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11 ボッチ尋問

 生徒会長が大きな瞳をすっと細めた。

 眼を細めても俺より大きな眼ってどういう構造だよ。俺の眼ってもう一次元だね。

 カーボンナノチューブか、グラフェンぐらいの激細だね。

 妄想で現実逃避するが、現実は一向に逃げてくれない。


「……答えるんだ。ダンジョンのことを誰に聞いた?」


 俺が答えないのが気に入らないのか? 生徒会長はもう一度同じ質問を繰り返した。


「……」


 勿論友達のいない俺はダンジョン部のことなど誰からも聞いてない。

 ナニコレ? イジメ? 生徒会長がイジメしてもいいのか?

 しかもなんでこんなに高圧的なんだ。

 さっきは噛んだくせに。噛んだくせに。きゃんだくせに。

 心の中の言葉まで噛むとは俺はかなり動揺していた。

 追い込まれていた。窮鼠猫を噛むが発動するぞ?


「……」


 ここまで証拠が挙がっているのでは、すっとぼけても無駄だろう。

 俺は正直に答えることに決めた。

 美少女に見つめられてボッチハートがボチボチに壊れそうだったからだ。


「……け、けけ掲示板の貼り紙だけど」


 俺は最低限の言葉で最適に手短に答えた。


「!」

「! にゃんにゃんと、やはりあれを見たのじゃな?」


 噛み過ぎて猫になっちゃった生徒会長、滅茶苦茶可愛いです。

 生徒会長の細くなっていた目が大きく見開かれた。

 副会長も口に手をやって驚いている。


「?」


 ホワイ? 俺はボッチらしく無言で首を傾げた。

 二人ともそんなに驚いたら大きな目が落ちちゃうよ。


「……信じられないかもしれないけどトーリ君。あの貼り紙はね。普通の人には見えないの」


 副会長の真剣な表情を浮かべ、その大きな目で俺を見つめた。

 俺はその大きな綺麗な瞳、美の事象の水平線に引き寄せられた。

 これほど大きな目は見たことがない。

 これは生物学的には欠陥だろう。すぐゴミが入っちゃうからね。

 ああ、その為に長い睫毛が存在するのか? 美は連鎖する?

 俺はその大きな目から思わず目を逸らす。

 するとそこには大きく膨らむ胸元の布地が眼に入る。

 慌てて目線を外す。

 すると今度は真っ白で細い足が眼に入る。

 女子生徒の下半身をガン見するとセクハラ認定を受けて俺の学生生活は暗黒時代となってしまう。ああ、俺は一体どこを見ればいいのだ。

 油断するとセクハラポイントか背中の太刀に目がいってしまう。


「あの貼り紙はダンジョン産だから普通の者には見えないのだ」


 生徒会長が頷いた。髪が揺れ、胸が揺れ、太刀が揺れた。


「?」


 え? 一体何を言っているんだ? 見えない? あんな掲示板のど真ん中に貼ってあったのに見えない?

 野球部やサッカー部の貼り紙の上に貼ってあったぞ。

 それが見えないってどういう原理だ?

 俺のこの細いボッチアイにはバッチリ見えていたぞ。

 そしてダンジョン産ってなんだ?

 コーヒー豆の産地みたいに言うなよ。


「……喜べ。お前は選ばれし者なのだ」


 生徒会長は手を広げた。

 抱きついてもいいのかな?

 あの胸に飛び込んでもいいのかな?


「そう。選ばれし者よ」


 副会長が駄目だという目で俺を睨んだ。

 それにしても二人ともキャラ変わりました?

 なにその胡散臭い詐欺師みたいなセリフ?

 俺は何を買わされるのだろうか?

