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13 執行部の妨害

「俺は絶対に認めない」


 俺にスマホを向けられ、ぐうの音も出なかったあのイケメン上級生が凄い剣幕で怒鳴り込んできた。


「天道君。今は来客中だから控えなさい」


 副会長が聞いたこともないような低い声でたしなめた。


「来客だと? こいつが来客だと? 笑わせるな。なぜこんなボッチみたいなコミュ障が生徒会室にいるんだ?? お前は部外者だろ。早く出て行けこのゴミが、虫けらが」


 ボッチみたいなコミュ障だと? 何故それを?

 そりゃ俺なんかゴミみたいなもんだが部外者はお前だろ?

 生徒会長と副会長との甘いケーキの匂いが漂うスイートな空間に押し入りやがって。


 何でお前はさっきから俺に突っかかってくるんだよ。

 お前になんかした? スマホでガッツリ撮影して生配信って嘘はついたけど、そんなの些細なことだろ。

 イケメンのくせに生意気だぞ。

 はっ。ひょっとしたらこいつ副会長のことが好きなのか? 嫉妬してるのか?

 だからって善良な俺を害虫みたいに扱うのは遺憾でいかがなものかと思うよ。

 ボッチ虫だって必死に生きているんだよ。

 お前らみたいにアピールだけが上手で、目立つ奴だけじゃなく、静かにつつましく誰にも見られなくても必死に生きている奴もいるんだぞ?


「出て行け」

「……」

「何故お前のような奴がここにいる?」

「……私達が彼を呼んだからよ」


 副会長が腕を組んで闖入者を睨む。


「執行部に誰を入れるかは私に権限がある」


 生徒会長が不機嫌そうにティーカップを置いた。

 さっきまでの噛み噛みドジっ子雰囲気はない。

 威厳とカリスマに満ちていた。

 素敵。威風堂々とした生徒会長素敵。抱いて。


「執行部の我々に何の相談もないのだが?」


 あの誤解です。俺は執行部に入るつもりはないですよ。

 ダンジョン部に入る予定なんです。

 俺は誤解を解こうと勇気を振り絞って声を出すためにカウントダウンしながら深呼吸していると。


「こここここ、くおんな奴だとおおおおぉぉ?」


 生徒会長が聞いたこともない声を震わせて立ち上がった。

 その勢いでガタっ椅子が後ろに倒れた。

 美しい眉は怒りで吊り上がり、大きな目は更に大きく見開かれていた。

 背中の太刀から怒りのオーラが噴出しているように見える。

 俺なら睨まれただけで失禁泡吹きコース確定だ。

 イケメン。逃げて。斬られちゃう。いや斬られろ。


「ふっ。こんな奴だろう。こんな地味で根暗なコミュ障ボッチ野郎に生徒会執行部なんて務まるはずがない」


 上級生は虫けらを見るような目で俺を蔑んだ。

 俺が地味で根暗でコミュ障でボッチが執行部なんて務まるはずありませんよね。

 それには俺も同感だ。


「勤まるか勤まらないか? そ、それを決めるのは生徒会長である私だ」


 生徒会長が腰に手を当てながら仁王立ちでテンドー君を睨む。

 今にも太刀を抜きそうでこっちが冷や冷やする。


「だがその前に人選に関しては我々執行部に一言あってしかるべきだろう。事実上生徒会は我々執行部の手によって運営されているのだからな」


 上級生はふっと鼻で笑った。その態度に生徒会長の目が怒りに歪む。


「彼は執行部とは一緒に活動しない。彼は私の直下に置く。お前の自慢の執行部には何の迷惑もかけないから安心するがいい」


「は?」

「は?」


 上級生のテンドー君と俺が仲良くハモった。

 いやいや。だからさっきから俺は心の中で何度も言おうとしてますが、俺はダンジョン部に入るのであって執行部とかいう特権階級の差別主義者とは関わり持ちませんから。


「ふっ。何を言っているのだ? 執行部は生徒の代表だ。公正、公平、健全でなければならない。特別扱いは困る。生徒会長だからって何でも我儘が通ると思ったら大間違いだ」


 お願い。私を巡って争うのは止めて。

 俺は心の中で必死に争いを止めようとするが、ゆるキャラのボッチ君が、やれやれもっとやれボッチ。拳で決めるかボッチ? と煽る。


「ほほう。誰が誰を許さないのというのだ?」


 生徒会長が腕を組み直した。

 俺の目はそこに釘付となった。


「俺だ。分家のキサマが本家に逆らうのか。哀れなお前を助けてやってるのになんて言い草だ?」


 上級生のイケメン顔が、怖イケメン顔に激変した。

 なんと生徒会長をキサマ呼ばわりしたのだ。


 俺の中で何かのスイッチがオンになった。

 この麗しい生徒会長をキサマ扱いするだと?

