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104 新人戦予選開始

 エアーボッチの真骨頂、しかとその目に焼き付けよ。

 壁の隅で過ごした俺の暗く悲しい日々により覚醒した隠密秘技、アクティブボッチスキル、インビジブルエアーが発動した。

 俺という存在は飛散、拡散し、消え失せた。

 この世に必要とされていない俺はこの世から完全に消えた。


「あそこに隠れているボッチがいたぞ」

「ぶっ殺して魔石を奪え」

「くっ」


 なっ、見つかっただと? なぜ俺が隠れている場所が分かった?

 エアーボッチが効いてない?

 まさかアンチマテリアルボッチを持っているのか?

 茫然と立ち尽くす俺は一瞬で屈強な陽キャな霊トレーサーたちに囲まれた。


「鴨ボッチ発見」

「殺しちゃう?」

「すげー弱そう」

「……」

「お前のようなボッチを見つけるのは昔から得意でな」

「……」


 それってイジメっ子の必須スキルやん。

 くっそ。四面ボッチ楚歌。

 追い詰められた窮鼠ボッチ猫を噛む。

 ボッチの真の逆ギレを見せてやろう。


「……」


 俺は回れ右して全力で逃げ出した。


「はっ。逃がすかよ」


 だが回り込まれ、逃げ道を塞がれた。


「さっさと殺して魔石を奪え」

「ジワジワと殺してやるから」

「ギャハハハハ。ウケまくり」


 こうなったらやるしかない。

 だが今の俺は無敵の加護を封印された、ただのヒョロガリボッチに過ぎない。

 やれるか? いや、やるのだ。俺は生徒会長と副会長の後輩だぞ。

 戦う前から負けるな。

 落ち着け、俺は強い。ボッチマーダー界の最強ルーキー。

 そのボッチ懸賞金は一億ボッチオーバー。

 ――と。くだらないことを考えて緊張をほぐすことに成功。


 敵は全部で五人。

 加護が消えた今でもイマジナリーウェポンが見える。

 背負っているイマジナリーウェポンは剣、剣、槍、杖、盾。

 うむバランスの良いパーティーだ。

 だが俺が相手ではそんなバランスも意味をなさない。


「何ジロジロ見てんだよ」

「キモイ」

「殺すぞ」

「何だその目は」

「……」

「何か言えよ」


 俺は何も言わずに行動を開始した。

 姿勢を低くして、槍持ちとの間合いを詰めると、槍持ちの両手を斬り上げた。


「え?」


 呆然と自分の腕が飛ぶのを見つめる槍持ち。

 俺は続いて魔導師が魔法を唱える前にその喉仏を斬りつけ詠唱を阻止する。


「ぐぼっ」


 首から噴水のように噴出するメンタル霊。


「え?」


 驚く盾持ちの足首を斬りつけると、慌てて剣を抜いたアタッカー二人に全絶滅剣と全殲滅剣を同時に投げつけた。

 心地良い風切り音を奏でながら、二振りの剣は俺の意思を組んだかのようにアタッカー二人の眉間を貫いた。

 俺はアタッカーの額に深く刺さった剣を抜くと振り向き様に水平に剣を振るう。

 槍持ちと盾持ちの首が飛んだ。

 力なく倒れる二人の間を抜け、首を押さえ苦しむ魔導師の頭と腕を掴んで曲げると魔導師は崩れ落ちた。


「ゼーゼー」


 息を止めていた俺は呼吸を再開した。

 敵が武器を構える前に倒せ、それが俺の師匠である木曽三川警護団のチャラ男メンターの教えだ。

 不意打ちと意外性。この二つで敵の思考は停止する。その一瞬を狙うんスよ。

 チャラ男メンターのチャラい声が脳裏に過ぎる。

 俺を狙った陽キャな霊トレーサー達は魔石を残して、メンタル霊となって俺に吸収された。


「ハハハ」


 俺は渇いた笑い声が俺の口から出た。

 無敵の加護を失っても俺にはこいつらがいるのだ。

 俺は自慢の剣を振ってメンタル霊の残滓を吹き飛ばした。


 それにこの初戦に参加しているのはB級以下だ。

 A級以上はシード権を得てトーナメントから参加するので強者は少ない。

 この一回戦はバトロワ形式。

 最後まで生き残った者が勝者だ。

 だがそれだけでは二次予選に上がれない。

 霊トレーサー各々が持っている魔石を五つ集めること。

 そして空から定期的に降ってくる宝箱のコインを三枚集めることが突破の条件だ。


 今の戦いで魔石は五つ集まった。

 後はコインだけだ。 だがそう簡単ではない。

 空からランダムで降ってくる宝箱には魔物や罠が仕掛けられているからだ。

 しかも迷路のように入り組んだ高い壁のおかげで落下地点は見えない。

 さらに迷路の壁はある一定の時間で刻々と変化する動的ダンジョン。

 奴らの言っていた通り、一人でクリアするのは不可能に近い。

 パーティーを組み、力を合わせてコインと魔石を集めるのが最適解だ。

 だが俺は孤高のボッチだからパーティーなんか夢のまた夢。

 組んだとしても追い出されるだけだ。


 突然、鐘の音がなった。

 その瞬間、空中に宝箱が現れた。

 霊トレーサー達の歓声と怒号が湧き上がる。

 皆が宝箱の落下地点に向かって我先にと群がる。

 勿論俺もその一人だ。


 宝箱の落下地点に向かって走っていると曲がり角から霊トレーサーが現れた。

 幸いにも俺に気付いていない。

 その霊トレーサーの背には弓矢があった。

 背後からこっそり突き刺すか? いやもっとクレバリーな方法があるはずだ。