 二人がそんな怪しいビジネスをしているようには見えないが、その高そうな太刀を背負ってることを考えると、俺も何か高級武器を買わされる可能性がある。


 残念ですが、あっし、お金ありませんから買えませんから。

 明日からの昼めし代すら危ういんですから。刀とか絶対に買いませんよ。


「ダンジョンはね。普通の人には見えないの……」

「……」


 はい? 俺は心の中で素っ頓狂な声を出した。


「ダンジョンとは……想像の産物であり、この世には存在しない。だけどこの世ではない場所に存在している……」


 矛盾していてどう突っ込んでいいのか分からない。

 ダンジョンが存在していない?

 昨日のあれは何だったの? 夢だったの?


「最新の仮説ではダンジョンは境界領域存在し、人により初めてその存在を観測され具現化された存在といいます……つまり人がダンジョンを作ったと」


 突然、副会長のダンジョン解説が始まった。

 その綺麗な声と綺麗な顔とその背中で揺れる太刀が気になってまったく頭に入らない。

 全く理解不可能です。何境界領域って?


「人の想像が境界領域を加速させ、人類全てが観測者となった。宇宙で最初の知的生命体である人類が観測し、空間が固定され、具現化された。人々の感情が、願いが、妄想が、想像が集まって存在することが許され現実世界と同様の力を持ち始めた。それがダンジョン領域」


 ふええ。全然分かりません。漢字が多すぎます。

 クリエイティビティで、イノベーションで、イニシアティブみたいな意識高い系の片仮名で喋ってくれよ。


「……人々の妄想、想像を現実に固定したのがダンジョンです。人の願望がその構造に多大な影響を与え、そして流行や時代と共にダンジョンは変化しています。今存在するダンジョンは二つに分けられます。古代の神々が多い古式ダンジョンと、ゲームやアニメに影響を受けた新生ダンジョンです」


 副会長の解説は続いた。簡単にまとめるとこうだ。


 ダンジョンはイメージが具現化した存在である。

 はるか昔。この宇宙に精神界と物理界の二つの世界が混ざり合う境界面という領域があった。

 精神界とはあの世。物質界とはこの世だ。

 この境界面は二つの世界が入り乱れ混濁するカオス状態が続いていた。

 ある時、そんなカオス状態を観測し再定義した存在がいた。

 神に最も近い生物。人類だ。

 人類はその豊かな想像力で自然の中に神を見出し、安全な桃源郷を夢見て、死を恐れ、天に祈り、悪魔を信じた。

 その思いは魂を通じて境界面に影響を与え続けた。


 やがてその想いがある流れを作り、その流れはいつしか形となった。

 カオスだった混沌世界のベクトルが決まったのだ。

 つまり人類の豊かな想像力がカオス世界の状態を観測し固定化させたのだ。

 神々が、ダンジョンが、モンスターが、悪魔が、想像上の存在が形を得た。


 そしてそれを倒すための専用武器や専用アイテムが収束した。

 ダンジョンが生まれた瞬間だった。

 そしてその想像力で観測固定化されたダンジョンに入れるのは、想像力が豊かな者だけだった。

 想像力が豊かな者はダンジョンに行ける。

 その想像力のことを精神の霊。メンタル霊と呼ぶそうだ。

 ゲームでいうところのHPはメンタル霊ということだ。

 HPであるメンタル霊が無くなればダンジョンに存在を維持できなくなり、強制排除となる。

 だが精神世界は現実に影響を及ばさない。

 だからこれはデスゲームではない。ダンジョンで死んでも現実では死なない。

 ただ強制排除されるだけだ。

 ただし、メンタル霊が溜まるまでダンジョンには入れない。


 そしてこのダンジョンに入れる者のことを、メンタル霊を追う者。霊トレーサーと呼称するそうだ。

 なんと俺はそんな選ばれた霊トレーサーだというのだ。

 ボッチの霊トレーサーだからボーサーだな。

 にわかには信じがたい話だ。

 つか説明が長い。俺のボッチブレインのメモリ容量では明日には忘れているぞ。


 確かに俺は昔から妄想が得意だった。

 単に一人でいる時間が長いだけだったのだが。

 それが原因かどうかは不明だが、俺の有り余る妄想力によって育まれた力が霊トレーサーへと花開いたのだろうか?

