表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

107/113

105 新人戦予選ボッチの狩り

 ボッチはフードを深く被り、顔を覆い隠しながらキョロキョロと周囲を伺いながら宝箱に近づいていく。


 倒すか? いや、俺はリア獣を殺すためにここで罠を張っているのだ。

 哀れなボッチを殺すためではない。

 だが今は敵も味方も関係ないバトロワ祭りが絶賛開催中。

 生き残った者だけが突破できる過酷な新人戦。情け容赦は無用。

 優しい感情なんて捨て去れ、ボッチ種だからといって情けをかけるな。

 俺は冷酷非道のダークボッチロードを歩く者ぞ。

 ボッチ優遇措置は一旦忘れて獲物を殺せ。


「!」


 俺が剣を握りしめた瞬間、ボッチ種は俺がばら撒いた魔石とコインを数個だけ取るとコソコソと去って行った。

 え? 普通、落ちてるのは全部持っていくよね。

 欲がないのか? それとも罠だと知っていたのか?

 いや罠だと知っていたら近づかないはずだ。


「はっ」


 まさか他の霊トレーサーの分を残しておいたのか?

 なんという思いやりに満ちたあのボッチ種、すこぶる好印象。

 俺の中であのボッチ種への愛情と同情が爆発した。

 ボッチ種、今まで一人で戦って辛かったろうな。

 徒党を組んだ凶悪なリア獣共に狙われ、戦いから逃れてコソコソと生きてきたんだろう。

 幸あれ、ボチあれ。頑張れよ。

 だがあのボッチ種がこの先生き残れる可能性は低い。

 この壁の向こうではリア獣という肉食獣が涎を垂らしながら草食ボッチを待ち受けているはずだ。


「……」


 このままではあのボッチ死ぬぞ。リア獣共に囲まれ無残に殺されるぞ。

 助けるか? だが俺にはあのボッチ種を助ける義理も責務もない。

 だが物凄く弱そう。

 ああ、きっとあのボッチは立派な霊トレーサーになることを亡き母親に誓ったに違いない。

 そんな母との誓いを情け容赦無用なリア獣共の気まぐれによって粉々に打ち砕かれ、ダンジョン界から去って行くのだ。

 後悔と悲しみをトラウマとしてその胸に刻み込んで。

 俺はボッチ種の生い立ちを勝手に想像して心の中で涙を流した。


「……」


 ――させない。

 ボッチ界の守護ガーディアンである俺がそんなことはさせないぞ。

 貴重なボッチ種の霊トレーサーを失わせはしない。

 俺は落ちている魔石とコインを全部ポケットに放り込むと、ボッチ種の後を追いかけ始めた。

 見つからないようにエアーボッチスキルを重ね掛けして壁に身を隠しながらコッソリと尾行を開始した。


 気配を消しての尾行など暗殺者の端くれたる俺には雑作ない。

 しかも追跡対象はボッチ種だ。ボッチの俺にはその行動は手に取るように分かる。

 あのボッチ種、そろそろ背後を振り向くはずだ。

 俺の予想通りボッチ種が振り返った。

 背後の安全を確認するとボッチ種は進み始めた。

 その用心深いボッチ種のおかげで何度も見失いそうになるが俺もボッチ種だ。

 お前が選択する道は手に取るように分かるぞ。

 リア獣共のヒャハー声と反対の方角に自然と舵を切るからだ。


 それにしてもあのボッチ種、よく生き残ったものだ。

 あれは外来種のアメリカザリガニに餌場を荒らされた日本ザリガニみたいな貴重な存在だ。

 あのボッチ種、俺が見守られねば誰が見守るのだ。

 加護を失ったとはいえ、アクティブボッチたる俺にはボッチ界を守るという使命があるのだ。


「見つけたぞ、ボッチだ」

「倒せ倒せ」

「ひゃっはははは」


