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14 ダンジョンアゲイン

 俺は再びボッチのダンジョン、ボンジョンにいた。

 いや、今は一人じゃないから、ただのダンジョンだ。

 ゴツゴツとした石畳を歩く俺の足取りは重い。

 まるで断首台に向かう死刑囚の気分だった。

 ああ、俺の青春は間もなく終焉を迎えるだろう。


「クロミズサマは恥ずかしがり屋でな、いつも隠し部屋に隠れていらっしゃるんだ」


 生徒会長が得意げにダンジョン内を案内する。

 うん知ってる。

 隠し部屋つか、もうボス部屋だけどね。


「しかもクロミズサマは何でも食べちゃうんだ。体は大きいが可愛いぞ」


 うんそれも知っている。

 頭から丸かじりされたからね。


「しかもクロミズサマは無敵のヤオロズでな」


 生徒会長が得意げに可愛く鼻を鳴らした。

 無敵だと? 俺は無敵の神様を扉に挟んで殺してしまったのか?

 ちっとも無敵じゃないんだが?

 いや待てよ? 無敵だったら復活しているのでは?

 きっとそうだ。

 だから俺の罪は消えたはずだ。

 遺体がなければ殺人にはならないのだ。

 大丈夫だ。安心しろ。俺はそう自分に言い聞かして二人の後ろを歩く。


「「その者、打撃無効なり」」

「「その者、衝撃無効なり」」

「「その者、貫通無効なり」」

「「その者、魔法無効なり」」


 生徒会長と副会長が声を合わせて歌い始めた。


「「その者、黒き水のごとき……クロミズサマというなり」」


 最後に俺を見て笑った。

 ああ、大好きなんだろクロミズサマのことが。

 そんな大好きなクロミズサマを扉で挟んで殺したことがバレたらどうなるんだろう。

 ああ、胃が痛い。


「そう案ずるな。クロミズサマはこの先だ。ん? 扉が開いている」


 生徒会長が可愛い眉間に皺を寄せた。

 そりゃ扉は開いてますよ。昨日俺が通りましたから。


「!」


 まさか昨日の戦いの痕跡が残っているのか?

 ばら撒いた文具や教科書は回収した。

 コア核の破片も全部このリュックの中にあるから安心。

 ? いやいや全然安心じゃなくね? 遺留品を持ち歩いているじゃねえか。

 バカバカ俺のバカボッチン。

 このコア核の破片の存在がバレたらどうなる?


 これはクロミズサマの御神体? 何故貴様がそれを持っている?


 そう言いながら太刀を構える生徒会長。

 ダメだ。間違いなく生徒会長に斬られる未来しか思い浮かばない。


「急ぐぞ、千草」

「はい」


 二人は背中の太刀をカチャカチャ鳴らし、ボス部屋に走っていった。

 細く綺麗な太ももが俺を現実から隔離させようとしている。

 いつもなら大興奮の状況だが俺の心は悪事が露呈する前の犯人の気分だった。


「……おかしい。クロミズサマの気配がない」


 生徒会長が部屋を見渡し叫んだ。

 うわ。クロミズサマ復活してねえ。

 どどど、どうする?

 しらばっくれるか? だが俺がダンジョンから出てきたのは監視カメラに映っている。

 いや待てよ。俺以外の誰かが夜中に侵入したとかもしれない。

 そんな怪しい奴が映っていたら生徒会長達はとっくに知っているはずだ。


 これはもう言い逃れできない。

 カッとなってやった。今は反省している。

 違う。俺は襲われたんだぞ。俺は悪くない。

 悪いのはクロミズサマだろ。人見知りのくせになんで出てきたんだよ。

 スラッシュに餌をやっただけで、なんで神様のクロミズサマが出てくるんだよ。

 人見知りならずっと隠れてろよ。

 はっ? 確かクロミズサマは食いしん坊っていってたな?

 もしかしてスラッシュにあげたカロリーバーが欲しかったのか?