「……」


 俺は音も立てずにそいつの背後へ忍び寄ると、ボチボチしながらその弓矢を奪った。


「え?」


 振り返ろうとしていた霊トレーサーの首を無言で跳ねた。

 可愛そうな霊トレーサーは俺から背後から斬られ、メンタル霊と魔石を残して消えた。

 卑怯とか、ろくでなしとか、人でなしとか言われようが関係ない。

 これは対人戦のPK戦なのだ。

 なんと言われようとも勝てば官軍、国連なのだ。

 弱肉強食の無法地帯。躊躇したら殺される。

 だからやられる前にやる。先手必勝、気付かれる前にやる。

 それに今の俺は暗殺者なのだ。


『今のは良かったボッチよ』


 ボッチ君が俺の戦いを絶賛してくれた。

 ありがとうボッチ君。アサッシンボッチと呼んでくれたまえ。


『それでその弓はどうするボッチよ?』


 これか? これはこうするのさ。

 俺は弓を構えた。勿論弓矢など射ったことのない俺の構えはヘナチョコ構えだ。

 だがここは妄想が支配する世界。

 俺が矢を放ちたいと思えば放てるのだ。

 イマジナリーウェポンは通常の武器とは違う。

 文字通りイメージの武器なのだ。

 使い方を習っていなくても使用できる都合の良い武器なのだ。

 だが通常ならば、魂の分霊であるイマジナリーウェポンを他人が使うことはできない。

 けど俺はなぜか使える。

 クロミズのアイテムボックスにあった過去の英霊達のイマジナリーウェポンしかり、勇者の聖剣しかり、きっとこれもクロミズの加護の一つだろう。

 加護が封印されても、使えて助かった。

 だから有効利用するだけだ。


「こっちじゃね?」

「合ってるのかよ」

「間違いってないってばよ」


 俺が弓矢を構えて悦に入っていると、陽キャたちの声が聞こえた。


「よっしゃあ、宝箱が合ったぞ」

「ラッキー」


 声は壁の向こう側から聞こえる。サノバボッチ。

 なんとこの壁の向こう側に宝箱が落ちたのか。


「待て、それは俺たちが最初に見つけたものだ」

「はあ? なんだと?」

「何だお前達は? これは俺たちが先に見つけたものだぞ」

「そうだそうだ」


 どうやら別のパーティーが現れたようだ。

 いっそのこと、このまま相打ちしてくれるといいのだが。


「最初に見つけたのは俺らだ」

「それもそうか、別を当たろうか?」

「ああ」

「悪かったな」


 なんてことだ。すんなり諦めやがった。

 そうはボッチの三次問屋が卸さない。

 争いの種は俺がまく。


 俺は構えていた矢を隣の壁の向こう側に放った。

 飛んでけー。戦いの火ぶたよ。


「あ、あぶね」

「てめえ、騙したな。後ろから狙ったな?」

「違う。俺たちじゃない」

「アーチャーがいるだろう」

「違う。そうか、俺たちの持っているコインを狙っているんだな」

「違うって」

「やれ」

「全員殺して俺が魔石を独り占めする」

「そうはさせるか」


 クックックッ。そうだ争え。闘争こそが人類のカルマ。

 俺が蒔いた種によって汚い人間の本性を剥き出しにした醜い争いが始まった。

 人は脆く、醜い。些細なことで疑心暗鬼の火が燃え上がる。

 そこにさらに燃料を投下してあげよう。疑心暗鬼マシマシで。


「……」


 俺はどんどん矢を放った。

 綺麗な放物線を描いて壁を越えていく矢。

 当たらなくてもいい。混乱させて相打ちさせるのが目的だ。

 安全地帯からの遠距離射撃って大好き。


「あれ? この矢、上から降ってくるぞ」

「だから俺じゃねえって言ってるだろ?」

「まさか遠距離攻撃?」

「どこからだ?」

「壁の向こうだぞ」


 うわっ。もうバレた。


「くっそお、誰だああ」

「卑怯だぞ」

「誰か倒しに行け」

「お前が行けよ」

「待て、ここは一時休戦しないか? あの卑怯な奴を殺すまでは」

「ああ分かった。絶対殺してやるからな」


 なんと俺のせい争っていたパーティーは団結。

 対ボッチパーティーが結成されてしまった。

 だが迷路のように入り組んだ壁は高く、よじ登れるような突起もない。

 ハハハ。来れるもんなら来てみろよ。

 俺が心の中で嘲笑していると、石が擦れるような低音が響き渡り始めた。


「え?」


 オーマイボッチ。何と今このタイミングでダンジョンの改変が始まったのだ。

 俺の目の前で壁がスライドし、その向こう側から殺気の籠もった目をした霊トレーサー達が現れた。


「その弓矢、テメーの仕業か?」

「……」


 俺はいつものように質問に答えない。


「無視してんじゃねーよ」

「あいつだ。絶対殺す」

「卑怯者、死ねや」

「殺してやる」

「俺は卑怯者が一番嫌いなんだよ」


 矢が刺さって怒りに顔を真っ赤にしたバーサーカー状態の臨時パーティーの面々が叫びながらイマジナリーウェポンを振り上げた。


「……」


 敵は怒りに燃える陽キャでリア充パーティー十人。

 全員既に抜刀し、臨戦態勢。

 奴らが持っているイマジナリーウェポンは剣、斧、槍などで盾持ちはいない。

 怒りでどす黒い顔色のアーチャーが一人、魔導師はいない。

 既に武器を構えてる以上さっきのような卑怯な不意打ちはできないだろう。

 どうする? 逃げるか?