 リア獣共が現れた。


「……」


 ボッチ種が必死に逃げる。

 だが次第にリア獣共に追い詰められていく。

 俺はそのリア獣共の後ろから息を殺して追う。

 こうやってリア獣共の囲い込みを後ろから見ているとその獲物を追う才能に驚嘆した。

 ボッチを逃げ場のない袋小路に追い詰めていくその手腕は賞賛に値する。


「逃げられねえぜ、持ってるもん全部出せや」

「……」


 追い詰められたボッチ種。


「へっへっへっ」


 リア獣がヘラヘラと笑った。

 以前の弱ボッチの俺ならば、小便漏らして土下座してコインを献上しただろう。


「!」


 だが勇敢にもボッチ種はイマジナリーウェポンを抜刀した。

 まさかボッチで戦うというのか? その大きな勇気に敬意を表したい。

 ボッチ種が具現化させたイマジナリーウェポンは巨大な杖。

 そこから迸るメンタル霊容量から見るとかなりの才能のボチ主だ。

 これまで一人で生き残っただけはある。

 だが今回ばかりは相手が悪い。リア獣共の数が多いのだ。


「ソロの魔導師が俺らに歯向かうのか?」

「……」

「冥土の土産に教えてやろう。俺達は魔石を五十個以上保持している。つまりこの新人戦の中では最強パーティーだ」

「……」


 リア獣の自慢する最強パーティー、その構成は盾、剣、剣、槍、弓、杖、杖。

 確かにバランスの取れたパーティーのようだ。

 だが最強かどうかは怪しいものだ。

 どちらにせよあのボッチ種が一人で勝てる相手ではないだろう。


「というわけでとっとと死ねや」


 だが二人ならどうだ?

 俺はその瞬間、抜刀して駈けだしていた。

 ボッチ種が目を閉じ、頭を抱えたそこに剣士の剣が振り下ろされる。

 間に合え、加護が封印された俺は以前より遅い。

 だがそれでも俺は僅かなメンタル霊を足の裏に集中させ、圧縮させ解放させ加速した。

 瞬歩が出来なくても真似は出来る。

 俺の身体が加速する。

 視界が放射状に流れ、リア獣パーティーを追い抜くと地面を蹴りつけ、強制ターンしながら全殲滅剣を振り上げた。


「ギャアアアア」


 剣士の腕が剣ごと宙を舞う。その刃には目を閉じて頭を抑えるボッチ種が映りこむ。

 その刃の向こうには驚愕の表情を浮かべたリア獣最強パーティーの面々がいた。

 この攻撃でかなりのメンタル霊を消費した。

 残りメンタル霊は僅か――だがそれでも俺はまだ戦える。戦う意思はある。


「腕があああ」


 俺は返し刃で腕を失った剣士を両断すると、数歩先にいた盾持ちの足首を斬りつけ、倒れかかったその首を下から刎ねた。


「げっ」

「き、きさまあああ」


 槍持ちが槍を突き出したときには、俺は既に身を低くして回避。

 伸びきった腕を斬り上げ、ガラ空きの胴体を真っ二つに両断。


「ぐっ」


 叫び声を上げる間もなく絶命するリア獣パーティーの前衛。

 そこに後衛からの弓矢が飛来するが俺は全殲滅剣で振り払う。


「矢を剣で?」


 驚きの声を上げるアーチャー。


「ふふ」


 アーチャーが笑みを浮かべた。


「ファイヤーガン」


 案の定、そこへ魔導師が放った炎の剛球が飛来する。

 やはり罠。前に出過ぎた。

 あの炎の魔法を回避するのは容易い。

 だが背後にはボッチ種がいる。

 ええいどうする。斬るしかない。だが魔法を斬ったら、ただじゃすまない。


「アイスウォール」


 その瞬間、俺の前に半透明のシールドが現れた。

 俺の横からボッチ種が杖を前に突き出していた。いつの間に?

 こいつ俺を助けてくれたのか?

