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12 さようならボッチ君

 生徒会長がダンジョン部の部長だと?


「そして私がダンジョン部の副部長よ。生徒会と掛け持ちなの」


 副会長が背筋を伸ばした。

 この二人がダンジョン部員だって?

 つまり俺を勝手にダンジョンに送りこみ、死にそうな目に合わせたのはこの可愛らしい美少女二人?

 いくら新人発掘の為とはいえ、やって良いことと悪いことがある。

 危うくダンジョンで死んじゃうところだったんだぞ。

 俺の眼の前に復讐相手がいた。


「……」


 俺はボッチアイで生徒会長を見た。


「しょ、そんなに睨むな。黙ってダンジョンに送ったのは伝統みたいなものだ。ハハハ」


 生徒会長は笑って誤魔化す。

 くそデラカワエー。そんな笑顔で許されると思うなよ。

 ダンジョンの中で孤独の重圧や、ボッスに潰されてボッチ死するところだったんだぞ。


 だが俺も鬼ではない。交換条件だ。いわゆる等価交換だ。

 その胸触らせてくれたら許します。

 俺は心の中でセクハラ事案まっしぐらの妄想モードに突入していると。


「……す、すまぬ」


 生徒会長が下を向き上目遣いでボソッと謝った。

 くっ。そんな笑顔で許されると思うなよ。

 許して欲しいなら分かるだろ? ああん?


「トーリ君も怖かったかもしれないけど、実際はあのダンジョンに危険はなかったでしょ? 許して」


 副会長が顔の前で手を合わせた。

 俺は副会長の言葉に初めて異論を感じた。

 いやいや、あのダンジョン最初から最後まで危険しかなかったぞ。

 何を言っているんだ? 流石に無言のボッチの俺ですら異論を唱えちゃうよ。

 なんてったって巨大な黒スライムに頭からガブリと食べられたんだからね?

 意識が飛んでダークサイドに落ちちゃうところだったんだぞ?


「よくよく考えてみよ……お前は果報者なのだ。私と千草の後輩になれるのだ? そう思えばあんなダンジョンの試練など大したことあるまい?」


 生徒会長は自分の胸を押さえてから手を広げた。

 今は胸を見てもいいよね。ガン見してもいいタイミングだよね。

 いかん。頬の筋肉がダラリと緩むのが分かる。

 だが絶対に顔に出すな。無表情を維持しろ。

 このままではムッツリボッチ略してムッツリッチと後ろ指を指されてしまう。


 生徒会長の後輩? 副会長の後輩?

 くっ、なんという誘惑的で卑猥な言葉だ。

 サイカワの嚙み嚙み生徒会長の後輩というポジションはこの世の男子が一番欲しいモノの一つであろう。

 美人でクールビューティーの副会長の後輩というポジションは、ライバルを殺してでも奪い取りたい男の夢の一つであろう。

 そんな伝説の美少女の後輩。物凄く魅力的だ。これ以上ないほどの誘惑的だ。

 そのはち切れそうな曲線美とその布地の皺が俺を煩悩の海の底へと誘う。


「ほら。私をよく見ろ。まだまだ私も捨てたもんじゃないじゃろう?」


 俺が無関心を装っていると、生徒会長は右手を頭の後ろに当ててモデルポーズをした。


「……」


 デラカワエー。耐えろ。耐えろ。俺は目をそらした。

 お胸の布テントが俺の目線を瞬間接着剤で固定した。

 いちいち動くたびに胸を揺らすのは絶対狙ってやっている。

 わざとだ。確信犯だ。お色気作戦だ。純情ボッチの俺には効果絶大。

 コミュ障で、女子慣れしていないボッチのウィークポイント。ボイークポイントだ。


「これならどうだ?」


 突然、生徒会長が生徒会室の中をうろつき始めた。

 まっすぐ前を見て、頭を動かさずに颯爽と歩くその姿。

 これはモデルウォークのつもりだろうか?


 はい、カメラ回ってます。同録です。音を立てないでください。

 俺の心のADが声を上げた。

 緊張感に包まれたスタジオ、いや生徒会室。

 監督、いつでもどうぞ?

 3、3、シュート。俺は指パッチンした。と妄想していると。


「千草。お前もやれ」

「え? はっ? はい? 私も? それを? ええ?」


 冷静沈着なクールビューティーな副会長が動揺した。

 その仕草はギャップ萌え可愛い。


「そうだ」

「何ですかこれは?」

「モデルウォークというものだ」

「はあ? それを何でやるんですか?」

「バカ者。男はこれでイチコロだと咲姉が言っていたぞ?」

「会長騙されてますよ絶対」

「いいからやるのだ」

「は、はあ、こうですか?」

「違う、腰をもっと振るのだ」

「え? こうですか?」

「ちがーう」

「え?」

「……」


 茫然とする俺の周りを絶世の美少女二人がグルグル歩き回っている。

 芸能界やドクモを八馬身の差を付け、抜き去る美の競演。

 可愛いは正義。美しいは天下無双。美人は治外法権。

 ターンする度にキラキラ光る柔らかそうな繊細な髪が胸元を流れる。

 太刀と太刀もカチャカチャと合いの手を入れる。

 俺はその光景に度肝を抜かれて茫然と突っ立っていた。

 生徒会長が得意げに歩いた瞬間、自分の足を自分で蹴ってすっ転んだ。


「ぬあ」

「!」

「危ない」


 副会長が目にも止まらぬ速さでサッとその腰を支えた。

 そこは俺とぶつかってラッキースケベ的なイベントが勃発するところだろ。

 二人が一瞬抱き合うように身を寄せた。

 胸と胸の距離が近い。

 もう羨ましい。あの隙間に入りたい。

 もしかしてダンジョン部に入ればいつか俺もあの隙間にも入れるのかもしれないな?