 背後を確認すると俺の後ろの壁が塞がっていた。

 なんと逃げ道が塞がれた。何という悪運。袋小路ボッチに陥った。


「ブハハハハ。ザマア。逃げ道はねえぞ」

「たっぷり時間をかけて殺してやるからな」

「この痛み何百万倍にして返してやる」

「俺のせいにされただろうが? アーチャー舐めやがって」

「くっ」


 これは話し合いの余地はない。このままでは戦いは避けて通れない。

 俺は震える手で奪った弓矢を構えた。


「クソオオオ。う、うううううつぞ」


 俺は震えた声で叫んだ。我ながらボッチの演技が上手い。


「声が震えてんぞぉ」

「なんだその構えは?」

「死ねやああああぁ」

「おおおおおおおぉ」


 臨時パーティーが目を爛々とさせながら俺に襲いかかってきた。


「ひひいいいい」


 俺は慌てて残った矢を放った。

 狙いは大きく外れ、空高く飛んでいった。


「下手くそが」

「馬鹿め」

「どこを狙っている?」

「ブハハハハ」

「ダメだこりゃ」

「……ひいいいいぃ」


 俺は息を吸うような悲鳴を上げ、手にしていた弓を先頭にいる男に投げつけた。

 先頭の男が剣で払いのけると弓は無残に地面に転がった。


「なっ」

「投げ捨てたぞ」

「自らの魂の分身たるイマジナリーウェポンを投げ捨てるとは、霊トレーサー失格だ」

「ブハハハハ」

「ダメだこりゃ」

「こいつどこまでもアーチャーの面汚しを」

「うけるんですけど」

「……あっ? 雨」


 俺は上を指さした。


「は? 雨だと? ダンジョンだぞここは?」


 先頭の男が空を見上げた瞬間、その目に矢が突き刺さった。


「ギャアアアアア」


 それは俺がさっき射った矢の一本だ。

 不意打ちができないならば自分で作ればいいだけだ。

 俺が挙動不審で放った矢は最初から不意打ちのための一石。


「なんだ、どうした?」


 矢が突き刺さり泣き叫ぶ男を前に即席パーティーの面々はボッチのようにオロオロするだけだ。

 俺はその隙を逃さない。一気に近付くと矢が刺さった男の腕を切断した。


「ギャアアアアア」

「え?」

「は?」


 剣を握ったままの男の腕がメンタル霊を噴出しながら弧を描く。

 俺はその弧を潜り抜け、男の首を返し刃で切断する。

 矢が刺さったままの頭が宙を舞った。

 唖然と見つめる男達をよそに俺はその頭を掴むと隣の男に投げつけた。


「ギャアアアアア」

「ヒイイイイイイ」

「首が、首ガアア」


 慌てて避けようとするも腰を抜かして顔に命中。

 悲鳴を上げ、逃げ惑う男達。

 大の男が首の一つや二つで騒ぎ過ぎだろ。


「ななな、なんで剣が!」

「貴様のイマジナリーウェポンは弓じゃねえのか?」

「騙したなあ」

「てめえ卑怯だぞ。何でイマジナリーウェポンが二つもあるんだよ」

「アーチャーの面汚しがああああああ」

「……」


 俺はその質問に答える代わりに間合いを詰めて袈裟斬りからの、逆袈裟で応えた。

 俺に文句を言った男が二つに分かれて宙を舞う。


「ひいいいい」

「殺したぞ?」

「こいつ頭をおかしい」

「狂っている」

「化け物がああ」

「……」


 集団でリンチするお前らのほうがよっぽど化け物で狂っていると思うけど? と心の中で疑問符を浮かべながら男の腹に剣を突き刺し、引き抜くと、その反動を利用して一回転。

 水平に回る剣の軌道上にあった男は奇麗に分断された。


「なんて奴だ」

「ひでえ、悪魔かよ」

「無表情で斬るなんて、てめーには人の心とか、良心とかねーのか」

「……」


 その言葉。集団でボッチを狩るお前らに百倍にして返してあげたい。

 集団でボッチを襲うお前達はなんだ?