 炎の剛球は氷のカーテンによって阻まれ対消滅した。


「なっ」


 リア獣パーティーの魔導師が悔しそうに拳を握り締め、アーチャーが矢を構え直す。

 俺がボッチ種を見るとボッチ種が頷いた。


「……」

「……」


 えっと、どういう意味? なんで頷いた? 何か言えよ。

 黙っていては何も伝わらない。

 口を大きく開けて言葉を紡がないと意思は伝わらないんだぞ。

 ボッチ種の深く被ったフードからは表情は読み取れない。

 大きなマスクをした口からは何も聞こえない。

 俺は勝手に解釈する。多分ボッチ種はこう言ったんだ。


 余計なことを、一人で倒せたのに、と。

 それは悪かったな。俺はニヤリと笑うと飛来した矢を振り払う。


「え? また剣で矢を?」


 メンタル霊が少しだけ回復した俺はメンタル霊を足の裏で爆発させて前に落ちるように飛んだ。

 アーチャーの放った矢が俺の剣と交差する。

 そしてそのまま矢が通り過ぎ、入れ替わり俺の剣先がアーチャーの胸に突き刺さる。

 アーチャーから剣を抜きつつその場でターン。

 横にいた詠唱中の魔導師を回し蹴り。


「ぐぅ」


 詠唱が止まって焦る魔導師の顔に氷の塊が命中し、そのまま首へ、身体へと凍り始めた。

 ボッチ種の放った魔法?

 ナイスタイミング。ボッジョブだ。

 俺は凍りついた魔導師を袈裟切りで肩から腰まで両断。

 メンタル霊が巻き上がり、魔石とコインが転がった。

 おいおい、五十枚個の魔石はどこだ? そんなものどこにもないぞ。


「……」

「……」


 まあ、去勢を張るリア充らしい妄言だろう。

 それにしてもボッチ種は俺に助けて貰ったのにお礼も言わない。

 勿論助けた俺も何も言わない。

 何か言えよ。いや、俺も何か言えよ。

 いやいや、助けられた方が先に何か言えよ。

 そもそも寡黙なボッチに言葉を求めるのがおかしい。


「……」

「……」


 ボッチが集まったらどうなるか?

 沈黙空間になるだけだ。

 ここには心を読んでくれる副会長もミケもいない。

 勇気を出して俺から話しかけるべきか? それともここは黙って立ち去るべきか?

 何事も決めきれない俺がボチフリーズしていると、俺の深層意識に何かの通知があった。

 パーティー参加申請?

 ダンジョンではパーティーは深層意識下の共有という形で実現される。

 メニューも書類も必要ない。そう心の底から願えばいいのだ。

 だが一体誰がボッチの俺とパーティーなんかを組みたがるというのだ。

 世の中には酔狂な者もいるものだ。俺はキョロキョロと周囲を伺う。

 誰も居ない。悪戯かな。


「……ああ、あの」


 ボッチ種が何か言った。

 今、俺に悪戯した奴を探すのに必死なんだからちょっと黙ってて。


「パパパ、パーティーを」


 まさかパーティーの申請出したのはボッチ種?


「パーティーを」

「……」


 ボッチの俺がパーティーだと?

 まてまて俺が誰かと一緒に行動なんてできるはずがない。 

 パーティーなんて嫌な思いしかないし無理。

 どうせ裏切られるのが関の山だ。


「パーティーに入れて」


 普段の俺ならば、考える間もなくお断りするところだ。

 だが、このボッチ種がこれから一人で生き残れるとは思えない。

 どうする? 助けた手前、最後まで面倒見るべきか?