 人類未踏の人外魔境桃源郷が俺を待っている。


「……」


 もうダンジョン部に入るの千パーセント決定。

 だがダンジョンは危険だ。

 危険なダンジョンと美少女二人との甘い空間か?

 どちらを選ぶ?

 デッド オア ラッキースケベか?


「なっ。千草。これはおかしいぞ。き、効かない。もしかしてトーリは女性が好みではないのか?」

「いえ、さっきから私達の胸をチラチラ見てますから、興味はかなりあるようです」

「そうなのか?」


 くっ。バレてる。思いっきりバレてる。

 くっそ、チラチラ視線を外していたはずだ。


「でも背中ばかり気にしているので、背中フェチかもしれません」


 副会長はそこまで気付いているとは恐るべし。

 だが俺が気になっているのはその背負った太刀であって背中ではない。


「私の魅力が足りないのか?」


 生徒会長がしょんぼりした。しょんぼりした生徒会長プリプリティ。


「いえ、そんなことはありません。会長はあざと可愛いです」


 副会長が慌ててフォローする。


「何だそれは? 褒めてないだろうが。それに私より遥かに可愛い千草が何言っても嫌味にしか聞こえないのだが?」

「いやいや、私など会長には僅差で負けます。それに私には大事なところで噛むなんて、あざと可愛い恥ずかしい真似なんてできません」

「恥ずかしい? ま、真似してもいいんだ? いや、か、かか噛むのはわざとじゃないぞ」

「……」


 なにこの光景。ふつくしい。美しい。

 さっきから俺を置いてけぼりにして二人の美の競演が始まっていた。


「コホン。ダンジョン部に入れば、このホンワカクールビューティー美少女の副会長の後輩にもなれるのだぞ」


 生徒会長が副会長の顔を手で挟み俺に向けた。


「あざと可愛い会長の後輩になれるのよ?」


 副会長が流し目する。


「……!」


 後輩。何という美しい響き。なんという甘美な誘惑だ。

 あの伝説の美少女である二人の後輩になれるだと?


「さあ、我々と楽しいダンジョン部生活を送ろうではな、ないきゃ」


 生徒会長が噛んだ。

 くっそ。いちいち可愛い。何だこの生き物。

 確かに絶世の美少女二人との部活は天国だ。

 だが俺は昨日ダンジョンで喰われて死にそうになった

 ダンジョンは危険なのだ。

 いくら美少女と同じ密室で同じ空気を吸えたとしても命には代えられない。

 天国と地獄が同時に存在しているようなものだ。


「……」


 だがそのキラリと光る太刀が決め手となった。


「……ことわ……」


 ギュルルルルル。


 と俺の腹が答えた。

 何だよ。こんなタイミングで鳴らなくてもいいだろう。

 ことわぎゅ ってどっちなんだよ。カレ牛かよ。


 もしかして俺の腹の虫は意思があり潜在意識ではダンジョン部に入りたいのか?

 ここは一旦退却して形勢を立て直そう。

 うん、それがいい。今ここで決める必要はないのだ。

 俺のボッチスキルの一つ、逃げの一手を使おうとすると。


「あらトーリ君。そういえばケーキがあるのよ。甘い物は好き?」


 副会長の言葉が俺の決断と逃亡を阻止した。


「……は、はい」


 春もうららの昼下がり、生徒会室にはカチャカチャと小刻み良い音が響いていた。

 太刀の音ではない。

 優雅なティーカップの音だ。


 俺はなんて意志の弱い人間なんだ。

 目の前には二人の美女が微笑んでいる。

 俺の口の中には食べたこともない高そうなケーキの甘い味が広がっていた。

 副会長の入れた紅茶がそれを引き立てる。


「まだまだあるから食べてね」


 副会長が新しいケーキを取り出した。


「……へ?」


 二人は細い腰の美少女ですよね?

 そのケーキ何個目ですか?

 副会長も新たなケーキの包装をクルリと外し、フォークを刺し小さな口に運んだ。

 生徒会長が鼻に生クリームを付けて食べているケーキは六個目だ。

 普通の女子はこれぐらいペロリと食べるのだろうか?