「ぜ、全員同時に攻撃しろ」

「ああ」

「死ねやあ」

「殺す」


 臨時パーティーが一斉攻撃を開始した。

 震え、乱れた剣が俺の視界に入ってくる。

 だがしかし、木曽三川警護団の連携攻撃を知っている俺からすれば、これは連携でもなんでもない。ただの単独攻撃に過ぎない。

 俺はゆっくりと迫るその攻撃を半身を捻ってかわし、その勢いで一回転。

 真っ直ぐ伸ばした剣がそいつの胸を深く抉り、隣の男の腕を切り落とす。


「「ギャアア」」


 二人が同時に叫ぶ。

 その惨劇を見て攻撃を止めて逃げようとしている男の背に剣を突き刺す。


「グエア」

「死ねやあああ」


 背後から叫ぶ声がする。

 俺は振り向き様に一閃。


「ガハッ」


 そしてその場でステップで横移動すると、腕を斬り落とされ、うずくまる男の首を斬って止めを刺す。


「クゥアッ」


 男達の残滓たるメンタル霊がほぼ同時に湧き上がり、俺の細い視界を覆う。


「ヒイイ」


 ボッチのようなか細い声で呆然と立ち尽くす男のその両手を、無慈悲に両断、剣を水平にして男の胸に突き刺すと横に薙ぎ払った。


「てめええ。ざけんなよお」


 アーチャーが震える手で矢を射る。

 だがその前に俺は踏み込み、その腕を下から斬り上げる。


「ぎゃああああ。腕がああああ」

「……」


 喚くアーチャーの喉元に剣を突き刺し、黙らせる。

 臨時パーティーの男たちからメンタル霊の煙が舞い上がり、魔石とコインが転がった。

 残念ながらお前ら標的にしたボッチはただのボッチじゃない。

 無愛想で無慈悲、触ると切れちゃうカッティングボッチだった。


「……」


 落ちているコインを拾おうと屈むが、殺気を感じた俺は振り返ることもなく側転で退避。

 そこに炎の魔法が着弾、爆発し、灼熱が俺の頬を撫でる。

 魔導師が生き残っていた? いや、あの即席パーティーは全員殺したはず。

 そうなると答えは簡単。新手だ。

 宝箱を狙っているのは他にもいるのだ。

 俺は側転中の回る視界の中、標的を定めると手にしていた剣を投げた。


「ギャブ」


 俺が着地する前に魔導師の喉に突き刺さる全絶滅剣。

 そして着地と同時に地面を蹴りつけ、前方に飛ぶ。

 俺が今いた場所に数本の矢が突き刺さる。

 俺の行動を先読みしたのか、俺の目の前に矢が迫る。

 咄嗟に地面を蹴り、方向転換。

 そこにも矢が飛来。

 慌ててダンジョンの壁を蹴り、高く飛び上がると斧が俺の下を通り過ぎる。

 遠距離攻撃と近距離のハーモニー。なんという息の合った連携攻撃。

 だが俺は視界に入った驚愕する男の顔を踵落とし。


「ギャアアアアア」


 悲鳴を上げて倒れる男の斧を奪い取り、屈んだ。

 俺の頭上を剣が、槍が流れる。

 俺は斧を奪った男の膝に斧を水平に振り回す。

 男は慌てて飛び退いて回避。

 だが態勢を崩して俺の間合いから離れる。

 俺はその斧の運動エネルギーを殺さずにそのまま回転、流れる視界には迫る敵影が三人。

 魔導士二人に、アーチャー一人。

 二人の魔導師の杖から迸るメンタル霊が魔法に変換される寸前だった。

 俺は態勢を崩した男を掴むと、魔導士に向けた。


「ま、ままま待てギャアアアアア」


 魔法が男に命中し爆風と熱が男を中心に放射状に流れる。

 俺は燃え上がる男を投げ投げると、その背から矢が突き出した。