 いやいや俺は自分のことすら面倒も見れないのに他人の面倒なんて転生しても見れるはずがない。

 それに裏切られたらショック死で立ち直れない。


「ああ、あのパーティーを」


 それにしてもこのボッチ種、女子みたいな声を出すな。

 まあフードを取ったら美少女なんてコンテンツ業界では定番だが、現実ではそうはいかない。こいつは絶対男だ。期待するな。


「お願い」

「……うっ」


 だが、こいつとパーティーか。さっきの連携は良かった。

 俺が前衛。こいつが後衛。同じボッチ種だけに息も合うだろう。

 だが俺なんかでいいのか? という目で俺はボッチ種を見た。


「……」


 ボッチ種がコクリと頷いた。

 ボレボレだぜ。

 俺はパーティー参加申請を受諾した。


「ああああ、ありがとう」


 ボッチ種が嬉しそうに顔を上げて手を叩きながら可愛く飛び跳ねた。

 なんでこのボッチ種は男のくせにこんな可愛い仕草をしているのだ。

 まあジェンダーを超えた可愛さはミケで慣れているからジェンダーオーバーの存在でも受け入れよう。


「トーリだ」


 俺は誤魔化すように名乗った。


「え、あわわわ、私は財部三霧ででです」


 そう可愛い声で名乗りながらフードを取った。


「え?」


 マスクを取った。


「えええええ」


 女子だった。しかもただの女子じゃなかった。

 美の少女の女子だった。

 目は大きくないが絶妙のバランスで配置された目鼻口に細い顎。白く細く儚い。

 触れたら壊れてしまいそうな儚い美少女だった。

 生徒会長と副会長と佐古橋先輩で美少女慣れしている俺だったが、衝撃だった。

 いや、かつては衝撃無効の加護があったから慣れていただけだ。

 神殺しの腕輪のせいで今の俺には衝撃無効の加護は効いていない。

 つまり美の衝撃が襲ってくる。女子と会話なんかまともにしたことがない俺には難易度ウルトラベリーハード。

 俺のガラスのハートが割れそうなビートを刻む。

 どどど、どうしよう。断るか?


「……ミミミキリ?」

「三霧です。ああああの女の子はダメ?」


 上目づかいでモジモジしているミキリ。クッソ可愛い。

 自信に溢れた生徒会長達とは違う。保護欲を突き刺す、守ってあげたくなるような可愛さ。

 ああ、これは犬だ。子犬だ。


「いいいいや、いや」


 俺はその可愛さにジタバタとあたふたした。


「その、あの、たたた助けてくれて……ありがとうおざいました」


 俺が挙動不審で困惑しているとミキリがぺこりと頭を下げた。可愛くて礼儀正しい。

 まさにパーフェクト美少女。そんな目で見られたら益々緊張する。


「ああ……」


 俺は日本男児らしくぶっきらぼうに答えた。


「……」


 ミキリも何も言わない。

 沈黙世界が始まった。


「……」

「……」


 どどど、どうしよう。フードを取ったら美少女だったなんて漫画的な展開に俺は激しく動揺し、焦りまくった。

 ここは何か話しかけたほうがいいのか? 言葉のキャッチボールではボールはそっちにあるはずだが? いやいやボールがどっちにあろうが会話など不可能。


「……」

「……」

「……」


 というわけで俺は黙って歩き出した。


「……」


 ミキリも何も言わずに黙ってついてくる。


「あああ、あの、リーダーノルマは?」


 リーダーとは誰のことだ?


「……」


 ミキリが黙って俺を見る。

 ああ、俺のことか。

 俺、パーティーリーダーなの?