 お前はこの噛み噛み残念美人の良さがまるで分っていない。

 出会って数分の俺が偉そうに言えたことではないが、生徒会長はあざと可愛いんだぞ。


「フッ。お前がどう吠えようとトーリには勝てん」


 生徒会長は長い髪を優雅に後ろに払った。


「どういう意味だ?」

「はあ。あんまり言いたくはないんだが……」


 生徒会長は溜息をついて俺を見てからテンドー君に向かってこう言った。


「……トーリはダンジョンに入れるのだ」


 え? 暴露すんなよ。何いきなり俺のボッチシークレットを部外者に喋っちゃってんのよ。


「馬鹿な。こいつが霊トレーサーだとぉ」


 テンドー君は歯茎から血が出そうなぐらい歯ぎしりをして叫んだ。

 あらテンドー君ご存じだったの? 霊トレーサーのこと?

 なあんだ。ダンジョンって意外にみんな知ってるんだね。


「悔しかったらお前もダンジョンに入ってから意見するといい」

「くっ。くそおおおおお」

「黒岩家の次期当主ともあろうお前がダンジョンに入れないのではなあ」

「くぅ」

「会長。そのへんで」


 副会長が睨み合う生徒会長とテンドー君の二人の間に入った。


「ぐぬぬ。千草なぜ止める。きょいつはトーリをきょいつ呼ばわりしたのだぞ」


 生徒会長は可愛い指をイケメンに向けて何度も指した。

 殿だ。殿がいた。上様がいた。

 何この貫禄。噛み噛み残念美人とかいってごめんなさい。

 敵味方関係なくひれ伏させるほどの覇気を放っていた。

 いずれ彼女は歴史に名を遺すであろう。


「くっ。覚えてろよ」


 テンドー君は悪役のお手本のような捨て台詞を吐いて生徒会室からスタコラと出て行った。


「会長。言い過ぎですよ」


 副会長が湯呑を会長の前に置いた。


「トーリをバカにするからだ」


 生徒会長は、ズズッと音を立て上品にお茶を飲んだ。


「それは同感ですが、あれは一応本家の者ですよ? あまり煽らないでください」


 副会長は湯呑を手にして天を見上げた。


「千草。学校にいる時ぐらいは家のことを持ち出すのは止めてくれ。ズズズー。せっかくの茶が不味くなるぞ」

「そうでした。すいません。ズズズー」

「……ズズズー」


 嵐が去った生徒会室の中で俺達は一息入れた。

 副会長が淹れてくれたお茶を飲んだ俺の中から嫌なことが消滅してしまった。

 もうテンドー君のことは忘れてしまいそうだ。もはや顔も覚えていない。

 このお茶はもしかして忘却のお茶か?

 それより話が全然見えなかったのだが、俺が執行部に入るって言ってなかった?


「あのー執行部って? ズズズー?」


 俺はごく自然に疑問を口にした。やってやったぞ。今の質問の仕方は百点だ。

 俺の会心の一撃が炸裂した。

 だが二人は何言ってんだ? 的な顔をした。

 あれ? 今の質問ダメだったの?


「生徒会執行部がどうかしたか?」


 生徒会長もこの副会長の魔法の癒しのお茶の効果で無事に怒りも収まったようだ。

 いつもの天真爛漫な笑顔に戻っていた。


「いや、あの、ジョ、ジョ、ゾンブに入部するのでは?」


 くっそ。噛んだ。


「ああ、書類上ではお前は執行部に入るんだ」


 生徒会長は何でもないようにそう言った。


 なんですと?