 そしてその霊トレーサーの存在は極めて稀だそうだ。

 人類の数パーセント以下しか存在しない。まさに選ばれし者なのだ。

 従って俺はSSR級のスーパーレアキャラボッチなのだ。


 あのダンジョン部の張り紙の目的はこうだ。

 新入生の中から霊トレーサーを見つけるために掲示板にダンジョン産の紙とインクで作られた貼り紙する。

 当然それは霊トレーサーにだけしか見えない。

 貼り紙を見た霊トレーサーだけがダンジョン部の場所が分かる仕組みだ。


 って最初に説明しろよ。

 だがそうできない理由かあった。

 あなたにはダンジョンに行ける才能があります。なんて話しても誰も信じないからだ。

 だが一度ダンジョンに行けば話は別だ。嫌でも信じるしかない。

 今の俺ならばこの与太話を信じる。


 これが昨日のボッチダンジョン転送事件と扉でボスを圧死した事件の真相だ。


 だが腑に落ちないことがある。

 二人は生徒会の人間だ。

 なぜこんなにダンジョンに詳しいのだろうか?

 あとその武器だ。そっちの説明も求む。


「まあ最初はダンジョンって言われてもよく分からないものよ。そのうち分かるからあまり深く考えなくてもいいのよ」


 俺の心の混乱を察したのか副会長が優しくフォローしてくれた。


「私が鍛えてやるのだ」

「やさしく教えてあげてくださいよ」

「教え方など知らんぞ?」


 教える? 生徒会長達が何故教えるのだ?

 だが物凄く魅力的な提案だ。

 手取り足取り、胸取り? 御教授ください。


 それよりもその肝心のダンジョン部員はどこにいるのだ?

 俺をダンジョンに飛ばした犯人を許さない。

 と俺がダンジョン部員に復讐を誓っていると生徒会長が大きな音を立てて椅子を引いて立ち上がり。


「だから。オオオ、オ前。今シュグ。ジャンジョンブに入れ」


 と大声で叫んだのだった。

 えっと? ジョンジョン部ってなんだよ。

 ダンジョン部は知ってるがジョンジョン部なんて聞いたことないぞ。


「……? ジョン部って何?」

「くう、違う。ダンダンブだ。違う」

「会長。落ち着いてください。トーリ君が呆気に取られてますよ。ごめんねトーリ君。会長は慌てると噛んじゃうの。あざと可愛すぎるでしょ」

「噛んでない。あざとくない。わざとじゃない」


 生徒会長が顔を真っ赤にしてわめいた。あざと可愛いです。

 滅茶苦茶あざと可愛い。美女が噛むのは卑怯だ。

 俺が噛んだら笑われるのに、やはり可愛いは正義だ。

 美しいは無双だ。人は見た目が千パーセントなのだ。

 俺の中で新たなヒロインジャンル噛みっ娘武装少女が誕生した。


 俺は生徒会長の新たな面を垣間見ることができて幸運だった。

 ファンクラブの面々は知っているのだろうか?

 生徒会長がすぐ噛んじゃうってことを?

 そしてその背中にある太刀のことを。


 待てよ。クラスメイトの噂でもこの刀や太刀の話題は出たことがない。

 皆優しいからこのことを話題にも出さないのか? 怖いのか?

 俺は太刀に目をやる。どこからどう見ても業物だ。

 迫力が違う。妖刀か? 日本酒の名前みたいな妖刀か?

 副会長が俺の訝し気な視線に気が付いたのか生徒会長の耳元でゴニョゴニョした。


 生徒会長はコクコクと何度か頷いた後で掌をポンと叩いてから。


「ああーコホン。そういえばすっかり言い忘れていたが……私がダンジョン部の部長だ」


 生徒会長は偉そうに腰に手をやって胸を逸らした。

 胸元のボリュームがその動きで遅れて揺れて太刀がカチャリと鳴った。

 俺の目は胸と太刀に釘付けとなった。

 何だって?

お読みいただきありがとうございました。

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