「……」


 ミキリが頷いた。どうやらそうらしい。


「……達成済みだ」


 俺はポケットの中にある大量の魔石とコインを見せた。


「……凄い数」

「……生き残るぞ」

「……うん」


 俺はリア獣共の気配がしない方に向かって歩き出した。

 黙ってついてくるミキリ。

 ああ、これはやはり子犬だ。美少女ではない。可愛いペットだと思えば胸がボチボチしない。

 俺は振り返ってペットの様子を見る。

 ダメだ。サイカワ。可愛い。目がクリクリとか、そういんじゃない。

 最適黄金率のバランスで配置されているのだ。

 目力が強い美少女ばかりだったから、こう脆くて細くて儚い感じの美少女は新鮮で俺の中の別の部分を刺激する。

 どどど、どうしよう。


「あ、敵」


 ミキリが俺の背後を指さした。

 敵? 救いの悪魔だ。

 振り返ると敵影パーティーが同じように俺達に向かって指を指していた。


「?」


 こっちを見て汚い歯を見せた敵は前衛なしの魔導師が五人。


 俺はミキリを見る。

 ミキリはフードを被り直してコクリと頷いた。


「壁に隠れて援護」


 俺は抜刀した。


「は、はい」


 ミキリが壁の奥に隠れたのを視界の端で確認した俺は剣を構えた。

 腕に纏ったメンタル霊で腕力を一時的に上昇させ投擲。

 轟音と、衝撃波を奏でながら一瞬で敵の魔導師の胸に突き刺さる。


「ギャアアア」

「あの距離から投げただと?」

「バカな」


 俺の隣で喚く魔導師達。

 そう俺は瞬歩でここまで一瞬で詰め寄った。

 魔導師が倒れる瞬間、刺さった剣を抜くとそのまま一回転。遠心力で真っ直ぐ伸びた剣が隣の魔導師の首をかっ斬った。


「ぐぼぼぼ」

「ひいいい」


 あたふたと腰を抜かしたその隣の魔導師の腹に剣を突き刺し、なぎ払う。

 メンタル霊を噴出しながら力尽きた魔導師を蹴りつけ、別の魔導師に激突し体制を崩した。

 俺はその足をぶった切ると、隣の魔導師を斬り上げる。

 足を斬られた魔導師が倒れる背中に剣を突き刺し止めを刺す。

 そこへ氷の魔法が素通りし奥の壁に命中して白い放射状の模様を作った。

 もう少し俺が斬るのが遅ければミキリの放った魔法はこの魔導師に命中していたはずだ。

 倒すのが早過ぎて連携になってない。


「すすすす、凄い、速過ぎ」


 いつの間にか後ろにきたミキリが興奮したように噛み噛みでそう言った。


「べべべつつつにに」


 俺にも噛み噛みで答える。


「すすす凄い強い、リーダーあのクラスは?」


 クラスでは迫害されていたけど最近仲直りさせられたばかりだ。

 だが俺はあいつらを許していない。

 そして、髪を切ったら暗殺者呼ばわりされクラスの中では浮いてる存在だ。


「ああ、じじ自分から見せないと、わわわ私はB級なの」


 ミキリが何かを取り出した。

 それは光るメンタル霊凝固体ライセンスだった。

 ああ、そっちのクラスのことね。

 俺もライセンスを取り出した。


「え?……D」


 ミキリが俺のD級ライセンスを見て驚いた。

 驚いた顔も可愛過ぎて直視不可能。


「ああ」


 俺は挙動不審で目をそらした。


「この強さでD級ライセンス? 本当?」

「……」


 ボッチの俺は質問には答えない。

 本当はファイブのS級だけど今は封印されてD級以下だなんて言えない。そんな複雑な説明なんてできない。


「今、しゅしゅ、瞬歩使ってましたよね?」

「……」


 瞬歩を知っている。

 だがさっきのは瞬歩モドキだ。


「ちち、違う」

「そそ、それに、それイマジナリーウェポンじゃないですよね?」

「……」

「え? そんなことはない」

「ヤオロズウェポンですよね?」


 ミキリが疑うように俺を見た。

 なっ。なんとヤオロズウェポンだってバレてる?