 それなのに俺はクロミズサマをこの手で。

 欲しいなら欲しいって先に言ってくれよ。

 いきなり攻撃されたらボスだと思うだろう。

 だがよく考えれば攻撃してきたけど、俺には当ててない。

 床に穴を開けただけだ。


「どうなっている?」

「わかりません」


 終わった。

 こんな美少女達と一緒に部活なんて夢のまた夢。

 ただのボッチの俺はいい夢を見させてもらったぜ。

 俺の短い青春はここで終わりだ。

 潔く自分から自首しよう。罪を認めよう。


「じじじ、実はその、俺、ああああ、あの……」


 俺が噛みながら真実を告白しようとしたその時。


「会長! 何か来ます」

「ああ、分かっている」

「……」


 何が来たの? クロミズサマが復活した?

 ダンジョンボスってゲームなら時限ポップするよね。

 きっとクロミズサマが蘇ったのだ。


「これは地獄門。強制転移門です。侵入者」

「地獄門だと? ここは聖域だぞ。結界により誰も侵入出来ぬはずだが?」


 二人は天井を見上げ身構えた。

 その大きな目が見つめる先には黒い穴が開いていた。

 渦巻く煙の中心に空いた漆黒の穴。


「グモオオオオン」


 咆哮が空気を激しく揺らす。

 衝撃が床を揺らし、暴風が巻き起こる。

 それは丸太のように黒い太い足。

 人間離れした屈強な肉体。

 その太い首の上には牛の顔。

 口からは牙を剥き出し、闇に魅入られたような漆黒の瞳。

 頭の先からは曲がった角が天を突き刺していた。


「!」


 その肩には巨大な斧を担いでいた。

 これは絶対ミノタウロス的な名前の奴だ。


「牛鬼じゃと? ヤオロズが何故ここに?」


 おおう、和風名で来たか。

 だがミノタウロスには違いない。

 つか生徒会長がモブキャラのように解説したらダメです。

 今からクラスのモブキャラ呼んでくるんでここで待っててください。


「まさかクロミズサマに何かあった?」

「分かりません。今はトーリ君を」

「ああ。分かっている。トーリ。私達の後ろから出るな。想像の産物であるダンジョンで死んでも肉体には何の影響もない。だがイマジナリーウェポンを持っていない今の状態では魂が破損し、一生ダンジョンには入れなくなるぞ」

「えっ?」


 そんな設定なんて聞いてない。

 魂に傷? 生まれた時からボッチの傷は深く刻まれているぞ?

 死んだら二度とダンジョンに入れない?

 それが本当ならば、死ねはあの不幸な事故は明るみに出ることはない。

 いや出るだろ。ダンジョンから出てくる俺が録画されてるんなら死んでも死ななくても結果は同じだ。


「心配するな。可愛い後輩は私達が守る」

「大丈夫よ。一瞬で終わらせてあげる」


 二人の美少女が引きつった顔の俺を安心させるように笑った。


「トーリよ。よく見ておけ、これがS級霊トレーサーの戦いだ」

「……」

「これが我が魂を引き裂き生まれた我の分身……我の魂の叫び……イマジナリーウェポン……黒乱と白乱だ」


 生徒会長が背中の太刀を抜いた。

 いや抜いたというよりは、その手に瞬間移動し両手にそれぞれの太刀が握られていた。

 漆黒の黒い刃と純白の白い刃に浮かんだ波紋が意思を持っているかのように煌びやかに波打っている。

 明らかに普通の太刀ではない。普通の太刀なんて知らないけど。

 太刀を構え、恍惚の表情を浮かべた生徒会長はまさにプリティクオリティ。


「イマジナリーウェポンとは霊トレーサー専用武器のこと。そしてこれが私のイマジナリーウェポン……荒霙と荒霞」


 副会長も同様に一瞬で抜刀した。

 その刀には波紋はない。

 だが、その代わりに複雑な点模様が浮かび上がっていた。

 それが何を意味するか分からないが、ただ美しかった。

 俺はそのあまりの美しさに息を吸うのもミノタウロス君の存在も忘れていた。


「グオオオオオオ」


 俺を忘れるんじゃねーとミノタウロス君が雄叫びをあげた。


「いざ推して参る」

「いざ推して参る」


 涎を垂らしたミノタウロスが太刀を構えた二人に突進する。

 二人は左右に分かれるとミノタウロスの両足から血飛沫が上がった。

 え? 斬った?