 なんと、仲間の体ごと射ったのだ。

 このパーティーは強い。さっきのポンコツとは大違いだ。


「てめえ、仲間を盾にしたなぁ死ねやああ」

「謝ったって許さねえ」

「俺が殺しちまったじゃねえか」


 魔導師たちが再度詠唱を始め、アーチャーが矢を構えた。


「……」


 俺は手にしている斧を投げつけた。


「え?」

「投げた?」


 魔導師の詠唱が止まる。

 アーチャーの狙いがぶれる。

 巨大な斧をナイフのように投げたことに驚く二人。

 だがここはダンジョンだ。斧だからといって重いと決めつけるのは新人のやることだ。

 ああ、こいつら新人だった。


「あっぶね」

「なんだこいつは」


 だがあっさり避けられた。

 俺は斧が奥の壁に激突し、地面に落下する前に走り出していた。


「なっ、速い」


 俺はアーチャーの伸び切った腕を逆袈裟で両断。


「ひいいい」

「腕がアアア」


 一人目の魔導師を杖ごと逆袈裟で分断。

 二人目の魔導士をその返し刃で両断。

 悲鳴を上げるアーチャーに向き直りその首を刎ねた。

 三人の魔石とコインが床を弾む音が静寂に包まれたダンジョンに響いた。


 お前らは連携の取れた良いパーティーだった。

 だが残念なことにソロでボッチの俺のほうが強かったようだ。


 周囲を確認するも敵の姿はない。

 宝箱は開けられていない。

 罠があるかもしれない宝箱を無理して開ける必要はない。


「そうだ」


 冴え渡る俺のボッチブレインがある作戦を閃いた。

 俺はインビジブルエアーボッチ。俺は壁に寄せた。

 そして息を殺して壁と一体化した。




 暫くそうやって休憩していると人の気配を感じた。


「おい、宝箱だぞ」

「開けられていない?」

「しかもラッキーなことに魔石とコインが散らばってるぞ」


 二人組の霊トレーサーが近付いてきた。


「宝箱を巡って争い全滅したか」

「待て、罠かもしれんぞ」

「いやいや、あの大量の魔石とコインをそのままにしておくはずがないだろう」

「確かにそれもそうだ」


 俺はインビジブルエアーで男共の背後に回ると。


「え?」

「へっ」


 無言で全殲滅剣と全絶滅剣を突き刺した。

 メンタル霊を噴出させながら二つの魔石が落ちた。

 卑怯? だから何? これはボッチの俺が生き残るための戦法。

 罠とも知らずに近付いてきた霊トレーサーを背後から刺すという卑怯極まりない戦法だ。

 戦いは数だ。そもそもソロでロンリーなボッチは戦いには不向き。

 だが頭を使えば別だ。この宝箱と撒き散らされた魔石とコインは餌だ。

 正々堂々とか正面からとか一騎討ちとか大嫌いだ。

 勝てば官軍。勝てば正義。勝てば戦勝国入りなのだ。


 俺は落ちた魔石とコインをそのままにして、待機していると新たな獲物が現れた。

 ボッチをバカにしたリア充共め、ボッチの無慈悲で冷酷な牙の餌食になるがいい。


「え?」


 だが現れた獲物はリア充ではなかった。

 周りをキョロキョロ窺う挙動不審なその態度。

 どこか愛してやまないそのコソコソとした滑稽な動き。

 そうボッチだった。


お読みいただきありがとうございました。

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