 だが全殲滅剣の威力は抑えられている。

 今のメンタル霊放射量はイマジナリーウェポンの範疇のはずだ。

 なぜバレたし。


「……」

「……」


 都合の悪い時は忍法ダンマリだと俺は父親の姿を見て学んでいる。

 黙ってれば疑問の嵐は通り過ぎる。


「「……」」


 そうやってお互い黙りこくっていると。


「敵はD級二人よ。やってお終い。ウフフ」


 どこからともなく高飛車な声がした。

 振り向くとオタサーの姫みたいなのを囲う男達がいた。

 おお、救いの悪魔登場。


「「「はー」」」


 男達が野太い声を上げた。


「やっておしまい」


 オタサーの姫らしき女がそう命ずると、オタサーメンバーがイマジナリーウェポンを構えた。

 前衛は盾持ち三、剣士二の計五人。

 後衛は魔導師が二、アーチャーが三、そして姫を守るような近衛兵が五人。

 かなりの大所帯だ。

 既に盾を構え、その隙間から矢が除いている。

 オタサーグループの割には連携が取れている。


「援護」


 俺はそれだけ言うと足の裏にメンタル霊を爆発させジグザグに走り始めた。


「は、はひ」


 ミキリの噛んだ返事が後方で聞こえた。


「一人で突っ込んでくるなんてバカ? 撃ちなさいウフフ」


 オタサーの姫が俺を笑う。

 盾の間から矢が飛び出す。

 俺は床を蹴って壁を走りながら矢を回避。


「バカな。壁を走った? ええい、なんとしても止めなさい」

「「は」」


 次々と矢が飛来するが俺には当たらない。

 俺は壁の上に登り、そのまま壁の上を走る。


「卑怯よ。そんなところ走らないで正々堂々と戦いなさい」


 オタサーの姫が叫んだ。

 少数を多数で叩くお前らのほうが卑怯だが?

 俺は盾持ち三人の背後に飛び降りながら剣を振った。

 背後から斬られた盾持ち三人が自慢の盾を振るうことなくメンタル霊となって消えた。


「てめええ」

「はやくなんとかして」

「は」


 前衛の剣士が俺の左右から同時に剣を突いてくる。

 俺は屈んで回避。

 二本の剣は俺の頭上で交差し、そのまま互いを突き刺した。


「ぎゃああ」

「くあああ」


 こんな狭い場所で剣を振り合えば自爆する。

 俺は容赦なく二人の足を斬りつける。互いの剣が刺さったこいつらには止めを刺すまでもないだろう。


「ひいい、ずるい、卑怯よ」


 喚くオタサーの姫に向かって何かが飛来する。

 周囲の温度が一気に下がる。ミキリの氷の魔法だ。 ナイスボッチだ。


「ギャア」


 だが近衛の一人が前に踊り出てオタサーの姫を守った。


「ぬぬぬ、あんたら何してんのよ相手はたったの二人よ」


 オタサーの姫は自分を守ってくれた近衛兵を乱暴に脇に退かしながら喚いた。


「は」


 近衛兵の槍を半身を捻って回避。

 そのまま近衛兵の腹をかっ斬る。


「グアアア」

「何なのよ何なのよ何なのよ」


 メンタル霊を噴出させながら倒れる近衛兵の奥にオタサーの姫が何かを喚いている。


「てめえええ」


 別の近衛兵が剣を大きく振り上げて俺に迫る。

 俺はその隙だらけの胴体を両断。


「ヒイイイ来るなああ」


 その横で立ち止まったままで剣を闇雲に振り回す近衛兵の足を斬ると剣が止まる。

 俺は躊躇せずにその首を跳ねた。

 メンタル霊が噴水のように吹き上がり、オタサーの姫の顔にかかった。


「ひいいい、許してお願い、助けて、何でも言うこと聞くから見逃して」


 オタサーの姫が土下座し始めた。

 俺が問答無用で斬ろうと剣を上げたその時。


「待って」


 いつの間にか隣に来ていたミキリがオタサーの姫に杖を向けた。


「集めた魔石とコインを出して」

「ひいい、はい」


 オタサーの姫が慌てて取り出したのは数個の魔石とコインが一個。


「え? こんなけ?」


 俺はあまりの驚きで独り言を口走っていた。


「……少な」


 ミキリも冷たい声でそう言った。


「これから集めよう思っていたところなのよ。それなのにそれなのに。うえええん、酷いよう。仲間を全員殺すなんて酷いよう」


 オタサーの姫が泣き出した。

 酷いも何も襲いかかってきたのはそっちであってだな。

 オタサーの姫のあまりの理不尽さにイラッと来たのでその首に剣を当てた。


「待って」


 ミキリが俺の手に奇麗な手を乗せた。


「なっ」


 女子に触られた衝撃が俺を揺さぶった。


「あなたのクラスは? 所持イマジナリーウェポンは?」


 ミキリが杖を構えながらそう言った。


「び、B級。かかか回復の杖」


 オタサーの姫がボッチの俺のように嚙みながら答えた。

 回復の杖だと? このオタサーの姫は僧侶か?