 だがその鮮血は直ぐに止まる。

 ミノタウロスが振り向き様に持っていた巨大な斧を水平に薙ぎ払った。

 危ない。だがしかし既に二人の姿はそこにはない。

 生徒会長と副会長は同時に天高く舞う。

 え? 人間ってあんなに高く飛べるの?

 天井にぶつかる寸前、宙返りして天井を蹴って加速しミノタウロスを斬り下ろす。


「グモアアアアア」


 ミノタウロスの身体に赤いラインが刻まれる。

 着地と同時に返し刃で逆袈裟。

 ミノタウロスの体にWの赤いラインが刻まれた。

 それは戦いというよりも演舞。

 遅れてW状に血飛沫が噴出する。

 見事。見事としか言いようがない。

 素人目の俺でもそれだけは分かる。

 この二人は強い。しかも美少女で巨乳。


「グモオオオオオ」


 だがミノタウロスは健在。


「なんと浅いか?」

「両断出来ない? クロミズサマの加護が弱くなっているの?」


 二人の美少女に初めて焦りの表情が浮かんだ。

 それに答えるかのように汚い黄色い歯をニヤッと見せるミノタウロス。

 涎を撒き散らしながら巨大な斧を振り下ろした。


 危ない。

 ガキンと金属音が鳴り響いた。

 なんと二人は太刀で軽々とその巨大な斧をいなした。

 え? おいおい、物理的におかしいだろ?

 あんな華奢な体にどこにそんな力があるのだろうか?

 きっとお胸だ? あそこに未知のパワーが秘められているはずだ。


「グマアアモオオ」


 目を真っ赤にしたミノタウロスが激怒しながら斧を振り回す。

 だが二人にはかすりもしない。

 それどころか避けながら斬りつけていた。

 ミノタウロスの体に赤いラインが刻まれていく。

 勝てる。勝てるぞ。がんばれ。

 だがボッチでコミュ障の俺は声を出して応援することさえ出来ない。

 俺の応援不足なのか生徒会長と副会長の動きが乱れ始めた。


「千草、これは一体?」

「信じられませんが加護が消えているとしか?」

「そんなことあり得ぬ。加護が消えるなどあり得ぬ」

「メンタル霊が足りない。身体強化が切れます。このままでは……」


 振り下ろされたミノタウロスの斧が石畳を粉砕する。

 かろうじて回避した二人を薙ぎ払うミノタウロス。

 回避速度が落ち始めた二人を見てミノタウロスが飛んだ。

 ミノタウロスの大質量が隕石のように落下した。

 衝撃波と轟音がボス部屋を揺らす。

 空気が揺れ、ダンジョンの床が粉砕され、破片が弾丸のように全周囲に飛び散る。

 二人は慌てて回避。


「千草、手を貸せ」

「はい。会長、いつでもどうぞ」

「頼む」


 太刀を後ろに構えた生徒会長が副会長に向かって飛んだ。

 副会長がクロス状に交差させた太刀で生徒会長を受け止め、斬り上げ。生徒会長の体をミノタウロスにぶん投げた。

 空中で高速回転した生徒会長がミノタウロスの顔に太刀を放つ。

 だがミノタウロスは斧を構え、生徒会長に向かって振り回す。


「あぶなっ」


 生徒会長はその攻撃を太刀を盾にして防ぐがそのまま吹っ飛ばされる。

 斧を振り抜いたミノタウロスの元へ副会長の太刀が迫る。


 生徒会長と副会長が笑顔を浮かべた。

 生徒会長の最初の攻撃は、隙を作るためのものだった。


 やったか?