「この学校にはダンジョン部は公には存在しないの。だって誰にも見えない部活って変でしょ。だから表向きにはトーリ君は執行部の所属になるのよ」


 副会長が補足説明をする。


「……」

「まあ書類上の話だ。たいしたことはない」

「……」


 いやいや、たいしたことあるだろ。

 執行部って言ったらクラスのモブキャラ情報では生徒のカーストトップのランク外トッププレーヤーの魔窟ですよ。

 俺がイジメられる未来しか見えない。


「……」


 狭い生徒会室の中に沈黙が支配した。


「あいつのことは気にするな。お前は私が守るからな」


 あのーこんなこと言うのも恐縮なんですけど、俺がテンドー君に恨みを買ったのは生徒会長、貴方のせいですよね。

 貴方が朝から堂々と教室に乗り込んで勧誘するから目立ったんでしょ。

 どうすんの? ああこれ絶対絡まれるよ。

 テンドー君が渡り廊下で俺に聞きたかったのはこのことだったんだ。


「それはそうとトーリ。そろそろ時間だ。クロミズ様のところに行くぞ」

「あら、もうこんな時間」

「へっ?」

「今からダンジョンに行くぞ」


 生徒会長は立ち上がった。


「へっ?」


 俺の湯呑を持つ手が空中で止まった。


「ダンジョン?」


 俺のポンコツCPU使用率が百%を超えファンがブオンと音を立てた。


「昨日行っただろ」

「……え?」


 行きましたよ。死ぬかと思いましたよ。


「昨日お前が新人発掘検査で飛ばされたダンジョンだ」

「!?」


 俺は額の汗と共に昨日の恐怖が蘇る。


「どうした?」

「今度は一人じゃないのよ」


 いや一人は怖くない。俺はボッチだから。

 問題はそんなことじゃない。

 それよりクロミズサマって誰の事? 物凄い嫌な予感がする。


「……」

「トーリ君。実はあそこはダンジョンではなく、クロミズサマを祭る神殿なの。だから怖がる必要はないのよ」


 副会長が優しく両手を広げた。太刀がカチャリと俺に警告を発した。


「ま、まあ、最初にダンジョンに行った時はびっくりするものだがすぐ慣れる」


 生徒会長が俺の肩をポンポンと叩いた。

 スーパー美少女との近接遭遇、いや異性との直接接触に俺は狂喜乱舞するところだったが、気になる言葉があって素直に小躍りできなかった。


「クロミズサマって?」

「ああ、クロミズサマは我らの守護神だ。トーリもクロミズサマから加護を授けてもらえるかもな」

「えっ?」


 守護神だと? そんなのいたか? 黒スライムならいたけど、クロミズサマなんていなかったぞ。

 両方とも黒いけど、まさかそんな馬鹿な。違う。絶対気のせいだ。


「クロミズサマはあのダンジョンの主。我らがお仕えする神様だ」

「え?」


 神だと? ダンジョンの主だと?


「お供えは持ったか?」

「はい。トーリ君これ持って。いやーやっぱり男子がいると楽ね」


 副会長が部屋の隅に置いてあった段ボールを俺に手渡した。

 ズシリと重い。


「はい? これ全部?」

「ああそうだ。クロミズサマは食いしん坊でな。お供えは全部召し上がるのだ」

「えっ?」


 まさかまさか。


「トーリ君が驚かないように先に行っておくけどクロミズサマは水の精霊なの。見た目は大きなスライムなんだけど神様だから絶対に襲い掛かったりしたらダメよ」


 楽しかった俺のダンジョン部生活はたった数分で終わりを告げた。


「……」


 クロミズサマそれは俺が扉に挟んで潰しちゃった黒スライムのことだった。


「……」


「クロミズサマは普段隠し部屋にいらっしゃる。クロミズサマに認められた者にしかその姿を見せない。我々と一緒ならその姿を拝めるぞ」

「ぐっ」

「どうしたのトーリ君。クロミズサマの見た目は怖いけど優しい方よ。とって食ったりはしないわよ」


 食われましたよ。もう体ごとガブリとね。

 さっき生徒会長はクロミズサマにお仕えしていると言った。

 それを俺が倒した。

 テンドー君。俺もすぐに君の後を追うよ。


「きょ、今日は調子が悪いからまた今度にしようかな」


 俺は今日一で喋った。頑張って拒否権を行使した。

 自分の意思をここまで露骨に表現したのは久しぶりだった。


「にゃ、な、な、何をバカなことを言うのじゃ。我が校の守護神様に挨拶せねばなるまい。さ、行くぞ」

「……コホコホ」


 俺は生徒会長に遠慮しながら咳き込んだ。


「あれだけケーキ食べたのに体調が悪いなんておかしいわねえ」


 副会長が眼を細めた。背中の太刀がカチャリと鳴った。


「……」


 俺はお供えを床に置き、生徒会室からボッチらしく無言で退出しようとした。

 生徒会長が俺の腕を掴んだ。


「ほら行くぞ」

「ひっ」


 俺は伝説の女子に触れられたことで思考が停止した。




 我が校最高権力者二人に強制連行された。

 お供えが入った段ボール箱を担いで二人の美女の後ろを歩いている。

 俺の眼の前で揺れる四振りの太刀が、俺を威圧する。


 強制連行される俺を見た生徒達がヒソヒソ話をしている。

 その内容は聞かなくとも想像できる。

 痴漢行為をした俺が生徒会長に連行される図だ。

 いっそ痴漢でもしたほうが、命は助かるかもしれない。

 くっ。どうしよう。クロミズサマを俺が殺したことがバレたらどうしよう。

 でももう今では仲直りしてボットモの仲だから許してくれるだろうか?

 ああこのままダンジョン部に到着しなければいいのに。

 今すぐ校庭に隕石でも落ちてこないかな?

 宇宙人とか来ないかな?

 だがダンジョン部は階段を下りたすぐそこだった。


「トーリ君もすぐに慣れるわ」


 副会長は可愛い笑顔で笑った。その笑顔が眩しすぎた。


「実はドアに細工がしてあってな、霊トレーサーだけに反応し、ダンジョンへの扉が開かれる。簡易の転移ゲートになっているのだぞ」


 生徒会長が自慢する。


「はあ」

「怖くない怖くない」

「ほらさっさと行くぞ。クロミズサマがお腹を空かせて待っていらっしゃるぞ」


 俺は背中を押されダンジョン部の部室の中によろよろと入った。


 眩暈に襲われ、視界が濁る。

 次の瞬間そこは懐かしのダンジョンだった。


 ボッチの神様。俺にボメグミを。

お読みいただきありがとうございました。


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