「……」

「リーダー」


 ミキリが俺の顔を見て頷いた。

 え? 何が言いたいの? 声に出さなきゃ伝わらないのよ。


「そう、殺さないで、私はこう見えても回復魔法が使えるのよ」

「だったら味方に使ってやれよ」

「あんたが回復する暇も与えずにぶっ殺したんでしょうが」

「あんた?」

「いえ、あなた様。あなた様の仲間にしてください。お願いします。私一人にでは攻撃手段がないのよおおお」


 オタサーの姫が大きめな目をウルウルさせた。

 化粧が濃いがよく見れば可愛い。オタサーの姫をやっているのも分かる。

 男にちやほやされてきたのだろう。

 だが俺はそんなことしない。いや出来ない。

 俺の深層意識にオタサーの姫からのパーティー申請があった。


「……」


 だが無視だ。


「リーダー」


 ミキリが俺を見た。

 ダメダメ。こんな怪しい奴は絶対にダメ。


「……断る」

「え?」

「リーダー」

「何でよ。回復役は貴重な存在よ。その私をいらないってどういうこと? 信じられない。私は引く手あまたの人気者なのよ」

「じゃあ、他を当たれ」


 俺は目も合わせずにそう答える。


「リーダーなんで?」

「そうよ。何でよ」


 ミキリとオタサーの姫が同時にそう言った。


「仲間を盾にするような奴はいらない」


 俺にしては長文で答えた。


「たしかに」


 ミキリが頷いた。


「待ってよ。あれは私が命じたわけじゃない。守ってくれたのよ、酷いじゃない。それを全員殺すなんて」

「……それは悪かったな」


 なんで俺謝ってんの? 強くこられたら引いちゃうじゃないか。

 俺はポケットから魔石とコインを取り出すと、オタサーの姫に向かって投げた。


「なによこれ」


 オタサーの姫が信じられないような顔で見つめる。


「やる」


 回復魔法があるのだろう。これで逃げ回ればノルマ達成だ。


「え?」

「じゃあな」

「ちょっと待ってよ。一人にしないで。一人はいや」


 オタサーの姫が小さな声でそう呟いた。


「……」


 俺のボッチイヤーはその声を聞き逃さない。


「いいの? こんなに可愛い私を見捨てていいの? 良心が痛まないの? 一生後悔するわよ、もしかしたら付き合っちゃう可能性もあるのよ? こんな美人そういないでしょ?」

「……」

「ああ、一人ボッチで死ぬんだわ」


 オタサーの姫が両手を顔に当てて座り込んだ。


「くっ」


 その言葉が胸に突き刺さった。一体何を言いだすんだ?