 女子とケーキなんか食べたことがないから基準が分からない。

 姉ちゃんならこれぐらい余裕で食べるだろう。

 でもあの怪物は大食い選手権以上の大食いだからだ普通は食べないよね。


「あらあら、会長。まだありますよ」

「ふまい」


 副会長が生徒会長の鼻に付いた生クリームをふき取った。


「……」


 いやもう太刀とか、ダンジョンとか、危険とか、もうどうでもいい。

 ケーキ旨い。

 ここは天国だった。死んだ爺ちゃんもこっちにおいでよ。

 俺はもう完全に餌付けされていた。


「さて、腹も膨れたところでどうだ? ダンジョン部入部の件だが、前向きに考えてくれないきゃな、な?」


 生徒会長がフォークを置いて口元を拭きながら俺を見た。


「トーリ君は食いしん坊みたいね。私達もそうだけどダンジョンに潜るとお腹すくのよね。だから食料は大量に用意してあるの」

「……」

「それに校内で堂々とお茶とケーキが常備されているのは生徒会ぐらいなものよ」


 副会長がそう駄目押しした。

 眼福と満腹二つの福の魅力に抗えるか?

 否。不可能だ。


「……」

「なあ千草よ。食べ物で釣るのか?」


 生徒会長が冷ややかな目で副会長を見た。


「ええ、私の父は母の料理と結婚したようなものだから」


 副会長の料理なら一日五食いけます。いや十食いけます。


「そうなのか。そんな単純なことなのか?」


 生徒会長が腕を組みながら考えている。

 あんまり腕を組むとお胸が苦しそうです。

 助けなきゃ圧迫された胸部を。


「飯ぐらい、いつでも食わしてやるぞ。可愛い後輩には飯を奢るのが先輩の務めだとテレビで言っていたしな」


 俺のお笑い芸人の言葉を真に受けちゃダメです。

 彼らは一般人ではありません。


「お優しいですね会長は」

「そうなのだ」


 ぐらあぁ。俺の中の何かが倒れた。

 ああ、俺はこのまま餌付けされちゃうのだ。

 俺は食い物に釣られちゃうのだ。

 意地汚いのだ。ボッチの食いしん坊ボッチンボウなのだ。

 ああ。ボッチの神様。ついに僕はボッチを卒業します。


 僕達、私達は今日ボッチを卒業します。

 ボッチの仲間よ。俺は先に行く。

 ボッチがまだ見たことがない世界、ボッチホライゾン、ボッチフロンティアへ。

 さよなら俺のイマジナリーフレンドのゆるキャラのボッチ君。


『さらばボッチよ』


 ボッチよ永遠に。


「……入る」


 俺は、ぼそりとそう答えた。


「おっしゃあああ」


 生徒会長が机の上に乗って叫んだ。スカートスカート、中が見える見える。

 あれ? 見えない。ギリギリの角度で見えないのをキープ。

 ゲーム内のキャラのスカートが覗けないギリギリカメラかよ。


「よかったあぁ。よかったですね会長。これで新人戦に間に合いますね」


 机の上から飛び降りた生徒会長を受け止める副会長。

 二人の美女が抱き合って喜んで飛び跳ねている。

 天使の舞が繰り広げられている。


「ではトーリ君。早速だけど、こことここにサインをお願いね」


 副会長が俺の手を取りその手にペンを握らせた。

 素早い。いつの間に。


「くっ」


 だが物理的接触来たああああ。

 我未知物体接触。

 副会長の綺麗で華奢で色白でスベスベ、モチモチの手が、手があああ。

 意識が遠のく。

 爺ちゃん。そこにいるのは天国の爺ちゃん?

 俺は触れられただけで昇天しそうになる。

 これは黒スライムの戦闘で意識を失いそうになった時以上の衝撃だった。


 俺はペンに残った副会長のぬくもりを必死に感じながら入部届に自分の名前を書こうとするが、あまりの衝撃で自分の名前を忘れて、必死に思い出してなんとかサインした。


「こっちもお願い」


 副会長が別の紙を出した。

 何だこれ? と思って見ようとするが副会長が綺麗な手で名前以外の欄を隠した。

 細くて白くて長くて綺麗な手ですね。


「読んでもつまんないから書いて」

「はあ」


 俺はその白い手にボチボチしながら何枚かの書類にサインした。


「これでトーリ君はダンジョン部員よ」

「よし。ククク。アーハッハッハ。キャキャキャ、キャク、新人戦要員確保完了じゃあぁぁぁぁ。もうやっぱり辞めるとかは無理だからな。サインしたしな」


 生徒会長が悪い顔をした。これは姉ちゃんがよくやる顔だ。

 つまり生徒会長は何か良からぬことを考えている。


「この契約書は永遠に有効です。加賀坂通。あなたは霊トレーサーの候補となりました。撤回も修正もできません。いいですね?」

「ええ、まあ?」


 副会長も一瞬だけ悪い顔をしてパンと手を叩いた。


「それで歓迎会どうします? 認定試験後のほうがいいですかね」

「ふむ、そうだな。新人戦の後でよい」


 そんな時、突然生徒会室のドアが開けられ。


「待て。俺はこんな奴絶対に認めない」


 さっきの渡り廊下の上級生が怒鳴り込んできた。


 どうやら俺はまだボッチ道からは卒業できないようだった。

お読みいただきありがとうございました。


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