何をしている。そのバカを押さえつけろ」


 だがすぐに木曽三川傭兵部隊に取り押さえられて床にねじ伏せられた。

 頬に硬い石畳が冷たく当たる。


「そんなに泉のことが心配か? ではそこでゆっくり見てろ」


 テンドーの命令で俺の顔が、先輩達に向けられた。

 そこには押さえつけられた生徒会長と副会長がいた。


 キサマぁああああ。何をしている。


 ケーキを食べて嬉しそうな顔をした生徒会長の顔が浮かんだ。


 その汚い手をどけろ。


 俺の入部を、手を叩いて喜んでくれた生徒会長と副会長の顔が浮かんだ。


 俺はお前を絶対に許さない。

 こんなこと絶対に許さない。

 これだから人間は嫌いなんだ。

 この世で一番汚いのは人間だ。

 巫女から手を離せ。

 俺の中で誰かが叫ぶ。


「や ろ……お、全、員……ろしてや……る」


 俺の叫びと何かの叫びが同時に口から出た。

 同時に俺の視界が黒く霞む。


「はあ? なんだこいつ? 死にたいか?」


 テンドー君が俺に銃を向けた。


「トーリは関係ない。私に何をしても構わない。だがトーリには手を出すな」


 生徒会長がテンドーに頭を下げた。


「さあてどうするかな?」


 テンドーが下種な笑みを浮かべた。


「……トーリ来るな。お前は死んではならん。二度とダンジョンに入れなくなるんだぞ」

「そうよトーリ君。貴方は絶対に死んだらだめ。逆らわないで」

「誰も助けになんか来ない。神はもういない。神は死んだんだ」


 テンドー君が悲し気に首を振った。

 神はもういない? 神が死んだだと?

 俺の中で黒い何かが音を立てた。


「ギャ」

「ぐへ」


 俺を取り押さえていた傭兵が叫んだ。

お読みいただきありがとうございました。

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