「私なんて誰からも必要とされていない。私の見た目とスキルに集まってくるような奴らばかり、誰も本当の私なんか見ていない」

「くっ」


 俺のボッチ心に訴えかけようとするのは卑怯だぞ。

 俺のボチ心がグイッと引き戻される。


「リーダー」


 ミキリはオタサーの姫の言葉に完全に心をブレイブされたようだ。


「くっ」

「お願い」

「……仲間を盾にしないか?」

「当たり前よ、お願い、置いていかないで」


 俺はオタサーの姫のパーティー申請を受理した。


「よかったね。私はミキリ」


 ミキリがフードを取って笑った。


「キャー可愛い、なにこれ、なにこれ? 可愛い。抱きしめていい?」


 オタサーの姫がミキリに抱きついた。


「いや」

「そんな、固いこと言わないでよ。女の子同士でしょ?」

「いや」

「そんなこと言わないでよ。ああ、私は田別 亜里亜よ」

「亜里亜、わわ、分かったから、少し離れて」

「さっさと行くぞ」


 俺に抱きつけよ。

 ああ、俺がイケメンだったらそうなるだろう。

 だが現実は残酷。


「少し離れて」

「いいじゃない。減るもんじゃないし、こんなに可愛い顔してるのに何でフード被ってんのよ」

「やめて」

「もったいないでしょうがあ」

「リーダー助けて」


 オタサーの姫こと亜里亜に抱きしめられたミキリが俺に助けを求めてきた。

 亜里亜はスタイルもよくて、そこそこ可愛い。

 くっそ羨ましい。何で俺の周りは可愛い子ばかり現れるんだよ。ハーレムか?

 これが噂のボッチハーレムか? いや、ハーレムだろうが何だろうが、相手と口を聞くことも直視すら不可能な俺には罰ゲームでしかない。


「ふん」


 俺はぶっきらぼうな態度で歩き出した。


「あ、待って」

「リーダーどこに行くの?」

「知らん」

「ちょっとパーティーメンバーに冷たいでしょうがあ、人と話すときは目を見て話なさいよお」


 亜里亜が俺の腕を引っ張って化粧の濃い大きな目で俺を睨んだ。

 くっ、近い近い。何か良い匂いするし、離れろ。


「あっ敵」


 ミキリがそう報告した。


「あんた達やっておしまい」

「え?」

「は?」


 亜里亜の高飛車の命令に俺とミキリは固まった。


「ごめん、癖で」

「え?」

「は?」


 亜里亜の言葉に俺とミキリは固まった。


「というわけで身体強化……剛」


 俺の身体が光に包まれた。

 そして何だか強くなったような気がする。

 これは? まさか身体強化魔法?

 前のイケメンパーティーでは掛けて貰えなかった憧れの身体強化魔法?


「マジか?」

「リアルマジのマジモンよ。というわけで詠唱加速……迅」


 ミキリの身体が光に包まれた。


「え?」

「驚いた? 実は私は支援魔法も使えるのよ」


 亜里亜が腕を組んで勝ち誇った。

 マジで驚いたぞ。身体強化魔法も使えるなんてとんでもない拾い物じゃないか。

 見た目に騙されるところだった。

 加護がない俺には身体強化魔法は死ぬほど喉から、食道から手が出る程欲しかった支援。

 それにロンリーソロボッチの俺は支援魔法を掛けて貰うことなんて、夢だと思っていたのだ。


「マジか。マジで驚いた」

「うん。びっくりした。亜里亜凄い」

「でしょお。ホホホ。もっと誉めて、仲間にして良かったでしょお」

「先に言えよ」

「そこはほらサプラーイズ、ホホホやっておしまい」

「……」


 てめえ。


「冗談よ」

「下がってろ」


 俺は二人の前に出ると飛んできた矢を切り落とした。


「ひい」


 亜里亜が長いフリフリの服をヒラヒラさせながら頭を抑えた。


「下がっててアイスウォール」


 詠唱加速により一瞬で展開される氷の壁。


「これが詠唱加速の効果かな?」

「えっと、ミキリあんた詠唱から実行まで速くない?」

「そう? こんなもん?」

「いやいや、私の身体加速の効果は一割以下よ」


 ミキリと亜里亜が疑問符を浮かべた瞬間的、炎の玉が飛来し、氷の壁に着弾し燃え上がるが、逆属性により直ぐに相殺される。


「凄い。ミキリちゃん可愛いのに強いなんて、反則よ。私も攻撃魔法が欲しかった」

「回復と支援魔法のほうが凄い」

「やっぱそう? ホホホありがとう」

「隠れて援護」


 俺は二人にそう言い残し、瞬歩モドキで加速し、敵に向かった。


「は、さっきより速くない? ? なにあれ?」


 亜里亜の素っ頓狂な声が後方から聞こえた。


お読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