 だが、ミノタウロスが瞼を閉じた。


「え?」


 なんと、斬れたのは厚い脂肪に覆われた瞼だけだった。

 ミノタウロスは目を開けて歯を剥き出し、斧を無茶苦茶に振り回した。


「くっ」


 副会長に怒りの遠吠えを上げたミノタウロスの太い足が迫る。

 副会長は太刀を盾代わりに構える。


「あ、あぶな」


 ミノタウロスの汚い足が副会長の顔に直撃する寸前、生徒会長が横からミノタウロスを斬りつけ、そのタイミングを外す。

 大蹴りでミノタウロスがバランスを崩した隙に副会長が転がって距離を取る。


「大丈夫か? 千草」

「すいません」

「何なんじゃこいつは? 牛鬼のくせに強すぎるぞ」

「いえ、私達が弱いんです」

「クロミズサマの力が落ちているのか?」


 俺の胸にその言葉が突き刺さった。


「グオオオオオオ」


 突然ミノタウロスが叫び、大気を揺らす。

 まるでダンジョン全体が揺れているようだ。


「持久戦は不利だ。千草」

「はい」

「一気に終わらせるぞ」

「はい」


 生徒会長と副会長が太刀をミノタウロスに向けた。

 ミノタウロスは面白そうに舌なめずりした。


「奥義……未来樹開放 半刀両断 ハイハクズ」

「奥義……未来樹解放 乱れ枯葉 アラカスミ」

「ギュアアアアア」

「え?」


 いきなりミノタウロスが絶叫した。

 二人はその場から消えていた。

 いや、生徒会長と副会長は太刀を広げた状態でミノタウロスの背後にいた。

 石畳に四本の真っすぐな削り跡を残して。

 削れた石の破片が遅れて床に落ちる。

 ミノタウロスの巨体がぐらりと傾く。

 静かなダンジョンに大きな衝撃音が響いた。

 振動が俺の薄い上履きの底から伝わる。


「え? え?」


 混乱する俺を他所にミノタウロスの四肢から赤黒い煙が沸き上がる。

 あれは俺がクロミズサマを倒した時に出た煙に似ている。

 その煙は意思があるように折れ曲がり、生徒会長と副会長に吸い込まれていった。


 一撃だった。文字通りの必殺技。惚れちゃいそう。素敵抱いて。


 俺もあんな太刀があったらクロミズサマのばっちい体に手を突っ込むことなんてなかった。

 俺にもいつか、あんな技が使えるようになるのだろうか?

 霊トレーサーの専用武器イマジナリーウェポン。

 ボッチの俺の専用武器だったらボエナリーウェポンかな。


「トーリ。無事か?」


 生徒会長が太刀を血振りした。


「……」


 俺は無言でボッチらしく頷いた。


「千草。これは一体?」

「クロミズサマの加護が弱くなっていますね」

「クロミズサマの身に何があったのか?」

「間違いなく」


 二人は静かに見つめ合う。

 すいません、それきっと俺のせい。

 クロミズサマを扉で挟んで殺したの俺っス。なんて言えねえ。


「フフッハッハッハッ」


 その時、俺達の背後からパチパチと手を叩く不快な音と不快な笑い声がした。

 誰だ?


「加護を失ったとはいえ、さすがは黒岩家の末端に属す者だな。強い強い」


 このイケメンボイスには聞き覚えがあるぞ?


「天道君? なぜここに?」

「おぬし、どうやってダンジョンに?」


 そう、そこには渡り廊下で絡んできて俺に嘘中継スマホで撃退され、生徒会室で生徒会長に完膚なきまで論破された俺のライバルのテンドー君がいた。

お読みいただきありがとうございました。


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